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2022/08/18

🇬🇪肺過誤腫

肺にできる良性腫瘍の一つ

肺過誤腫(はいかごしゅ)とは、肺にできる良性腫瘍(しゅよう)の一つ。

肺にできる良性腫瘍にはさまざまな種類がありますが、過誤腫は最も頻度が高く、約半数を占めます。そのほかの良性腫瘍には、硬化性血管腫、軟骨腫、脂肪腫、平滑筋腫などがあります。

肺過誤腫は、肺の末梢(まっしょう)部、胸膜直下にできることが多く、円形、ないし類円形で、境界鮮明の孤発性の結節を形成します。正常時から存在する軟骨組織、気道上皮、気管支腺(せん)、線維組織、脂肪組織が腫瘍様に過剰に発育または過剰に増殖したもので、その発育は限局性で良性です。ただし、構造的には組織奇形と形容できます。腫瘍の内部は不均等なことが多く、石灰沈着がみられることがあります。

肺過誤腫は急速に広がることが少ないため、一般的に無症状で、大きくなる速度も遅く、悪性化することはほとんどなく、ほかの臓器に転移することはありません。

しかし、ゆっくりではあっても発生部位で次第に大きくなることがあります。肺過誤腫ができた部位によっては、せき、たんの原因になったり、空気の通る道である気管支を圧迫して、肺炎などを起こすことがあります。

症状が出現することはまれなため、多くの場合、住民検診や職場検診、ほかの疾患の検査中に胸部X線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査で偶然発見されています。

肺過誤腫の検査と診断と治療

呼吸器科、呼吸器外科の医師による診断では、胸部X線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査で認められ、末梢部に発生した腫瘍は境界明瞭な円形、ないし類円形の陰影を示します。

その検査画像上の特徴だけでは、肺がん、結核腫などの重大な疾患と見分けがつかない場合もよくあります。気管支にできた腫瘍は、気管支鏡と呼ばれる内視鏡で腫瘍細胞の一部を採取して、顕微鏡で調べる生検を行い、悪性か良性かを判断します。

肺の奥のほうにできた腫瘍は、気管支鏡検査のほかに、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査なども行って、腫瘍の形や中身を評価します。近年、PET(陽電子放射断層撮影)検査が普及し、1センチ以上の大きさの腫瘍であれば、ある程度、悪性と良性の見分けが可能になってきています。

しかし、生検などによる診断は困難なことも多く、手術による腫瘍の摘出によって診断と治療jを同時に行い、確定診断は手術後に判明することも珍しくありません。

呼吸器科、呼吸器外科の医師による治療では、放射線治療や薬物療法は効果がないとされているため、原則的に手術を行います。

ただし、手術をするのは、増大したり、周囲を圧迫するために呼吸機能が低下したり、特定の部位に肺炎が繰り返し生じる場合などです。また、悪性腫瘍(がん)と区別できない場合には、手術により診断と治療を同時に行うことがあります。

手術後は、手術時の傷が神経を刺激して胸痛が続くことがありますが、再発することはほとんどありません。

明らかに良性腫瘍であるとわかっている場合で、合併症や高齢などの理由で手術ができない場合には、内視鏡の届く部位にできた気管支の腫瘍を内視鏡で取り除くこともあります。

良性腫瘍であることが明白で、増大傾向がなく、しかも無症状の場合には、経過を観察し、定期的に検査をするだけで十分です。

🇸🇰肺カルチノイド

カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が肺に発生した疾患

肺カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が肺に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。小腸、直腸、虫垂、十二指腸、胃などの消化管のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

肺カルチノイドの場合は、肺の中枢の主気管支に発生するものと、末梢(まっしょう)の肺に発生するものがあります。その頻度は、6割は主気管支に発生し、4割弱は末梢に発生します。しかし、肺カルチノイドは比較的まれな疾患で、肺の悪性腫瘍の約1パーセントを占めるにすぎません。

肺カルチノイドの発症年齢は、40歳代から60歳代とされています。

主気管支に発生した肺カルチノイドの初期症状は、肺がんと同様です。咳(せき)や血痰(けったん)などが見られますし、カルチノイドの増大に伴い、気道の狭窄(きょうさく)によるヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)などが認められます。

一方、末梢の肺に発生した肺カルチノイドは、ほとんど症状が現れず、健康診断やほかの病気で撮影した胸部レントゲンやCT検査などで、偶然発見されるケースが多いのが現状です。

なお、肺カルチノイドは肺がんと比べて、転移が少ない腫瘍とされていますが、非定型のタイプはリンパ節、肝臓などに転移します。

咳や喘鳴はほかの呼吸器疾患でも見られるものですが、血痰は腫瘍からの出血に伴う比較的特異的なものです。もし、血痰が見られる場合には、ほかの疾患の可能性もありますので一度、呼吸器科や内科を受診されることが勧められます。

ただし、主気管支に発生した肺カルチノイドは喘鳴を起こすため、気管支喘息と間違う診断で治療が遅れてしまう可能性があるので注意が必要です。

肺カルチノイドの検査と診断と治療

呼吸器科、内科の医師による治療では、肺がんと同様、手術、化学療法、放射線治療、抗がん剤治療を組み合わせて行います。

悪性腫瘍ですので手術がメインとなるものの、低悪性度ということも考慮し、転移が見られない症例では、肺の一部を解剖学的領域単位で切除する区域切除など縮小手術が行われるようになってきています。

転移や浸潤が激しく手術が困難な場合には、化学療法や放射線療法がメインとなるものの、特に非定型カルチノイドについては、1年ほどの間に急速に症状が変化することもあり、治療の成績はまだまだ満足いくものではありません。肺カルチノイドの症例数が多くないこともあり、治療法にはさらなる研究の余地が残されている状態です。

🇸🇰肺がん

国内外で最も死亡者数が多い、がん

肺がんとは、肺の粘膜を覆っている上皮性組織から発生する悪性腫瘍(しゅよう)です。悪性腫瘍、つまりがんとは、無限に増殖、増大して体のあちこちに転移し、正常な細胞やその働きを破壊して、人間を死に至らしめる腫瘍のことです。

日本では、肺がんが年々増えています。死亡者数をみますと、1960年の5171人から1998年の50460人へと、約40年の間に10倍に増加し、男女合わせた死亡者数が胃がんを抜いて第1位となりました。男性では逆上る1993年に、胃がんを抜いて第1位となっています。

2005年の統計では、肺がんによる男女合わせた死亡者数は62063人で、全がん死の19パーセントを占めます。男性では全がん死の中で最も多い45189人、女性では大腸がん(結腸がん及び直腸がん)、胃がんに次いで3番目を占める16874人。

同じ2005年のWHO(世界保健機関)の試算によると、世界中では年間130万人ほどが肺がんで死亡し、全がん死の17パーセントを占めて最多。

肺がんの発生原因は不明ですが、近年の急激な増加の背景として考えられているのは、環境の汚染と喫煙です。大量喫煙者に肺がんが多いことは間違いのない事実で、間接的な喫煙も原因になるといわれています。

肺門がんと肺野がん

症状は発生部位により分けられる肺門(型)がんと、肺野(型)がんで異なりますが、主に咳(せき)、血痰(けったん)、胸痛などがみられます。

肺門がんは、肺の入り口付近の太い気管支にできたがんで、病理学的には扁平(へんぺい)上皮がんです。この場合、早期から頑固な咳が出るのが特徴で、痰を伴うこともあります。

咳止めで一時的に軽くなることはあっても、完全に止まることはなく、中止すると再びひどくなります。痰は粘液性か粘液膿(のう)性で粘りがあり、血液が混じったり、熱を伴う肺炎のような症状を示すこともあります。

肺野がんは、肺の末梢(まっしょう)の細い気管支に発生したがんで、病理学的には腺(せん)がんです。早期には全く症状のないことが多く、肺門リンパ節にがん細胞が転移してから、激しい咳や血痰が出るようになり、声がかすれることもあります。

発見が早ければ、手術で切除

医師による診断では、胸部X腺検査で肺がんと判断された場合、ファイバースコープによる気管支内視鏡検査と、痰の細胞診の二つによる確定診断が行われます。その後、肺がんの病巣の広がりを把握するために、CT検査、骨シンチグラフィ、超音波検査、血管造影、MRI検査などが行われます。

治療では、手術療法(肺切除療法)、放射線療法、化学療法、免疫療法の4つが行われます。第一選択は今でも手術療法で、がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、隣接する臓器への浸潤の程度、その人の肺機能の程度によって、手術法が異なります。

最も一般的に行われるのは、肺葉切除。右肺には上葉、中葉、下葉の3葉、左肺には上葉、下葉の2葉ありますが、そのうちの病巣のある肺葉を1葉、ないし2葉切除します。がんが広範囲に渡っている時や、太い血管に浸潤がみられる時などに行われるのは、片側の肺葉をすべて摘出する肺全摘出術。この肺全摘出術は、肺機能が良好でないとできません。特殊な手術法として、がんの存在する気管支の一部を切除する方法もあり、肺機能が落ちている場合に行われます。

近年では、胸腔(きょうくう)鏡が開発され、体の負担、苦痛が軽い縮小手術を行う方向に進んでいます。従来のように大きく胸を切り開くのではなく、2~3センチくらいの穴を胸壁に2~3カ所開け、そこから器具を挿入して行う手術法で、全国的に行われています。

ほかにも、気管支鏡を使用して、二つのタイプのレーザー療法が行われています。一つは、太い気管支に発生したがんで気管支が詰まっているような場合に、レーザー照射で焼く方法。もう一つは、光線力学的治療(PDT)とも呼ばれて、レーザー照射による光化学反応によって、がん細胞を破壊する方法。早期の肺門がんでは、レーザーによる治療のみで完治できることもあります。

肺がんが進行し、がんの浸潤が広範囲に渡っている場合や、ほかの臓器に転移している場合には、局所的には放射線療法、全身的には抗がん薬による化学療法、免疫療法が行われます。

新しい抗がん薬の開発、さらに副作用を軽減させる薬の開発により、抗がん薬による治療効果は向上しています。また、イレッサなど分子標的治療薬も開発され、従来の化学療法では効果がなかった人にも、福音となりつつあります。

