陰毛部分から腋臭と同じような特有の臭いが発生する状態
すそ腋臭(わきが)とは、腋(わき)の下から発生する腋臭と同じような不快な臭(にお)いが、陰部から発生する状態を指す症状。陰部臭汗症、外陰部臭症、下(しも)腋臭、トベラと呼ばれることもあります。
腋の下、陰部、臍(へそ)の周囲、乳輪などには、アポクリン汗腺(かんせん)がたくさん分布しています。また、瞼(まぶた)、鼻、外耳道、肛門(こうもん)周囲などにも、分布しています。
このアポクリン汗腺は、性ホルモンの影響を受けているため、思春期ごろから発汗が盛んになります。アポクリン汗腺から分泌された直後の汗には臭いはありませんが、汗をかいたままほうっておくと、汗に含まれる脂肪や尿素、アンモニアなどの成分が皮脂腺から分泌される脂肪酸と混じり合い、皮膚の表面についている細菌によって分解されることにより、刺激のある特有な臭いを発するようになります。
ちなみに、人が一生を通じて出す汗のほとんどは、アポクリン汗腺以外のもう一つの汗腺であるエクリン汗腺から出る水分を主成分とする分泌物で、アポクリン汗腺からの分泌物とは異なります。このエクリン汗腺からの分泌物そのものには、ほとんど臭いはありません。しかし、エクリン汗腺も、アポクリン汗腺の臭いの発散にかかわっています。
部位に限らず、腋臭は疾患ではなく優性遺伝で起こることが多い体質的なものです。両親ともに腋臭だと、子供が腋臭になる確率は75パーセント以上、片方の親が腋臭でも50パーセント以上の確率で遺伝するといわれています。それは、臭いの原因となるアポクリン汗腺の数も遺伝するためです。
アポクリン汗腺は全身の至る部位に分布しているため、腋の下なら腋の下、陰部なら陰部と、どれか一部位で腋臭の臭いが強くなることもありますが、合併して起こることも多い傾向にあります。そのため、腋の下から発生する腋臭(腋臭〔えきしゅう〕症)で悩んでいる人は、陰部から発生するすそ腋臭も併発していることが多い傾向にあります。
性別の特徴としては、男性よりも女性に多くすそ腋臭がみられる傾向にあります。女性の場合、特に生理中にすそ腋臭が強くなることがあります。
また、性行為の際にも強くなることがあります。性的な興奮によって、アポクリン汗腺が刺激されるためで、特に性行為の後、すそ腋臭の臭いがきつくなることが多いようです。
世界的に腋臭体質者の割合を見ると、日本人では10人に1人、中国人では30人に1人、白人では10人に8人、黒人では10人すべてとされています。
このように日本人では腋臭体質者が少数派という事情と、日本人が清潔好きという理由があいまって、自分の腋臭の症状が気になって仕事や勉強に集中できない、恋人がつくれない、人に近付くのが怖いなどの悩みを持つ女性も、少なからずいるとされています。
すそ腋臭に気付いたら、陰部を清潔に保つことが大切です。汗をかいた後はシャワーや入浴で汗をよく洗い流し、清潔な下着にこまめに取り替えます。衣服や下着の上から使えるパウダースプレーや全身に使えるローションなどのデオドラント製品の外用も、ある程度効果があります。また、陰毛があると汗が付着して細菌が繁殖しやすくなるので、陰毛を切ったり脱毛すると、臭いを減らす効果があります。
ニンニクや唐辛子などの香辛料やアルコールなども、発汗を促すことで臭いの原因になります。肉類や卵、乳製品といった動物性蛋白(たんぱく)質と同様、摂取を控えることで臭いの軽減につながります。
セルフケアを行っても、すそ腋臭の臭いが改善されない場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科を受診して相談することを考えてみてもよいのではないかと思われます。
すそ腋臭の治療
皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による治療としては、ビューホット治療、電気凝固法、ボトックス治療、手術療法などがあります。
ビューホット治療は、局所麻酔や無痛麻酔を行った後、陰部に細い針から出る高周波を当てて、アポクリン汗腺、エクリン汗腺を破壊することで、すそ腋臭の臭いを抑えるものです。通常の範囲であれば、20~30分程度で終わります。範囲が広い場合は、60分くらいかかることもあります。手術後は皮膚が少し赤くなる程度で、手術部の固定をする必要がないため、日常生活に制限がありません。1回ですそ腋臭が治るというメリットがあり、手術の翌日からシャワーを浴びることもできます。
電気凝固法は、局所麻酔の後、陰毛の毛根に沿って、針を挿入し、針に電気を流すことで、毛根周囲のアポクリン汗腺を破壊するものです。治療時間は20~30分程度で、通常3カ月おきに2回程度受けることで、効果が現れます。手術と比べ痛みはほとんどなく、治療後の日常生活にも支障はほとんどありません。ただし、治療によって陰毛は薄くなります。メリットは、効果が半永久的な点です。
ボトックス治療は、ボトックスという薬剤を注射して、神経伝達物質のアセチルコリンをブロックします。これにより、陰部の汗を抑えることが可能になります。1回の治療ですぐに効果が現れますが、5~6カ月ほどで効き目はなくなるため、すそ腋臭が完全に治るわけではありません。また、比較的軽度のすそ腋臭には効果が出やすいですが、かなり臭いがきつい場合は抑えられないこともあります。
臭いを抑える効果を強力にするため、ボトックス治療と一緒に、陰部のV(ビキニ)ライン、I(陰部の両側)ラインの脱毛を行うこともあります。陰毛の根元に細菌が増殖して臭いが発生するので、陰毛を少なくして細菌が増殖する環境をなくすことで、臭いのもとを絶つものです。
手術療法には、皮下組織削除法と超音波吸引法があります。
皮下組織削除法は、皮膚を切開して、臭いの根本であるアポクリン汗腺を切除する方法です。皮膚を数センチ切開した後、専用のローラーを皮膚表面に転がして、皮膚の裏側に粒状に並んでいるアポクリン汗腺をカミソリのような器具で切除します。手術後は、1週間ほど患部を固定します。効果が高いだけでなく、傷口が小さくすむのもメリットとされていますが、抜糸が終わるまでの数週間ほど入浴はできません。
超音波吸引法は、陰毛が生えている一番上の左右に、5ミリほど切り込みを入れ、そこから超音波メスを挿入して動かしていきます。超音波により発生した熱でアポクリン汗腺を破壊し、吸引します。
せっかく手術をしてもアポクリン汗腺が取り切れなかったり、皮膚にダメージを与えてしまうことがあることから、手術を勧めなかったり、行わない医師も多いようです。
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