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2022/08/22

🇦🇹赤痢

赤痢菌、あるいは赤痢アメーバという原虫の感染に起因する疾患

赤痢とは、赤痢菌あるいは赤痢アメーバに汚染された飲食物を介して感染する疾患。細菌性赤痢、疫痢、アメーバ赤痢の別があります。

このうち、疫痢はかつて乳幼児に起こっていましたが、近年はまずみられなくなりました。細菌性赤痢と同じ赤痢菌によって、高熱、けいれん、意識障害などの重い症状を起こし、多くは短時日で死亡していました。

【細菌性赤痢】

細菌性赤痢とは、赤痢菌によって引き起こされ、血便を生じる急性の感染症。世界中に広く分布する細菌感染症です。

赤痢菌には、志賀赤痢菌(ディゼンテリー菌)、フレキシネリ菌、ゾンネ菌、ボイド菌の4種があります。志賀赤痢菌は、志賀潔によって発見され、志賀毒素という腸管出血性大腸菌O—157の産生する毒素の一つとほとんど同じものを産生し、4種の中で最も病原性が強いものです。フレキシネリ菌も、典型的な赤痢の症状を示します。ゾンネ菌は、日本で70〜80パーセントを占めて最も多いものの、病原性が弱く軽症です。ボイド菌は、日本では非常にまれ。

赤痢菌に汚染された食品や水、氷などを介して感染しますが、感染に必要な赤痢菌の菌量は10〜100個と極めて少なく、食器やはしなどを介して人から人に直接感染することもあります。家庭内2次感染の危険性が高く、約40パーセントでみられます。特に、小児や老人に対しての注意が必要です。

日本でのここ数年の発症者数は年間700〜800人で、20歳代に年齢のピークがあり、14歳までの発症者は全体の約10パーセント程度。国外感染例が70パーセント程度で、国内では保育園、学校、ホテルなどでの集団発生や、牡蠣(かき)を介した全国規模での感染がありました。

典型的な赤痢では、1〜3日の潜伏期間の後、下痢、悪寒、発熱、腹痛、倦怠(けんたい)感が現れます。赤痢菌の種類によって症状の程度に差があり、最も病原性の強い志賀赤痢菌では、1〜2日間発熱があって、腸内からの出血によって粘血便がみられ、トイレにいった後でもすっきりせず、また行きたくなる渋り腹が現れることがあります。

他の3種の赤痢菌では、粘血便をみることはほとんどありません。特に、日本で多いゾンネ菌によるものは重症例が少なく、軽い下痢と軽度の発熱で経過することが多く、菌を持っていても症状のない健康保菌者もいます。

【アメーバ赤痢】

アメーバ赤痢とは、赤痢アメーバという原虫の感染に起因する疾患。消化器症状を主症状としますが、それ以外の臓器にも病変を形成します。

世界各地でみられ、特に熱帯、亜熱帯での発生が多く、年間約5000万人の感染者、4〜10万人の死亡者がいると推定されています。日本においても、マラリアやトキソプラズマ感染症など他の寄生虫感染症に比べ、多くの感染者が発生しているので注意が必要です。

海外の流行地域で感染した人は少なく、男性同性愛者または知的障害者での感染がほとんどです。感染症法において5類感染症に指定されており、医師による届け出によると年間500〜600人の感染者、数人の死亡者があります。

赤痢アメーバは人、サル、ネズミなどの大腸に寄生し、糞便(ふんべん)中にシスト(嚢子〔のうし〕)を排出します。このシストに汚染された飲食物を口から摂取することで、次の人へと感染します。急性期の感染者よりも、シストを排出する無症候性の感染者が感染源として重要です。ハエ、ゴキブリを介した感染も起こります。

感染しても症状が現れるのは、5〜10パーセント程度。現れる場合の症状は、腸管アメーバ症と腸管外アメーバ症に大別されます。

腸管アメーバ症は下痢、粘血便、渋り腹、腸内にガスがたまって腹が膨れ上がる鼓腸、排便時の下腹部痛、不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイチゴゼリー状の粘血便を排出します。多くは、数日から数週間の間隔で増悪と寛解を繰り返します。盲腸から上行結腸にかけてと、S字結腸から直腸にかけての大腸に、潰瘍(かいよう)が好発します。まれに、肉芽腫(しゅ)性病変が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔(せんこう)したりすることもあります。

腸管外アメーバ症の多くは、腸管部よりアメーバが血行性に転移することにより、肝臓の膿瘍(のうよう)が最も高頻度にみられます。成人男性に多く、高熱、季肋部痛、吐き気、嘔吐(おうと)、体重減少、寝汗、全身倦怠感などを伴います。膿瘍が破裂すると、腹膜や胸膜、心外膜にも病変が形成されます。そのほか、皮膚、脳、肺に膿瘍が形成されることもあります。

赤痢の検査と診断と治療

【細菌性赤痢】

海外旅行中や旅行後に血便を伴う下痢の症状が現れたら、赤痢を含む細菌性腸炎の可能性があります。検疫所あるいは培養検査のできる医療機関を受診し、便の細菌検査を受けることが必要です。

日本では、細菌性赤痢は感染症法で2類感染症に指定されており、発症者は原則として2類感染症指定医療機関に入院となりますが、無症状者は入院の対象とはならず外来治療も可能です。

医師による診断では、便の細菌培養を行い、赤痢菌が検出されれば確定します。他の細菌による下痢症との区別も、培養結果によります。迅速検査として、赤痢菌の遺伝子を検出する方法も開発されています。細菌性赤痢もしくは病原体保有者であると診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

治療では、成人にはニューキノロン系の抗菌剤、小児には抗菌剤のホスホマイシンを投与します。生菌整腸薬を併用し、下痢や発熱による脱水があれば点滴や経口輸液による補液を行います。強力な下痢止めは使いません。治療後に再度、便培養を行い、除菌を確認します。最近は、分離される赤痢菌の多くがアンピシリン、テトラサイクリン、ST合剤に耐性があるとされています。

赤痢は世界中どこでもみられる感染症で、特に衛生状態の悪い国に多くみられます。海外旅行中は、生水、氷、生ものは避けることが、重要な予防方法となります。屋台のヨーグルト飲料や氷で感染した例も報告されていますので、不衛生な飲食店、屋台などでの飲食も避けます。

【アメーバ赤痢】

腸管アメーバ症の症状を示す場合は、細菌性の赤痢、潰瘍性大腸炎、クローン病などと間違われることがあります。アメーバ赤痢は一般に全身状態がよく、増悪と寛解を繰り返すことがよくあるものの、腸の穿孔、腸管外アメーバ症などになると命にかかわるので、症状に気付いたら内科、感染症科などを受診します。

医師による診断は、糞便あるいは膿瘍液、大腸粘膜組織の中に、赤痢アメーバ原虫を顕微鏡下で確認することでつきます。同時に、赤痢アメーバの主要抗原蛋白(たんぱく)質を免疫酵素抗体法で検出したり、赤痢アメーバの遺伝子をPCR(DNA配列の断片を大量に増幅する分子生物学の手法)で増幅することにより、直接赤痢アメーバの存在を証明する方法が最も確実です。

また、発症者の血液の中に赤痢アメーバに対する抗体があるかどうかを調べる方法も一般的で、専門の研究、検査機関に一般の医療機関からでも依頼検査ができます。

治療では、メトロニダゾール(フラジール)、チニダゾールの経口投与が一般に有効です。重症の場合には、デヒドロエメチンの静脈注射も行われます。シスト保有者には、メトロニダゾールのほかにフロ酸ジロキサニドが用いられ、有効な場合もあります。放って置くと慢性化し、再発しやすくなります。

予防には、飲食物の加熱、手洗いの励行、適切な糞便処理が有効。また、シスト排出者との接触に注意する必要もあります。

🇲🇲セレウス菌食中毒

食物の腐敗細菌であるセレウス菌によって引き起こされる食中毒

セレウス菌食中毒とは、食物の腐敗細菌として古くから知られているセレウス菌によって引き起こされる食中毒。似たものに、ウェルシュ菌食中毒、エルシニア食中毒があります。

セレウス菌は土壌細菌の一つで、土壌、水、ほこりの中など自然環境に広く分布し、農作物などを濃厚に汚染しています。米や小麦を原料とする食品中で増殖すると、エンテロトキシンを始め、いくつかの異なる毒素を作ります。従って、このセレウス菌による食中毒は、毒素の違いにより下痢型と嘔吐(おうと)型の2つのタイプに分類されます。

日本では、後者の嘔吐型がほとんどで、米飯、焼き飯によるものが圧倒的に多く、全体の70パーセント以上を占めています。また、食品中では芽胞を作って生存し、発芽して増殖する温度は10~45度、至適温度は28~35度で、熱に抵抗性があります。

原因となる食品は、米飯、焼き飯のほか、ピラフ、オムライス、チキンライス、焼きそば、スパゲティ、弁当、にぎり飯、すし、カレー、プリン、スープ、野菜、野菜の煮物、豆腐のおから、厚焼き卵、ローストチキン、ハンバーグ、香辛料などが挙げられます。とりわけ、前日またはそれ以前に炊いた米飯を調理加工した食品、調理した焼き飯などを室温で長時間放置した残り物が、主な原因となります。

下痢型は主に食肉製品やスープから感染し、潜伏期間は8~16時間で、主な症状は腹痛、下痢で、ウェルシュ菌食中毒に似ています。下痢毒素のエンテロトキシンは、56度5分の加熱で毒力がなくなります。

嘔吐型は主に米飯、焼き飯、スパゲティから感染し、潜伏期間は1~5時間で、主な症状は激しい吐き気、繰り返す嘔吐、腹痛で、ブドウ球菌食中毒に似ています。嘔吐毒素は、熱に強く126度90分の加熱でも安定しているので、調理過程ではなかなか死滅しません。抵抗力の弱い高齢者がかかった場合は、死亡することもあります。

