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2022/08/21

🇧🇭大腿四頭筋拘縮症

乳幼児や小児の太腿の前面にある大腿四頭筋が硬くなって、本来の機能が損なわれ、歩行や正座が困難になる疾患

大腿四頭筋(だいたいしとうきん)拘縮症とは、乳幼児や小児の太腿(ふともも)の前面にある大腿四頭筋が硬く線維化して、本来の機能が損なわれ、歩行や正座が困難になる疾患。大腿四頭筋短縮症とも呼ばれます。

大腿四頭筋は大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋の4つの筋からなる筋肉で、骨盤および大腿骨から起こり、下のほうへ伸びていって膝蓋(しつがい)骨を包んで共同の膝蓋腱(けん)となり、脛(けい)骨粗面へ付着する強大な筋肉です。

大腿四頭筋拘縮症の多くは、小児期に明瞭となり、歩行開始から学童期ごろまでに発症します。通常は大腿四頭筋のすべてではなく、大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋のうちの1つか、2つが障害されます。

すでに1946年に疾患が報告されていましたが、当時は先天的なものと考えられていました。しかし、1970年代に入って日本各地で多発し、社会問題となりました。そこで、日本医師会は1974年に検討委員会を設け、その原因として、まれにある先天的なものと、乳幼児や小児の大腿四頭筋への抗生剤や解熱剤の皮下注射や筋肉注射によるものとがあることを明らかにしました。

しかし、大腿四頭筋に注射を受ければ必ず筋肉の線維化が生じるわけではなく、むしろ一部に発生するものと思われます。注射薬の種類、濃度、量、回数などの各種の要素のほか、乳幼児や小児の体質といったものも関係しています。

大腿四頭筋拘縮症のほとんどは、足の不自由や歩行異常を来し、痛みなどを生じることはあまりありません。また、立位になると、出っ尻(ちり)の状態を示します。硬く線維化した筋肉と骨との成長の不均衡のために、骨の成長障害や変形をもたらすこともあり、左右の脚の長さが数センチ違ってしまうこともあります。

また、大腿四頭筋拘縮症は3つのタイプに分けられ、タイプによって症状に違いもあります。

大腿直筋が障害される直筋型では、尻(しり)上がり現象がみられます。尻上がり現象は、うつ伏せに寝て膝(ひざ)を曲げると、尻が浮き上がる現象をいいます。直筋型の場合、正座は程度の差はありますが、可能です。

大腿直筋と外側広筋が障害される混合型では、尻上がり現象がみられ、正座もできません。外側広筋と中間広筋が障害される広筋型では、尻上がり現象はみられませんが、正座ができません。

また、直筋型、混合型では、悪いほうの脚を外側へ振り回しながら歩くぶん回し歩行や、出っ尻歩行といった歩き方の異常がみられる場合があります。広筋型では、膝を突っ張って歩く棒足歩行といった歩き方の異常がみられる場合があります。

大腿四頭筋拘縮症の検査と診断と治療

整形外科、あるいは形成外科の医師による診断では、太腿への筋肉注射を受けたことがあって、そこに皮膚のくぼみや硬いしこりがあり、それに加えて足の不自由や歩行異常があれば、容易に判断できます。

関節の状態を判定するためにX線(レントゲン)検査を行ったり、筋肉の状態を把握するためにMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行う場合があります。

整形外科、形成外科の医師による治療では、年齢や、障害された筋肉や程度に応じて、方針を立てます。乳幼児である場合には、そのまま経過観察して筋力の増強を図ります。

小児の重症例に対しては、筋膜、靭帯(じんたい)、障害されている筋肉を切る筋切離術を行うのが一般的です。

手術を行うことにより、尻上がり現象の程度が軽くなったり、正座ができるようになったり、歩き方がよくなったりすることが期待できます。

しかし、手術前の状態によってもその成績は異なり、症状が再発したり、再手術が必要になることがあります。また、筋肉を切るために術後に筋力が低下する場合があります。

予防法としては、皮下注射、筋肉注射を問わず、注射の乳幼児や小児への乱用を慎むこと第一で、医者で治療を受ける時は保護者が十分な説明を受けることが大切です。

なお、注射による筋肉の拘縮は、大腿四頭筋のほか、殿(でん)筋、三角筋、上腕三頭筋などにもあり、注射部位として絶対安全なところはありません。

🇧🇭大腿骨疲労骨折

正常な大腿骨に骨折を起こさない程度の負荷が、ランニングで繰り返し加わった場合に生じる骨折

大腿骨(だいたいこつ)疲労骨折とは、太ももの骨である大腿骨に、正常な状態では骨折を起こさない程度の負荷が、ランニング中心のスポーツ活動で繰り返し加わった場合に生じる骨折。

骨折は、骨が壊れることを意味し、ヒビも骨折ですし、骨の一部分が欠けたり、へこんだ場合も骨折です。正常な骨では、かなり大きな負荷がかからないと骨折しませんが、正常な骨に小さい負荷がかかる場合でも、同じ部位に繰り返し長期間かかり続けて、骨にヒビが入る微細な骨折を生じたり、ヒビが進んで完全な骨折に至る状態が疲労骨折です。

疲労骨折のほとんどは、スポーツ活動で激しいトレーニングをしている運動部の学生や社会人に生じます。陸上、サッカー、野球、バスケットボールなどあらゆるスポーツ活動で発生する可能性があり、それぞれのスポーツ活動ごとに疲労骨折を生じやすい部位があります。

下肢の中で最も太い大腿骨に疲労骨折を生じるスポーツ活動としては、まず陸上のマラソン、長距離走が挙げられ、そのほかのスポーツ活動でも、走り込みを続けることで生じます。

長時間のランニングによって、過度の体重の荷重が上方から繰り返し加わったり、地面をける際に生ずる突き上げが下方から繰り返し加わったり、大腿四頭筋、ハムストリング、内転筋などの大きな筋群による張力が繰り返し加わることによって、股(こ)関節から膝(しつ)関節に至る長い骨である大腿骨の付け根の頸部(けいぶ)から、骨幹部、膝に近い顆上部(かじょう)まで、骨の構造的な弱点といえる部位にまさまざまな疲労骨折が発生します。

頸部の疲労骨折は、股関節を介した体重の荷重による衝撃のため生じます。外側に張力、内側に圧縮力が加わる繰り返される負荷により、頸部を内反させる力が強く作用すると、外側からヒビが入ります。さらに、内反力が加わると、離解して転位します。

骨幹部の疲労骨折は、内側に生じます。これは内転筋による牽引(けんいん)張力のためだと考えられています。顆上部の疲労骨折は、内転筋やふくらはぎ後面の腓腹(ひふく)筋などの牽引張力が作用して発生します。

大腿骨疲労骨折を生じても、一般の外傷性骨折のように皮下出血や著しい腫脹(しゅちょう)を伴うことはありませんが、骨折部位は軽度の腫脹を伴い、押さえると痛みを生じます。骨幹部の疲労骨折、顆上部の疲労骨折では、その大半が膝の痛みを生じます。

痛みは、ランニングの開始時に強く出て、運動途中は痛みが軽くなります。運動終了時から終了後にかけて、痛みが強くなります。運動を休んでいる間は、痛みはほとんど出現しません。

短期的に集中的なランニングを行った時に、大腿骨疲労骨折が生じることが多いのも特徴です。競技者の要因としては、筋力不足、筋力のアンバランス、走る姿勢や走法のアンバランス、O脚やX脚や外反足などの下肢の構造的アンバランス、体の柔軟性不足などが考えられ、環境の要因としては、オーバートレーニング、競技者の体力や技術に合わないトレーニング、不適切なシューズ、練習場が硬すぎたり軟らかすぎるなどが考えられます。

症状が時としてわかりにくいことがあるのも大腿骨疲労骨折の特徴で、痛みのある部位が漠然としていることが多いともされています。

明らかな外傷がなく、ランニング中心のスポーツ活動時に大腿部の痛みを感じる場合は、疲労骨折が疑われます。整形外科を受診することが勧められます。

大腿骨疲労骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、骨の痛みがある部位と症状、スポーツ活動の種類などから判断します。

骨折の初期の段階では、X線(レントゲン)検査を行ってもほとんど異常を示さず判断が難しいこともありますが、骨折後1カ月程度で骨膜反応という骨折の修復により異常がわかります。骨シンチグラフィー検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うと、骨折の初期の段階の病変でも判断することが可能です。

骨折の初期の段階で診断を確定できない場合に、痛みを誘発して再現するテストを行って、骨折の可能性を検査することもあります。頸部の骨折では、片脚ジャンプで痛みが誘発されます。骨幹部の骨折では、大腿骨の下に堅い支点となるような物を入れて、大腿骨をしならせるような状態にすると、痛みが誘発されます。顆上部の骨折では、抵抗をかけて膝を屈曲させると痛みが誘発されます。

整形外科の医師による治療では、骨折部に負担のかかるランニングなどのスポーツ活動を休止し、必要に応じて固定を行います。一般には、4〜8週間の固定が必要となることが多く、激しい負荷のかかる競技者の場合には、12〜16週間の固定による安静が必要となることも珍しくありません。

