2022/08/01

🇻🇺オウム病(クラミジア肺炎)

微生物のクラミジアを吸入して、肺に起こる感染症

オウム病とは、ウイルスに近いクラミジア・シッタシという微生物が原因となって生じる肺炎。クラミジア肺炎とも呼ばれます。

オウム病は本来、動物の疾患であり、人はクラミジア・シッタシに感染したオウムやインコなどの鳥類から感染する人畜共通の感染症の一つです。病原体がオウムから初めて分離されたことからオウム病と名付けられましたが、インコ、ハト、ニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、アヒルなどオウム以外のペット鳥、家禽(かきん)類、野鳥でもクラミジアに感染した鳥が確認されています。

クラミジアに感染している鳥は、糞便(ふんべん)中にクラミジアを排出します。乾燥した糞便が、ほこりや羽毛などとともに舞い上がり、人はそれを吸入することで感染します。感染している鳥に口移しで餌(えさ)を与えたり、鳥の羽根や排出物や鼻汁に直接触れたりなど、鳥との濃厚な接触で感染することもあります。

オウム病は小児よりは成人に、男性よりは女性に多くみられ、発症は5〜6月に多い傾向がみられます。地域的に流行することもあれば、散発的に発生することもあります。肺炎に占めるオウム病の頻度は、1〜2パーセント程度。

症状は軽度のインフルエンザ様から、多臓器障害を伴う劇症型まで極めて多彩です。 一般的には、感染後1〜2週間の潜伏期間を経て急激に発症します。頭痛や筋肉痛、関節痛を伴って、発熱、せき、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、血たんなどの症状が現れます。重症になると、肺臓を主体に、全身の臓器に病変が認められるようになります。特に、肝臓、脾臓(ひぞう)、心臓が炎症を起こし、さらに、脳神経に異常を来して意識障害が現れ、死亡するケースもあります。

オウム病の検査と診断と治療

鳥との接触歴があったり、鳥の飼育をしている人に発熱、せきが現れた場合はオウム病が疑われるので、内科、呼吸器内科、呼吸器科の専門医を受診します。ペット鳥、家禽類が死んでいる場合は、特に疑いが濃くなるので、そのことを受診先の医師に伝えます。

医師による診断では、原因菌に対する抗体の検出のほか、原因菌の分離、原因菌の遺伝子の検出が行われることもあります。

治療には、テトラサイクリン系の抗生物質、またはマクロライド系の抗生物質が用いられます。ニューキノロン系の抗生物質も有効ですが、セファム系の抗生物質は無効です。早期診断と早期治療で完治できます。

オウム病予防のためのワクチンは、開発されていないので、感染している鳥への接触には注意が必要です。鳥ではクラミジア菌を保有していても、外見上ほとんど健常にみえます。弱った時や、ヒナを育てる時期などでストレスが加わった時、他の感染症を合併した時などに、糞便中に菌を排出し、人への感染源になります。

鳥への過度の接触を避けること、鳥にストレスを与えないように飼育すること、鳥に触れたらよく手を洗うこと、かごや飼育舎の掃除をこまめに行うこと、素手で糞便に触れないことなどが、予防のために大切となります。

🇵🇦大田原症候群

新生児期から乳児早期に発症する難治性のてんかん

大田原症候群とは、新生児期から生後3カ月以前の乳児早期に発症する難治性のてんかん。早期乳児てんかん性脳症とも、EIEE(early infantile epileptic encephalopathy with suppression burst)とも呼ばれます。

生後4カ月から1歳ころに発症するウエスト症候群(点頭てんかん)、2歳~8歳に発症するレノックスガストー症候群とともに、年齢依存性てんかん性脳症に分類されます。それぞれのてんかんの好発年齢が乳幼児期にみられること、大田原症候群からウエスト症候群へ、さらにウエスト症候群からレノックスガストー症候群へと年齢とともに移行することが多いため、脳の発達過程とこれらのてんかんの発症が密接に関連しているものと考えられています。