🇸🇰肺カンジダ症

カンジダ菌の感染によって肺炎を起こす疾患

肺カンジダ症とは、真菌(かび)の一種のカンジダ菌の感染によって肺炎を起こす疾患。真菌類が感染して起こる肺真菌症の一つに数えられます。

カンジダ菌は本来、人間の口腔(こうくう)、消化管、陰部などに常在し、普通は害を及ぼしません。これが全身や気道、肺の抵抗力の低下、抗がん剤や副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の長期服用などを切っ掛けに増殖し、感染症を引き起こします。特に、カンジダ・アルビカンスが圧倒的に多い原因菌となり、カンジダ・トロピカーリス、カンジダ・パラプシローシスなどが原因菌となることもあります。

せきやたん、血たん、発熱、胸の痛みなどがみられますが、これらの症状が現れないこともあります。

重症の時は、大量の喀血(かっけつ)や呼吸困難になることもあります。

肺カンジダ症の検査と診断と治療

胸部X線検査やCT検査が行われます。また、たんなどから原因となるカンジダ菌の種類を調べます。血液検査で、カンジダ菌に対する抗体があるかを調べることもあります。

治療としては、原因となっている薬剤がある場合は中止し、同時にフルコナゾール(ジフルカン)、イトラコナゾールフルシトシン、アムホテリシンB(ファンギゾン)などの抗真菌剤を用います。また、薬でカンジダ菌の活動を抑えた後、外科的に切除することもあります。

普通の肺炎よりも治りにくく、治療にも時間がかかります。治療中は安静にして、栄養を十分に摂取することが大切です。免疫機能が衰えている場合は、改善されなければ肺カンジダ症は再発してしまうことになります。

🇨🇿肺気腫

肺胞が破壊されて、呼吸困難を生じる疾患

肺気腫(はいきしゅ)とは、肺の組織が破壊されて機能低下を起こし、呼吸困難を生じる疾患。慢性気管支炎と合わせて慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)と呼ばれ、気道閉塞がみられる疾患群の一つとして、今後の増加が予想されます。

肺気腫についてはまだまだわからないことが多いのですが、肺の中の気管支の末端にあって、酸素と炭酸ガスの交換作用を行っている肺胞という組織が何らかの障害を受け、壊れやすい状態になるのが、疾患の基本的な原因だと考えられています。

約3億個ともいわれる肺胞を壊す主な原因は、たばこの煙や大気中に含まれる汚染物質。肺胞は1日に約1万リットルの空気の出し入れをしており、さまざまな刺激によって生じる炎症から肺胞が壊されないように、炎症細胞が出す酵素(エラスターゼなど)に対する防御物質(アンチエラスターゼなど)を持っています。しかし、長年の汚染物質の刺激によって、絶えずエラスターゼが出され続けることにより、防御物質では防ぐことができず少しずつ肺胞が壊されます。

本来、肺胞は一つ一つが弾力性に富み、息を吸う時に膨らみ、吐く時に縮みます。壊れて弾力性が著しく低下したり、全く失われた肺胞が増加していくと、その分だけ肺機能が低下し、取り込める空気の量が低下します。とりわけ肺の収縮が行われにくくなるため、空気を吸い込めても、吐き出すことがうまくいかなくなります。 徐々に進行し、肺胞が破壊を繰り返すと、ブラという袋を形成してしまいます。そして、肺の血管が細くなったり、肺全体が膨張し、呼吸筋である横隔膜を押し下げたり、心臓を圧迫したりします。

呼吸細気管支を中心に肺胞壁が壊れる場合と、肺胞壁全体が壊れる場合があり、喫煙による肺気腫のほとんどは前者です。

一般に、40歳代以降で長く喫煙を続けてきた人にみられ、発症者の8割以上が喫煙者であることが報告されています。男性に圧倒的に多くみられますが、女性より男性のほうが多く喫煙をするからだろうと考えられています。同じくらいの本数のたばこを同じ期間吸い続けた場合には、男性よりも女性のほうが発症しやすいというデータもあります。

ごくまれに、α1ートリプシンという酵素が先天的に欠損している場合に、環境因子が加わって、肺気腫を発症することもわかっています。その他に、家族集積性があることなどから、遺伝的要素も推定されています。

自覚症状としては、体動時の息切れ、息苦しさが主です。息切れは、季節変動や日内変動がそれほど著しくなく、体を動かした時に強くなり、休むと改善します。息苦しさは、膨らんだ肺が横隔膜や心臓を圧迫すると感じやすくなり、胸部が前にせり出して樽(たる)状になります。疾患の進行とともに、息切れは徐々に悪くなり、自分のペースで平地を歩いていても、安静にしていても呼吸困難を生じるようになります。風邪を引いたり、こじらせて気管支炎や肺炎を併発すると、息を吐き出す力がうんと弱まるため、息切れは一段と強くなります。

また、肺の病気に多く見られる症状である、せき、たんも多くなります。せきは、肺気腫に感染症を伴ったり、肺動脈圧が高くなり右心室の肥大拡張が生じる肺性心になった時など、症状が著しく悪くなる急性増悪の時に多く認められます。たんは、慢性の気道炎症により過剰になった気道分泌物によるもので、やはり、急性増悪の時に多く認められます。

肺気腫の検査と診断と治療

肺気腫の確定診断は、肺の組織を採取して顕微鏡で観察し、初めて決定されます。肺線維化の所見を認めず、呼吸細気管支を中心とした肺胞壁または肺胞壁全体の破壊と拡張が病理形態的に確認されることが必要です。 しかし、肺の組織を採取することは発症者の苦痛を伴いますので、通常は胸部レントゲン写真とCT写真、呼吸機能、血液検査などから総合的に判断します。

肺気腫の治療では、壊れた肺胞組織を再生させる方法がないため、現状維持と症状の改善を目的とした治療が行われます。発症時に、たばこを直ちに中止しても、疾患の進行をなくすことはできません。しかし、そのまま吸い続けると、肺気腫の急激な進行も予想され、まず禁煙することが最重要です。 周りの人の吸っているたばこの煙である副流煙も、自分で吸うのと同じように悪いことがわかっていますので、喫煙者の多くいる環境は避けたほうがよいでしょう。

肺気腫の根治治療となるのは、外科手術による肺の移植です。といっても、臓器手術は提供者との移植適合性を考えて行わなければならないため、あまり現実的な方法であるとはいえません。現在、肺気腫の新しい治療法として注目されているのが、肺減量療法と呼ばれる外科手術です。この治療法は、肺胞が壊れた患部を切除して肺の大きさを縮め、肺機能を正常化するというもの。肺減量療法には、両肺の手術を一度に行うことができる胸骨正中切開法と、切開する個所が小さく発症者の負担を抑えられる胸腔(きょうくう)鏡法があります。

肺気腫の内科治療は、根治治療が望めるものではなく、症状の進行を遅れさせることを目的としたものです。薬剤の投与を行い、肺機能を維持することを目的とします。

肺気腫の初期で、階段の昇降や坂道での息切れや、息苦しさを自覚したての時には、肺での空気の出し入れがしやすくるように、気管支拡張剤の内服や、気道のクリーニングのために、たんを出しやすくなる去痰(きょたん)剤を内服します。

一般的な気管支拡張剤には、吸入用気管支拡張剤とテオフィリン製剤があります。吸入用気管支拡張剤は、鼻から吸入することによって空気の通り道である気管支を広げる働きがあり、気管支喘息(ぜんそく)の発症者で使われる薬と同様のものです。

テオフィリン製剤は、経口薬で効果が長く持続する特徴があります。気管支拡張効果は吸入用気管支拡張剤と比べると強いものではありませんが、呼吸に使う筋肉の力を強めたり、肺の中の血管の抵抗を下げて心臓に対する負担を軽くする作用もあるため、発症者によってはとても有効です。食欲不振や吐き気などの消化器症状、頻脈、手の震え、不眠などの副作用も出やすい薬なので、注意深く使う必要があります。

また、気管支を拡張する目的で、β刺激剤や抗コリン剤という機序の異なる薬を併用することもあります。肺気腫の場合は普通、気管支喘息の場合とは違って抗コリン剤のほうが多く使われますが、両者を併用したり、β刺激剤のほうを使うこともあります。ただし、β刺激剤を使いすぎると、手の震えや脈拍が速くなるなどの副作用があります。

日常の生活については、特に神経質になることはありませんが、規則正しい生活をして、体力を落とさないことが大切です。風邪をこじらせると肺炎になりやすいので、早めの治療が必要です。肥満の人は呼吸筋の働きをよくするために、ダイエットしたほうが経過が良いようです。やせ過ぎの人は、良質の蛋白(たんぱく)質を多めに摂取するように心掛けるべきです。息切れのため、運動が面倒になりがちですが、適度の運動は必要です。専門機関で、自律訓練によるリラクゼーションや呼吸リハビリテーションを受け、呼吸法について指導を受けるのも、良い方法と考えられます。

肺気腫の急性増悪期で、気道や肺の感染症、肺性心などを合併すると、呼吸苦が増悪します。呼吸困難感が、強くなった場合には、抗生物質の点滴や、利尿剤など、原因に見合った治療が行われます。一時的に、酸素の吸入が必要になる場合もあります。

肺気腫の進行期で、着替えをしたり少し歩いただけで息切れし、安静にしていても呼吸苦が続いたり、炭酸ガスが貯留して頭痛や冷や汗、思考力の低下などが生じる場合には、在宅酸素療法が必要なこともあります。鼻チューブを介して酸素吸入をしながら、自宅で日常生活を送るものですが、現在では酸素吸入装置も便利で軽くなり、酸素吸入をしながら外出をすることも珍しくなくなりました。在宅酸素療法には保険が適用され、 全国で10万人以上の人が利用しています。

肺の疾患の治療として行われる転地療法は、肺気腫にも有効です。空気がきれいな場所で、肺気腫の原因となるものから遠ざかることで、症状の改善を図れます。ただし、気管支炎を併発している場合、気管支炎の治療を並行して行う必要があります。

🇨🇿肺吸虫症

肺吸虫の寄生によって引き起こされる寄生虫病

肺吸虫症とは、肺吸虫の幼虫が人体に入って肺やその周辺に寄生するために、引き起こされる寄生虫病。

この肺吸虫症の主な流行地域は極東で、日本、朝鮮半島、台湾、中国の山岳地帯、およびフィリピンで発生しています。また、アフリカ西部、中南米の一部にも流行地域があります。

