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2022/08/21

🇹🇷ニコチン酸欠乏症

不規則な食事をするアルコール多飲者に発症

ニコチン酸欠乏症とは、ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏することにより、皮膚炎、下痢、精神錯乱などを起こす疾患。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロールや中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ニコチン酸欠乏症の検査と診断と治療

ニコチン酸欠乏症の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。ニコチン酸はインシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。 一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

🇹🇷二次性アルドステロン症

ほかの臓器の疾患などの原因により、副腎皮質からアルドステロンが過剰に分泌されて起こる疾患

二次性アルドステロン症とは、ほかの臓器の疾患など何かしらの原因により副腎(ふくじん)皮質が刺激を受けることで、副腎皮質ホルモンの一つであるアルドステロン(鉱質コルチコイド)が過剰に分泌される疾患。続発性アルドステロン症とも呼ばれます。

アルドステロンの分泌は、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系という血圧や体液量の調節にかかわるホルモン系のコントロールを受けているため、二次性アルドステロン症の大半はレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の刺激が高進することに起因します。

エストロゲン製剤(卵胞ホルモン製剤)、経口避妊薬に起因する高血圧や、腎血管性高血圧(腎動脈狭窄<きょうさく>症)、妊娠高血圧、悪性高血圧、褐色細胞腫、傍糸球体細胞腫(しゅ)など高血圧の疾患から発生するもののほか、うっ血性心不全、偽性低アルドステロン症、腹水を随伴させた肝硬変、下剤および利尿薬などの不適切な利用、ネフローゼ症候群、バーター症候群、ギッテルマン症候群といった高血圧以外の疾患から発生するものがあります。

レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を除いたものでは、血液中のカリウム濃度が異常に上昇した高カリウム血症によって引き起こされる傾向にあります。

二次性アルドステロン症で主に現れる症状は、浮腫(ふしゅ、むくみ)、下肢脱力、筋力低下であり、これらは血液中のカリウムが減る低カリウム血症を基礎にして生じ、どの二次性アルドステロン症にも同じく現れます。

また、二次性アルドステロン症を招いている元となる疾患の症状も示されます。例えば、腎血管性高血圧 、悪性高血圧、褐色細胞腫では、アルドステロンが腎臓に作用し、体の中にナトリウムと水分を蓄えるために高血圧を伴いますが、バーター症候群、心不全や肝硬変などの浮腫性疾患では高血圧を伴いません。

二次性アルドステロン症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科の医師による診断では、元となる疾患が明らかとなり、低カリウム血症がみられ、副腎皮質から分泌されるアルドステロン、および腎臓から分泌され血圧を上昇させるレニンの両ホルモンが高値を示せば、大半の二次性アルドステロン症は確定できます。避妊薬、下剤、利尿薬などの服用している薬剤についての情報も重要となります。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科の医師による治療では、基本的に元となる疾患の是正が中心となります。

浮腫や低カリウム血症などが継続してみられ、元となる疾患の治療も難しいとされる場合は、カリウム保持性の利尿薬であるスピロノラクトン(アルダクトン)を使用します。以上の治療方法で改善がみられない場合においては、カリウム製剤を使用します。そのほか、非ステロイド性抗炎症薬の一つであるインドメタシンがバーター症候群に有用とされる場合もあります。

なお、副作用などの理由からスピロノラクトンを適用できない場合、トリアムテレン(トリテレン)を使用します。ただし、抗アルドステロン様の作用は有しません。

高カリウム血症によって二次性アルドステロン症が引き起こされている場合は、軽度であれば、利尿薬を投与してカリウムの排出量を増やします。また、腎臓を刺激してカリウムを排出させるアルドステロン作用を持つホルモン剤を投与することもあります。重度であれば、消化管からカリウムを吸収し、便と一緒に体外に排出する作用のあるレジン(樹脂製剤)を、経口または浣腸(かんちょう)で投与します。同時に下痢を誘発させて、カリウムを吸収したレジンが速やかに体外へ排出されるようにします。

2022/08/19

🇾🇪二次性肥満

何らかの疾患や薬物の影響を受けて起こる肥満

二次性肥満とは、何らかの疾患や薬物の影響を受けて起こるタイプの肥満。症候性肥満、随伴性肥満とも呼ばれます。

一方、原因となる特別の疾患がなくて起こるタイプの肥満は、原発性肥満、あるいは単純性肥満と呼ばれています。こちらのタイプの肥満の多くは、食べすぎと運動不足が主な原因となって起きます。肥満している人の大部分が原発性肥満であり、二次性肥満は肥満者全体の5パーセント程度にしか認められません。

二次性肥満の原因も過食によるものですが、基礎にある疾患が食欲を増加させて脂肪を蓄積し、肥満してきたものです。基礎にあって影響を与える疾患としては、ホルモンの疾患や遺伝性の疾患、食欲中枢を刺激する脳の視床下部の疾患が挙げられます。ホルモンの疾患では、ホルモン作用の高進や低下によってエネルギーの摂取や消費のバランスが障害され、二次性肥満を発症します。遺伝性の疾患では、遺伝的要因の異常によりエネルギー代謝調節系が破綻し、二次性肥満を発症します。視床下部の疾患では、食行動の調節機能を有する視床下部の器質的および機能的異常に基づいて、二次性肥満を発症します。

基礎にあって影響を与える薬物としては、抗精神病薬や副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬などがあります。抗うつ剤の服用による副作用で食欲が増して肥満になることがあり、膠原(こうげん)病などで用いられる副腎皮質ホルモン薬は使用量が多いと肥満を起こします。

ホルモンの疾患には、インスリノーマ(インスリン産生膵島〔すいとう〕細胞腫〔しゅ〕)、高インスリン血症、クッシング症候群、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症、性腺機能低下症があります。

インスリノーマでは、インスリンによる低血糖発作を回避するために過食を生じ、二次性肥満を発症します。高インスリン血症による脂肪蓄積作用も、二次性肥満に関与します。しかし、多くのケースで肥満は顕著ではなく、インスリン自体は中枢神経系で摂食抑制性に働いています。 クッシング症候群では、副腎皮質からグルココルチコイドというホルモンが過剰に分泌され、丸顔と上半身の肥満を特徴とする二次性肥満を発症します。甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの低下によって体重増加を来します。この体重増加は脂肪蓄積ではなく、体液貯留やムコ多糖類の蓄積が原因であるとされます。

遺伝性の疾患には、ターナー症候群、糖尿病などがあります。食欲中枢を刺激する脳の視床下部の疾患には、松果体腫瘍(しゅよう)、フレーリッヒ症候群、キアリ・フロンメル症候群といった疾患があります。

二次性肥満の検査と診断と治療

内科の医師は、肥満者を診察する際には、今までの病歴や家族歴、生活歴、身体検査の結果から、二次性肥満か原発性肥満かを区別します。

二次性肥満の場合は、主として原因となっている疾患の治療が必要になるので、入院の上、精密検査を行うことが必要になります。ホルモンの疾患による肥満や、視床下部の疾患による肥満では、各種内分泌学的検査、神経学的検査、CTやMRIなどの画像検査が必要となります。遺伝性の疾患による肥満、および遺伝性の視床下部の疾患による肥満では、必要に応じて染色体検査や各種遺伝子の検査を行います。

二次性肥満に対する治療は、原因となっているクッシング症候群、甲状腺機能低下症などの疾患の治療が中心になります。ホルモンの疾患に対しては、ホルモン補充療法を行います。薬剤の服用による肥満に対しては、薬剤の減量、または体重増加の少ない、ほかの薬剤に変更します。

肥満自体には原発性肥満と同様に食事療法、運動療法および行動療法を用いますが、遺伝性の疾患による肥満など知能障害を伴うケースでは、それらの遂行が困難な場合も多くなります。

🇮🇳副甲状腺機能高進症

副甲状腺ホルモンが過剰に作られるために起こる疾患

副甲状腺(せん)機能高進症とは、副甲状腺ホルモンが過剰に作られるために起こる疾患。

副甲状腺は大きさは4〜5ミリぐらいで、甲状腺の周囲にある臓器。多くの人は4つ持っていますが、3つあるいは5つ以上持っている人もまれではありません。ここで作られる副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を一定の範囲内に調節しています。健康な人では、血液中のカルシウムが減ると副甲状腺ホルモンが増加し、骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶かし出されてカルシウムが正常な濃度に戻ります。

副甲状腺機能高進症になると、骨に変化を来し、血液中のカルシウムの量が増加します。

原因は、副甲状腺にできた腺腫(せんしゅ)、がん、肥大などによります。このうち8割以上は腺腫で、この場合は4つある副甲状腺のうち1つが腫大します。

がんの場合には、副甲状腺が大きく腫大し、血液中のカルシウム量の増加も高度であることが多く、予後は不良です。肥大は4つの副甲状腺のすべてが異常になるもので、多発性内分泌腺腫症という遺伝的な疾患に合併して起こることがほとんどです。

症状は、血液中のカルシウムが増えるために倦怠(けんたい)感、筋力低下が常にみられます。また、便秘、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛も認められます。

さらに、カルシウムが腎臓(じんぞう)に沈着して腎臓結石ができやすくなり、ひどくなると腎石灰化症という状態になり、腎臓の機能が著しく低下してきます。同時に、副甲状腺ホルモンが過剰になると、骨を壊す機能が高まり、骨の皮質が薄くなって、病的骨折を起こしやすくなります。

 最近は、健康診断などで血中カルシウム濃度を測定する機会が増えたため、偶然、発見されて診断に至る例が増えています。

副甲状腺機能高進症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、血液中の成分を測定すると、カルシウムの量が増加しているほか、無機リンは減少し、副甲状腺ホルモンは増加しています。次に、腫大した副甲状腺を頸部(けいぶ)超音波検査、CT、シンチグラフィなどの画像検査により確認します。腫大が軽度の場合には見付からないこともあります。

