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2022/08/17

🇨🇺副甲状腺機能低下症

副甲状腺ホルモンの分泌や作用が低下するために起こる疾患

副甲状腺(せん)機能低下症とは、副甲状腺ホルモンの分泌や作用が低下するために起こる疾患。

副甲状腺は大きさは4〜5ミリぐらいで、甲状腺の周囲にある臓器。多くの人は4つ持っていますが、3つあるいは5つ以上持っている人もまれではありません。ここで作られる副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を一定の範囲内に調節しています。健康な人では、血液中のカルシウムが減ると、血中カルシウム濃度を上昇させるように働く副甲状腺ホルモンが増加し、骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶かし出されてカルシウムが正常な濃度に戻ります。

この副甲状腺ホルモンの作用がうまく発現せず、そのために血液中のカルシウム濃度が低下する疾患が、副甲状腺機能低下症。その原因の全く不明な特発性のものと、原因の明らかな続発性のもの、および副甲状腺ホルモンの分泌は保たれているにもかかわらず、副甲状腺ホルモンの作用が損なわれている偽性のものとに分類されます。

大部分は続発性のもので、頸部(けいぶ)の手術や外傷による副甲状腺の障害や、先天性の副甲状腺形成異常などで起こります。近年、副甲状腺ホルモンの分泌の低下を起こす遺伝子異常が、数多く明らかにされてきています。

偽性の副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモンによる細胞内シグナルの伝達機構の障害が原因で、その異常部位によりさらに細かく分類されています。

特徴的な症状は、神経や筋肉が刺激されやすくなり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることです。最初に手足や口の回りのしびれが起こり、次に手の先をつぼめて、手首を曲げた特有のけいれんがみられます。手足のこむら返りもみられ、時には、全身のけいれんがみられて、意識を失うこともあります。このため、てんかん発作と間違えられることもあります。

また、血管の筋肉にもけいれんが起こり、狭心症の発作や呼吸困難を起こすこともあります。

長期に渡って副甲状腺機能低下症があると、毛髪は薄くなり、皮膚は乾燥して魚のうろこのようになり、白内障もしばしば認められます。

副甲状腺機能低下症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、血液中の成分を測定して、カルシウムの減少と無機リンの増加が認められた上、腎機能低下がなければ、本症と考えます。テタニー発作は副甲状腺の機能が低下した時だけにみられる現象ではなく、激しい嘔吐(おうと)で胃酸を大量に失った時や、ヒステリーなどで呼吸回数が増えた時などにもみられるため、それらとの区別が必要になります。

また、偽性の副甲状腺機能低下症の場合には、副甲状腺ホルモンの細胞内シグナルの異常部位により病型を決めるために、副甲状腺ホルモンを注射して反応をみるエルスワース・ハワード試験という検査を行います。

医師による治療では、血中カルシウム濃度を上昇させるために、アルファカルシドール、またはカルシトリオールという活性型ビタミンD3製剤を内服します。活性型ビタミンD3製剤は、腸管からのカルシウム吸収を促進し、また腎(じん)臓から尿中へのカルシウム排出を低下させるように働くことなどで、血中カルシウム濃度を上昇させます。

活性型ビタミンD3製剤の投与量が少なすぎると、低カルシウム血症が十分改善しません。逆に多すぎると、血中や尿中のカルシウムが高くなりすぎ、腎結石や腎機能障害を来す危険があります。このため、定期的に血液や尿の検査を受ける必要があります。

ビタミンD製剤とカルシウム製剤を毎日内服する治療でもよいのですが、いずれにしても一生服用しなければなりません。

🇩🇴匐行性角膜潰瘍(突き目)

目を突いた時の傷に細菌が感染して、潰瘍を生じる眼疾

匐行(ふくこう)性角膜潰瘍(かいよう)とは、目を突いたために起こる角膜の外傷。匐行性とはある方向に進行していくという意味で、突き目とも呼ばれます。

普通は、稲や麦の穂、木の小枝、草の葉などで、黒目の表面を覆う角膜を突いたとしても、傷が小さく細菌感染が起こらなければ、角膜の表面は修復能が高いため2〜3日で完全に治ります。しかし、何かで突いた時やゴミが刺さった時などに角膜にできた傷に、細菌が感染すると潰瘍ができます。

もともと慢性涙嚢(るいのう)炎のある場合は、細菌が常駐しているために特に潰瘍ができやすくなります。 感染する細菌は、ブドウ球菌、肺炎双球菌、緑膿(りょくのう)菌のことが多く、緑膿菌や真菌(かび)が感染すると重症になります。

急激な眼痛、まぶしさ、異物感などの刺激症状が強く起こります。涙が出て、まぶたははれ、白目の表面を覆う結膜は充血します。頭痛も起こり、視力はかなり低下します。

進行は早く、角膜の中央部にできた潰瘍は周囲および深部に向かって進行し、角膜の後方の前房にうみがたまり、適切な治療が行われないと、角膜に穴が開いて失明することもあります。

潰瘍が進んで細菌が眼内にまで移行し、炎症がぶどう膜、硝子体(しょうしたい)などに波及した場合には全眼球炎となり、眼球全体がしぼむことがあります。こうなると、治ってからも、黒目を覆う角膜が白く濁ったり、時にはこぶのように突き出して角膜ぶどう腫(しゅ)を残すことがあります。角膜ぶどう腫は、虹彩(こうさい)が角膜に癒着して混濁、膨張したものです。

潰瘍があまり進まなかった時は、濁りも限局しているので、瞳(ひとみ)の中心部に濁りが残らなければ、視力もそれほど障害されません。潰瘍が進んで角膜の全面に濁りが残った場合は、視力が著しく低下します。

匐行性角膜潰瘍(突き目)の検査と診断と治療

目を何かで突いた時は、軽くても早くに眼科医の診察を受けます。手当が遅れると失明することもありますが、初期に適切な治療を受ければ、大部分は治ります。ゴミが刺さった時は、こすらずに目を閉じて涙で流したり、水で目を洗ったりします。それでも異物感が残れば、早くに眼科医の診察を受けます。

治療としては、角膜異物があれば除去し、抗生物質の点眼や、眼球への注射、内服、静脈注射を行います。虹彩炎が起こるのを防ぐために、アトロピンの点眼を行って瞳を広げます。

黒目を覆う結膜が白濁し、混濁が全面に残った場合は、 潰瘍が治まった状態で角膜移植を行います。

🇨🇺副腎褐色細胞腫

副腎髄質の腫瘍によりアドレナリンなどが大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患

副腎褐色細胞腫(ふくじんかっしょくさいぼうしゅ)とは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の髄質にできた腫瘍(しゅよう)によって、自律神経に働くアドレナリンやノルアドレナリンが大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患。

若い人が、ひどい高血圧を起こすのは、この疾患が原因のことがあります。

副腎は皮質と髄質からできており、副腎皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

腫瘍は主として副腎髄質の細胞から発生しますが、時には、脊髄(せきずい)に沿った交感神経節のクロム親和性細胞からも発生します。クロム親和性細胞は、重クロム酸カリウムを含む液で固定すると、褐色に染まる細胞をいいます。

腫瘍からはアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、このホルモンの作用でさまざまな症状が現れます。

腫瘍の大部分は良性で、時に悪性の場合もあります。多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生しますが、遺伝的に副腎褐色細胞腫になりやすい家系もあります。

副腎褐色細胞腫の症状としては、高血圧と糖尿病が起こります。高血圧は、発作的に起こる場合と持続的に血圧が高い場合とがあります。

発作的に起こる場合は、急に不安感、緊張感が起こり、強い動悸(どうき)やズキンズキンとした頭痛を感じ、脈が速くなり、手足が震え、瞳(ひとみ)が大きくなります。手足が冷たくなり、時には耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。

また、しばしば尿糖が出ます。発作は数分から1〜2時間、時には数日続くこともあります。まれに、心不全や出血の危険性が高まることもあります。

このようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もあります。

発作的な血圧上昇、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内科、ないし内分泌代謝内科の専門医を受診してください。

副腎褐色細胞腫の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、血液および尿の中のアドレナリン、ノルアドレナリンを測定すると増加しているのがわかります。腫瘍を探すために、腹部CTスキャン、MRI、血管造影などの画像診断を行います。家族歴などから、遺伝的要因が関係した副腎褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。

内科、内分泌代謝内科の医師による治療は、手術によって腫瘍を取り除くことです。高血圧によって、体のいろいろな器官が悪くならないうちに手術をすれば、完全に治ります。

手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(α〔アルファ〕受容体遮断薬)を使用します。

🇱🇰副腎がん

左右の腎臓の上に位置する小さな臓器である副腎にできる悪性の腫瘍

副腎(ふくじん)がんとは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎にできる悪性の腫瘍(しゅよう)。

副腎は内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

この副腎がんは、副腎表面の皮質にできる副腎皮質がんと、髄質にできる副腎髄質がんに分けられます。

副腎皮質がんは極めてまれながんです。ホルモンの分泌異常を伴う機能性腫瘍と、ホルモンの分泌異常を伴わない非機能性腫瘍に分けられます。

一方、副腎髄質がんには、副腎の褐色細胞腫が悪性化した悪性褐色細胞腫や、神経芽細胞腫があります。副腎がんのほとんどは、この副腎内部の髄質にできる副腎髄質がんです。

副腎がんは、同じ副腎から発生し、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモンを過剰に分泌しない非機能性腫瘍に分けられる副腎腫瘍と比べると、発生頻度は著しく落ちます。副腎腫瘍のほうは、いずれも良性腫瘍がほとんどで、悪性のものはほとんどみられません。

また、良性の副腎腫瘍が悪性化して副腎がんに変化することは、ないとされています。

副腎がんはまれながんであり、副腎皮質がんと副腎髄質がんを合わせても、100万人当たりの罹患率は2人です。発症年齢でみると、10歳前後と40歳から50歳代の二峰性のピークを示し、女性の発症率は男性の1・5倍から3倍です。