固定による安静期間の後に、徐々にリハビリを開始します。まずは、日常生活だけのリハビリを行い、続いて、痛みが生じない範囲に制限してスポーツ活動を再開します。疲労骨折の場合、同じ部位が再骨折する可能性が高いため、慎重に運動を再開する必要があります。

転位のある骨折の場合や、頸部の外側骨折の場合は、手術が必要となることがあります。また、手術後のリハビリが最低6カ月間必要となります。

再発予防としては、疲労骨折が発生した要因を検討し、通常のトレーニングが過度にならないようにしたり、運動前後にストレッチを行ったりして、普段からコンディションの調整をすることも大切です。

🇧🇭大腿神経痛

太ももの前部と側面を支配している大腿神経が圧迫を受けて起こる神経痛

大腿(だいたい)神経痛とは、太ももの前部と側面を支配している大腿神経が何らかの圧迫を受けることによって、痛みなどが生じる神経痛の一つ。

大腿神経は、股関節(こかんせつ)周囲筋を支配する運動神経の一種で、座骨神経の上部にある比較的太い神経です。第2、第3、第4腰椎(ようつい)の腹側から神経根を形成して、脊髄神経より分枝し、骨盤の前面を通り、鼠径(そけいぶ)部、太ももの前部、さらに下腿まで続き、腰から下肢にかけての神経系統として座骨神経と対をなしています。

痛みの症状としては、座骨神経痛では下肢の裏側に走るのに対して、大腿神経痛は下肢の表側に走るのが特徴です。つまり、尻(しり)の裏から、片側、あるいは両側の太ももの前や外側、膝(ひざ)下の内前側にヒリヒリとした痛みを感じます。そして、痛みだけでなく、しびれや神経の鈍りを覚えます。さらに、太ももだけでなく、腰が痛むこともあります。

大腿神経痛の原因は、ほとんどが腰椎疾患からきています。腰椎疾患による骨盤のゆがみによって骨盤周辺の筋肉が圧迫され、大腿神経も圧迫されることにより引き起こされます。このゆがみにより、障害部位が異なります。

大腿神経を支配している第2、第3腰椎間の神経根、および第3、第4腰椎間の神経根が障害されると、神経痛が起こります。これを根性大腿神経痛といい、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症、変形性脊椎症、腰椎すべり症、腰椎不安定症などで発症します。

高齢者で多いのは腰部脊柱管狭窄症からくる神経痛で、その症状は歩いていると腰、足の痛みやしびれがひどくなりついには歩けなくなる、前かがみの姿勢は楽だが後ろに反らすと痛い、朝より夕方のほうが痛みとしびれが強いのが特徴。若年者から壮年者に多いのは腰椎椎間板ヘルニアからくる神経痛で、骨盤前面から股関節にかけて痛みが生じることがあります。

また、大腿神経は股関節の前部では大腰筋の中を走っており、この大腰筋がゆがみで緊張すると神経痛が発症します。これを絞扼(こうやく)性大腿神経痛といいます。

腰椎疾患による骨盤のゆがみ以外に、コルセットの着用、腰椎牽引(けんいん)、ギプスによる圧迫、窮屈な下着やズボンの着用、べルトやガードルの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎ、長時間の股関節屈曲位、外傷などが原因で、大腿神経が圧迫されて神経痛が起こることもあります。

さらに、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、大腿神経が圧迫されて神経痛が起こることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、大腿神経痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な大腿神経の圧迫により障害されることもあります。

大腿神経痛を引き起こす原因である神経の圧迫には、さまざまな原因が考えられます。中には深刻な疾患が原因であることもあるので、まず整形外科、ないし神経内科の医師を受診し原因を突き止めることが必要です。

大腿神経痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、腰椎や骨盤のX線写真、MRI(磁気共鳴画像)検査などで、神経の圧迫像を確認し、腰椎椎間板ヘルニアや変形性腰椎症などの疾患がないかどうかをチェックします。

必ずしも神経の圧迫像がなくても、痛みが生じる場合も割にあり、MRI検査では見付けにくいような小さな突起物が神経を圧迫していることもあります。

整形外科、神経内科の医師による治療は、大腿神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、大腿神経痛を起こしている原因によって変わってきますが、リリカ(プレガバリン)という神経痛治療内服剤、トラムセット配合錠という内服鎮痛剤などの内服、外用が有効とされています。ただし、リリカには、ふらつき、めまい、眠気、意識消失などの副作用があり、飲んでいる間は車の運転はできません。トラムセットには、投与初期に吐き気、慢性的には便秘などの副作用があります。

痛みが強い場合は、局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経根ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で大腿神経が圧迫された時には、脊髄の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。局所麻酔薬の種類を変えたり、投与濃度、投与量を変えたりして行い、硬膜外ブロックを何回か繰り返すと、痛みが急速に、あるいは徐々に軽減してゆくケースが多くみられます。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、大腿神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯(じんたい)や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

🇶🇦大腸カタル

細菌が原因で大腸に起こる炎症

大腸カタルとは、急性胃腸炎の中で、主として赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなどの細菌が原因となって、嘔吐(おうと)を伴わずに、炎症が大腸に限局しているような疾患を指します。急性大腸炎と呼ぶこともあります。

実際には、急性胃腸炎と大腸カタルの区別は、臨床症状だけでは付きにくいものです。

大腸カタルの症状としては、急性胃腸炎と同じように腹痛、下痢、発熱を伴います。特に下腹痛があり、しばしば渋り腹で、便意を催したりもします。下痢の便には、粘液、うみ、時には血液が混じります。

血便が出る腸炎について、かつては「血便すなわち赤痢」という考えが強かったのですが、近年では赤痢菌による血便はほとんどみられなくなりました。

現在、血便を出す下痢症で頻度の高いのは、サルモネラ菌とカンピロバクターによるもの。食中毒の原因菌として有名なサルモネラ菌とカンピロバクターは、腸炎の原因菌となることも多いのです。ほかに、病原大腸菌による血便もあります。

細菌に有効な抗生物質で治療し、食事制限

サルモネラ菌は抗生物質を使っても使わなくても、全身状態の管理さえしっかり行えば、その効果はほとんど変わらないと見なされています。

カンピロバクターには、抗生物質のエリスロマイシンが効果的。そのほかの原因菌による場合も、その細菌に有効な抗生物質が用いられます。

全身状態の管理は、胃腸炎と同じで、食事制限を行い、水分を十分に摂取します。下痢が少し治まったら、流動食から普通食へと移行していきます。なお、口から食べ物が取れない場合は、輸液を行う必要があります。

🇶🇦大腸カルチノイド

がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が大腸粘膜下に発生した疾患

大腸カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が大腸粘膜下に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。消化管内分泌細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍と呼ばれることもあります。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

盲腸から始まる大腸は、時計回りに上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸に区別できますが、大腸カルチノイドは特に直腸に多く、盲腸の先端にある虫垂、結腸にも発生します。直腸カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸を含めた消化管カルチノイドの約4分の1を占め、全直腸がんの1パーセント未満を占めます。

大腸に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、表面は大腸粘膜で覆われています。

胃や小腸にできたカルチノイド、あるいは虫垂や結腸にできた大腸カルチノイドでは、その腫瘍がセロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を分泌し、顔面紅潮、下痢、喘息(ぜんそく)などカルチノイド症候群と呼ばれる症状が出ることがあります。

顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状。この血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることもあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支喘息に似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。

ただし、直腸にできた大腸カルチノイドでは、このようなカルチノイド症候群の症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。

無症状の直腸カルチノイドは、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。

大腸カルチノイドを放置しておくと、転移して大腸がんのような経過をたどることがあります。最悪の場合は命を落とすこともあるので、カルチノイド症候群による種々の症状、あるいは血便などが現れた場合は、消化器科、外科の医師を受診します。主症状が腹痛なので、内科を受診することがあるかもしれませんが、それでも問題はありません。

大腸カルチノイドの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、症状から大腸カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査(放射性核種スキャン)が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。腫瘍の位置の診査手術が必要な場合もあります。

腫瘍が虫垂、結腸、直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。大腸カルチノイドの腫瘍径が1cm以下の良性である場合は、内視鏡切除が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm以下である場合は、大腸壁の筋層まで入っていることが少なくないので、外科手術で局所切除をすべきだと考えられています。腫瘍径が2cm以上であり、表面が結節状になっていて、びらん、潰瘍を伴う悪性である場合は、原則として外科手術が必要となります。

ただし、腫瘍径が1cmに満たないものでも、切った断面にカルチノイド細胞が残ることがあります。そのため、切除をした後に再発の有無について調べる病理検査を定期的に受けなくてはなりません。

腫瘍径が2cmを上回る場合は、リンパ節に転移する可能性が高くなってくるため、大腸がんと同様に腸を切除する根治手術が原則として行われます。放置すると腫瘍が増殖を続け、大腸がんと同じ経過をたどります。

直腸カルチノイドの治療では、経肛門(けいこうもん)的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)という手術法も有効だとされています。これは、腹部を切開しなくても、肛門から直腸の奥深くまで届き、顕微鏡を見ながら正確な手術ができるという手術法です。筋肉も含めてカルチノイド細胞を完全に切除し、縫合もきれいにできるとされています。

腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ、10〜15年生存することがしばしばあります。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。

