首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄や神経根が圧迫される疾患
変形性頸椎(けいつい)症とは、首の椎間板と椎骨の変性により、脊髄(せきずい)や神経根が圧迫される疾患。頸椎症、頸椎椎間板変性症、頸椎椎間板症、頸部脊椎症、頸椎骨軟骨症などは、多少の違いはありますが、変形性頸椎症とほぼ同じ意味で使われています。
背骨のうちで首の部分を構成する骨が頸椎であり、7つの椎骨からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、一番下が第7頸椎。第2〜7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっていて、椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を果たしています。この椎間板は円板状の軟骨組織で、中心部に髄核と呼ばれるゼラチン状の軟らかい組織があり、それを線維輪と呼ばれる丈夫な組織が取り囲んでいます。
変形性頸椎症は通常、中年や高齢者に発症します。中年を過ぎると、骨や軟骨の老化のため、椎間板がつぶれ、骨の丸みがなくなり、椎骨の円柱状の部分である椎体の間の透き間が狭くなり、神経根の通路である椎間孔、あるいは脊髄を入れる脊柱管が狭くなってきます。
その結果、腕のほうへいく神経根が圧迫されて、肩や腕の痛みやしびれが起こったり、脊髄が圧迫されて、下肢のしびれ、知覚鈍麻、痙性(れんせい)まひが起こることがあります。
頸部の症状としては、肩や首の筋肉が緊張して肩凝りなどがみられたり、圧痛がみられます。また、頸部を前屈したり後屈した時に、後頸部から肩、上肢に放散する痛みが現れます。
上肢の症状としては、片側または両側の上肢の痛みとともに脱力感、疲労感、手指の感覚異常、冷感、こわばりを感じることがあります。また、手先の仕事、字を書く、物をつまむなどの動作ができにくくなり、時間がかかるようになります。
手指の感覚異常は圧迫部位の高さに一致しており、例えば第5頸椎椎間板による圧迫時は親指、第6頸椎椎間板の圧迫時は中指、第7頸椎椎間板の圧迫時は小指にそれぞれ感覚異常を来します。症状が進行すると、手の筋肉が委縮したり、皮膚温の低下、発汗異常、手指の変形などがみられます。
脊髄に圧迫が起こると下肢の症状が現れ、脚が震えるようになり歩行が不安定になる歩行障害、便秘、排尿障害などの症状が現れます。
また、椎骨の変形により頭蓋(ずがい)内に行く椎骨動脈が圧迫されると、首を曲げた時などに血行障害が起こり、めまいを引き起こすこともあります。頭痛、耳鳴りなどを引き起こすこともあります。
変形性頸椎症の検査と診断と治療
整形外科、神経内科の医師による診断では、首を横に曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走ったり、首を軽く後方へ曲げ、頭部を圧迫した時に上腕に痛みが走れば、この変形性頸椎症が疑われます。頸椎の単純X線写真で、椎体骨の偏平化、硬化、とげ状の突起である骨棘(こっきょく)形成、椎体間腔(かんくう)の狭小化の所見がみられれば、診断はほぼ確実です。
脊髄や神経根の圧迫の状態をみるには頸部MRI検査が有用で、脊柱管のどこが狭くなっているか、どのように脊髄が圧迫されているか、どの神経根が圧迫されているかなどがわかります。
整形外科、神経内科の医師による治療では、神経根の圧迫症状に対しては、頸部周囲の筋肉の緊張を和らげる治療を行います。就寝時の姿勢も大切で、枕の高さを調節して軽度の前屈位をとるようにします。
薬物療法としては、非ステロイド性消炎剤や筋弛緩(きんしかん)剤が有効です。痛みが強い時は、局所の安静のために頸椎固定用のカラー(えり巻き式補装具)を首に装着します。
そのほかの理学療法としては、血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するホットパックなどの温熱療法、頸椎牽引(けんいん)療法、低周波治療、レーザー治療などがあります。頸椎牽引療法では、首の牽引と休止を繰り返すことにより、痛み、しびれを緩和します。
早期に牽引やカラーを用いた装具療法を行えば、症状の進行をかなり食い止めることができます。症状が進行している時や、MRI検査によって重度の椎骨圧迫や脱臼(だっきゅう)がみられる時は、手術による治療が行われます。基本的には手術によっても、すでに起きてしまった障害は元には戻せません。
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