副腎がんを発症する原因は、よくわかっていません。副腎がんに特徴的な症状も、ありません。

がんが進行して大きくなることによって、体の外から腫瘍を触れる、腹が痛くなる、便秘や吐き気が起こるといった症状で発見されることが、多くみられます。当然、早期には症状がありませんが、早期に発見されることは多くはなく、発見された時、多くは5センチ以上の大きさになっています。

がんが副腎のホルモンを異常に多く分泌する場合、糖尿病や高血圧、肥満といった症状で発見されることがあります。また、健康診断や、胃腸、肝臓、腎臓などの腹部の疾患に対するCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見されることもあります。

進行するにつれ、発熱、食欲不振、体重減少などの多彩な全身症状を伴うことがあります。

副腎がんの検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、血液検査・尿検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査、副腎血管造影検査などを行います。

血液検査・尿検査では、副腎に腫瘍ができると、ホルモンの分泌異常が起きるケースがありますので、血液と尿内の成分を調べることで、ホルモン異常の有無を調べることができます。副腎と同様のホルモンを異常に分泌するタイプの副腎がんの場合、血液検査でアルドステロン、グルココルチコイド、アンドロゲンの硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェー ト、アンドロゲンに属するテストステロン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどが異常高値を示すことがあります。

CT(コンピュータ断層撮影)検査では、体の内部を輪切りにした画像を撮影することができ、副腎にできた腫瘍だけでなく、リンパ節転移、肺臓や肝臓への転移などの有無を調べることができます。

MRI(磁気共鳴画像撮影)検査では、腫瘍と副腎がんとを鑑別できることがあります。また、周囲の組織へのがんの進行具合を診断する上で重要です。

超音波(エコー)検査では、副腎にできた腫瘍の大きさや広がりを調べることができます。

副腎血管造影検査では、造影剤を副腎動脈内に注入し、X線(レントゲン)により撮影します。造影剤が副腎内の血管に浸透しますので、副腎内の血管が腫瘍によりふさがった部位がないか調べることができます。

副腎がんのステージ(進行度)は、副腎がんの大きさ、広がり、転移の有無により、ステージⅠからステージⅣに分類されます。

ステージⅠは、 副腎がんの直径が5セント以下で副腎内部にとどまっているもの。ステージⅡは、副腎がんの直径が5セントを超えているものの、副腎内部にとどまっていて周囲への浸潤がないもの。ステージⅢは、副腎がんが副腎周辺の脂肪組織やリンパ節にまで広がっているもの。ステージIVは、副腎がんが副腎に隣接した臓器、または遠く離れた臓器にまで転移しているもの。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、副腎がんは手術以外に有効な治療法がないため、ほかの臓器への転移がない副腎がんは手術による切除が第一です。

手術で完全に切除できた場合は、予後の改善が期待できます。状況によっては、腎臓や周囲の臓器を一緒に切除することもあります。なお、手術の後に、副腎皮質ホルモンの生合成を阻害する作用と皮質細胞に対し細胞毒性を有するミトタンという薬剤による薬物療法を追加することがあります。

副腎がんが進行している場合、手術自体に難渋することや大量の輸血が必要になることがあります。また、切除を途中で断念せざるを得ない場合があります。アドレナリンやノルアドレナリンを産生する悪性褐色細胞腫では、手術中あるいは手術後に、血圧や脈拍に大きな乱れを生じたり、ショック状態になることがあります。

副腎がんに対する基本的姿勢は手術が第一ですが、ほかの臓器への転移を認めたり、全身状態が不良で手術が不可能な場合、ミトタンによる薬物療法が考慮されます。ミトタンの使用により80パーセント以上のケースで、食欲不振、吐き気を始めとするとする消化器症状や肝機能障害などの副作用が起こります。また、ミトタンは正常な側の副腎にも抑制的に作用するために、副腎皮質ホルモンの補充がしばしば必要になります。

副腎がんは、ステージⅠやⅡの早期に発見されることは多くはなく、腫瘍が大きくなるスピードが速いため、予後は極めて不良です。

2022/08/16

🇱🇰副腎偶発腫瘍

副腎疾患の検査以外の目的で行った検査において、偶然、認められる副腎の腫瘍

副腎偶発腫瘍(ふくじんぐうはつしゅよう)とは、健康診断や副腎以外の疾患の検査中に偶然、副腎に認められる大きさ1センチ以上で、症状が現れていない、はれ物。無症候性副腎腫瘍とも呼ばれます。

副腎は、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器。副腎の内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。

機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、グルココルチコイドが多く作られるクッシング症候群、アドレナリンやノルアドレナリンが多く作られる褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

原発性アルドステロン症などのような副腎疾患に特徴的な症状を示さず、あるいは自覚症状を示さずに、CT(コンピュータ断層撮影)検査や超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見される副腎偶発腫瘍は、副腎腫瘍の中で最も多いものです。一般に、50歳以上の人では、3パーセント以上の人に副腎偶発腫瘍が認めるとされ、人体中で最もよく見付かる腫瘍の一つでもあります。

症状は、副腎腫瘍からのホルモン分泌の過剰の有無によってさまざまで、多くは無症状です。副腎偶発腫瘍の約半数は、非機能性腫瘍かつ良性腫瘍の皮質腺腫とされており、体に異常がなければ、様子を見るだけで治療の必要はありません。

一方、副腎偶発腫瘍の中には、プレ(サブ)クリニカルクッシング症候群(グルココルチコイド産生腺腫)と無症候性の褐色細胞腫がおのおの5~10パーセントの頻度で発見され、原発性アルドステロン症(アルドステロン産生腺腫)が5パーセント程度、原発性副腎がんが1〜2パーセント含まれるとされています。

そのほか、転移性副腎がん、骨髄脂肪腫、嚢腫、神経節神経腫、囊胞などが含まれます。

手術による副腎偶発腫瘍の摘出が必要か否かは、ホルモン分泌の過剰の有無と、悪性腫瘍(原発性副腎がんや転移性副腎がん)の可能性の2点により判断されます。

副腎偶発腫瘍の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、悪性腫瘍の可能性は腫瘍の大きさが3センチ以上であることや、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査で悪性を疑わせる所見の有無で判断します。

ホルモン分泌の過剰の有無については、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫の3つの疾患について検査を行います。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、検査の結果、ホルモンを過剰に分泌している所見がなく、腫瘍の大きさが3センチ未満であれば、その時点では手術を行わずに経過を観察します。そして、半年から1年ごとにホルモン検査と画像検査を行います。

一方、腫瘍の大きさが3センチ以上、またはホルモンを過剰に分泌している所見がある場合は、手術による腫瘍摘出について総合的に判断します。

🇱🇰副腎クリーゼ

副腎の機能が急に低下した場合に発症し、ショック状態から死に至る恐れもある疾患

副腎(ふくじん)クリーゼとは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の急な機能不全により、副腎皮質ホルモンの分泌に異常を来す疾患。急性副腎不全、アジソンクリーゼとも呼ばれます。

クリーゼとは、内分泌系の異常によって危険な状態に陥っていることを指すドイツ語で、英語のクライシスに相当します。副腎クリーゼは、副腎皮質ホルモンの分泌異常により、糖代謝や水分代謝などが滞るようになるのが特徴です。酸や塩基などの電解質のバランスも崩れるため、精神面に影響が出ることもあります。

副腎クリーゼを発症した際の症状として、全身が疲れやすくだるさを感じる易疲労感、全身に力が入らないように感じる脱力感、食欲の不振などの症状が現れます。

進行すると、徐々に症状が重くなり、38度以上の高熱 、吐き気とそれに伴う嘔吐(おうと)、下痢、腹痛などが現れます。

これらの症状が続くと、極端な脱水症状や血圧の低下が起こり、さらに症状が重篤化すると、意識障害や呼吸困難を引き起こして、ショック状態に陥り、治療が遅れると死亡に至る危険性もあります。

いずれの症状も副腎疾患に特徴的な症状ではなく、腹部の疾患と間違われることがあります。

副腎クリーゼを引き起こす原因としては、副腎の機能が急に低下し副腎皮質ホルモンが極端に減ってしまうことが挙げられます。この状態に至る理由には、副腎が細菌に感染したり、副腎皮質ホルモンの分泌を調節する下垂体(脳下垂体)が何らかの原因によって異常を来したり、血管が何らかの原因によって閉塞(へいそく)ないし出血したなどが考えられます。

また、慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)を発症した患者にも副腎クリーゼを発症するリスクがあり、これは手術時や発熱、けがなどを起こした際の身体的ストレスに対して、副腎皮質ホルモンの分泌が相対的に不足している時に起こるのではないかと考えられています。

さらに、副腎皮質ステロイド薬を長い間服用していた患者が急に服用を中断したり、減量した場合にも、副腎クリーゼを発症する可能性があります。これは長期間の副腎皮質ステロイド薬の服用により、本来正常に働くべき副腎が委縮してしまい、自ら副腎皮質ホルモンをつくれなくなってしまうために、発症します。

予防する方法は、現段階では特にありません。この副腎クリーゼは急激に進行してゆくことで知られていますので、すでに慢性副腎皮質機能低下症と診断されていたり、長い間副腎皮質ステロイド薬を服用していて最近中断した患者が、疲労感や脱力感など特徴的な兆候を体に覚えた場合には、速やかに内科、内分泌代謝内科、循環器内科などを受診することが重要です。早期に適切な処置を受けることができれば、比較的短い期間で軽快に向かいます。

副腎クリーゼの検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、さまざまな血液検査、尿検査に加え、ホルモンの検査、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。

ホルモンの検査は、血液中の副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、尿中に排出される副腎皮質ホルモンなどを測定するほか、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を投与した後の副腎や下垂体の反応により、副腎の機能を評価します。