なお、このセレウス菌食中毒が正式に厚生労働省の食中毒統計に収載されるようになったのは、1983年(昭和58年)からです。

セレウス菌食中毒の検査と診断と治療

セレウス菌は少量摂取しても決して食中毒にはかかることはなく、必ず、食品中でおびただしく増殖することが、食中毒の前提となっています。下痢型で感染型のセレウス菌食中毒、嘔吐型で毒素型のセレウス菌食中毒とも、症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し適切な処置を受けます。自己判断で下痢止めの薬などを飲むと、回復を遅らせることもあります。

医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、セレウス菌食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)や原因食品、または食品原材料から原因となっている菌を分離することが必要です。下痢型ではウェルシュ菌食中毒、嘔吐型ではブドウ球菌食中毒との鑑別がなされます。

感染初期や軽症の場合は、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。高齢者などで重症化した場合は、抗菌剤の投与による治療も行われます。

 セレウス菌食中毒の予防対策は他の食中毒と変わりませんが、米飯および焼き飯による食中毒予防のポイントを紹介します。

一度に大量の炊飯をせず、焼き飯などの調理加工までの時間を短くし、十分に加熱すること。焼き飯などに使用する鶏卵は、新鮮なものを使用すること。調理加工した食品は、できる限り保存せず、早めに食べること。

保存する場合は、炊飯後の米飯は素早く50度以上の高温、または10度以下に冷却すること。調理加工後の食品は、2時間以内に冷蔵庫に入れること。米飯を放冷する時は、小分けにするか、清潔な容器に移し、できるだけ早く温度を下げること。米飯、焼き飯などは、10~50度の温度帯で保存しないこと。さらに、常温では2時間以上放置しないこと。

大量に作った焼き飯などを翌日再調理することは、避けること。

🇹🇭尖圭コンジローム

性器に軟らかい、いぼのような腫瘍ができる性行為感染症

尖圭(せんけい)コンジロームとは、男女の性器に軟らかい、いぼのような腫瘍(しゅよう)ができる疾患。尖圭コンジローマとも呼ばれます。

性行為感染症の1つとされており、ヒト乳頭腫ウイルス(ヒトパピローマウイルス)がセックスの時などに感染することで起こります。好発するのは、いわゆる性活動の盛んな年代。

ヒト乳頭腫ウイルスに感染した人がすべてすぐに発症するわけではなく、ウイルスが体内に潜んでいるだけの人がかなりいるといわれています。そのため、移された相手がはっきりしない場合も多くみられます。潜伏期間は一定ではありませんが、一般的に感染後2~3カ月で症状が現れます。

男性では、主として冠状溝という、亀頭と陰茎の中央の間にある溝に、ニワトリのトサカのような腫瘍ができて増殖します。塊が大きくなるとカリフラワー状になることもあります。陰嚢(いんのう)、尿道口、肛門(こうもん)周囲、口腔(こうくう)にできることもあります。

女性では、大小の陰唇、膣(ちつ)、会陰(えいん)部などの皮膚と粘膜の境界にある湿った部分にでき、 尿道口、肛門周囲、口腔にできることもあります。

感染初期は異物感があるだけで自覚症状はほとんどありませんが、かゆみやひりひりする感じがあったり、ほてる、性交痛を感じる場合もあります。

いったん治療して腫瘍が消えても、ヒト乳頭腫ウイルスが皮下に潜んでいて再発を繰り返すことがよくあります。女性では、原因となるヒト乳頭腫ウイルスと子宮頸(けい)がんとの関連も推定されています。

尖圭コンジロームの検査と診断と治療

男性の場合、正常な陰茎にも1〜2ミリの小さないぼのようなぶつぶつがみられることがありますが、これは治療の必要はありません。しかし、尖圭コンジロームは悪性のものや性行為で移るものまでさまざまなものがありますので、亀頭部にできている痛みのないはれ物に気付いたら、泌尿器科か皮膚科の専門医を受診します。

医師の診断では、梅毒でみられる扁平(へんぺい)コンジローマと違って先のとがったいぼで、多発すると鶏冠状を示すため、多くは見た目で判定できます。判断が難しい場合は、皮膚組織の一部を切除して顕微鏡検査で判定します。時には、血液検査で梅毒ではないことを確認することもあります。

治療では、小さくて少数なら5−FU軟こう、尿素軟こうなどの塗り薬も効果があるといわれていますが、一般的には液体窒素による凍結凝固や、レーザー、電気メスによる焼灼(しょうしゃく)が有効です。大きかったり、多発、再発する場合は、周囲の皮膚を含めて手術で切除します。

これらの治療によって一時的に腫瘍は消えますが、ウイルスは周囲の皮膚に潜んでいるため20〜50パーセントで再発します。

診断が確定したら、きちんと治るまで性行為は控えるか、コンドームを使用するようにします。特に、女性が生理の時はふだんよりさまざまな菌に感染しやすいので、性行為は控えます。また、避妊目的でピルを服用しても、性行為感染症の予防にはなりませんので、男性にコンドームの使用を求めます。

2022/08/19

🇯🇵日本紅斑熱

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニに刺されることによって、引き起こされる感染症

日本紅斑熱(こうはんねつ)とは、細菌の一種である日本紅斑熱リケッチア(リケッチア・ジャポニカ)を保有するマダニ類に刺されることによって、引き起こされる感染症。

森林や野山に入り、この日本紅斑熱リケッチアを持ったキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマアラシチマダニ、ヤマトマダニなどのマダニ類に刺されることによって、日本紅斑熱に感染します。感染時の行動は、農作業や森林作業のほか、山登り、散歩などさまざまで、住居の周りで感染したと考えられるケースもあります。

1984年に徳島県で発見された新興感染症で、高熱と紅斑を伴う疾患が3例続いて発生し、その症状と刺し口などから当初はダニ類のツツガムシが媒介するツツガムシ病が疑われましたが、ワイル・フェリックス反応と呼ばれる患者の血清中に生じる抗体を利用した検査法を用いて鑑別した結果、これまでに知られていない紅斑熱群に分類されるリケッチアによる感染症であることが明らかになり、日本紅斑熱と名付けられました。

1986年に病原体が分離され、日本紅斑熱リケッチアと名付けられました。1999年には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の制定に伴って、日本紅斑熱は四類感染症に指定されました。2012年の春には、治療薬の保険適用が認められました。

1984年の発見以降、西日本の太平洋沿岸を中心に温暖な地域で発生がみられていたものの、近年では日本海側や東北地方にも発生が広がり、全国32都府県で患者が報告されています。患者の届け出は、1994年までは年間10〜20名程度で推移し、1995年以降は年間40〜60名程度に増加し、2007年には98名、2011年には過去最高の178名を記録したほか、2011年までに5名の死亡例があります。

発生時期をみると、1998年以前は7~9月をピークに4~11月の間に発生がみられ、夏を中心に発生するといわれていました。しかし、1999 年以降は4月~10月に継続して多くの発生がみられ、さらに3月、11月、12月にも発生がみられています。

一般に森林性のマダニ類は、その一生を通じて1〜3回のみ、シカや野ネズミなどの哺乳(ほにゅう)類や鳥類などの温血動物から吸血を行い、その栄養を元にして、幼虫から若虫への脱皮、若虫から成虫への脱皮、交尾と産卵を行います。この吸血の際に、日本紅斑熱リケッチアを保有するダニ類から吸血された動物に伝達されます。その一方で、吸血された動物が日本紅斑熱リケッチアを保有している場合に、保有していないダニ類が吸血すると日本紅斑熱リケッチアに感染し、ダニが有毒化します。加えて、紅斑熱群に分類されるリケッチアは、親ダニから卵への経卵感染(垂直感染)も起こすことが知られており、生まれながらにして有毒なダニも存在しています。

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニ類が吸血のため人を刺すと、体内にリケッチアが侵入して感染します。人から人には感染しません。

2~8日の潜伏期間を経て、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、39~40度以上の高熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを伴って発症します。高熱の後にやや遅れてて、米粒大から小豆大の紅斑が四肢や手のひら、顔面に現れ全身に広がります。この紅斑に、痛みやかゆみはありません。リンパ節腫脹(しゅちょう)はあまりみられません。

注意深く全身を探すと、腹部か背部、外陰部、大腿(だいたい)部など隠れた部分の皮膚に、ダニ類の刺し口が見付かり、通常は1〜2週間ほどの期間見られます。しかし、刺し口が小さい場合には、数日で消えたり、頭部など体毛で覆われた部分を刺された場合には、刺し口が見付けづらいこともあります。

重症例で治療が遅れると、全身の血管内で血液が固まってしまう播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)や、多臓器不全が引き起こされ、死亡することもあります。

なお、日本紅斑熱は日本特有の疾患ですが、同様の紅斑熱群リケッチア症は広く世界に分布しており、輸入感染症としても重要です。代表的な紅斑熱群リケッチア症は、北米大陸にみられるロッキー山紅斑熱、ユーラシア大陸にみられるシベリアマダニチフスやボタン熱、地中海沿岸にみられる地中海紅斑熱、オーストラリアにみられるクインズランドダニチフスなど。

野外での作業、レジャーなどから帰って数日から8日前後で、発熱、発疹などが認められた場合には、できるだけ早い時期に内科、感染症内科、皮膚科を受診して、日本紅斑熱あるいはツツガムシ病に感染した可能性があることを告げ、検査、治療を受けて下さい。

日本紅斑熱の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇、白血球や血小板の減少がほとんどの例にみられます。

確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、日本紅斑熱リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、日本紅斑熱リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。

