腟口や腟周囲の筋肉が不随意にけいれん、収縮を起こし、性交ができなくなったりする状態
ワギニスムスとは、女性の腟口(ちつこう)や腟周囲の筋肉が不随意にけいれん、収縮を起こし、性交時に痛みを感じたり、性交ができなくなったりする状態。腟けいれん、腟けいとも呼ばれます。
このワギニスムスは、性交経験のない人に起こる原発性のワギニスムスと、性交経験のある人に起こる続発性のワギニスムスとに分かれます。
原発性のワギニスムスでは、初交の際に男性が陰茎を膣に挿入しようとすると、外陰部の疼痛(とうつう)を覚えるため、不随意反射的に膣口の括約筋である球海綿体筋や外肛門(こうもん)括約筋を強く締めてしまい、挿入が困難か、あるいは挿入に強い痛みを伴います。挿入後に起こった場合は、陰茎を抜去するのが困難になります。
原発性のワギニスムスの多くは、幼少期の性的障害や、性への消極的思考の教育、宗教的な罪悪感、望まない結婚などが関係するといわれています。無意識の心理的葛藤が身体的症状として現れる、いわゆる心身症としてとらえることもできます。
続発性のワギニスムスの場合は、結婚後何年もしてから症状が現れることもあります。また、陰茎挿入時に疼痛を覚えることもしばしばです。
続発性のワギニスムスは、性交を望まない気持ちが無意識にあると生じることがあります。例えば、過去に性交で経験した痛みが、症状の原因となっている場合があります。このほか、妊娠すること、パートナーに支配されること、自制が利かなくなることなどに対する恐れなどが、性交を望まない気持ちにつながります。
骨盤内の感染、けが、出産、手術などによる腟口の傷跡などの身体的な問題が、ワギニスムスを引き起こしていることもあります。腟洗浄、殺精子剤、コンドームのラテックスなどによる刺激も、原因となることがあります。
ワギニスムスの痛みのため、性交に耐えられない女性もいますが、こうした女性でもペニスの挿入を伴わない性行為であれば楽しめることがあります。逆に、月経の際の生理用タンポンの挿入にさえ耐えられないような場合もあり、こうした人では医師による検査の際に麻酔が必要となります。
医師による診断が難しいことと、治療には時間がかかることがあるので、ワギニスムスに気付いたら、まずは産婦人科に相談に行くのがよいでしょう。その後、必要に応じて専門家の治療を受けることになります。
ワギニスムスの検査と診断と治療
婦人科、産婦人科の医師による診断は、発症者による症状の説明、病歴によって続発性のワギニスムスを疑いますが、確定診断は腟の検査を行うことになります。ただし性器という場所ゆえに、なかなか検査を行いにくいというのが現状です。
身体的疾患がワギニスムスの原因となっている場合は、その治療を行います。原因が精神的なものである場合は、性交や性器に対する不安の除去を図る精神医学的療法を行います。同時に、パートナーとの関係の見直しや、家庭環境の改善も必要になってきます。
物理的な治療として、器具の挿入による腟の段階的拡張を行うほか、局所への麻酔薬入りゼリーの塗布、処女膜切開、向精神薬の内服などの方法があります。
腟の段階的拡張は、潤滑剤を塗ったプラスチック製の棒(拡張器)を自分で腟に挿入し、腟を徐々に広げていくという方法です。初めは細い拡張器を使用し、楽に挿入できるようになったら徐々に太いものに変えていきます。十分な太さの拡張器を入れていても不快感を感じないようになったら、改めてパートナーとの性交を試みます。
この拡張器を挿入した状態で、骨盤部の筋肉を強化するケーゲル体操を行うと効果的な場合があります。ケーゲル体操は、排尿を途中で止める時のように、腟、尿道、直腸の周りの筋肉に力を入れて約10秒間引き締め、次に力を抜いて約10秒間緩めます。この動作を10〜20回繰り返すのを1セットとして、1日に3セット以上行います。
この体操により、不随意に収縮していた筋肉をコントロールする感覚を身に着けることができ、尿失禁や便失禁の予防や軽減にもつながります。
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