血を止めるのに必要な血小板が減少して、出血しやすくなる自己免疫疾患
特発性血小板減少性紫斑(しはん)病とは、血液中にあって血を止めるのに必要な血小板の数が著しく減少して、出血しやすくなる自己免疫疾患。
体内にあって細菌やウイルスなどを攻撃する抗体が、免疫の異常によって自己の血小板に結合するために、マクロファージという血液細胞によって脾(ひ)臓や肝臓、骨髄で破壊されて、血小板の数が減少します。どのようして免疫異常が起きるかは、不明とされています。
通常、健康な人は、血小板が血液1マイクロリットル中に15〜40万個存在します。この数が10万個以下になると、血が止まりにくくなります。
特発性血小板減少性紫斑病は急性型と慢性型に分類され、急性型は小児に多く、風邪やはしか、おたふく風邪などの後に、急に血小板の数が減って発症します。重症化しますが、その9割は長引かずに自然に治ります。
一方、血小板の数の減少が半年以上続く慢性型は成人、とりわけ男性の約二倍と女性に多く発症し、皮膚の紫斑や粘膜からの出血が全身にみられます。歯茎や鼻からの出血、血尿、血便、月経過多などの症状が起こり、貧血、体がだるい、熱っぽいなどの症状も起こってきます。重症の場合は脳出血、胃や腸からの出血を起こすこともあり、大けがや手術時の出血が止まらなくなることが懸念されます。慢性型の一部は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因といわれています。
国内には約2万人の患者がおり、厚生労働省から特定疾患、いわゆる難病に指定されていますので、所定の手続きを経て申請が受理されると、医療費の補助を受けることができます。最近は、出血傾向がみられない時期に、健診で血小板の減少を指摘されて診断に至るケースもあります。
血小板の数や臨床症状により治療の緊急性が異なるので、内科の医師を受診し、適切な検査と治療を受けます。
特発性血小板減少性紫斑病の検査と診断と治療
出血症状があり、特徴的な検査所見がみられ、基礎疾患を否定された場合に、特発性血小板減少性紫斑病と診断されます。特に、血液を正常に作れない二次性血小板減少症、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、膠原(こうげん)病、薬剤性血小板減少症の否定が、重要となります。
特徴的な検査所見は、血小板数が血液1マイクロリットル中に10万個以下に減り、骨髄検査で未熟な巨核球が正常または増加することです。巨核球とは、血小板を作る血液細胞のことです。
治療においては、小児に多い急性型は半年以内に約9割は自然軽快しますので、出血傾向が強くなければ経過を観察します。急性型から慢性型へ移行する確率は、高くありません。
成人に多い慢性型では、ピロリ菌感染が見られる人に対しては、特別な胃薬と抗生物質を1週間内服しピロリ菌を除く治療をすると、約半数で血小板が増加します。ピロリ菌に感染しているかどうかは、尿素呼気試験、血液検査、便検査で調べることができます。
ピロリ菌感染が見られない人、あるいはピロリ菌を除菌しても血小板が増加しない人に対しては、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を用います。このステロイド療法により約8割の人で血小板が増えるものの、完全に治るのは約2割にとどまります。
完全に治らない人は大きな出血を避けるために、少量のステロイド剤を飲み続ける必要があります。ステロイド剤を長期間飲み続けると、胃十二指腸潰瘍(かいよう)、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病、白内障、精神神経症状、顔が丸くなる満月様顔貌(がんぼう)などの副作用が、一部の人で見られることが知られています。
ステロイドを減量できない場合には、血小板の破壊にかかわっている脾臓を手術で摘出することがあります。近年では腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が行われ、1週間程度の入院で約7割の人に効果が認められます。脾臓を摘出する前には、肺炎球菌ワクチンの予防接種を受け、摘出後の長期経過中に見られることがある敗血症や髄膜炎などの重篤な感染症を避けます。
血小板の数が急激に減少し、全身の出血傾向が強い場合は、入院をしてガンマグロブリン大量療法と血小板輸血を行います。脾臓摘出をしても血小板数が3万個以下の場合、血小板を増やすトロンボポエチン受容体作動薬や免疫抑制剤を使うことがあります。
ふだんは血小板数が安定していても、通院中に風邪を切っ掛けに血小板数が1万個以下に減り、鼻血、全身の皮膚の出血を認めることがあり、受診を必要とします。血小板数が少ない場合は、脳内での出血に注意を払わなければならないため、スキー、スノーボードなど頭部を打撲するような激しいスポーツを避ける必要があります。
出血を伴う歯科治療、胃カメラ、大腸カメラなどの検査を受ける時、手術の予定がある時は、事前に担当の医師に相談する必要があります。痛み止めの種類によっては、血小板の機能を落として出血傾向を悪くするものもあるからです。
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