検査所見はツツガムシ病のものと類似するため、鑑別が必要となります。ツツガムシ病との鑑別は難しいものの、一般にツツガムシ病ではリンパ節腫脹がしばしば見られることや、ツツガムシ病では発疹が四肢よりも体幹部に多く見られること、ツツガムシ病のほうが刺し口の中心部の黒色痂皮(かひ)部(かさぶた)がしばしば1センチメートル以上と大きい傾向があることなどの点で、違いが現れることがあります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、症状から日本紅斑熱が疑われたら、早期にテトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を点滴静脈内注射か内服で投与することが最も有効です。テトラサイクリン系とニューキノロン系の2種類の抗菌薬の併用投与も行われています。

細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。

日本紅斑熱の予防ワクチンはないため、キチマダニ、フタトゲチマダニなどのダニ類に刺されないことが、唯一の感染予防法です。

そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニ類が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

万が一マダニ類に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。

🇯🇵日本住血吸虫症

日本住血吸虫が感染して引き起こされる寄生虫病

日本住血吸虫症とは、吸盤を持った日本住血吸虫が門脈という血管の中に生息することによって、引き起こされる寄生虫病。

この日本住血吸虫という名前は、日本での研究が盛んだっことに由来していて、世界で唯一住血吸虫を撲滅した国でもあります。かつては甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などが流行地として知られていましたが、1978年以来新しい発症者は出ておらず、すでに絶滅したと考えられています。しかし、中国やフィリピン、インドネシアなどの東南アジアでは、いまだ多くの発症者が出ています。

また、日本住血吸虫症を含む住血吸虫症になると、世界中で2億人が発症していると推定され、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。

日本住血吸虫の成虫は、オスが1.2〜2.0センチ、メスが 1.5〜3.0センチの体長で、細長く、人間などの寄生する動物、すなわち宿主(しゅくしゅ)の小腸から肝臓へつながる静脈血管である門脈の中に生息して、 宿主の赤血球を食べています。 成虫の寿命は通常3~5年ですが、まれには30年の長きに渡ることもあります。

日本住血吸虫は一生のうち、何度も姿を変えます。成虫が寄生している門脈で産み落とされた虫卵は、糞便(ふんべん)とともに水中に流出すると、虫卵の中でミラシジウムが活発に動き、卵のからを破って水中に泳ぎ出します。ミラシジウムは中間宿主で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、ミヤイリガイの皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間宿主がないと、寄生虫は生きていくことができません。

長さ5ミリほどのミヤイリガイに侵入したミラシジウムは、スポロシストという姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目のスポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セルカリアは2つに枝分かれした尾を持ち、貝から水中に出て泳ぎ回り、終宿主である人間などの動物が水中に入ってくると、蛋白(たんぱく)質を溶かす酵素を使って皮膚を溶かしながら体内に侵入します。終宿主とは普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は有性生殖を行います。

皮膚から侵入する時に尾を切り捨て、セルカリアは血液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それから再び心臓に戻り、大循環によって門脈に達した後、そこで成虫になるまで過ごします。セルカリアが人に侵入してから成虫になるまで、およそ40日ほどかかります。

成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行います。産卵された虫卵は、体内のさまざまな部位に運ばれます。腸管内に運ばれたものは、糞便と一緒に体外に排出されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。

日本住血吸虫症の症状としては、まずセルカリアが皮膚より侵入した時に、かゆみのある皮膚炎を起こします。侵入から5~10週の間、セルカリアが体内を移行することによって、せき、発熱、ぜんそく様発作、リンパ腺(せん)炎などが起こり、時に肝臓や脾(ひ)臓がはれることもあります。

侵入後10~12週で、虫体が成熟して産卵が始まると、発熱、腹痛、下痢などの症状が現れます。虫卵が肝臓に流入した場合には、虫卵が血管を詰まらせて炎症を起こし、最終的に肝硬変になることもあります。肝硬変になると、腹水がたまり、腹部がはれてきます。多くの虫卵が血管を通って脳に流入した場合には、てんかん様発作、頭痛、運動まひ、視力障害などのさまざまな症状が現れます。

日本住血吸虫症で一番恐ろしいのは、肝臓や脳に対する症状で、悪化すると死に至ることも少なくありません。

日本住血吸虫症の検査と診断と治療

医師による確定診断は、肝生検あるいは直腸粘膜の生検によって、組織中に虫卵を確認することによってなされます。現在の日本の発症者の多くは、過去に感染していてもすでに炎症は消退し、古くなった虫卵は石灰化しています。超音波検査やCTでは、肝臓の表面は特徴的な亀甲(きっこう)状あるいは網目状の肝硬変像を示し、石灰化した虫卵と線維化がみられます。

治療においては、駆虫剤のプラジカンテルの内服が有効ですが、副作用があるので注意します。過去に感染している場合には、肝硬変や肝細胞がんの合併があり得るので、画像診断による経過観察が行われます。

予防法としては、セルカリアのいる水に接触することにより感染が成立するので、汚染された水に直接触れないことに尽きます。しかし、日本住血吸虫が撲滅されていない外国で漁業や農業をする人は、水に直接触れることを避けられないので、予防は大変困難です。

日本住血吸虫症を根本的に撲滅するためには、中間宿主であるミヤイリガイの数を減らす必要があります。日本では、さまざまな殺貝剤をまいたり、水路をコンクリートに変え、ミヤイリガイが繁殖しにくいような環境にすることによって、撲滅に成功しました。汚染地域が比較的限られていた日本と異なり、外国では汚染地域が広大であり、ミヤイリガイの撲滅は簡単ではありません。

なお、甲府盆地などではミヤイリガイがいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピンの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。

🇯🇵日本脳炎

蚊に媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こる感染症

日本脳炎とは、主にコガタアカイエカによって媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こるウイルス感染症。重篤な脳炎、髄膜炎症状を呈します。

日本脳炎ウイルスは、フラビウイルス科に属するウイルスで、1935年に人の感染脳から初めて分離されました。人から人への感染はなく、ブタなどの動物の体内でウイルスが増殖された後、そのブタを刺したコガタアカイエカなどの蚊が人の皮膚を刺すことによって、感染が成立します。

日本脳炎は、東アジアから東南アジア、南アジアにかけて広く発生し、アジア以外のパプアニューギニア、オーストラリアでも発生が報告されています。年間3~4万人が発症していると見なされますが、日本と韓国ではワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されています。

日本では、1966年の2017人をピークに減少し、1992年以降の発症数は毎年10人以下であり、そのほとんどが中高齢者。地域的には、80パーセント近くが九州、沖縄、中国、四国で発生しています。

厚生労働省では毎年夏に、ブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から、間接的に日本脳炎ウイルスの流行状況を調べています。それによると、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていません。

感染しても、日本脳炎を発症するのは100~1000人に1人程度と見なされてきており、大多数は無症状の不顕性感染に終わります。

潜伏期は6 ~16日間とされ、典型的な症例では、数日間の高い発熱、頭痛、悪心、嘔吐(おうと)、めまいなどで発症します。小児では腹痛、下痢を伴うことも多くみられます。これらに引き続いて急激に、首の硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、中枢神経系障害を示す症状、すなわち筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、まひ、けいれん、病的反射などが現れます。

死亡率は20~40パーセントで、幼小児や高齢者では死亡の危険が大。後遺症は生存者の45~70パーセントに残り、小児では特に重度の障害を残すことが多くなります。パーキンソン病様症状やけいれん、まひ、精神発達遅滞、精神障害などです。

日本脳炎の検査と診断と治療

日本脳炎ワクチン未接種者や不完全接種者で、6月〜10月に発生した脳炎発症者の場合には、日本脳炎を考慮する必要があります。 

医師による診断は、腰椎(ようつい)に針を指して脳脊髄(せきずい)液を採取する髄液検査や、血液検査などにより、ウイルスや、ウイルス遺伝子、ウイルスに対する抗体の検出で確定されます。しかし、検出される日本脳炎ウイルスは一過性であり、極めて少量なため、髄液や血液からのウイルスの検出は非常に難しく、臨床診断に頼らざるを得ない面があります。

日本脳炎は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

いったん日本脳炎を発症すると、特効薬は全くありません。症状が現れた時点で、すでにウイルスが脳内に達し脳細胞を破壊しているため、将来ウイルスに効果的な薬剤が開発されたとしても、一度破壊された脳細胞の修復は困難と見なされます。日本脳炎の予後をピーク時と比較しても、死亡例は減少したものの全治例は約3分の1とほとんど変化していないことから、治療の難しさが明らかです。

対症療法が中心となり、高熱とけいれんの管理を行います。脳浮腫(ふしゅ)は重要な因子ですが、大量のステロイド剤の投与は一時的に症状を改善することはあっても、予後、死亡率、後遺症などを改善することはないとされています。

従って、日本脳炎は予防が最も大切な疾患で、その予防の中心はワクチンの予防接種と蚊の対策。日本脳炎の不活化ワクチンが予防に有効なことは、すでに証明されています。実際、近年の日本脳炎の発症者のほとんどは、予防接種を受けていなかったことが判明しています。

子供への日本脳炎の定期予防接種は、従来のワクチンによる急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの重い副作用があり、平成17年から事実上中断していました。しかし、年間数例発症していることから、平成21年2月に承認された新型ワクチンを使用して、平成22年春から再開されます。

従来のワクチンは、日本脳炎ウイルスを感染させたマウスの脳の中でウイルスを増殖させて、高度に精製し、ホルマリン等で不活化、すなわち病原性をなくしたものです。新型ワクチンは乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンといわれ、マウス脳の代わりにVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)の中でウイルスを増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化したものです。

予防接種法に基づく定期予防接種は、生後6カ月以上~7歳半未満(第1期)に3回、9歳以上~13歳未満(第2期)に1回の計4回のスケジュールで行われる予定。接種を一度も受けていない子供が多いとみられる3~7歳については、優先的に接種されます。9歳以上の接種については、有効性、安全性が確立されていないため、現時点では定期接種は困難とされています。