🇶🇦大腸がん

食生活の欧米化で増加する一方

大腸がんとは、大腸の粘膜に悪性の腫瘍(しゅよう)ができた疾患です。発生部位によって、大腸の大部分を占める結腸にできた結腸がんと、肛門(こうもん)までの10センチ前後に相当する直腸にできた直腸がんとに分類できます。

従来、日本人には比較的少ないがんとされてきましたが、近年、増加する一方で、年間約6万人の罹患(りかん)者数は、胃がんに迫っています。この大腸がんの増加の原因として、食生活の欧米化による、食物繊維の摂取不足と動物性脂肪の摂取増加が挙げられます。

大腸がんの発生部位でみると、直腸と結腸で半々の割合ですが、結腸の中でもS状結腸がんが増加する傾向にあります。罹患の頻度は男性、女性ともに同じで、60代が一番多く、70代、50代と続きます。若年者の大腸がんでは、遺伝的な素因もあると見なされています。

結腸がんの症状は腹痛と血便

盲腸、結腸、直腸の3部からなる大腸のうち、結腸にできた悪性の腫瘍が、結腸がんです。結腸は、上行、横行、下行、S状の各結腸からなります。

長さ約1・5メートルに渡る大腸の壁は、内腔側から粘膜(固有層)、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層という5つの層に分かれています。このうち、がんが粘膜内から粘膜下層にとどまっているものを早期結腸がん、固有筋層以下にまで進んでいるものを進行結腸がんといいます。

最もがんができやすいのは、直腸に近いS状結腸で、下行結腸、横行結腸、上行結腸の順に少なくなっていきます。 小腸から送られてきた内容物である便のもとは、管腔(かんこう)の広い上行結腸に入った時には、まだ水のような状態です。管腔の狭い下部の下行結腸からS状結腸に至って、特に硬くなるために腸壁を傷付けてしまうことがあるのが、S状結腸や下行結腸にがんが多い理由です。同時に、硬くなった便の滞留時間が長くなることも、悪影響を与えると考えられています。

結腸がんの初期症状として最も多いのは、腹痛。右側の結腸、すなわち盲腸及び上行結腸、横行結腸右半分のがんでは、80パーセントに腹痛が認められ、嘔吐(おうと)を伴うことが少なくありません。また、がんの部位からの出血によって血便が出ることがありますが、これは鮮やかな赤色ではなく、便が全体に暗赤色に変わったり、黒っぽい血塊が便に混じったりします。

左側の結腸、すなわち横行結腸左半分、下行結腸、S状結腸では、がんのために腸が狭窄(きょうさく)を起こすことが多く、便秘と下痢が交互に繰り返して起こったり、腸の一部がふさがる腸閉塞(へいそく)症を起こしたりします。

早期症状としては、やはり腹痛が最も多く、差し込むような痛みが多く生じます。血便などの下血症状も、半数の人に認められます。

しかし、結腸がんでは、発病してから2~3年はほとんど自覚症状を感じないままに過ぎ、貧血が進行して倒れるようになってから、初めてがんと知ることもあります。

ポリープから発生する直腸がん

大腸のうち、直腸の粘膜にできた悪性の腫瘍が、直腸がんです。直腸は便の滞留時間が長いため、腸壁が傷付くことが多く、さらに排便時の硬い便がさまざまな刺激となり、がんの前身である腺腫(せんしゅ)性ポリープを発生させる原因になると考えられています。

直腸がんでは、この腺腫性のポリープから発生するものが大部分で、腺腫を介さず直接粘膜からがんが発生するものは少数です。

代表的な初期症状は、血便。がんの前身であるポリープが大きくなると、便秘しがちになり、便がポリープを傷付けて出血を起こします。さらに、ポリープにがんが発生して広がってくると、崩れて傷付き、出血するようになります。

肛門からの出血は、痔(じ)出血と間違えるほど真っ赤ですから、非常にはっきりした自覚症状といえます。血液だけではなく、粘液の排出もしばしばあり、がんが進むと、悪臭のある腐敗性のものが排便と同時に排出されます。

また、直腸の炎症を一緒に起こすため、下痢と度重なる便意がくることもあります。がんのために直腸が狭まると、便が細くなり、周囲に血液が付いてきます。出血を繰り返すと、貧血が強くなり、めまいを起こすようにもなります。

痛みは初期にはほとんどなく、がん病巣の潰瘍(かいよう)が大きくなったり、直腸の狭窄が強まったりすると、腹部膨満や腹痛、あるいは肛門や臀部(でんぶ)に放散する痛みが起こります。

しかし、これといった症状がほとんどないうちに突然、腸閉塞症として発病することもまれではありません。

医師による検査、診断、治療

大腸がんは、早期のうちに発見し患部を取り除けば、ほぼ100パーセント近く完治できる病気です。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査で、陽性と出た場合には、大腸X線検査や大腸内視鏡検査が行われます。しかし、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。

排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血の有無、腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では腫瘤(しゅりゅう)、すなわち、こぶを触れることがあり、直腸がんでは肛門から指を入れて触るだけで、ポリープ、がんなどの有無を診断できることもあります。ポリープがあれば、内視鏡でポリープ全体か部分を採取して、組織検査を行い、良性か悪性かを診断します。

確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で良性か悪性かを調べます。ポリープやごく早期のがんであれば、内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能。

また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや、肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために、腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査を行うこともあります。近年では、早期がんの進行度を調べて治療方針を決めるために超音波内視鏡検査を行うこともあります。

大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。がんが粘膜下層までにとどまっている早期がんの中でも、粘膜下層の浅いところまでであれば転移の心配はなく、内視鏡での治療が可能です。また、肛門に近いところにできた早期の直腸がんでは、おなかを開けずに手術を行います。

リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや、固有筋層以下にまで達している進行がんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節をきれいに取り除き、残った腸をつなぎ合わせます。

また、近年では小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても、行われるようになってきています。

進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる低位前方切除術が行われ、最近ではさらに、術後の性機能や排尿機能を温存するように必要最低限の手術が行われています。

それ以外では、人工肛門(ストーマ)が必要なマイルス法で手術が行われます。人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。

がんが広がりすぎていて不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。

生活習慣の改善アドバイス

大腸がんの発生を防ぐには、生活習慣を改善することです。完全ではありませんが、ある程度の予防は可能です。

●食物繊維を豊富に含む、野菜、いも類、穀類、茸類、海草類などを積極的に取る

●主食はなるべくご飯にする

●動物性の高脂肪、高蛋白(たんぱく)の食物を過度に取りすぎない

●1日3回決まった時間に食事をする

●禁煙する

●お酒は適量を守る

●規則正しい排便習慣を身に着け、便意を我慢しない

●生活リズムを整え、毎日適度な運動をする

🇾🇪大腸憩室

大腸粘膜の一部が腸壁外へ袋状に突出した状態

大腸憩室とは、腸管内圧の上昇などによって、大腸粘膜の一部が腸壁外へ嚢胞(のうほう)状に突出した状態。憩室は消化管の一部が嚢胞状に突き出したものを指し、嚢胞は液体を満たした袋を意味します。

大腸憩室が多発した状態を大腸憩室症といいます。憩室壁に筋層がある先天性憩室と、筋層を欠く後天性憩室に分けられますが、大部分は後天性憩室で比較的高齢者に多くみられます。

憩室のできるところは、腸壁の筋層が弱く、血管の出入りしているところで、腸管膜の付着部に好発します。従来、日本人は右側の大腸である盲腸、上行結腸に多くでき、欧米人は左側の大腸であるS状結腸に多くできるのが特徴でした。近年では食事や生活様式が欧米化してきた影響で、日本人にもS状結腸に憩室ができるようになり、また、全大腸型といって左右の大腸に多発する傾向もみられます。

その原因として、食習慣の欧米化とともに肉食が多くなって、食物繊維の摂取量が減少したため、便秘や腸管のれん縮、ひいては腸管内圧の上昇を起こしやすくなったことが挙げられます。そのほか、超高齢化社会が到来して、加齢によって腸管壁が脆弱(ぜいじゃく)化した高齢者が増えたことも挙げられます。

糞便の(ふんべん)の硬さ、通過の関係から、盲腸、上行結腸の憩室は比較的無症状です。S状結腸の憩室は、時に下痢、軟便、便秘などの便通異常、腹部膨満感、腹痛などの腸運動異常に基づく症状を起こします。

合併症として憩室出血や憩室(周囲)炎を起こし、強い腹痛、下痢、発熱、血便などを伴います。憩室炎は憩室内に便がたまって起こるとされ、進行すると穿孔(せんこう)、穿孔性腹膜炎、狭窄(きょうさく)による腸閉塞(へいそく)、周囲臓器との瘻孔(ろうこう)形成を生じ、開腸手術が必要なことがあります。

大腸憩室の検査と診断と治療

合併症を予防する目的で、できるだけ繊維成分の多い食事を摂取し、便通を整えるように心掛けることが大切です。合併症を疑う症状が現れた場合は、できるだけ早く消化器内科を受診します。

大腸憩室の診断には、注腸造影X線検査が最も有用です。大腸内視鏡検査でも、粘膜面に円形または楕円(だえん)形のくぼみとして認められますが、憩室そのものの診断能力は注腸造影X線検査よりも劣ります。しかし、合併症として出血を伴う場合は大腸内視鏡検査が第一選択で、大量出血を伴う場合は血管造影が必要となります。合併症として憩室(周囲)炎を伴う場合は、腹部超音波、CT、MRIなどの検査が有用です。