医師による治療は現在のところ、早く診断をつけて、外科的に副甲状腺腫瘍を切除するのが一番の方法です。

腺腫では、1つあるいは2つの腫大した副甲状腺だけを切除します。肥大では、すべての副甲状腺を探し出し、一番正常に近いと考えられる副甲状腺の一部を残して、他の副甲状腺をすべて切除します。症例によってはすべての副甲状腺を切除し、そのままでは副甲状腺機能低下症になってしまうので、通常、1腺の半分だけを前腕などに移植します。こうしておくと、万が一副甲状腺機能高進症が再発しても簡単に切除することができます。

がんでは、周囲組織を含めて広範囲に切除します。手術前にがんの確定診断がつくことはほとんどありませんし、手術中に行う組織の顕微鏡検査で悪性かどうかの判断は困難ですので、手術中の医師の判断が重要です。

治療が遅くなると、腎臓の機能が低下し、ついには尿毒症になります。

🇳🇵非機能性副腎腫瘍

ホルモン活性がなく、ホルモン値に異常がない副腎腫瘍

非機能性副腎腫瘍(ふくじんしゅよう)とは、ホルモン検査においてホルモン活性がなく、ホルモン値に異常がないと判断される副腎腫瘍。

副腎は、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器。副腎の内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性副腎腫瘍と、ホルモン活性がなくホルモンを過剰に分泌しない非機能性副腎腫瘍に分類されます。副腎腫瘍のほとんどは、非機能性副腎腫瘍です。

機能性副腎腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、グルココルチコイドが多く作られるクッシング症候群、アドレナリンやノルアドレナリンが多く作られる褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

一方、これらのホルモンを過剰に分泌する機能性副腎腫瘍と比べ、特徴的な症状を示さず、あるいは自覚症状を示さずに、健康診断や、胃腸、肝臓、腎臓などの腹部の疾患に対するCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見される副腎偶発腫瘍(無症候性副腎腫瘍)の中で、ホルモン検査において異常を示さない非機能性副腎腫瘍も少なくありません。

非機能性副腎腫瘍には、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、神経節腫、囊胞(のうほう)、血管腫、過誤腫、線維腫、転移性腫瘍などがあります。このほか、副腎皮質がんの中にも非機能性副腎腫瘍が存在します。

さらに、非機能性副腎腫瘍と鑑別を要する疾患として、目立った症状を示さないにもかかかわらず数年かけて高血圧や糖尿病などを引き起こす可能性があるプレ(サブ)クリニカルクッシング症候群(グルココルチコイド産生腺腫)と無症候性の褐色細胞腫があります。

手術によって非機能性副腎腫瘍を摘出する必要があるか否かは、ホルモン分泌の過剰の有無と、悪性腫瘍(原発性副腎がんや転移性副腎がん)の可能性の2点により判断されます。

非機能性副腎腫瘍の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、悪性腫瘍の可能性は腫瘍の大きさが3センチ以上であることや、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査での悪性を疑わせる所見の有無で判断します。

ホルモン分泌の過剰の有無については、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫の3つの疾患について内分泌検査を行います。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、検査の結果、ホルモンを過剰に分泌している所見がなく、最も一般的な非機能性副腎腫瘍である皮質腺腫や骨髄脂肪腫などの良性腫瘍の大きさが3センチ未満であれば、その時点では手術を行わずに経過を観察します。そして、半年から1年ごとにホルモン検査と画像検査を行います。やがて増大傾向を認める場合、ホルモン活性を認める場合は、手術による腫瘍摘出を検討します。

一方、腫瘍の大きさが3センチ以上、またはホルモンを過剰に分泌している所見がある場合は、手術による腫瘍摘出を適応と判断します。

また、検査でプレ(サブ)クリニカルクッシング症候群と診断された場合も、目立った症状を引き起こすことがなくとも、数年かけて高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、骨粗鬆(こつそしょう)症などを引き起こす可能性がありますので、腹腔(ふくくう)鏡下の手術による腫瘍摘出が勧められます。

🇰🇿ビタミン過剰症

脂溶性のビタミン剤の過剰摂取で、いろいろな症状が出現

ビタミン過剰症とは、ビタミン剤やサプリメントの飲みすぎ、特定の食品の取りすぎによって生じる疾患。普通の食生活をしている限りでは、まず起こらないといってよいでしょう。

ビタミンB群、ビタミンCのような水溶性のものは、過剰に摂取しても尿からどんどん出るので、過剰症を心配する必要はほとんどありません。これに対して、脂溶性のビタミンA、ビタミンD、ビタミンKは、過剰に摂取すると体内、ことに肝臓に蓄積されて、いろいろな症状が起こってきます。脂溶性ビタミンのうちビタミンEは例外で、過剰症の可能性は低いとされています。

ビタミンA過剰症では、頭痛、嘔吐(おうと)、めまい、下痢、鼻血、食欲不振、体重減少、脱毛、皮膚や粘膜の剥脱(はくだつ)などの症状とともに、骨がもろくなり、肝臓の機能も悪くなります。妊婦においては、著しく大量のビタミンAを服用したため、胎児に奇形が生じた例が報告されています。

ビタミンD過剰症では、骨からカルシウムが分離し、関節、腎臓(じんぞう)、心臓、膵臓(すいぞう)、皮膚、リンパ節などにカルシウムがたまります。そのために、骨がもろくなったり、腎臓の機能が悪くなり、尿毒症になることもあります。現れる症状は、全身倦怠(けんたい)感、口渇、食欲不振、吐き気、頭痛、皮膚のかゆみ、多尿、便秘、脱水、腎障害、精神抑うつなどです。

ビタミンK過剰症では、呼吸因難、皮膚水疱(すいほう)、新生児溶血性貧血が現れます。

ビタミン過剰症の検査と診断と治療

ビタミンA過剰症はビタミンAの服用を、ビタミンK過剰症はビタミンKの服用を中止すれば治ります。ビタミンD過剰症の治療も、ビタミンDの投与をやめることですが、いったんカルシウムが石灰化して腎臓に沈着すると、なかなか取れません。ビタミンDの過剰摂取には、特に注意する必要があります。

これはビタミンDだけに限らず、ビタミンA、ビタミンKについても同じですが、市販の総合ビタミン剤などをやたらに飲んだり、子供に飲ませることは、かえって害があります。注意書きにある指示量を守るようにしましょう。

2022/08/18

🇰🇿ビタミン欠乏症

ビタミンの欠乏で、いろいろな疾患が出現

欠乏症を起こす主なビタミンは、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ニコチン酸、およびビタミンCです。

ビタミン欠乏症は、食べ物から摂取するビタミンの量が体の必要とするビタミン量を満たさないか、あるいは、摂取する量は十分でも体内への吸収や利用が十分でない時に起こります。前者は発育期や授乳で消費が多い時など、後者は胃や腸の一部を手術で切り取った後などが相当します。

ビタミンA欠乏症(夜盲症)

夜盲(やもう)症とは、夜間や暗い場所での視力、視野が著しく衰え、目がよく見えなくなる疾患。俗に、鳥目(とりめ)と呼ばれます。

先天性では、幼児期より徐々に発症するものと、発症しても生涯進行しないものがあります。後天性では、ビタミンAの欠乏によって発症します。網膜にあって、夜間の視覚を担当するロドプシンという物質が、ビタミンAと補体から形成されているため、ビタミンA不足は夜間視力の低下につながるのです。夜盲症が進行すると、結膜や角膜の表面が乾燥して白く濁り、失明することもあります。

なお、ビタミンAは発育の促進、皮膚の保護の機能とも関係しているので、これが欠乏すると、乳幼児の発育が遅れたり、皮膚がカサカサになったりすることもあります。

ビタミンB1欠乏症(かっけ)

かっけ(脚気)とは、ビタミンB1欠乏症の一つで、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって心不全と末梢(まっしょう)神経障害を来す疾患。心不全によって下肢のむくみが、末梢神経障害によって上下肢のしびれが起きます。

ビタミンB1は、糖質の代謝に重要なビタミンです。白米を主食として副食の少ない食事を長期間続けた際や、重労働、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の分解産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されて、かっけが起こります。

かっけの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

かつては、かっけ衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるかっけなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、かっけが増えてきているといいます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏症になる確率が高いと見なされています。

なお、ビタミンB1の欠乏症には、欧米に多いウェルニッケ・コルサコフ症候群もあります。こちらは中枢神経が侵される重症の欠乏症で、蛋白(たんぱく)質、脂質中心の食生活で、アルコールを多飲する人に多発します。症状は、意識障害、歩行運動失調、眼球運動まひ、健忘症など。

ビタミンB2欠乏症

ビタミンB2欠乏症とは、ビタミンB2(リボフラビン)の欠乏によって、皮膚や粘膜にトラブルが現れたり、子供の発育が悪くなったりする疾患。

ビタミンB2には皮膚を保護する働きがあるので、欠乏すると皮膚や粘膜にいろいろな症状が現れてきます。例えば、唇の周囲やふちがただれたり、舌が紫紅色にはれたり、肛門(こうもん)や外陰部などの皮膚と粘膜の移行部のただれなどもみられます。目の充血や眼精疲労などの症状のほか、進行すると白内障を起こすこともあります。 脂漏性皮膚炎も認められ、鼻の周囲や顔の中央部に脂ぎった、ぬか状の吹き出物ができます。重症になると、性格変化や知能障害が現れることがあります。

ビタミンB2にはまた、子供の発育を促す働きがあるので、欠乏した子供では成長不良につながります。成長期には、必要量を十分取らなければなりません。

ビタミンB2は、体内で糖質、蛋白(たんぱく)質、脂肪をエネルギー源として燃やすのに、不可欠な水溶性ビタミンです。ビタミンB2欠乏症は、アルコールの多飲、糖質過剰摂取、激しい運動、労働、疲労などで、現れることがあります。多量の抗生物質や経口避妊薬、ある種の精神安定薬や副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬などを長期に服用した時にも、現れることがあります。また、心臓病、がん、糖尿病、肝炎、肝硬変などの慢性疾患や吸収不良によって、ビタミンB2欠乏症のリスクが高くなります。血液をろ過する血液透析や腹膜透析でも、同様です。