肺吸虫は30種ほどが確認されていますが、日本ではウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種がよく知られていて、主にウエステルマン肺吸虫は淡水産のモクズガニ、宮崎肺吸虫は淡水産のサワガニを生や加熱調理不完全の状態で食べて、その幼虫が感染します。また、肺吸虫の幼虫が寄生した野生のイノシシ肉を生で食べて感染することもあります。

肺吸虫の幼虫は、人の腸壁を突き破って腹膜へ侵入し、横隔膜を経て胸膜腔(くう)へ移行、さらに肺組織へ侵入して雌雄同体の成虫となります。幼虫は、脳、肝臓、リンパ節、皮膚、脊髄(せきずい)で、成虫に発育することもあります。成虫は、体長1センチ前後のレモン型をしていて、20〜25年間生存することができます。

肺に寄生した場合の主な症状は、せきと血たん。胸の痛み、発熱、全身の倦怠(けんたい)感、胸に水がたまる自然気胸、胸膜炎、膿胸(のうきょう)などを起こすこともあります。

脳に寄生した場合には、てんかん発作や半身まひ、視覚障害など脳腫瘍(しゅよう)に似た症状を起こし、重症になります。アレルギー性皮膚反応を起こすこともあります。

肺吸虫症の検査と診断と治療

血たんが出たら、肺吸虫症の可能性と同時に結核の可能性もあるため、医療機関を受診します。

肺吸虫症は、胸部X線検査で肺の影として映り、結核や肺がんと間違われることがありますが、たんや便の中から虫卵を検出することで診断します。時には、胸水や腹水の中から虫卵を検出することもあります。また、肺吸虫症では白血球の一種の好酸球が増加することが多く、胸部X線検査で異常があり、好酸球が増えていたら肺吸虫症を疑います。肺に病変があるのに虫卵が見付からない場合や、肺以外の場所に寄生している場合には、血清検査で診断します。

治療では、プラジカンテル、ビチオノールなどの駆虫剤の内服が行われます。胸水がたまっている場合には、胸水を抜いてから治療します。アレルギー性皮膚病変、まれに脳内に形成されたシストという、休眠状態に近い多数の肺吸虫が被っている厚い膜を切除するために、手術が行われることもあります。

予防としては、モクズガニやサワガニ、イノシシ肉などを生や加熱調理不完全の状態で食べないようにします。同時に、それらを調理した包丁やまな板はよく洗うようにします。

🇨🇿敗血症

血液中に細菌が入り込み、全身症状を引き起こす

敗血症とは、肺炎や腹膜炎など生体のある部分に感染を起こしている場所から、血液中に細菌が流れ込み、重篤な全身症状を引き起こす症候群。現在のように抗菌薬が発展する前までは、致命的な病態でした。

もともとの背景として、悪性疾患、血液疾患、糖尿病、肝疾患、腎(じん)疾患、膠原(こうげん)病などがある場合、あるいは未熟児、高齢者、手術後といった状態の場合が多いとされています。抗がん薬投与や放射線治療を受けて白血球数が低下している人や、副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬を投与されて感染に対する防御能が低下している人も、敗血症を起こしやすいので注意が必要です。

血液中に細菌が流れ込む原因としては、肺炎や肺膿瘍(のうよう)などの呼吸器感染症や腹膜炎のほか、腎盂(じんう)腎炎に代表される尿路感染症、胆嚢(たんのう)炎、胆管炎、褥瘡(じょくそう)感染などがあります。また、血管内カテーテルを留置している場所の汚染から体内に細菌が侵入する、カテーテル関連敗血症も、近年増加しています。

全身の炎症を反映した発熱、倦怠(けんたい)感、認識力の低下が主要な症状ですが、重症の場合には低体温になることもあります。心拍数や呼吸数の増加もみられ、白血球の数も増えます。治療せずにほうっておくと、低血圧、意識障害を来し、敗血症性ショック、血管内凝固症候群(DIC)などになる場合もあります。

また、重要臓器が傷害されると呼吸不全、腎不全、肝不全といった、いわゆる多臓器障害症候群(MODS)を併発することもあります。原因菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされ、血液の代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常を来します。

欧米では全身性炎症反応症候群(SIRS)という概念が提唱され、敗血症は感染が引き金となったSIRSと定義されています。なお、傷口などから細菌が血液中に侵入しただけの状態は菌血症と呼ばれ、敗血症と区別されます。菌血症は症状が現れないことが多く、生命にかかわることもありませんが、菌血症の状態から細菌が急に増え出し、循環器系を通って体中に毒素をまき散らすと敗血症が起こります。

敗血症の検査と診断と治療

検査では、血液中に白血球数や、蛋白(たんぱく)質の一種であるC−リアクディブ・プロテイン(CRP)などの一般的な炎症反応の増加が認められます。白血球数は逆に低下することもあります。そのほか、傷害を受けた臓器によって、肝機能障害や腎機能障害も認められます。血液の凝固能が低下している場合もあり、この時は血管内凝固症候群(DIC)を併発していると考えられます。発熱時の連続した血液培養による原因菌の検索も、重要です。

細菌感染に対しては、強力な抗菌薬による化学療法とともに、さまざまな支持療法が不可欠です。化学療法は旧来より、Βラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の併剤療法が主流。支持療法では、昇圧剤、補液、酸素投与などのほか、呼吸不全、腎不全、肝不全に対しては、人工呼吸管理、持続的血液濾過(ろか)透析や血漿(けっしょう)交換などが必要になる場合もあります。

血管内凝固症候群(DIC)を併発した場合には、蛋白分解酵素阻害薬や、抗凝固薬の一つであるヘパリンを使用します。短期間ですが、副腎皮質ホルモン薬が併用されることもあります。近年では、グラム陰性菌による敗血症において重要な役割を担う内毒素(エンドトキシン)を吸着する方法など、新しい治療法が試みられています。

敗血症は近年の抗菌薬による化学療法の進歩によって治療成績が改善しましたが、治療が遅れたり合併症の具合によっては、致命的となる重篤な疾患であることに変わりありません。早期の診断と適切な抗菌薬の使用、各種合併症に対する支持療法が重要です。

🇷🇴肺高血圧症

心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患

肺高血圧症とは、心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患。比較的まれな疾患ですが、年齢に関係なく起こり得る複雑な疾患です。

酸素の少ない血液が右側の心臓の右心房へ戻ってきて、右心室を通って肺へ送られ、肺で酸素をもらって血液は左側の心臓の左心房へ進み、左心室を通って全身へ送られます。これが人間の血液循環の仕組みです。左側の心臓から全身へ血液を送る動脈の血圧が上昇するのがいわゆる一般的な高血圧であり、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の高血圧が肺高血圧症です。

 平均肺動脈圧が安静時25mmHg(ミリエイチジー)、運動時30mmHg以上となるものを肺高血圧症と呼びます。

肺動脈の血圧が高くなるのは、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血管の内腔(ないくう)が狭くなったり、あるいは肺動脈の末梢(まっしょう)の小動脈の内腔が何カ所か狭くなって、血液が通りにくくなるためです。

何らかの原因で肺動脈の血管の内腔が狭くなると、肺を通過する血液の循環が不十分になります。この時、心臓が血液を十分に送ろうとするため、肺動脈の圧力が高くなります。肺動脈に血液を送る右心室は、より大きな力が必要なために心臓の筋肉を太くして対応しようとします。しかし、もともと右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、この状態が続くと右心室の壁は厚くなって拡張し、右心室の機能が低下して肺性心(はいせいしん)という状態になります。さらに病状が進行すると、右心不全という通常の生活を送るのに必要な血液を送り出せない状態に陥ります。

肺高血圧症の初期は、無症状です。しかし、肺動脈の血圧が上昇し疾患が進行してくると、体を動かした時に息切れを感じるようになります。また、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、呼吸困難、立ちくらみ、めまい、失神などを認めることもあります。肺性心となり右心不全を合併すると、顔や足のむくみや食欲低下などの症状も出現します。

肺高血圧症を起こす原因は、たくさんあります。国際分類(2003年ヴェニス分類)では、肺高血圧症は原因によって、肺動脈性肺高血圧症、通常の心臓病による肺高血圧症、肺の疾患や低酸素血症による肺高血圧症、慢性血栓や塞栓(そくせん)による肺高血圧症、その他の肺高血圧症の5種類に分けられます。

肺動脈性肺高血圧症は、さらに細かく特発性肺動脈性肺高血圧症、膠原(こうげん)病性肺動脈性肺高血圧症、先天性心疾患などの他の疾患に続発して起こる肺動脈性肺高血圧症、薬剤性肺動脈性肺高血圧症などに分けられます。いずれの場合も、その原因は解明されておらず、1998年から国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺動脈性肺高血圧症の中では、特発性肺動脈性肺高血圧症は最も頻度が高く、以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた疾患とほぼ同義であり、原因不明の慢性かつ進行性の難病です。従来の治療では5年間の生存率が30パーセントといわれていました。長い間の研究で、さまざまな治療薬が試みられていましたが、最近、肺血管を拡張させる薬が開発され、治療効果も上がってきています。

膠原病性肺動脈性肺高血圧症は、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病などの自己免疫が原因で発症するものであり、比較的病状の進行が速いのが特徴で、特発性肺動脈性肺高血圧症より生存期間が短い傾向があります。

慢性血栓や塞栓による肺高血圧症では、急性肺血栓塞栓症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症が頻度が高い疾患です。急性肺血栓塞栓症は、足や骨盤などの静脈でできた血の塊が肺の血管を詰まらせる血栓症で、エコノミークラス症候群とも呼ばれます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、血栓が数年かけて血管と一体化して肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併したもので、国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺高血圧症の早期発見は、非常に重要です。早期発見と早期治療によって、生存率が上昇するからです。

肺高血圧症の検査と診断と治療

循環器内科の医師による診断では、右心カテーテル検査や、肺動脈造影検査、心臓超音波(エコー)検査、経食道エコー検査、心臓MRI、呼吸機能検査、肺シンチグラム、CT検査、血液検査などが行われます。

さまざまな検査のうち、右心カテーテル検査は、肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺動脈の血管がどの程度流れにくくなっているのかを正確に判定することができる唯一の検査方法です。

