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2022/08/11

🇮🇩ガラクト-ス血症

糖の一種であるガラクトースを代謝する酵素系の障害のために、体内にガラクトースがたまる遺伝的疾患

ガラクトース血症とは、糖の一種であるガラクトースを代謝する酵素系の障害のために、体内に大量のガラクトースがたまる疾患。先天性代謝異常症の一種です。

ガラクトースは乳糖(ラクトース)という糖の構成成分で、乳糖は母乳、ミルクに多く含まれています。ガラクトースとブドウ糖(グルコース)の2種類の糖が結合してできている乳糖は、乳糖分解酵素によってガラクトースとブドウ糖に分解され、小腸で吸収されます。人間は、ガラクトースをそのまま利用できないため、肝臓でブドウ糖に作り変えて利用しています。

このガラクトースをブドウ糖に変換する酵素系の障害により、授乳開始直後から体内に大量のガラクトースがたまって、血液中のガラクトース値が上昇し、尿中にも多量に排出される、いわゆるガラクトース尿がみられ、新生児期あるいは乳幼児期にガラクトース血症を発症します。

健康な人のガラクトースの値は、血液1dℓ中1mg程度ですが、ガラクトースの代謝に異常があると、ガラクトースとその誘導体であるガラクトース1リン酸が体内に蓄積し、さまざまな症状が現れます。

ガラクトース血症は、ガラクトースの代謝のどの過程に異常があるかにより、ガラクトース血症Ⅰ型(トランスフェラーゼ欠損症)、ガラクトース血症Ⅱ型(ガラクトキナーゼ欠損症)、ガラクトース血症Ⅲ型(エピメラーゼ欠損症)の3つに分類され、いずれも常染色体劣性遺伝の形をとります。

ガラクトース血症は早期発見、早期治療により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっており、このスクリーニングで発見される頻度は、ガラクトース血症Ⅰ型が100万人に1人、ガラクトース血症Ⅱ型が50万人に1人、ガラクトース血症Ⅲ型は10万人に1人とされています。

最も症状の重いのは、ガラクトース血症Ⅰ型です。ガラクトース1リン酸ウリジルトランスフェラーゼ、略称トランスフェラーゼという肝臓の酵素が欠けているために、血液中のガラクトースとガラクトース1リン酸の量が増加するタイプで、尿中に多量のガラクトースが排出されてきます。

ほとんどの新生児で、生後2週間以内に授乳力低下、嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状が現れ、体重の増加が悪くなります。低血糖がみられ、肝臓がはれ、黄疸(おうだん)が長引き、肝機能障害がみられます。細菌が感染しやすく、敗血症、髄膜(ずいまく)炎などで重症になることが多いといわれています。

このまま授乳を続けると、肝障害が進行し、肝硬変になります。この結果、肝臓で作られる出血を止める成分が欠乏し、体のあちらこちらに内出血が起こるようになります。腎臓(じんぞう)にも影響が現れ、アミノ酸尿が起こるようになります。

新生児のころから目が白内障となり、脳浮腫(ふしゅ)が起こって、筋肉の緊張が低下します。乳児期以降まで治療が行われないと、知能や運動機能の発達が遅れます。

ガラクトース血症Ⅱ型は、ガラクトキナーゼという肝臓の酵素が欠けているために、血液中のガラクトースの値が上昇し、尿中に大量に排出されるものの、ガラクトース1リン酸の血液中の値は上昇しないタイプ。

起こる障害は目の白内障だけで、ガラクトース血症Ⅰ型のような低血糖、黄疸、知能や運動機能の障害などは起こりません。

ガラクトース血症Ⅲ型は、赤血球に含まれるエピメラーゼという酵素が欠損しているために、赤血球中のガラクトース1リン酸の値が上昇し、ガラクトースの値は正常なタイプ。

新生児の集団スクリーニング検査が開始されてから見付かるようになった疾患で、かなりの頻度で発見されています。しかし、肝機能障害や白内障などの障害は起こらず、通常無症状とされています。

これは、エピメラーゼが欠損しているのは赤血球だけで、肝臓などのほかの臓器や組織でのトランスフェラーゼやガラクトキナーゼの活性には異常がみられないためといわれています。

ガラクトース血症の検査と診断と治療

ガラクトース血症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。

スクリーニングセンターでは、ペイゲン法、ボイトラー法、藤村法などを組み合わせた検査で、血液中のガラクトースとガラクトース1リン酸の量とともに、赤血球のトランスフェラーゼなどの酵素の活性を測定するなどして、ガラクトース血症を発見しています。

結果に異常のある場合、小児科の医師による診断で、精密検査が行われます。血液中や尿中のガラクトースは新生児の肝臓病や血管の奇形、他の代謝異常症でも高値になることがあるので、最終的な診断には酵素活性を測定して、それが低下していることを確かめます。

小児科の医師による治療は、ガラクトース血症Ⅰ型、ガラクトース血症Ⅱ型ではガラクトース、すなわち乳糖を食事から除去することが原則で、乳糖を除去した無乳糖乳や豆乳を用います。

治療としては、母乳ならびに保育用ミルクの投与を中止し、無乳糖乳や豆乳(市販名ボンラクト、ラクトレス、ラクトースフリーなど)を用いることによって、大部分は症状が軽快します。

離乳食が始まると、乳製品はもちろんのこと、乳糖を含むさまざまな食品を除去する必要があります。3歳ぐらいになるとガラクトース代謝を代行する代謝経路ができるので、2歳までは厳密に行い、5歳以降は普通食でもよいとされています。

しかし、早期の治療が行われたとしても完全にコントロールすることが難しい場合は、乳糖やガラクトースの制限は生涯続けることが必要で、中断すると再び症状が現れてきます。

また、この疾患の経過は必ずしも順調とはいえず、食事療法を厳格に行っているのに、心身の発育に遅れや神経症状が出現したり、女児の場合は卵巣の障害などが出現したりすることもあります。従って、代謝を専門とする医師の定期的な診察を受けることが大切です。

ガラクトース血症Ⅲ型では、治療の必要がないとされ、食事療法も必要ありません。ただし、ガラクトース血症Ⅰ型と同じ障害を起こすケースもあるという報告もあるので、代謝を専門とする医師の一定期間の経過観察が必要です。

2022/08/10

🇶🇦肝外門脈閉塞症

腸などから肝臓につながる門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈圧高進症を起こす疾患

肝外門脈閉塞(かんがいもんみゃくへいそく)症とは、腸などから肝臓につながる静脈である門脈が肝臓の入り口付近で詰まる疾患。この位置で門脈が詰まると、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症という病態になり、さまざまな症状が起こります。

原因となる疾患の有無により、一次性と二次性に分けられます。原因が明らかでない一次性は小児に多く、二次性は成人に多いといわれています。

一次性の考えられる原因としては、門脈の先天性の奇形、新生児期や乳児期の臍(さい)炎、敗血症、腹膜炎などの炎症に伴う門脈系の凝固異常などが推測されています。二次性の原因としては、肝硬変、特発性門脈圧高進症、腫瘍(しゅよう)、血液疾患、肝外胆管炎、膵(すい)炎、開腹手術などがあります。

男性、女性を問わずに、肝外門脈閉塞症は起こり、特に男女差はありません。発症年齢では、10歳代以下と40歳代以降に好発します。一次性の年間発生者数が40~60人、二次性の年間発生者数が300~400人と推定されています。

大静脈である門脈には、腸全体を始め、脾(ひ)臓、膵臓、胆嚢(たんのう)から流れ出る血液が集まります。門脈は肝臓に入ると左右に分かれ、さらに細かく枝分かれして肝臓全体に広がります。血液は肝細胞との物質の交換を行った後は、末梢(まっしょう)の肝静脈に流れ出して、大きな3本の肝静脈に集められ、さらに下大静脈を介して体循環に戻り心臓へと向かいます。

門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症になると、門脈から体循環に直接つながる静脈の発達が促され、肝臓を迂回(うかい)するルートが形成されます。この側副血行路と呼ばれる海綿状血管のバイパスによって、正常な体では肝臓で血液から取り除かれるはずの物質が、体循環に入り込むようになります。

側副血行路は特定の部位で発達しますが、食道の下端にできた場合は特に注意が必要で、血管が拡張し曲がりくねって、食道静脈瘤(りゅう)を形成します。拡張した血管はもろくなって出血しやすく、時に大出血を起こし、吐血や下血などの症状が現れます。

側副血行路はへその周辺部や直腸で発達することもあり、胃の上部にできた静脈瘤も出血しやすく、時には大出血となりますし、直腸にできた静脈瘤もまれに出血することがあります。

脾臓は脾静脈を通じて門脈に血液を供給しているため、門脈圧の高進はしばしば脾臓のはれを引き起こします。脾機能高進による血球破壊のために、貧血を生じることもあります。

蛋白(たんぱく)質を含む体液である腹水が肝臓と腸の表面から漏れ出して、腹腔(ふくくう)が膨張することもあります。

肝外門脈閉塞症では門脈圧が高い傾向にあり、食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血頻度が高いのが特徴となっています。

肝外門脈閉塞症の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、超音波検査、血管造影で側副血行路の海綿状血管の増生を証明することが重要で、ほかには門脈圧高進症に伴う検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療は、門脈圧高進症に伴う食道静脈瘤、胃静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路と呼ばれるバイパスを遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

多くの症例では、肝機能がほぼ正常に保たれています。食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば、経過は良好です。

🇾🇪肝吸虫症

肝吸虫の寄生によって引き起こされる寄生虫病

肝吸虫症とは、肝吸虫のメタセルカリアが寄生しているコイ、フナ、モツゴなどの淡水魚を刺身、または加熱処理が不十分な状態で食べて、引き起こされる寄生虫病。

肝吸虫は、朝鮮半島、日本列島、台湾、中国南部など極東に広く生息し、東南アジアのベトナムにも生息しています。日本では、八郎潟、利根川流域、琵琶湖湖畔、岡山県の児島湾沿岸、四国の吉野川流域、九州の筑後川流域などに広く生息しています。

淡水魚を刺身や加熱処理が不十分な状態で人が摂食すると、メタセルカリアは人の腸管で幼虫となり、逆行して肝臓内の胆管や胆囊(たんのう)に至り、約1カ月で成虫となります。 成虫は雌雄同体で、平たい柳の葉のような形をしており、体長10~20ミリ、体幅3~5ミリで、20年以上生存することができます。

この成虫は寄生している胆管内などで、1日に約7000個の虫卵を産みます。虫卵は胆汁とともに十二指腸に流出、最終的に糞便(ふんべん)とともに水中に流出しても、孵化(ふか)しません。第1中間宿主(しゅくしゅ)で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、マメタニシに摂食されると、消化管内で孵化してセルカリアに成長、さらに第2中間宿主の淡水魚に入り、メタセルカリアに成長します。第2中間宿主となる淡水魚は、コイ科を中心にコイ、フナ、ウグイ、モツゴ、ホンモロコ、タモロコ、タナゴなど約80種を数えます。

