2022/07/16

🇦🇫腰椎すべり症

腰椎がずれて、背骨の中の神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じる疾患

腰椎(ようつい)すべり症とは、腰に5つある腰椎の1つ、または複数が前後にずれて、背骨の中の神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じる疾患。

腰椎は通常、簡単にずれたりしないようになっていますが、腰椎を連結している左右1対の椎間関節と呼ばれる背骨の関節が壊れたり、腰椎をつないでいる椎間板の異常などによってずれてしまうことがあります。

腰椎すべり症には、骨が後ろ側へずれる後方すべりと、骨が前側へずれる前方すべりがありますが、ほとんどは前方すべりです。その原因によって、形成不全性すべり症、分離すべり症、変性すべり症(無分離すべり症)の大きく3つのタイプに分けられます。そのほか、外傷によるすべり症や、腫瘍(しゅよう)や感染に基づく骨破壊によるすべり症が生じることもありますが、まれです。

形成不全性すべり症は、生まれ付き脊椎(せきつい)の発育に問題があるために起こります。非常にまれながら、比較的若いうちから症状が出てくることがあります。

分離すべり症は、腰椎分離症が原因でずれるものです。腰椎分離症は、腰椎の椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓との間にある椎弓根が割れて、椎体と椎弓、つまり背骨の前方部分と後方部分の連続性が絶たれて離れ離れになった状態です。これにより、椎体が前方へすべるのが分離すべり症です。

 この場合、椎弓は後方に残ったままの形になるので、変性すべり症とは症状の出方が少し異なります。また、分離すべり症は、第5腰椎に多いのが特徴です。

腰椎分離症自体は、日本人の5~7パーセントくらいにあるといわれています。そのうちの一部が分離すべり症を発症しますが、椎弓根の大きさや靭帯(じんたい)の幅などの特徴によって、すべりやすい人とそうでない人がいるといわれています。

変性すべり症は、最も頻度が高いものです。第4腰椎が前にすべることが多く、第5、第3腰椎でもずれが生じます。

女性に多い疾患で、50~60歳くらいの閉経のころにかけて多く発症します。このことから、女性ホルモンの影響や、女性ホルモンの減少による骨粗鬆(こつそしょう)症の進行によって、それまで支えられていた骨が支えられなくなって、変性すべり症が起こると見なされています。

また、椎間関節の傾きが前方にすべりやすい形をしているので変性すべり症が起こるという説、あるいは、年齢とともに膝(ひざ)や股(こ)関節が悪くなるのと同じように腰椎も変性して変性すべり症が起こるという説もあります。ただし、詳しい原因はまだわかっていません。

症状は形成不全性すべり症、分離すべり症、変性すべり症のタイプによって違いがありますが、変性すべり症の主な症状は、腰痛、下肢痛、下肢のしびれです。腰椎がずれても安定していれば軽い症状が多いものの、不安定だと日常の行動でも、背骨の中にある神経がより刺激され、腰痛や下肢痛などが生じ、日によってよかったり、悪かったりします。

症状が進行すると、腰椎のずれによって神経組織が圧迫されて、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症と同じような状態になるので、足のしびれや痛みで歩けなくなり、一休みするとまた歩ける間欠性跛行(はこう)などの歩行障害、足のしびれや冷感、違和感などさまざまな下肢の症状を示すことがあります。

座っているなど安静時にはあまり症状が出ずに、立ったり、動いたり、長時間歩いたりすることによって、腰痛や下肢痛、下肢のしびれが増強するのが特徴です。さらに症状が進行すると、安静時でも痛くなるようになります。

また、変性すべり症の起こる部位は、馬尾(ばび)神経がまとまってある部分で、尿や便など排泄(はいせつ)の機能を支配している神経も通っているため、膀胱(ぼうこう)直腸障害を来すこともあります。さらに、会陰(えいん)部障害といって、股関節から陰部にかけての知覚障害やほてり感が出ることもあります。

症状が悪化する前に、整形外科の医師を受診し、病態を理解することも大切です。

腰椎すべり症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、一般的には、体の正面と側面のX線(レントゲン)検査を行います。腰椎すべり症の人の中には、ふだんは何ともなく前かがみになると腰椎がずれという人もいるため、前屈位でのX線検査も行うこともあります。

腰椎分離症を合併していれば分離すべり症、骨盤の中心にある仙骨上縁のドーム化や分離、二分脊椎などの形成不全を合併していれば形成不全性すべり症、それらがなければ変性すべり症とされます。

圧迫されている部位、神経の圧迫の度合、腰椎すべり症以外の狭窄を詳しく調べるためには、MRI(磁気共鳴画像)検査を行います。ただし、このMRI検査も寝ている状態で行うので、動いている時の状態を調べるために、入院の上、脊髄造影検査やCT(コンピューター断層撮影)検査を行うこともあります。

腰椎すべり症と診断されても、すべり症以外の部位に狭窄が見付かるということも実際にあり、その場合は治療や手術の方法も違ってくるため、正確な診断が必要となります。

ほかの疾患との鑑別も、重要です。椎間板ヘルニアや、腰部脊柱管狭窄症などの脊椎疾患、閉塞(へいそく)性動脈硬化症という血管性の病変によっても、下肢痛やしびれ、歩行障害を来す場合があるからです。

整形外科の医師による治療では、軽い腰痛や下肢痛、しびれがある場合、コルセットで腰をサポートし、痛み止め、神経の循環を改善させる薬剤などを使います。

下肢痛がひどい場合には、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。神経ブロックは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法で、血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができますす。これには、腰の左右に5から6対ある神経根に直接針を刺して局所麻酔剤を注入する神経根ブロックと、腰椎を覆っている一番外にある硬膜の外側の空間へ局所麻酔剤を注入する硬膜外ブロックがあります。

神経の圧迫や刺激がひどくなると、手術が必要です。手術では、神経の圧迫を取り除くため、腰椎の後方部分の椎弓を部分切除します。すべりの程度や不安定性が強い場合は、グラグラの部分を固める脊椎固定術を追加します。

脊椎固定術には、前方固定、後側方固定、後方椎体間固定などの方法があり、一長一短があります。固定術には、すべりの矯正、確実な骨癒合のために、脊椎にスクリューやワイヤーやロッドなどの金属を用いる方法が併用されています。

 予防では、日ごろから腰の使い方に気を付けて、負担のかからないよう配慮することが最も大切。腹筋、背筋の筋力や足のストレッチなどで体をほぐし、体の状態を良好に保つことも必要です。

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