なお、日本脳炎は定期の予防接種の対象疾患となっていますが、その発生状況などを検討して、予防接種を行う必要がないと認められる地域を都道府県知事が指定することができるようになっています。これを踏まえて従前より、北海道のほとんどの地域では、日本脳炎の予防接種は実施されていません。

蚊の対策としては、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは日没後に活動が活発になるとされていますので、このような時間帯に戸外へ出掛ける必要がある時には、念のためできる限り長そで、長ズボンを身に着けたり、露出している皮膚に蚊除け剤を使用したりします。

また、コガタアカイエカは水田や沼地など大きな水域で発生するので、住宅の周囲に発生源がある場合は、夜間の外出を控え、蚊が屋内に侵入しないように網戸を使用したり、夜間の窓や戸の開閉を少なくしたり、蚊帳を利用したりします。

🇰🇭フィコミコーシス

ムーコル目の真菌を吸い込むことで発症する感染症

フィコミコーシスとは、空気中に浮遊するムーコル目の真菌(かび)の胞子を気道から吸い込むことが原因となって、発症する感染症。ムーコル症とも呼ばれます。

ムーコル目の真菌には、ケカビ、アブシディア、クモノスカビなどがあり、土壌、堆肥(たいひ)、野菜などの自然界に広く生息しています。健康である限り、ムーコル目の真菌が人間に感染することはありません。免疫不全、代謝異常、慢性消耗性疾患などを持つ人の肺などに感染し、特に血糖管理の不十分な糖尿病は最も感染リスクが高い疾患となっています。

肺のほか、鼻と脳に感染し、まれに皮膚や消化管にも感染します。急性に進行する重度の感染症では、場合によっては死に至ります。

肺のフィコミコーシスは、発熱、せき、時に血たんや喀血(かっけつ)、呼吸困難を生じることもあります。

鼻と脳のフィコミコーシスでは、痛み、発熱のほか、眼窩(がんか)へ感染した眼窩蜂巣(ほうそう)炎による眼球突出などがあります。鼻からうみが出て、口の天井に当たる口蓋(こうがい)、眼窩、副鼻腔(ふくびくう)周辺の顔の骨、2つの鼻孔(びこう)を仕切っている壁の破壊も起こります。脳に感染すると、けいれん発作、部分まひ、昏睡(こんすい)が起こります。

フィコミコーシスの検査と診断と治療

フィコミコーシスの症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。早期に診断されない場合は急速に病状が進行しますので、注意が必要です。

フィコミコーシスの症状は他の感染症とよく似ているので、医師がすぐに診断を下すことは容易ではありません。胸部X線検査で浸潤影が認められる場合に本症が疑われ、確定診断のためには、たんや病巣から病原真菌を検出、培養する必要があり、典型的には気管支鏡検査法により肺から、および前検鼻法により副鼻腔から採取します。

しかしながら、培養には時間がかかるため、急性で生命を脅かす病態に対する迅速な確定診断用としては、適していません。発症者の状態が悪いことから、体への負担が大きい気管支鏡検査を行えないケースも多く、確定診断は困難なことがしばしばあります。

フィコミコーシスの治療には、一般に抗真菌剤のアムホテリシンBを静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。また、薬で真菌の活動を抑えた後、感染組織を外科手術で取り除くこともあります。基礎疾患に糖尿病がある場合には、血糖値を正常範囲まで下げる治療を行います。

真菌は真核生物であり、原核生物である細菌とは異なって、構造が複雑で菌糸や分生子(分生胞子)を形成します。それがフィコミコーシスの治療を難しくしていて、死亡率の高い、非常に重い疾患としています。

🇰🇭フィラリア症(糸状虫症)

線虫類のフィラリアの寄生によって引き起こされる寄生虫病

フィラリア症とは、線虫類のうち、糸のように細く白い種類のフィラリア(糸状虫)が寄生して、引き起こされる寄生虫病。糸状虫症とも呼ばれます。

かつては西日本を中心に日本国内でも発生した疾患で、今でもアフリカ大陸、アラビア半島南部、インド、東南アジアや東アジアの沿岸域、オセアニア、中南米と世界の熱帯、亜熱帯を中心に、フィラリア症の流行地が広がっています。推定感染人口は9000万人。

フィラリアの成虫が人のリンパ節、リンパ管に寄生し、人体内で生まれた幼虫(ミクロフィラリア)がアカイエカなどの蚊に吸われ、その蚊が吸血する時に他の人の体に入ります。人にはバンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫などが感染し、今日の日本では、犬に感染する犬糸状虫がよく知られています。ごくまれには、犬糸状虫が人に感染することもあります。

しばらくは無症状ですが、感染後9カ月ほどで発熱、リンパ管炎、リンパ節炎などの反応性炎症が現れ、数週、数カ月ごとに反応性炎症が繰り返されるようになります。その後、通常は数年を要して、四肢、生殖器、乳房にリンパ管の閉塞(へいそく)が起こると、下肢の皮膚が硬く肥厚する象皮(ぞうひ)病、陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)、乳白色を呈する乳糜(にゅうび)尿などが現れます。

フィラリア症の検査と診断と治療

フィラリア症の流行地から一時帰国時、あるいは帰国後の健康診断で、著しい好酸球増多が認められる場合、本症を疑い医療機関を受診し、検査を受ける必要があります。

医師による診断では、症状とともに、夜間の血液中の幼虫(ミクロフィラリア)の検出が重要です。昼間は肺の毛細血管に潜んでいる幼虫が、夜10時ごろになると末梢(まっしょう)血管に現れる定期出現性を有しているためです。

治療では、スパトニン(成分はクエン酸ジエチルカルバマジン)、ストロメクトール(成分はイベルメクチン)などの駆虫剤の投与が行われます。感染の副産物としての心不全などに対処するために、血管拡張剤や血圧降下剤が投与されることもあります。感染早期なら薬物治療が有効なものの、象皮病などの症状が出現した時点では無効。

心臓などに寄生された場合は、外科手術でフィラリアの成虫を物理的に取り除く方法がとられることもあります。

🇲🇲封入体結膜炎

性行為によって、微生物のクラミジア・トラコマーティスが目に感染し、引き起こされる結膜炎

封入体結膜炎とは、性行為によって、細菌よりも微細なクラミジア・トラコマーティスという微生物が目に感染し、引き起こされる結膜炎。クラミジア結膜炎とも呼ばれます。

封入体結膜炎という疾患名は、まぶたの裏側から眼球につながる結膜の上皮細胞内に寄生し、増殖するクラミジア・トラコマーティスの塊が「封入体」と呼ばれることに、由来しています。

同じクラミジア・トラコマーティスによって引き起こされる結膜炎にトラコーマがありますが、こちらはクラミジア・トラコマーティス血清型A、B、Ba、Cによって起こり、年齢的には10歳未満の小児や子供に多くみられます。

封入体結膜炎は、クラミジア・トラコマーティス血清型D、E、F、G、H、I、J、Kによって起こり、成人に多くみられます。同じクラミジア・トラコマーティス血清型D〜Kは、性行為により性器に感染して性器クラミジア感染症も引き起こします。

>封入体結膜炎はほとんどの場合、性器にクラミジア・トラコマーティス血清型D〜Kの感染を持っている人との性行為の後、発症します。まれに、汚染されたプールの水から伝染し、発症することもあります。また、新生児が母親から産道感染して、発症することもあります。

2〜19日の潜伏期の後、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆う結膜の急性の炎症として、まぶたがはれ、まぶたの裏側の眼瞼(がんけん)結膜が充血してむくみ、膿性(のうせい)の目やにが出ます。

かゆみやヒリヒリした痛みが生じ、涙が多く出ます。下のまぶたの眼瞼結膜には、多数の小さなぶつぶつ(ろ胞)が現れます。明るい光に対して過敏になり、まぶしく感じます。

眼球の黒目の前面を覆う透明な膜である角膜の上皮下に、点状混濁ができることもあります。小さなぶつぶつが大きくなり、血管が徐々に発達して結膜から角膜の上にまで侵入する新血管形成が現れることもあります。

目やにが出ると、特に朝、目が開けにくくなります。視界もぼやけますが、目やにを洗い流すと元のように見えます。角膜にまで感染が広がった場合、視界のぼやけは目を洗っても解消しません。

非常にまれですが、重度の感染により結膜に瘢痕(はんこん、ひきつれ)ができて荒れた粘膜となると、涙液の層に異常が生じることがあり、長期間に渡って視力が障害されます。

通常、初めは片目だけに症状が現れることが多いものの、放置しておくと両目ともに症状が現れることもあります。

目の症状のほか、多くの場合、感染した目と同じ側の耳の前のリンパ節がはれ、痛みを伴います。通常、このような症状が1~3週間続きます。

出生時に、母親の産道を通る際に感染した新生児では、生後1週間前後で発症し、まぶたのはれ、充血、膿性の目やになどが起こります。しばしば、偽膜という分泌物の塊が結膜にできます。

中耳炎や肺炎を合併することもあります。性器クラミジア感染症にかかり、十分な治療をしていない母親の場合、出産時に産道のクラミジア・トラコマーティスが新生児の結膜のほか、のど、肺などにも付着するためです。

なお、新生児の封入体結膜炎では、眼瞼結膜に多数の小さなぶつぶつが現れる、ろ胞性結膜炎とはなりません。

封入体結膜炎に気付いた、早めに眼科の専門医の診察を受けることが勧められます。

封入体結膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、症状の視診と目の検査を行います。目の検査では、目の表面を拡大して見るスリットランプという機器を用いて、詳細に調べます。スリットランプを使うと、結膜の炎症や、角膜、目の前方部分に当たる前房への感染の様子を観察できます。