軽症の肝吸虫症では通常、無症状に経過します。重症の肝吸虫症になると、腹部不快感、食欲不振、発熱、悪寒、上腹部痛、圧痛を伴う肝腫大(しゅだい)、下痢、軽度の黄疸(おうだん)、および好酸球増加が起こります。慢性に経過すると、胆管炎が肝実質の委縮、門脈線維症、肝硬変に進行することもあり、多量の肝吸虫が胆道を閉塞(へいそく)すると、黄疸が起こります。その他の合併症として、化膿(かのう)性胆管炎、慢性膵(すい)炎、胆管がんが起こることもあります。

肝吸虫症の検査と診断と治療

日本での肝吸虫症はほとんどが軽症ですが、重症の肝吸虫症に気付いた際には、内科、消化器科の専門医を受診します。

医師による診断では、逆行性膵胆管造影、CT、エコーなどで検査すると、胆管の拡張、肥厚像や異常が認められます。糞便あるいは胆汁中から虫卵が検出されれば診断が確定しますが、肝吸虫特異抗体を検出する免疫血清学的診断も有用です。血液生化学検査では、好酸球増多、トランスアミナーゼ、ビリルビンの上昇がみられることがあります。

治療は、吸虫駆除剤のプラジカンテル、またはアルベンダゾールの経口内服で行われます。古くは塩酸エメチン、クロロキン、ジチアザニン、ヘキサクロロフォン、ヘトール、ビレボンなど副作用の強い薬を用いざるを得ませんでしたが、1980年代以降はプラジカンテルの登場によって、1日3回の経口内服のみで根治が可能になりました。アルベンダゾールでは、1日1回、7日間の経口内服で根治します。

胆管が閉塞した場合は、手術を要することがあります。

予防法としては、流行地の河川や湖の淡水魚は十分に加熱調理して食べることに尽き、刺身、酢漬け、ワイン漬けで食べないことです。モツゴやホンモロコ、タナゴ類のような小型のコイ科魚類を流行地で生食するのが最も危険で、コイやフナはモツゴなどに比べるとメタセルカリアの保虫率ははるかに低いものの、刺身などにして生で食べる機会が多いため、用心しなければなりません。

🇧🇷特発性門脈圧高進症

腸から肝臓につながる血管内で、血圧が上昇

特発性門脈圧高進症とは、腸から肝臓につながる血管である門脈や肝臓に特別な病変が存在しないにもかかわらず、門脈から枝分かれした血管内で、血圧が異常に高くなる状態。これに伴って食道静脈瘤(りゅう)、胃静脈瘤、脾腫(ひしゅ)、腹水など、二次的な症状が現れます。

大静脈である門脈には、腸全体を始め、脾臓、膵臓(すいぞう)、胆嚢(たんのう)から流れ出る血液が集まります。門脈は肝臓に入ると左右に分かれ、さらに細かく枝分かれして肝臓全体に広がります。血液は肝細胞との物質の交換を行った後は、末梢(まっしょう)の肝静脈に流れ出して、大きな3本の肝静脈に集められ、さらに下大静脈を介して体循環に戻り心臓へと向かいます。

門脈の血圧、すなわち門脈圧の高進により、門脈から体循環に直接つながる静脈の発達が促され、肝臓を迂回(うかい)するルートが形成されます。この側副血行路と呼ばれるバイパスによって、正常な体では肝臓で血液から取り除かれるはずの物質が、体循環に入り込むようになります。

側副血行路は特定の部位で発達しますが、食道の下端にできた場合は特に注意が必要で、血管が拡張し曲がりくねって、食道静脈瘤を形成します。拡張した血管はもろくなって出血しやすく、時に大出血を起こし、吐血や下血などの症状が現れます。

側副血行路はへその周辺部や直腸で発達することもあり、胃の上部にできた静脈瘤も出血しやすく、時には大出血となりますし、直腸にできた静脈瘤もまれに出血することがあります。

脾臓は脾静脈を通じて門脈に血液を供給しているため、門脈圧の高進はしばしば脾臓のはれを引き起こします。脾機能高進による血球破壊のために、貧血を生じることもあります。蛋白(たんぱく)質を含む体液である腹水が肝臓と腸の表面から漏れ出して、腹腔(ふくくう)が膨張することもあります。

特発性門脈圧高進症の有病率は、人口100万人当たり約7人と推定されています。欧米より日本にやや多い傾向があり、日本では都会より農村に多い傾向があります。男性より女性のほうが3倍ほど多く、また、発症年齢のピークは40~50歳代といわれています。

正確な原因は不明ですが、中年女性に好発し、血液検査で免疫異常が認められることがあることから、自分自身の体に対して自分の免疫が働く自己免疫異常の関与が推測されています。さらに最近の研究により、血液中の一部のリンパ球の働きの異常が指摘されています。

遺伝性に関して明らかなデータはありませんが、自己免疫異常は一般的に家系内に多発する傾向があることから、何らかの遺伝子異常の関与が否定できません。

特発性門脈圧高進症の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、肝機能検査を始め、超音波検査、血管造影、CT、MRIなど各種の画像検査により確定します。食道静脈瘤、胃静脈瘤の有無と、その静脈瘤が出血しやすいかどうかを調べるためには、内視鏡検査が最も重要で、早急を要します。

脾腫では、触診で腹壁越しに、はれた脾臓が感じられることから、腹水では、腹部の膨らみや、軽くたたいて打診を行うと鈍い音がすることから確定されます。ごくまれに、腹壁を通して肝臓や脾臓に針を挿入し、門脈内の血圧を直接測定することがあります。

治療では、門脈圧の上昇から生じる二次的な病態である静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路を遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

これらの治療には、側副血行路の状態をみるために、血管造影や超音波を用いた検査が行われます。胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

特発性門脈圧高進症は肝機能は一般に正常のことが多いので、食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば、予後の経過は良好です。

2022/08/09

🇦🇴先天性ビリルビン代謝異常症

遺伝的体質により、ビリルビンが体内から排出されにくいために黄疸を生じる疾患の一つ

先天性ビリルビン代謝異常症とは、遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビン(胆汁色素)が体内から排出されにくいために、黄疸(おうだん)を生じる疾患。クリグラー・ナジャール症候群とも呼ばれ、体質性黄疸の一つに相当します。

血液の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)という物質が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているのですが、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、ヘモグロビンが分解される過程でビリルビンが作られます。

本来、脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入ってアルブミンと結合し、肝臓に運ばれグルクロン酸抱合(ほうごう)を受けて解毒され、続いて、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として胆道を通って小腸の一部である十二指腸の中に排出され、最終的には便と一緒に体外へ排出されます。便の黄色は、このビリルビンの色です。

ビリルビンが体内で異常に増え、体内に一定量以上残った場合は、組織に蓄積するために皮膚などが黄色くなり、これを黄疸といいます。

従って、赤血球や肝臓の細胞が急に壊された時や、胆道が結石や悪性腫瘍(しゅよう)などで閉塞(へいそく)した時などに、黄疸はよく現れます。しかし、このような疾患がないにもかかわらず、しばしば黄疸を認める場合は先天性ビリルビン代謝異常症などの体質性黄疸が疑われ、その原因はビリルビンの肝臓の細胞の中への取り込みや、十二指腸の中への排出がほかの人より行われにくいという遺伝的なものと見なされます。

先天性ビリルビン代謝異常症では、新生児期から発症し、黄疸を生じます。

特徴は、脂溶性で細胞毒性の強い間接型ビリルビン(非抱合型ビリルビン)を、水溶性で細胞毒性の弱い直接型ビリルビン(抱合型ビリルビン)に変換するグルクロン酸抱合酵素の活性が低下しているため、グルクロン酸抱合を受けていない間接型ビリルビン優位の高ビリルビン血症を示すことです。

変換酵素の活性が完全に欠けているため、生後まもなくから長引く核黄疸、もしくはビリルビン脳症と呼ばれる状態を示す生命予後の不良な重症型と、酵素の活性は正常の10パーセント未満を示すものの、問題なく成長し、黄疸以外の症状は認められない軽症型があります。

変換酵素の活性がゼロの場合には、高度の新生児黄疸を来してビリルビンが脳細胞まで侵すことがあり、後遺症を残したり、幼児期のうちに死亡してしまうこともあります。

先天性ビリルビン代謝異常症の検査と診断と治療

小児科、あるいは内科の医師による診断では、血清中の間接型ビリルビン値の上昇、および胆汁中の直接型ビリルビン値の低下により判断します。重症型と軽症型の区別には、フェノバルビタールという薬剤を投与し、間接型ビリルビンを直接型ビリルビンに変換する酵素の有無を調べる方法があり、酵素の活性が残っている場合には活性の上昇が認められます。

小児科、内科の医師による治療では、先天性ビリルビン代謝異常症の重症型の場合、間接型ビリルビン値を下げるために、光エネルギーでビリルビンをサイクロビリルビンに変化させて排出させる光線療法を行ったり、ビリルビン合成を抑えるための薬剤、便への排出を促すための薬剤を投与します。

しかし、成長とともにこれらの治療効果が低下し、最終的には肝移植療法が必要になります。

先天性ビリルビン代謝異常症の軽症型の場合、フェノバルビタールの投与が有効です。

2022/08/05

🇱🇨胆石症

胆石症とは、胆道内に胆汁の成分が固まって、結石ができる疾患です。

胆汁を生成するのは肝臓で、胆汁を濃縮して貯蔵する胆嚢(たんのう)から胆管を通して、十二指腸に分泌して腸の消化吸収を助け、不用な脂溶性の老廃物を体外に排出します。胆嚢と胆管を合わせて胆道といい、この胆道に胆汁中の成分が結晶となり、固体化し、やがて結石ができるのが胆石症で、胆嚢内にできたものを胆嚢胆石、 胆管にできたものを胆管胆石といいます。

胆石症の典型的な症状は、上腹部から右脇(わき)腹にかけて突然、激痛が襲う疝痛(せんつう)発作。疝痛とは腹部内臓の疾患に伴う症候で、痛みは背中や胸に広がることもあり、発作の多くは数分から数十分間隔で、波状的に襲ってきます。しかし、人によっては軽い上腹部痛だけのことも、まれではありません。

また、胆石がありますと、細菌の感染が起こりやすくなります。胆石の種類は主成分によってコレステロール系結石と、ビリルビン系結石に大きく分けられていますが、特にビリルビン系結石では細菌感染がその原因となっているので、炎症が加わって発熱を伴うことが少なくありません。

この場合、胆石胆嚢炎と呼ばれています。発熱も典型的な場合には、38℃以上の高い熱が突然現れ、全身に震えがくることがあります。しかし、微熱程度のこともまれではなく、腹痛を伴わない場合には、発熱の原因をはっきりさせることが困難な場合もあります。

胆管の結石では、細い胆管が結石によって閉塞(へいそく)されて、胆汁の流れが障害されるため、黄疸(おうだん)が出て皮膚などが黄色になります。

日本人の胆石保有率は、食生活の欧米化による脂肪の摂取量の増加とともに、年々増える傾向にあります。しかも、加齢とともに胆石を持っている人は増え、40~50歳代で4パーセント前後、70歳代では10~20パーセント、全人口の15~20パーセントの人に胆石があると、現在、推測されています。

