皮膚の色に変化を与えるメラニン色素が多くなる疾患
色素沈着症とは、生理的に皮膚に存在し、皮膚の色に変化を与えるメラニンやヘモジデリンなどの色素が多くなる疾患。
皮膚に存在するメラニンの量が変化すると、淡褐色、褐色、黒褐色、黒色などの色が現れます。また、人間の体の表面を覆う厚さ約2ミリの皮膚は、表皮と真皮の2つの層に分かれていますが、表皮にメラニンが増えるほど褐色調が強く、真皮の上層に増えると暗褐色から黒色、真皮の深いところに増えると青色調が強く現れます。
反対に、皮膚の色が白くなる場合は、メラニンが減るか、なくなったかです。
この色素沈着症には、遺伝的なものと、後天的に起こるものとがあります。遺伝的なものの代表は雀卵斑(じゃくらんはん)で、後天的に起こるものの代表は肝斑(かんぱん)です。
雀卵斑は目の回り、ほおに小さな色素斑が群がっている症状
雀卵斑は、両側の目の回り、ほおなどに、直径が数ミリまでの小さな斑点が群がっている症状。そばかすとも呼ばれます。
その顔に群がる淡褐色、ないし黒褐色の小さな斑点は、スズメの卵の殻(から)の模様に似ています。首や肩、前腕の外側、手の甲にできるものもあります。
生まれた時から存在している場合もありますが、だいたい5~6歳ころに目立ち始めて、思春期をピークに減少へと向かう場合が多く、年齢を重ねるとともにだんだんと目立たなくなっていきます。
しばしば家族に同じ症状がみられるため、原因としては遺伝的要素が強いといわれています。また、紫外線の影響、生活の乱れ、ストレス、妊娠によっても発生します。
遺伝的要素が強い雀卵斑は、完全に消すことは難しいものながら、ファンデーションなどでカバーできるくらい薄くできることもあります。そのほかの原因による雀卵斑は、皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)がうまくできていないと、メラニンが増えて濃くなってしまいます。
肝斑は30歳以後の女性の顔にできやすい、薄い褐色の色素斑
肝斑は、しみの一種で、30歳以後の女性の顔にできやすい、薄い褐色の色素斑。肝斑という名称は、肝臓と同じ色ということからつけられたもので、肝臓の疾患とは関係がありません。
日本人女性の皮膚には肝斑ができやすく、皮膚の色が浅黒い人ほどできやすいといわれています。30歳代、40歳代の女性に多くみられますが、50歳代後半で新たに発症する人はほとんどみられません。逆に、60歳代からは症状が治まることも多いともいわれています。 日本男性に肝斑ができることは、めったにありません。
肝斑の症状は、特に額、ほお骨の辺り、口の回りに左右対称に広がるように、点状ないし斑状で淡褐色のしみが生じます。目の周囲にはできず、色が抜けたように見える点が特徴的です。
原因の一つとして、女性ホルモン、特に卵胞ホルモンと黄体ホルモンとの関連が指摘されています。ホルモンバランスの乱れる妊娠時、更年期、婦人科の疾患にかかった時、ピル(経口避妊薬)内服中も、できやすいといわれています。
妊娠時に現れる場合は、妊娠2~3カ月ころからできることが多く、次第に色が濃くなります。出産後には少しずつ消えていく場合もありますが、長期に持続する場合もあります。
また、原因の一つとして、紫外線が重要であると考えられています。紫外線に当たりやすい個所に症状が現れやすく、実際に紫外線を浴びることが症状の悪化と関連している場合が多いのです。
紫外線が皮膚に当たると、皮膚はダメージを受けることになります。そのダメージから皮膚を守るために働くのがメラニン色素で、表皮にあるメラノサイトという細胞が作り出すメラニン色素は、少しずつ皮膚の表面に浮かび上がって皮膚を守ろうとします。役目が終わると、皮膚の新陳代謝とともにメラニン色素ははがれ落ちますが、年齢を重ねるごとに新陳代謝が鈍くなる結果、メラニン色素が皮膚の表面に長期的に滞留し、肝斑となっていきます。
原因として、ストレスも関係しているともいわれています。 そもそも、メラノサイトは紫外線やホルモンの影響を受けて、メラニン色素を作り出します。そのホルモンの分泌に大きくかかわってくるのが、ストレスを始めとする不規則な生活、睡眠不足などです。
初めにかゆみや皮膚の赤みがあって、後に褐色の色が付いてくるものや、顔以外の個所にできるものは、肝斑とは違うほかの疾患が考えられます。
また、肝斑と思っても、時には化粧品による接触皮膚炎か薬疹(やくしん)、エリテマトーデス、老人性色素斑(日光性黒子)などの場合もあります。
色素沈着症の治療法と対処法