ビタミンD欠乏症(くる病)

くる病とは、骨が軟らかくなり、変形を起こしてくる疾患。骨成長期にある小児の骨のカルシウム不足から起こる病的状態で、成人型のくる病は骨軟化症と呼びます。

カルシウム不足による骨の代謝の病的状態というのは、骨基質という蛋白(たんぱく)質や糖質からなる有機質でできた骨のもとになるものは普通に作られているのに、それに沈着して骨を硬くする骨塩(リン酸カルシウム)が欠乏している状態です。このような状態では、骨が軟らかく弱くなります。

子供では、骨が曲がって変形したり、骨幹端部の骨が膨れてくることがあります。成人でも、骨が曲がったり、骨粗鬆(そしょう)症と同様に、ちょっとした外部の力で骨折が起こるようになります。

くる病の原因は、いろいろあります。ビタミンD欠乏による栄養障害、腎(じん)臓の疾患、下痢や肝臓病などの消化器の疾患、甲状腺(せん)や副腎などのホルモンの異常に由来するものや、妊娠、授乳などによるカルシウム欠乏に由来するものがあります。

骨粗鬆症と同時に存在することも多く、その場合には骨粗鬆軟化症と呼んでいます。

ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)

ニコチン酸欠乏症とは、ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏することにより、皮膚炎、下痢、精神錯乱などを起こす疾患。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロールや中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ビタミンC欠乏症(壊血病)

壊血病とは、ビタミンCの欠乏によって、出血性の障害が体内の各器官で生じる疾患。ビタミンC欠乏症とも呼ばれます。

水溶性ビタミンであるビタミンCは、血管壁を強くしたり、血液が凝固するのを助けたりする作用を持っています。また、生体内の酸化還元反応に関係し、コラーゲンの生成や骨芽細胞の増殖など、さまざまな作用も持っています。

成人におけるビタミンCの適正摂取量は、1日に100mgとされています。日本人はもともとビタミンCの摂取量が多く欠乏症になりにくいのですが、3~12カ月に渡る長期、高度のビタミンC欠乏があると、壊血病が生じます。妊娠や授乳時では、ビタミンCの必要量も増えます。

ビタミンCが欠乏すると、毛細血管が脆弱(ぜいじゃく)となって、全身の皮下に点状の出血を起こしたり、歯肉に潰瘍(かいよう)ができたり、関節内に出血を起こしたりします。また、消化管や尿路から出血することもあります。一般症状として、全身の倦怠感(けんたいかん)や関節痛、体重減少が現れます。

小児においても、壊血病は生じます。特に生後6~12カ月間の人工栄養の乳児に発生し、モラー・バーロー病とも呼ばれています。現れる症状は、骨組織の形成不全、骨折や骨の変形、出血や壊死(えし)、軟骨や骨境界部での出血と血腫(けっしゅ)、歯の発生障害などです。

ビタミン欠乏症の検査と診断と治療

ビタミンA欠乏症(夜盲症)

ビタミンA欠乏性の夜盲症以外の場合、治療法が確立しておらず、光刺激を防ぐ対策を必要とします。遮光眼鏡を使用したり、屋外での作業を控えるなどです。

ビタミンA欠乏性では一般に、ビタミンAを経口で服用し、ビタミンAを多く含む食品を適度に取ります。ビタミンAには、レバーやウナギなど動物性のものに含まれるレチノールと、主に緑黄色野菜などの植物性食品に含まれβ-カロチンの2種類があります。ただし、過度に摂取するのは、ビタミンA中毒を引き起こすのでよくありません。

ビタミンB1欠乏症(かっけ)

かっけの検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければかっけの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

かっけの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。なお、かっけの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、欠乏症を起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、かっけになりやすくなります。

ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐにかっけにはなりません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。

ビタミンB2欠乏症

医師による診断は、現れた症状や全身的な栄養不良の兆候に基づいて行います。尿中のビタミンB2排出量を測定し、1日40μg以下であれば欠乏症です。血中のビタミンB2濃度の測定も行われます。

治療では、ビタミンB2を症状が改善されるまで、経口で服用します。ビタミンB2の1日所要量は成人男性で1・2mg、成人女性で1・0mgとされており、1日10mgを経口で服用すると症状は完全に改善します。他のビタミン欠乏症を伴うことも多く、その場合はビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸なども服用すると、より効果的です。

なお、ビタミンB2吸収不良を生じている場合、血液透析や腹膜透析を受けている場合は、ビタミンB2サプリメントを日常から摂取する必要があります。

ビタミンD欠乏症(くる病)

確定診断のためには、X線写真で確かめるほか、血液検査や尿検査、血清生化学検査などにより、ビタミン、ホルモン、カルシウム、リン、血清アルカリホスファターゼなどの数値を測定します。

治療では、原因に応じて対処することになります。一般には、ビタミンDなどの薬剤投与を行い、小魚や牛乳などのようにカルシウムの多い食べ物を摂取し、日光浴をします。ビタミンDには、カルシウムやリンが腸から吸収されるのを助け、骨や歯の発育を促す働きがあります。このビタミンDは食べ物の中にあるほか、皮膚にあるプロビタミンDという物質が、紫外線を受けるとビタミンDになります。

骨が軟らかくなるのが治っても、骨の湾曲、変形などが強く残ったものは、骨を切って変形を矯正する骨切り術を行うこともあります。

ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)

ニコチン酸欠乏症の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。ニコチン酸はインシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。 一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

ビタミンC欠乏症(壊血病)

乳児では1日100mg、成人では1日1000mgのビタミンCを投与すると、症状の改善が認められます。ただ、長期に投与すると尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)が生じることがあり、注意が必要です。

予防としては、新鮮な果物や野菜を十分に取ります。また、煮すぎない、ゆですぎない、ミキサーに長時間かけないなど、調理によるビタミンCの破壊に気を付ければ、まず壊血病の心配はありません。

🇰🇿ビタミン欠乏によるニューロパチー

ビタミンの欠乏から、神経細胞が損傷して生じる神経障害

ビタミン欠乏によるニューロパチーとは、ビタミンの摂取不足、あるいは体内での消費過剰によってビタミンが欠乏し、神経細胞が損傷することによって生じる末梢(まっしょう)神経障害。

ニューロパチーとは、脳や脊髄(せきずい)から分かれた後の、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態。末梢神経障害とも呼ばれ、以前は神経炎と呼ばれていました。末梢神経には、筋肉を動かす運動神経のほか、感覚神経(知覚神経)、自律神経の3種類があります。ニューロパチーによって末梢神経に起こる症状は、多彩で、複雑です。

その欠乏によってニューロパチーを起こす主なビタミンとしては、ビタミンB1、ニコチン酸、ビタミンB12が挙げられます。

ビタミンB1が欠乏すると、ビタミンB1欠乏性ニューロパチー、いわゆる脚気(かっけ)が起こり、深部腱(けん)反射の消失に代表される多発神経炎が生じます。ニコチン酸が欠乏すると、ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)が起こり、皮膚炎や下痢とともに神経炎から精神錯乱が現れてきます。ビタミンB12が欠乏すると、ビタミンB12欠乏性ニューロパチーが起こり、貧血とともに各種神経炎、神経痛が現れます。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)

ビタミンB1は、細胞がエネルギーとして利用する糖質の代謝に重要なビタミンです。偏食、過度のダイエット、激しい運動、重労働、過剰なアルコール摂取、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の代謝異常が起こり、血液や筋肉に、糖質の不完全燃焼の産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されます。そうなると、細胞が十分なエネルギーを得られず、神経機能の調節や消化機能が衰えて、神経障害が起こります。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

かつては、脚気衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるビタミンB1欠乏性ニューロパチーなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーが増えてきているとされます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。

食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーになる確率が高いと見なされています。ビタミンB1の欠乏以外に、アルコールそのものによる神経の障害から手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いのも特徴で、燃える足症状ともいいます。

ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)

ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏すると、皮膚炎、神経炎、下痢、精神錯乱などを起こします。ナイアシン欠乏症とも呼ばれ、とうもろこしを主食とする中南米などの地域ではペラグラとも呼ばれています。

ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、蛋白(たんぱく)質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンから体内で合成されます。糖質、脂質、蛋白(たんぱく)質の代謝に不可欠な栄養素であり、また、アルコールや、二日酔いのもとになるアセトアルデヒドを分解します。人為的にニコチン酸を摂取することで、血行をよくし、冷え性や頭痛を改善しますし、大量に摂取すれば血清のコレステロールや中性脂肪を下げる薬理効果もあります。

ニコチン酸欠乏症はとうもろこしを主食とする人に多い疾患ですが、日本では、不規則な食事をするアルコール多飲者にみられます。酒を飲むほどニコチン酸が消費されますので、つまみを食べずに大量に飲む人は、栄養不良に注意が必要です。特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6が不足すると、ニコチン酸の合成能力が低下します。

遺伝病であるハートナップ病の人も、トリプトファンが腸から吸収されないために、ニコチン酸欠乏症を発症します。

症状としては、日光に当たることによって手や足、首、顔などに皮膚炎が起こります。同時に、舌炎、口内炎、神経炎、腸炎などを起こし、そのために食欲不振や下痢なども起こします。その後、頭痛、めまい、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全による錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こり、最悪の場合は死に至ります。

日本では普通の食事をしている限り、重症にはなりません。食欲減退、口角炎、不安感などの軽いニコチン酸欠乏症が見られる程度です。

ビタミンB12欠乏性ニューロパチー

ビタミンB12とは、鉄分を補っても治らない貧血の治療法を研究した結果、発見された水溶性ビタミン。物質名はシアノコバラミンです。

ビタミンB12は、胃で消化された後で腸で吸収される他のビタミンとは違って、胃で溶かされたり腸内の細菌によって食べられるのを防ぐために特殊な蛋白(たんぱく)質と結び付くという過程を通って、腸に吸収されます。そのために、最後に発見されたビタミンに相当し、12という二桁(けた)の番号が付いています。