ちなみに、胆石のうちコレステロール系結石が80パーセント、ビリルビン系結石が10パーセント前後の割合を示しており、コレステロール系結石の場合は1対2の割合で、男性より女性に多い傾向が見られます。

以前には、コレステロール系結石よりもビリルビン系結石が多く見られ、現在でも、高齢者や地方に住む人の結石はなお、ビリルビン結石が多いといわれています。

コレステロール系結石は、胆汁中のコレステロールが結晶になったものなので、肥満や過食、アンバランスな食生活、ホルモンや薬の作用、ストレスなどの生活習慣が影響しています。

胆汁中のコレステロールは通常、胆汁酸や、りん脂質(特にレシチン)など、ほかの胆汁成分が溶け込んだ状態で存在しており、固形状になっていません。しかしながら、胆汁中のコレステロールの量が異常に多くなると、その一部が結晶となり、それを核としてコレステロールが次々と凝集し、結石を作ります。胆汁中の胆汁酸やレシチンの割合が少なくなっても、全体のバランスが崩れて結石ができやすくなります。

ビリルビン系結石は、黄褐色や黒っぽい色の色素結石で、胆汁の成分であるビリルビン(胆汁色素)に細菌などが作用してできたものです。

胆汁中のビリルビンは通常、水に溶けやすい状態で存在しています。しかしながら、胆道などに細菌感染が起こると、細菌の持っている特殊な酵素によってビリルビンが水に溶けにくい状態となり、カルシウムなどと結合して結晶を作り、沈殿して、結石を作ります。

胆石症では、早期発見が重要となってきます。胆管にできた結石の場合、石が小さくても胆汁の流れを妨げるので、症状が出やすくなります。胆嚢にできた結石の場合、症状が出ないこともあります。胆石を大きくせずに疝痛発作を未然に防ぐには、早めに発見して、薬などの治療を受けることが大切です。

この点、健康診断では、肝臓の検査や超音波検査、CT検査で、胆石を見付けることができるので、年に一度は、生活習慣病予防健診を受けるように心掛けたいものです。

医師による胆石症の治療では、内科的な方法と胆嚢を切除する外科手術があります。

胆嚢内に1・5~2センチ以内で、数個程度のコレステロール系結石が存在しているような場合には、胆石溶解作用のあるウルソデオキシコール酸(胆汁酸成分の一つ)を服用していると、溶けて消失することもあります。ただし、6カ月から1年くらいの期間、服用しなければなりません。

胆嚢内に大きな胆石や、多数の胆石がある場合には、体の外から特殊な衝撃波を胆嚢に当て、胆石を小さく壊し、その後に胆石溶解薬を服用して治す方法もあります。

二つの方法は、コレステロール系結石には有効ですが、ビリルビン系結石の場合には効果は上がりにくく、外科手術が必要となります。最近では、開腹をしないで、腹腔(ふくくう)鏡下に胆嚢を切除する方法が、多くの病院で行われています。胆管結石もあまり大きくないものは、内視鏡とともに十二指腸から胆管に破砕管を挿入し、胆石を小さく壊して除去する方法も行われています。

胆石症は、生活習慣の改善によって予防することができます。以下の項目に気を付けることが、お勧めです。

○食べ過ぎ、飲み過ぎを避ける。

○食事は規則的にとる。

○ゆっくりと、よくかんで食べる。

○栄養のバランスに気を付ける。

○脂肪分を控える。

○食物繊維を十分にとる。

○精神的ストレスをためない。

○十分に休養をとる。

🇦🇷胆道がん

肝臓で作られた胆汁の流れる胆道に発生するがん

胆道がんとは、肝臓で作られた胆汁の流れる胆道に発生するがん。

胆道は、肝臓で作られた胆汁を胆囊(たんのう)内で濃縮し、胆管を通して、十二指腸乳頭から十二指腸内腔(ないくう)に排出します。発生部位別により、胆管がん(肝内胆管がん、肝外胆管がん)、胆囊がん、十二指腸乳頭がんに分けられます。

日本では、1年に約2万3000人が胆道がんを発症しています。世界的にみて日本は頻度が高く、胆管がんでは男性が多く、胆嚢がんは女性に多いことが知られています。胆道がんの死亡率は、年々増加しており、発生率は年齢に比例し高くなっています。

原因としては、胆石症、胆嚢炎などが挙げられます。特に、胆石症は胆嚢がんの危険因子であり、有症状者でのがんの発生は無症状者に比べて10倍。胆石が胆管胆嚢粘膜へ直接に、慢性的な刺激を与えてがん発生の母地を作ると考えられています。

近年では、膵(すい)胆管合流異常が危険因子として注目されています。本来は肝臓で作られる胆汁と、膵臓で作られる膵液は別々に十二指腸に流れますが、膵胆管合流異常では、先天的な異常で十二指腸に出る前に胆管と膵管が上方で合流しているために、膵液と胆汁が混ざり合い、膵酵素の活性化や変異原性物質を誘発するために、胆道がんが高頻度に発症します。

どの胆道がんも早期の段階では症状が出現することはありませんが、発生部位の関係で、胆嚢がんではかなり進行してからしか症状が出ないのが特徴。これは、胆嚢が胆管から少し離れていることが原因です。

胆石症や胆囊炎を合併していれば、右上腹部が痛んだり、発熱、吐き気があったりします。胆管がん、十二指腸乳頭がんでは、がんの成長に伴って胆汁の流れが妨げられ、比較的早くから黄疸(おうだん)が現れます。流れが妨げられた胆汁が胆管から血管に逆流するために、胆汁中のビリルビン(黄色いもと)が血液中に増加し、皮膚や目の結膜が黄色に変色するのが黄疸ですが、黄疸に伴って尿の色が褐色になったり、便の色が白くなったり、全身にかゆみが現れたりします。

胆囊がんでは、進行すると体重減少、食欲不振などの全身症状が現れるほか、右上腹部にしこりを触れ、さらには黄疸が現れてきます。しかし、これらの症状が出た時には、ほとんどが末期で手遅れの場合が少なくありません。

胆囊壁は胃や腸と異なり、薄い筋層がなく、厚い筋層だけであるために、がんは胆囊の外側に発育しやすく、進行したがんが多くなっているのです。

胆道がんの検査と診断と治療

胆道がんの早期発見には、症状がなくても検診の血液検査で肝機能異常や胆道系酵素の上昇、超音波検査での胆管の拡張や胆嚢壁が厚くなるなどの異常を指摘された場合は、精密検査のできる病院を受診し、速やかに2次検査を受けます。また、黄疸や濃くなった尿に気付いた際には、がん治療の専門病院を速やかに受診します。

受診した病院では、まず血液検査が行われます。これにより、黄疸の原因物質であるビリルビンが高値を示しています。同時に、胆道系酵素と呼ばれるアルカリフォスファターゼ(ALP)、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAPL)、ガンマグルタミルトランスペプチーゼ(Υ−GPT)が上昇しているのが特徴です。胆道の閉塞(へいそく)に伴って、肝機能(GOT、GPT)も異常値を示すようになり、腫瘍(しゅよう)マーカーの一つであるCA19ー9も上昇します。

胆嚢がんでは、胆嚢の中にしこりがみられます。通常、胆嚢にみられるポリープは良性のものが多いのですが、15ミリよりも大きいものはがんの可能性があります。進行した胆嚢がんでは、がんが胆嚢全体に及び、隣接する胆管に浸潤して胆管の閉塞を起こすため、それより上流の胆管の拡張がみられます。胆嚢全体を満たすような結石がみられる場合には、がんの存在を見逃すことがあるので注意が必要です。

十二指腸乳頭がんでは、胆管と膵管の十二指腸への出口にできることから、超音波検査では胆管と膵管の拡張がみられるのが特徴です。しかし、相当な進行がんでなければ、超音波検査で腫瘍がみられることはほとんどありません。さらなる精密検査として、CT検査、MRI検査、ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)、血管造影が行われます。

黄疸の原因となる他の疾患として、急性肝炎、肝硬変、肝不全、胆管炎、胆管結石、急性胆嚢炎などがあります。

治療では、どの胆道がんも手術により取り除くのが最良の方法となります。胆管がんの手術は、部位により術式が異なります。肝臓の中にある肝内胆管にがんが及ぶ場合には、胆管とともに肝臓の一部も切除します。肝臓の外にある肝外胆管のみにがんがあって、膵臓にがんが及んでおらず、リンパ節にも転移がない場合には、胆管だけを切除します。膵臓の中にある膵内胆管にがんがある場合には、膵臓や胃、十二指腸などを一緒に摘出することになります。

胆嚢がんの早期がんであれば、腹腔鏡を使って胆嚢だけを取り出す手術ですむことがあります。進行がんの場合には、胆嚢とともに、そこに接している肝臓の一部や周囲のリンパ節も取り除くことになります。

十二指腸乳頭がんの非常に早期のがんであれば、内視鏡と電気メスを使って取り除くことができます。それ以外の場合には、膵臓とともに胆管、胆嚢、胃、十二指腸などを一緒に摘出することになります。

胆管がんや胆嚢がんの手術に際して、肝臓の多くを摘出しなければならない場合、手術前に切除する側の肝臓を栄養する血管である門脈をつぶして、残すほうの肝臓を大きくする経皮経肝門脈塞栓術(PTPE)という処置を行うこともあります。これにより、手術後の肝機能の低下を未然に防ぐことができます。

肝臓にいくつも転移があったりして手術が不可能な場合には、全身への抗がん剤投与や、肝動脈から直接抗がん剤を投与する肝動注療法を行います。現在よく使われる抗がん剤は、ジェムザール、ティーエスワンなどです。通常、ジェムザールは経静脈的に、ティーエスワンは内服で、それぞれ単剤で投与を行いますが、場合によってはジェムザールとティーエスワンを併用することもあります。

がんの進行が局所にとどまっている場合に、抗がん剤と併用して放射線療法を行うことがあります。骨転移による痛みの緩和の目的で行われることもあります。

胆道の閉塞がある場合、手術をするにしても、内科的に治療するにしても、まずは黄疸をとる処置が必要です。内視鏡的に閉塞した胆管にプラスチック製、ないし金属製のステントを留置し、黄疸の解消に努めます。

2022/08/04

🇵🇦クリグラー・ナジャール症候群

遺伝的体質により、ビリルビンが体内から排出されにくいために黄疸を生じる疾患の一つ

クリグラー・ナジャール症候群とは、遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビン(胆汁色素)が体内から排出されにくいために、黄疸(おうだん)を生じる疾患。先天性ビリルビン代謝異常症とも呼ばれ、体質性黄疸の一つに相当します。

血液の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)という物質が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているのですが、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、ヘモグロビンが分解される過程でビリルビンが作られます。

本来、脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入ってアルブミンと結合し、肝臓に運ばれグルクロン酸抱合(ほうごう)を受けて解毒され、続いて、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として胆道を通って小腸の一部である十二指腸の中に排出され、最終的には便と一緒に体外へ排出されます。便の黄色は、このビリルビンの色です。

