末梢神経が2個所以上の広範囲に渡って、同時に侵される疾患
多発性ニューロパチーとは、末梢(まっしょう)神経が2カ所以上の広範囲に渡って、同時に侵さる疾患の総称。多発性神経炎とも称されます。
この多発性ニューロパチーには、薬剤・農薬・有機物・化学薬品中毒を始め、アルコールの慢性中毒、糖尿病などの代謝異常、全身性疾患、感染症、アレルギー、ビタミン欠乏症など原因の明らかなものと、遺伝によって起こってくる原因不明のもの、ウイルスなどの感染が関係しているギラン・バレー症候群(急性感染性多発性神経炎)と呼ばれているものがあります。
原因によって、急性に起こったり、慢性に進行していくものなどいろいろです。通常は、手足の先の方から左右対称性に、末梢神経が侵されます。手先、足先から、次第にしびれや感覚の鈍麻が始まり、同時に筋力の低下や筋肉の委縮が始まって細くなり、上のほうに広がっていきます。
全身に広がると、全身の著しいやせとともに筋力もなくなり、まひが起こってきます。感覚の鈍麻が強いと、自分の足の位置がわからないので、フラフラとした酔っぱらいのような歩き方になります。脳神経も同時に侵されることがあり、顔面神経まひ、視神経の障害による視力低下、動眼(どうがん)神経まひによる眼球運動のまひなども起こってきます。
末梢神経が侵される場合には、運動神経が強く侵される場合と、知覚神経(感覚神経)が強く侵される場合とがあります。時には知覚神経でも特に痛覚だけが強く侵されたり、また位置覚だけが強く侵されることもあります。
自律神経や栄養神経も侵されるため、皮膚に潰瘍(かいよう)を生じたり、時には手足の末端が崩れて、骨も破壊されることがあります。
ギラン・バレー症候群の発症の原因は、ウイルスなどを排除して自分を守るための免疫システムが異常となり、運動神経、知覚神経、自律神経など自分の末梢神経を攻撃するためと考えられています。約7割ほどの人が発症の前に、風邪を引いたり、下痢をしたりしています。軽い発熱、頭痛、咽喉(いんこう)痛、下痢が数日続いた後、1週間前後を経て、急に手足の脱力が始まってくるのが普通です。
片側の手足が動かなくなる脳卒中と異なり、両手両足が動かなくなります。大部分の人は運動神経だけでなく知覚神経も傷害されて、手足の先のしびれ感もしばしば伴います。顔面の筋肉や目を動かす筋肉に力が入らなくなって、目を閉じられなくなったり、物が二重に見えたり、ろれつが回らなくなったり、食事を飲み込みにくくなったりすることもあります。
手足のまひの程度は発症してから1〜2週以内に最もひどくなり、その後は改善していきます。重症の場合には、寝たきりになったり、呼吸もできなくなります。
これら多発性ニューロパチーの症状を重くしないためには、原因を早く発見してそれを排除または改善することですので、神経内科、ないし内科の専門医を受診します。
多発性ニューロパチーの検査と診断と治療
神経内科、ないし内科の医師による診断では、原因となる疾患を特定します。多発性ニューロパチーが発症する要因はすべて解明されているわけではありませんが、原因となる疾患が特定されると症状が改善される可能性が高くなります。
原因となる疾患の明らかな多発性ニューロパチーでは、原因となっている糖尿病を治したり、中毒の原因となっているものの摂取や接触を禁じ、ビタミン剤の大量服用を行えば、よく治ります。ビタミン欠乏症なら食事療法を取り入れたり、筋肉の委縮があればリハビリを取り入れることで症状を改善できます。
多発性ニューロパチーはある程度進行しても、末梢神経の機能は比較的回復することが多く、数年間に渡って次第に改善してくることもあるので、根気よく治療を続けることが必要です。
多発性ニューロパチーの中でも特異なギラン・バレー症候群(急性感染性多発性神経炎)では、急性期に副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の大量服用が有効です。
、あるいは単純血漿(けっしょう)交換療法を行うと、ピークの時の症状の程度が軽くなり、早く回復することもわかっています。単純血漿交換療法では、人工透析のような体外循環の回路に血液を通して、血液を赤血球、白血球などの血球成分と、血球以外の血漿成分に分けます。自己抗体を含む血漿成分を捨てて、ウイルスが混入していない代用血漿と自分の血球を体内に戻します。
重症の場合は、まひが次第に体の上のほうに広がって、呼吸まひを起こすようになるので、呼吸管理に気を付ける必要があります。ピークの時には人工呼吸器を用いたり、血圧の管理を行ったりといった全身管理が重要であり、回復する時期にはリハビリテーションも大切となります。
症状は遅くとも1カ月以内にピークとなり、その後徐々に回復に向かい、6~12カ月で多くの発症者はほぼ完全によくなります。ギラン・バレー症候群は比較的、良性の疾患ながら、何らかの障害を残す人が約2割いて、急性期やその後の経過中に亡くなられる人が約5パーセントと報告されています。再発率は多くても、5パーセント未満と見なされています。
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