2022/08/19

🇦🇫乳がん

急増している、女性がかかるがんの第1位

乳がんとは、乳房に張り巡らされている乳腺(にゅうせん)にできる悪性腫瘍(しゅよう)。欧米の女性に多くみられ、従来の日本人女性には少なかったのですが、近年は右肩上がりに増加の一途をたどっています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位となり、30~60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

2006年では、4万人を超える人が乳がんにかかったと推定され、女性全体の死亡数を見ると、乳がんは大腸、胃、肺に次いで4位ですが、1年間の死亡者数は1万1千人を超え、30~60歳に限ると1位を維持しています。

乳がんは転移しやすく、わきの下のリンパ節に起きたり、リンパ管や血管を通って肺や骨など他の臓器に、がん細胞が遠隔転移を起こしやすいのですが、早期発見すれば治る確率の高いがんでもあります。

代表的な症状は、乳房の硬いしこり。乳がんが5ミリから1センチほどの大きさになった場合、しこりがあることが自分で注意して触るとわかります。普通、表面が凸凹していて硬く、押しても痛みはありません。しこりが現れるのはむしろ、乳腺炎、乳腺症、乳腺嚢胞(のうほう)症など、がんではないケースの方が多いのですが、痛みのないしこりは乳がんの特徴の一つ。

さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達した場合、しこりを指で挟んでみると、皮膚にえくぼのような、くぼみやひきつれができたりします。乳首から、血液の混じった異常な分泌液が出てくることもあります。

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、乳頭やその周辺の皮膚が赤くなったり、ただれてきて汚い膿(うみ)が出てきたりします。

わきの下のリンパ節に転移すると、リンパ節が硬く腫(は)れてきて、触るとぐりぐりします。さらに進んで、肺、骨、肝臓などに転移した場合、強い痛みやせき、黄疸(おうだん)などの症状が現れます。

ただし、乳がんは他の臓器のがんとは異なり、かなり進行しても、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてきたり、痛みが出るというような全身症状は、ほとんどありません。

乳がんが最も多くできやすい場所は、乳房の外側の上方で、全体の約50パーセントを占めます。次いで、内側の上方、乳頭の下、外側の下方、内側の下方の順となっていて、複数の場所に及んでいるものもあります。乳がんが乳房の外側上方にできやすいのは、がんの発生母体となる乳腺組織が集まっているためです。

乳がんの原因はいろいろあって、特定することはできませんが、日本人女性に増えた原因として、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の過剰な分泌が関係していると見なされます。

そのエストロゲンの分泌を促す要因として挙げられるのは、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活が欧米化したことです。高蛋白(たんぱく)質、高脂肪、高エネルギーの欧米型の食事により、日本人の体格も向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって、月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係するエストロゲンの影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

ほかに、欧米型の食事の影響である肥満、生活習慣、ストレス、喫煙や環境ホルモンによる活性酸素の増加なども、エストロゲンの分泌を促す要因として挙げられます。

乳がんにかかりやすい人としては、初潮が早い人、30歳以上で未婚の人、30歳以上で初めてお産をした人、55歳以上で閉経した人、標準体重の20パーセント以上の肥満のある人などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も、注意が必要です。

特殊なタイプの乳がんも、まれに発生しています。乳首に治りにくいただれや湿疹(しつしん)ができるパジェット病と、乳房の皮膚が夏みかんの皮のように厚くなり、赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい種類です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

自己検診による乳房のチェックを

乳がんは、早期発見がとても大切な病気。乳房をチェックする自己検診の方法を覚えて、毎月1回、月経が終了して1週間後の乳腺の張りが引いているころに、実行するとよいでしょう。閉経後の人は、例えば自分の誕生日の日付に合わせるなど、月に一度のチェック日を決めておきます。

こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や、わきの下のしこりの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。

具体的には、乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没や、ただれがないか。乳房に、えくぼのような、くぼみやひきつれがないか。乳輪を絞るようにし、乳頭を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか。

以上の点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、しこりの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。調べる乳房のほうの腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで、左右両方の乳房をチェックします。

そして、わきの下にぐりぐりしたリンパ節の腫れがないかどうかもチェックします。

少しでも、しこりや異変に気が付いたら、ためらわずに外科を受診することが大切です。専門家によって、自己触診では見付からないようながんが発見されることもありますから、定期検診も忘れずに受けましょう。

検査はマンモグラフィが中心

乳がんは、乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

マンモグラフィは、乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といえます。乳房全体をプラスチックの板などで挟み、左右上下方向からレントゲン写真をとります。

乳房のしこりだけではなく、石灰化像といって、しこりとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどですから、乳房を残したままがんを治療することも可能になります。

現在の日本では、乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診では、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認したほうが安心です。

超音波検査は、超音波を発する端子を乳房に当てて、その跳ね返りを画像にするもの。痛みなどはなくて受けやすい検査で、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

しこりや石灰化像などの、がんが疑われる兆候が発見された場合には、良性のものか、がんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(せいけん)や切開生検が中心に行われていましたが、近年はマンモトーム生検という検査法が登場しました。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

切開生検は、メスで乳房に切開を入れ、がんと思われる部位の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で調べる検査。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない場合に行われてきましたが、外科手術になりますので、体への負担が大きいのが欠点です。

マンモトーム生検は、超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に直径3ミリの針であるマンモトームを刺して、自動的に組織の一部を吸引してきて、顕微鏡で調べる検査。広範囲の組織が取れて、切開生検より傷口が小さいため、テープで止めるだけで糸で縫う必要がないのが利点です。とりわけ、しこりとして触れない小さながんや、石灰化の段階のがんの診断に、威力を発揮します。

乳がんとわかった場合には、がんの広がりの程度、他の部位への転移の有無を調べるために、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。その程度や有無によって、治療の方針が決められることになります。

早期がんでは温存も可能

乳がんの治療法は、その進み具合によって、いろいろな方法が選ばれます。一般的には、まず手術により、乳がんの病変部をできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として、完全に取ってしまうハルステッドという手術が、定型的な乳房切除術として長い間、行われていました。この手術によって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、手術後に腕がむくんで動かしにくくなるなどの障害と、肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えたりする美容的な問題が、難点でした。

ところが、乳がんも早期発見が多くなったため、このように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部を除いて、ハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

代わりに、胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節を取る胸筋温存乳房切除術という手術が、行われるようになりました。

乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉がありますが、この胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す大胸筋温存乳房切除術と、両方の筋肉を残して乳房を切除する大小胸筋温存乳房切除術があります。

リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に主に使われる大胸筋を残すだけでも、ハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります。

さらに、近年では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切り取らずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかける乳房温存療法が、盛んに行われるようになりました。日本では2003年に、乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な手術法となっています。

この乳房温存療法では、乳房を残して、がんの病巣をできるだけ手術によって切除し、残ったがんは放射線の照射で叩くというのが基本的な考え方ですので、放射線治療は必須です。一般的には、わきの下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、しこりの大きさが3センチ以下で、乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことなどが、適応の条件とされています。

また、しこりが3センチ以上でも、手術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば、可能であるとされています。ただし、医療機関によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。

わきの下のリンパ節をたくさん取らない方法も、最近では検討されています。手術中に、センチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移するリンパ節を見付けて、そこに転移がなければリンパ節はそれ以上は取らないという方法です。まだ確立はされた方法ではありませんが、腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので、今後急速に普及していくと考えられます。

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30~50パーセント減ることがわかってきました。抗がん薬やホルモン薬においても、副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

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