ビリルビンが体内で異常に増え、体内に一定量以上残った場合は、組織に蓄積するために皮膚などが黄色くなり、これを黄疸といいます。

従って、赤血球や肝臓の細胞が急に壊された時や、胆道が結石や悪性腫瘍(しゅよう)などで閉塞(へいそく)した時などに、黄疸はよく現れます。しかし、このような疾患がないにもかかわらず、しばしば黄疸を認める場合はクリグラー・ナジャール症候群などの体質性黄疸が疑われ、その原因はビリルビンの肝臓の細胞の中への取り込みや、十二指腸の中への排出がほかの人より行われにくいという遺伝的なものと見なされます。

クリグラー・ナジャール症候群では、新生児期から発症し、黄疸を生じます。

特徴は、脂溶性で細胞毒性の強い間接型ビリルビン(非抱合型ビリルビン)を、水溶性で細胞毒性の弱い直接型ビリルビン(抱合型ビリルビン)に変換するグルクロン酸抱合酵素の活性が低下しているため、グルクロン酸抱合を受けていない間接型ビリルビン優位の高ビリルビン血症を示すことです。

変換酵素の活性が完全に欠けているため、生後まもなくから長引く核黄疸、もしくはビリルビン脳症と呼ばれる状態を示す生命予後の不良な重症型と、酵素の活性は正常の10パーセント未満を示すものの、問題なく成長し、黄疸以外の症状は認められない軽症型があります。

変換酵素の活性がゼロの場合には、高度の新生児黄疸を来してビリルビンが脳細胞まで侵すことがあり、後遺症を残したり、幼児期のうちに死亡してしまうこともあります。

クリグラー・ナジャール症候群の検査と診断と治療

小児科、あるいは内科の医師による診断では、血清中の間接型ビリルビン値の上昇、および胆汁中の直接型ビリルビン値の低下により判断します。重症型と軽症型の区別には、フェノバルビタールという薬剤を投与し、間接型ビリルビンを直接型ビリルビンに変換する酵素の有無を調べる方法があり、酵素の活性が残っている場合には活性の上昇が認められます。

小児科、内科の医師による治療では、クリグラー・ナジャール症候群の重症型の場合、間接型ビリルビン値を下げるために、光エネルギーでビリルビンをサイクロビリルビンに変化させて排出させる光線療法を行ったり、ビリルビン合成を抑えるための薬剤、便への排出を促すための薬剤を投与します。

しかし、成長とともにこれらの治療効果が低下し、最終的には肝移植療法が必要になります。

クリグラー・ナジャール症候群の軽症型の場合、フェノバルビタールの投与が有効です。

🇧🇿肝硬変

肝細胞が壊死し、線維化して発症

肝硬変とは、肝細胞が壊死(えし)して組織の中に線維が増え、肝臓が硬く変わる疾患です。 内部の血液循環に異常が生じ、肝臓の働きが果たせなくなります。特に、40歳以上の男性に多くみられ、好発年齢は60歳代。

肝臓は再生力が強い臓器ですので、肝細胞が壊死などを起こしても、その原因が一過性の場合には、欠損部分が新しい肝細胞によって補充されて治癒します。しかし、慢性的に傷害されている場合には、肝臓の中に線維が増えてきます。

肝硬変では、この増えた線維によって、肝細胞の集団が島状に取り囲まれ、結節状になっています。肝臓の表面も、同様に結節がみられて凹凸状となっています。

肝硬変の主な原因は、アルコール性肝炎、B型およびC型慢性肝炎です。アルコールが原因のものをアルコール性肝硬変といい、ウイルス肝炎を原因とするものを壊死後性肝硬変といいます。

日本では、B型およびC型肝炎ウイルスによるものが最も多く、アルコール性肝硬変がそれに次ぐものです。そのほか、自己免疫、毒物、心臓性肝硬変、胆汁うっ滞、寄生虫、先天性の代謝異常を原因とするものもあります。

症状は黄疸、腹水、むくみ、出血など

肝硬変の初期には、自覚症状がないことが多く認められます。肝臓は予備力が大きいために、特に肝機能に異常のない場合も、決してまれではありません。

次第に肝機能障害が進行するとともに、肝臓の予備力が低下してくると、皮膚が色素沈着を増して黒褐色となり、倦怠(けんたい)感、脱力感、体重減少、毛細血管の拡張によって手のひらが薄く赤黒くなる手掌紅斑(しゅしょうこうはん)、首から胸にかけて赤いクモ状の斑点ができるクモ状血管腫(しゅ)などの症状がみられるようになります。

また、肝臓での性ホルモンの不活性化によって、男性では乳房が膨らむ女性化乳房、精巣委縮、ED(インポテンス)などが、女性では月経異常などが起こります。

さらに進行してくると、黄疸(おうだん)が出て、おなかが膨らみ、腹水がたまります。足にむくみが出現し、へそ周辺の静脈が腫(は)れ、門脈圧亢進(こうしん)症という状態になると、食道静脈瘤(りゅう)の破裂で吐血します。

本来、腹部内の臓器から集められた血液は、すべて門脈という血管によっていったん肝臓に運ばれ、大静脈を経由して心臓に戻ります。肝硬変があると肝臓内の血液の流れが悪くなるため、門脈の血液が肝臓に入る時に抵抗がかかり、門脈の圧が高くなって、門脈圧亢進症を招きます。

肝臓内を通り切れない門脈血は、食道の部分の静脈を脇(わき)道として遠回りし、大静脈に注ぐことになります。この食道部分の静脈を流れる血液量が多くなると、静脈の圧が高まって腫れ、その食道静脈瘤が破れると吐血を起こすのです。

門脈圧亢進症があると、その下流の臓器の脾(ひ)臓が腫れるために、白血球減少、血小板減少や貧血がみられるようにもなります。

また、肝臓での蛋白(たんぱく)代謝で生じるアンモニアを処理して、毒性のない尿素に変える働きが低下するために、中毒物質であるアンモニアが血液中に増加して、精神症状も起こります。性格が急に変わったり、普通では考えられないような異常行動をとったりすることがあり、ついには、うとうとと眠ったような昏睡(こんすい)状態となります。これを肝性脳症と呼んでいます。

肝硬変の診断と治療

肝硬変は進行性の病気ですので、予防し、初期のうちに進行を食い止めることが重要です。

肝臓の働きにはかなりの予備力があり、また生化学検査は感度が比較的低いため、肝硬変があっても肝機能検査の結果はしばしば正常値となりますが、超音波検査やCT検査で、肝硬変を示唆する肝臓の縮小や、結節などの組織の異常がわかることがあります。放射性同位元素を用いた肝スキャン検査では、肝臓のどの部分が機能し、どこが線維化しているかが画像に示されます。

医師が診断を確定するには、肝生検が行われます。肝生検とは、肝臓に針を刺して組織を採取し、その組織を顕微鏡で見て検査を行うもの。麻酔が使われますので痛みはありませんが、肝臓に傷を付けるため、検査後は安静にしていることが必要です。

肝硬変の臨床的な機能分類として、肝硬変の原因を問わず、肝臓の機能不全症状の有無から、代償期と非代償期とに分けられます。

代償期肝硬変とは、黄疸、腹水、むくみ、肝性脳症、消化管出血などの肝機能低下と、門脈圧亢進に基づく明らかな症候が1つも認められない病態です。非代償期肝硬変とは、これらの症候のうち1つ以上が認められる病態です。

肝硬変の初期で、体の機能に支障がない代償期の治療は、本人のQOL(生活の質)を維持していきながら、肝硬変の進行を食い止めることを目的として行われます。規則正しい生活、バランスのとれた食事が基本となり、定期的に検査を受ける以外は特別な治療は行われないのが、一般的です。

進行した非代償期の治療では、アルコールなどの毒性物質の摂取をなくし、腹水や食道静脈瘤、肝性脳症といった合併症が生じれば、その治療が行われていきます。

腹水の治療では、水分と塩分を制限し、肝臓への負担を軽減するために、ある程度は安静も必要となります。さらに、効果を見ながら利尿剤を用いられることもあります。これでも改善しない場合は、アルブミンを注射で補います。ただし、薬剤は弱っている肝臓には負担になるので、なるべく使わず、使っても少量ずつが原則です。

食道静脈瘤の治療では、静脈瘤ができても痛みや異物感などの自覚症状がないため、定期的な検査を受けてもらい、破裂を防止します。静脈瘤が赤みを帯びてきたら、破裂の危険信号ですので、予防のための治療が必要になります。患部に硬化剤を注入して静脈瘤を固めてしまう方法や、静脈瘤を輪ゴムで縛って血流を止めてしまう静脈瘤結紮(けっさつ)術などがあります。

肝性脳症の治療では、まず食事で取る蛋白質を1日40グラムに制限します。そして、薬物療法に使われるのは、ラクツロースという一種の緩下剤で、腸内の有害な細菌を抑えて排便を促し、腸内を浄化する薬です。アンモニアの産生を促す細菌を殺すための抗生物質、あるいはアミノ酸バランスを調整する特殊アミノ酸製剤なども使われます。

また、肝臓で代謝される栄養を補う薬の服用が必要な場合には、過剰投与を避けるため、通常よりも大幅に用量が減らされます。適切な栄養摂取を心掛け、蛋白質や塩分の摂取制限、ビタミン剤の服用などが行われます。

肝臓は本来、脂質、炭水化物、蛋白質、アミノ酸およびエネルギー代謝など栄養代謝の中心的な臓器ですので、肝硬変、特に機能不全を来す非代償期肝硬変では、さまざまな栄養代謝障害が引き起こされるからです。

2022/08/03

🇮🇪伝染性単核球症

主にEBウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいに多くみられる疾患

伝染性単核球症とは、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。EBウイルス感染症とも呼ばれ、アメリカではキス病とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

EBウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

EBウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。 ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播(でんぱ)を気にする必要はありません。

伝染性単核球症の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、EBウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

この伝染性単核球症に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

2022/08/02

🇸🇬胆道閉鎖症

新生児や乳児の肝臓と腸をつなぐ胆道の内腔が詰まり、胆汁を腸に出すことができない疾患

胆道閉鎖症とは、肝臓と腸をつなぐ胆道(胆管)という管の内腔(ないくう)が炎症のために狭くなったり、詰まったりして、肝臓で作られた胆汁を腸に出すことができない疾患。

新生児期から乳児期早期に発症する疾患で、先天的発生異常説、ウイルス感染説、免疫異常説などいろいろの説があるものの、現在のところ、まだ明らかな原因は解明されていません。

母親の胎内で一度作られた胆道が、原因不明の炎症のために狭くなったり、詰まったりするものが多いのではないかとされています。出生1万人から1万5000人に約1人の頻度で発症し、男の子の約2倍と女の子に多く発症しています。

肝臓で作られた黄色い胆汁は本来ならば、肝臓の外にある肝外胆道(胆管)である胆道、胆嚢(たんのう)、総胆管を通って十二指腸から腸管の中に流れ出ていき、食物中の脂肪の吸収を助けるのですが、胆道閉鎖症では胆汁が腸管に流れなくなります。

