手のひらの根元部分にある有鉤骨の突起部分に生じる骨折
有鉤骨(ゆうこうこつ)骨折とは、手のひらの中央からやや下、小指寄りにある有鉤骨の体部から、手のひら側にマストのように突出した鉤に生じる骨折。有鉤骨鉤骨折とも呼ばれます。
有鉤骨は手のひらの根元部分にある手根骨の一つであり、野球、ゴルフ、テニス、体操、自転車レースなどのスポーツで手のひらに衝撃が加わった場合や、スポーツ中や交通事故で転倒して手のひらを強く突いた場合に、手根部の横アーチに強い緊張がかかって有鉤骨骨折が生じます。
野球ではしばしばみられ、打者がボールを打つ時に直接手のひら、特に小指側の手のひらの筋肉の膨らみである小指球に強い衝撃を受けたり、バットを強く握った手の中でグリップエンドがずれることで、有鉤骨の鉤状に突出した部分を骨折することがあります。中でもファールチップをした時は、バットを振った力がボールに伝わらずバットを持った手のひらに負荷がかかるため、骨折しやすくなります。ゴルフでは、ゴルフクラブで芝生を打ち付けたりした際に、手のひらに強い衝撃を受けるため、有鉤骨の鉤を骨折することがあります。
ボールとラケットの質量が小さいテニスでは、手のひらへの1回の衝撃というよりも繰り返し衝撃を受けることが原因となって、有鉤骨の鉤を疲労骨折することがあります。野球やゴルフでも、バットやゴルフクラブを長期間にわたって熱心に振り続けた結果、有鉤骨の鉤を疲労骨折することもあります。
有鉤骨の鉤を骨折すると、折れた骨が有鉤骨の近くにあるギヨン管(尺骨〔しゃくこつ〕神経管)の中を通る尺骨神経を圧迫することもあり、この場合にはギヨン管(尺骨神経管)症候群を起こし、手首の手のひら側から小指、薬指の小指側に痛み、しびれが出現します。進行とともに、筋肉の委縮、握力の低下、巧緻(こうち)運動障害、小指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形と呼ばれる現象も起こります。
有鉤骨骨折はまれに起こる骨折ですが、1回の強い衝撃がなくても、小さい負荷が繰り返し長期間かかり続けて疲労骨折することもあるため、骨折と気が付かず手首の捻挫(ねんざ)と勘違いすることもあります。スポーツのスイングなどで手首が痛くなり、痛みがなかなか引かないような場合は、重篤な症状になる前に整形外科を受診し、正確な診断を受けることが勧められます。
有鉤骨骨折の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、まずX線(レントゲン)検査を行います。ただし、有鉤骨の鉤の構造上の位置関係から、普通に正面や横から撮影しただけでは骨折が判別できず、手関節を最大背屈位や軽度回外位にし、特殊撮影を行うことで明らかになる場合もあります。
より正確に診断するには、CT(コンピュータ断層撮影)検査、またはMRI(磁気共鳴画像撮影)検査が有効で、完全に骨折していないヒビの入った状態でも判別できます。
整形外科の医師による治療では、受傷直後に診断され、骨の位置のずれ(転位)が少ない場合には、6週間の前腕以下のギプス固定で骨癒合することも考えられます。骨癒合すれば、十分にスポーツ活動への復帰は可能です。
骨の位置のずれ(転位)が大きい場合や、早期にスポーツ活動や社会生活への復帰を希望する場合には、手術が行われます。有鉤骨は血流の乏しい部位であるために骨癒合しにくく、手術をしたほうが復帰が早くなる上に、ギヨン管(尺骨神経管)症候群などの合併の防止にもつながるからです。
手術の方法には、骨接合術と鉤切除術の2つがあります。ただし、有鉤骨の鉤の断面が湾曲していることや、骨そのものが小さいこともあり、骨接合術はかなり難しくなります。うまくいかなかった場合は、骨折部の血流が悪いために骨がくっつかないまま、関節部ではないのに関節のようになる偽関節形成や、屈筋腱(けん)の皮下断裂を起こす可能性もあるため、鉤切除術を第1選択とし、有鉤骨の鉤部分を取り除きます。
鉤切除術を行った場合、1週間のギプス固定の後に手の使用を開始できますが、4~6週間は手のひらの根元部分の小指側に力をかけないように注意します。有鉤骨骨折から復帰するためには、6~12週間の安静とリハビリテーションが必要となります。
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