蛋白質や核酸の体内合成に欠かせないビタミンであり、細胞のエネルギー獲得を助ける作用、神経細胞を正常に保つ作用があります。

その核酸とは、DNA=遺伝子の主な成分になっている物質で、細胞を再生する時に重要な働きをしています。ビタミンB12には、神経細胞の中にある核酸の体内合成を助ける働きがあります。つまり、正常な神経細胞を維持して、脳からの指令を手足などの末梢神経まで正確に伝えるには、ビタミンB12はなくてはならない栄養素なのです。神経系が原因の腰痛の治療、不眠症や時差ボケの解消には、ビタミンB12の大量摂取が有効とされています。

また、ビタミンB12には、正常な赤血球を作り出す働きがあり、貧血になるのを予防しています。赤血球は鉄分を材料にして体内で作られますが、たとえ十分な鉄分を食品から取っても、ビタミンB12や葉酸が不足していると正常な赤血球に成長しません。造血に関係するため赤いビタミンとも呼ばれ、肝機能強化にも有効です。

ビタミンB12が欠乏すると貧血になるほか、息切れ、めまい、動悸(どうき)、神経系に作用して各種神経炎、神経痛、筋肉痛、精神障害、記憶力の減退、睡眠障害、食欲不振などが引き起こされます。

欠乏症は、厳格な菜食主義者(ベジタリアン)や、手術で胃の切除をした人、高齢で胃腸の粘膜が収縮している人などに多くみられます。

ビタミン欠乏によるニューロパチーの検査と診断と治療

神経内科、ないし内科の医師によるビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)の検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければビタミンB1欠乏性ニューロパチーの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。ただし、神経障害の回復には時間がかかるとされています。また、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーを起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、発症しやすくなります。

ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐに発症しません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。ビタミンB1を添加している強化米や強化精麦を利用するのも、1つの方法です。

ニコチン酸欠乏症(ナイアシン欠乏症、ペラグラ)の治療は、ニコチン酸を含むビタミンB群の投与です。ニコチン酸アミドを1日50〜100mg投与し、他のビタミンBの欠乏を合併することも多いので、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6も併用して投与します。ビタミンB群は、お互いに協力しあって活動しているため、それぞれの成分だけではなく、ビタミンB群としてまとめて投与することが望ましい栄養素でもあります。

ニコチン酸の過剰症は特にありませんが、合成品のニコチン酸を100mg以上摂取すると、皮膚がヒリヒリしたり、かゆくなることがあります。とりわけ、ニコチン酸の摂取に際して注意が必要なのは、糖尿病の人です。ニコチン酸はインシュリンの合成に関与し、大量に摂取すると糖質の処理を妨げてしまいます。 一部の医薬品との相互作用を示唆するデータもあるため、すでに他の薬を服用中の場合は主治医に相談の上、ニコチン酸を摂取する必要があります。

ビタミンB12欠乏性ニューロパチーの治療は、菜食主義者に対してはサプリメントによって、胃の切除をした人などに対しては静脈注射や投薬によって、ビタミンB12を補給します。

よほど偏食しない限り、日常の食生活で不足することはありませんが、ビタミンB12の含有量が多いのは、魚肉を始め、カキ、アサリ、ホタテガイなどの貝類、牛や豚のレバー、牛肉、卵、牛乳などの動物性食品で、植物性食品にはほとんど含まれていません。ただし、しょうゆ、みそ、納豆などには、微生物によって作られるビタミンB12が含まれています。

🇹🇲ビタミンB1欠乏性ニューロパチー

ビタミンB1の欠乏から、神経細胞が損傷して生じる神経障害

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーとは、ビタミンB1の摂取不足、あるいは体内での消費過剰によってビタミンB1が欠乏し、神経細胞が損傷することによって生じる神経障害。脚気(かっけ)、ビタミンB1欠乏症とも呼ばれます。

ビタミンB1は、細胞がエネルギーとして利用する糖質の代謝に重要なビタミンです。偏食、過度のダイエット、激しい運動、重労働、過剰なアルコール摂取、妊娠、授乳、甲状腺(せん)機能高進症などでビタミンB1の消費が一時的に増大した際に、糖質の代謝異常が起こり、血液や筋肉に、糖質の不完全燃焼の産物であるピルビン酸や乳酸が蓄積されます。そうなると、細胞が十分なエネルギーを得られず、神経機能の調節や消化機能が衰えて、神経障害が起こります。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状としては、初めは体がだるい、手足がしびれる、動悸(どうき)がする、息切れがする、手足にしびれ感がある、下肢がむくむなどが主なものです。進行すると、足を動かす力がなくなったり、膝(ひざ)の下をたたくと足が跳ね上がる膝蓋腱(しつがいけん)反射が出なくなり、視力も衰えてきます。

かつては、脚気衝心(しょうしん)といって、突然胸が苦しくなり、心臓まひで死亡することもありましたが、現在ではこのような重症例はほとんどありません。

しかし、三食とも即席ラーメンを食べるといったような極端に偏った食生活によるビタミンB1欠乏性ニューロパチーなどが、最近は若い人に増えてきています。インスタント食品やスナック菓子には脂質とともに糖質も多く含まれているのですが、この糖質の消費に必要なビタミンB1の摂取量が足りていないのです。また、過度なダイエットや欠食、外食によって、女子大学生の血中総ビタミンB1の値が非常に低いことも報告されています。

さらに、糖尿病の発症者と、高齢の入院患者にも、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーが増えてきているとされます。糖尿病の場合は、血液中の糖質に対するビタミンB1の相対的な不足が原因となり、高齢の入院患者の場合は、高カロリー(糖質)の輸液に対してやはりビタミンB1の不足が原因となります。

食事の代わりに酒を飲むといったアルコール依存症の人も、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーになる確率が高いと見なされています。ビタミンB1の欠乏以外に、アルコールそのものによる神経の障害から手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いのも特徴で、燃える足症状ともいいます。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの検査と診断と治療

神経内科、ないし内科の医師によるビタミンB1欠乏性ニューロパチー(脚気、ビタミンB1欠乏症)の検査では、ハンマーなどで膝の下を軽くたたく、膝蓋腱反射を利用した方法が広く知られています。足がピクンと動けば正常な反応で、何も反応がなければビタミンB1欠乏性ニューロパチーの可能性がありますが、診断を確定する検査ではありません。

ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの治療では、ビタミンB1サプリメントを投与します。ただし、神経障害の回復には時間がかかるとされています。また、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーの症状は回復したようにみえても、数年後に再発することがあるので注意が必要です。

ビタミンB1はいろいろな食べ物の中に含まれているので、偏食さえしなければ、ビタミンB1欠乏性ニューロパチーを起こすことはほとんどありません。過度のダイエット、朝食や昼食を抜く、外食で食事をすませる、インスタント食品に偏るなどの食生活では、ビタミンB1の不足を招き、発症しやすくなります。

ただし、ビタミンB1が不足していても、他の栄養素のバランスがいい場合は、すぐに発症しません。食生活に偏りがあって、疲労感や倦怠(けんたい)感が続いている場合は、潜在的ビタミンB1欠乏症と考えて、食生活を改善する必要があります。

お勧めなのは玄米食。玄米にはビタミンB1が多く含まれているからで、玄米を精米した白米ではほぼ全部のビタミン類が取り除かれています。玄米のほかにビタミンB1を多く含む食品には、豚肉、うなぎ、枝豆、えんどう豆、大豆(だいず)、ごま、ピーナッツなどがあります。これらをうまく組み合わせて、ビタミンB1を摂取していきましょう。

ビタミンB1を添加している強化米や強化精麦を利用するのも、1つの方法です。

🇹🇲ビタミンB2欠乏症

皮膚や粘膜のトラブルと子供の発育不良

ビタミンB2欠乏症とは、ビタミンB2(リボフラビン)の欠乏によって、皮膚や粘膜にトラブルが現れたり、子供の発育が悪くなったりする疾患。

ビタミンB2には皮膚を保護する働きがあるので、欠乏すると皮膚や粘膜にいろいろな症状が現れてきます。例えば、唇の周囲やふちがただれたり、舌が紫紅色にはれたり、肛門(こうもん)や外陰部などの皮膚と粘膜の移行部のただれなどもみられます。目の充血や眼精疲労などの症状のほか、進行すると白内障を起こすこともあります。 脂漏性皮膚炎も認められ、鼻の周囲や顔の中央部に脂ぎった、ぬか状の吹き出物ができます。重症になると、性格変化や知能障害が現れることがあります。

ビタミンB2にはまた、子供の発育を促す働きがあるので、欠乏した子供では成長不良につながります。成長期には、必要量を十分取らなければなりません。

ビタミンB2は、体内で糖質、蛋白(たんぱく)質、脂肪をエネルギー源として燃やすのに、不可欠な水溶性ビタミンです。ビタミンB2欠乏症は、アルコールの多飲、糖質過剰摂取、激しい運動、労働、疲労などで、現れることがあります。多量の抗生物質や経口避妊薬、ある種の精神安定薬や副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬などを長期に服用した時にも、現れることがあります。また、心臓病、がん、糖尿病、肝炎、肝硬変などの慢性疾患や吸収不良によって、ビタミンB2欠乏症のリスクが高くなります。血液をろ過する血液透析や腹膜透析でも、同様です。

ビタミンB2欠乏症の検査と診断と治療

医師による診断は、現れた症状や全身的な栄養不良の兆候に基づいて行います。尿中のビタミンB2排出量を測定し、1日40μg以下であれば欠乏症です。血中のビタミンB2濃度の測定も行われます。

治療では、ビタミンB2を症状が改善されるまで、経口で服用します。ビタミンB2の1日所要量は成人男性で1・2mg、成人女性で1・0mgとされており、1日10mgを経口で服用すると症状は完全に改善します。他のビタミン欠乏症を伴うことも多く、その場合はビタミンB1、ビタミンB6、ニコチン酸なども服用すると、より効果的です。