胆汁の流れが停滞しても肝臓は胆汁を作り続けるので、行き場のなくなった胆汁成分は肝臓にたまることになります。そして、肝臓から血液の中にあふれ出て、血液中のビリルビン(胆汁色素)が過剰に増えて、皮膚や白目の部分が黄色く見える黄疸(おうだん)を起こします。

また、胆汁が腸管に流れないので便は黄色みが薄くなって灰白色となる一方、胆汁の分解産物が流れる尿は黄色みが濃くなって濃褐色になります。

さらに、肝臓にたまった胆汁は肝臓の組織を破壊し、進行すると肝臓は線維化して硬くなり、胆汁性肝硬変といわれる状態に至ります。

肝臓は本来ならば、再生能力の非常に高い臓器なのですが、いったん肝硬変になると線維化の産物である結合組織に再生を遮られるため、元の健康な肝臓に戻ることが困難になります。

肝硬変へ進むと門脈圧高進症が起こり、これに伴って食道静脈瘤(りゅう)、胃静脈瘤、脾腫(ひしゅ)、腹水など、二次的な症状が現れます。腹水がたまると横隔膜を圧迫したり、肺内の血行障害が起こって呼吸障害が生じることもあります。

胆汁の排出障害が強いと食物中の脂肪吸収が障害され、脂溶性ビタミンの吸収も悪くなってビタミンK欠乏症を起こすほか、肝機能障害から血液凝固因子が作れなくなり、出血傾向が強くなって消化管出血や脳出血などを起こすこともあります。

新生児や乳児の黄疸と灰白色便が長引く場合は、すぐに小児科を受診することが勧められます。胆道閉鎖症は、出生後8週間以内に手術することが大切で、8週間を過ぎると肝臓の線維化が進み、手術後の胆汁排出効果が悪くなります。

胆道閉鎖症の検査と診断と治療

小児科、消化器外科の医師による診断では、血液検査、尿検査、便検査、十二指腸液検査、肝胆道シンチグラム、腹部超音波検査などを必要に応じて組み合わせて行います。

十二指腸液検査は、十二指腸にチューブを入れて十二指腸内の液を採取し、胆汁の有無を調べるものです。肝胆道シンチグラムは、胆汁中に排出される放射性活性物質を用いて、胆汁の流出状況を調べるものです。

小児科、消化器外科の医師による治療では、まずは肝臓で作られた胆汁が腸管に流れるようにするため、肝臓からの胆汁の出口付近と腸管を縫い合せる手術を行います。肝臓の線維化が進まないうちであれば、手術を行うことで約7割から8割で黄疸が消え、改善が認められます。

手術後は、胆汁の流出をよくする利胆剤、細菌感染を予防する抗生剤などを服用します。退院後も、利胆剤に加えてビタミン剤を服用します。

手術後も胆汁排出が認められない場合、黄疸が消失しない場合、手術後に黄疸が再発した場合、胆管炎や門脈圧高進症などを合併した場合には、最終的に肝移植を行います。

🇹🇷胆嚢炎、胆管炎

2つが合併して起こることが多い

胆嚢(たんのう)炎とは胆嚢に、胆管炎とは胆管に、それぞれ炎症を起こして腫(は)れを生じる疾患です。2つの疾患は合併して起こることが多いため、一緒にして胆道炎と呼ぶこともあります。急性と慢性に分けられます。

肝臓で生成された胆汁を濃縮して貯蔵する胆嚢や、その胆汁を十二指腸に送る管である胆管の炎症は、主に細菌感染で起こります。原因となる細菌で最も多いのは大腸菌で、そのほかにブドウ球菌、連鎖球菌、緑膿(りょくのう)菌などがありますが、近年は緑膿菌が多くなっています。まれにチフス菌もみられます。大部分の症例では、胆石症を合併しています。

胆嚢炎の症状は激しい腹痛と発熱

急性胆嚢炎では、胆嚢から胆汁を送る管である胆嚢頸部(けいぶ)や胆嚢管が胆石でふさがれたことが原因で、約90パーセントが起こっています。流れを遮られた胆汁は、胆嚢の中で濃縮され、胆汁中の化学物質が刺激や圧力を作り出します。この状態に細菌の感染が加わって、炎症がひどくなっていきます。

症状は、右上腹部に激しい痛みが起こると同時に、発熱します。吐き気が強く、嘔吐(おうと)することもあり、胆管炎を合併すると黄疸(おうだん)が現れます。

腹痛の持続時間は胆石発作では2~3時間程度ですが、4~6時間以上も続く場合には、急性胆嚢炎を疑います。また、腹部全体が硬くなっている時は、胆嚢が破れて胆汁性腹膜炎を起こしている可能性があります。

胆嚢の炎症を繰り返すと、胆嚢の壁が厚くなって収縮機能は低下し、慢性胆嚢炎になってしまいます。慢性の場合の症状としては、右上腹部に軽い痛みが時々、現れ、発熱をみることがあります。

胆嚢の働きが悪いので、脂っこい食事を取ると、消化不良を起こして、便秘になったり、腹痛、食欲不振、吐き気が続きます。

胆管炎ではショック症状が加わることも

急性胆管炎では、約80パーセントが胆管の結石によるものです。膵(すい)頭部がんや胆管がんなどの腫瘍(しゅよう)による胆管狭窄(きょうさく)、膵炎、手術後の胆管狭窄なども、胆管炎の原因となります。胆管の出口の乳頭括約筋括の機能が不十分な高齢者では、細菌が侵入して感染が起こりやすいといわれています。

症状は、寒気を伴う発熱、黄疸、食後の右上腹部痛が典型的です。痛みはしばしば右の肩や背中に響き、吐き気や黄色い液を吐いたりします。

胆管の閉塞(へいそく)に細菌の感染が加わると、胆汁中の細菌の毒素が肝臓内の血液やリンパ管を介して全身に広がり、死に至る急性(閉塞性)化膿性胆管炎を引き起こすこともあります。発熱、黄疸、右上腹部痛に、意識障害やショック症状が加わります。高齢者では、必ずしも症状がそろわないで重症化することが多いようです。

発熱を伴った右上腹部痛に気付いたら、内科や外科の診察を受けることが最も重要となります。中には腹痛もなく、微熱だけが続く場合がありますが、やはり一度は診察を受ける必要があります。

黄疸に気付いたら、すぐに診察を受けなければなりません。特に、高齢者の急性胆管炎では重症となりやすいため、注意が必要です。

検査と診断と治療

医師の側では最初に、詳しい症状を聞き取る問診や、聴診、触診を行います。血液検査では、白血球の増加や炎症反応、肝臓や胆道の酵素上昇を調べます。画像診断では、腹部超音波検査を行って、胆嚢の腫大、胆嚢壁の肥厚、胆嚢内の胆泥、胆嚢の液体貯留を調べます。腹部CT検査、内視鏡的逆行性膵胆管造影、経皮経肝胆道造影、磁気共鳴膵胆管造影を行うこともあります。

急性胆嚢炎の治療では、炎症を抑える抗生剤の投与を主体とする保存的治療、感染した胆汁を抜き取るドレナージ療法、胆嚢を摘出する外科治療が行われます。保存的治療やドレナージ療法で炎症は改善されますが、きわめて重症な場合や、慢性化して胆嚢の機能が失われ、その上に胆嚢内に膿汁がたまっているような場合には、内科的治療の効果は得られないことが多く、外科的手術が必要となります。

この際、腹腔(ふくくう)鏡下胆嚢摘出術が標準治療となりますが、手術に危険が伴う場合には、内科的治療のみで経過をみることもあります。

急性胆管炎では、ショックや臓器障害に進展する危険性があるため、強力な抗生物質の投与、胆管内を閉塞している炎症物質や胆汁を排除し、胆道の内圧を下げるためのドレナージ療法など、緊急な対応が必要です。

胆道ドレナージ療法としては、内視鏡的経鼻胆道ドレナージや経皮経肝的胆道ドレナージ、開腹手術によるドレナージがあります。胆汁排出量の確認や胆管の洗浄ができるため、内視鏡的経鼻胆道ドレナージが標準治療となります。胆道の減圧処置により全身状態の改善を図った後に、胆管炎の原因となった病気の治療を行います。

また、食事は脂肪を制限しますが、エネルギー不足や、必須不飽和脂肪酸の不足にならないように、心掛けなければなりません。

2022/08/01

🇬🇫肝臓がん

主に肝炎ウイルスの感染で、肝臓に発生するがん

肝臓がんとは、血液中の栄養素を分解して貯蔵したり、有害な物質を分解して排出したりする肝臓に、発生するがん。肝がんとも呼ばれます。

肝臓は上腹部に位置し、重さ1000~1500グラム程度で、人間の体内では脳に次いで2番目に大きな臓器です。その主要な機能の1つは、消化された食物に含まれる各種栄養素を蛋白(たんぱく)、脂質、炭水化物に変える合成作用で、さらに糖をグリコーゲンとして貯蔵し、必要に応じてブドウ糖に分解して血中に放出するといった働きも持っています。

もう1つの主要な機能は、血液中の有害な物質を分解、処理し、それらを胆汁や血液中に排出する解毒作用で、有害な物質は最終的には尿や便に混じって体から出されます。また、胆汁の生成と代謝も、肝臓の主要な機能の1つです。

肝臓にできるがんは、その組織型によりいくつかの種類に分類されます。中では、栄養素の合成、分解貯蔵、解毒に関係する肝細胞から発生する肝臓細胞がんと、胆汁の通り道である胆管の上皮を形成する細胞から発生する胆管細胞がん(肝内胆管がん)が、そのほとんどを占めています。そのほかに、特殊な組織型の肝臓がんが存在します。

これら肝臓から発生したがんを合わせて、原発性肝臓がんと呼びます。原発性肝臓がんの約95パーセントは肝臓細胞がんで、胆管細胞がんは5パーセント弱程度と比較的まれな腫瘍です。そして、胃や大腸などほかの臓器で発生したがん細胞が、肝臓に転移をして起こるがんは、転移性肝臓がんと呼びます。

ここからは、原発性肝臓がんの中で最も多い肝臓細胞がんについて説明します。普通、肝臓がんといえば、肝臓細胞がんを指すからです。胆管細胞がん(肝内胆管がん)は、組織学的な特徴から海外では胆道がんに分類され、日本の医療機関でも胆道がん(肝外胆管がん、胆嚢〔たんのう〕がん)に準じて治療を行うケースが多くなってきています。

肝臓がんは1975年以降から急増して、現在は年間約3万人以上が死亡しており、がんによる死因の第4位となっています。年齢別にみると、60歳代で最も頻度が高く、C型肝炎からの肝臓がんの発症リスクは年齢が高くなるほど高くなります。B型肝炎では、C型肝炎に比べて若年での肝臓がんの発症もみられます。男性ではその頻度は横ばいとなってきているのに対して、女性ではいまだ増加傾向にあります。地域的には、西日本に多く東日本に少ない西高東低型を示します。

日本人の肝臓がんの約90パーセントは、B型、C型肝炎ウイルスの感染によって起こっています。C型肝炎では、肝炎ウイルスに感染してから慢性肝炎、肝硬変を経て約30年で肝臓がんが発生します。一方、B型肝炎では、無症候性キャリアや慢性肝炎の状態からも肝臓がんを発症することがあります。

