親から遺伝する「家族性アルツハイマー病」の原因となる遺伝子変異がある人を対象に、タウというタンパク質を標的とした治療薬候補の効果と安全性を調べる国際臨床試験(治験)が日本で早ければ夏に始まることが3月28日、明らかになりました。
新潟大と東京大が実施し、製薬大手エーザイが開発中の薬を使います。対象となるのはアルツハイマー病患者全体の1%未満。
計画が両大学の治験審査委員会で2月末に審査され、新潟大で承認、東大で文書修正の条件付きで承認されました。16の国・地域で行う国際臨床試験に参加する形で準備を進めています。
アルツハイマー病は、脳内に「アミロイドベータ 」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が徐々に蓄積して、神経細胞が傷付いて脳が委縮し、記憶力や判断力が低下すると考えられています。アミロイドベータの蓄積は発症の10~20年前から始まり、タウの蓄積はアミロイドベータに続いて始まるとされます。
家族性アルツハイマー病は、40、50歳代の若年で発症する例が多く、アミロイドベータの蓄積は20、30歳代から始まります。遺伝子変異を受け継ぐと、親の発症とほぼ同年齢で発症することがわかっています。こうした特徴から、この病気の研究は、高齢化に伴い患者が増加している一般的なアルツハイマー病のメカニズム解明や治療開発にも役立つと期待されています。
臨床試験の対象は、家族性アルツハイマー病の観察研究に参加している人らの中で、血液検査で遺伝子変異が確認され、推定発症年齢の10年前から発症後10年以内の人。軽症患者のほか、無症状の人も含まれます。
すべての参加者に3~4年間、製薬大手エーザイなどが開発したアミロイドベータを除去する薬「レカネマブ」を点滴します。アメリカでは1月に早期アルツハイマー病患者を対象に迅速承認された薬で、日本でも審査中です。
参加者のうち半数には、タウの脳内への広がりの抑制を図る別の薬剤も点滴投与します。エーザイが開発中の「E2814」という薬です。
脳内のアミロイドベータやタウの量の変化を調べるとともに、認知機能の悪化を抑える効果がみられるかなどを検証します。レカネマブのみのグループと2剤投与したグループで差が出るか確かめます。
家族性アルツハイマー病の家系の人に薬を投与する臨床試験は、アメリカでは昨年から行われています。全世界で約170人、国内からは10~20人の参加を見込みます。
国内の研究責任者を務める池内健・新潟大脳研究所教授は、「家族性アルツハイマー病は働き盛りの年齢で発症することが多いので治療を求める声はより切実だ。薬の効果が検証できれば意義は大きい。成果は一般的なアルツハイマー病の治療にも生かせる」と話しています。
2023年4月3日(月)
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