そのほか、副腎を損なう原因を調べるため、結核など感染症に対する検査、がんの検査、自己免疫疾患の検査などを行うこともあります。

血液検査では、血液中のナトリウム濃度の低下とカリウム濃度の上昇がしばしば認められます。ホルモンの検査では、多くの場合、血液中の副腎皮質ホルモンの一つであるグルココルチコイド(糖質コルチコイド)の低下が認められます。また、副腎に原因がある場合は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が増え、垂体に原因がある場合はこれが減っています。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による治療では、急速に悪化する疾患なので、副腎クリーゼが疑われた場合は、測定に時間がかかるホルモンの検査結果を待たずに、直ちに塩分とブドウ糖を含む補液と副腎皮質ホルモン薬の点滴投与を行います。

素早く治療すれば、患者は普段の生活に戻れることがよくあり、一貫した薬物療法で副腎は十分機能できるようになります。

🇲🇭副腎腫瘍

左右の腎臓の上に位置する小さな臓器である副腎の一部が、はれた状態

副腎腫瘍(ふくじんしゅよう)とは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の一部が、2センチから3センチ程度、はれた状態。

副腎は皮質と髄質からできており、副腎皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。

機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、クッシング症候群、褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

原発性アルドステロン症は副腎皮質から分泌されるアルドステロンの過剰分泌によって起こる疾患

原発性アルドステロン症は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、アルドステロン(鉱質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。報告者の名前にちなんで、コン症候群とも呼ばれます。

副腎皮質の片側の腫瘍、または両側の副腎皮質の肥大増殖が原因となって、起こります。腫瘍の場合は、ここからアルドステロンが多量に分泌されますが、肥大増殖の場合は副腎全体からアルドステロンが出てきます。

アルドステロンは腎臓に作用し、体の中にナトリウムと水分を蓄えるために高血圧になります。また、尿の中にカリウムを排出する作用を持つため、アルドステロンが過剰になると血液中のカリウムが減って、低カリウム血症となり、筋力の低下による四肢の脱力や、疲れやすいなどの症状が引き起こされます。

そのほか、低カリウム血症により尿量が多くなり、口の渇きがみられたり、発作的に数時間の間、手足が動かなくなる周期性四肢まひが起こったり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることもあります。

高血圧に低カリウム血症を合併していたら、この原発性アルドステロン症が疑われます。治療しないでほうっておくと、高血圧が長く続くために体のいろいろな臓器に障害が起こってきますので、内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの専門医を受診することが勧められます。

クッシング症候群は副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドの過剰分泌によって起こる疾患

クッシング症候群は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによって、初めて報告されました。

下垂体(脳下垂体)に腫瘍ができ、そこから副腎皮質刺激ホルモンがたくさん出るために起こる場合と、副腎皮質に腫瘍ができて起こる場合が主なものです。前者はクッシング病とも呼ばれます。

クッシング症候群の原因としては、クッシング病が約35パーセント、副腎腫瘍が約50パーセントを占めるほか、時には、肺や膵(すい)臓、消化管にできた腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが多量に分泌され、副腎に働いてグルココルチコイドが過剰に分泌される場合もあります。女性に多くみられます。

近年、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)がネフローゼや白血病などの治療に、大量に用いられるようになったために人工的な副腎皮質ホルモン過剰が起こり、同じ症状を起こすことがあります。

クッシング症候群の症状としては、顔が丸くなり、にきびができやすくなります。肥満してきますが、手足はあまり太くならず、胴体が太いのが特徴です。また。肩や尻(しり)、太ももの筋肉が薄くなり、階段の上りなどがつらくなります。

そして、腹や太ももなどに皮膚伸展線である赤紫色のすじがみられ、皮膚が薄くなって、ちょっとしたことで青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病が起こることもあります。骨が薄くなって背骨の圧迫骨折を起こし、身長が低くなったり、背部痛が起こることもあります。

女性では、月経が不順になったり、無月経になったり、毛深くなります。

褐色細胞腫は副腎髄質の腫瘍によりアドレナリンなどが大量に分泌されて高血圧を起こす疾患

褐色細胞腫は、副腎の髄質にできた腫瘍によって、自律神経に働くアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患。若い人が、ひどい高血圧を起こすのは、この疾患が原因のことがあります。

腫瘍は主として副腎髄質の細胞から発生しますが、時には、ほかの交感神経系のクロム親和性細胞からも発生します。脊髄(せきずい)に沿ったクロム親和性細胞は、重クロム酸カリウムを含む液で固定すると、褐色に染まる細胞をいいます。

腫瘍の大部分は良性で、時に悪性の場合もあります。多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生しますが、遺伝的に褐色細胞腫になりやすい家系もあります。

褐色細胞腫の症状としては、高血圧と糖尿病が起こります。高血圧は、発作的に起こる場合と持続的に血圧が高い場合とがあります。

発作的に起こる場合は、急に不安感、緊張感が起こり、強い動悸(どうき)やズキンズキンとした頭痛を感じ、脈が速くなり、手足が震え、瞳(ひとみ)が大きくなります。手足が冷たくなり、時には耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。

また、しばしば尿糖が出ます。発作は数分から1〜2時間、時には数日続くこともあります。まれに、心不全や出血の危険性が高まることもあります。

このようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もあります。

発作的な血圧上昇、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの専門医を受診することが勧められます。

副腎腫瘍の検査と診断と治療

原発性アルドステロン症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、アルドステロンの過剰分泌を確かめるため、血液中、尿中のホルモンを測定します。アルドステロンは腎臓から分泌されるレニンというホルモンによって調節されていますが、原発性アルドステロン症のように、副腎から勝手にアルドステロンが出てくると、レニンはその働きを控えます。そこで、診断のためには血漿(けっしょう)レニン活性が抑制されていることを確認します。

腫瘍か肥大増殖か、また、左右どちらの副腎に腫瘍があるのかなどを判断するため、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、あるいは副腎シンチグラフィーを行います。腫瘍はしばしば小さく、また多発性のこともあり、これらの検査で診断できない場合があります。その場合は副腎の近くの血管にカテーテルを挿入して、そこから採血する副腎静脈血サンプリングという検査を行うこともあります。

腫瘍による場合、その腫瘍を手術で摘出します。何らかの理由で摘出手術ができない場合や、肥大増殖の場合は内服薬で治療を行います。アルドステロンの産生を制限する目的でトリロスタン(デソパン)、アルドステロンの作用を阻害する目的でスピロノラクトン(アルダクトン)などが用いられます。

原発性アルドステロン症が治れば、血圧は徐々に低下します。しかし、疾患の期間が長く高血圧が長く続いた場合は、血圧が下がりにくいこともあります。

クッシング症候群の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、副腎からグルココルチコイドが過剰に分泌されていることを確認するために、血液検査や尿検査を行います。

下垂体の腫瘍や肺、膵臓などの腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが出て起こっている場合は、副腎皮質刺激ホルモンが増えています。一方、副腎の腫瘍からグルココルチコイドが出ている場合は、副腎皮質刺激ホルモンはかえって減っています。このどちらであるかを調べて、どこに原因があるかを明らかにします。

下垂体の腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。副腎の腫瘍の場合は、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査などを行います。

医師による治療としては、腫瘍の場合は下垂体でも副腎でも、手術を行って過剰なホルモンを作っている腫瘍を摘出することが最もよい方法です。

下垂体の腫瘍の場合は、経蝶形骨洞的手術という、鼻の穴から下垂体に達し頭を開けずに、顕微鏡や内視鏡で見ながら腫瘍を摘出する方法によって、以前に比べ楽に手術できるようになっています。手術で摘出し切れない場合や、体力的に手術が困難な人の場合は、注射や内服薬による治療、放射線療法などが行われます。

副腎の腫瘍の場合は、大きくなくて適応できれば、開腹せずに腹部に小さい穴を3カ所くらい開けて内視鏡と手術の道具を通し、副腎を摘出する内視鏡手術が数多く行われています。内視鏡手術の適応ができない時は、開腹や背中を開けて副腎を摘出します。体力的に手術が困難な場合などは、グルココルチコイドを作る副腎の働きを抑える薬を内服します。

褐色細胞腫の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、血液および尿の中のアドレナリン、ノルアドレナリンを測定すると増加しているのがわかります。腫瘍を探すために、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、血管造影などの画像診断を行います。家族歴などから、遺伝的要因が関係した褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。

治療は、手術によって腫瘍を取り除くことです。高血圧によって、体のいろいろな器官が悪くならないうちに手術をすれば、完全に治ります。手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(α〔アルファ〕受容体遮断薬)を使用します。

🇲🇭副腎性器症候群

男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患

副腎(ふくじん)性器症候群とは、副腎皮質から男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患。

副腎皮質からは、コルチゾール(糖質ホルモン)とアルドステロン(鉱質ホルモン)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンもわずかに分泌されています。副腎性器症候群では、副腎皮質の働きの異常により、コルチゾールやアルドステロンの分泌が低下し、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

この副腎性器症候群には、先天性のものと後天性のものとがあります。先天性のものは、コルチゾールの合成に必要な酵素が生まれ付き欠けているために、下垂体(脳下垂体)から副腎皮質刺激ホルモンが多量に出るようになり、副腎が過形成を起こします。その結果、アンドロゲンが過剰に分泌されるようになります。これを先天性副腎過形成症といいます。

コルチゾールの合成にかかわる酵素は数種類あり、欠ける酵素の種類により疾患のタイプが分かれ、症状も少しずつ違っています。いずれも常染色体劣性遺伝による異常です。日本では、21ー水酸化酵素の欠損が最も多く認められます。

後天性のものは、副腎皮質の腺腫(せんしゅ)やがんなどが原因で起こるもので、副腎皮質の機能が低下して、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

男女にかかわりなく、副腎性器症候群は発生します。女児では、陰核の肥大や陰唇の癒合がみられ、性器はどちらかというと女性よりも男性的な外見になり、男児と間違えられることが多いものです。子宮、卵巣、卵管などの生殖器官の構造は、正常です。