B型、C型肝炎ウイルスの感染は主に血液を介して起こりますので、1975年以降の急激な肝臓がんの増加は、戦後の売血制度や輸血を多用した肺結核手術が原因と見なされています。現在では、輸血による感染はほぼ完全に防止されています。また、出産時にB型肝炎ウイルス陽性の母親から新生児への感染が起こる母子感染も、予防可能となっています。近年では、アルコール多飲や脂肪肝など、ウイルス以外が原因と考えられる肝臓がんが増えてきています。

肝臓は元来予備能力が大きく、がんが発生しても自覚症状は比較的少ないため、多くの発症者は慢性肝炎や肝硬変の治療を受けている途中、検査によって無症状のうちに肝臓がんを発見されます。中には、上腹部のしこりや痛み、発熱、黄疸(おうだん)といった自覚症状により、疾患が見付かることもあります。

しかし、これらはかなり病状が進んでからの症状です。まれに、肝臓がんの破裂による激烈な腹痛やショックが初発症状であることもあり、このような場合は生命にかかわることがあるので早急な処置が必要です。

そのほか、がんが進行すると腹水がたまったり、がんによって肝臓へ流れ込む血流が遮られて、食道や胃などに静脈瘤(りゅう)と呼ばれる血流のバイパス路が発達し、これらの静脈瘤が破裂することにより吐血や下血がみられたりすることがあります。

肝臓がんの検査と診断と治療

肝臓がんが発生しても通常の肝機能検査(一般の血液検査)に変化が現れないことが多く、また、自覚症状がないことも少なくありません。そのため、慢性肝炎や肝硬変の発症者に対して、血中の腫瘍マーカーや腹部超音波検査によってがんのスクリーニングが行われています。

腫瘍マーカーとしては、アルファフェトプロテイン(AFP)、PIVKA−Ⅱなどが単独や組み合わせてよく用いられます。AFPやPIVKA−Ⅱは肝臓がん以外の原因でも異常値を示すことがあるため、確定診断には腹部超音波検査やCT、MRIによる画像診断が必須です。

多くの場合は腫瘍マーカーの値と画像診断により確定診断が可能ですが、必要に応じて生検や腹部血管造影検査を行うこともあります。生検は、がん細胞の一部を直接採取して、顕微鏡下で調べる検査。腹部血管造影検査は、足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、そこから造影剤を流すことで、どの動脈ががんに栄養を与えているか、肝臓の中を走る門脈、肝静脈といった血管の中に、腫瘍(しゅよう)が入り込んで塊を作る脈管侵襲があるかどうかなどを調べる検査。

また、血管を造影しながらCT撮影を行うことで、通常のCTでは見付けることが難しい主病巣以外の数ミリのがんの診断が可能です。生検と腹部血管造影には、検査のための入院が必要です。

肝臓がんの治療にはさまざまな方法があり、腫瘍の広がり、肝予備能、年齢、全身状態などを総合して治療法を選択します。代表的な治療法には、肝切除術、経皮的治療、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法、化学療法があります。そのほか、放射線療法、肝移植などが行われることもあります。

肝切除術では、外科的に腫瘍の切除を行います。肝予備能により肝臓全体の何パーセントまで切除が可能か異なるため、手術前にはCTなどの画像を用いて切除体積の計算をし、手術の計画が立てられます。比較的肝予備能のよい発症者が対象となります。

経皮的治療には、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)、マイクロ波凝固療法(PMC)、エタノール注入療法(PEI)などがあります。近年では、ラジオ波焼灼療法が多く用いられていて、超音波やCTで位置を確認しながら治療用の電極針で経皮的に腫瘍を穿刺(さくし)し、熱凝固により腫瘍を壊死(えし)に陥らせます。一般的に、がんの大きさが3センチ 以内、数が3個以下のものが適応とされます。

肝動脈化学塞栓療法では、カテーテルを使って血管造影を行いながら、腫瘍に栄養や酸素を送っている血管を確認し、抗がん剤をリピオドールという造影剤の一種と混ぜたものを注入した後、ゼラチン粒という塞栓剤で栄養血管を詰めることによりがん細胞を壊死に陥らせます。比較的幅広い対象の発症者に治療が可能ですが、門脈という肝臓の血管が腫瘍によって閉塞していたり、肝予備能が極端に低かったりすると対象となりません。

化学療法には、肝動脈にカテーテルを用いて直接抗がん剤を流す肝動注化学療法と、内服剤や静脈内投与により全身に抗がん剤を行き渡らせる全身化学療法があります。2009年5月より、肝臓がんに対して唯一延命効果が証明された抗がん剤、ソラフェニブ(ネクサバールR)が国内で使用可能となっています。

肝臓がんは、慢性肝炎や肝硬変を背景として発生する腫瘍であり、多発したり再発したりすることの多い疾患です。そのため、何度も治療を繰り返すことが多く、肝予備能とのバランスを考えながら、その都度最も適した治療を行う必要があります。また、肝硬変に合併しやすい食道・胃静脈瘤に対する治療が必要となることもあります。

🇦🇹黄疸

血液中にビリルビンが一定量以上に増えて組織に蓄積し、皮膚や眼球結膜が黄色みを帯びる状態

黄疸(おうだん)とは、血液中にビリルビン(胆汁色素)が一定量以上に増えて組織に蓄積する結果、皮膚や眼球結膜が黄色みを帯びる状態。肝臓などの臓器に疾患が起こった際に現れる症状で、黄疸が現す特定の疾患名はありません。

ビリルビンは、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、その中のヘモグロビン(血色素)から作られ、健康な人では血液1dl中に0・2~1・0mgみられます。これが2mg程度以上になると、体の皮膚や、白目の表面を覆っている眼球結膜が黄色みを帯びて、肉眼的に判断可能です。これを顕性黄疸といいます。1~2mgの間では、皮膚や眼球結膜の黄色みは不明瞭であり、不顕性黄疸といいます。

みかんなどの柑橘(かんきつ)類やニンジンを過剰に摂取した場合に、手のひらなどの皮膚が黄色になることがありますが、柑橘類などがカロチン(カロチン)を多く含むために血液中のカロチン濃度が高くなり、その黄色色素が皮膚に沈着して黄色になる柑皮症によるものです。黄疸とは異なり、眼球結膜が黄色みを帯びないことや、血液中のビリルビンの上昇がないことで区別できます。

脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入って肝臓に運ばれ、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として小腸の一部である十二指腸の中に排出されます。ビリルビンが胆汁中に排出されなかったりすると、血液の中にたまった過剰なビリルビンは皮膚などの組織にどんどんと蓄積され、黄疸が起こります。

血液中のビリルビン値が高い場合、肝臓の疾患が原因による場合と、胆汁の排出通路である胆管系の疾患が原因による場合が考えられます。例えば、肝臓に炎症や繊維化などの損傷があれば、ビリルビンの胆汁中への排出が阻害されて血液の中にたまり黄疸が起こりますし、胆汁の排出通路である肝臓と十二指腸をつなぐ胆管系が胆石や悪性腫瘍(しゅよう)などでふさがっていれば、ビリルビンが血液の中にたまり黄疸が起こります。

黄疸を起こす肝臓の疾患としては、急性ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害、慢性肝炎の急性増悪期、肝硬変、肝細胞がん、アルコール性肝障害、自己免疫性肝炎、急性脂肪肝、寄生虫性肝障害、感染性肝障害などがあり、肝細胞の壊死(えし)が広範におよぶ結果、ビリルビンの処理が円滑に行われなくなったことで黄疸が起こります。

黄疸を起こす胆管系の疾患としては、毛細胆管から肝内胆管の間の異常で胆汁の流れが障害される肝内胆汁うっ滞症と、総胆管を含む肝外胆管が狭窄(きゅうさく)したり閉鎖して胆汁の流れが障害される胆道閉鎖症があります。肝内胆汁うっ滞症は、肝炎や薬物性肝障害、原発性胆汁性肝硬変などが原因となります。胆道閉鎖症は、結石や悪性腫瘍、炎症などが原因となります。

また、溶血性貧血などで、血液の中に含まれる赤血球が過剰に破壊され、肝臓の処理能力を超える大量のビリルビンが生成される場合にも、黄疸は出現します。これは新生児の黄疸で多くみられます。

さらに、先天的に肝臓でのビリルビンの処理機構が障害されている場合にも、黄疸は出現します。これは体質性黄疸と呼ばれ、10歳前後から過労などを契機に黄疸が出現しては自然に消える状態を繰り返すものですが、遺伝性で生命にかかわるものではなく、治療の必要はありません。

一般に病的な黄疸をみる場合には、全身の倦怠(けんたい)感や疲労感、皮膚のかゆみ、感冒様症状、発熱、尿が茶褐色になるなどの、ほかの症状を伴います。黄疸症状がひどくなると、汗まで黄色になり、皮膚と接触する肌着が黄色になることがあります。

黄疸の初期の段階では特にケアは必要がありませんが、原因となる疾患が進行してくると症状が急激に悪化してくることも予想されます。皮膚に関するケアは、かかないようにすることや常に清潔な状態を保つように心掛けることが必要になります。

黄疸の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、黄疸の原因を調べるために、血液を採取して血液像や肝機能などを調べるとともに、X線(レントゲン)検査、腹部超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、必要に応じて肝血管造影検査、逆行性胆管造影検査、肝生検を行います。

内科、消化器科の医師による治療では、血液中のビリルビン値が上昇する原因となる肝臓の疾患や胆管系の疾患の改善を図ります。

肝臓自体の疾患が原因となるウイルス性肝炎などの場合は、肝臓の状態の改善とともにビリルビン値が正常に戻れば、黄疸も軽快します。

手術が必要なのは胆管系の疾患のみで、胆道閉鎖が原因の場合は、内視鏡治療や外科手術を行い閉鎖した胆管を再び開通させます。手術不可能な場合は、胆石や腫瘍などが原因で胆汁の流れが悪くなっている部位にチューブなどを通して、胆汁の流れをよくするドレナージによる減黄や、狭窄している部位に金属製の筒を置いて、狭まりを防ぐステント留置などを行います。

2022/07/31

🇩🇲ウイルソン病

脳、肝臓に銅が沈着してくる遺伝性疾患

ウイルソン病とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。その原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

常染色体劣性遺伝に基づく先天性銅代謝異常症であり、病名はウイルソンという人が見付けたことに由来しますが、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれています。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、ウイルソン病はよく似ています。食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱり)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、ウイルソン病においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウイルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

ウイルソン病の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています 。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白眼や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、角膜輪(カイザー・フライシャー輪)をみます。黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見えます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、 10歳以下の小児期に多い肝型、 10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

遺伝性代謝疾患ながら治療は可能

ウイルソン病は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患であるウイルソン病は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ病気を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率でウイルソン病であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異でウイルソン病が発病するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