なお、注腸造影X線検査で映し出された憩室とポリープの鑑別がはっきりしない場合は、大腸内視鏡検査が必要で、ポリープとわかったら、内視鏡的ポリペクトミーで切断します。

一般には、憩室が発見されても、無症状であれば放置しておいてもかまわず、特に治療の必要はありません。腹痛など腸運動異常に基づく症状がある時は、薬物の投与が行われます。憩室炎を合併した場合は、入院の上、絶食、輸液、抗生剤の投与が行われます。このような治療で憩室出血の多くも止血しますが、大量出血が持続する場合は、血管造影や内視鏡検査を行った際に止血術が行われます。

保存的治療で軽快しない場合、再発を繰り返す場合、腹膜炎や腸閉塞の場合は、外科的治療が必要です。

🇾🇪大腸ポリープ

大腸の粘膜の一部が隆起したもので、がん化する可能性も

大腸ポリープとは、大腸の粘膜の一部が盛り上がった組織。盲腸、結腸、直腸の3部からなる大腸のうち、大腸ポリープ全体の7割が直腸に近い部位にできます 。

大腸ポリープの大きさは、数ミリから3センチ程度まであります。大腸ポリープの形は、茎のある有茎性できのこ状のものと、無茎性でいぼ状のもの、平らに隆起したものなどがあります。

また、発生の仕組みから、一部の細胞が異常増殖する腫瘍(しゅよう)性ポリープと、細胞が異常増殖しない非腫瘍性ポリープに、大きく分けられます。

腫瘍性ポリープの大部分は、良性であり、腺腫(せんしゅ)と呼ばれます。大きさが増すに従って、部分的に小さながんを伴っていることが多くなり、それは腺腫内がんと呼ばれます。すなわち、腺腫の一部は放っておくと、がんになることがあります。このために、腺腫は前がん病変とも呼ばれます。

非腫瘍性ポリープには、小児に多い若年性ポリープ、高齢者に多い過形成性ポリープ(化生性ポリープ)、腸炎後にみられる炎症性ポリープ、ポイツ・イェガース型ポリープなどが含まれます。いずれも良性で、がんとは無関係です。

腫瘍性ポリープの大部分を占める腺腫は、がんと同様に、生活習慣などの環境要因と遺伝要因が絡み合って生じると考えられています。環境要因では食事が最も重要であり、高脂肪食と低繊維食が危険因子とされています。すなわち、高脂肪食によって腸内の発がん物質が増加する一方で、繊維成分を抑えた低繊維食は糞便(ふんべん)の排出を遅らせる結果、発がん物質が腸内に長時間たまり、腺腫やがんが発生しやすくなると考えられています。

小さな大腸ポリープは無症状のものがほとんどですが、大きくなってきたり、がん化すると、血便が起こります。大腸ポリープの大きさや存在部位によって、便に赤い血液が付着する場合と、肉眼的には異常を認めず、便潜血テスト陽性で初めて血便に気付く場合があります。

特に、非腫瘍性の若年性ポリープは、自然脱落して出血しやすいのが特徴で、大きなポリープでは上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を起こしたり、肛門(こうもん)外に出てしまうこともあります。

血便に気付いたり、企業や地域の集団検診、人間ドックなどで便潜血テスト陽性を指摘されたら、できるだけ早く消化器科、消化器内科、消化器外科、外科、あるいは肛門科を受診し、大腸の検査を受ける必要があります。

大腸ポリープの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔(ないくう)を観察する大腸内視鏡検査、または食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査を行います。

どちらの方法でも診断は可能ですが、最近は、ポリープ発見時に直ちに採取して組織検査を行えるため、大腸内視鏡検査のほうが優先される傾向にあります。

ポリープが良性か悪性かを区別する性状診断は、顕微鏡を使った組織検査で確定します。最近では、組織検査を待つまでもなく、70倍の拡大機能を持つ内視鏡(拡大内視鏡検査)や、特定波長の光で観察する内視鏡(NBI内視鏡検査)によって、ポリープの表面の細かい模様を観察するだけで、即座に性状診断が行えるようになってきました。

消化器科などの医師による治療では、腫瘍性ポリープである腺腫は、前がん病変と考えられるため、内視鏡を使って切除します。

有茎性できのこ状のものあれば、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。

無茎性でいぼ状のものと平らに隆起したものであれば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行います、

これらの方法によって、ポリープ全体を組織検査することが可能になり、診断と治療の両方を兼ねることができます。

また、腺腫の中でも、大小の結節が群がり集まっている大きな無茎性の隆起である結節集簇様(けっせつしゅうぞくよう)病変に対しては、分割切除による内視鏡的粘膜切除術を行います。このような大きな病変を一括して切除するために、内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)や、腹腔鏡を用いた手術が行われることもあります。

非腫瘍性ポリープはいずれも良性で、通常がん化することはないため、積極的に切除する必要はありません。しかし、有茎性で大きなポリープは、出血や腸重積を起こす可能性があるため、内視鏡的ポリペクトミーを行って切除します。

🇾🇪大腸ポリポーシス

ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴う疾患群

大腸ポリポーシスとは、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、大腸以外の消化管や全身の臓器にも異常を伴いやすい疾患群。消化管ポリポーシス、ポリポーシス症候群とも呼ばれます。

種々の疾患が含まれていますが、腫瘍(しゅよう)性の大腸ポリポーシスと、非腫瘍性の大腸ポリポーシスに大きく分けられます。

腫瘍性の大腸ポリポーシスには、家族性大腸腺腫(せんしゅ)症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)とターコット症候群があります。

非腫瘍性の大腸ポリポーシスには、過誤腫性の大腸ポリポーシスであるポイツ・イェガース症候群、若年性ポリポーシス、コーデン病、結節性硬化症、また炎症性の大腸ポリポーシスである炎症性ポリポーシス、良性リンパ濾胞(ろほう)性ポリポーシス、さらにそのほかの大腸ポリポーシスである過形成性ポリポーシス、クロンカイト・カナダ症候群が含まれます。

腫瘍性の大腸ポリポーシスおよび過誤腫性の大腸ポリポーシスに分類される疾患は、いずれも遺伝性があるので、まとめて遺伝性消化管ポリポーシスとも呼ばれます。

家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)

家族性大腸腺腫症は、遺伝子の変異が原因で、10歳代の半ばごろから、大量のポリープが大腸にできる疾患。

ポリープと呼ばれるいぼのようなものの中でも、良性のものは腺腫と呼ばれますが、大腸に数百個から数千個という多数のポリープができるのが特徴です。

2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、5番目の染色体にあるAPC遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、一部はAPC遺伝子以外のMUTYH遺伝子の異常によって起こり、常染色体劣性遺伝を示します。

ポリープの発生は多くの場合学童期に始まりますが、ポリープの数が数十個と少ない人や、成人以後にポリープが多発する人もいます。

ポリープが大きくなり、1センチ以上になると、3、4個に1個はがん化します。

この家族性大腸腺腫症では、20歳代ごろから大腸がんになる人が出始め、40歳までに半数、60歳までには90パーセントが大腸がんになるとされます。

症状としては、ポリープが多発するために、血便が出たり、貧血になったりすることがあります。また、下痢や便秘などの便通異常になることもあります。大腸以外にも、胃、十二指腸、小腸、骨、軟部組織、目など全身の臓器に、ポリープあるいは腫瘍状病変ができることがあり、それぞれの症状を現すことがあります。

大腸にポリープが一般に100個以上ある人は、家族性大腸腺腫症が疑われます。ポリープの数が100個以下でも、近親者に大腸ポリープが多発している人がいる場合、家族性大腸腺腫症が疑われます。

大腸切除を行わなければ、将来ほぼ100パーセント大腸がんができます。血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門(こうもん)科の医師を受診します。

ターコット症候群

ターコット症候群は、ポリープが大腸の全体に多数できるとともに、脳など中枢神経系の腫瘍を伴う遺伝性の疾患。家族性大腸腺腫症とは別の疾患と考えられています。

大腸にできるポリープの数は、家族性大腸腺腫症に比べて少ない傾向にあるものの、比較的大きな腺腫が認められ、がんが高率に合併するとされています。

ポイツ・イェガース症候群

ポイツ・イェガース症候群は、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できるとともに、皮膚粘膜の色素沈着を伴う遺伝性の疾患。消化管がん、卵巣がん、子宮がんなど多臓器にわたってがんが高率に合併し、がんの高危険群とされています。

ポリープは、食道を除く胃から大腸までの消化管全体に発生します。特に、小腸が好発部位で、しばしば上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を伴い、イレウス( 腸閉塞〔へいそく〕)症状や腹痛を起こします。血便、ポリープの肛門脱出を認めることがあります。

色素沈着は、口唇や口腔(こうくう)粘膜、四肢末端部に、米粒大の黒褐色の色素斑(はん)として認められます。

若年性ポリポーシス

若年性ポリポーシスは、消化管に過誤腫性ポリポーシスが多数できる遺伝性の疾患。ポリープの分布によって、大腸限局型、胃限局型、全消化管型の3型に分けられます。

血便やポリープの肛門脱出が主な症状で、ポリープの一部に腺腫やがんを合併することもあります。

コーデン病

コーデン病は、消化管に過誤腫性ポリポーシスができるとともに、顔面の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔粘膜の乳頭腫を伴う遺伝性の疾患。