首もしくは脚の付け根からカテーテルという細い管を挿入し、静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧力を直接測定します。肺高血圧症の原因によっては、肺動脈造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管のさまざまな部位から採血を行うことを追加の検査として行います。

循環器内科の医師による治療では、肺動脈性肺高血圧症の場合は従来、血管内で血栓が生じるのを予防する抗凝固薬、循環血漿(けっしょう)量を減少させて心臓の負担を減らす利尿薬、血管を縮める作用のあるカルシウムを抑制することで血管を広げるカルシウム拮抗(きっこう)薬、通常の空気より高い濃度の酸素を吸うことで心臓の機能が低下して全身への酸素供給能力が低下しているのを補う酸素吸入によって治療されていましたが、予後改善効果は大きくありませんでした。

近年では、肺の血管を拡げて血流の流れを改善させる肺血管拡張療法が効果を上げています。肺血管を拡げるプロスタサイクリン製剤のフローランのポンプを用いた持続静注や、プロスタサイクリン製剤の誘導体であるベラプロスト製剤の内服、肺血管を収縮させるエンドセリンが血管平滑筋に結合することを防ぐエンドセリン受容体拮抗薬のトラクリアやヴォリブリスの内服、血管平滑筋の収縮を緩めるサイクリックGMPという物質を増加させるホスホジエステラーゼ5(PDE5)の作用を阻害するPDE5阻害薬のレバチオやアドシルカの内服などにより、次第に予後が改善されてきています。

一方、原因の明らかな2次性肺高血圧症の場合、原疾患の治療により肺高血圧の改善が期待できます。

急性肺血栓塞栓症の場合、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固薬や血栓溶解薬を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の場合、原則として血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が行われます。手術的に摘除可能なら、肺血栓内膜摘除術が行われます。2000年代後半から、一部の医療機関では、詰まった血管を広げるバルーン(風船)によるカテーテル治療が行われ始めています。

現在使用可能な治療法を継続しても右心不全が進行する場合、肺移植を行うこともあります。

🇷🇴肺好酸球浸潤症候群

白血球の一種である好酸球が肺に浸潤する肺疾患の総称

肺好酸球浸潤症候群とは、白血球の一種である好酸球が肺の中に浸潤する肺疾患の総称。好酸球肺浸潤症候群とも呼ばれます。

好酸球は免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、このアレルギー反応による炎症の一因にもなる細胞です。肺好酸球浸潤症候群では、末梢(まっしょう)血液中に好酸球が増える場合がしばしばみられますが、必ずしも合併するとは限りません。

カビなどの真菌、寄生虫、特定の薬物、化学物質などが、肺の中に好酸球が集積する原因になることがあります。その原因がわかっているものには、真菌に対するアレルギー疾患であるアレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)、線虫・回虫などの寄生虫感染、抗生剤(抗生物質)・抗菌剤・降圧薬・抗結核薬などの薬物による肺炎、栄養食品であるLートリプトファンによる好酸球増加筋痛症候群があります。

また、初めてたばこを吸い始めた時に、急性好酸球性肺炎を発症することがあり、数日後に呼吸困難を引き起こします。

原因不明のものとしては、レフレル症候群(単純性好酸球性肺炎)、急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎、アレルギー性肉芽腫(にくげしゅ)性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)、好酸球増加症候群があります。

現れる症状は、肺疾患の重症度により異なります。重症では、せきや呼吸困難、息切れなどの症状がみられ、血液中の酸素が減少し、皮膚や粘膜の色が青紫色になるチアノーゼを示すことがあります。また、発熱や食欲不振、体重の減少なども認められることがあります。軽症では、全く症状がなく、X線写真で肺炎像として発見されることもあります。

アレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)は、アスペルギルス属という種類の真菌の胞子を吸い込むことによって、気管支や肺に、炎症などのアレルギー症状が引き起こされる疾患。発作性のせきや、喘鳴(ぜんめい)を伴う呼吸困難で始まり、褐色の喀痰(かくたん)が出ます。痰の中には、しばしば好酸球やアスペルギルスの菌糸が含まれています。時に喀血(かっけつ)をみることがあるほか、発熱、食欲不振、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、胸痛などがしばしばみられます。気管支が広がって元に戻らなくなる気管支拡張症が引き起こされることもあります。

レフレル症候群(単純性好酸球性肺炎)や、フィラリアと呼ばれる線虫類の一種が体内に侵入して発症する熱帯性好酸球増多症(ミクロフィラリア症)では、症状が現れた場合に微熱や軽い呼吸器症状がみられることがあります。また、せき、喘鳴、息切れなどが現れることもありますが、通常はすぐに回復します。

急性好酸球性肺炎では、血液中の酸素濃度が著しく低下し、治療をしなければ、数時間から数日で急性呼吸不全に進行する可能性があります。

慢性好酸球性肺炎は、数週間から数カ月間かけてゆっくりと進行する疾患で、重症化することもあります。治療をしなければ、命にかかわるような息切れを起こすことがあります。

アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)は、喘息で発症する特徴がありますが、その後、好酸球性肺炎を起こすこともあり、皮膚、消化管、末梢神経、心臓、腎臓(じんぞう)など重要な臓器も障害される全身性の血管炎です。喘息の治療が成功しているにもかかわらず、手や足がしびれたり、皮膚炎、腹痛や胸痛が現れてきた場合には、この疾患の可能性があります。

好酸球増加症候群では、末梢血の中の好酸球が6カ月以上、1500μl(マイクロリットル)以上に増えて、多くの臓器障害が起こり、特に心臓の障害が重い合併症となってきます。

肺好酸球浸潤症候群は、集団健診の胸部X線検査で異常を指摘されるか、せき、呼吸困難、発熱、全身倦怠感を自覚して、初めて受診して発見されるケースがほとんどです。

いずれにしても早期発見、早期治療が重要なので、これらの疾患が疑われたら内科、呼吸器科、アレルギー科を受診します。

肺好酸球浸潤症候群の検査と診断と治療

内科、呼吸器科、アレルギー科の医師による診断では、胸部X線検査で肺炎像が確認されます。肺炎像に加えて、血液検査で好酸球の増加があれば肺好酸球浸潤症候群が考えられ、喀痰に好酸球が増えていれば診断にほぼ間違いはありません。

原因が予測できる疾患では、その原因物質を特定することで診断が可能になってきます。アレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)は、喀痰の中から真菌を確認し、血液検査でその真菌に対する免疫グロブリン(IgGおよびIgE)を確認します。また、気管支拡張症を合併することも1つの特徴なので、CT検査で確認することが重要です。

さらに、常用している薬物はないか、寄生虫感染地域への旅行あるいは在住がなかったかどうかは、重要な診断の参考になります。

また、アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)では、血液検査でIgEの上昇と、白血球の一種である好中球に対する抗体(抗好中球細胞質抗体、P‐ANCA)の上昇が重要な診断の根拠になります。

内科、呼吸器科、アレルギー科の医師による治療では、軽症例では無治療で改善することもありますが、一般的には副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を内服することにより早期に改善します。

しかし、アレルギー性肉芽腫性血管炎、慢性好酸球性肺炎、好酸球増加症候群では、ステロイド剤に十分な反応が得られないこともあります。その場合は、抗がん剤を併用することもあります。

線虫や他の寄生虫が原因であれば、それに対して適切な薬を用いて治療します。通常、この肺好酸球浸潤症候群を引き起こす可能性がある薬は、服用を中止します。

🇷🇴肺真菌症

肺の中に真菌が増殖し、せき、たんがみられる疾患

肺真菌症とは、肺の中に真菌(かび)類が感染して起こる疾患。肺炎に似た症状が強く現れます。

真菌には、健康な人の体内に常にいるものや、外部から体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。健康である限り、それらが肺の中に感染することはありませんが、白血病や臓器移植後などによる体や気道の抵抗力の低下、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の長期間の服用などを切っ掛けに、肺の中で増殖し、感染症を引き起こします。

原因となる真菌の種類によって、肺真菌症にはいろいろなタイプがあります。日本に多いのは、アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムコール症、カンジダ症など。ほかに放射菌症、ノアルジア症、分芽(ぶんが)菌症、ヒストプラスマ症、コクシジオイテス症などがありますが、日本での感染例はまれです。

アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムーコル症では、気道を通して吸引された胞子が肺に定着、増殖することにより感染します。これらを外因性の肺真菌症といいます。

対してカンジダは、口腔(こうくう)、消化管、陰部などに常在する真菌であり、口腔内に増殖したカンジダの誤嚥(ごえん)に起因したり、敗血症の一分症として肺のカンジダ症が発症する場合があります。これらを内因性の肺真菌症といいます。

アスペルギルス症は、アスペルギルス・フミガツスという体外の真菌が原因となり、肺真菌症の中でも最も重要な疾患の一つ。この真菌は有毒な胞子を持っていて、ぜんそく患者は過敏に反応して、アレルギー性の肺炎を引き起こすことがあります。また、肺膿瘍(のうよう)、肺結核、気管支拡張症などの後にできた肺の空洞に入り込み、真菌の塊を作ることもあり、これが崩れると褐色の塊となって、たんととも出てきます。

 クリプトコックス症は、ハトの糞(ふん)などにいるクリプトコックスという真菌を吸い込むことが原因となって、発症します。時に健康な人にもみられる肺真菌症で、必ずしも抵抗力、免疫力の低下と関係しているとは限りません。

ムコール症は、ケカビ目の真菌を吸いこむことが原因となって、発症します。肺のほか、鼻と脳を侵し、まれに皮膚や消化管も侵します。重度の感染症で、場合によっては死に至り、コントロール不良な糖尿病患者など、免疫機能が低下している人に起こります。

肺真菌症の症状としては、せき、たん、血たん、発熱、胸の痛みなどがみられますが、肺真菌症にはいろいろなタイプがあるため、これらの症状が現れないこともあります。アスペルギルス症やムーコル症では、血たんや喀血(かっけつ)、呼吸困難を生じることもあります。

肺真菌症の検査と診断と治療

肺真菌症の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。肺真菌症は一般に、早期に診断されない場合は急速に病状が進行しますので、注意が必要です。