てんかんは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患です。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、てんかんの特徴です。

大田原症候群の発症者は、10万人に1人以下とみられています。発症すると、強直発作を頻発します。強直発作は全身を強直させて、頭部を前屈し、両上肢を挙上させ、眼球が上転する数秒~30秒程度の発作で、発作の発見時には多くの場合、一過性に呼吸を止めて、唇や爪(つめ)が青紫色になるチアノーゼが見られます。覚醒(かくせい)時にも睡眠にも、発作は出現します。

脳波を調べると、覚醒時、睡眠時を問わず持続的に、サプレッションバーストという特徴的な脳波が認められます。サプレッションバーストは、振幅の小さい波の時(サプレッション)と、振幅の大きい波の時(バースト)とが交互に現れるものです。発作を起こしている時の脳波は、ほとんどが全般性脱同期を示します。

強直発作に伴って脳の働きが弱まり、知的障害や運動障害などを来します。

大田原症候群は、脳の低酸素や感染症、事故などよる脳損傷によっても生じますが、一部は脳で働くARX、およびSTXBP1という遺伝子の配列の異常によって生じます。ARXという遺伝子は、ガンマアミノ酪酸(GABA、ギャバ)と呼ばれる脳の興奮を抑える物質を含む神経細胞の発生に関係しています。

小児科、あるいは神経内科の医師による治療では、抗てんかん薬の内服のほか、ビタミンB6の内服、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)療法、甲状腺(こうじょうせん)刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の注射などが行われます。

しかしながら、大田原症候群の発作は難治で、多くは抗てんかん剤および副腎皮質刺激ホルモンに反応しません。薬剤が部分的に有効で発作が消退しても、重症の心身障害を残し予後は極めて不良で、早期死亡の例も少なくありません。

脳の前頭葉に焦点性皮質形成異常のある大田原症候群の場合には、外科治療が精神運動発達と発作コントロールの両方に有益な効果があります。

🇵🇦太田母斑

褐青色の色素斑が、まぶたから額、頬にかけてできる皮膚の疾患

太田母斑(おおたぼはん)とは、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

母斑は、皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態で、あざとも呼ばれ、皮膚から盛り上がることはありません。

太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮の上層に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

なお、同様の色素斑が肩から上腕に見られることがあり、これは伊藤母斑と呼ばれます。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古(もうこ)斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、色素斑の元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

🇵🇦太田母斑様色素斑

顔面に青みがかった茶褐色の色素斑がいくつかまとまって出現する皮膚疾患

太田母斑様色素斑(おおたぼはんようしきそはん)とは、顔面に青みがかった茶褐色の色素斑がいくつかまとまって出現する皮膚疾患。両側性遅発性太田母斑様色素斑、後天性真皮メラノサイトーシス、ADM(Acquired Dermal Melanocytosis)とも呼ばれます。

従来は、両側性太田母斑の亜型とされていましたが、現在は、独立疾患として扱うのが標準的になってきています。

幼少期よりできるそばかす(雀卵〔じゃくらん〕斑)と似ていることもありますが、顔に発生する後天性皮膚疾患の一つで、20〜30歳代から中年の女性に多く見られ、特に日本人や中国人に多いといわれています。

通常は表皮にあって、メラニン(メラニン色素)という皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)が、表皮に出ていけずに顔の皮膚の深い位置にある真皮にとどまって増殖しているために、色素斑が出現します。

遺伝性も高いとされるものの、加齢、日焼け、ホルモンバランスの崩れなどの影響が考えられています。

額の両端、頬骨(ほおぼね)部、鼻翼部などに、直径1〜3ミリのおよそ茶褐色の色素斑が、いくつかまとまって出現します。顔面の両側に左右対称に多発することもよくあります。

小さな点の集合であるために染みのようにも見えますが、実際はあざの一種として分類されます。

真皮に存在するメラノサイトの深さの程度により、茶褐色から灰色、さらに青色へと進行変化するため、色素斑の色はさまざまです。

太田母斑様色素斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。患部に、染みの一種である肝斑(かんぱん)や、老人性色素斑(日光性黒子)、そばかすなどが混在していると判別が難しいものの、多くは左右対称に出現することなどから判断します。色素斑をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮層に色素含有メラノサイトが認められます。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

