20歳代から30歳代で、日常生活や仕事に影響を及ぼす記憶障害が出る症状
若年性健忘症とは、比較的若い20歳代から30歳代で、日常生活や仕事に影響を及ぼすような物忘れが出る症状。健忘症は記憶障害の一つで、健忘の健は「甚だ」の意味です。
最近は激しい物忘れの症状を訴えて、病院を訪れる若い世代が増えているとされます。ただし、単なる物忘れとの境界もあいまいで、原因もはっきりしないために、医学上の正式な疾患名とはなっていません。
健忘症を発症すると、数秒前に体験した出来事、数日前までの出来事、さらにもっと以前の出来事を部分的に、または完全に思い出せなくなります。出来事の記憶には脳の多くの機能がかかわっているため、どのような種類の脳の損傷であっても、記憶を失うことがあります。損傷が重症でない場合は、ほとんどの健忘症は数分から数時間で、特に治療をしなくても自然に症状が消えます。脳の損傷が大きい場合には、健忘症の症状は恒久的に続きます。
この健忘症の多くは、脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、認知症(痴呆〔ちほう〕症)など脳の損傷が原因で起こる器質性健忘症で、アルコールや一酸化炭素、薬物中毒に伴うケースも含まれます。けれども、健忘症の原因は、部分的にしか解明されていません。
一方、若年性健忘症は、脳血管障害など脳の損傷が原因ではありません。CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)など脳の形態をみる検査をしても、何も異常は見付かりません。
報告されている症状はさまざまで、
1)強いストレスから、ある日突然過去3年間ほどの記憶が消え失せた。
2)自分の携帯電話をどこに置いたのか忘れてしまい、その度に他の電話から携帯に電話をかけて見付ける。
3)他人との会話が続けられない。
4)一流大学を卒業した男性が一流証券会社入社後5年、30歳代前半のころ、パソコンを使う単純作業を覚えられなくなり、会社を辞めた。
5)大手電機メーカーに電車通勤をする20歳代後半の男性が、突然降りる駅がわからなくなった、などです。
実は人間の脳は、与えられる刺激が少なかったり、日ごろから使っていないと、年齢に関係なく、機能が徐々に低下します。マニュアル通りに仕事をこなしている人や、誰とも会わずパソコンのモニターに向かい続ける仕事をしている人などは、若年性健忘症になりやすいと見なされます。
このほか、仕事に一日中追われて、ほとんど自由な時間がない多忙な人も、若年性健忘症になりやすいと見なされます。仕事に必要な部分しか脳が働いていない場合、脳の他の部分の機能低下が進んで、深刻な物忘れも起こり得るのです。
現代社会特有の便利な生活環境も、若年性健忘症が起こる背景にあると見なされています。手帳を見なくても、携帯電話にカレンダーや住所録の機能が付いています。計算は電卓が、漢字はパソコンの変換ソフトがやってくれます。人と話さなくても、コンビニやファーストフードさえあれば生活できます。
また、最近の研究で、脳の前頭葉の中にある46野という部分が関係していることがわかってきました。46野は脳の側頭葉に蓄えられた記憶や知識を引き出す役割を果たしていると考えられていて、この46野がうまく動かないと、記憶や知識を引き出してくることができないのです。電卓やパソコンなど便利な機器に頼りすぎたり、他人とコミュニケーションをとる機会が少ないと、46野の機能が低下するのではないかと指摘する専門家もおり、特殊な装置で脳の血液量を量ってみると、46野の機能は若者だけでなく子供達も低下しているようです。
若年性健忘症の予防法として挙げられるのは、次の3つ です。
1)1日最低3人、家族以外の人と話す。家族との会話は緊張感に欠けるため、ある程度気を付かう必要のある他人がよいのです。
2)1日10分間、文章を書く。日記でも手紙でもとにかく自分の手で書くことが大切。文字の意味や形を思い出しながら書くことに意味があります。
3)1日20分間、外を歩く。歩き慣れた道ではなく、なるべく知らない道を歩くことが大切。五感を通して入ってくるさまざまなな情報が、脳を活性化させます。
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