なお、ビタミンB2吸収不良を生じている場合、血液透析や腹膜透析を受けている場合は、ビタミンB2サプリメントを日常から摂取する必要があります。

🇱🇰橋本病(慢性甲状腺炎)

■甲状腺の病気の一つで、女性に多い

橋本病は、喉頭(こうとう)の前下部にある甲状腺(こうじょうせん)に慢性の炎症が起きている病気で、慢性甲状腺炎とも呼ばれている自己免疫性疾患です。九州大学の橋本 策(はるか)博士が明治45年、ドイツの医学誌に初めて発表した病気で、世界的にも有名なものです。

内分泌腺の一つである甲状腺に、慢性のリンパ球の浸潤による炎症があるために、甲状腺が腫大(しゅだい)したり、甲状腺機能に異常が起こります。男性の20倍と女性のほうが圧倒的に多くかかり、よく調べると、女性の10~20人に1人の割合でみられるほど、頻度の高い病気だということがわかってきました。

例外はありますが、橋本病の患者は大なり小なり、甲状腺がはれています。ただし、この内分泌腺の一つである甲状腺のはれが、首や喉(のど)に何か症状を起こすというようなことはありません。まれに甲状腺のはれがなく、委縮している場合もあります。

橋本病では、甲状腺のホルモン状態の違いから次の3つのケースに分けられ、甲状腺ホルモンの過不足があるケースにだけ症状がみられます。

●甲状腺ホルモン濃度がちょうどよいケース(甲状腺機能正常)

橋本病であっても、大多数の人は甲状腺ホルモンに過不足はありません。この場合は、橋本病が体に影響するということは全くありませんので、何か症状があっても甲状腺とは関係ありません。従って、治療の必要はありません。

しかしながら、将来、甲状腺の働きが低下して、ホルモンが不足することがあります。また、まれですが一時、甲状腺ホルモンが過剰になることもあります。

●甲状腺ホルモンが不足しているケース(甲状腺機能低下症)

甲状腺ホルモンが減少する病気の代表が、橋本病です。橋本病も甲状腺臓器特異性自己免疫疾患の一つで、体質の変化により、甲状腺を異物と見なして甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)ができます。

この抗体、すなわち浸潤したリンパ球が甲状腺を破壊していくため、甲状腺ホルモンが減少し、徐々に甲状腺機能低下症になっていきます。痛みもなく、本人の知らないうちに、少しずつ甲状腺が腫大します。

甲状腺ホルモンは体の新陳代謝に必要なホルモンですので、不足が著しかったり長く続いたりすると、下のような症状が現れます。自覚症状はないこともありますが、コレステロールの値が高くなったり、血圧が上がったり、心臓や肝臓の働きが悪くなることもあります。

 *顔や手足がむくむ   *食べないわりに体重が増える   *気力が低下する   *動作が鈍くなる   *皮膚が乾燥する   *声がかすれる   *寒がりになる   *始終、眠い   *毛髪が薄くなる   *物忘れがひどくなる   *ろれつが回らなくなる   *その他(便秘、貧血、月経過多)

これらの症状は他の原因でも起こりますから、こうした症状があるからといって甲状腺のホルモンが足りないとは限りません。

また、甲状腺機能低下症であっても、適量の甲状腺ホルモンを服用して血液のホルモン濃度が正常になっている場合は、何か症状があれば、他のことが原因です。

なお、「甲状腺機能低下症になると回復しない」といわれていましたが、数カ月のうちによくなることも少なくありません。

●甲状腺ホルモンが一時的に過剰になるケース(無痛性甲状腺炎)

甲状腺にたくわえられている甲状腺ホルモンが血液中にもれ出て、血中濃度が高くなることがあります。ふだん、甲状腺の働きが正常な人に、比較的急に起こります。産後数カ月以内に、ことによくみられます。バセドウ病(甲状腺機能亢進症)と間違われることもあります。

このケースは炎症が原因ですが、痛みがないので「無痛性甲状腺炎」といいます。長くても4カ月以内には自然に治りますが、その後、逆に甲状腺ホルモンが不足して、甲状腺のはれが大きくなることがあります。これも大抵は数カ月で治りますが、中には長く続いて甲状腺ホルモン剤の内服治療が必要になる人もあります。

●その他のケース

非常にまれですが、途中でバセドウ病に変化することがあります。血縁にバセドウ病の人がいる場合は、他の人よりなりやすい傾向があります。

悪性リンパ腫の中には甲状腺から発生するものがあり、橋本病の人は一般の人よりこうしたことが起こりやすいのですが、甲状腺から発生するものは治療に大変よく反応し、治りやすいという特徴があります。

■診断と治療法

●血液検査や細胞診

触診や超音波検査で、びまん性甲状腺腫を確認します。血液検査では、甲状腺自己抗体である抗サイログロブリン抗体と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の2つが陽性になります。

自己抗体が陰性の人でも、甲状腺の生検や細胞診でリンパ球浸潤を認めれば診断が確定されます。甲状腺機能(FT3・FT4・TSH)は正常の人が多いですが、低下症になっている例もあります。

●甲状腺ホルモン薬の服用

橋本病患者で甲状腺の腫大が小さく、甲状腺機能も正常の場合は、治療は必要ありません。

甲状腺機能の低下がある場合には、不足している甲状腺ホルモン薬(チラージンS錠)を毎日内服します。はれも小さくなります。

甲状腺の腫大がひどい場合は、手術で甲状腺を切除する場合もあります。

●日常生活と食事

甲状腺ホルモンに過不足がなければ、生活上、留意することはありません。

食事も、ふだんどおりでけっこうです。海草類も普通に食べてかまいませんが、昆布を毎日食べたり、ヨードを含むうがい薬を毎日何度も使うと、甲状腺機能が低下することがあります。

海草に多く含まれるヨードは甲状腺ホルモンの原料ですが、橋本病の人の一部にヨードを取り過ぎると甲状腺ホルモンが作れなくなる人がいるからです。なお、甲状腺ホルモンを服用している人は、問題ありません。

🇱🇰バセドウ病

のどの下にある甲状腺の機能の高まりにより、甲状腺が膨れる疾患

バセドウ病とは、のどの下にある甲状腺(こうじょうせん)の機能の高まりにより、甲状腺が膨れる病気です。甲状腺機能亢進(こうしん)症の代表的な病気で、中年女性に多く、最近では若い女性にも増えてきています。バセドウ病はドイツ語圏での呼び名、英語圏ではグレイヴズ病というのが通常。

病にかかると、甲状腺ホルモンを必要な量より大量に作りすぎて、血液中に多く流れ、全身の新陳代謝を活発にさせるため、さまざまな症状が現れます。動悸(どうき)がしたり、異常に汗が出たり、手が震えたり、下痢をしたりします。眼球が飛び出して、やせてくる場合は、容姿が気になります。

イライラと落ち着かず、興奮しやすく、病的な不安や妄想を抱いたりすることもあるため、精神病と間違われることもあります。「びっくりバセドウ」の異名があるように、もともと情緒不安定で、感受性の強い人が精神的なショックを受けて、発症することがあります。

医師による治療では、初めは抗甲状腺剤を服用しますが、完治には長い期間を要します。薬の長期服用が困難な場合は、個人差や病気の状態などにより、手術(甲状腺亜全摘術)や、アイソトープ治療(放射性ヨード内服)が選択されます。

どの治療法を選ぶにしても、ポイントは甲状腺ホルモンを正常な量にコントロールすることです。ホルモン量が正常になれば、健康な人と変わらない生活ができます。

2022/08/17

🇨🇺副甲状腺機能低下症

副甲状腺ホルモンの分泌や作用が低下するために起こる疾患

副甲状腺(せん)機能低下症とは、副甲状腺ホルモンの分泌や作用が低下するために起こる疾患。

副甲状腺は大きさは4〜5ミリぐらいで、甲状腺の周囲にある臓器。多くの人は4つ持っていますが、3つあるいは5つ以上持っている人もまれではありません。ここで作られる副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を一定の範囲内に調節しています。健康な人では、血液中のカルシウムが減ると、血中カルシウム濃度を上昇させるように働く副甲状腺ホルモンが増加し、骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶かし出されてカルシウムが正常な濃度に戻ります。

この副甲状腺ホルモンの作用がうまく発現せず、そのために血液中のカルシウム濃度が低下する疾患が、副甲状腺機能低下症。その原因の全く不明な特発性のものと、原因の明らかな続発性のもの、および副甲状腺ホルモンの分泌は保たれているにもかかわらず、副甲状腺ホルモンの作用が損なわれている偽性のものとに分類されます。

大部分は続発性のもので、頸部(けいぶ)の手術や外傷による副甲状腺の障害や、先天性の副甲状腺形成異常などで起こります。近年、副甲状腺ホルモンの分泌の低下を起こす遺伝子異常が、数多く明らかにされてきています。

偽性の副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモンによる細胞内シグナルの伝達機構の障害が原因で、その異常部位によりさらに細かく分類されています。

特徴的な症状は、神経や筋肉が刺激されやすくなり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることです。最初に手足や口の回りのしびれが起こり、次に手の先をつぼめて、手首を曲げた特有のけいれんがみられます。手足のこむら返りもみられ、時には、全身のけいれんがみられて、意識を失うこともあります。このため、てんかん発作と間違えられることもあります。

また、血管の筋肉にもけいれんが起こり、狭心症の発作や呼吸困難を起こすこともあります。

長期に渡って副甲状腺機能低下症があると、毛髪は薄くなり、皮膚は乾燥して魚のうろこのようになり、白内障もしばしば認められます。

副甲状腺機能低下症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、血液中の成分を測定して、カルシウムの減少と無機リンの増加が認められた上、腎機能低下がなければ、本症と考えます。テタニー発作は副甲状腺の機能が低下した時だけにみられる現象ではなく、激しい嘔吐(おうと)で胃酸を大量に失った時や、ヒステリーなどで呼吸回数が増えた時などにもみられるため、それらとの区別が必要になります。

