原子爆弾(原爆)による被災によって生じた疾病を、一般に「原爆症」と呼んでいます。原子爆弾症、原子爆弾傷とも呼ばれます。
1945年8月、広島、長崎に投下された原爆は、通常兵器とは段違いの威力を発揮し、熱風、爆風、放射線によって人々の体を破壊しました。とりわけ、放射線による傷害は、これまで人類が体験したことのない戦争被害でした。
広島、長崎の両市では、被爆直後は健康に見えた人の容態が突然悪化し、死亡したケースが数多く確認されています。多くの場合、まず体にだるさを感じ、目が見えなくなったり、節々に痛みを感じたりした後、死亡。爆発後に市内に入った人々も放射線に侵され、無傷なのに亡くなる人もありました。
生き残った被爆者の体にも、放射線の影響が深く刻み込まれています。発生から10年、20年たった後に発症するケースも、少なくありません。母胎内で被爆して生まれた子供にも、発症しています。
各種のがんにかかる人が多いのが実情で、放射線は骨髄などの細胞周期の短い細胞に大きな影響を与える確率が高いため、白血病などの血液がんを引き起こすのです。ミクロネシアでの核実験では、島民の免疫能力の大幅な低下も指摘されています。また、がん抑制遺伝子に放射線が突然変異を起こさせた場合、被爆の数十年後の発がんの確率が高まります。
こうした原子爆弾被爆者に対しては、被爆者援護法によって被爆者健康手帳が交付されています。現在、被爆者健康手帳を持つのは約25万人。被爆者健康手帳を持つ人が、がん、白血病などを発症した場合に、原爆症と認定されれば月約14万円の医療特別手当が支給されます。
しかし、厚生労働大臣の下にある審査会が判断する原爆症認定は非常に厳しく、近距離での直接被爆以外は、救護や肉親を探すために後から爆心地に入った人はほとんど却下されています。現行での認定者は約2200人で、被爆者健康手帳を持つ人の1パーセント未満にすぎません。
原爆症の新たな認定基準を検討してきた厚生労働省では、2008年1月、原爆と疾病の因果関係を判断する「原因確率」が10パーセント以上であれば、無審査で認定する方針を固めました。
原因確率とは、2001年に導入された原爆症の認定基準で、爆心地からの距離などを基に被曝(ひばく)線量を推定し、性別、被爆時の年齢、かかっている疾病といった要素を加味して算出。現行の審査基準では、原則として50パーセント以上は認定、50~10パーセントはおおむね認定されるが、10パーセント未満は除外されてきたため、被爆者らから「機械的な切り捨て」と批判されていました。
今後は、10パーセント未満で審査が必要なケースについても、(1)被爆地点が爆心地から約3・5キロ前後、(2)爆心地付近に約100時間以内に入った、(3)その後1週間程度滞在したとの条件で、がん、白血病、副甲状腺機能高進症、放射線白内障、心筋梗塞(こうそく)にかかっていれば原則認定し、この基準から漏れても、個別審査で認定の可能性を残すことになります。
厚生労働省が2008年の春から、新基準での審査を実施することにより、現行の約10倍の年間約1800人が、原爆症に認定されると見込まれます。
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