雀卵斑の治療法と対処法
皮膚科の医師による治療において、雀卵斑(そばかす)を根治させるためのよい方法はありません。むしろ、悪化させないように日焼け止めクリームを塗り、帽子や日傘を活用して、紫外線をできるだけ避けるようにします。雀卵斑がある状態で紫外線を浴びてしまうと、数が増えるだけでなく、 既存の雀卵斑も色が濃くなってしまいます。
また、雀卵斑の症状を改善させるためには、ビタミンCやトラネキサム酸の摂取が有効だといわれています。ビタミンCは、美白作用が高く抗酸化作用も優れています。一般的には止血剤として用いられているトラネキサム酸は、美白作用があるので雀卵斑や肝斑(しみ)の治療にもよく使われています。
ほかにも、皮膚科や美容外科での専門治療として、レーザー治療や光治療のフォトセラピーなどがあります。これらの治療にはすべて施術後の紫外線対策などが重要です。
レーザー治療で雀卵斑を治療した直後は、施術した部分にテープなどを張る必要があるため、仕事をしながら治療したいという人にとっては難しい場合があるようです。赤みや色素沈着などが出る場合もあり、施術後の回復にも時間がかかります。フォトセラピーは、雀卵斑のメラニンを治療するだけでなく、コラーゲンを増やして皮膚に張りを与える効果があります。レーザー治療よりも、皮膚へのダメージが少ないといわれています。
雀卵斑を消す薬も、市販されています。化粧水タイプの薬品、顆粒タイプの飲み薬があり、用途に合わせて選ぶことができます。
除去することが難しい雀卵斑の対処法として、化粧品によって隠す方法もあります。そのようなメイクで特に使用されているのは、コンシ―ラという顔料を高濃度に固めたものです。最近では、コンシーラやファンデーションそのものに、美白成分などが入っているものもあります。ファンデーションには、紫外線や化学物質から皮膚を保護するという役割もあります。
日常的な対策として、生活習慣を見直し、皮膚の再生が行われる22時~24時には寝ているようにするのも効果的です。
肝斑の治療法と対処法
肝斑には、内服剤によって体の内側から働きかける治療が最も効果的といわれています。内服剤の場合、その有効成分は血流に乗って皮膚の隅々まで届けられ、表皮の深い所にあるメラノサイトに、より効果を発揮します。内服するものとしては、色素沈着抑制効果を持つトラネキサム酸、ビタミンC、ビタミンEなどがあります。
外用療法としては、コケモモの抽出成分であるアルブチン、甘草の油性抽出エキス(コラージュホワイトニングクリーム)、1パーセントのコウジ酸クリーム(ビオナチュール、フェスモ)などの美白剤の塗布が効果的とされています。皮膚には角層などのバリア機能があるため、美白剤はバリアを通過してメラノサイトに到達します。
外科的療法としては、光治療、皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)を促進させてメラニンの排出を促すケミカルピーリング、ビタミンC誘導体イオン導入、メラニンを含む細胞を破壊する高周波での焼灼(しょうしゃく)、液体窒素による冷凍凝固などが、必要に応じて用いられます。ただし、いずれも即効性があるわけではなく、時間がかかることが多いようです。また、高周波での焼灼は、悪化の原因となる可能性を否定できないので、注意が必要です。
日常生活では、外出に際して帽子や日傘を活用して紫外線をできるだけ避けたり、皮膚をケアするだけでなく、生活リズムを整えること、うまくリラックスすること、睡眠時間を十分に取ることなど、ストレスや疲労をためないようにする工夫も重要です。
皮膚のケアでは、刺激を与えないことが大切で、合わない化粧品を使わないことです。最近では、気になる皮膚のトラブルをケアするさまざまな化粧品が登場していますが、使った時に少しでも違和感があるなら、使うのをやめます。ピリピリとした刺激によって、肝斑が増えることもあります。例えばファンデーションの場合、伸びをよくし、水に強く、化粧持ちをよくするため、原料に防腐剤や界面活性剤などが含まれているものもあります。こうした物質や油分の酸化が、皮膚への刺激となって、肝斑が増えることもあります。
また、こすってメイクを落とし、その後ゴシゴシと洗顔したり、クリームを使って強い力でマッサージを行うことも、皮膚にかなりの刺激を与え、結果的に肝斑を増やす原因になることも少なくありません。
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