ウイルソン病の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

2022/07/30

🇸🇷異所性脂肪

皮下脂肪でも内臓脂肪でもない第3の脂肪で、より体内に悪影響を及ぼす脂肪細胞

異所性脂肪とは、皮下脂肪でもなく内臓脂肪でもない第3の脂肪と呼ばれているもの。

異所性脂肪は皮下脂肪や内臓脂肪と同じ中性脂肪で、食べ物から摂取される脂分で作られており、体の機能不全によって構成されるものではありません。また、異所性脂肪は内臓脂肪や皮下脂肪よりも体内に悪影響を及ぼす脂肪細胞であることが、今現在の研究に基づいてわかっています。

そして、日本人は欧米人に比べて、皮下脂肪の貯蔵能力が低いため、少し太っただけで異所性脂肪が蓄積して、より早い段階で肥満に関係する疾患になりやすい体質であるというデータもあります。

この異所性脂肪は食事で脂分を多く摂取することで作られ、皮膚と筋肉の間にたまる皮下脂肪や、大腸や小腸の周りに付着する内臓脂肪に貯蔵されなかったエネルギーが体内に残った時に、異所性脂肪として構成されます。

人間の体にはエネルギーを体内に保存し有事に備えるという便利な機能があり、摂取した食べ物から抽出するエネルギーが余った場合、そのエネルギーを脂肪細胞という器に貯蔵します。

この脂肪細胞という器は伸縮自在で、大きさは貯蔵したエネルギーによって小さくなったり、大きくなったりします。脂肪細胞が大きくなると、人間の外見も大きく膨らみます。これが肥満と呼ばれるものです。

しかし、脂肪細胞がいくら伸縮自在といっても、その容量には限りがあり、脂肪細胞という器に貯蔵しきれないエネルギーは体内に無理やり居場所を作ります。これが異所性脂肪というわけで、脳以外の内臓などの臓器や骨格筋などに付着し、臓器や筋肉の内部に入り込みます。

脂肪細胞に貯蔵されているエネルギーは、体内の状況に応じて神経やホルモンなどの伝令を通して正しく体内に作用します。一方、異所性脂肪は正規のエネルギー貯蔵方法で体内に存在しているわけではないため、体内の生理機能に正しく反応できず、ほかの細胞や、心臓や膵臓(すいぞう)、肝臓などに内部から直接悪い影響を及ぼし、糖尿病、高血圧、高脂肪血症、脂肪肝、動脈硬化、心筋梗塞(こうそく)、痛風、膵炎などの生活習慣病を引き起こします。

例えば、異所性脂肪が膵臓に付着すると、脂肪が細胞を殺すためにインスリンが作られなくなり、糖尿病になると見なされます。異所性脂肪が肝臓に付着すると、脂肪肝になり、さらにはNASH(ナッシュ、非アルコール性脂肪性肝炎)になり、そのまま悪化すると組織の中に線維ができて、自覚症状がないまま肝硬変や肝臓がんに進む恐れもあると見なされます。

異所性脂肪の効果的な減らし方

異所性脂肪は、脂肪細胞に入り切らなかったエネルギーによって生成されます。つまり、脂肪細胞を飽和状態にしなければ、異所性脂肪も生成されないというわけです。

脂分の多い食事を避け、貯蔵されたエネルギーを運動によって放出するのが、異所性脂肪の効果的な減らし方といことになります。

ちなみに、脂肪細胞の数は人によってさまざまですが、通常、乳幼児の時期と思春期の時期に増加するとされています。成人してからも特殊なケースで増えることはありますが、一般的に成人後に脂肪細胞の数が増えることはないというデータがあり、エネルギー貯蔵庫としての脂肪細胞の数は増やすことはできません。

中高生のころに太っていた人は、基本的に脂肪細胞の数が多いため、異所性脂肪が付着しにくいとされますが、油断して食べすぎることによりエネルギーをため込みすぎると外見がより膨らみます。

逆に、中高生のころにやせていた人は、いくら食べても外見はあまり太ったようには見えない人が多くいますが、エネルギー貯蔵庫自体が少ないため異所性脂肪が付着しやすい体になっているため、生活習慣病を引き起こす危険性があるとされます。

異所性脂肪は体の外見に影響しにくい、つまり異所性脂肪がいくら付着しても見た目にはわからないということですので、食事で脂分の取りすぎを控え、1日1万歩のウオーキングで運動不足を解消するなどの自己管理が必要です。

異所性脂肪は簡単にたまりやすい代わりに、簡単に減らせるという特徴があり、ごく短期間の食事のコントロールと運動の実践をするだけで、その量が劇的に減ることがわかっています。

ただし、運動の負荷が大きすぎると異所性脂肪は減らせても、心肺機能や関節など体の別の部分にダメージが現れてきますので、 自分に適した運動量を無理なくキープしていく気持ちで臨むことも必要です。

2022/07/25

🇲🇦アルコール依存症

飲酒の量をコントロールできない精神疾患

アルコール依存症とは、飲酒などアルコールの摂取によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く捕らわれて、自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神疾患。 薬物依存症の一種で、以前は慢性アルコール中毒、略してアル中とも呼ばれていました。

厚生労働省の研究班の調査では、アルコール依存症と予備軍は約440万人と推定していますが、医療機関で治療を受けている人はごく一部。

多量飲酒が長年続いた後に、発症します。多量飲酒は1日当たり日本酒3合以上が目安とされ、乱用からアルコール依存症へと進むリスクが高いと指摘されています。

アルコール依存症の人は、アルコールによって自らの心身を壊してしまうのを始め、家族に迷惑をかけたり、さまざまな事件や事故、問題を引き起こしたりして、社会的信用と人間的信用を失ったりすることもあります。

症状の特徴としては、飲酒のコントロールが効かないとともに、飲酒をやめた時に離脱症状が出ることです。離脱症状とは数日以内に起こる精神症状と身体症状で、精神症状としてはイライラ、不安、抑うつ気分、不快感または脱力感があり、身体症状としては発汗、下痢、手の震え、吐き気、起立性低血圧などがあります。飲酒すれば、離脱症状は軽減ないしは消失します。

飲酒のせいで食欲がわかずに栄養失調になったり、酔って転倒し骨折する危険性も高くなります。

症状が進行すると、いくつかの精神症状が現れます。その一つはアルコール離脱せん妄というタイプで、従来は振戦(しんせん)せん妄という診断名で呼ばれていたものです。

飲酒の減量または中止後1週間以内に、せん妄という意識状態の変化が生じ、恐ろしいものが見える幻視を伴ったり、不安になっておびえたりします。幻視は活発で、主に虫やネズミなどの小動物が見えてしまうケースが多くなります。同時に、自律神経機能の高進で頻脈や発汗が出現したり、手足が震える振戰が起こったりします。

また、飲酒中止時や大量飲酒時に、アルコール幻覚症がみられることがあります。幻覚は、被害的内容の鮮明な幻聴を主とします。複数の人がしゃべっているような幻聴が多く、1~2週間で消失します。しかし、中には数か月も続くことがあります。

アルコール妄想症がみられることもあります。嫉妬(しっと)妄想を主とするタイプで、自分の妻や恋人が浮気をしているという疑いを抱いて詰問したり、証拠調べをするような行動に出たりします。断酒によって、次第に消失します。

長期かつ大量の飲酒を続けると、サイアミン(ビタミンB1)の欠乏によって、コルサコフ病(ウェルニッケ・コルサコフ病)と呼ばれる亜急性脳炎を起こす場合があります。意識障害、記銘力や記憶力の障害、場所や時間がわからなくなる失見当識、小脳失調などの症状が出ます。記憶力の障害の結果として、記憶の不確かな部分を作話で補おうとする「コルサコフ作り話」が、よく知られています。

アルコールが原因で、ビタミンB群とニコチン酸の欠乏による栄養障害が生じて、アルコール性多発神経炎、ないしアルコール性末梢(まっしょう)神経炎と呼ばれる疾患を起こすこともあります。手足の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛(とうつう)、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくいなどの症状が出ます。

アルコール性多発神経炎がコルサコフ病に合併すると、アルコール性多発神経炎性精神病を発症します。コルサコフ病からさらに進行して

進行、アルコール性認知症を発症する場合もあります。

なお、アルコール依存症の大部分では、臓器障害として肝機能障害、胃腸障害、心障害、膵(すい)障害を伴います。最も多くみられるのは、アルコール性肝炎からアルコール性脂肪肝、アルコール性肝硬変と進むケースです。

アルコール性肝炎は、肝臓が炎症を起こし、肝細胞が破壊される病気。全身の倦怠(けんたい)感、上腹部の痛み、黄疸(おうだん)、腹水などの症状が出ます。アルコール性脂肪肝は、肝臓に脂肪が蓄積され、放置すると肝硬変、肝臓がんへと進む危険性を持ちますが、自覚症状はほとんどありません。アルコール性肝硬変は、肝細胞の破壊が広範に起こり、細胞が繊維化される病気。肝炎と類似した症状が出ます。

アルコール性胃炎は、胃粘膜の炎症。慢性化して、胃潰瘍(かいよう)に発展する場合もあります。症状は胃痛、胸焼け、吐血など。アルコール性膵炎は、膵臓の炎症。慢性膵炎の約半数は、アルコール性のものといわれています。症状は腹部や背中の痛み、発熱など。急性膵炎や慢性膵炎が急速に悪化すると、落命することもあります。

これらの身体症状は、アルコールにより引き起こされているものなので、酒を断つことにより回復するケースもあります。しかし、数日単位での回復は無理で、数カ月から長いものでは数年ほど回復に時間がかかることが、多くみられます。脳や体に不可逆的にダメージを受け、ある程度以上は治癒しないケースも。

アルコール依存症の人は、飲酒歴が長期に渡っているのが特徴ですが、女性の場合は短期の飲酒歴で、かつ飲酒量が比較的少量でも、急速にアルコール依存症となってしまう危険があります。

一説によると、習慣飲酒からアルコール依存症への進行の時間は、男性で約10年、女性では約6年であるともいわれています。

女性は、男性に比べて一般的に体が小さいこと、体内の水分率が男性より低いこと、女性ホルモンがアルコール代謝を阻害する要因となることなどから、同じ量のアルコールを摂取しても男性の2倍悪影響が出ると見なされています。

根本的な治療法といえるのは断酒のみ

アルコール依存症の治療において、まず大切になるのが本人の認識です。アルコール依存症の人は全般的に、自分がアルコール依存症であることを認めたがりません。認めてしまうと、飲酒ができなくなってしまうからです。何よりもまず、本人が疾患の自覚と治療の意志を持つことが大切です。

アルコール依存症の人の過剰な飲酒に対して、「意志が弱いから」、「道徳感が低いから」といわれたり、不幸な心理的、社会的問題が原因であると考えられがちですが、実際はそうではなく、多くの場合この疾患の結果であることが多く見受けられます。

つまり、アルコールによって病的な変化が体や心に生じ、そのために過剰な飲酒行動が起こるということです。このことをまず本人や周囲の人が理解し、認めることが、この病気から回復する上での欠かせない第一歩となります。

ただ、一度アルコール依存症になってしまうと治療は難しく、根本的な治療法といえるものは現在のところ、断酒しかありません。しかし、本人の意志だけでは解決することが難しいため、周囲の理解や協力が求められます。