また、点眼麻酔後、結膜表面から綿棒で擦過して得られた上皮細胞サンプルを顕微鏡で調べると、封入体と呼ばれる増殖するクラミジア・トラコマーティスの塊が見付かります。血液検査でクラミジア・トラコマーティス抗原のタイプを調べると、より綿密な治療方針を決めることができます。上皮細胞サンプルからクラミジア・トラコマーティスを培養する方法もありますが、時間がかかります。

性行為の相手に、性器クラミジア感染症があるかないかの情報も重要です。最近では特に、不特定多数との性行為と封入体結膜炎の関係が注目されているところです。新生児の発症では、母親の性器に性器クラミジア感染症があります。

眼科の医師による治療では、クラミジア・トラコマーティスに有効な、エリスロマイシンやアジスロマイシンなどのマクロライド系、ドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系の抗生物質(抗生剤、抗菌剤)の点眼剤や、眼軟こうが用いられます。

点眼剤は涙で洗い流されてしまうので、2~3時間ごとに点眼します。軟こうは長くとどまるので、6時間ごとの使用ですみますが、ものがぼやけて見えるという難点があります。

重篤な場合や性器クラミジア感染症があれば、抗生物質の内服も一緒に行います。点眼剤と内服薬が同時に処方される理由は、新生児の場合、のどや肺にも感染が起きていることが多いからです。大人の場合は、性器から感染し、女性では子宮の入り口に当たる子宮頸管(けいかん)、尿道などでクラミジア・トラコマーティスが増殖しているからです。

治療の原則は、抗生物質の眼軟こうを8週、抗生物質の内服薬を3週ほど続けることです。新生児の場合、2カ月ほど毎日点眼することが原則で、かなり根気が必要です。病原体のクラミジア・トラコマーティスそのものを除去し、完治するには少し時間がかかり、数週間から数か月ぐらい薬が必要となります。

封入体結膜炎にかかったら、まぶたを水道水ときれいな布でやさしく洗って、目やにのない清潔な状態に保ちます。冷湿布をすると目のかゆみや痛みが和らぐことがあります。感染力が強いので、目を洗ったり薬を塗った後には、手をよく洗う必要があります。

さらに、感染している目に触れた後で、感染していない目に触れないように気を付けます。感染している目をふいたタオルや布は、ほかのタオル類と別にしておかなくてはいけません。

封入体結膜炎にかかった場合は、風邪を引いた時と同じように学校や仕事を数日間休むようにします。疾患を完全に治し、感染を防ぐために、性交渉のパートナーの検査、治療も必要です。

🇨🇳ヒスタミン食中毒

魚肉中に含まれるヒスタミンによって引き起こされる食中毒

ヒスタミン食中毒とは、魚肉中に含まれるヒスタミンによって引き起こされる食中毒。アレルギー様食中毒の1つです。

不適切な温度管理や長期に渡る保存などにより鮮度の落ちた魚肉中では、もともと多量に含まれているヒスチジンというアミノ酸に、ヒスタミン生成菌(ヒスチジン脱炭酸酵素を有する菌)が付着することで、ヒスチジンが分解されてヒスタミンに変化し、多量に蓄積されています。ヒスタミンは熱に強く、通常の加熱では分解されないために、摂食によりヒスタミン食中毒を発症します。

魚肉に付着しているヒスタミン生成菌は、大きく2種類に分けられます。1つは腸内細菌科の細菌で、その中で最も有名なのはモルガン菌。この菌は室温で増殖し、低温では増殖しにくい性質を持っています。もう1つはビブリオ科に属する細菌で、この菌は海で生息しているため漁獲前に魚に付着している可能性が高く、低温でも増殖するので冷蔵保存の際も注意が必要です。

ヒスタミン食中毒は毎年、全国で10数例が報告されています。

原因食品としては、マグロ、カツオ、サバ、サンマ、アジ、イワシ、ブリ、シイラ、カジキなどの赤身魚や、その加工品である照り焼き、蒲焼、ムニエル、フライ、干物、すり身などが挙げられます。サバでは温度5℃5日間の保存で、腐敗臭を感じない状態でも、ヒスタミン量が中毒の最小値を超えている場合もあります。

摂食直後から60分くらいで、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢などのほかに、顔面の紅潮、頭痛、発疹(はっしん)、発熱などの症状が現れます。症状は多くの場合、1日以内の短時間で回復しますが、重症の場合は呼吸困難や意識不明になることもあります。

ヒスタミン食中毒の検査と診断と治療

ヒスタミン食中毒の症状が現れたら、可能であれば、できるだけ早く胃の中の毒性物質を除去します。ほとんどの場合は、嘔吐で胃の中の毒性物質を吐き出せます。最初に吐いた嘔吐物を少量取っておくと、後で医師が検査をする場合に役立ちます。

続いて、大量の水分を摂取するようにします。大量の水分を口から摂取するのが難しい場合は、救急外来を受診して点滴による水分の補給を受ける必要があります。ほとんどの場合は、水分と電解質の補給のみで迅速に、そして完全に回復します。

胃の内容物が十分吐き出せず、症状が重い場合は、抗ヒスタミン剤の投与が行われ、細い管を鼻や口から胃に通して胃の内容物を除去する処置も行われます。毒素を腸から早く排出させるため、下剤を使用することもあります。

予防法としては、以下のものが挙げられます。ヒスタミンは白身魚より赤身魚から高率に検出されるので、特に赤身魚の生魚は鮮度のよいものを購入、喫食する。生魚は室温で放置せず、冷蔵または冷凍で保存する。生魚は冷凍と解凍を繰り返さない。古くなった生魚は、火を通しても食べない。

2022/08/18

🇦🇿非定型抗酸菌症

慢性的に経過しながら、確実に肺をむしばんでいく疾患

非定型抗酸菌症とは、結核菌と、らい菌以外の抗酸菌で、通常、非定型抗酸菌と呼ばれるものが起こす疾患。非結核性抗酸菌症とも呼ばれます。

抗酸菌は酸に対して強い抵抗力を示す菌であり、非定型抗酸菌にはたくさんの種類があって、水や土など広く自然界に存在しています。人間に病原性があるとされているものだけでも10種類以上。日本で最も多いのは、MAC菌(マイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ)で、約75パーセントを占めます。次いで、マイコバクテリウム・キャンサシーが約15パーセント、その他が約10パーセントを占めています。

人間への感染経路は明らかではありませんが、同じ抗酸菌である結核菌よりもかなり病原性の低い菌であり、健康な人ではほとんど発症しません。発症した場合も、人間から人間へは感染しません。

全身どこにでも病変を作る可能性はあるものの、結核と同様、ほとんどは肺の疾患です。発症様式には、もともと健康であった肺に感染する一次型と、結核後遺症や気管支拡張症などによって傷んだ肺に感染する二次型とがあります。高齢者は、特に二次型に注意が必要。

症状に際立った特徴はなく、せき、たん、軽い発熱、倦怠(けんたい)感などがあります。自覚症状が全くなく、胸部検診や結核の経過観察中などに偶然見付かる場合もあります。

発症するとその多くは治療が容易ではなく、慢性的に経過しながら少しずつ肺をむしばんでいくのが特徴です。進行した場合は、呼吸困難、喀血(かっけつ)、食欲不振、やせ、発熱などが現れます。肺結核と症状が似ているため、間違えられることもあります。

肺結核の減少とは逆に発症者が増えてきており、確実に有効な薬がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。また、HIV感染者への感染するエイズ合併症が問題になっています。

非定型抗酸菌症の検査と診断と治療

非定型(非結核性)抗酸菌症に気付いたら、結核に理解のある呼吸器科、あるいは結核療養所を受診します。

医師による診断では、喀たんなどの検体から非定型抗酸菌を見付けることにより確定されます。ただし、非定型抗酸菌は水や土など広く自然界に存在しており、たまたま喀たんから排出されることもあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床症状、レントゲン写真の陰影の変化と一致することが必要です。

非定型抗酸菌症と鑑別すべき疾患には、結核のほか、肺の真菌症、肺炎、肺がんなどがあります。

非定型抗酸菌の多くは抗結核剤に対して耐性を示しますが、治療に際しては、菌によって効果があるため、まずは抗結核剤をいくつか併用します。最も一般的なのはクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシンの4剤を同時に使用する方法。

確実に有効な薬がないため、薬は結核の時よりはるかに長期間服用する必要があります。 場合によっては、肺切除などの外科療法が行われます。

🇬🇪肺炎

肺炎の分類

肺炎とは、主に細菌やウイルスなどの病原体が肺に入り、酸素と炭酸ガスの交換を行う肺胞や肺間質など、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患をいいます。

一口に肺炎といっても、そのタイプはさまざまです。罹患(りかん)場所によっては、ふだん健康な人がかかるものを市中肺炎、重症の病気で入院している人がかかるものを院内肺炎に分類します。炎症の範囲によっては、肺胞性肺炎、大葉性肺炎、気管支肺炎、 間質性肺炎に分類します。

呼吸の際に吸い込んだ感染源の種類によっては、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、心筋性肺炎などの感染性の肺炎と、薬剤性肺炎、アレルギー性肺炎などの非感染性の肺炎に分類します。

感染性の肺炎の場合、たとえば風邪やインフルエンザにかかって気管支の粘膜に炎症が起きたため、ふだんなら痰(たん)と共に出ていくような菌が残り、この菌によって起こされた炎症が肺胞まで達すると、細菌性肺炎を起こします。

特に高齢者の場合には、免疫力が落ちているため、ちょっとした風邪から肺炎を起すことが少なくありません。また、糖尿病、心臓病、脳血管障害、腎臓(じんぞう)病、肝臓病などの慢性疾患のある人も、免疫力が低下しているため要注意です。

片や、非感染性の肺炎は、たとえばエアコンのカビや加湿器の水に繁殖した真菌など、アレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)が肺胞に入って反応し、アレルギー性肺炎を起こします。