結節性硬化症

結節性硬化症は、消化管に過誤腫性ポリポーシスができるとともに、顔面の血管線維腫、脳内多発結節性病変、精神遅滞、腎(じん)血管筋脂肪腫を伴う遺伝性の疾患。ポリープは、大腸と胃に多発します。がんを合併することは、まれです。

クロンカイト・カナダ症候群

クロンカイト・カナダ症候群は、消化管にポリポーシスができるとともに、皮膚色素沈着、爪(つめ)の委縮、脱毛などを伴う非遺伝性の疾患。そのほか、消化管からの蛋白(たんぱく)漏出による低蛋白血症、貧血、味覚異常も認められます。原因は不明です。>ポリープは、胃、小腸、大腸、まれに食道にもみられ、腺腫やがんを合併することもあります。

大腸ポリポーシスの検査と診断と治療

家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス、ガードナー症候群)

消化器科などの医師による診断では、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査を行います。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査で直接大腸の内側を観察し、ポリープを採取して組織検査を行い、多数の腺腫が確認されれば、家族性大腸腺腫症と確定できます。できれば遺伝子検査まで行って、APC遺伝子の異常を確認しておくと、治療法の選択や近親者の早期診断に役立ちます。

また、胃・十二指腸のX線および内視鏡検査、骨X線検査、眼底検査などを行い、大腸以外の病変をチェックしておく必要があります。

消化器科などの医師による治療では、大腸がん合併の有無を問わず、大腸を切除し、小腸を肛門につなげる手術を基本とします。直腸を温存する場合は、残った直腸にがんができないかどうか、大腸内視鏡で定期的に観察しなければなりません。

近親者の調査によって無症状で発見された場合、大腸の予防的手術は遅くても20歳代前半までに行うべきとされています。

一方、大腸以外の腫瘍状病変に対しては、がん化の危険性は極めて低いので、予防的手術の必要はありません。

ターコット症候群

消化器科などの医師による治療は、家族性大腸腺腫症と同じです。

ポイツ・イェガース症候群

消化器科などの医師による診断では、口や手足の先の色素沈着で気が付くことがあります。このポイツ・イェガース症候群を疑い、胃や腸の検査をすることで確定します。

消化器科などの医師による治療は、大きなポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。

小腸ポリープについては、従来は開腹下で切除していましたが、最近では小腸内視鏡で切除することが多くなっています。しかし、腸重積を伴う場合は、手術を行います。

なお、口唇や口腔粘膜の色素沈着が美容上で問題になる時は、皮膚科あるいは形成外科で診療の上、レーザーで治療します。

若年性ポリポーシス

消化器科などの医師による治療は、ポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。

コーデン病

消化器科などの医師による治療は、確立した治療法がないため、対症療法を行います。全身の臓器にわたってがんが高率に合併するため、定期的な検査を受ける必要があります。

結節性硬化症

消化器科などの医師による治療は、消化管ポリポーシスに対しては内視鏡的切除の適応とはなりませんが、定期的な検査を受ける必要があります。

クロンカイト・カナダ症候群

消化器科などの医師による治療は、がんを伴う場合を除いて保存的に行い、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を投与する薬物療法や、栄養療法を行います。予後は一般的に不良とされていますが、最近は栄養療法の導入によって改善されつつあります。

🇯🇴大頭症

乳幼児の頭囲が標準よりも大きくなる状態

大頭症とは、遺伝やさまざまな疾患を背景にして、乳幼児の頭が通常の大きさよりも大きくなる状態。大頭蓋(だいとうがい)症、巨大頭蓋症、巨頭症とも呼ばれます。

頭の大きさは、頭の周囲の一番大きい部分である頭囲の値を目安にします。頭囲は、おでこの一番出ている部分と後頭部の一番出ている部分とを通るようにメジャーで計測し、その最大値で決めます。正常な子供の頭囲は、脳の発育と一致して増加し、とりわけ1、2歳までが脳の発育が盛んなため、頭囲の増加もこの期間に大きくなります。

大頭症は、計測した頭囲の値が標準となる乳幼児の頭囲成長曲線の上限を上回った時に、判断されます。

大頭症では、頭の大きさが異常に大きくなるので、見た目にも違和感があります。出生時に大頭を示すこともありますが、2歳以前では徐々に進行する頭囲の拡大を示すことが多く、5、6歳では頭痛、うっ血乳頭(眼底にある視神経の乳頭にむくみが起きて、大きくはれ上がり、充血する状態)、嘔吐(おうと)などの頭蓋内圧高進症状を示す場合があります。

個人差はありますが、知能や運動能力の発達が遅れる精神運動発達障害や、てんかんを伴って発症することもあります。

大頭症を引き起こす疾患としては、脳の内部に4つに分かれて存在する脳室に髄液がたまる水頭症、脳の表面に髄液や侵出液がたまる硬膜下水腫(すいしゅ)、転んで頭をぶつけたり、誤って転落するなど頭の外傷のため頭の骨の中に出血した硬膜下血腫、頭の中に袋状に液がたまるくも膜嚢胞(のうほう)、脳腫瘍(しゅよう)、頭蓋骨の肥厚、代謝異常による神経細胞の肥大や増殖などを起こす神経皮膚症候群、軟骨異形成症、ソトス症候群(脳性巨人症)、コーデン病などいろいろな疾患があります。

乳幼児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大するため、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られます。脳の発育が盛んな1、2歳までの時期は頭蓋縫合がまだ軟らかいので、脳が圧迫されて頭の骨の中の圧力が高くなる疾患が発生すれば、頭蓋縫合の部分が広がって頭囲がより大きくなります。

そのため、乳幼児の頭囲が標準となる頭囲成長曲線の上限に近付いたり上限以上に大きければ、脳の疾患を疑って小児科、ないし脳神経外科を受診することが勧められます。

ただし、家系的に頭が大きく、脳の障害を伴わない家族性大頭症も多くみられますので、頭が大きいからといってすべての乳幼児が疾患を背景する大頭症であるわけではありません。

大頭症の検査と診断と治療

小児科、脳神経外科の医師による診断では、頭囲を計測し、その値が標準の頭囲成長曲線の上限を上回った場合に、大頭症と確定します。

必要であればCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行って、脳の疾患を調べます。また、てんかんなどの疾患が関与していることがあるので、そうした疾患の検査を行うこともあります。

小児科、脳神経外科の医師による治療では、脳の検査で疾患が見付かれば速やかな処置を行いますが、疾患が見付かっても軽ければ経過を観察します。

原因が水頭症、硬膜下水腫の場合は、脳内にたまった水を腹腔(ふくこう)などに排出する外科手術を行います。

遺伝的な精神運動発達障害に対しては、精神科や心療内科によって療育を行う必要があり、物理的に障害がない場合は外科手術を行わないことがあります。

また、てんかんに対しては薬物療法を行うなど、それぞれの症状に対して処置を行います。

🇯🇴大動脈炎症候群

大動脈とその主要な分枝に狭窄を生じる特異な血管炎

大動脈炎症候群とは、大動脈とその主要な分枝に狭窄(きょうさく)を生じる特異な血管炎。手首の動脈の脈が触れないことがよくあるために脈なし病とも、最初の報告者の名前をとって高安(たかやす)病とも呼ばれています。

この大動脈炎症候群は若い女性に多く、特に日本ではかつてから頻度が高かったために、明治の末期から学者の間で注目され、1908年に高安病として欧米に報告されたものです。現在でも、日本が世界で最も発症者が多いといわれていますが、インド、中国などのアジア諸国でもみられるほかに、メキシコ、南アフリカなどでも少なくないようです。日本での発症者の約9割は女性で、発症年齢は20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代の順。

原因は不明ながら、自己免疫機序が関与しているという説が有力です。炎症のために、動脈にひきつれができて壁が厚くなり、内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりするために起こります。

炎症が起きる場所については、主に脳や腕に血液を送る動脈に起きると、かつては考えられていました。動脈造影法といった検査技術の進歩した最近では、炎症は大動脈全体と、そこから枝分かれしている腹部の内臓や腎(じん)臓の動脈、さらには肺動脈にも及ぶことがわかっています。時には、動脈が拡張して動脈瘤(りゅう)を作ることもあります。

最初の急性期は、発熱、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもあります。発症が潜在性で気付かないことも多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて、初めて診断されることがしばしばあります。その後、慢性の経過をたどるようになると、動脈の炎症がどの血管に起こったかによって、さまざまな症状が現れてきます。

脳へいく血管である頸(けい)動脈が狭くなったケースでは、視力が低下したり、めまい、立ちくらみ、頭痛などが起こります。また、頸動脈を圧迫したり、上を向く姿勢をとったりすると、めまいや気が遠くなるような感じの発作が生じます。まれに、脳梗塞(こうそく)や失明などが起こることもあります。鎖骨下動脈が狭くなったケースでは、上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重い物を持つと疲れやすいなどの症状が起こります。

