男児の精巣が陰嚢内に位置せず、下降途中でとどまっている状態
停留精巣とは、男児の精巣の下降が不十分で、精巣が陰嚢(いんのう)内に位置せずに、途中でとどまっている状態。停留睾丸(こうがん)とも呼ばれます。
性腺(せいせん)に相当する精巣は本来、妊娠3カ月ごろから9カ月ごろまでの胎児期に、腹腔(ふくくう)の腎臓(じんぞう)に近いところから次第に下降し、鼠径管(そけいかん)という下腹部の決まった道を通ってから陰嚢まで下降し、出生時には陰嚢内に位置するようになります。陰嚢からの牽引(けんいん)、ホルモン(内分泌)などの働きにより精巣は下降しますが、何らかの原因によって下降が途中で止まったものが停留精巣です。
片側性と両側性があり、多くは股(また)の付け根の鼠径部に精巣を触れることができます。新生児の3~4パーセント、低出生体重児では20パーセントの頻度でみられ、珍しい疾患ではありません。
生後3カ月ごろまでは精巣の自然下降が期待でき、1歳時には新生児の1パーセント程度、低出生体重児では2パーセント程度となります。1歳を過ぎると、精巣の自然下降はほとんど期待できません。
普段は陰嚢が空のようであっても、風呂に入っている時や、リラックスして座っている時などに精巣が陰嚢内に触れるような場合には、移動性精巣と呼びます。移動性精巣は緊張や刺激により位置が高くなりますが、リラックスしている状態では陰嚢内に位置します。
陰嚢の中に精巣がある場合に比べ、それ以外のところに精巣がある場合は、2〜4度高い温度環境にさらされていることになります。陰嚢内にあると33度、鼠径管内にあると35度、腹腔内にあると37度というデータもあります。高い温度環境にある停留精巣を放置しておくと、精巣は徐々に委縮してしまいます。精子を作る細胞も少しずつ機能を失い、数も減少してゆきます。この変化は高い温度環境では常に進行してゆき、成人になってからの男性不妊の原因になると考えられています。
さらに、停留精巣から悪性腫瘍(しゅよう)ができやすい、停留精巣が外傷を受けやすく、精巣捻転(ねんてん)を起こしやすいなどともいわれます。
1歳の誕生日を過ぎても精巣が陰嚢内に触れない場合には、小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診察を受けることが勧められます。また、移動性精巣と停留精巣の区別が難しいことも多いため、正しい治療方針を立ててもらいます。
停留精巣の検査と診断と治療
小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診断では、陰嚢の中に精巣を触れない場合に、鼠径部にあるのかどうかをよく触診します。この触診で精巣を触知する場合には、停留精巣か移動性精巣です。
精巣を触れない時には、精巣がない疾患である無精巣症と区別する必要があるため、超音波検査、MRI検査、腹腔鏡などにより、腹腔内に精巣があることを確認することがあります。同じ目的で、精巣を刺激するホルモンを注射して、男性ホルモンの分泌能力をみるホルモン検査を行う場合もあります。
小児科、泌尿器科、小児外科の医師による治療では、停留精巣に対しては精巣を固定する手術を行います。手術前および手術中には、超音波検査、MRI検査、腹腔鏡などにより、停留精巣の位置、大きさを確認することが重要です。
手術の時期に関しては、1歳から1歳6カ月ごろまで、遅くとも2歳までに手術をするのがよいとされています。移動性精巣であれば、治療の必要はありません。
幼児期の手術は、将来の男性不妊症の予防と、合併しやすい鼠径ヘルニア、精巣腫瘍の早期発見に役立つとされています。 ただし、手術を行っても精巣腫瘍の発生を防げるかどうかは不明です。
手術でなく男性ホルモンを使って精巣の下降を促す方法もありますが、副作用もあり日本ではあまり行われていません。
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