黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症
黄熱(おうねつ)とは、黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症。黄熱病、黒吐(こくと)病とも呼ばれます。
黄熱ウイルスは日本脳炎ウイルスと同様のフラビウイルスという仲間に分類され、人間以外にも猿や蚊の中でも生息することが可能であり、人は蚊に刺されることで病原体に感染します。
主に媒介するネッタイシマカはアフリカおよび南アメリカの熱帯ないし亜熱帯地域に広く生息しており、同地域に一致して黄熱は流行しています。具体的には、アフリカは赤道南北それぞれ15度の緯度の範囲、南米においてはパナマから南緯15度までの地域で流行しています。
ネッタイシマカに刺されて黄熱ウイルスに感染しても、多くの場合は症状が出現しません。しかし、感染後3〜6日ほどの潜伏期間をへて、症状を示す人もいます。その初発症状は高熱と頭痛であり、手足の痛み、腰痛、嘔吐(おうと)、正常よりも脈が遅くなる徐脈などが起こります。重症化することがなければ、3日程度の経過で症状は改善します。
感染者のおよそ15%で重症化し、初発症状から改善したようにみえて、数時間から1日後に突然高熱が再燃します。高熱であっても、1分間に50回ほどの徐脈を示し、60~100回の通常より遅くなることが特徴です。特に肝臓と腎臓(じんぞう)に対する障害が強く、典型的な症状としては、黄疸(おうだん)、鼻や口、目、皮膚、消化管からの出血、蛋白(たんぱく)尿の3つを挙げることができます。
黄疸とは、皮膚や眼球が黄色を示すようになる状態であり、このことから黄熱と呼ばれます。黄疸、出血、蛋白尿の3症状が現れるようになると、黒色の嘔吐、無尿、心不全、肝性昏睡(こんすい)などに陥り、1週間から10日までに亡くなる場合があります。
世界保健機関(WHO) の推定によると、1990年代の初めから、全世界で毎年3万人の死亡者を伴う20万人の黄熱患者が発生し、そのうち90%はアフリカで発生しています。ブラジルでは、2017年7月1日から2018年2月15日までに、死亡者118人を含む409人の黄熱の確定患者が出ました。これは、2016年から2017年の同じ時期に報告された死亡者166人を含む532人の黄熱の確定患者よりも少なくなっています。
日本での黄熱の扱いとしては、感染症法にて4類感染症に指定されており、患者を診断した医師から保健所への届け出が義務付けられている全数把握対象疾患となっています。これによると、日本での発症例は認めていませんが、海外の流行地域に赴く際には注意が必要です。「黄熱に感染する危険のある国」の情報は、厚生労働省検疫所が適時情報を流しています。
黄熱に対してはワクチンによる予防接種が可能であり、入国に際して予防接種証明書の提示が義務付けられている場合もあります。黄熱ワクチンはどの医療施設でも接種可能というものではないため、黄熱の流行地域へ渡航する際は時間的な猶予を持って対応することが必要で、渡航の10日前までに予防接種を受けることが推奨されています。接種者の95%以上で、10日目以後10年以上にわたり中和抗体が保持されます。
なお、細菌学者の野口英世が黄熱の研究中に感染し、西アフリカのガーナで1928年に死亡したことは有名です。
黄熱の検査と診断と治療
内科、感染症科の医師による予備的診断は、症状、渡航地域と渡航日、渡航中の活動に基づいて行います。検査室診断では、血液検査を行い、血液から黄熱ウイルスやその特徴的な遺伝子を検出すること、あるいは特異的な抗体を検出することで確定します。
また、合併症の有無を評価します。肝臓と腎臓に障害を起こすことが多く、これらの評価が重要です。肝臓に関連して黄疸の原因となるビリルビン(胆汁色素)が高くなり、消化管出血の原因となる血液の止血にかかわる凝固機能にも異常を伴います。黄熱では蛋白尿を認めることもあるため、尿検査にてこれを確認することもあります。
さらに、黄熱の流行地域でのほかの感染症も含めて、広く鑑別を行います。鑑別を要する疾患は、ウイルス性出血熱であるエボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病、南米出血熱などのほか、ワイル病、回帰熱、急性ウイルス性肝炎、マラリア、レプトスピラ症です。
内科、感染症科の医師による治療では、黄熱に特化した抗ウイルス薬がないため、症状に応じた対症療法を主体にします。肝不全、腎不全に対する治療が中心となり、腎不全に対しては人工透析を行うことがあります。
出血傾向を引き起こす血液の凝固異常に対しては、新鮮凍結血漿(けっしょう)や赤血球などの輸血を行います。高熱を伴うことから、熱に対しての対応も重要になります。
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