腹部の大動脈が狭くなったケースでは、上下半身で血圧の著しい差がみられ、上半身は血圧が高いのに下半身では血圧が低くなります。この状態では、足の動脈に脈が触れなくなって、少し歩くとふくらはぎが張って重くなったり、痛んだりする間欠性跛行(はこう)の症状が出ることもあります。腎臓へいく動脈が詰まったケースでは、血圧を高くする物質が血液中に増えるために、高血圧になります。

大動脈炎症候群の検査と診断と治療

腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が生じます。狭窄による血管雑音は、頸部、鎖骨上窩(じょうか)などで聞かれます。血液検査では、赤沈(血沈)高進、CRP陽性、高ガンマグロブリン血症など通常の炎症反応がみられます。X線検査では、大動脈の拡大や石灰化が認められます。血管造影検査では、動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などの病変部位や程度がわかり、大動脈炎症候群の診断に最も有用です。心エコーや心臓カテーテル検査では、心臓合併症の有無を調べます。

急性期には、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して、投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。慢性期には、血栓予防のため抗血小板薬や抗凝固薬を用います。

内科的治療が困難と考えられる場合で、特定の血管病変に起因することが明らかな症状がある場合には、外科的治療が考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤などが、主な手術対象になります。

大動脈炎症候群はある程度までは進行しますが、その後は極めて慢性の経過をとるのが通常で、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合や、高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再発することもあります。

🇯🇴大動脈縮窄症

大動脈の狭窄のために血液の流れが悪化

大動脈縮窄(しゅくさく)症とは、動脈管を中心にした大動脈に狭窄(きょうさく)があるために、血液の流れが悪くなる疾患。ほとんどが先天性のもので、女性よりも男性に多く発生しています。

心臓から全身に血液を送る大動脈は、左心室から頭の先や足側へ循環する時に、弓なりに曲がっています。この部分を大動脈弓と呼び、ここから下行大動脈に移る部分が先天的に、狭窄を起こしている場合があります。また、動脈管(ボタロー管)は胎児期には開いていますが、生後は閉鎖するのが一般的です。この閉鎖に伴って、動脈管の前後で大動脈狭窄が起こることがあります。

前者は乳児型、後者は成人型と呼ばれます。乳児型の場合は、心臓の奇形を合併していることが多く、そのために心不全や肺高血圧症を起こして、生後6カ月以内に死亡する率が高くなっています。成人型では、大動脈のバイパス(副血行路)が発達するので、発育上は支障がなく、予後も比較的良好です。

以上の2つは定型的な縮窄症ですが、異型大動脈縮窄症と呼ばれるものは、大動脈炎症候群と同類で、動脈壁に炎症が起こったためにできた狭窄です。この狭窄は大動脈の至る所にできますが、ほとんどは胸部から腹部にかけての大動脈に起こります。炎症がなぜ起こるかは、わかっていません。

大動脈縮窄症の症状としては、大動脈が狭くなったところで血流が抵抗を受けるために、狭窄部より上の、心臓に近いところでは高血圧になり、末端では低血圧になるという現象が起きます。すなわち、上半身は高血圧、下半身は低血圧になり、足の動脈では、股(また)の付け根の脈拍が触れないこともあります。また、高血圧のために左心室が肥大します。

自覚症状としては、運動をした時の激しい動悸(どうき)、顔面のほてり、頭痛、頭重という高血圧の症状がみられます。足では、血行が悪いために、長く歩くと足が痛い、疲れやすいなどの症状が現れます。乳幼児では、足の発育も悪くなります。

定型的な大動脈縮窄症の場合、ほうっておくと20歳までに75パーセントが死亡するとされています。死因としては、縮窄に合併した心破裂、大動脈瘤(りゅう)破裂、心内膜炎、心不全、脳出血など。

大動脈縮窄症の検査と診断と治療

X線検査、心臓超音波検査、心電図検査を行います。また、手にある橈骨(とうこつ)動脈から造影剤を注入し、大動脈をX線で撮影する逆行性橈骨動脈造影で診断を確定することもあります。

診断がつき、狭窄が強い場合には、血行再建のための手術を行います。定型的な大動脈縮窄症では、狭窄部を切除して上下の大動脈をつなぎます。狭窄の範囲が広ければ、人工血管でつなぎます。手術の時期は、8〜14歳ぐらいが好成績を得られると見なされています。

異型大動脈縮窄症に対しては、病変部の切除が困難なことも多く、この場合は、代用血管でバイパスを作る手術を行います。

手術後、再び狭窄が認められることがあります。近年では、再狭窄に対して、手術以外の方法としてカテーテル治療が行われることもあります。

🇱🇧大動脈瘤

胸部あるいは腹部の大動脈の血管が拡張

大動脈瘤(りゅう)とは、胸部大動脈あるいは腹部大動脈の壁の一部分が弾力性を失って、こぶ状に拡張した状態。この疾患は、女性よりも男性に多く、また、50歳以上の人に多く発生しています。

大動脈瘤は、大動脈壁の弱くなっている部分が血流によって圧力を加えられると、外側に向けてふくらんで発生します。治療しないで放置すると、破裂して内出血を起こす危険性があります。同時に、大動脈瘤の内部では血流が滞りやすくなるため、しばしば血液の塊である血栓が形成され、壁全体に広がることもあります。このような血栓がはがれ落ちて塞栓(そくせん)になって流れ、他の部位で動脈に詰まることもあります。

大動脈瘤の主な原因は、大動脈壁をもろくするアテローム(粥状(じゅくじょう)動脈硬化です。高齢者の大動脈瘤はほとんどがアテローム動脈硬化によるもので、高血圧と喫煙は発症のリスクを増大させます。まれな原因には、外傷、大動脈炎、マルファン症候群のような遺伝性結合組織障害、梅毒などの感染症があります。マルファン症候群による大動脈瘤は、心臓に最も近い上行大動脈に最も多く発生します。

大動脈瘤は大動脈に沿ってどこにでも発生する可能性がありますが、4分の3と最も多いのは腹部を通過する部分である腹部大動脈。残りは胸部を通過する部分である胸部大動脈に起こり、その中では上行大動脈に最も多く発生します。大動脈瘤は丸い嚢状(のうじょう)の場合も、チューブのような紡錘状の場合もあります。紡錘状が多くみられ、嚢状のものは破裂しやすいと見なされています。

多くの大動脈瘤は、こぶ状の拡大が徐々に進行するために、初めはほとんど症状がありません。特に、胸部大動脈は胸の中にあるため胸部大動脈瘤の自覚症状は乏しく、健診での胸部X線写真で異常な影を指摘されて、初めて気付くことがまれではありません。

胸部大動脈瘤が大きくなると周囲の組織を圧迫して、さまざまな症状を引き起こすことがあります。大動脈瘤の発生した場所によって、症状は異なります。典型的な症状は、痛み、せき、喘鳴(ぜんめい)です。痛みは普通、背中の上部に感じます。

まれに、気管支やその付近の気道が圧迫されたり、ただれたりすると、喀血(かっけつ)がみられます。大動脈瘤によって食道が圧迫されると、食べ物を飲み込めなくなります。声帯を支配している神経が圧迫されると、左側の声帯の働きが悪くなって、しわがれ声(嗄声(させい))が出てきます。胸部の特定の神経が圧迫されると、瞳孔(どうこう)が収縮し、まぶたが垂れ下がり、顔の片側に汗をかくなどのホルネル症候群と呼ばれる一群の症状がみられます。時には、胸部に異常な拍動を感じたりします。

こうした症状が出てきた場合は、胸部大動脈瘤がかなり大きくなっていると考えられ、破裂した場合は、背中の上の方に激痛が起こります。この痛みは破裂が進むに従って背中の下の方へ、さらに腹部へと広がります。また、心臓発作の際のように胸や腕に痛みを感じることもあります。すぐに手術ができる病院に搬送することが必要です。

腹部大動脈瘤の場合は、ヘソのあたりにドキドキと拍動するこぶを触れることが典型的な症状ですが、こぶが小さかったり、肥満でおなかに脂肪がたまっていたりする場合は、触ってもわからないことがあります。腹部の超音波検査や、CT検査で初めて発見されることがまれではありません。

また、腹部大動脈瘤では、突き刺すような痛みを体の深部や背中に感じることもあります。大動脈瘤から血液が漏れ出している場合は、ひどい痛みが続きます。

腹部大動脈瘤が破裂した場合は、激烈な腹痛や腰痛が出てきます。腹部大動脈からの出血は、腹部から後方の腰の部分に広がることが多いためです。出血が一時的に止まって、腹痛や腰痛の症状が初めは軽いことがあります。しかし、その後に大出血して意識不明になることも多く、腹部大動脈瘤の破裂が疑われた場合には、ただちに手術が可能な病院に搬送する必要があります。

大動脈瘤が怖いのは、破裂による内出血が重い場合には急速にショック状態に陥り、死に至ることが多いためです。破裂のしやすさは、大動脈瘤の直径の大きさによります。直径が大きければ大きいほど、破裂しやすくなります。正常な胸部大動脈の直径は2・5センチほどなので、拡大して正常の2倍を超えた5〜6センチになると、破裂の危険性が出てきます。胸部大動脈瘤の直径が6センチを超える場合は、破裂防止のために手術治療が考えられます。

