何らかの外力により鼓膜が破れたり、穴が開く症状
外傷性鼓膜裂傷とは、何らかの外的な力が加わって、耳の奥にある薄い膜である鼓膜が破れたり、穴が開く状態。鼓膜裂傷、外傷性鼓膜穿孔(せんこう)とも呼ばれます。
鼓膜は、耳に入ってくる音を振動に変換し、耳小骨経由で内耳に伝える働きのほか、外耳と中耳を境界する役目をしている器官です。その構造は、直径約9ミリ、厚さ0・1ミリの薄い膜状で、耳の入り口から約3センチのところに位置しており、外耳道のほうに向かって開いたパラボラアンテナのような形態をしています。
体の中には、いくつかの膜状構造物がありますが、鼓膜は常に外界に交通しているため、外力に弱い器官といえるでしょう。外傷性鼓膜裂傷が発生するのは、鼓膜に対する外からの力の伝わり方によって、直達性外力によるものと介達性外力によるものとに分類されます。
直達性外力による外傷性鼓膜裂傷は、鼓膜に直接力が加わった場合、例えば耳かき、マッチ棒、異物などを誤って奥に入れてしまったりすると起こります。この直達性の鼓膜裂傷は鼓膜を破ってしまうだけでなく、耳小骨、顔面神経管、骨迷路に達してしまう危険があり、内耳性難聴、顔面神経まひを合併することがあります。
介達性外力による外傷性鼓膜裂傷は、耳に何かがぶつかることによって外耳道の急激な圧上昇が起こり、鼓膜がその圧変化に耐えられなくなり穴が開きます。具体的には、耳介部の平手打ちや、スポーツ中にボールが耳に当たったりすると起こります。また、爆発、爆風などによる外耳道の急激な圧上昇などの間接的な外力でも起こります。
頭部外傷によっても介達性の鼓膜裂傷を起こしますが、内耳振盪(しんとう)症、耳小骨連鎖障害、髄液漏が合併することが多く、一般に重症になります。
外傷性鼓膜裂傷の症状としては、直達性にせよ介達性にせよ、最初耳に痛みがあり、少し出血しますが、徐々に治まります。しかし、難聴、耳鳴り、耳閉感が残ります。
外傷性鼓膜裂傷の検査と診断と治療
耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、鼓膜の視診と聴力検査を行います。鼓膜の視診では、耳鏡を使って裂傷の程度などを観察します。聴力検査では、音を聴神経へ伝える外耳・中耳・鼓膜に障害が生じたために起こる伝音性難聴か、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音性難聴かを調べて、症状の進行状況を把握します。
耳鼻咽喉科の医師による治療では、外耳道に付着した血液や耳垢(みみあか)を取り除いてきれいにし、抗生物質や消炎薬を服用します。鼓膜に開いている穴が小さい場合は、通常、数日で鼓膜の穴はふさがります。
鼓膜は外耳道側から上皮層、固有層、粘膜層からなる3層構造をしており、いったん鼓膜が破れると、生体の修復機構が働き、まず上皮層の増殖が開始されます。次に固有層と粘膜層の修復が開始されていきます。この際に、上皮層が内側に入り込んでしまい、固有層、粘膜層の再生のじゃまをしてしまうことがあります。こうなると鼓膜に開いた穴はふさがらなくなってしまいます。
上皮層が内側に入り込んでいる状態が、耳鏡での観察で確認された場合は、穴の縁を薬や針を使って取り除きます。さらに、滅菌された薄い紙、被覆保護材料のキチン膜、植皮手術の時に使用する皮膚被覆用のシリコン付きコラーゲン膜などで、鼓膜表面を被い、鼓膜の再生を促進します。
自然治癒傾向が強く、ほとんどが2カ月以内に治癒しますが、鼓膜の穴が完全にふさがるかどうかは、2次的に起こった細菌感染の期間と穴の大きさに左右されます。
2カ月以上経過しても穴がふさがらない場合、鼓膜形成術が必要になります。フィブリン糊(のり)を使用した鼓膜形成術であれば、日帰り手術が可能な場合もあります。
外傷性鼓膜裂傷になった場合、鼓膜に穴が開いている状態なので、鼻を強くかまないように注意し、風呂(ふろ)に入る際は耳に水が入らないように注意しなければなりません。防水耳栓もあります。
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