重症の場合は、精神科への入院治療が必要になることもあります。入院によって異常行動の監視や情動の安定を図り、精神療法や断酒訓練を通して、アルコールへの依存からの自立を助けることもできます。

日本で認可されているシアナミド(商品名:シアナマイド)とジスルフィラム(商品名:ノックビン)という2種の抗酒剤や精神安定剤の使用により、アルコール摂取を禁止して治療を進めるとともに、各地にある断酒会や禁酒会などの自助グループへの参加を奨励する医師も多くなっています。

抗酒剤を服用すると、飲酒時に血中のアセトアルデヒド濃度が高まるため、不快感で多量の飲酒ができなくなります。簡単にいうと、少量の飲酒で悪酔いする薬。飲酒欲求を抑える薬ではないため、医師の指導の下、本人への十分な説明を行った上での服用が必須。この薬を飲んで大量飲酒をすると、命にかかわる危険性があるからです。

ただし、医師による治療でも完治することはなく、断酒をして数年、十数年と長期間経過した後でも、たった一口、酒を飲んだだけでも早かれ遅かれ、また以前の状態に逆戻りしてしまいます。

そのため、治療によって回復した場合であっても、アルコール依存症の人が一生涯断酒を続けることは、大変な困難を要します。アルコールは依存性薬物であるからです。

このため、断酒をサポートする断酒会や禁酒会への参加を、医師も奨励しているのです。断酒会や禁酒会は、アルコール依存症患者とその家族によって作られた自助グループ。会費制で、組織化されており、外部に対してもオープンな姿勢を取っている日本独自の団体です。断酒を続けることを互いにサポートし合い、酒害をはじめ、アルコール依存症に対する正しい理解と知識を広く啓蒙(けいもう)する活動を行っています。

また、都道府県の精神保健福祉センターや最寄りの保健所では、アルコール依存症に関する無料相談を受けています。専門の病院を紹介してくれることもありますので、アルコール依存症と予備軍の人は困った時に1人で悩まず、気軽に相談するとよいでしょう。

🇶🇦アルコール性肝障害

肝臓を障害する長期の大量飲酒

アルコール性肝障害とは、酒の飲みすぎによって肝臓が負担を受け、発症する病気の総称です。

アルコール性肝障害で最初に生じるのは、アルコール性脂肪肝です。肝細胞に中性脂肪がたまって肥大化し、肝臓が全体的に腫(は)れます。軽い腹部不快感や疲れやすさ、食欲不振、やせなどがみられます。大量飲酒者のほとんどにアルコール性脂肪肝は認められますが、通常は無症状。

なお大量飲酒を続けると、やがて約2割の人にアルコール性肝炎が起こります。発熱、黄疸(おうだん)、右上腹部痛、肝臓の圧痛、食欲不振、吐き気、下痢などの自覚症状が現れます。

非常に重症になる場合もあり、入院治療が必要です。重症型アルコール性肝炎と呼ばれる病態になると、肝性脳症、肺炎、急性腎(じん)不全、消化管出血などの合併症やエンドトキシン血症などを伴い、死亡することもあります。

幸い重症化しない場合でも、長期に大量飲酒を続け、肝臓への負担が増加するとアルコール性肝線維症をへて、線維化がますます進み肝臓の働きも低下するアルコール性肝硬変になる場合があります。黄疸や疲れやすさ、腹部不快感、右上腹部痛、吐き気、吐血などの症状が出てくることが多くなります。

アルコール性肝障害の原因としては、アルコールが直接、肝臓を障害することが挙げられます。問題となるのはアルコールの量で、酒の種類は関係ありません。肝臓はアルコールや薬、不要物などの代謝解毒を行っていますが、アルコールを長い間飲み続けると、肝臓が常に負担を受け続けるために、障害が出てくるのです。

同時に、酒飲みは栄養のある食事を取らないことが多く、とりわけ蛋白(たんぱく)質の不足が肝臓を悪くする原因の一つになっています。

およその量として、日本酒にして毎日3合くらいを5年以上飲み続けているとアルコール性脂肪肝に、毎日5合を10年以上のみ続けているとアルコール性肝硬変になる可能性が高いとされています。また、女性は男性よりアルコール性肝障害になりやすく、1日2合の飲酒が続いても肝障害を引き起こす恐れがあります。

ちなみに、日本では1日平均150g以上のアルコールを飲む人を大量飲酒者と呼びます。この量を酒に換算すると、日本酒で約5合、ビール大びんで約5本、ウイスキーではダブルで約5杯ということになります。健康生活のためには、1日あたり平均30gのアルコール摂取、つまり1日に日本酒で約1合、ビール大びんで約1本が適量と見なされます。

治療には節酒ではなく、禁酒が大切

従来、アルコール性肝障害は低栄養の人に多かったのですが、最近は肥満でかつアルコール性肝障害を持って人が増えているので、注意が必要です。

年に一回は、生活習慣病予防健診で肝臓の検査を受け、肝機能や膵(すい)機能、空腹時血糖に異常がないかどうかチェックしましょう。多くの飲酒者で、血液中のγ(ガンマ)―GTPは高値を示すので、個人差はありますが飲酒量のバロメーターとして利用できます。

アルコール性肝障害では肝臓の線維化が進んでも、しばしば血液検査で異常が見付からない場合もあるので、詳しく肝臓の状態を知るためには腹部超音波検査や肝生検が必要になります。血清アルブミン値や血小板数に異常が見付かれば、比較的進んだ肝障害があることを意味することが多くなります。

すでに肝障害が見られる場合には、節酒ではなく、禁酒が必要です。 断酒会などを積極的に利用するのも、一案です。アルコール性肝障害では、最初、脂肪肝だったものを放っておくと肝硬変に進行していきますが、早く見付けて断酒などの対処をすれば、肝がんに進むことはまれです。

2022/07/19

♎門脈圧高進症

腸から肝臓につながる血管内で、血圧が上昇

門脈圧高進症とは、腸から肝臓につながる門脈から枝分かれした血管内で、血圧が異常に高くなる状態。これに伴って食道静脈瘤(りゅう)、胃静脈瘤、脾腫(ひしゅ)、腹水など、二次的な症状が現れます。

大静脈である門脈には、腸全体を始め、脾臓、膵臓(すいぞう)、胆嚢(たんのう)から流れ出る血液が集まります。門脈は肝臓に入ると左右に分かれ、さらに細かく枝分かれして肝臓全体に広がります。血液は肝細胞との物質の交換を行った後は、末梢(まっしょう)の肝静脈に流れ出して、大きな3本の肝静脈に集められ、さらに下大静脈を介して体循環に戻り心臓へと向かいます。

門脈の血圧、すなわち門脈圧を上昇させる原因は、2つあります。門脈を通る血流量の増加と、肝臓を通る血流に対する抵抗の増大です。欧米諸国では、門脈圧が高進する最も一般的な原因は肝硬変による血流抵抗の増大で、その一番の原因はアルコールの過剰摂取となっています。日本でも、原因の90パーセント以上が進行した慢性肝炎を含む肝硬変によるものです。そのほかの門脈圧高進症を来す疾患としては、特発性門脈圧高進症、肝外門脈閉塞(へいそく)症、肝静脈の閉塞するバッド・キアリ症候群、日本住血吸虫症などがあります。

門脈圧の高進により、門脈から体循環に直接つながる静脈の発達が促され、肝臓を迂回(うかい)するルートが形成されます。この側副血行路と呼ばれるバイパスによって、正常な体では肝臓で血液から取り除かれるはずの物質が、体循環に入り込むようになります。

側副血行路は特定の部位で発達しますが、食道の下端にできた場合は特に注意が必要で、血管が拡張し曲がりくねって、食道静脈瘤を形成します。拡張した血管はもろくなって出血しやすく、時に大出血を起こし、吐血や下血などの症状が現れます。側副血行路はへその周辺部や直腸で発達することもあり、胃の上部にできた静脈瘤も出血しやすく、時には大出血となりますし、直腸にできた静脈瘤もまれに出血することがあります。

脾臓は脾静脈を通じて門脈に血液を供給しているため、門脈圧の高進はしばしば脾臓のはれを引き起こします。脾機能高進による血球破壊のために、貧血を生じることもあります。蛋白(たんぱく)質を含む体液である腹水が肝臓と腸の表面から漏れ出して、腹腔(ふくくう)が膨張することもあります。

門脈圧高進症の検査と診断と治療

門脈圧高進症の基礎となる疾患が不明な場合には、肝機能検査を始め、超音波検査、血管造影、CT、MRIなど各種の画像検査により診断を確定します。基礎となる疾患が明らかになれば、食道静脈瘤、胃静脈瘤の有無と、その静脈瘤が出血しやすいかどうかを診断する必要があるため、内視鏡検査が最も重要で、早急を要します。

脾腫では、触診で腹壁越しに、はれた脾臓が感じられることから、腹水では、腹部の膨らみや、軽くたたいて打診を行うと鈍い音がすることから診断されます。ごくまれに、腹壁を通して肝臓や脾臓に針を挿入し、門脈内の血圧を直接測定することがあります。

治療では、門脈圧の上昇から生じる二次的な病態である静脈瘤、脾腫、腹水、脾腫などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路を遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

これらの治療には、側副血行路の状態をみるために、血管造影や超音波を用いた検査が行われます。胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧の方がはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

肝硬変を起こしていたり肝機能に障害がある場合は、こうしたバイパス形成手術によって肝性脳症を起こすリスクが高くなりますので、手術の代わりに、皮膚から注射針を直接肝臓に刺し、注射針を通してワイヤとカテーテルを挿入し、門脈と体循環の静脈系とを結ぶシャントを形成することもあります。

脾腫を伴う場合はハッサブ手術や血管内治療、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

2022/07/17

🇦🇽肝レンズ核変性症

脳、肝臓、腎臓、目に銅が沈着してくる遺伝性疾患

肝レンズ核変性症とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。進行性レンズ核変性症、ウイルソン病、先天性銅代謝異常症とも呼ばれます。

常染色体劣性遺伝に基づく遺伝性代謝疾患であり、その発症の原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、先天性銅代謝異常症はよく似ています。

食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱく)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、肝レンズ核変性症においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、大脳の深部にある大脳基底核、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、肝レンズ核変性症の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

肝レンズ核変性症の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白目や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、大脳基底核を構成するレンズ核の変性に伴い、思春期ごろから現れます。レンズ核は、神経細胞体の集まりである2つの神経核、すなわち被殻と淡蒼球(たんそうきゅう)という2つの神経核からなり、筋肉の動きを制御して、運動を調節している部位です。

初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見える角膜輪(カイザー・フライシャー輪)が現れます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、10歳以下の小児期に多い肝型、10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

肝レンズ核変性症の検査と診断と治療

肝レンズ核変性症は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患である肝レンズ核変性症は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ疾患を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率で肝レンズ核変性症であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異で肝レンズ核変性症が発症するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

小児科、あるいは内科の医師による肝レンズ核変性症の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、目の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

小児科、内科の医師による治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、Dーペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるのは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

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 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...