医師による診断に際しては、胸部X線検査やCT検査が行われ、たんなどから原因となる真菌を調べます。血液検査で、真菌に対する抗体があるかを調べることもあります。

治療に際しては、一般に抗真菌剤が用いられます。クリプトコッカス症やカンジダ症には、フルコナゾール、イトラコナゾールフルシトシンを始めとするアゾール系抗真菌剤が第一選択となります。

ムーコル症に対しては、一般にアムホテリシンBを静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。また、薬で真菌の活動を抑えた後、感染組織を外科手術で取り除くこともあります。糖尿病の場合には、血糖値を正常範囲まで下げる治療を行います。

肺真菌症は普通の肺炎よりも治りにくく、治療にも時間がかかります。治療中は安静にして、栄養を十分に取ることが大切になります。

🇧🇬肺水腫

血液の成分が肺胞内に染み出し、異常にたまった状態

肺水腫(すいしゅ)とは、血液の成分、主に血漿(けっしょう)が血管内から肺胞内に染み出し、異常にたまる疾患。肺胞内で血液の成分がたまると、肺のガス交換が障害されて低酸素血症となり、呼吸困難が現れます。

肺水腫には大きく分けて、心臓が原因で生じる心原性肺水腫と、心臓以外の原因で生じる非心原性肺水腫の2種類があります。

心筋梗塞(こうそく)など心臓の疾患が進行して心臓の機能が低下すると、左心室が十分な血液を全身へ送り出せなくなる左心不全になり、肺に血液がたまる肺うっ血になります。肺うっ血が高まると、毛細血管を通って血液の成分が肺胞に出ていき、心原性肺水腫ができます。肺水腫のほとんどが、心原性肺水腫です。また、このタイプは肺から心臓へ血液を運ぶ肺静脈の閉塞(へいそく)でも起こります。

一方、非心原性肺水腫の中でも、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とか急性肺損傷(ALI)といわれるものは肺そのものに原因があり、重症肺炎、敗血症、重症外傷などに引き続いて生じます。肺の小さな血管に炎症が起こり、血管から血液が漏れて肺にたまるため生じるものです。

主な症状は、発作的な呼吸困難、呼吸をする時にゼーゼー、ヒューヒューという音がする喘鳴(ぜんめい)、窒息感、頻呼吸、そして血液の混じった泡状のたんなどです。

肺水腫の検査と診断と治療

慢性の心臓病がある人は、定期的に受診して医師の指導に従います。突然、呼吸困難の発作が起こった人に対しては、上半身を起こし、何かに寄りかからせて座位にします。横にすると余計に呼吸困難がひどくなるので、無理に寝かせないようにします。できるだけ落ち着かせ、すぐに医師に連絡し指示を受けます。

医師による診断では、胸部の聴診でブツブツというラ音が聞こえます。血液ガス分析では低酸素血症を認め、心原性肺水腫では、胸部X線像で心臓が大きく映り、蝶(ちょう)が羽を広げたような蝶形陰影を認めます。

治療は、心原性肺水腫と非心原性肺水腫で異なります。心原性肺水腫では、毛細血管圧を下げるために、心臓の働きを高める強心剤や、余分な水分を尿として排出させる利尿剤、血管拡張剤、肺の炎症を抑えるための種々の薬剤などが用いられます。

たんを出させるためには、アルコールの除泡性を利用して、アルコールを加えた水を吸入させるアルコール蒸気吸入法などの処置が行われます。呼吸困難時には、酸素吸入を行います。重症の場合には、人工呼吸器を用いて、気道内を陽圧に保つ治療が行われることもあります。

🇧🇬肺性心

肺の疾患の影響で、心臓に病変が起こるもの

肺性心とは、肺に疾患があるために、心不全などを起こしたもの。肺性心疾患とも呼びます。

肺と心臓は非常に密接な関係にあり、片方に異常が起きたり、疾患があると、その影響を受けて、もう片方にも病変が起こりがちです。肺に疾患があると、肺全体の血行がスムーズにいかなくなり、右心室からの血液の拍出が妨げられ、やがて右心不全を起こすというわけです。

肺性心には、急性と慢性とがあります。急性のものは肺塞栓(そくせん)によって起こりますが、一般に肺性心という場合は慢性のものを指しています。急性、慢性とも予後はよくありません。

慢性肺性心の症状としては、肺結核や気管支ぜんそく、肺気腫(きしゅ)、珪肺(けいはい)などの慢性的な肺の疾患があるために、せき、たん、呼吸困難といった呼吸器症状が、まず最初に現れます。そして、呼吸困難の結果、動悸(どうき)やチアノーゼという症状が引き起こされ、脈拍の異常も出てきます。

急性肺性心の場合は、突然、呼吸困難、頻脈、チアノーゼ、血圧降下などが起こり、ひどい時は、けいれんが起きたり、ショック状態に陥ります。一刻も早く入院して、急性の右心不全に対する処置をしないと危険です。

肺性心の検査と診断と治療

肺性心の慢性症状がある時には、心雑音、心電図の異常も出てきますが、このような症状が出ても、右心不全の有無の判断は非常に難しく、心エコー検査やナトリウム利尿ペプチドの測定が必要です。

肺性心の急性症状が出現している際には、絶対安静にして強心薬の注射をしたり、酸素吸入をして改善を図ります。疾患そのものの治療としては、もとの肺疾患を治すことが先決ながら、肺性心を起こすほどの肺の病変を治療することは非常に困難です。

🇧🇬肺線維症(間質性肺炎)

肺胞の回りの壁の部分に炎症が起こって、線維化する疾患

肺線維症とは、肺胞と肺胞の間にある壁で、肺胞上皮細胞、肺毛細血管、結合組織などからなる間質に炎症が起こり、炎症組織が線維化する疾患。

線維化する前の間質に炎症が起こった状態は、間質性肺炎と呼ばれます。肺線維症と間質性肺炎は同じ疾患なのですが、進行度によって呼び方が異なるわけです。

人間は、肺で呼吸をしています。肺全体は非常に目の細かいスポンジのような構造をしており、空気を吸えば膨らみ、空気を吐けば縮むという動きをスムーズに行っています。吸い込まれた空気は、気管支の末端の直径数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の肺胞まで入ります。この肺胞の回りの壁の部分が間質であり、非常に 薄くて、中には毛細血管が網の目のように張り巡らされていて、ここから酸素が吸収されます。酸素を吸収した血液は心臓へと戻り、そこから全身に供給されてゆきます。

この肺胞の壁である間質に炎症が起きる疾患は、総称して間質性肺疾患と呼ばれ、正常な組織がコラーゲン線維などに置き換わる線維化を起こしやすい疾患は特に、間質性肺炎とまとめて呼ばれています。通常、肺炎といった場合には、細菌やウイルスの感染によって肺胞内もしくは気管支に起こる炎症を指し、間質性肺炎の場合とは異なった症状、経過を示します。

間質性肺炎の炎症が進むと、肺胞壁が厚くなり、肺胞の形も不規則になって、肺全体が少し硬くなります。その結果、肺の膨らみが悪くなり肺活量が落ちると同時に、酸素の吸収効率も悪くなってゆき、息苦しくなったり、せきが出ます。さらに進行すると肺線維症となって、肺は線維性成分の固まりとなり、この部分での肺としての機能が失われます。

もちろん、その状態まで進むのは肺の一部であり、残りの部分で十分に呼吸を続けることが可能です。間質性肺炎の種類によっては、線維化の状態まで進まないタイプのものもあります。

間質性肺炎には、原因が不明なものと、原因が明らかなものとがあります。

原因が不明なものは、特発性間質性肺炎と呼ばれ、国が難病として研究、調査の対象に指定した118の特定疾患の中の1つになっています。発病率は一般的に10万人に5人程度といわれ、詳しいメカニズムはわかっていません。

特発性間質性肺炎は、現在のところ7つの異なった病理組織像(顕微鏡検査での型)に分類されますが、急性、亜急性、あるいは慢性経過に分けることができます。中で最も頻度が高いのは特発性肺線維症と呼ばれるもので、50歳以上に発症することが多く、肺機能は次第に低下して、呼吸困難が強くなり、酸素療法が必要になる場合があります。

原因が明らかなものは、有害物質の吸入による過敏性肺炎、放射線による放射線肺炎、中毒や薬剤による肺炎、ウイルスや原虫感染による肺炎によって、間質性肺炎が引き起こされます。また、肺サルコイドーシス、膠原(こうげん)病の一症状として、間質性肺炎が出現することもあります。

症状としては、たんを伴わないせきが出ます。ただし、気道感染が起こっている時は、たんも出ます。また、階段を上った時などに息切れします。進行すると、安静にしていても呼吸が苦しく、動悸(どうき)も激しくなります。さらに進んで心臓に影響を及ぼすと肺性心となり、チアノーゼやむくみがみられるようになります。

徐々に疾患が進行して慢性化することもあります。

肺線維症の検査と診断と治療

呼吸器障害の症状が現れた場合には、一般に内科、もしくは呼吸器内科を受診します。間質性肺炎と進行した肺線維症には、原因が不明なもの、原因が明らかなものと多くの疾患が含まれていますので、受診した医師に専門医を受診する必要があるかどうかを相談します。

医師による間質性肺炎、および肺線維症自体の診断は、胸部X線検査やCT検査(コンピューター断層撮影)により左右の肺に広く影が出現し、進行すると線維化を反映して蜂巣(ほうそう)状を呈するすることで、比較的すぐにわかります。しかし、原因を調べるために気管支内視鏡による組織の採取や肺機能検査、血液検査など、さまざまな検査が行われます。

急性の間質性肺炎では、大量のステロイド剤を投与するパルス療法が行われることがあります。しかし、慢性の間質性肺炎では、一般的には薬物治療では効果が得られないことが多いといえます。

治療には、入院加療が必要なこともありますが、慢性化して疾患が危険な状態に進行する恐れがなければ、通院治療も可能です。呼吸困難がある場合も、疾患が慢性期になっていれば、在宅酸素療法によって自宅療養が可能なこともあります。進行して二酸化炭素排出も不十分となった場合には、酸素投与のみでは炭酸ガスナルコーシスを引き起こしかねないため、人工呼吸器を導入せざるを得なくなります。

特定疾患に指定されている特発性間質性肺炎を治癒させる方法は、今のところありません。進行をできるだけ遅くするようにしたり、症状をできるだけ少なくする治療が中心になります。呼吸状態が悪くなく、安定していれば、原則的には無治療で様子をみることが多いのが現状です。