また、細菌性肺炎と非細菌性肺炎に分類します。 細菌性肺炎は一般細菌の感染によって起こる肺炎で、実に多種類の細菌が関与します。普通はまず、ウイルス感染が起きて、気道粘膜が障害を受けたのに乗じた形で、細菌による二次感染が起きるという過程をとります。

非細菌性肺炎はさらに、インフルエンザウイルスなどによるウイルス性肺炎、微生物によるマイコプラズマ肺炎、同じく微生物によるクラミジア肺炎(オウム病)などに分類します。

肺炎の症状を細菌性肺炎を例にとって説明しますと、初めは喉(のど)の痛みや鼻水、鼻詰まり、咳(せき)、頭痛、悪寒といった風邪の症状から始まります。やがて高熱が続き、咳、痰、呼吸困難や胸の痛み、顔面紅潮、唇や爪(つめ)が青黒くなるチアノーゼなどの症状が現れます。

しかし、老人では重症の場合でも、あまり激しい症状が出ないことも少なくなく、気が付いた時にはかなり悪化していることもあります。

細菌性肺炎

細菌性肺炎の代表的なもので、市中肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌によるものです。人間の右肺は上中下3つ、左肺は上下2つの大きな袋である肺葉に分かれていますが、この肺葉全体を侵す大葉性肺炎を起こすことで、肺炎球菌はかつては有名でした。抗生物質の発達した現在では、大葉性肺炎は珍しくなり、気管支肺炎にとどまるもののほうが多くなりました。

黄色ブドウ球菌も、肺炎を起こします。この菌のうち、ほとんどすべての抗生物質に耐性を示す耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が近年、院内肺炎の原因となり、大きな問題となっています。

インフルエンザ杆菌(かんきん)も、肺炎を起こします。この菌の場合には、慢性の呼吸器病を持っている人に、繰り返し急性の気道感染を起こすのが、問題となっています。

同じように、緑膿菌(りょくのうきん)という厄介で、院内肺炎の原因となる菌があり、気管支拡張症、びまん性汎細(はんさい)気管支炎などの病気を持つ人の気道に住み付いて、治療をしてもなかなか取り除くことができません。

レジオネラ菌も、肺炎を起こします。1976年にアメリカで集団発生したことにより発見された菌で、建物の屋上などに設置されている冷却塔であるクーリングタワー、エアコンディショナーなど、空調設備や給湯系を介した感染や、土壌、河川などの自然環境からの感染が知られるところ。日本での特徴としては、温泉、特に消毒が不十分な沸かし湯を用いた風呂(ふろ)での感染が多いことです。

非細菌性肺炎

ウイルス性肺炎の中では、インフルエンザウイルスによる肺炎が最も重要です。高齢者や慢性の呼吸器病を抱える人では重症化しやすく、また細菌感染によって細菌性肺炎に移行しやすいためです。

風邪を起こすRSウイルス、はしかを起こす麻疹(ましん)ウイルスなども、肺炎を起こすことがあります。インフルエンザウイルス以外に、これらのウイルスに直接効く抗ウイルス薬は現在のところありませんので、細菌の二次感染に注意しつつ、対症療法が行われます。

ウイルスと細菌の中間のような微生物であるマイコプラズマも、頑固な咳を特徴とする肺炎を起こします。学童期や若年の成人に多く、乳幼児や高齢者に少ないというのも、マイコプラズマ肺炎の特徴の一つです。このマイコプラズマには、普通の細菌に有効なペニシリン系、セフェム系の呼吸器感染症で最も頻繁に使われている抗生物質が効きません。代わりに、テトラサイクリン系、マクロライド系、ケトライド系と呼ばれ抗生物質が、第一選択薬とされます。

ウイルスに近い微生物であるクラミジアも、クラミジア肺炎(オウム病)を起こします。病原体のクラミジアは、オウム、セキセイインコ、ハトなどに寄生して分裂、増殖します。感染、発病した鳥の排泄(はいせつ)物などから、空気中に飛散した病原体を吸入することによって、人間は発症します。病鳥に接してから1~2週間後に、風邪と同じ症状と共に激しい咳が出ます。重症の場合には、呼吸困難、意識障害も出現します。治療には、テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生物質が用いられます。

以上、いろいろのタイプを紹介してきた肺炎は、かつては非常に怖い病気の一つでしたが、現在は胸部X線検査の進歩で早期に診断できるようになり、ペニシリン系、セフェム系などの抗生物質の開発で、完治しやすくなりました。

しかしながら、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者、体の衰弱した病気の人などの肺炎による死亡率は依然として高く、油断できない病気だといえます。

日常生活においては、風邪を引かないように注意する、 うがいや歯磨きでいつも口の中を清潔にする、 自分のアレルゲンを知り予防対策をとる、室内の換気をよくし空気を清潔に保つ、禁煙するなどの予防対策を施したいものです。

🇨🇿肺吸虫症

肺吸虫の寄生によって引き起こされる寄生虫病

肺吸虫症とは、肺吸虫の幼虫が人体に入って肺やその周辺に寄生するために、引き起こされる寄生虫病。

この肺吸虫症の主な流行地域は極東で、日本、朝鮮半島、台湾、中国の山岳地帯、およびフィリピンで発生しています。また、アフリカ西部、中南米の一部にも流行地域があります。

肺吸虫は30種ほどが確認されていますが、日本ではウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種がよく知られていて、主にウエステルマン肺吸虫は淡水産のモクズガニ、宮崎肺吸虫は淡水産のサワガニを生や加熱調理不完全の状態で食べて、その幼虫が感染します。また、肺吸虫の幼虫が寄生した野生のイノシシ肉を生で食べて感染することもあります。

肺吸虫の幼虫は、人の腸壁を突き破って腹膜へ侵入し、横隔膜を経て胸膜腔(くう)へ移行、さらに肺組織へ侵入して雌雄同体の成虫となります。幼虫は、脳、肝臓、リンパ節、皮膚、脊髄(せきずい)で、成虫に発育することもあります。成虫は、体長1センチ前後のレモン型をしていて、20〜25年間生存することができます。

肺に寄生した場合の主な症状は、せきと血たん。胸の痛み、発熱、全身の倦怠(けんたい)感、胸に水がたまる自然気胸、胸膜炎、膿胸(のうきょう)などを起こすこともあります。

脳に寄生した場合には、てんかん発作や半身まひ、視覚障害など脳腫瘍(しゅよう)に似た症状を起こし、重症になります。アレルギー性皮膚反応を起こすこともあります。

肺吸虫症の検査と診断と治療

血たんが出たら、肺吸虫症の可能性と同時に結核の可能性もあるため、医療機関を受診します。

肺吸虫症は、胸部X線検査で肺の影として映り、結核や肺がんと間違われることがありますが、たんや便の中から虫卵を検出することで診断します。時には、胸水や腹水の中から虫卵を検出することもあります。また、肺吸虫症では白血球の一種の好酸球が増加することが多く、胸部X線検査で異常があり、好酸球が増えていたら肺吸虫症を疑います。肺に病変があるのに虫卵が見付からない場合や、肺以外の場所に寄生している場合には、血清検査で診断します。

治療では、プラジカンテル、ビチオノールなどの駆虫剤の内服が行われます。胸水がたまっている場合には、胸水を抜いてから治療します。アレルギー性皮膚病変、まれに脳内に形成されたシストという、休眠状態に近い多数の肺吸虫が被っている厚い膜を切除するために、手術が行われることもあります。

予防としては、モクズガニやサワガニ、イノシシ肉などを生や加熱調理不完全の状態で食べないようにします。同時に、それらを調理した包丁やまな板はよく洗うようにします。

🇨🇿敗血症

血液中に細菌が入り込み、全身症状を引き起こす

敗血症とは、肺炎や腹膜炎など生体のある部分に感染を起こしている場所から、血液中に細菌が流れ込み、重篤な全身症状を引き起こす症候群。現在のように抗菌薬が発展する前までは、致命的な病態でした。

もともとの背景として、悪性疾患、血液疾患、糖尿病、肝疾患、腎(じん)疾患、膠原(こうげん)病などがある場合、あるいは未熟児、高齢者、手術後といった状態の場合が多いとされています。抗がん薬投与や放射線治療を受けて白血球数が低下している人や、副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬を投与されて感染に対する防御能が低下している人も、敗血症を起こしやすいので注意が必要です。

血液中に細菌が流れ込む原因としては、肺炎や肺膿瘍(のうよう)などの呼吸器感染症や腹膜炎のほか、腎盂(じんう)腎炎に代表される尿路感染症、胆嚢(たんのう)炎、胆管炎、褥瘡(じょくそう)感染などがあります。また、血管内カテーテルを留置している場所の汚染から体内に細菌が侵入する、カテーテル関連敗血症も、近年増加しています。

全身の炎症を反映した発熱、倦怠(けんたい)感、認識力の低下が主要な症状ですが、重症の場合には低体温になることもあります。心拍数や呼吸数の増加もみられ、白血球の数も増えます。治療せずにほうっておくと、低血圧、意識障害を来し、敗血症性ショック、血管内凝固症候群(DIC)などになる場合もあります。

また、重要臓器が傷害されると呼吸不全、腎不全、肝不全といった、いわゆる多臓器障害症候群(MODS)を併発することもあります。原因菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされ、血液の代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常を来します。

欧米では全身性炎症反応症候群(SIRS)という概念が提唱され、敗血症は感染が引き金となったSIRSと定義されています。なお、傷口などから細菌が血液中に侵入しただけの状態は菌血症と呼ばれ、敗血症と区別されます。菌血症は症状が現れないことが多く、生命にかかわることもありませんが、菌血症の状態から細菌が急に増え出し、循環器系を通って体中に毒素をまき散らすと敗血症が起こります。