また、偽性の副甲状腺機能低下症の場合には、副甲状腺ホルモンの細胞内シグナルの異常部位により病型を決めるために、副甲状腺ホルモンを注射して反応をみるエルスワース・ハワード試験という検査を行います。

医師による治療では、血中カルシウム濃度を上昇させるために、アルファカルシドール、またはカルシトリオールという活性型ビタミンD3製剤を内服します。活性型ビタミンD3製剤は、腸管からのカルシウム吸収を促進し、また腎(じん)臓から尿中へのカルシウム排出を低下させるように働くことなどで、血中カルシウム濃度を上昇させます。

活性型ビタミンD3製剤の投与量が少なすぎると、低カルシウム血症が十分改善しません。逆に多すぎると、血中や尿中のカルシウムが高くなりすぎ、腎結石や腎機能障害を来す危険があります。このため、定期的に血液や尿の検査を受ける必要があります。

ビタミンD製剤とカルシウム製剤を毎日内服する治療でもよいのですが、いずれにしても一生服用しなければなりません。

🇨🇺副腎褐色細胞腫

副腎髄質の腫瘍によりアドレナリンなどが大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患

副腎褐色細胞腫(ふくじんかっしょくさいぼうしゅ)とは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の髄質にできた腫瘍(しゅよう)によって、自律神経に働くアドレナリンやノルアドレナリンが大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患。

若い人が、ひどい高血圧を起こすのは、この疾患が原因のことがあります。

副腎は皮質と髄質からできており、副腎皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

腫瘍は主として副腎髄質の細胞から発生しますが、時には、脊髄(せきずい)に沿った交感神経節のクロム親和性細胞からも発生します。クロム親和性細胞は、重クロム酸カリウムを含む液で固定すると、褐色に染まる細胞をいいます。

腫瘍からはアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、このホルモンの作用でさまざまな症状が現れます。

腫瘍の大部分は良性で、時に悪性の場合もあります。多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生しますが、遺伝的に副腎褐色細胞腫になりやすい家系もあります。

副腎褐色細胞腫の症状としては、高血圧と糖尿病が起こります。高血圧は、発作的に起こる場合と持続的に血圧が高い場合とがあります。

発作的に起こる場合は、急に不安感、緊張感が起こり、強い動悸(どうき)やズキンズキンとした頭痛を感じ、脈が速くなり、手足が震え、瞳(ひとみ)が大きくなります。手足が冷たくなり、時には耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。

また、しばしば尿糖が出ます。発作は数分から1〜2時間、時には数日続くこともあります。まれに、心不全や出血の危険性が高まることもあります。

このようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もあります。

発作的な血圧上昇、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内科、ないし内分泌代謝内科の専門医を受診してください。

副腎褐色細胞腫の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、血液および尿の中のアドレナリン、ノルアドレナリンを測定すると増加しているのがわかります。腫瘍を探すために、腹部CTスキャン、MRI、血管造影などの画像診断を行います。家族歴などから、遺伝的要因が関係した副腎褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。

内科、内分泌代謝内科の医師による治療は、手術によって腫瘍を取り除くことです。高血圧によって、体のいろいろな器官が悪くならないうちに手術をすれば、完全に治ります。

手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(α〔アルファ〕受容体遮断薬)を使用します。

🇱🇰副腎がん

左右の腎臓の上に位置する小さな臓器である副腎にできる悪性の腫瘍

副腎(ふくじん)がんとは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎にできる悪性の腫瘍(しゅよう)。

副腎は内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

この副腎がんは、副腎表面の皮質にできる副腎皮質がんと、髄質にできる副腎髄質がんに分けられます。

副腎皮質がんは極めてまれながんです。ホルモンの分泌異常を伴う機能性腫瘍と、ホルモンの分泌異常を伴わない非機能性腫瘍に分けられます。

一方、副腎髄質がんには、副腎の褐色細胞腫が悪性化した悪性褐色細胞腫や、神経芽細胞腫があります。副腎がんのほとんどは、この副腎内部の髄質にできる副腎髄質がんです。

副腎がんは、同じ副腎から発生し、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモンを過剰に分泌しない非機能性腫瘍に分けられる副腎腫瘍と比べると、発生頻度は著しく落ちます。副腎腫瘍のほうは、いずれも良性腫瘍がほとんどで、悪性のものはほとんどみられません。

また、良性の副腎腫瘍が悪性化して副腎がんに変化することは、ないとされています。

副腎がんはまれながんであり、副腎皮質がんと副腎髄質がんを合わせても、100万人当たりの罹患率は2人です。発症年齢でみると、10歳前後と40歳から50歳代の二峰性のピークを示し、女性の発症率は男性の1・5倍から3倍です。

副腎がんを発症する原因は、よくわかっていません。副腎がんに特徴的な症状も、ありません。

がんが進行して大きくなることによって、体の外から腫瘍を触れる、腹が痛くなる、便秘や吐き気が起こるといった症状で発見されることが、多くみられます。当然、早期には症状がありませんが、早期に発見されることは多くはなく、発見された時、多くは5センチ以上の大きさになっています。

がんが副腎のホルモンを異常に多く分泌する場合、糖尿病や高血圧、肥満といった症状で発見されることがあります。また、健康診断や、胃腸、肝臓、腎臓などの腹部の疾患に対するCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見されることもあります。

進行するにつれ、発熱、食欲不振、体重減少などの多彩な全身症状を伴うことがあります。

副腎がんの検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、血液検査・尿検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査、副腎血管造影検査などを行います。

血液検査・尿検査では、副腎に腫瘍ができると、ホルモンの分泌異常が起きるケースがありますので、血液と尿内の成分を調べることで、ホルモン異常の有無を調べることができます。副腎と同様のホルモンを異常に分泌するタイプの副腎がんの場合、血液検査でアルドステロン、グルココルチコイド、アンドロゲンの硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェー ト、アンドロゲンに属するテストステロン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどが異常高値を示すことがあります。

CT(コンピュータ断層撮影)検査では、体の内部を輪切りにした画像を撮影することができ、副腎にできた腫瘍だけでなく、リンパ節転移、肺臓や肝臓への転移などの有無を調べることができます。

MRI(磁気共鳴画像撮影)検査では、腫瘍と副腎がんとを鑑別できることがあります。また、周囲の組織へのがんの進行具合を診断する上で重要です。

超音波(エコー)検査では、副腎にできた腫瘍の大きさや広がりを調べることができます。

副腎血管造影検査では、造影剤を副腎動脈内に注入し、X線(レントゲン)により撮影します。造影剤が副腎内の血管に浸透しますので、副腎内の血管が腫瘍によりふさがった部位がないか調べることができます。

副腎がんのステージ(進行度)は、副腎がんの大きさ、広がり、転移の有無により、ステージⅠからステージⅣに分類されます。

ステージⅠは、 副腎がんの直径が5セント以下で副腎内部にとどまっているもの。ステージⅡは、副腎がんの直径が5セントを超えているものの、副腎内部にとどまっていて周囲への浸潤がないもの。ステージⅢは、副腎がんが副腎周辺の脂肪組織やリンパ節にまで広がっているもの。ステージIVは、副腎がんが副腎に隣接した臓器、または遠く離れた臓器にまで転移しているもの。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、副腎がんは手術以外に有効な治療法がないため、ほかの臓器への転移がない副腎がんは手術による切除が第一です。

手術で完全に切除できた場合は、予後の改善が期待できます。状況によっては、腎臓や周囲の臓器を一緒に切除することもあります。なお、手術の後に、副腎皮質ホルモンの生合成を阻害する作用と皮質細胞に対し細胞毒性を有するミトタンという薬剤による薬物療法を追加することがあります。

副腎がんが進行している場合、手術自体に難渋することや大量の輸血が必要になることがあります。また、切除を途中で断念せざるを得ない場合があります。アドレナリンやノルアドレナリンを産生する悪性褐色細胞腫では、手術中あるいは手術後に、血圧や脈拍に大きな乱れを生じたり、ショック状態になることがあります。

副腎がんに対する基本的姿勢は手術が第一ですが、ほかの臓器への転移を認めたり、全身状態が不良で手術が不可能な場合、ミトタンによる薬物療法が考慮されます。ミトタンの使用により80パーセント以上のケースで、食欲不振、吐き気を始めとするとする消化器症状や肝機能障害などの副作用が起こります。また、ミトタンは正常な側の副腎にも抑制的に作用するために、副腎皮質ホルモンの補充がしばしば必要になります。

副腎がんは、ステージⅠやⅡの早期に発見されることは多くはなく、腫瘍が大きくなるスピードが速いため、予後は極めて不良です。

2022/08/16

🇱🇰副腎偶発腫瘍

副腎疾患の検査以外の目的で行った検査において、偶然、認められる副腎の腫瘍

副腎偶発腫瘍(ふくじんぐうはつしゅよう)とは、健康診断や副腎以外の疾患の検査中に偶然、副腎に認められる大きさ1センチ以上で、症状が現れていない、はれ物。無症候性副腎腫瘍とも呼ばれます。

副腎は、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器。副腎の内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。

機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、グルココルチコイドが多く作られるクッシング症候群、アドレナリンやノルアドレナリンが多く作られる褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

原発性アルドステロン症などのような副腎疾患に特徴的な症状を示さず、あるいは自覚症状を示さずに、CT(コンピュータ断層撮影)検査や超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見される副腎偶発腫瘍は、副腎腫瘍の中で最も多いものです。一般に、50歳以上の人では、3パーセント以上の人に副腎偶発腫瘍が認めるとされ、人体中で最もよく見付かる腫瘍の一つでもあります。

症状は、副腎腫瘍からのホルモン分泌の過剰の有無によってさまざまで、多くは無症状です。副腎偶発腫瘍の約半数は、非機能性腫瘍かつ良性腫瘍の皮質腺腫とされており、体に異常がなければ、様子を見るだけで治療の必要はありません。