成長するに従って男性化が顕著になり、成人の女性では、ひげが生え、手足の毛が濃くなり、陰核が大きくなり、声変わりや月経不順、不妊、乳房の委縮が起こります。

男児では、出生時には特に異常はみられませんが、幼少時から陰茎が発育し、陰毛が生えて声が太くなります。男女児とも、早い時期に発育が停止します。

また、副腎性器症候群の中でも重症のタイプでは、新生児期から副腎不全が発生します。嘔吐(おうと)、脱水、酸・塩基などの電解質の異常、不整脈などの症状が現れ、適切な治療をしないと生後数日で死亡します。

なお、家系に副腎性器症候群の遺伝がある人や、副腎性器症候群の子供を持つ人には、内科、ないし小児科で遺伝相談を受けることが勧められます。

副腎性器症候群の検査と診断と治療

現在日本では、21ー水酸化酵素欠損症を見付けるため、新生児スクリーニング検査を行っています。尿中の副腎皮質ホルモンと、その代謝物質を測定することで、どの酵素が欠けたのか推定することができます。症状の軽い不完全型の副腎性器症候群の場合は、副腎皮質刺激ホルモンの負荷後にこれらを調べることで、ようやく診断できることもあります。

内科、ないし小児科の医師による先天性の副腎性器症候群の治療の目的は、分泌が低下したコルチゾールやアルドステロンを補い、アンドロゲンの値を正常に戻すことです。下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンが出すぎないように、副腎皮質ステロイド剤の一種であるコルチゾンを投与します。

女児で陰核の大きいものや、陰唇の閉鎖がみられるものは、1~3歳の間に形成手術を行って、形状の異常を矯正します。成人のがん性のものは、早期に副腎摘除の手術をしたり、コルチゾンの投与を行います。

子供が副腎性器症候群を持つ両親は、副腎皮質ステロイド剤の飲み方と副作用について説明を受けて下さい。けがや発熱で強いストレスを受けた時は医師に報告し、薬の量を増やしてもらいます。副腎皮質ステロイド剤の服用を突然やめると、急性副腎不全を起こしますので、注意が必要となります。

🇲🇭副腎性男性化症

男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患

副腎(ふくじん)性男性化症とは、副腎皮質から男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患。副腎性器症候群とも呼ばれます。

副腎皮質からは、コルチゾール(糖質ホルモン)とアルドステロン(鉱質ホルモン)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンもわずかに分泌されています。副腎性男性化症では、副腎皮質の働きの異常により、コルチゾールやアルドステロンの分泌が低下し、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

この副腎性男性化症には、先天性のものと後天性のものとがあります。先天性のものは、コルチゾールの合成に必要な酵素が生まれ付き欠けているために、下垂体(脳下垂体)から副腎皮質刺激ホルモンが多量に出るようになり、副腎が過形成を起こします。その結果、アンドロゲンが過剰に分泌されるようになります。これを先天性副腎過形成症といいます。

コルチゾールの合成にかかわる酵素は数種類あり、欠ける酵素の種類により疾患のタイプが分かれ、症状も少しずつ違っています。いずれも常染色体劣性遺伝による異常です。日本では、21ー水酸化酵素の欠損が最も多く認められます。

後天性のものは、副腎皮質の腺腫(せんしゅ)やがんなどが原因で起こるもので、副腎皮質の機能が低下して、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

男女にかかわりなく、副腎性男性化症は発生します。女児では、陰核の肥大や陰唇の癒合がみられ、性器はどちらかというと女性よりも男性的な外見になり、男児と間違えられることが多いものです。子宮、卵巣、卵管などの生殖器官の構造は、正常です。

成長するに従って男性化が顕著になり、成人の女性では、ひげが生え、手足の毛が濃くなり、陰核が大きくなり、声変わりや月経不順、不妊、乳房の委縮が起こります。

男児では、出生時には特に異常はみられませんが、幼少時から陰茎が発育し、陰毛が生えて声が太くなります。男児、女児とも、早い時期に発育が停止します。

また、副腎性男性化症の中でも重症のタイプでは、新生児期から副腎不全が発生します。嘔吐(おうと)、脱水、酸・塩基などの電解質の異常、不整脈などの症状が現れ、適切な治療をしないと生後数日で死亡します。

なお、家系に副腎性男性化症の遺伝がある人や、副腎性男性化症の子供を持つ人には、内科、ないし小児科で遺伝相談を受けることが勧められます。

副腎性男性化症の検査と診断と治療

現在日本では、21ー水酸化酵素欠損症を見付けるため、新生児スクリーニング検査を行っています。尿中の副腎皮質ホルモンと、その代謝物質を測定することで、どの酵素が欠けたのか推定することができます。症状の軽い不完全型の副腎性男性化症の場合は、副腎皮質刺激ホルモンの負荷後にこれらを調べることで、ようやく診断できることもあります。

内科、ないし小児科の医師による先天性の副腎性男性化症の治療の目的は、分泌が低下したコルチゾールやアルドステロンを補い、アンドロゲンの値を正常に戻すことです。下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンが出すぎないように、副腎皮質ステロイド剤の一種であるコルチゾンを投与します。

女児で陰核の大きいものや、陰唇の閉鎖がみられるものは、1~3歳の間に形成手術を行って、形状の異常を矯正します。成人のがん性のものは、早期に副腎摘除の手術をしたり、コルチゾンの投与を行います。

子供が副腎性男性化症を持つ両親などは、副腎皮質ステロイド剤の飲み方と副作用について説明を受けて下さい。けがや発熱で強いストレスを受けた時は医師に報告し、薬の量を増やしてもらいます。副腎皮質ステロイド剤の服用を突然やめると、急性副腎不全を起こしますので、注意が必要となります。

🇹🇻副腎皮質機能高進症

副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドの過剰分泌によって、引き起こされる疾患

副腎(ふくじん)皮質機能高進症とは、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。クッシング症候群とも呼ばれます。

アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによって、初めて報告されました。

下垂体(脳下垂体)に腫瘍(しゅよう)ができ、そこから副腎皮質刺激ホルモンがたくさん出るために起こる場合と、副腎皮質に腫瘍(しゅよう)ができて起こる場合が主なものです。前者は下垂体依存性副腎皮質機能高進症、ないしクッシング病と呼ばれ、後者は副腎性副腎皮質機能高進症と呼ばれます。

副腎皮質機能高進症の原因としては、下垂体依存性副腎皮質機能高進症が約35パーセント、副腎性副腎皮質機能高進症が約50パーセントを占めるほか、時には、肺や膵(すい)臓、消化管にできた腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが多量に分泌され、副腎に働いてグルココルチコイドが過剰に分泌される場合もあります。女性に多くみられます。

近年、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)がネフローゼや白血病などの治療に、大量に用いられるようになったために人工的な副腎皮質ホルモン過剰が起こり、同じ症状を起こすことがあります。

副腎皮質機能高進症の症状としては、顔が丸くなり、にきびができやすくなります。肥満を起こしてきますが、手足はあまり太くならず、胴体が太いのが特徴です。また。肩や尻(しり)、太ももの筋肉が薄くなり、階段の上りなどがつらくなります。

そして、腹や太ももなどに皮膚伸展線である赤紫色のすじがみられ、皮膚が薄くなって、ちょっとしたことで青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病が起こることもあります。骨が薄くなって背骨の圧迫骨折を起こし、身長が低くなったり、背部痛が起こることもあります。

女性では、月経が不順になったり、無月経になったり、毛深くなります。

副腎皮質機能高進症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、副腎からグルココルチコイド(糖質コルチコイド)が過剰に分泌されていることを確認するために、血液検査や尿検査を行います。

下垂体の腫瘍や肺、膵臓などの腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが出て起こっている場合は、副腎皮質刺激ホルモンが増えています。一方、副腎の腫瘍からグルココルチコイドが出ている場合は、副腎皮質刺激ホルモンはかえって減っています。このどちらであるかを調べて、どこに原因があるかを明らかにします。

下垂体の腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。副腎の腫瘍の場合は、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査などを行います。

医師による治療としては、腫瘍の場合は下垂体でも副腎でも、手術を行って過剰なホルモンを作っている腫瘍を摘出することが最もよい方法です。

下垂体の腫瘍の場合は、経蝶形骨洞(けいちょうけいこつどう)手術という、鼻の穴から下垂体に達し頭を開けずに、顕微鏡や内視鏡で見ながら腫瘍を摘出する方法によって、以前に比べ楽に手術できるようになっています。手術で摘出し切れない場合や、体力的に手術が困難な人の場合は、注射や内服薬による治療、放射線療法などが行われます。

副腎の腫瘍の場合は、大きくなくて適応できれば、開腹せずに腹部に小さい穴を3カ所くらい開けて内視鏡と手術の道具を通し、副腎を摘出する内視鏡手術が数多く行われています。内視鏡手術の適応ができない時は、開腹や背中を開けて副腎を摘出します。体力的に手術が困難な場合などは、グルココルチコイドを作る副腎の働きを抑える薬を内服します。

🇹🇻副腎皮質機能低下症

副腎が損傷を受けて、副腎皮質ホルモンの分泌量が低下する疾患

副腎(ふくじん)皮質機能低下症とは、副腎機能の低下によって、すべての副腎皮質ホルモンが不足する疾患。アジソン病、慢性副腎皮質機能低下症、慢性原発性副腎皮質機能低下症とも呼ばれます。

副腎皮質ホルモンは、生命の維持に必要なホルモンで、健康な人では体の状態に合わせて適切に分泌されています。この副腎皮質ホルモンには、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)、アルドステロン(鉱質コルチコイド)、アンドロゲン(男性ホルモン)があり、副腎皮質機能低下症では、主にグルココルチコイド、アルドステロンの欠損症状が現れます。

副腎自体の疾患による場合と、副腎皮質ホルモンの分泌を調節する下垂体の疾患による場合とで、副腎皮質ホルモンの不足は起こりますが、このうち副腎自体の疾患が原因で慢性に経過したものが副腎皮質機能低下症です。下垂体の疾患で副腎を刺激しないために副腎の機能が低下するものは、続発性副腎皮質機能低下症(続発性副腎機能不全症)という副腎皮質機能低下症に似た疾患です。

