男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こす疾患
先天性副腎(ふくじん)過形成症とは、副腎皮質から男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患。
副腎皮質からは、コルチゾール(糖質ホルモン)とアルドステロン(鉱質ホルモン)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンもわずかに分泌されています。先天性副腎過形成症では、副腎皮質の働きの異常により、コルチゾールの合成に必要な酵素が生まれ付き欠けているために、下垂体(脳下垂体)から副腎皮質刺激ホルモンが多量に出るようになり、副腎が過形成を起こします。その結果、アンドロゲンが過剰に分泌されるようになります。
コルチゾールの合成にかかわる酵素は数種類あり、欠ける酵素の種類により疾患のタイプが5種類に分けられ、症状も少しずつ違っています。いずれも常染色体劣性遺伝による異常です。日本では、21ー水酸化酵素の欠損が最も多く認められます。
男女にかかわりなく、先天性副腎過形成症は発生します。女児では、陰核の肥大や陰唇の癒合がみられ、性器はどちらかというと女性よりも男性的な外見になり、男児と間違えられることが多いものです。子宮、卵巣、卵管などの生殖器官の構造は、正常です。
成長するに従って男性化が顕著になり、成人の女性では、ひげが生え、手足の毛が濃くなり、陰核が大きくなり、声変わりや月経不順、不妊、乳房の委縮が起こります。
男児では、出生時には特に異常はみられませんが、幼少時から陰茎が発育し、陰毛が生えて声が太くなります。男女児とも、早い時期に発育が停止します。
また、先天性副腎過形成症の中でも重症のタイプでは、新生児期から副腎不全が発生します。嘔吐(おうと)、脱水、酸・塩基などの電解質の異常、不整脈などの症状が現れ、適切な治療をしないと生後数日で死亡します。
なお、家系に先天性副腎過形成症の遺伝がある人や、先天性副腎過形成症の子供を持つ人には、内科、ないし小児科で遺伝相談を受けることが勧められます。
先天性副腎過形成症の検査と診断と治療
現在日本では、21ー水酸化酵素欠損症を見付けるため、新生児の先天代謝スクリーニング検査(ガスリー検査)を行っており、全員が出生した医療施設で検査を受ける体制ができています。尿中の副腎皮質ホルモンと、その代謝物質を測定することで、どの酵素が欠けたのか推定することができます。症状の軽い不完全型の先天性副腎過形成症の場合は、副腎皮質刺激ホルモンの負荷後にこれらを調べることで、ようやく診断できることもあります。
内科、ないし小児科の医師による治療の目的は、分泌が低下したコルチゾールやアルドステロンを補い、アンドロゲンの値を正常に戻すことです。下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンが出すぎないように、副腎皮質ステロイド剤の一種であるコルチゾンを投与します。この投与は生涯に渡って必要です。
女児で陰核の大きいものや、陰唇の閉鎖がみられるものは、1~3歳の間に形成手術を行って、形状の異常を矯正します。
>子供が先天性副腎過形成症を持つ両親は、副腎皮質ステロイド剤の飲み方と副作用について説明を受けて下さい。けがや発熱で強いストレスを受けた時は医師に報告し、薬の量を増やしてもらいます。副腎皮質ステロイド剤の服用を突然やめると、急性副腎不全を起こしますので、注意が必要となります。
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