一方、副腎偶発腫瘍の中には、プレ(サブ)クリニカルクッシング症候群(グルココルチコイド産生腺腫)と無症候性の褐色細胞腫がおのおの5~10パーセントの頻度で発見され、原発性アルドステロン症(アルドステロン産生腺腫)が5パーセント程度、原発性副腎がんが1〜2パーセント含まれるとされています。

そのほか、転移性副腎がん、骨髄脂肪腫、嚢腫、神経節神経腫、囊胞などが含まれます。

手術による副腎偶発腫瘍の摘出が必要か否かは、ホルモン分泌の過剰の有無と、悪性腫瘍(原発性副腎がんや転移性副腎がん)の可能性の2点により判断されます。

副腎偶発腫瘍の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、悪性腫瘍の可能性は腫瘍の大きさが3センチ以上であることや、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査で悪性を疑わせる所見の有無で判断します。

ホルモン分泌の過剰の有無については、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫の3つの疾患について検査を行います。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、検査の結果、ホルモンを過剰に分泌している所見がなく、腫瘍の大きさが3センチ未満であれば、その時点では手術を行わずに経過を観察します。そして、半年から1年ごとにホルモン検査と画像検査を行います。

一方、腫瘍の大きさが3センチ以上、またはホルモンを過剰に分泌している所見がある場合は、手術による腫瘍摘出について総合的に判断します。

🇱🇰副腎クリーゼ

副腎の機能が急に低下した場合に発症し、ショック状態から死に至る恐れもある疾患

副腎(ふくじん)クリーゼとは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の急な機能不全により、副腎皮質ホルモンの分泌に異常を来す疾患。急性副腎不全、アジソンクリーゼとも呼ばれます。

クリーゼとは、内分泌系の異常によって危険な状態に陥っていることを指すドイツ語で、英語のクライシスに相当します。副腎クリーゼは、副腎皮質ホルモンの分泌異常により、糖代謝や水分代謝などが滞るようになるのが特徴です。酸や塩基などの電解質のバランスも崩れるため、精神面に影響が出ることもあります。

副腎クリーゼを発症した際の症状として、全身が疲れやすくだるさを感じる易疲労感、全身に力が入らないように感じる脱力感、食欲の不振などの症状が現れます。

進行すると、徐々に症状が重くなり、38度以上の高熱 、吐き気とそれに伴う嘔吐(おうと)、下痢、腹痛などが現れます。

これらの症状が続くと、極端な脱水症状や血圧の低下が起こり、さらに症状が重篤化すると、意識障害や呼吸困難を引き起こして、ショック状態に陥り、治療が遅れると死亡に至る危険性もあります。

いずれの症状も副腎疾患に特徴的な症状ではなく、腹部の疾患と間違われることがあります。

副腎クリーゼを引き起こす原因としては、副腎の機能が急に低下し副腎皮質ホルモンが極端に減ってしまうことが挙げられます。この状態に至る理由には、副腎が細菌に感染したり、副腎皮質ホルモンの分泌を調節する下垂体(脳下垂体)が何らかの原因によって異常を来したり、血管が何らかの原因によって閉塞(へいそく)ないし出血したなどが考えられます。

また、慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)を発症した患者にも副腎クリーゼを発症するリスクがあり、これは手術時や発熱、けがなどを起こした際の身体的ストレスに対して、副腎皮質ホルモンの分泌が相対的に不足している時に起こるのではないかと考えられています。

さらに、副腎皮質ステロイド薬を長い間服用していた患者が急に服用を中断したり、減量した場合にも、副腎クリーゼを発症する可能性があります。これは長期間の副腎皮質ステロイド薬の服用により、本来正常に働くべき副腎が委縮してしまい、自ら副腎皮質ホルモンをつくれなくなってしまうために、発症します。

予防する方法は、現段階では特にありません。この副腎クリーゼは急激に進行してゆくことで知られていますので、すでに慢性副腎皮質機能低下症と診断されていたり、長い間副腎皮質ステロイド薬を服用していて最近中断した患者が、疲労感や脱力感など特徴的な兆候を体に覚えた場合には、速やかに内科、内分泌代謝内科、循環器内科などを受診することが重要です。早期に適切な処置を受けることができれば、比較的短い期間で軽快に向かいます。

副腎クリーゼの検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、さまざまな血液検査、尿検査に加え、ホルモンの検査、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。

ホルモンの検査は、血液中の副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、尿中に排出される副腎皮質ホルモンなどを測定するほか、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を投与した後の副腎や下垂体の反応により、副腎の機能を評価します。

そのほか、副腎を損なう原因を調べるため、結核など感染症に対する検査、がんの検査、自己免疫疾患の検査などを行うこともあります。

血液検査では、血液中のナトリウム濃度の低下とカリウム濃度の上昇がしばしば認められます。ホルモンの検査では、多くの場合、血液中の副腎皮質ホルモンの一つであるグルココルチコイド(糖質コルチコイド)の低下が認められます。また、副腎に原因がある場合は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が増え、垂体に原因がある場合はこれが減っています。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による治療では、急速に悪化する疾患なので、副腎クリーゼが疑われた場合は、測定に時間がかかるホルモンの検査結果を待たずに、直ちに塩分とブドウ糖を含む補液と副腎皮質ホルモン薬の点滴投与を行います。

素早く治療すれば、患者は普段の生活に戻れることがよくあり、一貫した薬物療法で副腎は十分機能できるようになります。

🇲🇭副腎腫瘍

左右の腎臓の上に位置する小さな臓器である副腎の一部が、はれた状態

副腎腫瘍(ふくじんしゅよう)とは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の一部が、2センチから3センチ程度、はれた状態。

副腎は皮質と髄質からできており、副腎皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。

機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、クッシング症候群、褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

原発性アルドステロン症は副腎皮質から分泌されるアルドステロンの過剰分泌によって起こる疾患

原発性アルドステロン症は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、アルドステロン(鉱質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。報告者の名前にちなんで、コン症候群とも呼ばれます。

副腎皮質の片側の腫瘍、または両側の副腎皮質の肥大増殖が原因となって、起こります。腫瘍の場合は、ここからアルドステロンが多量に分泌されますが、肥大増殖の場合は副腎全体からアルドステロンが出てきます。

アルドステロンは腎臓に作用し、体の中にナトリウムと水分を蓄えるために高血圧になります。また、尿の中にカリウムを排出する作用を持つため、アルドステロンが過剰になると血液中のカリウムが減って、低カリウム血症となり、筋力の低下による四肢の脱力や、疲れやすいなどの症状が引き起こされます。

そのほか、低カリウム血症により尿量が多くなり、口の渇きがみられたり、発作的に数時間の間、手足が動かなくなる周期性四肢まひが起こったり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることもあります。

高血圧に低カリウム血症を合併していたら、この原発性アルドステロン症が疑われます。治療しないでほうっておくと、高血圧が長く続くために体のいろいろな臓器に障害が起こってきますので、内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの専門医を受診することが勧められます。

クッシング症候群は副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドの過剰分泌によって起こる疾患

クッシング症候群は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによって、初めて報告されました。

下垂体(脳下垂体)に腫瘍ができ、そこから副腎皮質刺激ホルモンがたくさん出るために起こる場合と、副腎皮質に腫瘍ができて起こる場合が主なものです。前者はクッシング病とも呼ばれます。

クッシング症候群の原因としては、クッシング病が約35パーセント、副腎腫瘍が約50パーセントを占めるほか、時には、肺や膵(すい)臓、消化管にできた腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが多量に分泌され、副腎に働いてグルココルチコイドが過剰に分泌される場合もあります。女性に多くみられます。

近年、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)がネフローゼや白血病などの治療に、大量に用いられるようになったために人工的な副腎皮質ホルモン過剰が起こり、同じ症状を起こすことがあります。

クッシング症候群の症状としては、顔が丸くなり、にきびができやすくなります。肥満してきますが、手足はあまり太くならず、胴体が太いのが特徴です。また。肩や尻(しり)、太ももの筋肉が薄くなり、階段の上りなどがつらくなります。

そして、腹や太ももなどに皮膚伸展線である赤紫色のすじがみられ、皮膚が薄くなって、ちょっとしたことで青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病が起こることもあります。骨が薄くなって背骨の圧迫骨折を起こし、身長が低くなったり、背部痛が起こることもあります。

女性では、月経が不順になったり、無月経になったり、毛深くなります。

褐色細胞腫は副腎髄質の腫瘍によりアドレナリンなどが大量に分泌されて高血圧を起こす疾患

褐色細胞腫は、副腎の髄質にできた腫瘍によって、自律神経に働くアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患。若い人が、ひどい高血圧を起こすのは、この疾患が原因のことがあります。

腫瘍は主として副腎髄質の細胞から発生しますが、時には、ほかの交感神経系のクロム親和性細胞からも発生します。脊髄(せきずい)に沿ったクロム親和性細胞は、重クロム酸カリウムを含む液で固定すると、褐色に染まる細胞をいいます。

腫瘍の大部分は良性で、時に悪性の場合もあります。多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生しますが、遺伝的に褐色細胞腫になりやすい家系もあります。

褐色細胞腫の症状としては、高血圧と糖尿病が起こります。高血圧は、発作的に起こる場合と持続的に血圧が高い場合とがあります。

発作的に起こる場合は、急に不安感、緊張感が起こり、強い動悸(どうき)やズキンズキンとした頭痛を感じ、脈が速くなり、手足が震え、瞳(ひとみ)が大きくなります。手足が冷たくなり、時には耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。

また、しばしば尿糖が出ます。発作は数分から1〜2時間、時には数日続くこともあります。まれに、心不全や出血の危険性が高まることもあります。

このようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もあります。

発作的な血圧上昇、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの専門医を受診することが勧められます。

副腎腫瘍の検査と診断と治療

原発性アルドステロン症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、アルドステロンの過剰分泌を確かめるため、血液中、尿中のホルモンを測定します。アルドステロンは腎臓から分泌されるレニンというホルモンによって調節されていますが、原発性アルドステロン症のように、副腎から勝手にアルドステロンが出てくると、レニンはその働きを控えます。そこで、診断のためには血漿(けっしょう)レニン活性が抑制されていることを確認します。

