足の甲の部分に位置する中足骨に、小さなひびが生じた状態
中足骨(ちゅうそくこつ)疲労骨折とは、通常は骨折を起こさない程度の負荷が繰り返し加わることで、足の甲に5本ある中足骨に小さなひびが生じた状態。
中足骨疲労骨折は第2、第3中足骨の骨幹部に最も多く起こり、軍隊の訓練で兵士に多く起こったことから行軍骨折ともいいますが、最近はまれで、ランニングやサッカー、ラグビー、バレーボールなどのスポーツを行う人の発症が大多数を占めます。
また、第5中足骨の足首に近い基部に起こる骨折を第5中足骨基部骨折といい、下駄(げた)履き骨折とジョーンズ骨折に大きく分けられます。そのうちジョーンズ骨折が中足骨疲労骨折に相当し、足首をひねった捻挫(ねんざ)と同じ形で受傷し、サッカーやラグビーなどのスポーツをを行う人によくみられます。
一般的な中足骨疲労骨折は、第3中足骨骨幹部が半数を占め、以下第2、第4の順。第5、第1はまれです。第1、すなわち足の親指の根元に位置する中足骨は他の中足骨に比べて太く強いため、あまり骨折しません。ランニングで地面をける際に最も力がかかるのは第1と第2なので、第5、すなわち足の小指の根元に位置する中足骨の疲労骨折もあまり起こりません。
ただし、第1、第5に疲労骨折が生じた場合には、他の足指の中足骨に比べて完治するまでに時間がかかります。
主な症状は、足の甲の前部の痛みで、通常は長時間の運動中、あるいは激しい運動中にみられます。初めのうちは、運動をやめれば数分で痛みはなくなります。しかし、そのまま運動を続けていると練習中に早く痛みが現れるようになり、運動をやめた後も長く痛みが続きます。
最終的には、激しい痛みで走れなくなったり、安静にしても痛みが続くことがあります。骨折部の周囲は、はれることがあります。
中足骨疲労骨折を起こす危険因子としては、土踏まずのアーチが高い、衝撃の吸収が不十分なランニングシューズを履いている、運動量や運動強度が急に増大するといった要因があります。骨が細く薄い人は、骨の強度も弱いので、疲労骨折を起こしやすくなります。
閉経後の女性も、骨粗鬆(こつそしょう)症のために、疲労骨折を起こしやすくなります。また、若い女性の運動選手も疲労骨折を起こしやすく、これは激しい運動によって卵巣の機能が低下して月経が止まり、骨粗鬆症と同じ状態になるためです。
一方、第5中足骨基部骨折は、足の小指の根元、足の甲の部分に位置する第5中足骨の足首に近い基部に起こる骨折。
第5中足骨基部はよく骨折を起こす部分で、骨折しても歩けることも多く、足首をひねった捻挫と同じ形で受傷するので捻挫と思われがちですが、痛みのある部分や、はれのある部分が違いますので、よく観察すると区別が付きます。
骨折による症状は、足の甲の外側や小指の付け根の痛み、はれ、押すと痛む圧痛、歩行障害です。
骨折を起こす部分により、下駄履き骨折とジョーンズ骨折の2つに、第5中足骨基部骨折は大きく分けられます。2つの骨折部の違いはわずか1センチほどですが、治療法や予後は大きく異なります。
下駄履き骨折は、ジョーンズ骨折より足首に近い基部での骨折で、かつて高下駄を履いている時に足をひねるとよく生じていました。現在は下駄を履く機会があまりありませんので、なくなったかというとそうではありません。下駄は履かなくても、裸足やサンダル履きの時、普通の靴を履いている時にも足をひねると発生することがあります。特に、厚底靴やハイヒールを履いている時は要注意です。
しかし、骨折に至っても、周辺に靭帯(じんたい)や腱(けん)が残存していて骨片の動きが少ないため、ある程度以上ずれることはあまりありません。比較的よく治り、ギプスがいらないこともあります。骨癒合しないこともありますが、動きがほとんどないため、関節部ではないのに関節のようになる偽関節になっても、症状を来すことはほとんどないとされます。
一方、発見者の名前に由来して称されるジョーンズ骨折は、下駄履き骨折より小指に近い第5中足骨基部での骨折で、前足部でみられる骨折の中でも難治性であるといわれています。サッカーやラグビーなど、カットプレーやステップターン、サイドステップやスワーブを行うスポーツをする人によくみられます。
つま先立ちの姿勢で足をひねり、一回の外力でこのジョーンズ骨折が生じる場合もありますが、一般には疲労骨折であると考えられています。カットプレーやステップターンなどで足の外側に体重がかかり、それを繰り返すことによって、第5中足骨基部にストレスがかかり、折れてしまうと考えられています。
中足骨は真っすぐな骨ではなく、丸くアーチ状になっていて、第5中足骨基部には3方向のストレスが常にかかります。最も足の外側にあるために地面からの力を直接受けやすいという条件下にあり、カット動作などを行う時、アーチがたわみ、ストレスがさらにかかり、針金が何度も曲げられると折れてしまうように、骨が疲労骨折してしまいます。
