遺伝的な原因により、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患
遺伝性腎性(じんせい)尿崩症とは、先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。先天性腎性尿崩症、家族性腎性尿崩症とも呼ばれます。
利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。遺伝性腎性尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。
一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、遺伝性ないし後天性の中枢性尿崩症です。
腎性尿崩症にも遺伝性と後天性があり、遺伝性腎性尿崩症が先天的な遺伝が原因で、出生直後から症状が出現することが多いのに対して、後天性腎性尿崩症は薬剤の副作用や腎臓障害などが原因となって、あらゆる年代において徐々にあるいは突然、症状が出現します。
遺伝性腎性尿崩症は、腎臓の腎尿細管の抗利尿ホルモン2型受容体の遺伝子異常で90パーセント以上が出現するとされ、性染色体であるX染色体の劣性遺伝のため、男性にのみに発症します。X染色体を2本持つ女性は、発症しないものの保因者になるため、妊娠した場合、遺伝性腎性尿崩症を受け継ぐ男子が生まれる可能性があります。
また、まれに尿細管の抗利尿ホルモン感受性アクアポリン(水チャンネル)の遺伝子異常によっても出現します。この遺伝子異常は、常染色体の劣性遺伝によって約9パーセントで発症し、常染色体の優性遺伝によって1パーセントで発症します。
遺伝性腎性尿崩症を胎児期に発症した場合は、母胎の中で大量に尿を排出するため羊水が多くなります。
生後数日からの新生児期に発症した場合は、1日2・5リットルから3リットル以上の著しい多尿、のどの渇きによる多飲を示し、夜間尿の増加などが起こります。
大多数の新生児は生後1年以内に診断されますが、未治療の新生児では、のどの渇きを訴えることができないため、保護者が水の補給を控えた場合や高温環境にさらされた場合には、激しい脱水による発熱と嘔吐(おうと)、けいれんを起こし、血液中のナトリウム値が上昇します。この高ナトリウム血症が起こると、脳が障害され、発達障害や精神遅滞を起こしてしまう可能性があります。
通常、低身長がみられ、慢性的で過大な多尿に伴い、水腎症や水尿管症、巨大膀胱(ぼうこう)など尿路系の拡張が発生し、その結果、逆流性腎症さらに腎不全に至る例もあります。
しかし、一部の軽症型(部分型)の遺伝性腎性尿崩症の新生児では、これらの症状は気付かれない程度か、軽度です。明らかな脱水の症状を示さずに、嘔吐、吐き気、授乳力低下、便秘もしくは下痢、発育不全、原因不明の発熱、不活発、興奮性といった症状を現します。低身長や発達障害はみられず、小児期の後期に診断される傾向があります。
常染色体優性遺伝によって遺伝性腎性尿崩症を発症した新生児では、症状の出現は遅く、成人初期まで現れない場合もあります。
早期に診断された場合も、遺伝性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、長期にわたって飲水とトイレの使用が自由にできる状況を用意することが必要になります。乳児では自分ののどの渇きに従って水を求めることができないので、通常の食事のほかに水を摂取させることが必要です。
自分で水を求めることができる小児期になっても、こまめな水分補給を常に行いながらの生活となります。そのぶん尿量も増えますので、トイレに行く回数もほかの人よりも圧倒的に増え、生活は大きく影響を受け、幼稚園生活、学校生活や、成人後の社会活動、グループ活動も障害されます。
遺伝性腎性尿崩症の検査と診断と治療
内科、内分泌科の医師による診断では、下垂体(脳下垂体)に由来する抗利尿ホルモンが存在するにもかかわらず、血漿(けっしょう)抗利尿ホルモン濃度が高く、かつ利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤やデスモプレシン剤を投与しても尿の濃縮ができないことによって、遺伝性腎性尿崩症と確定します。
内科、内分泌科の医師による治療では、遺伝性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、経験的に対症療法として、尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬、それに加えてインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬を使用しますが、十分な効果は得られていません。
サイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用すると、カリウム喪失を招くため、血清カリウム濃度を測定し、必要に応じて食事や薬剤の形で補充します。水腎症、水尿管症、巨大膀胱に対しては、尿量を減らす治療を行い、残尿が多量の場合には周期的もしくは持続的な膀胱カテーテル留置を行います。
また、長期の療養が必要なため、塩分制限の食事療法を行うとともに、腎臓障害、高度脱水、高ナトリウム血症を起こさないように長期的な経過観察を続けます。
軽症型(部分型)の遺伝性腎性尿崩症では、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を使用した治療によって、ある程度尿量を減少させることが可能です。
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