■心理的な要因で発生する身体疾患の総称
心身症とは、心理的あるいは社会的な要因が大きく関わって、症状が発現したり悪化したりする身体疾患の総称。ストレスや精神の持続的な緊張によって、身体疾患が起こるため、身体的な治療と並行して、多くの場合は心理面の治療やケアも必要となります。
日本心身医学会では1991年に、心身症(精神身体症)とは「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と規定しています。すなわち、心身症は病名ではなく、身体疾患の病態を説明する一つの概念なのです。
なお、心身症と適応障害との区別は不確実であり、同じ病気として扱う精神神経科医も多くいます。
心身症がしばしば認められる疾患の発症には、それぞれの疾患特有の原因が考えられます。中でも、ストレスは発症や悪化、慢性化の大きな要因と考えられていて、持続するストレスが脳の中枢神経系を介して、自律神経系、内分泌系、免疫系といった生体機能調節系に影響を与えると、臓器の構造や働きに異常を来すと見なされています。
例えば、仕事に悩んだり、家庭内のもめ事に悩んだりしている時に、高血圧や胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍が起こってくるのが、その好例です。
心身症を発症すると、特に自律神経に支配されている臓器である胃・腸などの消化器、心臓・血管などの循環器、気管支・肺などの呼吸器のほか、内分泌・代謝系、神経・筋肉系、泌尿器系、皮膚系、整形外科領域、婦人科領域などに身体疾患が起こります。
心身症がしばしば認められる身体疾患を、以下に挙げます。
消化器系:過敏性腸症候群、胃潰瘍、十二指腸潰瘍
循環器系:高血圧症、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、不整脈
呼吸器系:気管支喘息(ぜんそく)、過呼吸(過換気)症候群
内分泌・代謝系:糖尿病、甲状腺(こうじょうせん)機能高進症
神経・筋肉系:緊張性頭痛、片頭痛、自律神経失調症、書痙(しょけい)
泌尿器系:夜尿症、インポテンツ、過敏性膀胱(ぼうこう)
皮膚系:アトピー性皮膚炎、慢性じんま疹、円形脱毛症
整形外科領域:頸肩腕(けいけんわん)症候群、腰痛症、慢性関節リウマチ
婦人科領域:月経困難症、無月経、月経異常、不感症
以上のように、心身症と一般的な身体の疾患を扱う内科や外科の病気とは、表面的にはなかなか区別しがたいといえます。
また、心身症の発症の際、どの臓器に異常を来すかは、もともと弱いところに出る、ストレスの種類によって決まる、性格傾向によって決まるといった考え方があります。
心身症になりやすい人には、不安や緊張の強い人や、アレキシサイミア(失感情症)と呼ばれるタイプの人が多いようです。アレキシサイミアの人は、あまり感情を表に出さず、自分のことを表現するのが苦手。空想力、創造力の欠如を特徴とする性格傾向を持っているため、不満や不安などの自己の感情を意識で認識する代わりに、身体で表現してしまうのではないか、というメカニズムが考えられています。
よく発症する年代については、それぞれの病気によってまちまちですが、心療内科に心身症のために受診する人の内訳をみますと、女性は20~30歳代、男性は30~40歳代が最も多くなっており、それぞれ職場や家庭内におけるストレスが多くなる時期と重なっている可能性があります。
■診断と治療とセルフコントロール
一般的な身体の疾患を扱う内科や外科、整形外科などにかかって、症状がなかなか改善しなかったり、いったん治った病気が何らかの切っ掛けで再発を繰り返す時には、心身症を専門に扱う心療内科、精神科の診察を受けましょう。ただし、最近は内科を始め各診療科の窓口でも、心身症を取り扱うところが増えています。
心身症の治療は基本的には、それぞれの疾患に応じた直接的な治療に、心理療法が併用されます。加えて、心身症では心身の緊張、不安、抑うつといった精神症状が認められることも多く、その緩和のためには抗不安薬(精神安定剤)や抗うつ薬の服用が行われます。
心理療法としてよく行われるのは、自律訓練法とバイオフィードバック療法です。いずれも、自己をコントロールして、リラックスする手段を身に着けることを目的としています。
自律訓練法は、自己暗示によって、段階的に緊張をほぐす方法を体得していきます。バイオフィードバック療法は、音や光によって緊張状態を本人に自覚させ、自分で緊張をほぐすようにする方法です。
以上のような多面的な治療を行っていくと、大体のケースは半年くらいでかなり改善し、後は身体的な疾患の治療と自分の力で、セルフコントロールできるようになることがほとんどです。
例えば、高血圧であれば塩分を控えめに、糖尿病であればカロリーを控えめにする食事療法や、定期的な運動を行う運動療法が治療の大きな手段になってきますし、過敏性腸症候群や消化性潰瘍であれば刺激物を避け、気管支喘息であれば喫煙を控えるといった取り組みが症状の改善につながります。
さらに、直接疾患の治療と関係しなくても、生活習慣を規則正しくすることは、ストレスに対する心身の全般的な抵抗性を高めますので、心身症の治療には大変有効といえます。
心身症がしばしば認められる身体疾患は、慢性の疾患であることが多く、生活習慣病といわれる疾患群とかなり重なってきます。そして、ストレスの多い生活を送っていると、食事、運動、飲酒、喫煙、休養といった面の生活習慣は乱れがちになり、それがさらにこれらの病気を悪化させることになります。
ストレスは慢性の心身の緊張状態を作り出し、それがさまざまな身体の障害をもたらすと考えられていますが、その影響を緩和するためには、さまざまなリラクセーション法が非常に有効です。毎日定期的に練習を続けていくことにより、ストレスに対する身体の反応性自体が変わってくることも知られています。
具体的な方法として、ここでは比較的簡単に習得できる方法を紹介しましょう。
それは腹式呼吸をしながら、呼吸の数を数える数息という方法です。息を吸う時にお腹が膨らみ、吐く時にお腹がへこむのが腹式呼吸ですが、わかりにくければ、仰向けに寝て腹の上に置いたタオルを上げ下げする練習をしましょう。腹式呼吸をマスターしたら、静かな場所でゆったりと座るか仰向けになるかして、呼吸の数を1から順番に10まで数え、10になったらまた1から数えることを繰り返します。
その際、いくつまで数えたかわからなくなったら1に戻ることと、リラックスすることを目的にしているので、一生懸命にならずにゆったりと行うことを心掛けます。
数息を1回5~10分、1日1~2回行うようにし、2~3カ月も続けていくと、多くの症状が改善し、また体調全般もよくなってくるでしょう。
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