副腎は両側の腎臓の上、左右に2つあり、両側の副腎が90パーセント以上損なわれると副腎皮質機能低下症になります。副腎が損なわれる原因として最も多いのは、副腎結核と自己免疫によるものです。まれに、がんの副腎への転移によるもの、先天性のものなどがあります。

副腎皮質機能低下症は1855年に、英国の内科医トーマス・アジソンによって初めて報告されました。あらゆる年齢層の人に、また男女いずれにも同じように発症します。乳児や小児の場合は、副腎の遺伝子の異常が原因です。

現れる症状はさまざまですが、主なものとして、色黒、倦怠(けんたい)感、脱力感、体重減少、食欲不振、便秘、下痢、低血圧、低血糖などが挙げられます。また、不安、集中力の低下などの精神症状や、腋毛(えきもう)、恥毛の脱落などもしばしば認められる症状です。体内のナトリウムイオンとカリウムイオンのバランスが崩れるので重症の場合、心停止を起こして死ぬこともあります。

自己免疫が関係する特発性の副腎皮質機能低下症の場合、甲状腺(せん)疾患や糖尿病、貧血、真菌症などを合併することが多く、これらの症状が現れることもあります。

副腎皮質機能低下症の初期では副腎皮質の障害が軽度なので、ホルモンの分泌も生活に支障を来さない程度に保たれています。自覚症状もはっきりしたものではなく、気が付かないことがほとんどです。

しかし、この状態の時に、けが、発熱などで強いストレスがかかった場合、急性副腎不全を来して危険な状態になることがあります。副腎皮質機能低下症の症状があった場合、内分泌・代謝を専門とする内科、ないし内分泌代謝内科の専門医を受診し、一度精密検査をしておくことが望まれます。

副腎皮質機能低下症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断においては、一般的な血液検査、尿検査に加え、ホルモンの検査、腹部CTなどが必要になります。

ホルモンの検査は、血液中の副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、尿中に排出される副腎皮質ホルモンなどを測定するほか、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)放出ホルモン(CRH)を投与した後の副腎や下垂体の反応により、副腎の機能を評価します。

そのほか、副腎を損なう原因を調べるため、結核など感染症に対する検査、がんの検査、自己免疫疾患の検査などが行われます。

内科、内分泌代謝内科の医師による治療においては、疾患の程度、日常生活に合わせて、副腎皮質ステロイド薬を補充します。通常、1日1〜2回の内服ですみますが、けがや発熱などで体に強いストレスがかかる場合は、それに応じて内服量を増やす必要があります。筋力の低下や全身消耗の強い場合は、副腎性アンドロゲン(男性ホルモン)を補充することもあります。

🇹🇻フグ中毒

フグの臓器に含まれる毒素によって起こる食中毒

フグ中毒とは、海産魚のフグの臓器、ことに卵巣、肝臓に含まれる毒によって引き起こされる食中毒。他の食中毒に比べて、患者数のうちの死者数の割合を示す致死率が極めて高いのが特徴です。

日本ではここ10年間の統計上、年間33〜61人のフグ中毒患者と1〜6人の死亡者がみられます。その多くが、フグ調理の資格を持たない一般人がフグを調理した結果起きています。しかし、フグ中毒に対する知識が高まったため、発生件数は減少傾向を示しています。

地域的には、近畿、中国、九州などの西日本、特に兵庫、大阪、広島、山口、岡山、愛媛など瀬戸内海沿岸の府県で多発しているのが特徴で、神奈川県でやや多い程度で他の東日本ではまれです。季節的には、冷凍フグの流通のために年間を通して食べられるようになっているものの、フグは鍋(なべ)を中心とする冬の季節料理であるために、冬期に多発しています。

フグ毒はテトロドトキシンと呼ばれ、神経刺激の伝導を遮断する作用を持っており、熱に強く、アルカリに弱いという性質があります。テトロドトキシンは、フグの卵巣、肝臓、腸管などに多く含まれていますが、毒フグの種類によって含有量の多少があります。

日本で最もよく食用にされるフグはトラフグで、そのほかマフグ、ヒガンフグ、ショウサイフグなどもありますが、ショウサイフグ以外はいずれも有毒なフグ。

フグ中毒は、食後20〜30分、遅くても4時間くらいで発症します。吐き気、嘔吐(おうと)に続いて、唇、舌のしびれ感が起こり、上肢、下肢の知覚まひ、さらに運動まひ、発声困難、呼吸困難を起こします。血圧が低下し、意識が混濁し、重症例では4時間くらいで呼吸停止を起こし死亡します。

なお、フグを食べた時に口の中がピリピリとしびれたりしたら、フグ毒の作用と考えられので口中を洗うなどの応急処置をすることが大切です。

フグ中毒の検査と診断と治療

フグの毒に対して、解毒剤や血清など特異療法は開発されておらず、神経毒であるテトロドトキシンによる呼吸困難が収まるまで人工呼吸器をつなげることが唯一の治療法となります。テトロドトキシンの解毒、排泄(はいせつ)に要する時間は8〜9時間とされており、その間呼吸を保てば、大部分は救命できます。

とりあえずの救急処置としては、テトロドトキシンがアルカリに弱いことを利用して、アルカリ製剤である炭酸水素ナトリウム(重曹)で胃洗浄を行ったり、活性炭末などの吸着剤の投与や、下剤、利尿剤の投与をしたりします。輸液も行われますが、心臓への負担に注意しなければなりません。

治療で最も重要なことは呼吸の管理なので、高濃度の酸素を用いた気管内チューブによる人工呼吸や、呼吸中枢刺激剤も積極的に使用されます。そのほか、血圧を上げる昇圧剤や強心剤なども対症的に投与されます。

フグ中毒の予防法は、死亡事故のほとんが素人料理によって発生しているため、釣ったフグを自分で調理して食べるのをやめることに尽きます。フグには種類鑑別の難しさや毒カの季節による変動、個体差などがあり、食用にするためには専門的な知識と技術が必要です。一般に、テトロドトキシンの毒力は猛毒の青酸カリの約1000倍で、100℃30分以上の加熱でもほとんど分解しないので、煮たり焼いたりの調理ではなくなりません。

特に、卵巣、肝臓などの内臓は、フグの種類にかかわらず決して食べてはいけません。一般消費者に販売されているフグでは、保健所に届出をした施設で卵巣や肝臓などの有毒部位を除去する処理が行われています。フグを取り扱う営業をするには、フグ処理者の資格を持ち、営業施設ごとに保健所長への届出が必要となっています。

🇯🇲副乳

正常とは異なった部位に退化した乳房が存在する状態

副乳とは、乳房の通常の存在部位である両側前胸部とは異なった部位に、乳頭、乳輪、あるいは乳腺(にゅうせん)組織が存在する状態。

副乳の多くは、わきの下や、通常の乳房の下内側に存在します。これは生まれ付きのものであり、そのうち乳頭だけが存在するものは副乳頭(多乳頭症)、乳腺組織が存在するものを副乳腺(多乳房症)と呼びます。

副乳の起源は、胎児期にあります。胎生6週ころに、両わきの下から乳頭、腹部の左右、ももの内側に至る乳腺提という表皮の堤状の肥厚ができ、この乳腺提に7~9対の乳腺元基という乳腺の基が現れます。胎生9週には、1対は通常の乳房になり、残りは退縮します。しかし、いくつかの乳腺元基が残って、発育することがあります。これが副乳であり、乳腺提の線上のどこにでも発育する可能性があります。

そもそも、人間や象のような少産種のほ乳動物では、1対のみの乳房を発育させるのに対して、ネズミやイノシシのような多産種のほ乳動物では、前足の両わきの下から後ろ足の間に至る乳腺提の線上に、複数対の乳房を発育させます。人間も胎児期には、通常の乳房以外の部位に乳房を発育させる要素を持っているため、副乳はそれほど異常な存在ではありません。

実際、左右ともに、あるいは片側だけに副乳のある人は、女性の5パーセント、男性の2パーセントに認められるといわれています。

副乳は不完全で退化した乳房であるため、外から見てわかる乳首、乳輪を備えていることは少なく、副乳があっても気付かないこともあります。目立たないため、ほくろやいぼと認識されることも多く、乳腺提の線上に対になったほくろがある場合、副乳の可能性もあります。まれに乳腺組織が存在し、少し発育して膨らみを生じる場合もあります。

女性が妊娠時に、わきの下に違和感を覚え、熱く感じたり、その部分の色が濃くなってきて、副乳の存在に初めて気が付くことがしばしばあります。

乳腺組織が存在する場合、通常の乳腺と同様にホルモン分泌に反応するため、女性では生理前のホルモン分泌の多い黄体期に副乳がはれてきたり、痛みを伴うことがまれにあります。

また、妊娠授乳期にも正常な乳腺と同様に乳腺も発育するため、乳汁(母乳)が出てくる産後3~4目ころからゴルフボールのようなしこりになって、はれたり、痛みを伴うことがあります。乳腺自体から乳汁が出てくることもありますが、副乳には乳汁が出る乳口がないことも多いので、中に乳汁がたまって乳腺炎を起こすこともあります。

妊娠授乳期においてのはれ、痛みの多くは、一時的なものであり、間もなく自然に消失します。しかし、強い痛みが生じたり、痛みが持続することもあります。妊娠ごとに、はれ、痛みを繰り返し生じることもあります。

副乳の乳腺がはれた場合は、局所を冷却し炎症を抑えることで少しずつ治めることができます。保冷剤をガーゼで包み、冷湿布することを何回か繰り返すと、はれも引き、しぼむような形になります。熱感がある場合は、洗面器の水にペパーミントの精油を5、6滴垂らし、おしぼりを数本入れて絞って冷蔵庫で保存、これで冷湿布することを何回か繰り返すと、かなり楽になるでしょう。

ちなみに、副乳にできる乳がん(異所性乳がん)は極めてまれであり、乳がん全体の0・4パーセントほどの頻度で生じ、そのうち3分の2はわきの下にできます。また、乳房の痛みを伴う乳がんは、あまり多いものではありませんので、副乳が痛んでも心配はいりません。