進行する場合は、ステロイド剤と免疫抑制剤の使用を考慮されることがあります。2008年に、肺機能の悪化を抑制するピルフェニドン(商品名ピレスパ)という新しい薬(抗線維化薬)が発売され、その効果が期待されています。

タイプにもよりますが、進行性で治療に抵抗を示すものでは数週間で死に至るものの、慢性的に進行した場合は10年以上生存することも多くみられます。肺移植が行われることもあります。

🇭🇺肺塞栓、肺梗塞

血栓などによって肺の動脈が詰まったり、肺組織が壊死する疾患

肺塞栓(そくせん)とは、血液によって運ばれた血栓などによって、心臓から肺へ血液を運ぶ肺動脈が詰まった状態。肺梗塞(こうそく)とは、塞栓ができたために血液の流れが遮断され、その先の肺組織が壊死(えし)に陥った状態。

塞栓の多くは、何らかの原因で固まった血液によるものですが、脂肪やがん細胞が詰まることもあります。最も多いのは、下肢の静脈内でできた血栓が原因となるものです。近年問題になっている深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群もこの一つです。

海外旅行などで長時間飛行機に乗ると、座ったままで長時間同じ姿勢を保つため、下肢の深部静脈で血液が固まり血栓ができます。飛行機から降りようと立ち上がった時に、血栓が血液の流れに乗って移動し、肺動脈を閉塞するというものです。狭いエコノミークラスの座席のみでなく、ファーストクラスでも起こり得ますし、長時間の自動車や電車の旅でも起こっています。

疾患や手術のため長い間寝たきりの人なども、同じように下肢静脈での血液の流れが悪くなり、血栓を作りやすい傾向にあります。

症状としては、肺塞栓では通常、呼吸困難、胸痛、頻呼吸などがありますが、塞栓が小さい時には自覚症状を伴いません。また、塞栓が大きな場合には、肺梗塞を引き起こして胸痛のほかに、血たんや発熱、発汗が現れます。ショック状態に陥り、突然死することもあります。

肺塞栓、肺梗塞の頻度は合わせて10万人に約2.7人で、女性にやや多く、中年以降に多くみられます。

肺塞栓、肺梗塞の検査と診断と治療

肺塞栓のうちでも、深部静脈血栓症は急性期の死亡率が約10パーセントと高く、救急の疾患であり、早く診断し、早く血栓を取り除くことが大切です。従って、突然の呼吸困難や胸痛が起こったら、できるだけ早く循環器内科や呼吸器内科を受診します。

医師による診断では、まず心電図と胸部X線検査、血液検査が行われます。これらの検査だけでは肺塞栓の確定診断はできませんが、同じような症状を示す心筋梗塞や解離性大動脈瘤(りゅう)、気胸などとは、ある程度鑑別ができます。

次に、血液ガス分析で低酸素、心臓超音波検査で右心不全を認めれば肺塞栓が疑われ、造影CT、肺換気・血流シンチグラム、肺動脈造影、造影MRIのいずれかで肺動脈内の血栓を確認できれば診断は確定します。

肺塞栓の治療では、基本的に血液が固まらないようにする抗凝固剤を点滴静注で使います。重症の場合には、血栓を溶かす血栓溶解剤を投与したり、酸素吸入、利尿剤の投与、輸液などが行われます。肺梗塞を引き起こしてショック状態にある場合には、血圧を上昇させる薬を使います。大きな血管の塞栓は、外科手術やカテーテルにより、摘出することもあります。

治療によって病状が安定した後も、肺塞栓、肺梗塞は再発が多く、発症すると命にかかわることがあるため、予防的治療として抗凝固剤の内服を少なくとも3カ月、危険因子を持つ人は一生涯服用します。下大静脈にフィルターを留置して、肺動脈に血栓が流れ込むのを予防する方法もあります。

肺塞栓、肺梗塞では、血液が固まらないように、日常生活で予防することも大切です。特に手術直後の人や長い間床に就いている人は、静脈に血液の塊ができやすいので、時々、下肢や体全体を動かすこと、脱水にならないように水分を十分に取ることが必要です。

海外旅行などで長時間飛行機に乗る際には、十分な水分を取り、適度に足の運動をし、衣服を緩めるなどして、深部静脈血栓症を予防することが大切になります。飛行開始から到着まで一度も席を離れず、トイレも我慢すると危険。

🇭🇺肺動脈性肺高血圧症

心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が異常に上昇する疾患

肺動脈性肺高血圧症とは、心臓から肺に血液を送る血管である肺動脈の血圧が異常に上昇する疾患。いろいろな原因によって肺動脈の血圧が高くなる肺高血圧症の一種です。

酸素の少ない血液が右側の心臓の右心房に戻ってきて、右心室を通って肺に送られ、肺で酸素をもらって血液は左側の心臓の左心房に進み、左心室を通って全身に送られます。これが人間の血液循環の仕組みです。左側の心臓から全身に血液を送る動脈の血圧が上昇するのがいわゆる一般的な高血圧であり、右側の心臓から肺に血液を送る肺動脈の高血圧が肺高血圧症です。

 平均肺動脈圧が安静時25mmHg(ミリエイチジー)、運動時30mmHg以上となるものを肺高血圧症と呼びます。

肺高血圧症の一種である肺動脈性肺高血圧症で肺動脈の血圧が高くなるのは、右側の心臓から肺に血液を送る肺動脈の末梢(まっしょう)の1mm以下の細い小動脈の内腔(ないくう)が何カ所か狭くなって、血液が通りにくくなるためです。

何らかの原因で肺動脈の血管の内腔が狭くなると、肺を通過する血液の循環が不十分になります。この時、心臓が血液を十分に送ろうとするため、肺動脈の圧力が高くなります。肺動脈に血液を送る右心室は、より大きな力が必要なために心臓の筋肉を太くして対応しようとします。

しかし、もともと右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、この状態が続くと右心室の壁は厚くなって拡張し、右心室の機能が低下して肺性心(はいせいしん)という状態になります。さらに病状が進行すると、右心不全という通常の生活を送るのに必要な血液を送り出せない状態に陥ります。

肺動脈性肺高血圧症は、さらに細かく特発性肺動脈性肺高血圧症、遺伝性肺動脈性肺高血圧症、薬物・毒物に起因する肺動脈性肺高血圧症、他疾患(全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病、門脈圧高進症、先天性心疾患、 HIV感染、慢性溶血性貧血住血吸虫症、サラセミア、遺伝性球状赤血球症など)に関連する肺動脈性肺高血圧症に分けられます。いずれの場合も、その原因はまだ十分に解明されておらず、1998年から国より特定疾患治療研究事業対象疾患、いわゆる難病に指定されています。

肺動脈性肺高血圧症の中では、特発性肺動脈性肺高血圧症は最も頻度が高く、以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた疾患とほぼ同義であり、原因不明の慢性かつ進行性の難病です。

特発性肺動脈性肺高血圧症の一部は骨形成蛋白(たんぱく)質(BMP)システム異常が関与していますが、それだけでは疾患は起こらず、遺伝的素因に何らかの後天性要因が関与して発症すると考えられています。肺血管壁を構成している血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、細胞外基質などが異常に増殖した結果、血管が硬くなって小動脈の内腔が狭くなり、結果として血流の流れが悪くなり、右心室に負担がかかることになります。

従来の治療では、特発性肺動脈性肺高血圧症の5年間の生存率が30パーセントといわれていました。長い間の研究で、さまざまな治療薬が試みられていましたが、最近、肺血管を拡張させる薬が開発され、治療効果も上がってきています。

肺動脈性肺高血圧症の初期は通常、無症状です。しかし、肺動脈の血圧が上昇し疾患が進行してくると、体を動かした時に息切れを感じるようになります。また、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、呼吸困難、立ちくらみ、めまい、失神などを認めることもあります。肺性心となり右心不全を合併すると、顔や足のむくみや食欲低下などの症状も出現します。

肺動脈性肺高血圧症と類似している肺高血圧症が、左心不全、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、特発性間質性肺炎、睡眠時無呼吸症候群、高地生活、急性肺血栓塞栓症、慢性肺血栓塞栓症などで起こることがあり、それらの疾患が合併することもあります。

肺動脈性肺高血圧症の早期発見は、非常に重要です。早期発見と早期治療によって、生存率が上昇するからです。

肺動脈性肺高血圧症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、呼吸器科などの医師による診断では、血液検査、心電図、胸部X線検査などで、少しでも肺動脈性肺高血圧症が疑われる場合には、心臓超音波(エコー)検査を行います。心臓超音波検査は胸に検査器具を接触させて心臓の大きさ、形、動きをリアルタイムに画像で観察できる検査です。最近の心臓超音波検査機器には、肺動脈圧を推定する機能が付いているものが多く、肺動脈性肺高血圧症の診断に重要な装置になっています。

このような検査で肺動脈性肺高血圧症の疑いが高い時には、診断を確定させるために右心カテーテル検査を行います。この検査は、肺動脈性肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺動脈の血管がどの程度流れにくくなっているのかを正確に判定することができる唯一の検査方法です。

首もしくは脚の付け根からカテーテルという細い管を挿入し、静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧力を直接測定します。肺高血圧症の原因によっては、肺動脈造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管のさまざまな部位から採血を行うことを追加の検査として行います。

循環器内科の医師による治療では、肺動脈性肺高血圧症の場合は従来、血管内で血栓が生じるのを予防する抗凝固薬、循環血漿(けっしょう)量を減少させて心臓の負担を減らす利尿薬、血管を縮める作用のあるカルシウムを抑制することで血管を広げるカルシウム拮抗(きっこう)薬、通常の空気より高い濃度の酸素を吸うことで心臓の機能が低下して全身への酸素供給能力が低下しているのを補う酸素吸入によって治療されていましたが、予後改善効果は大きくありませんでした。

近年では、肺の血管を拡げて血流の流れを改善させる肺血管拡張療法が効果を上げています。肺血管を拡げるプロスタサイクリン製剤のフローランのポンプを用いた持続静注や、プロスタサイクリン製剤の誘導体であるベラプロスト製剤の内服、肺血管を収縮させるエンドセリンが血管平滑筋に結合することを防ぐエンドセリン受容体拮抗薬のトラクリアやヴォリブリスの内服、血管平滑筋の収縮を緩めるサイクリックGMPという物質を増加させるホスホジエステラーゼ5(PDE5)の作用を阻害するPDE5阻害薬のレバチオやアドシルカの内服などにより、次第に予後が改善されてきています。