Qスイッチレーザー治療は、レーザー光線を皮膚に当てるもので、皮膚の表面にはダメージを与えず、その下の真皮層にあるメラノサイトを選択的に焼灼(しょうしゃく)することができます。ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザー、フラクショナルレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。

いずれのQスイッチレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行い、2〜3カ月の間隔で、少なくとも3~5回の照射を行います。まれに軽い色素沈着を残したり、白色に変化する色素脱出を来すこともありますが、外用剤を使用すると、1・5〜3カ月程度でレーザーの跡が薄くなります。

色素斑の消失率はほぼ70パーセントとされ、消えた色素斑は再発しません。

液体窒素で色素斑の凍結、融解を繰り返す凍結治療や、外科的に切除し他の部位から皮膚を移植する方法もあります。

💅オーバーカーブドネイル

爪の甲が高度に弓なりに曲がり、両側縁に食い込んだ状態

オーバーカーブドネイルとは、爪(つめ)の甲の先端が両側縁に向かって深く湾曲して、側爪廓(そくそうかく)に巻き込み、爪の甲の周りを囲んでいる爪廓部を損傷する状態。巻き爪、過湾曲爪、ピンサーネイルとも呼ばれます。

側爪廓に食い込んでいるものは陥入爪、またはイングローンネイルといい、側爪廓に巻き込んでいて爪の両端が丸まっているオーバーカーブドネイルは、陥入爪の変形です。オーバーカーブドネイルと陥入爪は、合併して起きることもあります。

オーバーカーブドネイルは足の爪に起こることがほとんどで、まれには手の爪にもみられます。統計的に欧米人に多く、また3対1の割合で男性に多いとされていましたが、近年では、日本人の間にも老若男女を問わず急速に増加し、ことに若い女性での発生が目立ちます。

主な原因は、先天的な爪の異常、爪の外傷、爪の下がうむ疾患であるひょうそ後の変形です。これに、窮屈な先の細い靴による爪の圧迫、不適当な爪切り、立ち仕事や肥満による過度の体重負荷ないし下肢の血流障害、あるいは、爪の水虫による爪の甲の変形などが加わって、悪化します。

爪の甲の端が爪廓部に巻き込むと、圧迫によって痛みを生じます。また、巻き込んだ爪の甲が爪廓部の皮膚を突き刺すようになると、指の回りがはれたり、その部分を傷めて痛みが増強します。

爪の甲の端が変形して起こるため、肉眼で確認しづらい状態で進行していくことが多く、気付いた時には皮膚に深く巻き込んでしまっていることもあります。場合によっては、出血を起こすほどに爪が深く突き刺さってしまうこともあります。

この傷に、ばい菌が入ると、より赤くはれ上がってくるとともに、赤い出来物を生じるようになります。これを化膿性肉芽腫(かのうせいにくげしゅ)と呼びます。

ひょうそなどの感染は、オーバーカーブドネイルや陥入爪を誘発したり、悪化させたりするため、早期に適切な治療を必要とします。オーバーカーブドネイルや陥入爪の再発を繰り返す場合や、側爪廓の盛り上りが強すぎて歩行に支障を来すような場合には、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の専門医による外科的治療を行わないと完治しません。

オーバーカーブドネイルの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療の基本となるのは、爪の端を皮膚に刺さらないように浮かせて伸ばし、とげ状の部分をカットする方法と、手術で爪の端を取り除く方法です。爪の変形が強くなるため、原則的に抜爪は行われません。

オーバーカーブドネイルの矯正にはさまざまな方法があり、プラスチック製のチューブを爪の端に装着するガター法も行われています。爪を切開して、爪の端をチューブで包むことで指の組織を保護するのが目的で、傷口が化膿している場合などに、ガーター法は行われます。