敗血症の検査と診断と治療

検査では、血液中に白血球数や、蛋白(たんぱく)質の一種であるC−リアクディブ・プロテイン(CRP)などの一般的な炎症反応の増加が認められます。白血球数は逆に低下することもあります。そのほか、傷害を受けた臓器によって、肝機能障害や腎機能障害も認められます。血液の凝固能が低下している場合もあり、この時は血管内凝固症候群(DIC)を併発していると考えられます。発熱時の連続した血液培養による原因菌の検索も、重要です。

細菌感染に対しては、強力な抗菌薬による化学療法とともに、さまざまな支持療法が不可欠です。化学療法は旧来より、Βラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の併剤療法が主流。支持療法では、昇圧剤、補液、酸素投与などのほか、呼吸不全、腎不全、肝不全に対しては、人工呼吸管理、持続的血液濾過(ろか)透析や血漿(けっしょう)交換などが必要になる場合もあります。

血管内凝固症候群(DIC)を併発した場合には、蛋白分解酵素阻害薬や、抗凝固薬の一つであるヘパリンを使用します。短期間ですが、副腎皮質ホルモン薬が併用されることもあります。近年では、グラム陰性菌による敗血症において重要な役割を担う内毒素(エンドトキシン)を吸着する方法など、新しい治療法が試みられています。

敗血症は近年の抗菌薬による化学療法の進歩によって治療成績が改善しましたが、治療が遅れたり合併症の具合によっては、致命的となる重篤な疾患であることに変わりありません。早期の診断と適切な抗菌薬の使用、各種合併症に対する支持療法が重要です。

🇷🇴肺真菌症

肺の中に真菌が増殖し、せき、たんがみられる疾患

肺真菌症とは、肺の中に真菌(かび)類が感染して起こる疾患。肺炎に似た症状が強く現れます。

真菌には、健康な人の体内に常にいるものや、外部から体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。健康である限り、それらが肺の中に感染することはありませんが、白血病や臓器移植後などによる体や気道の抵抗力の低下、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の長期間の服用などを切っ掛けに、肺の中で増殖し、感染症を引き起こします。

原因となる真菌の種類によって、肺真菌症にはいろいろなタイプがあります。日本に多いのは、アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムコール症、カンジダ症など。ほかに放射菌症、ノアルジア症、分芽(ぶんが)菌症、ヒストプラスマ症、コクシジオイテス症などがありますが、日本での感染例はまれです。

アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムーコル症では、気道を通して吸引された胞子が肺に定着、増殖することにより感染します。これらを外因性の肺真菌症といいます。

対してカンジダは、口腔(こうくう)、消化管、陰部などに常在する真菌であり、口腔内に増殖したカンジダの誤嚥(ごえん)に起因したり、敗血症の一分症として肺のカンジダ症が発症する場合があります。これらを内因性の肺真菌症といいます。

アスペルギルス症は、アスペルギルス・フミガツスという体外の真菌が原因となり、肺真菌症の中でも最も重要な疾患の一つ。この真菌は有毒な胞子を持っていて、ぜんそく患者は過敏に反応して、アレルギー性の肺炎を引き起こすことがあります。また、肺膿瘍(のうよう)、肺結核、気管支拡張症などの後にできた肺の空洞に入り込み、真菌の塊を作ることもあり、これが崩れると褐色の塊となって、たんととも出てきます。

 クリプトコックス症は、ハトの糞(ふん)などにいるクリプトコックスという真菌を吸い込むことが原因となって、発症します。時に健康な人にもみられる肺真菌症で、必ずしも抵抗力、免疫力の低下と関係しているとは限りません。

ムコール症は、ケカビ目の真菌を吸いこむことが原因となって、発症します。肺のほか、鼻と脳を侵し、まれに皮膚や消化管も侵します。重度の感染症で、場合によっては死に至り、コントロール不良な糖尿病患者など、免疫機能が低下している人に起こります。

肺真菌症の症状としては、せき、たん、血たん、発熱、胸の痛みなどがみられますが、肺真菌症にはいろいろなタイプがあるため、これらの症状が現れないこともあります。アスペルギルス症やムーコル症では、血たんや喀血(かっけつ)、呼吸困難を生じることもあります。

肺真菌症の検査と診断と治療

肺真菌症の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。肺真菌症は一般に、早期に診断されない場合は急速に病状が進行しますので、注意が必要です。

医師による診断に際しては、胸部X線検査やCT検査が行われ、たんなどから原因となる真菌を調べます。血液検査で、真菌に対する抗体があるかを調べることもあります。

治療に際しては、一般に抗真菌剤が用いられます。クリプトコッカス症やカンジダ症には、フルコナゾール、イトラコナゾールフルシトシンを始めとするアゾール系抗真菌剤が第一選択となります。

ムーコル症に対しては、一般にアムホテリシンBを静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。また、薬で真菌の活動を抑えた後、感染組織を外科手術で取り除くこともあります。糖尿病の場合には、血糖値を正常範囲まで下げる治療を行います。

肺真菌症は普通の肺炎よりも治りにくく、治療にも時間がかかります。治療中は安静にして、栄養を十分に取ることが大切になります。

🇲🇻はしか

はしかは麻疹(ましん)ともいい、麻疹ウイルスによって引き起こされる小児期に多い急性の感染症として知られていますが、近年は、10代、20代の若年者での感染が多く見られ、社会的にも関心を集めています。

麻疹ウイルスの感染経路は、空気感染、飛沫(ひまつ)感染、接触感染で、その感染力はきわめて強く、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100パーセント発症します。一度感染して発症すると、一生免疫が持続するといわれています。

毎年、春から初夏にかけて流行が見られ、感染してから約10日後に発熱や、せき、鼻水といった風邪のような症状が現れて、2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と赤い発疹が出現します。肺炎、中耳炎を合併しやすく、患者1000人に1人の割合で脳炎が発症すると見なされています。

かつては小児のうちに、はしかに感染し、自然に免疫を獲得するのが通常でした。近年は2001年にあった以降、大きな流行がないことから、成人になるまで発症したことがない場合や、小児の時に予防接種をしたという場合でも、大人になって感染する例が目立ってきました。

ワクチンの予防接種が、有効です。また、はしかの患者に接触した場合、72時間以内にワクチンの予防接種をすることも、効果的です。接触後5、6日以内であれば、γ-グロブリンの注射で発症を抑えられる可能性がありますが、安易にとれる方法ではありません。詳しくは、医師とご相談ください。

🇱🇰破傷風

破傷風菌が傷口などから入って感染し、筋肉のけいれんを起こす疾患

破傷風とは、破傷風菌が傷口などから入って感染し、菌が作り出す毒素が神経を侵し、強い筋肉のけいれんを起こす疾患。

この破傷風菌は芽胞という硬い膜を有する細菌で、芽胞は乾燥状態では十数年生存可能で、抵抗力の強い性質を有します。酸素のない状態を好む嫌気性菌であり、地表から数センチ付近の世界中の土壌に広く分布しているので、砂粒や泥のついた古くぎ、木片などによる傷から侵入してきます。皮下などの組織で増殖して、放出する毒素は、人の神経の一部に接合して神経の興奮を持続的に引き起こすため、全身や顔面の筋肉のけいれんを引き起こします。

一般的には傷口から感染しますが、まれに出産時の不適切な臍帯(さいたい)処理により感染し、新生児破傷風あるいは妊婦の産褥(さんじょく)性破傷風として発症するケースや、消化管などの手術時に感染するケースもあります。

傷口から感染する破傷風は、特にアフリカ、東南アジア、中南米などの途上国で、不適切な傷の手当や予防ワクチンの不足などが原因となって、多くの発症者が出ています。日本では、1953年から破傷風トキソイドワクチンの任意接種が開始され、現在では三種混合ワクチン(ジフテリア、百日ぜき、破傷風)と二種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風)の定期接種が実施されていますので、1950年ころは年間数千人いた発症者は年間50〜100人程度にまで減少しています。

現在の発症者は、予防接種を受けている若年層では少なく、予防接種を受けていない人や、予防接種による免疫が消失した高齢者で多くなっています。前回の接種から10年以上経過している人には、1回の追加接種が勧められます。

潜伏期間は3日〜3週間で、通常10日前後で発症します。一般に頭部、顔面の傷で起こる場合は、下肢の傷に比べて潜伏期が短い傾向があります。

症状は頭痛、全身倦怠(けんたい)感で始まり、やがて口が開けにくい、首筋が張る、寝汗をかくなどの症状が現れます。次いで口が開かなくなり、手足にもこの硬直感が広がります。そして顔面の筋肉がけいれんして、泣き笑いのような表情である痙笑(けいしょう)を示します。

けいれんが首や背中の筋肉に及ぶと、体が後ろへ弓なりに曲がる後弓反張(こうきゅうはんちょう)を起こします。筋肉のけいれんはわずかな刺激によって誘発され、頻回に起こると心臓が衰弱します。また、呼吸筋のけいれんが起こると、呼吸ができなくなって危険です。

発症後の治療は難しく、死亡率は一般に30パーセント以上で、高齢者ほど重くなります。また、一般的に感染から発症までの時間が短いほど、開口障害から全身けいれんまでの時間が短いほど、高い死亡率を示します。

破傷風の検査と診断と治療

破傷風は治療が遅れると全身けいれんを引き起こし死に至る感染症ですので、すぐに病院の救急部門、あるいは外科、内科を受診します。全身的な筋肉のけいれんが認められる場合は、救急車を呼びます。開口障害や痙笑の症状から、歯科や耳鼻科を受診するケースが多く、顎(がく)関節症などと誤診されることもありますので、注意が必要です。

