2022/08/07

🇱🇾眼瞼下垂

上まぶたが下がり、目が大きく開かないか閉じる疾患

眼瞼(がんけん)下垂とは、上まぶたの機能に障害が生じ、開きづらくなる疾患の一つ。先天性と後天性の場合があります。

まぶたの中には、2つの筋肉があります。眼球とまぶたを動かす動眼神経の命令で縮む眼瞼挙筋と、交感神経の緊張で縮むミュラー筋で、眼瞼挙筋が主な働きをし、ミュラー筋が補助的な働きをします。眼瞼挙筋は途中から腱膜(けんまく)という膜様の腱になって、瞼板というまぶたの縁を作っているカマボコ板のようなものの前面に付いており、眼瞼挙筋は腱膜を介して瞼板を持ち上げるので、上まぶたが上がります。

眼瞼下垂になると、顔を正面に向けた状態で目を普通に開いた時、上まぶたが黒目の部分である瞳孔(どうこう)にかぶさり、しっかりと上まで持ち上げられません。しかし、人の体では代償作用が働いて視野を確保しようとするために、眼瞼挙筋を過剰に働かせることで補ったり、まゆを持ち上げたり、あごを軽く引き上げることで上方の視野を確保してしまいます。

こういった代償作用は日常的に行われるため、何となくまぶたが重かったり、気が付けば眼瞼下垂が悪化していることも少なくありません。頭痛や肩凝りを併発することもあります。

先天性眼瞼下垂は普通、眼瞼挙筋または動眼神経に何らかの障害があって起こります。出生時から顕著で、額にしわを寄せて、まゆをつり上げる特有の顔立ちがみられます。片眼性のことが多いものの、両眼性もみられます。遺伝することもしばしばです。

程度の強い眼瞼下垂では、目の中に光が入らないために、視力が発達せずに弱視になるので、早めの手術が必要とされます。

後天性眼瞼下垂は、動眼神経、交感神経の異常や、眼瞼挙筋、ミュラー筋の異常、腱膜の異常が原因で起こります。中では、腱膜の異常が原因のものがほとんどを占めます。

腱膜の異常が原因のものでは、アトピー、逆さまつげ、花粉症、よく泣くため、目を覚ますため、化粧を落とすためなどで、まぶたをこすると、腱膜が瞼板より外れたり薄くなったりして、神経も筋肉も正常なのに、まぶたが上がらなくなります。神経、筋肉の異常が原因のものでは、乱視でないのに物が二重に見える複視が多く現れますが、腱膜の異常が原因のものでは一般的に複視は現れません。

腱膜の異常が原因のものは、程度の差はあれ、加齢によって徐々に眼瞼挙筋の筋力が低下する高齢者で多く起こるので、老人性眼瞼下垂とも呼ばれます。しかし、高齢者でなくても、まぶたをこする習慣がある人では早くに起こります。筋肉の異常が原因のものは、疲労により症状が出現するため、目を開いた時の幅が一日のうちでも変化する際に疑われることがあります。神経の異常が原因のものは、目の動きのまひを伴う際に疑われることがあります。

また、神経、筋肉の異常が原因のものは、その背景に脳出血や脳腫瘍(しゅよう)、脳動脈瘤(りゅう)、筋ジストロフィーや重症筋無力症などの筋疾患があって、生命に危険を及ぼすこともあるので注意が必要です。そのほか、眼科手術後に起こる眼瞼下垂、コンタクトレンズの長期装用によって起こる眼瞼下垂もあります。

後天性眼瞼下垂が片目に現れた場合は、非対称なので容易に気付きます。両目に現れた場合は、対称性の変化なので気付かないことがあります。

症状としては、まぶたが重い、夕方になるとまぶたが開かない、眼瞼挙筋を余計に収縮させているために目の奥が痛い、歯を食いしばってまぶたを開けているので咀嚼(そしゃく)筋が疲れたり痛む、歯が浮く、あご関節が痛むなどの症状が起こります。肩凝り、ミュラー筋を収縮させているために交感神経の緊張なども起こります。

軽度の眼瞼下垂の場合はあまり自覚症状はないものの、重症化すると距離感がつかめず、また突然見えない状態になるので、けがや階段での転倒、自動車事故などが多くなります。特に、両眼性の眼瞼下垂が長時間出現すると、視力はあるのに、目が開かない状態で機能的盲目に陥ります。

眼瞼下垂のほかに、ひとみが小さくなる縮瞳(しゅくどう)や眼球陥没を伴う場合は、ホルネル症候群と呼ばれます。

眼瞼下垂の検査と診断と治療

眼瞼下垂は原因により治療法や予後が異なりますので、神経内科や神経眼科の専門医を受診します。特に急性に起こった場合では、脳動脈瘤が原因のこともあり、早期の脳外科手術が必要となる場合もあります。

先天性眼瞼下垂でも、複雑な神経の異常で起こる場合もあり、後天性眼瞼下垂では、何かの切っ掛けがあったか、複視があるか、疲労と関係があるかなどが医師による診断の手助けとなります。疲労と関係があり、重症筋無力症が疑われる場合は、特殊な薬物である抗コリンエステラーゼを検査に用います。

最も多い先天性眼瞼下垂の治療では、眼科または形成外科での手術が主体。重症の眼瞼下垂では、視力の発達が阻害されることもあり、早期の手術が必要な場合もあります。眼瞼挙筋機能が残っている場合は、眼瞼挙筋前転法、眼瞼挙筋短縮法と呼ばれる治療法が選択されます。眼瞼挙筋機能がない場合は、筋膜移植と呼ばれる治療法が選択されます。筋膜移植は、太ももの外側にある大腿(だいたい)筋膜張筋腱と呼ばれる組織を採取し、まぶたに移植するものです。小児で治療するケースが多く、成長段階に応じて修正治療が必要になることがあります。

後天性眼瞼下垂では、症状の程度により手術するかどうか決定されます。眼科手術後や脳梗塞(こうそく)後に起きたものは、自然に回復することも多いので数カ月様子をみます。手術では、先天性眼瞼下垂と同じく、眼瞼挙筋前転法、眼瞼挙筋短縮法と呼ばれる治療法が選択されます。

眼瞼挙筋前転法は、筋肉を傷付けずに、外れた腱膜を瞼板の前面の元の位置に再固定するもので、後天性の眼瞼下垂には最も適した治療法です。しかし、医師の技術と経験が必要な治療法で、すべての医療機関で受けることができるものではありません。眼瞼挙筋短縮法は、従来まで主流だった治療法で、眼瞼挙筋を直接切除し短縮するものです。効果はあるのですが、交感神経と関わりの深いミュラー筋を傷付けるため、眼瞼挙筋前転法でも改善できない場合に用いられる治療形態となっている傾向にあります。

老人性眼瞼下垂の場合は、筋力や腱膜などに問題がなければ、筋肉などの処理はせず、加齢によって著しく弛緩(しかん)した皮膚だけを切除することで、視野が確保できます。皮膚の切除だけなので、はれが少ないのが特徴で、美容整形では上眼瞼切開やアイリフトと呼ばれている治療法に相当します。

重症筋無力症では、薬物療法が主体です。

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