一方、腹部大動脈瘤の場合は、正常な腹部大動脈の直径が1・5〜2センチほどなので、その2倍の4センチを超えると破裂の危険性が出てきます。腹部大動脈瘤の場合は、直径が5センチになれば手術が必要です。

大動脈瘤の検査と診断と治療

胸部大動脈瘤あるいは腹部大動脈瘤があることが疑われた場合には、経験のある心臓血管外科専門医と相談することが勧められます。

胸部大動脈瘤の有無は、胸部X線検査で調べることができます。ただし、心臓の影の裏に動脈瘤がある時には見逃されることがあるので、正面と側面から胸部X線写真を撮ることによって、胸部大動脈瘤の拡大の有無をチェックします。しかし、正確な胸部大動脈の直径を知ることは胸部X線写真からでは困難です。胸部大動脈瘤を診断するには胸部のCT検査が最適で、胸部大動脈の正確な直径を知ることができます。手術が必要かどうかも知ることができます。

腹部大動脈瘤の有無は、腹部エコーや腹部CT検査によって知ることができます。よく健診で腹部エコー検査を行いますが、胆嚢(たんのう)や肝臓は調べても腹部大動脈を調べないことがあり、腹部大動脈瘤が見逃されることがあります。腹部エコー検査の時には、腹部大動脈も診てもらう必要があります。腹部大動脈瘤の正確な直径は、CT検査によってわかります。手術が必要かどうかもわかります。

大動脈瘤の拡大が軽度であれば手術は行わず、血圧を調べて高血圧があれば、血圧を上げないように薬による治療を行います。しかし、大動脈瘤を治す薬はありません。大動脈瘤が大きくなれば、手術が必要になります。

CT検査で大動脈の直径の拡大が認められ、本来の直径の2倍を超えるよう心臓血管外科専門医との慎重な検討が必要です。手術は、あくまで破裂予防のための手術なので、手術の危険性と破裂の危険性を十分に検討し、納得の上でその後の方針を決めることになります。

一般に、よく準備された腹部大動脈瘤の手術の危険性は低いと考えられています。従って、直径が5センチに及ぶ腹部大動脈瘤では手術が勧められています。胸部大動脈瘤の手術の危険性は、腹部大動脈瘤よりは高いとされています。

大動脈瘤に対する手術の基本は、人工血管による大動脈の置換術。大動脈瘤が大きい場合は、全身麻酔による胸部の開胸術、あるいは腹部の開腹術が必要になります。最近では、膨張性のワイヤーでできたステントに人工血管を縫着したステントグラフトを、開胸したり、開腹したりせずに、太ももの動脈などから挿入して、大動脈瘤の部位に留置、固定する手術も行われてきています。

🇱🇧第二ケーラー病

思春期ころに多くみられ、足指の付け根部分の骨が壊死する疾患

第二ケーラー病とは、足の中足骨(ちゅうそくこつ)の骨頭部の組織が血液の循環障害により壊死(えし)し、痛みが起こる疾患。フライバーグ病とも呼ばれます。

この第二ケーラー病は、成長期の子供の成長軟骨に障害が起き、痛みを伴う疾患である骨端症の一つでもあります。骨端症の多くは男子に現れますが、第二ケーラー病に関しては女子に多くみられます。好発年齢は12~18歳の思春期ころで、女子は男子より3~4倍ほど多くなっています。

足の第2中足骨に最も多く起こる傾向があり、次いで第3中足骨に多く起こります。第2中足骨に多く起こるのは、中足骨の中で最も長いため、靴を履くことによって長軸上のストレスがかかりやすいためと思われます。足の両側に起こる例が、10パーセント程度にみられます。

症状の最初は、運動をすると足の前の部分の不快な感じがあり、体重が掛かると痛みが出ます。数年間、無症状の時期があり、運動を機に痛みが再発します。中足骨の骨頭部がある足指の第2指(中指)や第3指(薬指)の付け根を押すと痛みがあり、はれが出ることもあります。進行すると、歩く際の踏み返しの時に足指の付け根の関節に痛みがあるため、その部位への荷重を避けた歩き方になります。関節の可動域制限もあります。

外傷に続発することもありますが、発症の原因にはいろいろな説があり、確定したものはありません。靴幅の狭いシューズを長期間使用することで、持続的な負荷がかかって中足骨の骨頭部への血行が一時的に障害されて生じるともいわれています。

足の部分の骨端症の中では、第二ケーラー病だけが早期診断、早期治療が重要な疾患であり、足の痛みがある場合は、整形外科を受診し適切な治療や経過観察を受けるべきです。早期より徹底した治療が行われないと関節変形を来し、痛みが残りやすいので注意が必要です。

医師による診断では、X線写真で中足骨の骨頭の部分が不規則な形をして、つぶれたり、壊れたりしている像が見られます。鑑別が重要な疾患には、中足骨疲労骨折、リウマチ性関節炎があります。

軽度の場合の治療では、足を安静に保つために、過激な運動を避けます。また、靴の中敷きに、土踏まずを高くしたアーチサポートを数年に渡って使用し、血行が再開して骨頭が修復されるまで、異常のある骨に体重がかからないようにします。一般には、2年ほどの経過でX線上の変形は治ってきます。

初期の痛みが強い場合には、3~4週間ギプスを巻いて荷重を避けた後、軽度の場合と同様の中敷きを使用します。踵(かかと)の高い靴の使用、ランニング、長時間の歩行などは厳禁です。

自然によくなる程度が少ないため、放置して関節に障害を残した例や、治療開始が遅れた例で変形が残って痛みがあれば、手術することもあります。手術には、壊死部の骨頭を切除する方法や、骨頭の付け根の部分を楔(くさび)状に切除して、骨頭を背側に回転して固定する方法などがあります。

🇱🇧第8脳神経腫

脳の腫瘍による障害が聴神経に及び、聴力が低下する疾患

第8脳神経腫(しゅ)とは、脳の聴神経の回りを鞘(さや)のように覆っている、内耳神経に当たる第8脳神経のシュワン細胞から発生する非がん性の腫瘍(しゅよう)。聴神経腫瘍、聴神経鞘腫(しょうしゅ)、前庭神経鞘腫とも呼ばれます。

聴神経には、聴覚に関係する蝸牛(かぎゅう)神経と、平衡感覚に関する前庭(ぜんてい)神経があります。腫瘍は通常、第8脳神経の前庭神経から生じますが、前庭神経と一緒に脳から出る蝸牛神経に障害が及んで聴力の低下が生じることが多くみられます。

良性の腫瘍であり、非常にゆっくりとしたスピードで大きくなります。腫瘍が成長するのに時間がかかるので、これによる症状が出現するまでには何年もかけて大きくなってきていることが多いと思われます。まれに、短期間で腫瘍が大きくなることもあります。

第8脳神経腫の初期症状として最も多いのは、聴力の低下。腫瘍は聴神経の回りを覆っている、第8脳神経のシュワン細胞から発生するので、まず一番に聴神経を圧迫して、腫瘍のある側の耳の聞こえが悪くなるという症状が出現します。聴力の低下は徐々に出現するため、初めのうちは本人もあまり意識しないこともあるものの、悪いほうの耳では電話の声が聞こえにくいなどの兆候があったりします。

突然耳が聞こえなくなる突発型難聴を起こすものも、少なくありません。耳の聞こえがよくなったり悪くなったり、聴力の程度が変動することもあります。その他の初期症状として、片側の耳のみの耳鳴り、めまい、急に向きを変えるとバランスを失ったり、ふらつくなどがみられます。

腫瘍が大きくなって、顔面神経に当たる第7脳神経や、三叉(さんさ)神経に当たる第5脳神経といった脳の他の部分の神経を圧迫すると、顔面のしびれ、顔の筋肉の脱力やまひ、嚥下(えんか)障害などが生じます。

第8脳神経腫の原因は明らかではないものの、遺伝したりするものではありません。神経線維腫症といって特殊例として両側に腫瘍が生じるものでは、遺伝性の原因が明らかにされています。

多くのケースでは、片側の耳の聞こえの悪さを覚えて耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し、頭のCTスキャンなどの検査をして、腫瘍が見付かるという経過をとります。

第8脳神経腫の検査と診断と治療

片側の耳の聞こえが徐々に悪くなってきたり、めまいの発作を繰り返すなどの症状がある場合は、第8脳神経腫(聴神経腫瘍)の可能性を疑って、まず耳鼻咽喉科の専門医を受診します。

聴力検査、音刺激に反応する脳波を調べる聴性脳幹反応、平衡機能(めまい)検査により聴神経腫瘍が疑われる場合は、頭部MRIによる画像検査が行われます。特に、造影剤を静脈に注射しながら行う造影MRI検査では、小さい腫瘍も見付けることができます。そのほかにも、頭部の単純レントゲンや、CTスキャンの検査が行われ、他の第5脳神経や第7脳神経に異常がないかどうかを調べます。

治療は大きく、手術療法と放射線療法に分かれます。手術療法には、腫瘍が発生した部位や大きさ、残存聴力などに応じていくつかの手術方法があり、耳鼻咽喉科または脳外科が担当します。顕微鏡を用いた手術であるマイクロサージャリーが、行われることもあります。