偏平足の人やアキレス腱の硬い人などがジョーンズ骨折を生じやすいといわれていますが、擦り減ったシューズを長年使用していたり、床が硬いところでプレーを続けることでも生じます。
疲労骨折は症状が急激に現れるのではなく、少しずつ痛みが慢性化していき、発生当初はレントゲンにも映らないため、痛みがあるままスポーツを続ける人も多くなってしまいます。
痛みがあるままプレーをすることで、疲労骨折が完全骨折になってしまったり、偽関節になってしまうこともあるので、痛みが続く場合は原因となるスポーツをしばらく休むことが必要です。
また、疲労骨折の場合は癒合に時間がかかる上、ジョーンズ骨折が生じる部分は血行が他の部分に比べて少ないので、骨が癒合しにくく、治りにくくなります。
中足骨疲労骨折の検査と診断と治療
整形外科の医師による一般的な中足骨疲労骨折の診断は、症状についての問診と足の診察に基づいて行われます。骨折部分に触れると、痛みがあります。疲労骨折による骨の変化はごくわずかなので、骨折直後のX線(レントゲン)検査による画像では異常が見付からないこともよくあります。しかし、2〜3週間後には、骨の回復とともに骨折部位の周囲に新たな組織である仮骨が生じ、この変化がX線画像でも検出されます。
骨スキャン検査を行えば、X線検査よりも早い段階で骨折を確認できますが、必要となることはまれです。
整形外科の医師による第5中足骨基部骨折の診断は、足の小指の根元の中足骨に明らかな圧痛を認め、内反ストレス(内返し)を加えると激痛を生じます。X線検査の前後像と斜位像の2方向撮影で、確定診断されます。
しかし、ずれ(転位)のないケースでは、受傷した足部の状態を再現したストレスX線撮影を行わないと、骨折が発見できないことがあります。従って、自覚症状と診察所見で第5中足骨基部骨折が疑われる場合は、必ずストレスX線撮影を行うことが大切です。
整形外科の医師による一般的な中足骨疲労骨折の治療では、ほとんどは保存治療が行われ、手術治療はまれです。ランニングなどの荷重トレーニングは約4週間は禁止し、患部の固定、骨癒合の促進、筋肉の緊張緩和、痛みの軽減などを目的に、テーピング、ギプス、装具、包帯固定、松葉杖(づえ)による免荷、アイシング(冷却)、低周波治療、温熱療法、マッサージなどが行われます。
加えて、骨癒合や症状の状況に応じて、ストレッチング、筋力増強訓練などが行われます。
骨折が治った後は、足をしっかりサポートし衝撃を適度に吸収するシューズを履き、芝生や柔らかい地面を走ることが、再発の予防に役立ちます。また、ストレッチによる足関節、膝(ひざ)関節、特に股(こ)関節の柔軟性を獲得することが、ランニングによる足部への負担軽減に役立ちます。
ただし、足の親指や小指の根元の中足骨にも疲労骨折が生じることはあり、その場合には他の足指に比べて完治するまでに時間がかかり、長期間の固定を必要としたり、手術が必要になる場合もあります。
整形外科の医師による第5中足骨基部骨折の治療では、下駄履き骨折の場合、骨折部のずれが少ないか亀裂(きれつ)骨折であるため、実際に手術の対象となる場合はまれです。ずれがなく痛みやはれが少ない場合は、湿布と弾力包帯だけを使用することもあります。厳重に固定をしなくても、骨折部の骨膜や靭帯(じんたい)の連続性が保たれているため、骨折部のずれが大きくなることはほとんどありません。
骨折の状態によって、ギプス療法や装具療法で経過観察します。ギプス装着の期間は1~4週間と状態によって異なり、また、取り外しができる足部だけの簡単なシーネなどで固定することもあります。 シーネやギプスをしない場合の注意事項は、痛みの出る動作を極力しないことです。一般的には、痛みがほぼなくなるには約1カ月、はれがなくなるには2~3カ月を要します。
ずれが著明なケースでは、経皮的骨接合術や内固定術などの骨接合術を検討します。
ジョーンズ骨折の場合、骨癒合が悪い部分であるため、保存治療を行っても治りにくい場合には、骨接合術を行うことがあります。
骨癒合や症状の状況に応じて、ストレッチング、筋力増強訓練なども行われます。治療後にサッカーやラグビーなどのスポーツを続ける人には、外側縦アーチを守るため、足底板をシューズに入れることを勧めることもあります。アーチを支える構造になってる足底板は、外側縦アーチにかかるストレスを小さくすることができます。足全体で体重を支えることを目的として、親指側にも足底板を追加することもあります。
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