一方、原因の明らかな他疾患に関連する肺動脈性肺高血圧症では、原疾患の治療により肺高血圧の改善が期待できます。

現在使用可能な治療法を継続しても右心不全が進行する場合、外科的治療の心房中隔開口術や、肺移植を行うこともあります。

🇵🇱肺嚢胞(のうほう)症

肺の中に空気や液体を含む空間が発生

肺嚢胞(のうほう)症とは、肺の中に、空気や液体を含む空間である嚢胞ができる疾患。嚢胞の数は、1つから複数の場合まであります。

先天性と後天性があり、多くは後天性です。

先天性肺嚢胞症は、肺嚢胞が生まれ付きできている場合です。最も代表的なものは、ブラ(気腫〔きしゅ〕性嚢胞)やブレーブ(自然気胸)。ブラは、肺胞がほかの肺胞とくっついて膨張した状態で、ちょうど風船のように肺の表面に飛び出します。これが破裂し、たまっていた空気が胸腔(きょうくう)内に出て、肺を圧迫するとブレーブと呼ばれます。

このブレーブは、左肺よりも右肺に多くみられ、しばしば気管支とつながっています。このような場合、嚢胞は細菌に感染しやすく、発熱、せき、膿(のう)性のたんが出て、肺膿瘍(のうよう)と似た症状が現れます。

しかし、嚢胞壁が感染を中に閉じ込めるので、胸部X線写真で見ても、嚢胞の外に炎症反応はみられません。時に喀血(かっけつ)を伴うこともあり、肺結核と間違われることもあります。

後天性肺嚢胞症でよく知られているのは、条虫エキノコックスによって起こる包虫嚢胞です。ピーナッツなどの異物で気管支がふさがれて起こることもあります。

肺嚢胞症の検査と診断と治療

先天性肺嚢胞症の場合は、自覚できる症状はほとんどありません。胸部X線検査を行った時に、偶然発見されることがあります。後天性肺嚢胞症の症状は、胸痛や呼吸困難、せき、胸部圧迫感、チアノーゼなどです。

治療は、嚢胞が小さければ、経過を見守るにとどまります。ブレーブ(自然気胸)で細菌に感染した場合は、抗生物質で治療を行います。また、嚢胞が大きく、全身への影響のみられる場合には、手術によって切除します。

🇮🇸肺膿瘍

細菌が感染することで肺の組織が壊れ、うみがたまる疾患

肺膿瘍(のうよう)とは、細菌が感染することで肺の一部が化膿して、組織が壊れて、うみがたまる疾患。普通は、片方の肺のみに発症します。

肺炎にかかった人のうち、抵抗力が弱い人に起こったり、肺炎の原因となった病原菌の種類によっても起こることがあります。組織が壊れた部分は空洞になってしまったり、治っても瘢痕(はんこん)が残ります。

ほとんどの化膿菌によって肺膿瘍が引き起こされますが、最もよくみられる原因菌は、空気のあるところでは増殖しにくいバクテロイデスなどの嫌気性菌。肺炎球菌や黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの好気菌も、原因菌になる場合もあります。いくつかの菌が複数合わさって、引き起こすこともあります。

誘因としては、肺内への異物の吸引、上気道の慢性感染、結核やがんによる気道狭窄(きょうさく)、嘔吐(おうと)を繰り返すような消化器の疾患などがあります。

初期症状は寒け、発熱、胸痛、せきなど、肺炎に似ています。1週間ほどたつと、膿性のたんが多量に出るようになり、悪臭を放ったり、時には血が混じることもあります。血を吐くこともあり、大量に吐く場合などは極めて危険です。

これらの症状の現れ方によって、肺膿瘍は急性型と慢性型に分けられています。通常、慢性型は発熱も低く、すべての症状が急性型よりも軽くなります。

肺膿瘍の検査と診断と治療

肺膿瘍の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。

医師による診断は、胸部X線検査、胸部CT検査、たんの性質検査、血液検査などに基づいて行われます。肺炎の場合と同じように、肺膿瘍では胸部X線やCT検査の写真に明らかな影が認められます。肺炎の多くは熱が下がると影が消えるのに対して、肺膿瘍では解熱しても陰影が残ります。

肺から採取したたんの検査では、化膿菌のほかに膿球や壊死(えし)物質が認められます。血液検査では、白血球の増加と、軽、中度の貧血がみられます。

治療は、化学療法が主体となります。原因菌がペニシリンに耐性のないものであれば、まずペニシリンが用いられます。その後は経過をみながら、必要に応じて、抗生物質が投与されます。

ほとんどの場合、初期は静脈注射による投与を行い、症状が改善して体温が平熱に戻ると、経口投与になります。抗生物質の投与は、症状が消え、胸部X線検査で膿瘍の消失が確認されるまで続けます。体位ドレナージも、膿瘍の排出を促すために行います。

適当な治療が行われれば、肺膿瘍の大部分は改善します。急性の場合の治療期間の目安は、2〜3カ月。慢性の場合は、もう少し長期の治療期間が必要となります。

化学療法の治療効果が思わしくない場合は、抗生物質以外の治療も必要になります。時に、胸壁を通して膿瘍の内部へチューブを挿入し、肺膿瘍を排出させることもあります。肺の一部切除といった外科療法が行われることもあります。

🇸🇨肺MAC症

結核菌以外の抗酸菌であるMAC菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる疾患

肺MAC(まっく)症とは、結核菌の仲間の抗酸菌の一つであるMAC菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる呼吸器感染症。非結核性抗酸菌症と呼ばれる呼吸器感染症の一種です。

非結核性抗酸菌症は、結核菌と、らい菌以外の抗酸菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる呼吸器感染症で、非定型抗酸菌症とも呼ばれます。

抗酸菌とは、結核の原因である結核菌の仲間を指し、水中や土壌など自然環境に広く存在して、酸に対して強い抵抗力を示す菌です。結核菌よりもかなり病原性が低く、健康な人では気道を介して侵入しても通常は速やかに排除されて、ほとんど発症しません。

結核と症状が似ているために間違えられることもありますが、結核と非結核性抗酸菌症の大きな違いは、人から人へ感染しないこと、疾患の進行が緩やかであること、抗結核剤があまり有効でないことなどがあります。

非結核性抗酸菌症の原因は通常、非結核性抗酸菌(マイコバクテリウム)と呼ばれる抗酸菌で、約150種類が知られており、人に病原性があるとされているものだけでも10種類以上あります。

日本で最も多いのはマイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ、略してMAC菌で、約80パーセントを占めます。次いで、マイコバクテリウム・カンサシーが約10パーセントを占め、その他が約10パーセントを占めています。

肺MAC症に代表される非結核性抗酸菌症はリンパ節、皮膚、骨、関節など全身どこにでも病変を作る可能性があるものの、結核と同様、最も病変ができやすいのは肺です。発症様式には2通りあり、1つは体の弱った人あるいは肺に古い病変のある人に発症する場合、もう1つは健康と思われていた人に発症する場合です。

感染系路として、MAC菌など非結核性抗酸菌の吸入による呼吸器系からの感染と、非結核性抗酸菌を含む水や食物を介する消化器系からの感染があると見なされています。

自覚症状が全くなく、胸部検診や結核の経過観察中などに偶然、見付かる場合があります。症状として最も多いのは咳(せき)で、次いで、痰(たん)、血痰、喀血(かっけつ)、全身倦怠(けんたい)感など。進行した場合は、発熱、呼吸困難、食欲不振、やせなどが現れます。一般的に症状の進行は緩やかで、ゆっくりと、しかし確実に進行します。

結核の減少とは逆に、肺MAC症など非結核性抗酸菌症の発症者は増えてきており、確実に有効な薬がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。特に、気管支を中心に病変を作る肺MAC症は中年以降の女性に増えていますが、近年は若年者にも見付かっています。新規の発症者は年間、8000人から1万人に上るとみられています。

肺MAC症は、浴室が主な感染源になっている可能性が高いことが明らかになっています。お湯を循環させる追いだき口、浴槽にためた水、浴室の排水口、シャワーヘッドの表面や内側でもMAC菌が見付かっています。

症状に気付いたら、呼吸器科の医師、あるいは内科、呼吸器内科、感染症内科の医師を受診するのがよいでしょう。

肺MAC症の検査と診断と治療

呼吸器科などの医師による診断は、胸部X線やCTなどの画像診断を糸口とします。非結核性抗酸菌症で最も頻度の高い肺MAC症は、特徴的な画像所見を示します。異常陰影があり、喀痰(かくたん)などの検体からMAC菌を見付けることにより、診断が確定されます。

ただし、MAC菌などの非結核性抗酸菌は水中や土壌など自然環境に広く存在しており、たまたま喀痰から排出されることもあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要です。

2008年に肺MAC症の診断基準が緩やかになり、特徴的画像所見、他の呼吸器疾患の否定、2回以上の菌陽性で診断できることになっています。菌の同定は、PCR法やDDH法などの遺伝子診断法により簡単、迅速に行われます。

肺MAC症などの非結核性抗酸菌症と最も鑑別すべき疾患は、結核です。そのほか、肺の真菌症、肺炎、肺がんなども重要です。

呼吸器科などの医師による治療は、結核に準じて行われます。非結核性抗酸菌の多くは抗結核剤に対し耐性を示しますが、治療に際しては、菌によって効果があるので、まずは抗結核剤をいくつか併用します。

最も一般的なのはクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシンの4剤を併用する方法です。この方法による症状、X線像、排菌の改善率は、よくても50パーセント以下にすぎません。治療後、再び排菌する例などもあり、全体的な有効例は約3分の1、副作用の出現率も3分の1程度あります。

薬剤は結核の時よりはるかに長期間服用する必要があり、確実に有効な治療法がないので患者数は増え、進行例が増えてきているのが現状です。完全に治すことは難しく経過観察が必要ですので、肺MAC症などの非結核性抗酸菌症と診断された場合には、通院不要と判断されることはありません。自覚症状がないまま悪化する場合もあるので、症状がなくても通院を中断せず、最低数カ月から半年に1度は受診することが大切です。

