皮膚、関節が過伸展し、結合組織がもろくなる遺伝性の疾患
エーラス・ダンロス症候群とは、皮膚や骨、血管、さまざまな臓器などを支持する結合組織が脆弱(ぜいじゃく)になる遺伝性の疾患。
原因や症状、遺伝形式の違いに基づき、複数の病型に分類されています。1998年の世界保健機関(WHO) の国際疾病分類では古典型、関節可動性高進型、血管型、後側湾(こうそくわん)型、多関節弛緩(しかん)型、皮膚脆弱型の6つの病型とその他の病型に分類されていましたが、2017年に改定されて13病型になりました。
従来は非常にまれな疾患と見なされていたものの、最近では、すべての病型を合わせると、世界的にみて5000人に1人程度の有病率であると推定されています。
エーラス・ダンロス症候群は遺伝子の変異によって起こる疾患で、発症に関連する原因遺伝子が複数報告されています。例えば、病型の1つである古典型については、COL5A1やCOL5A2といったⅤ型コラーゲン遺伝子上における異常が認められています。
ほとんどの病型が、コラーゲン生成にかかわる遺伝子の異常、もしくはコラーゲンの成熟に必須の酵素生成にかかわわる遺伝子の異常で起こります。コラーゲンは、体を構成している全蛋白(たんぱく)質の30%を占めている重要な構成成分で、さまざまな結合組織に強度と弾力性を与える働きをしているため、遺伝子に異常が起こることで、コラーゲンや結合組織の強度や構造を保つためのさまざまな成分の生合成が阻害され、その結果、エーラス・ダンロス症候群が引き起こされると考えられます。
ほとんどの病型で共通して認められる症状としては、関節の過伸展性、皮膚の過伸展性、結合組織の脆弱性が挙げられます。関節を支える靭帯(じんたい)などの結合組織がもろくなることから、関節は正常な可動域を超えて動き、脱臼(だっきゅう)しやすくなります。皮膚は健常な人と比べて非常に伸びやすく、感触は柔らかで滑らか、もろくて傷が付きやすい、できた傷も治りにくいといった特徴が認められます。
また、コラーゲンには多くの種類があり、結合組織によりその構成や代謝が異なるために、各病型においては特徴的な症状が現れ、程度には個人差があります。
病型にもよりますが、エーラス・ダンロス症候群で問題となる症状の1つは、血管がもろくなることです。特に血管型では、易(い)出血性であざができやすいほか、動脈解離や動脈破裂、外傷による出血、腸管や子宮などの内臓破裂が起きることがあり、予防や早期の適切な対応が必要になります。
エーラス・ダンロス症候群に気付いた際は、皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科を受診します。
エーラス・ダンロス症候群の検査と診断と治療
皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による診断では、特徴的な臨床症状や病歴、家族歴から疾患の可能性を考え、さらにいずれの型に該当するか、将来どんな合併症が起こり得るかを特殊な検査で検討します。
ほとんどの病型で共通して認められる関節症状や皮膚症状に関しては、関節の可動性や皮膚の過伸展性、委縮性瘢痕(はんこん)などの有無を調べます。皮膚組織の一部を採取する皮膚生検、採取した細胞や尿の成分を調べる検査などを行う場合もあります。心血管超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、骨のX線(レントゲン)検査などの画像検査も検討されます。
また、コラーゲンの生成や成熟に重要な蛋白質や酵素にかかわる遺伝子異常が複数見付かっていることから、一部の病型では遺伝子解析により、遺伝子に異常がないかどうかを調べる場合もあります。
皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による治療では、エーラス・ダンロス症候群自体に対する治療法はまだないため、それぞれの症状に応じた対症療法が中心となります。痛みが強い場合には鎮痛剤、血管がもろくなる場合は血圧を下げる薬の処方が検討されます。
また、関節や皮膚、血管が脆弱であることから、激しい運動を避ける、サポーターを装着するといった予防も重要です。病型によって症状や経過が異なるので、正確な診断と適切な管理が必要となります。
例えば血管型の場合には、動脈解離、動脈瘤(りゅう)、動脈破裂、腸管破裂、妊娠時の子宮破裂といった重篤な合併症を来す恐れもあるため、予防のための生活管理、専門医による定期的なフォローが必要です。体に負担のかかる検査や手術は、なるべく避けます。
予後は、血管型以外は良好です。
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