形状記憶合金のワイヤーやプレートを使用する方法もあります。ワイヤー法は、爪の先端に2カ所穴を開け、太さ0・5ミリ程度の特殊なワイヤーを通して矯正する方法です。早ければワイヤーを装着した直後に痛みが治まり、ほとんどが数日中には痛みなどの症状が軽くなります。2~3カ月に1度、ワイヤーを入れ替えて爪を平らな状態に近付けていきます。ワイヤーの装着後も通常、運動の制限や入浴の制限などはありません。

プレート法は、主にオーバーカーブドネイルと陥入爪を併発して症状がひどく、痛みもひどい場合や、ワイヤーの穴を開ける余裕がない場合などに行われます。爪の表面に、形状記憶合金製のプレートを医療用の接着剤を使用して接着します。後は自宅で、ドライヤーなどの熱を利用して1日に2〜3回、オーバーカーブドネイルの部分に熱を加えてプレートを伸ばすだけです。

また、深爪した爪、巻き込んでいる爪の先端にアクリル樹脂の人工爪を装着して、人工的に爪が伸びた状態を作り、周囲の皮膚への巻き込みを緩和し、オーバーカーブドネイルを矯正する人工爪法もあります。

矯正や人工爪による治療は時間がかかりますが、手術と違ってメスを使わないので痛みもほとんどなく、見た目も正常にになるという利点があります。

オーバーカーブドネイルを治療するためではなく、化膿した組織を治すためには、硝酸銀が使われます。硝酸銀をオーバーカーブドネイルでできた傷口に滴下し、傷口を溶かし正常な組織への再生を促します。硝酸銀が滴下された皮膚は、しばらくの間、黒く染色されます。

オーバーカーブドネイルがひどい場合、激しい痛みがある場合には、爪の元となる組織である爪母を除去する外科手術を行って、改善を図ることがあります。爪母を外科手術で除去する鬼塚法と、薬品で爪母を焼き取るフェノール法がありますが、どちらも再発する可能性があるというデメリットがあります。近年では、レーザーメスを使って爪母を切除する方法も開発されています。いずれにしろ、外科手術は最後の手段となる場合がほとんどです。

生活上の注意としては、まず足指を清潔に保つことが大切なので、多少ジクジクしていても入浴し、シャワーでばい菌を洗い流します。ばんそうこうなどで傷口を覆うと、かえって蒸れてばい菌が増殖します。消毒した後、できれば傷を覆わないか、風通しのよい薄いガーゼ1枚で覆います。

窮屈な靴、特にハイヒールや先のとがった革靴などは、爪を過度に圧迫するので避けます。爪切りの際には、かえってオーバーカーブドネイルを増強させる深爪にしないように気を付けます。

🐇大原病

野ウサギなどとの接触で引き起こされる感染病

大原病とは、グラム陰性菌の野兎(やと)病菌によって引き起こされる感染症。野兎病、ツラレミアとも呼ばれます。

日本では野ウサギとの接触で感染することが多く、福島市の開業医であった大原八郎が1925年、地域的に流行していた感染症の原因を解明する過程で、感染源と思われる野ウサギから野兎病菌を分離しました。

世界的には北アメリカ、北ヨーロッパ、北アジアに広くみられ、日本では北海道、東北、関東地方で多くみられ、野兎病菌に感染した野ウサギ、モグラ、リス、ネズミ、ハムスターなどの齧歯(げっし)類に触ることで、主に感染が起こります。

冬場の感染症はほとんどが野ウサギとの接触によって起こり、特にその皮をはぐ時に起こります。夏場は、野兎病菌を持ったカやアブ、ダニに刺されて起こります。

まれに、火が十分に通っていない齧歯類の肉を食べたり、野兎病菌に汚染された水を飲んだり、野兎病菌に汚染された干し草を扱ったり、齧歯類の食肉解体中や芝刈り機で動物をひいて空気中に舞い上がった菌を吸い込んだりすることでも起こります。この野兎病菌は、傷のない皮膚からも侵入することができるのが特徴。