腫瘍か肥大増殖か、また、左右どちらの副腎に腫瘍があるのかなどを判断するため、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、あるいは副腎シンチグラフィーを行います。腫瘍はしばしば小さく、また多発性のこともあり、これらの検査で診断できない場合があります。その場合は副腎の近くの血管にカテーテルを挿入して、そこから採血する副腎静脈血サンプリングという検査を行うこともあります。

腫瘍による場合、その腫瘍を手術で摘出します。何らかの理由で摘出手術ができない場合や、肥大増殖の場合は内服薬で治療を行います。アルドステロンの産生を制限する目的でトリロスタン(デソパン)、アルドステロンの作用を阻害する目的でスピロノラクトン(アルダクトン)などが用いられます。

原発性アルドステロン症が治れば、血圧は徐々に低下します。しかし、疾患の期間が長く高血圧が長く続いた場合は、血圧が下がりにくいこともあります。

クッシング症候群の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、副腎からグルココルチコイドが過剰に分泌されていることを確認するために、血液検査や尿検査を行います。

下垂体の腫瘍や肺、膵臓などの腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが出て起こっている場合は、副腎皮質刺激ホルモンが増えています。一方、副腎の腫瘍からグルココルチコイドが出ている場合は、副腎皮質刺激ホルモンはかえって減っています。このどちらであるかを調べて、どこに原因があるかを明らかにします。

下垂体の腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。副腎の腫瘍の場合は、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査などを行います。

医師による治療としては、腫瘍の場合は下垂体でも副腎でも、手術を行って過剰なホルモンを作っている腫瘍を摘出することが最もよい方法です。

下垂体の腫瘍の場合は、経蝶形骨洞的手術という、鼻の穴から下垂体に達し頭を開けずに、顕微鏡や内視鏡で見ながら腫瘍を摘出する方法によって、以前に比べ楽に手術できるようになっています。手術で摘出し切れない場合や、体力的に手術が困難な人の場合は、注射や内服薬による治療、放射線療法などが行われます。

副腎の腫瘍の場合は、大きくなくて適応できれば、開腹せずに腹部に小さい穴を3カ所くらい開けて内視鏡と手術の道具を通し、副腎を摘出する内視鏡手術が数多く行われています。内視鏡手術の適応ができない時は、開腹や背中を開けて副腎を摘出します。体力的に手術が困難な場合などは、グルココルチコイドを作る副腎の働きを抑える薬を内服します。

褐色細胞腫の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、血液および尿の中のアドレナリン、ノルアドレナリンを測定すると増加しているのがわかります。腫瘍を探すために、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、血管造影などの画像診断を行います。家族歴などから、遺伝的要因が関係した褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。

治療は、手術によって腫瘍を取り除くことです。高血圧によって、体のいろいろな器官が悪くならないうちに手術をすれば、完全に治ります。手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(α〔アルファ〕受容体遮断薬)を使用します。

🇲🇭副腎性器症候群

男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患

副腎(ふくじん)性器症候群とは、副腎皮質から男性ホルモンが過剰に分泌するために、男性化症状を起こしてくる疾患。

副腎皮質からは、コルチゾール(糖質ホルモン)とアルドステロン(鉱質ホルモン)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンもわずかに分泌されています。副腎性器症候群では、副腎皮質の働きの異常により、コルチゾールやアルドステロンの分泌が低下し、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

この副腎性器症候群には、先天性のものと後天性のものとがあります。先天性のものは、コルチゾールの合成に必要な酵素が生まれ付き欠けているために、下垂体(脳下垂体)から副腎皮質刺激ホルモンが多量に出るようになり、副腎が過形成を起こします。その結果、アンドロゲンが過剰に分泌されるようになります。これを先天性副腎過形成症といいます。

コルチゾールの合成にかかわる酵素は数種類あり、欠ける酵素の種類により疾患のタイプが分かれ、症状も少しずつ違っています。いずれも常染色体劣性遺伝による異常です。日本では、21ー水酸化酵素の欠損が最も多く認められます。

後天性のものは、副腎皮質の腺腫(せんしゅ)やがんなどが原因で起こるもので、副腎皮質の機能が低下して、アンドロゲンが過剰に分泌されます。

男女にかかわりなく、副腎性器症候群は発生します。女児では、陰核の肥大や陰唇の癒合がみられ、性器はどちらかというと女性よりも男性的な外見になり、男児と間違えられることが多いものです。子宮、卵巣、卵管などの生殖器官の構造は、正常です。

成長するに従って男性化が顕著になり、成人の女性では、ひげが生え、手足の毛が濃くなり、陰核が大きくなり、声変わりや月経不順、不妊、乳房の委縮が起こります。

男児では、出生時には特に異常はみられませんが、幼少時から陰茎が発育し、陰毛が生えて声が太くなります。男女児とも、早い時期に発育が停止します。

また、副腎性器症候群の中でも重症のタイプでは、新生児期から副腎不全が発生します。嘔吐(おうと)、脱水、酸・塩基などの電解質の異常、不整脈などの症状が現れ、適切な治療をしないと生後数日で死亡します。

なお、家系に副腎性器症候群の遺伝がある人や、副腎性器症候群の子供を持つ人には、内科、ないし小児科で遺伝相談を受けることが勧められます。

副腎性器症候群の検査と診断と治療

現在日本では、21ー水酸化酵素欠損症を見付けるため、新生児スクリーニング検査を行っています。尿中の副腎皮質ホルモンと、その代謝物質を測定することで、どの酵素が欠けたのか推定することができます。症状の軽い不完全型の副腎性器症候群の場合は、副腎皮質刺激ホルモンの負荷後にこれらを調べることで、ようやく診断できることもあります。

内科、ないし小児科の医師による先天性の副腎性器症候群の治療の目的は、分泌が低下したコルチゾールやアルドステロンを補い、アンドロゲンの値を正常に戻すことです。下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンが出すぎないように、副腎皮質ステロイド剤の一種であるコルチゾンを投与します。

女児で陰核の大きいものや、陰唇の閉鎖がみられるものは、1~3歳の間に形成手術を行って、形状の異常を矯正します。成人のがん性のものは、早期に副腎摘除の手術をしたり、コルチゾンの投与を行います。

子供が副腎性器症候群を持つ両親は、副腎皮質ステロイド剤の飲み方と副作用について説明を受けて下さい。けがや発熱で強いストレスを受けた時は医師に報告し、薬の量を増やしてもらいます。副腎皮質ステロイド剤の服用を突然やめると、急性副腎不全を起こしますので、注意が必要となります。

🇹🇻副腎皮質機能高進症

副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドの過剰分泌によって、引き起こされる疾患

副腎(ふくじん)皮質機能高進症とは、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。クッシング症候群とも呼ばれます。

アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによって、初めて報告されました。

下垂体(脳下垂体)に腫瘍(しゅよう)ができ、そこから副腎皮質刺激ホルモンがたくさん出るために起こる場合と、副腎皮質に腫瘍(しゅよう)ができて起こる場合が主なものです。前者は下垂体依存性副腎皮質機能高進症、ないしクッシング病と呼ばれ、後者は副腎性副腎皮質機能高進症と呼ばれます。

副腎皮質機能高進症の原因としては、下垂体依存性副腎皮質機能高進症が約35パーセント、副腎性副腎皮質機能高進症が約50パーセントを占めるほか、時には、肺や膵(すい)臓、消化管にできた腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが多量に分泌され、副腎に働いてグルココルチコイドが過剰に分泌される場合もあります。女性に多くみられます。

近年、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)がネフローゼや白血病などの治療に、大量に用いられるようになったために人工的な副腎皮質ホルモン過剰が起こり、同じ症状を起こすことがあります。

副腎皮質機能高進症の症状としては、顔が丸くなり、にきびができやすくなります。肥満を起こしてきますが、手足はあまり太くならず、胴体が太いのが特徴です。また。肩や尻(しり)、太ももの筋肉が薄くなり、階段の上りなどがつらくなります。

そして、腹や太ももなどに皮膚伸展線である赤紫色のすじがみられ、皮膚が薄くなって、ちょっとしたことで青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病が起こることもあります。骨が薄くなって背骨の圧迫骨折を起こし、身長が低くなったり、背部痛が起こることもあります。

女性では、月経が不順になったり、無月経になったり、毛深くなります。

副腎皮質機能高進症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による診断では、副腎からグルココルチコイド(糖質コルチコイド)が過剰に分泌されていることを確認するために、血液検査や尿検査を行います。

下垂体の腫瘍や肺、膵臓などの腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが出て起こっている場合は、副腎皮質刺激ホルモンが増えています。一方、副腎の腫瘍からグルココルチコイドが出ている場合は、副腎皮質刺激ホルモンはかえって減っています。このどちらであるかを調べて、どこに原因があるかを明らかにします。

下垂体の腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。副腎の腫瘍の場合は、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査などを行います。

医師による治療としては、腫瘍の場合は下垂体でも副腎でも、手術を行って過剰なホルモンを作っている腫瘍を摘出することが最もよい方法です。

下垂体の腫瘍の場合は、経蝶形骨洞(けいちょうけいこつどう)手術という、鼻の穴から下垂体に達し頭を開けずに、顕微鏡や内視鏡で見ながら腫瘍を摘出する方法によって、以前に比べ楽に手術できるようになっています。手術で摘出し切れない場合や、体力的に手術が困難な人の場合は、注射や内服薬による治療、放射線療法などが行われます。

副腎の腫瘍の場合は、大きくなくて適応できれば、開腹せずに腹部に小さい穴を3カ所くらい開けて内視鏡と手術の道具を通し、副腎を摘出する内視鏡手術が数多く行われています。内視鏡手術の適応ができない時は、開腹や背中を開けて副腎を摘出します。体力的に手術が困難な場合などは、グルココルチコイドを作る副腎の働きを抑える薬を内服します。

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