乳頭を備えていないけれど、わきの下に違和感を覚え、熱く感じたり、副乳が異常に大きいようで心配な場合は、婦人科、産婦人科、あるいは乳腺科、乳腺外科を受診することが勧められます。

副乳の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、あるいは乳腺科、乳腺外科の医師による診断では、わきの下のしこりが疾患によって生じていないかどうか検査します。

考えられるものとして、乳がん、リンパ腺(せん)の炎症、ほかの臓器のがんからの転移、リンパの悪性腫瘍(しゅよう)、汗腺や皮脂腺の疾患などがあり、副乳との見分けがつきにくい場合には、しこりの一部を採取して顕微鏡で調べる生検を行うこともあります。

婦人科、産婦人科、あるいは乳腺科、乳腺外科の医師による治療では、副乳に強い痛みが生じたり、痛みが持続する場合、ホルモン剤を投与し、ホルモン分泌を抑えます。

副乳に乳腺炎が起きた場合は、初期には冷湿布して、乳汁は注射針を刺して吸引した上、抗生物質を注射か内服で投与し、鎮痛消炎剤を内服で投与します。

婦人科、産婦人科、あるいは乳腺科、乳腺外科の医師による治療では、副乳に強い痛みが生じたり、痛みが持続する場合、ホルモン剤を投与し、ホルモン分泌を抑えます。

副乳に乳腺炎が起きた場合は、初期には冷湿布して、乳汁は注射針を刺して吸引した上、抗生物質を注射か内服で投与し、鎮痛消炎剤を内服で投与します。

副乳が乳首や乳輪だけの場合には、外科的手術でほくろやいぼを切除するような要領で切除して、皮膚を縫合することも可能です。

副乳に乳腺もある場合には、皮膚切除に加えて乳腺もくり抜いて切除することも可能です。くり抜いた部分が陥没しないように修正して、皮膚を縫合します。通常の乳腺と副乳の乳腺はつながっていないことがほとんどのため、外科的には乳房温存治療ができる可能性が高いといえます。

🇯🇲副鼻腔炎

副鼻腔に炎症が起き、鼻詰まりや鼻水、頭痛などの症状が起こる疾患

副鼻腔(ふくびくう)炎とは、鼻腔の周りにある副鼻腔の粘膜に細菌やウイルスが感染することなどによって炎症が起こり、鼻詰まりや鼻水、頭痛、歯の痛みなど、さまざまな症状が起こる疾患。

鼻の穴である鼻腔の周囲には、骨で囲まれた空洞部分である副鼻腔が左右それぞれ4つずつ、合計8つあり、鼻腔とつながっています。4つの副鼻腔は、目と目の間にある篩骨(しこつ)洞、その奥にある蝶形骨(ちょうけいこつ)洞、目の下にある上顎(じょうがく)洞、鼻の上の額にある前頭(ぜんとう)洞です。

4つの副鼻腔は、強い力が顔面にかかった時に衝撃を和らげたり、声をきれいに響かせたりするといわれますが、その役割ははっきりとはわかっていません。鼻腔や副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を粘液と一緒に副鼻腔の外へ送り出す働きを持っています。

副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に大きく分けることができます。

急性副鼻腔炎は、風邪などで、ウイルスや細菌が鼻腔に感染して炎症を起こし、それが副鼻腔にまで及ぶことなどで起こる急性の炎症で、通常は1~2週間で治ります。頭痛や顔面痛などの急性炎症症状が、起こります。

痛みの出る部位は、炎症の起こっている部位によって異なります。篩骨洞に炎症が起きた時は目のあたりに、上顎洞の炎症では頬(ほお)や歯に、前頭洞の炎症では額に痛みを感じ、蝶形骨洞の炎症では頭痛や頭の重い感じが現れます。

慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎が長引いたり、繰り返したりすることによって3カ月以上症状が続いているもので、蓄膿(ちくのう)症とも呼ばれます。炎症が長引くと、副鼻腔の分泌液の量が増えたり、その粘度が高くなったりして、自然孔より排泄されずにたまり、状態を悪くすることにつながります。さらに、たまった分泌液により粘膜肥厚が起こると、排泄がより困難となる悪循環に陥ります。

症状には、鼻詰まり、鼻水、頭重感などがあります。鼻水は粘液性のものや、膿性のこともあります。また、後鼻孔からのどへ鼻水が多く回り、これを後鼻漏(こうびろう)と呼びます。朝起きて、せきや、たんがやたらに出る人は、その可能性が高くなります。鼻詰まりのため口呼吸となり、のどへ回った鼻水が気管支へ入り、気管支炎を起こすこともあります。

頭重感は前頭部に起こることが多いのですが、頭全体が重苦しいこともあります。このほか、嗅(きゅう)覚障害を起こしたり、精神的に落ち着かず、集中力が低下することもあります。

鼻の炎症だけでなく、咽頭(いんとう)炎や扁桃(へんとう)炎などののどの炎症、カビの仲間である真菌、虫歯なども、副鼻腔炎の原因となることがあります。また、細菌感染のないアレルギー性鼻炎や気管支喘息(ぜんそく)、アスピリン喘息などのアレルギーによって起こる病気が、原因となることもあります。

両親が副鼻腔炎の場合は、子供も副鼻腔炎になることが多いという研究結果もあり、遺伝的な原因もあると考えられています。

副鼻腔炎を風邪や花粉症だと思って放置しておくと、慢性化して治療に時間がかかるようになります。薬などでの治療が難しくなると、手術が必要になります。また、副鼻腔炎は重症化すると目の合併症を生じ失明したり、脳膿瘍(のうよう)や髄膜炎を生じたりと重大な合併症を来すこともまれにあります。

副鼻腔炎の自覚症状があった場合は、重症化する前に耳鼻咽喉科、耳鼻科を受診することが勧められます。

副鼻腔炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行います。通常であれば、空洞であるはずの副鼻腔は黒く映り、骨は白く映りますが、副鼻腔炎になると、黒く映るはずの副鼻腔が白く映ります。これは、粘膜がはれたり、膿(うみ)がたまったりして空洞が埋まっているためです。さらに、手術をする前などにはより詳しく調べために、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うこともあります。

内視鏡を使って、粘膜がはれて鼻腔が狭くなっていないか、副鼻腔から膿が出ていないかなど、副鼻腔の状態を確認する場合もあります。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、急性副鼻腔炎の場合、症状を抑える消炎酵素薬、解熱鎮痛薬などとともに、抗菌薬を服用することが一般的です。抗菌薬を続ける期間は、一般的に2週間以内です。

そのほかに、たんや鼻水を出しやすくする気道粘液修復薬、気道粘液溶解薬、気道潤滑薬などが使われます。

慢性副鼻腔炎の場合、副鼻腔の洞内の粘液を排出しやすくして、粘膜のはれをとるために、鼻腔内に血管収縮薬をスプレーします。次いで、粘液を出してきれいになった鼻腔、副鼻腔に抗菌薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。

また、蛋白(たんぱく)分解酵素薬を内服することで、粘液、膿汁を少なくします。近年、マクロライド系抗菌薬の少量長期間内服が、効果的と判明し行われています。

これらの治療が有効なのは軽度の場合で、程度によっては手術をします。手術には、鼻腔内から副鼻腔を開放して、膿や粘膜を取り除く方法、上唇の内側と歯肉の境目の口腔粘膜を切開し上顎洞を開放する方法があります。篩骨洞や前頭洞では、鼻外からの手術も行われます。多くは局所麻酔で行われ、1~2週間の入院が必要です。最近では、内視鏡を用いる手術が盛んになっています。

子供の場合、副鼻腔は発達段階にあり、手術をすると歯の発育や顔の形に影響を与えることもあり、原則として手術は行いません。どうしても手術が必要な場合は、15歳ぐらいになってからがよいでしょう。

🇯🇲副鼻腔がん

ほとんどが最も大きい副鼻腔の上顎洞から発生

副鼻腔(びくう)がんとは、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞である副鼻腔より、発生するがん。

副鼻腔の空洞は、ほおの奥の上顎洞(じょうがくどう)、鼻の両わきの篩骨洞(しこつどう)、まゆ毛の部分の前頭洞、篩骨洞の奥のほうの蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)の4種類があります。がんのほとんどは、最も大きい空洞である上顎洞の粘膜から発生しますので、上顎洞がんと呼ばれることもあります。次いで多いのは、篩骨洞に発生するがんです。

耳鼻咽喉(いんこう)科関係のがんとしては、女性に比べて男性にやや多く発生するものの、その差はそれほど大きくはありません。年齢的には、40〜60歳代に多くみられます。

原因は、明らかではありません。ある種の木材や金属の微細な粉を日常的に吸いこんでいる人に多くみられる傾向は、認められています。慢性副鼻腔炎が副鼻腔がんの原因になるとは、考えられていません。

副鼻腔は空洞になっているために、がんが増殖できる空間があり、まだ周囲が圧迫されていない初期においては、ほとんどの人ははっきりした症状がありません。これより進んで、周囲の組織や骨を破壊するようになると、 がんらしい症状が出てきます。

例えば、上顎洞がんが下のほうに発生して空洞のほうへ広がると歯肉がはれてきたり、歯がぐらぐらしてきたり、痛んだりします。歯科医に抜歯してもらった傷跡がいつまでも治らないなどということから、発見されることもあります。

上顎洞の鼻腔に近い所から発生すると、鼻腔の中にがんが出てきて、片側の鼻詰まりが生じたり、鼻汁に血が混じったりします。上方に進めば、目の症状が現れ、ものが二重に見えたり、片方の目から涙があふれたり、眼球が前方へ突き出たり、側方に押されたりします。

最もよくみられる症状に、ほおがはれてくることがあります。この場合は上顎洞の前のほうにがんが広がってきています。上顎洞の後ろのほうから発生すると、口が開きにくくなったり、ほおや目の奥が痛んだり、逆に感覚が鈍くなったりと、三叉(さんさ)神経痛のような症状になります。