猟師、食肉処理業者、農業従事者、毛皮製造業者、検査技師に多くみられ、散発的に起こりますが、時に流行を示すことがあります。過去、スウェーデン、フィンランド、アメリカでは、カの媒介による流行がありました。

野兎病菌は10〜50個の菌だけでも感染、発症する可能性があり、重症の疾患を起こし死者も出すことがあることから、生物兵器として使われる可能性が心配されています。人から人への感染例は、報告されていません。

日本では、第二次世界大戦前は年平均13.8件の発生がありましたが、戦後は食糧難のために野ウサギを捕獲、解体する機会が増加し1955年まで年間50~80例と急増しました。その後減少傾向を示し、1999年、2008年の千葉県での各1例の発生以降、感染例の報告はありません。

大原病には、4種類の型があります。最もよくみられるのが潰瘍(かいよう)リンパ節型で、手や指に潰瘍ができ、感染部位と同じ側のリンパ節がはれます。2番目の眼リンパ節型では、目に充血やはれが生じ、リンパ節もはれます。この型は、感染した指や細菌のついた指で目に触れたり、感染部位の体液が目に入ることで起こると考えられます。

3番目は扁桃(へんとう)リンパ節型で、リンパ節がはれるだけで潰瘍はできないことから、食物を通して体内に入った細菌が原因と思われます。4番目はチフス型で、高熱、腹痛、激しい消耗がみられ、リンパ節のはれはみられません。

野兎病を引き起こす細菌を吸い込んだ場合には、肺炎を起こすこともあります。

菌と接触してから1〜10日後、通常は2〜4日後に突然症状が現れます。まず、頭痛、悪寒、吐き気、嘔吐(おうと)、約40度に達する熱、激しい疲労感が起こり、続いて、極度の脱力感、悪寒の繰り返し、大量の発汗が起こります。

扁桃リンパ節型とチフス型の大原病を除き、24〜48時間以内に指、腕、目、口蓋(こうがい)などの感染部に炎症性の水疱(すいほう)が現れます。水疱にはすぐに膿(うみ)がたまり、破れて潰瘍になります。腕や脚には単独でできますが、目や口の中にはいくつもできます。

潰瘍周囲のリンパ節ははれて膿を持ち、膿はやがて排出されます。発疹(はっしん)は疾患の経過中、いつでも現れることがあります。

肺炎が起こることもあるものの、空せきや胸の中心部に焼けるような痛みが起こるだけで、あまり重い症状は現れません。ただし、中にはせん妄を起こすケースもあります。

大原病の検査と診断と治療

カやアブ、ダニに刺されたり、ウサギやリスなどの野生動物と少しでも接触したりした後で、急な発熱、リンパ節のはれ、特徴的な潰瘍がみられた場合に、大原病と診断されます。

検査技師が感染した場合は、リンパ節や肺のみに限った感染のことが多いので、診断するのは難しく、野兎病菌は特別の培地で培養することになります。

大原病の治療では、抗生物質のストレプトマイシンを7〜14日間注射します。潰瘍には湿性包帯を当て、頻繁に取り替えます。包帯をすることによって、感染の広がりを防ぐことができます。まれに、大きな膿のかたまりである膿瘍ができて、切開して膿を吸い出さなくてはならなくなります。

症状が出た目には温湿布を当て、サングラスをかけるといくらか楽になります。激しい頭痛がある場合は、コデインのようなオピオイド系鎮痛薬を使います。

放置すると約3人に1人は死亡しますが、治療すればほぼ全員が助かります。死亡するのは感染が手に負えないほど広がった場合や、肺炎、髄膜炎、腹膜炎などを起こした場合です。再発はまれなものの、治療が不適切だと起こります。大原病にかかると免疫ができます。

野兎病菌は、水や土、齧歯類の死体や皮の中で何週間も生存可能です。ただし、熱には弱く、55度で10分の加熱で不活化します。野兎病菌で飲用水の水源地が汚染されても、塩素殺菌などの通常の処理で、飲用水による感染は防げると考えられています。

