脳の先天的な発育不全により、大脳半球が高度に欠如する奇形症
水無脳症(すいむのうしょう)とは、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨(とうがいこつ)半球は形成されるものの、大脳半球が高度に欠如する奇形症。水頭症性無脳症とも呼ばれます。
人間の脳は、脊髄(せきずい)の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。
水無脳症は、胎児期に内頸(ないけい)動脈に形成不全が起こって、閉塞(へいそく)するために起こります。血液が供給されないために、一度は形成されたはずの大脳が突然退化したり、発育が止まったりして欠如し、本来あるべき部位は脳脊髄液を満たして極めて大きくなった脳室が占め、前頭葉、側頭葉、頭頂葉の遺残物が薄い膜様物となって、脳室を覆います。大脳の欠如は、本来なら前大脳動脈、中大脳動脈から血液の供給を受ける部位に発生する傾向があります。
通常、小脳および延髄などの脳幹は正常に発育し、頭蓋円蓋部を覆う髄膜、骨、皮膚も正常に発育します。
原因については、詳しく解明されていません。遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。
この水無脳症の胎児は、多くが死産します。出産した場合は、平均寿命3歳とされているものの、10歳を超えて生存するケースもあります。
生まれ付き水無脳症を持って生まれた乳児の症状としては、一般的な頭囲の成長の範囲を超えて頭が異常に大きくなることです。
いくつかの骨が結合してできている頭蓋骨は、生まれてしばらくの間、骨同士の結合が弱く、軟らかく組み合わさっています。水無脳症の乳児は、脳脊髄液が頭蓋内に余分にたまって極めて大きくなった脳室の圧力によって、頭蓋骨を押し広げる状態が続く結果、頭が異常に大きくなることが起こります。
嚥下(えんげ)、唾液、呼吸、循環、消化の中枢を担っている延髄は正常に発育しているため、心臓を動かす、呼吸をするなどの生命維持に関しては支障はなく、嚥下や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。
しかし、大脳が高度に欠如しているため、空腹や痛みを訴えることがあっても、人間としての感情を欠きます。乳児の正常な発達は、不可能です。
水無脳症の検査と診断と治療
産科、産婦人科の医師による診断では、妊婦の出生前の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、水無脳症の診断がつくことがあります。
胎児が水無脳症と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。
出生後は、神経学的検査を行うと、異常がみられます。頭部の外観からは正常に見えますが、懐中電灯を頭に当てる透光試験を行うと、頭蓋内全体を光が透過します。診断の確定には、超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI検査を行います。
産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら水無脳症の胎児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。
脳外科、脳神経外科の医師による治療では、頭部の拡大が過度の場合に、シャントと呼ばれる手術を行います。本来の脳脊髄液の流れの一部分から、シリコンでできたシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、脳内と腹部をつなぎ、脳脊髄液を流す仕組みを作ります。
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