副鼻腔がんの検査と診断と治療

副鼻腔がんが疑われる症状があれば、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診します。

医師は、鼻腔や口腔を観察するほか、ほおのはれの範囲や骨破壊の状況を指で探って調べます。X線検査やCT検査(コンピューター断層撮影)、MRI検査(磁気共鳴画像撮影法)で副鼻腔がんらしい組織が見付かれば、その小片を切除して顕微鏡検査を行います。 がんが外に出ていないのに症状があったり、X線検査やCT検査、MRI検査でがんの疑いがあれば、試験的に上顎洞に小さな穴をあけてみることもあります。

治療では、放射線治療、抗がん剤の動脈内注入法(化学療法)、手術療法の三者併用療法が行われます。この方法が行われるようになってから、以前のように大きな顔面欠損や、眼球摘出を伴うような手術を行うことは少なくなりました。

しかしながら、非常に進行したがんや、放射線治療後に再発した場合には、やむなく眼球や顔面の皮膚を含めて大きく切除します。切除後の変形は、再建外科の進歩により修復可能となりました。

例えば、顔面の皮膚や上顎骨を切除した欠陥部分には、肋骨(ろっこつ)や背中の皮膚を移植したり、胸の筋肉を使用して再建形成します。

治療開始が早いほど、予後は良好です。5年間再発しないで健康である率は、約50〜60パーセント。

🇯🇲副鼻腔真菌症

真菌が副鼻腔に入り込むことが原因で、副鼻腔炎の症状を起こす疾患

副鼻腔真菌症(ふくびくうしんきんしょう)とは、カビの仲間である真菌が副鼻腔に入り込むことが原因で、副鼻腔炎の症状を起こす疾患。真菌性副鼻腔炎とも呼ばれます。

鼻の穴である鼻腔の周囲には、骨で囲まれた空洞部分である副鼻腔が左右それぞれ4つずつ、合計8つあり、自然孔という小さな穴で鼻腔とつながっています。4つの副鼻腔は、目と目の間にある篩骨(しこつ)洞、その奥にある蝶形骨(ちょうけいこつ)洞、目の下にある上顎(じょうがく)洞、鼻の上の額にある前頭(ぜんとう)洞です。

4つの副鼻腔は、強い力が顔面にかかった時に衝撃を和らげたり、声をきれいに響かせたりする働きがあるとされますが、その役割ははっきりとはわかっていません。鼻腔や副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を粘液と一緒に副鼻腔の外へ送り出す働きを持っています。

真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称で、菌類に含まれており、健康な人の体内に常にいるものや、空気中のあらゆる所に浮いている胞子が体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。健康である限り真菌に感染することはありませんが、体の抵抗力が落ちていたり、何らかの疾患で免疫力が低下している人が、真菌の胞子に接触すると感染し、副鼻腔真菌症を起こすことがあります。

副鼻腔真菌症を発症すると、多くは副鼻腔の片側に症状が出ます。特に、目の下にある上顎洞に真菌が入り込んで塊を形成することが多く、上顎洞真菌症、真菌性上顎洞炎と呼ばれることもあります。

真菌の中でも、呼吸器を侵すアスペルギルスが最も多い原因となっています。それ以外には、肺や鼻や脳を侵すムコール、口や肺などを侵すカンジダなどが原因になっています。

これらの真菌は体内に普通に存在しており、通常炎症を起こしませんが、体の抵抗力が落ちている人や高齢者、抗生物質を飲んでいる人、あるいは免疫の疾患などで副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を飲んでいる人、免疫抑制剤を飲んでいる人など、免疫力が低下している人に起こりやすいとされています。糖尿病や悪性腫瘍(しゅよう)などの基礎疾患がある人も、注意が必要です。

また、真菌に対するアレルギーを持っている人が、副鼻腔内でアレルギー反応を起こすことが原因で起こる場合もあり、アレルギー性真菌性副鼻腔炎と呼ばれており、多くは喘息(ぜんそく)を合併します。

症状としては、左右どちらか片側の鼻腔から膿(のう)性、または粘性の鼻水が出てきます。悪臭を伴ったり、チーズ様の物質が鼻腔から出てくることがあります。頬部(きょうぶ)痛、頬部腫脹(しゅちょう)、鼻詰まり、鼻出血などの症状が出る場合もあります。

大半は副鼻腔に限られた炎症にとどまることが多いものの、糖尿病が非常に悪化したり、免疫機能が低下したりして全身状態が悪くなると、目や脳の中に炎症が進み、上顎洞の骨を破壊して周囲に広がることがあります。この場合には、高熱、激しい頭痛、頬部腫脹、眼球突出、視力障害などを起こします。

糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患があり、虫歯がないのに左右どちらかの鼻腔から悪臭を伴った鼻水が出てきて、反対側は全く症状がない場合は、要注意です。早めに耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診することが勧められます。

副鼻腔真菌症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。画像には通常、片側の副鼻腔に影が見られ、影の中心にはモザイク状の石灰化が見られるのが特徴的です。長期にわたる炎症を反映して、上顎洞の壁の骨が厚くなって見えることもあります。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、上顎洞に起こった場合、洞内を複数回洗浄しますが、洗浄のために洞内に針を刺したり、細い管を副鼻腔に挿入するので痛みを伴います。真菌に対する抗真菌剤の投与は、一般に行われません。

洗浄で改善されなければ、手術を行います。内視鏡下に行う鼻内副鼻腔手術で、副鼻腔と鼻をつなぐ自然孔を広げた上で、副鼻腔内の真菌の塊を完全に摘出し、粘膜を洗浄します。手術後は広げた自然孔から副鼻腔洗浄を定期的に行い、ほとんどの場合は手術後2~3カ月で、副鼻腔の粘膜は正常になります。

まれに悪化し、上顎洞の骨が破壊された場合は、真菌に対する抗真菌剤を全身投与し、鼻の外側から切開して感染した病変を完全に取り除く必要が生じます。

🇨🇻腹壁ヘルニア

腹壁の穴から、腹中の内臓が腹膜に包まれたまま脱出

腹壁ヘルニアとは、腹部の内臓が腹膜に包まれたまま、先天的または後天的にできた腹壁の穴から脱出する状態。

内臓が脱出する穴をヘルニア門、脱出する内臓をヘルニア内容物、脱出した内臓を包む腹膜をヘルニア嚢(のう)といいます。通常、ヘルニア嚢は次第に大きくなり、肥厚してきて、体表面が膨らんでで見えることもありますが、はっきりしない場合もあります。ヘルニア内容物は腹腔(ふくくう)内臓器のすべて、すなわち肝臓、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化器官や腎臓(じんぞう)、尿管、膀胱(ぼうこう)といった泌尿器官、さらに女性では卵巣、子宮といった生殖器官がなり得るのですが、腸が多いのでよく脱腸と呼ばれます。

最も一般的な腹壁ヘルニアは、腹部の手術の傷口の部分にみられるもので、腹壁瘢痕(はんこん)ヘルニアと呼ばれています。ほとんどの場合、ヘルニア嚢は強い腹圧がかかると簡単に脱出し、その脱出は腹の力を抜いたりすることで自然に元に戻ります。時には、突出したまま元に戻らなくなることもあります。

その状態を嵌頓(かんとん)ヘルニアと呼び、腸が嵌頓した場合には腸閉塞(へいそく)となり、突出する腹壁の穴が小さいと腸が締め付けられて、血液の流れが妨げられる絞扼(こうやく)性腸閉塞となり、診断や治療の遅れは命にかかわります。

腹壁ヘルニアの原因は、それぞれの疾患によって異なります。腹壁瘢痕ヘルニアは、手術によって腹壁を支える筋膜と呼ばれる強固な膜に欠損部ができ、ここから腹膜に包まれた内臓が脱出します。ほかの腹壁ヘルニアでは、先天的または外傷などによって後天的にできた腹壁のくぼみに、腸などが入り込んだり滑り込む形で脱出します。

症状としては、腹痛を覚えることがあるものの、鈍痛や違和感程度の不定愁訴であることや無症状のこともあります。また、突然の激しい腹痛や吐き気、嘔吐(おうと)などの腸閉塞症状で明らかになることもあります。

腹壁ヘルニアの検査と診断と治療

激しい腹痛、吐き気、嘔吐などの腸閉塞症状を認めたら、すぐに外科、あるいは消化器科の専門医を受診します。

腹壁瘢痕ヘルニアの場合は、手術の傷口の突出を見れば容易に診断できます。ほかの腹壁ヘルニアの場合は、CT検査などを行っても診断が困難なことが少なくありません。

ヘルニアが嵌頓状態の場合は、緊急に嵌頓を解除しなければ絞扼性腸閉塞になるため、緊急手術で解除します。手術以外の方法で嵌頓が解除された場合も、ヘルニアの原因は修復されていないため、手術で原因となった構造を修復する必要があります。

しかし、腹壁瘢痕ヘルニア以外の腹壁ヘルニアでは、診断がつかずに開腹手術となり、手術で初めて原因がわかることがほとんどです。

手術方法は大きく、2つの方法に分かれます。1つは自分の体の組織を用いて穴をふさぐ方法で、穴が小さい場合や人工物を用いたくない場合などに行われます。穴を縫い合わせた部位に緊張がかかるため、突っ張り感や再発の可能性が高くなります。

もう1つは人工物を用いて修復する方法で、メッシュと呼ばれる体内に埋め込んでも安全な手術用の糸などの素材を用いて作られた布を用います。メッシュを用いる方法には、メッシュ&プラグ法、リヒテンシュタイン法、クーゲル法、PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法など各種あります。

🇨🇻ふけ症

頭部の角質片のはがれ落ちが目立つ疾患

ふけ症とは、頭部の表皮の角質層が大小の角質片であるふけとなって、はがれ落ちるのが目立つ疾患。頭部粃糠疹(ひこうしん)とも、乾性脂漏とも呼ばれます。

頭皮だけでなく全身の皮膚の表面からは、絶えず角質が自然にはがれ落ちています。この角質の細胞は非常に小さいために、目で見ることができません。ふけというのは、角質に皮膚の脂やごみが混ざり、細かい米ぬか状の白色、ないし灰色の角質片となってはがれ落ちたものです。