一般の場で野兎病菌で汚染されたものの表面の消毒の一つの方法としては、まず、0.5パーセントの次亜塩素酸ナトリウム溶液をスプレーします。10分後に今度は70パーセントのアルコールを使用します。アルコールはよく燃えますので、火気に注意する必要があります。次亜塩素酸ナトリウム溶液についても塩素ガスを発生したり、脱色作用があったりします。薬品の使用に当たっては、注意が必要です。

🇻🇦オカルト黄斑ジストロフィー

眼球内部の網膜にある黄斑が障害され、両眼の視力が低下する遺伝性疾患

オカルト黄斑(おうはん)ジストロフィーとは、網膜の中心部の黄斑の機能が徐々に傷害され、両眼の視力が徐々に低下していく遺伝性の疾患。先天性黄斑変性症とも呼ばれる黄斑ジストロフィーの一種です。

オカルトは「目に見えない」という意味で、ジストロフィーは遺伝子の異常により組織や臓器が徐々に変性することを指します。

眼球内部にある黄斑は、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に変性がみられると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに変性がみられると、視力の低下がさらに深刻になります。

オカルト黄斑ジストロフィーは1989年、名古屋大学の三宅養三教授により発見されました。

眼科の医師による一般診察では、オカルト黄斑ジストロフィーの診断が不可能で、通常の眼底検査では黄斑が全く正常に見えて異常が見付かりません。診断には、限られた施設にのみ備えられている多局所網膜電図という特殊な装置を必要とするため、弱視、視神経症、緑内障、白内障など異なる疾患と誤診され、誤った治療を受ける例が非常に多くみられます。

発症の多くには遺伝が関与しており、2010年に東京医療センター感覚器センターと東京大学医学部神経内科との共同研究チームによって、優性遺伝タイプの原因遺伝子がRP1L1であることが解明されました。しかし、オカルト黄斑ジストロフィーの半数以上は劣性遺伝、もしくは家族の中には全く発症者がみられないのに、突発的に発症者が現れる散発例(孤発例)の可能性があること、RP1L1遺伝子の生理的機能が不明であることなどがあり、疾患原因は完全には解明されていませんし、根本的な治療法はありません。

オカルト黄斑ジストロフィーの発症年齢は、10歳から60歳までとさまざまです。発症者は5000人と推定されてますが、ほとんどの症例は異なる疾患、あるいは原因不明と診断されているため、実数は不明。

黄斑に分布して、主に中心の視力や色覚などに関係している錐体(すいたい)細胞が機能不全を起こすことにより、両眼の視力が徐々に低下していきます。普通の光がまぶしく、目が痛み、涙が出る羞明(しゅうめい)を生じることもあります。

進行性の疾患ですが、その進行速度は緩やかで、個人差もあります。最終的には矯正視力が0・1〜0・2程度となり、特に視力に最も重要な中心窩の機能が傷害されるため、中心視野の欠損を生じ、著しく書字困難、識字困難になるなど社会生活に大きな支障を来します。しかし、一定の年月がたつと進行が止まり、失明には至りません。黄斑以外の機能は障害されないため、周辺視野は晩期まで保たれます。

オカルト黄斑ジストロフィーの検査と診断と治療

眼科の医師による一般診察では診断が不可能で、多局所網膜電図による電気生理学的検査でのみ異常が検出されるため、限られた眼科施設でのみ診断が可能です。OCT(光学的干渉断層計)を使用した光干渉断層像で中心部網膜が薄くなることが、補助診断となります。

両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいることなどが、重要な手掛かりになります。異常を起こす原因遺伝子が突き止められている優性遺伝タイプのオカルト黄斑ジストロフィーでは、RP1L1遺伝子の検索も決め手になります。

残念ながら、オカルト黄斑ジストロフィーでは疾患原因が不明であり、根本的な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。羞明に対して、サングラスの装用を勧めるなどの指導を行うことになります。

症状に応じて遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることも期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

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