全身の皮膚が乾燥し、四肢の表面が魚の鱗のように硬くなる皮膚疾患
尋常性魚鱗癬(ぎょりんせん)とは、全身の皮膚が乾燥し、皮膚の表面が魚の鱗(うろこ)のように硬くなる皮膚疾患。主に乳幼児に発症する遺伝性の疾患です。
皮膚の表面は表皮細胞が細胞核を失って死んで作られる角質層で覆われており、この角質層は皮膚のバリア機能に重要な役割を果たしています。角質層には、垢(あか)になって自然にはがれ落ちては作られるターンオーバーという一定のサイクルがあり、その際、皮膚には古い角質層がスルリと落ちる巧みなメカニズムが備わっています。ところが、尋常性魚鱗癬においては、その機能がおかしくなって角質層がうまくはがれ落ちないために異常な角質層、すなわち魚の鱗のようにカサカサした鱗屑(りんせつ)がみられるようになります。
出生児の250人に1人くらいの頻度で、尋常性魚鱗癬を発症します。常染色体優性遺伝形式をとり、両親のどちらかがこの疾患を持っていれば、男女問わず50パーセントの確率で子供に遺伝することになります。皮膚の水分を保持し、紫外線や細菌などから守るバリア機能には、フィラグリンという蛋白(たんぱく)質がかかわっているのですが、その遺伝子の異変によって引き起こされます。
生まれた時には症状がなく、乳幼児期になってから皮膚症状が出ます。ほぼ全身の皮膚が極度に乾燥し、特に四肢の伸側と下腿(かたい)の前面に、皮膚症状が強く出ます。 腋(わき)や肘(ひじ)の屈側や、外陰部など湿っている部位には、皮膚症状が目立たないのが普通です。
皮膚症状は夏に軽快し、空気が乾燥した冬に増悪。汗がほとんど出ない場合が多いため、体温調節が難しく、夏は熱中症になりやすく、冬は角化による亀裂(きれつ)によって痛みを伴い、歩行に支障を来す場合もあります。時には、アトピー性皮膚炎を併発することもあります。難治性の疾患ですが、成長とともに症状が軽くなっていき、成人になると自然軽快する場合もあります。
逆に、大人になって症状が出てくる場合もあります。まれですが、悪性リンパ腫(しゅ)などの時にも、同じような皮膚症状が現れることがあるので、気になる症状が出てきたら、すぐに皮膚科、皮膚泌尿器科を受診して、疾患の症状に合った適切な治療とアドバイスを受けます。
尋常性魚鱗癬の検査と診断と治療
皮膚科、皮膚泌尿器科の医師は、皮膚の症状から診断します。アトピー性皮膚炎の人でも肌の乾燥のために軽度の尋常性魚鱗癬のような症状がみられることがあり、この場合は、アトピー性皮膚炎の症状の有無により判断します。また、伴性遺伝性魚鱗癬、水疱(すいほう)性魚鱗癬性紅皮症、後天性魚鱗癬、小児乾燥性湿疹(しっしん)、老人性乾皮症などと区別します。
尋常性魚鱗癬には特効的な治療法はなく、対症療法が行われます。軽症の場合は、皮膚の表面を滑らかにする尿素含有軟こう、ビタミンA含有軟こう、サリチル酸ワセリンが効きます。重症の場合は、エトレチナート剤(ビタミンA誘導体)を内服します。
症状を改善するには、肌を保湿することも重要で、根本的な乾燥肌の状態を治さなければ症状を悪化させることもあります。
体を洗うせっけんは脱脂力の弱い低刺激の物を使い、タオルなどを使用せずに泡で包み込むように手で優しく洗うようにします。保湿入浴剤の使用も効果的です。洗顔後や入浴後は、化粧水や乳液、クリームでしっかり保湿をします。
寒い冬に使用する暖房器具は空気中の水分を蒸発させ、室内を一層乾燥させるため、乾燥肌を悪化させ、尋常性魚鱗癬の皮膚症状も悪化させる傾向にあるので、加湿器を使うなどして、室内が乾燥しないように注意します。
>アトピー性皮膚炎を併発している場合は、医師の治療をきちんと受けて、処方される薬をきちんと塗布することです。体を温めすぎるとかゆみが現れることがありますので、長湯をしたり、冬場でも室内の暖めすぎには気を付けます。
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