診断は症状からつけられるもので、傷口からの破傷風菌の検出によるものは30パーセントにすぎません。

治療では、速やかに破傷風ヒト免疫グロブリン(抗毒素血清)を注射して毒素を中和し、ペニシリンを注射して残っている破傷風菌を減らします。さらに、傷口の消毒、壊死(えし)組織の切除、砂粒や金属片などの異物の除去、気道確保、抗けいれん剤の投与を行います。呼吸筋のけいれんにより呼吸ができない場合は、静かで暗い病室に入れて酸素吸入をします。なるべく強化看護病棟(ICU)での呼吸、血圧の管理が望まれます。神経に結合した毒素の作用が低下すると、回復に向かいます。

予防、あるいは外傷に際しての破傷風予防には、破傷風トキソイドワクチンによる予防接種をしますが、外傷の場合は破傷風免疫グロブリンの投与も考慮されます。

発展途上国など海外の流行地に滞在する際には、けがをしないように心掛けます。裸足で川遊びなどをしたり、誤って物を踏んだ時に足に傷を負ったり、運動中や交通事故、動物にかまれてけがを負った時などに、感染が多くみられるからです。万一、けがをした場合は、まず水で傷口を洗い流し消毒します。次いで、破傷風菌は空気に触れない状態を好む嫌気性菌であり、傷口がふさがると増殖しますので、不用意に傷を閉じたりせずに、早めに医師に相談します。

発展途上国の不衛生な医療施設では、抜歯や出産、手術などの医療行為で感染することもあります。長期に滞在する場合は、安心できる医療機関を確認しておきます。

2022/08/17

🇱🇰鉤虫症(十二指腸虫症)

鉤虫が人体に寄生することで引き起こされる寄生虫病

鉤虫(こうちゅう)症とは、線虫類に属する鉤虫の幼虫が口や皮膚から人体に入り、成虫となって引き起こす寄生虫病。十二指腸虫症とも呼ばれます。

人間に寄生する鉤虫にはアメリカ鉤虫、ズビニ鉤虫などがあり、口に当たる部分に歯のような器官を持ち、これで小腸粘膜に食いついて血液、および体液を養分として摂取します。大きさは、体長1センチ前後のものがよくみられます。

今の日本では輸入感染症と考えてよく、国内で感染する例はほとんどありません。世界的にみれば、熱帯から亜熱帯の湿潤な地方には鉤虫が広く分布しているので、これらの地域の農村部に仕事や旅行で滞在する時には注意が必要です。

人体の小腸粘膜などにいる成虫から産卵された卵は、糞便(ふんべん)とともに外界に排出され、野菜類などの表面に幼虫として付着しています。ズビニ鉤虫では、野菜を食べることで口から体内に入り、アメリカ鉤虫では、土壌中にいる幼虫が皮膚から人体に移り、1〜2カ月で成熟して小腸上部に寄生します。小腸の一部である十二指腸への寄生は、あまり多くありません。

初期の症状は2〜3日の潜伏期間をへて、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、咽頭(いんとう)の異物感、ぜんそく様発作などが現れます。後期の症状は1〜2カ月の潜伏期間をへて、小腸粘膜から鉤虫に血液などを摂取されるために、鉄欠乏性の貧血、めまいなどが現れます。重症になると、動悸(どうき)、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、手足のむくみなどが現れ、まれに毛髪、土、炭など異常な物を食べる異味症が現れることもあります。

鉤虫の寄生数が少ない場合は、目立った症状が現れないこともあります。

鉤虫症の検査と診断と治療

南米やインド、アフリカ、中国などの流行地の農村にある程度の期間滞在したことがあり、帰国して1〜2カ月の間に動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状があるなら、この疾患も疑って医療機関を受診し、そのことを医師に伝えます。

医師による診断では、抗体検査も有効ですが、糞便の検査で虫卵を見付けることで確定します。

診断がついたら、駆虫剤のコンバントリン(成分はパモ酸ピランテル)を内服すれば治ります。鉄欠乏の程度がひどい時は、鉄剤も内服します。少数寄生では症状もなく、反復感染しなければ自然に治ります。

2022/08/16

🇹🇻フグ中毒

フグの臓器に含まれる毒素によって起こる食中毒

フグ中毒とは、海産魚のフグの臓器、ことに卵巣、肝臓に含まれる毒によって引き起こされる食中毒。他の食中毒に比べて、患者数のうちの死者数の割合を示す致死率が極めて高いのが特徴です。

日本ではここ10年間の統計上、年間33〜61人のフグ中毒患者と1〜6人の死亡者がみられます。その多くが、フグ調理の資格を持たない一般人がフグを調理した結果起きています。しかし、フグ中毒に対する知識が高まったため、発生件数は減少傾向を示しています。

地域的には、近畿、中国、九州などの西日本、特に兵庫、大阪、広島、山口、岡山、愛媛など瀬戸内海沿岸の府県で多発しているのが特徴で、神奈川県でやや多い程度で他の東日本ではまれです。季節的には、冷凍フグの流通のために年間を通して食べられるようになっているものの、フグは鍋(なべ)を中心とする冬の季節料理であるために、冬期に多発しています。

フグ毒はテトロドトキシンと呼ばれ、神経刺激の伝導を遮断する作用を持っており、熱に強く、アルカリに弱いという性質があります。テトロドトキシンは、フグの卵巣、肝臓、腸管などに多く含まれていますが、毒フグの種類によって含有量の多少があります。

日本で最もよく食用にされるフグはトラフグで、そのほかマフグ、ヒガンフグ、ショウサイフグなどもありますが、ショウサイフグ以外はいずれも有毒なフグ。

フグ中毒は、食後20〜30分、遅くても4時間くらいで発症します。吐き気、嘔吐(おうと)に続いて、唇、舌のしびれ感が起こり、上肢、下肢の知覚まひ、さらに運動まひ、発声困難、呼吸困難を起こします。血圧が低下し、意識が混濁し、重症例では4時間くらいで呼吸停止を起こし死亡します。

なお、フグを食べた時に口の中がピリピリとしびれたりしたら、フグ毒の作用と考えられので口中を洗うなどの応急処置をすることが大切です。

フグ中毒の検査と診断と治療

フグの毒に対して、解毒剤や血清など特異療法は開発されておらず、神経毒であるテトロドトキシンによる呼吸困難が収まるまで人工呼吸器をつなげることが唯一の治療法となります。テトロドトキシンの解毒、排泄(はいせつ)に要する時間は8〜9時間とされており、その間呼吸を保てば、大部分は救命できます。

とりあえずの救急処置としては、テトロドトキシンがアルカリに弱いことを利用して、アルカリ製剤である炭酸水素ナトリウム(重曹)で胃洗浄を行ったり、活性炭末などの吸着剤の投与や、下剤、利尿剤の投与をしたりします。輸液も行われますが、心臓への負担に注意しなければなりません。

治療で最も重要なことは呼吸の管理なので、高濃度の酸素を用いた気管内チューブによる人工呼吸や、呼吸中枢刺激剤も積極的に使用されます。そのほか、血圧を上げる昇圧剤や強心剤なども対症的に投与されます。

フグ中毒の予防法は、死亡事故のほとんが素人料理によって発生しているため、釣ったフグを自分で調理して食べるのをやめることに尽きます。フグには種類鑑別の難しさや毒カの季節による変動、個体差などがあり、食用にするためには専門的な知識と技術が必要です。一般に、テトロドトキシンの毒力は猛毒の青酸カリの約1000倍で、100℃30分以上の加熱でもほとんど分解しないので、煮たり焼いたりの調理ではなくなりません。

特に、卵巣、肝臓などの内臓は、フグの種類にかかわらず決して食べてはいけません。一般消費者に販売されているフグでは、保健所に届出をした施設で卵巣や肝臓などの有毒部位を除去する処理が行われています。フグを取り扱う営業をするには、フグ処理者の資格を持ち、営業施設ごとに保健所長への届出が必要となっています。

🇵🇾豚インフルエンザ

豚(ぶた)インフルエンザとは、豚インフルエンザA型ウイルスによって引き起こされる豚の急性呼吸器疾患。

豚インフルエンザA型ウイルスには、H1N1、H1N2、H3N1、H3N2などいくつかの亜型がありますが、ほとんどの場合はH1N1亜型です。

豚インフルエンザは、豚の間で定期的に流行し、通常は人には感染しません。感染した豚との濃厚接触による人への感染例が米国などで確認されていましたが、2009年4月、メキシコで豚インフルエンザA型ウイルスの人への集団感染が起こり、人から人への感染が認められました。

その後、世界各地で感染者が確認されたため、世界保健機関(WHO)は4月27日、インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)警戒レベルをフェーズ3(動物間、動物と人の間の一時的な感染)からフェーズ4(人と人の間の感染が地域レベルで続く)に引き上げました。これを受け、日本の厚生労働省は新型インフルエンザが発生したことを宣言しました。

さらに6月11日、WHOはフェーズ6(複数の地域にまたがる世界的な大流行)に引き上げ、パンデミックを宣言しました。

WHOが警戒レベルをフェーズ6からフェーズ5(人と人の間の感染がWHOが決める地域内の2カ国以上で続く)に引き下げたのは、2010年8月10日。パンデミック宣言から1年2カ月を経て、大流行の終息を宣言しました。

発生認定の2009年4月27日から2010年8月1日時点までに感染が確認されたのは214カ国・地域で、少なくとも1万8449人が死亡しました。日本では2010年6月末に、死者が200人に達しました。

🟧「酒のエナジードリンク割りは危険」、農水省が注意喚起 過去には中毒死も

 酒とエナジードリンクを一緒に飲むとカフェインの過剰摂取による健康被害につながりかねないとして、農林水産省が注意喚起しています。5月8日に問い合わせが相次いだことを受けての対応で、同省は直前に人気ユーチューバーが酒とエナジードリンクを一緒に飲む動画を投稿した影響とみています。 ...