症状が特に強く、肺病変が著しい場合には、肺切除などの外科療法が行われます。

生活は普通通りにできますし、人から人へ感染しないので、自宅で家族と一緒に生活してもかまいません。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病がなければ、特に食事の制限もありません。

水中や土壌など自然環境に存在している非結核性抗酸菌が感染するということは、体が弱っている、すなわち免疫が落ちていることが考えられますので、過労を避けつつ適度な運動を心掛けて、体力を増強させるような生活が望まれます。

自宅内ではMAC菌などの住み着きやすい風呂場、シャワーヘッドなどを清潔に保つように留意します。地震に備え、水を浴槽にためる人が増えましたが、少なくとも肺MAC症の人はしないほうがよく、浴室を掃除する時はマスクをしたほうがよいでしょう。MAC菌などは乾燥に弱いため、浴室を乾燥させるのもお勧めです。

2022/08/17

🇱🇰たばこ病(慢性閉塞性肺疾患)

せきやたん、息切れを主な症状とし、肺への空気の流れが悪くなる疾患

たばこ病とは、せきやたん、息切れを主な症状とし、主に喫煙が原因で起こる慢性気管支炎か慢性肺気腫(はいきしゅ)のどちらか、または両方によって肺への空気の流れが悪くなる疾患。慢性閉塞(へいそく)性肺疾患とも、COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とも呼ばれます。

たばこ病を喫煙や受動喫煙などにより発症する疾患の総称と見なす際には、慢性閉塞性肺疾患を始め、がん、心臓疾患、循環器疾患、呼吸器疾患などを含みます。

世界保健機関(WHO)では、たばこ病(慢性閉塞性肺疾患)を死亡原因の第4位に挙げていて、2020年には第3位になると予測しています。2005年には、世界中で年間300万人がたばこ病により命を落としました。

日本では、1999年の厚生労働省による調査で、21万2000人の患者がいるとされましたが、2000年から2001年にかけて行った調査では、たばこ病の潜在患者は40歳以上の8・5パーセント(男性13・1パーセント、女性4・4パーセント)に相当する530万人と推測されました。その潜在患者のうち治療を受けているのは、5パーセント未満といわれています。

厚生労働省の統計によると、2005年に1万4416人がたばこ病により死亡し、死亡原因の10位、男性に限ると7位を占めています。

たばこ病といわれるように、最大の原因は喫煙で、患者の90パーセント以上は喫煙者です。長年に渡る喫煙が大きく影響するという意味で、まさに肺の生活習慣病です。

患者の4・7パーセントは、たばこを吸わない人が占めています。これは、副流煙による受動喫煙の危険性を物語っています。副流煙には、喫煙者が吸う主流煙よりも発がん物質を始めとする有害物質、例えばタール、トルエン、メタンなどが多く含まれています。

喫煙者が近くにいる人は、たばこを吸わなくても喫煙者と同等か、それ以上の有害物質を吸い込んでいるのです。家族がヘビースモーカーだったり、分煙されていない職場で仕事をしている人は、たばこ病かかる危険性が高まります。

たばことたばこ病(慢性閉塞性肺疾患)の関連を示す数字として、「喫煙指数」があります。「喫煙指数」=1日に吸うたばこの本数×喫煙している年数。

例えば、1日に40本、20年間喫煙している場合は40×20=800で、喫煙指数は800。この指数が700を超えるとたばこ病だけでなく、咽頭(いんとう)がんや肺がんの危険性も高くなるといわれています。喫煙指数が同程度の男女を比較すると、男性よりも女性のほうが重症化しやすい傾向があることがわかっています。

たばこ病には、頑固なせきやたんが続き気管支が狭くなる慢性気管支炎と、肺の組織が破壊されて息切れや呼吸困難を起こす慢性肺気腫が含まれます。どちらも初期には自覚症状がほとんどない場合が多く、ゆっくりと進行して、次第に重症になっていきます。呼吸機能の低下が進んで、通常の呼吸では十分な酸素を得られなくなると、呼吸チューブとボンベの酸素吸入療法なしには日常生活が送れなくなってしまいます。

乾いたせきやたん、特に息を吐くのが困難になるなどの呼吸器系の症状が出た中年期以上の喫煙経験が長い人、受動喫煙経験が長い人、もしくは長かった人には、内科、ないし呼吸器内科で検査を受けることが勧められます。

たばこ病(慢性閉塞性肺疾患)の検査と診断と治療

内科、呼吸器科の医師による診断は、スパイロメトリー検査によって行われます。息を深く吸い込んで思い切り最後まで吐き出した量が肺活量ですが、最初の1秒間に吐き出す息の量が肺活量に占める割合(1秒率)によって、呼吸機能を計測します。この1秒率が70パーセント以下の場合に、たばこ病(慢性閉塞性肺疾患)と診断されます。

次には、気管支を拡張させるような吸入薬を吸って、その前後で精密な肺機能検査を行って疾患の重症度を判断し、これに基づいて治療方針が決められます。

また、息切れが心臓の疾患など、ほかの原因で起こっていないかを調べます。胸部のCT検査は、肺胞と呼ばれる肺の細かな構造が広い範囲で壊れているかどうかの手掛かりとなり、肺がんの合併をチェックすることができます。

内科、呼吸器科の医師による治療は、たばこ病(慢性閉塞性肺疾患)になると呼吸機能が元の健康な状態には戻らないため、今より悪くしないことが最も重要な眼目になります。喫煙者の場合は、症状をそれ以上に進めないよう、まずは禁煙。同時に、気道を広げて呼吸を楽にする気管支拡張剤、せきを切れやすくする去痰(きょたん)剤などが、対症療法的に用いられます。

息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し、呼吸困難がさらに悪化するという悪循環になりがちなため、ウォーキングなどの軽い運動や腹式呼吸も効果的です。

予防は、いうまでもなく禁煙です。家族にたばこを吸う人がいる場合は、喫煙の有害性を話し合って、禁煙を勧めましょう。禁煙したくてもなかなかできない人は、禁煙外来などで医師に相談してみて下さい。

肺や気管支の障害は、インフルエンザや肺炎などにかかった場合に重症化する危険性があります。インフルエンザが流行する冬にはうがいを励行する、秋には前もってワクチン接種受けておくなど、十分に注意することも大切です。

2022/08/16

🇫🇯マイコプラズマ肺炎

微生物のマイコプラズマの感染で、子供に多く起こる肺炎

マイコプラズマ肺炎とは、微生物のマイコプラズマの感染によって起こる肺炎。マイコプラズマは細菌より小さくウイルスより大きな微生物で、生物学的には細菌に分類されますが、ほかの細菌と異なるところは細胞壁がない点です。

感染している人との会話や、せきに伴う唾液(だえき)の飛沫(ひまつ)によって感染します。インフルエンザのような広い地域での流行はみられず、学校、幼稚園、保育所、家庭などの比較的閉鎖的な環境で、散発的に流行します。日本では一時期、4年ごとのオリンピックの開催年に一致してほぼ規則的な流行を認め、オリンピック病とかオリンピック肺炎と呼ばれたこともありましたが、1990年代に入るとこの傾向は崩れて毎年、地域的に小流行を繰り返すようになっています。

季節的にはほぼ1年中みられ、特に初秋から早春にかけて多発する傾向がみられます。好発年齢は、幼児から学童、特に5~12歳に多くみられます。4歳以下の乳幼児にも感染はみられますが、多くは不顕性感染または軽症です。潜伏期間は1~3週間。

風邪に似た症状が現れ、中でもせきが激しいのが特徴。たんは少なめです。たんの出ない乾いたせきが激しく、しかも長期に渡って続き、発作性のように夜間や早朝に強くなります。胸や背中の筋肉が痛くなることも、珍しくありません。

38〜39度の高熱、のどの痛み、鼻症状、胸痛、頭痛などもみられますが、肺炎にしては元気で全身状態も悪くなく、普通とは違う肺炎という意味で非定型肺炎とも呼ばれます。

マイコプラズマ肺炎の検査と診断と治療

学校、幼稚園、保育所などで小流行することが多いので、子供のにせきや発熱などの症状がみられたら、早めに呼吸器科や小児科を受診します。比較的軽症なために普通の風邪と見分けがつきにくく、診断が遅れることがありますが、まれに心筋炎や髄膜炎などを併発することもありますので、油断はしないほうがいいでしょう。

胸部X線撮影によって肺炎自体の診断はつきますが、原因を確定するのに時間がかかります。咽頭(いんとう)から採取した液を培養してマイコプラズマを検出するまでに、通常1~2週間を要するためです。

一般に自然治癒傾向の強い疾患ですが、マイコプラズマが検出できない間は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の両方を想定した治療が行われます。細菌性肺炎と同様、抗生物質によってマイコプラズマを排除しますが、有効な薬を選ばなければ効果が得られません。

マイコプラズマは細胞壁を持たないので、細胞壁合成阻害剤であるペニシリン系やセフェム系の抗生物質は効果がありません。蛋白(たんぱく)合成阻害剤を選択しなければなりません。中でもマクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗生物質が効果を上げます。小児では、副作用のことも考慮してマクロライド系の抗生物質が第1選択薬です。ニューキノロン系も有効ですが、小児への適応のないものがほとんどです。

ほとんどの場合、外来の内服治療でマイコプラズマ肺炎は治ります。ただし、小児では重症例や合併症も多く、高熱で脱水症状があるとか、激しいせきで眠れなかったり、食欲が大きく妨げられているような場合は、入院が必要になります。

子供が学校などからマイコプラズマを持ち帰ると、1〜3週間の潜伏期間を経て、家族に感染することがよくあります。予防接種はなく、決定的な予防法はありません。家庭ではマスクやうがい、手洗い、発症者の使うタオルやコップを使わないなど、普通の風邪と同じような予防法を心掛けます。

🟧アメリカの病院でブタ腎臓移植の男性死亡 手術から2カ月、退院して療養中 

 アメリカで、脳死状態の患者以外では世界で初めて、遺伝子操作を行ったブタの腎臓の移植を受けた60歳代の患者が死亡しました。移植を行った病院は、患者の死亡について移植が原因ではないとみています。  これはアメリカ・ボストンにあるマサチューセッツ総合病院が11日、発表しました。  ...