健康な人でも生理的な現象として軽度のふけはみられますが、頭皮の新陳代謝が速まって角質がどんどんはがれ落ち、くしでとかすと肩に大小のふけが目立つ場合は病的と考えられます。一般的に、乾いたサラサラのふけを乾性ふけ、粘っこく重いふけを脂性ふけと呼びます。

ふけ症の原因として、男性ホルモンであるアンドロゲンの影響が指摘されています。しかし、ふけの程度と皮脂の量は必ずしも比例しません。頭部の毛嚢(もうのう)に住み着いている微生物、特にかび(真菌)の一種である癜風(でんぷう)菌の量が増えており、これを抑える薬用シャンプーでふけが減ることから癜風菌が原因との説がありますが、関係はないとの説もあります。

20歳代がピークで、その後、特に誘因もなく、ふけの量が増えたり減ったりします。40〜50歳代になると、自然に軽快する傾向にあります。普通、かゆみはなく、あっても軽度です。

ふけ症として治療が必要になってくるのは、ほかの疾患の症状、脂漏性皮膚炎や乾癬(かんせん)などがある場合です。これらの真菌によって起こる疾患では、頭の皮膚が赤くなったり、かゆみを伴ったりしています。また、ふけがかさぶたのように大きく、固着する傾向のある時も、ほかの疾患の症状と考えられます。

そのほか、若い男性の若はげの前兆として、ふけと抜け毛が多くなることもあり、粃糠性脱毛症と呼ばれます。

ふけ症の検査と診断と治療

自分でできるふけ症の対処法として、抗真菌薬であるケトコナゾールを含有するシャンプー(コラージュフルフル)を始め、真菌を抑制するジンクピリジンチオンを含有するメリットシャンプー、カロヤンなどのヘアートニックを用います。これらは、薬局で市販されています。洗髪回数としては、毎日1回または1日おきが適当であり、洗いすぎは逆効果のことがあります。

日常生活での対処で効果が見られない場合、ほかの疾患の症状としてふけ症がある場合は、皮膚科を受診します。

ふけ症の特別な検査はありませんが、脂漏性皮膚炎、皮膚の角質が異常増殖する乾癬、水虫の原因である白癬菌が頭皮に感染する頭部白癬、頭虱(あたまじらみ)との区別が必要です。抜けた毛やふけの顕微鏡検査により、白癬菌や頭虱の虫卵の有無が診断されます。

専門医による治療としては、せっけんでよく洗い、皮膚の状態に合わせて副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)のローションを1日に2〜3回、擦り込むと効果があります。

🇨🇻ブシャール結節

手指の中央の関節である第2関節に、はれ、痛み、変形が現れる疾患

ブシャール結節とは、手指の中央の関節である第2関節に、はれ、痛み、こわばり、変形などの症状が現れる疾患。結節とは、指関節の背側に骨の変形によってできる盛り上がりをいいます。

手指の変形性関節症の一つで、手指の一番先の第1関節に現れればヘパーデン結節、第2関節に現れればブシャール結節と呼ばれます。

長年の指の使用や繰り返される過度の負担のために、加齢に伴って第2関節の軟骨が擦り減って、周囲の骨が変形するために、ブシャール結節を発症します。

進行すると、手指の曲げ伸ばしができなくなったり、手指が横に曲がった状態で固まってしまったりします。同時に、指関節の背側の一部がこぶのように盛り上がってしまうことがあり、骨棘(こっきょく)とも呼ばれます。ぞうきんを絞ることができなかったり、字を書くことが不便になったりすることもあります。

通常、ブシャール結節は一つの手指から始まり、次第に両側の手指の第2関節に広がっていく特徴があります。

中高年、特に女性に多く発症します。また、手指の第1関節に現れるへバーデン結節の20パーセント程度に合併して、ブシャール結節が現れます。

手指の第2関節のはれ、痛み、こわばり、変形が続く場合には、関節リウマチやほかの膠原(こうげん)病の可能性もあるため、整形外科を受診し、関節リウマチなどと見分けた上で、対処することが勧められます。

ブシャール結節の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、手指の第2関節のはれ、痛み、こわばり、変形、盛り上がりがあり、X線(レントゲン)検査で関節の透き間が狭くなったり、関節を形成する軟骨が擦り減ったり、骨棘があることが認められれば、ブシャール結節と確定できます。

関節リウマチやほかの膠原病との鑑別のために、血液検査を行う場合もあります。関節リウマチでは、手指の第2関節のほか、手首、肘(ひじ)など全身の関節に症状が現れます。

整形外科の医師による治療では、保存的療法として局所の安静や固定、投薬、局所のテーピング、温熱療法、運動療法などが行われます。急性期では、局所の固定、非ステロイド消炎鎮痛剤の投与、軟こう塗布、少量のステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の関節内注射などが行われます。

保存的療法で痛みが改善しない時や、変形がひどくなったり関節の動揺性がひどくなって日常生活に支障を来す場合は、手術療法として、第2関節の固定をする関節固定術や、骨棘を切除して関節を整える関節形成術などを行うこともあります。

対処法としては、第2関節が痛む時は指を動かさないように安静を心掛けます。痛くても使わなくてはならない時は、テーピングがお勧めです。ふだんでも、指先に過度な負担が生じることを避けます。

🇵🇾不整脈

心臓の拍動のリズムに乱れが生じる疾患

不整脈とは、一定感覚で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患。私たちが平常測っている脈拍は、心臓の拍動によって送り出された血液の流れにより動脈に伝えられて起こるもので、厳密には心拍数そのものではありません。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が正常に働かなくことによって、拍動のリズムに乱れが生じてしまいます。

不整脈は、脈が不規則になる期外収縮、脈が速くなる頻脈性不整脈、脈がゆっくりになる徐脈性不整脈の3つに分類されます。

期外収縮は、いわゆる脈飛びを伴う不整脈です。平均的な心拍数を考えれば、1秒間に1回は必ず心臓が拍動していることになりますが、期外収縮では急に1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを伴います。期外収縮の場合、症状が健康な人にもみられることがあるため窮迫した疾患ではないといえますが、発作が連続して起こる場合は危険といえます。原因として考えられるのは、心房がけいれんすることによって起こる心房細動。

頻脈性不整脈は、1分間当たりの心拍数が100回を大きく上回る症状をみせます。人間の血液量は一定なので拍動する回数が多くなると、1回の拍動で送り出される血液量が少なくなり、血圧の低下を招きます。頻脈性不整脈を来す病態には、心房細動、発作性上室性頻拍、心室頻拍、心室細動、WPW症候群などがあります。

徐脈性不整脈は、1分間当たりの心拍数が40回以下まで下回る症状をみせます。血流量が減少するため、貧血を起こしやすくなります。徐脈性不整脈を来す病態には、洞不全症候群、房室ブロックがあります。

不整脈で現れる症状は、不整脈の種類によって異なります。期外収縮では、めまいや動悸(どうき)などを伴います。頻脈性不整脈では、動悸や血圧の低下による息苦しさなどが起こります。短時間、胸が痛くなることもあります。徐脈性不整脈では、貧血やめまい、ふらつきなどの症状が現れ、息切れが起こったり、失神することもあります。

不整脈の原因としてもっとも多いのは、加齢によるものです。年を取ると誰でも少しずつ不整脈になっていきます。次に、ストレス、過労、睡眠不足が原因になってきます。基本的には狭心症や心筋梗塞(こうそく)とは別の疾患ですが、すでに心臓の疾患があると、不整脈になりやすいのも事実です。また、頻脈性不整脈の原因となっているのは、心臓の動きにかかわる電流に過電流を起こす部位があるためである、という研究結果もあります。

なお、脈が触れなくなった場合は、心室細動と心停止が考えられます。心室細動は不整脈の中でも危険な状態で、心臓の心室がけいれんを起こし、血流が停止し、意識がなくなります。1分間の心拍数は300~600回になるといわれ、心臓から血液が送られないため、すぐに意識を失い、数分で脳死が始まるともいわれています。すぐに心臓マッサージを開始しなければ死亡に至る大変、危険な状態です。

不整脈の検査と診断と治療

不整脈の症状は、その原因や発症部位によって異なりますが、重症な疾患に至る恐れがあるので、早期に専門医の診断を受ける必要があります。

医師による不整脈の治療に当たっては、検査による症状の特定が重要になってきます。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などが行われます。いずれの検査も、痛みは伴いません。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

不整脈の内科治療では、抗不整脈薬という心拍数を正常化する働きのある薬を中心に行われます。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用いられます。

不整脈の外科治療では、徐脈性不整脈に対して、ペースメーカーの埋め込み手術などが行われます。ペースメーカーは、遅くなった自分の脈の代わりに、心臓の外から電気刺激を与える装置です。この装置の埋め込み手術は、肩の皮膚の下に電気刺激を発する小さな電池と、その刺激を心臓に伝えるリード線を入れるだけですから、局所麻酔で簡単にすますことができます。

最近では、頻脈性不整脈に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の過電流になっている部位を焼き切って正常化する、カテーテル・アブレーション法という新しい治療法が行われています。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴い心房粗細動、心室頻拍、心室細動などを生じる重症頻脈性不整脈に対しては、直流通電(DCショック)が行われます。また、慢性的に重症心室頻拍、心室細動の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

🟧「酒のエナジードリンク割りは危険」、農水省が注意喚起 過去には中毒死も

 酒とエナジードリンクを一緒に飲むとカフェインの過剰摂取による健康被害につながりかねないとして、農林水産省が注意喚起しています。5月8日に問い合わせが相次いだことを受けての対応で、同省は直前に人気ユーチューバーが酒とエナジードリンクを一緒に飲む動画を投稿した影響とみています。 ...