マイクロサージャリーは、耳の後ろの部分の皮膚に小さな切開を加え、顕微鏡で拡大しながら周辺の脳神経を損傷しないように注意を払って、腫瘍を摘出します。通常10日から2週間程度の入院期間が必要です。

放射線療法には、ガンマナイフまたはリニアックによる治療法があり、腫瘍を消失させるのではなく、腫瘍が大きくなるのを抑えることを目的としています。それぞれの治療法は、聴力の悪化、顔面神経まひなど合併症に関して長所と短所があり、専門医の説明をよく聞いて選択します。

第8脳神経腫は比較的ゆっくり成長する良性腫瘍であるため、高齢者で腫瘍が小さい場合には治療を行わずに経過をみることもあります。

🇸🇾胎便吸引症候群

胎便を肺に吸い込むことで、呼吸障害を起こす新生児の疾患

胎便吸引症候群とは、出生前あるいは出生時などに、肺に胎便を吸い込んだ新生児が起こす呼吸困難。

胎便とは、胎児が生まれる前に腸で作られる濃い緑色の、無菌性の便です。正常な場合は、胎便は新生児が授乳を開始した時に排出されます。しかし、血中酸素濃度が不十分など何らかのストレスがあると、これに反応して腸の蠕動(ぜんどう)運動が一時的に活発になり、同時に肛門括約筋が緩むため、胎児が羊水の中で胎便を排出してしまうことがあります。さらに、同じストレスが原因で胎児が激しくあえぐ結果、胎便を含む濁った羊水を肺に吸い込んでしまうことがあります。

出生後、吸い込んだ胎便が気道をふさぎ、肺をつぶれた状態にしてしまうことがあります。あるいは、一部の気道が部分的にふさがれた場合、この部分より先の肺の一部に空気を届けることはできても、この空気を吐き出すことができないという状態になることがあります。

このような状態になった肺は、過剰に膨らみます。肺が部分的に膨張し続けると、ついには破裂し、つぶれます。そうなると、空気が肺の周囲の胸腔(きょうくう)にたまる気胸を起こします。

肺に吸い込まれた胎便は、肺の炎症である肺炎の原因にもなるため、肺感染症のリスクも高くなります。また、持続性肺高血圧症を発症するリスクも高くなります。

胎便吸引症候群を起こした新生児は、出生時から呼吸数が1分間に60以上と速くなる、息を吸い込む際に肋骨(ろっこつ)の間や胸骨の下部がへこむ、息を吐く際に息苦しそうにうめき声を出すなどの呼吸困難に陥ります。血液中の酸素濃度が下がると、チアノーゼを起こして新生児の皮膚は紫色になり、血圧が下がることもあります。

大半の新生児は助かりますが、重症の場合は死亡することもあります。胎便吸引症候群が最も重症になるのは、予定日より2週間以上遅れて生まれた過期産児です。その原因は、過期産児では、普通よりも少ない羊水の中に胎便が濃縮された状態になるからです。

胎便吸引症候群の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は、出生時に羊水中に胎便が観察されること、新生児の呼吸困難、胸部X線(レントゲン)検査の異常所見などに基づいて行います。

産科、産婦人科の医師による治療は、出生時に新生児が胎便で覆われて、ぐったりし、呼吸していなかった場合には、直ちに新生児の口、鼻、のどから胎便を吸引して取り除きます。

その後、太い気道である気管の中にある胎便もすべて吸引します。より多くの胎便を吸い出すために、吸引を繰り返し行うこともあり、必要に応じて生理食塩水などによる気管や肺の洗浄を行うこともあります。

さらに、肺感染症のリスクがあることから、新生児に抗生物質(抗生剤)を投与して、酸素吸入を行い、必要であれば人工呼吸器を使用します。新生児が人工呼吸器をつけた場合、気胸や持続性肺高血圧症などの重い合併症が起きないようによく観察します。

胎便吸引症候群を起こした新生児のほとんどは、助かります。重症の場合、特に持続性肺高血圧症を引き起こした場合は、命にかかわる可能性があります。

🇸🇾大理石骨病

全身の骨が大理石のように著しく硬く、もろくなり、折れやすくなる疾患

大理石骨病とは、全身の骨に著しい石灰化が起こり、骨が硬化する疾患。大理石病、アルベルス・シェーンベルク病とも呼ばれます。

骨は硬く安定した組織に見えますが、実際には皮膚などと同じように新陳代謝を繰り返しており、古くなった骨が破骨細胞により分解(骨吸収)され、新たな骨が骨芽細胞によって作製(骨形成)されるサイクルが繰り返されることで、丈夫さやしなやかさが維持されています。

健康な状態では骨吸収と骨形成のバランスは均衡しており、骨の量は一定に保たれていますが、加齢や閉経などの要因でバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると骨が空洞化して骨粗鬆(こつそしょう)症になったりします。逆に、骨形成が骨吸収を上回ると骨が大理石のように硬くなりすぎて、中央部にある空洞がなくなり、骨端部が棍棒(こんぼう)状に肥厚する大理石骨病を引き起こします。

大理石骨病は、比較的まれな遺伝性疾患で、遺伝子の変異が原因となる破骨細胞の先天的な機能不全により、骨の構築および再構築に異常が生じ、全身的に無構造な骨硬化を示します。

生後まもなく発症する早発型(乳児型、悪性型)と、少年ないし成人になってから発症する遅発型(成人型、良性型)とに、主に分けられます。

早発型の大理石骨病は、常染色体劣性遺伝し、重症で予後不良のため多くは死亡します。遅発型の大理石骨病は、常染色体優性遺伝し、軽症であるためほぼ正常な社会生活を送ることができます。

早発型の大理石骨病の初期の症状としては、発育不全、自然にできる挫傷(ざしょう)、異常出血、貧血が挙げられます。後に、脳神経のまひと、肝臓と脾(ひ)臓が大きくなる肝脾腫(しゅ)を起こします。骨の過成長は骨髄の機能障害の原因となって骨髄不全に陥り、非常に重篤な肺炎などの感染症、または出血による死亡が通常、生後1年以内に起こります。

遅発型の大理石骨病は、小児期、ないし青年期、若年成人期に発症します。通常、全体的健康状態は損なわれませんが、年齢が進むにつれて骨硬化が明らかになっていき、骨が硬くなりすぎるため、まるでチョークを折るような特有の骨折を起こすことがあります。

血液を作る働きを持つ骨髄の入っている骨の空洞が狭くなるために、血液を作る働きが悪くなる結果、貧血を起こしやすくなります。骨髄は血液を作るほかにも、免疫に働く細胞も作るため、骨髄の減少に伴って感染症にかかりやすくなることもあります。

疾患が進むと、骨髄まで骨化して、脳神経孔や脊椎(せきつい)管が石灰化のために細くなり、視神経委縮や顔面神経まひ、難聴などの神経障害を合併する場合もあります。歯牙(しが)の発育が遅れて虫歯になりやすい傾向や、感染によって歯周炎を起こしやすい傾向もみられます。

大理石骨病の検査と診断と治療

小児科、整形外科の医師による診断は、X線検査を基に行われます。大理石骨病の場合は特徴的な画像所見を示し、骨髄腔(こう)には石灰化像が広がり、骨硬化像と管状骨端部の棍棒状の肥厚像を示し、脊椎は水平な帯状模様を示します。

医師による治療は、大理石骨病に根本的な治療法はないため、骨折その他の症状に応じた対症療法だけを行います。

骨折の治療は、ほとんどの場合は手術が行われます。しかし、普通の人よりも治りにくいとされています。ビタミンD製剤の大量使用、低カルシウム食によって、骨の過剰な骨化を防ごうという治療も行われます。

骨の過成長によって、顔面に重度のゆがみをもたらす場合もあり、歯の不正咬合(こうごう)によって専門的な歯科矯正処置が必要となることもあります。

頭蓋(ずがい)内圧高進を軽減するためや、圧迫された顔面神経、聴神経を解放するために減圧手術を行うこともあります。一部の患者では、貧血の治療のために輸血や脾臓の摘出を要します。

重症の貧血や、感染症に対しては、小児期までに骨髄移植が行われることもあります。

🇸🇾ダウン症候群

染色体の異常により、体と精神の発達が遅れる疾患

ダウン症候群とは、染色体の異常によって、精神遅滞とさまざまな体の異常が生じる疾患。ダウン症とも呼ばれます。

22対の常染色体と2本の性を決定する染色体を合わせて46本の染色体のうち、ある染色体が過剰に存在し、3本ある状態をトリソミーと呼びます。新生児で最もよくみられるトリソミーは、21番染色体が3本ある21トリソミー。ダウン症候群の症例のうち、約95パーセントの原因が21トリソミーです。

卵子や精子が作られる過程で染色体が分離しますが、分離がうまくいかないことがトリソミーを引き起こします。まれに、21番染色体と別の染色体が互いに切断されて結合している転座型や、受精後の初期細胞分裂の際に染色体の不分離が起こるモザイク型によって、ダウン症候群が起こることもあります。

1866年に英国の眼科医ジョン・ラングドン・ハイドン・ダウンが初めてその存在を報告し、以来、本症例にみられる異常所見が多く報告され、現在のダウン症候群としての症状を導いてきています。しかし、1959年にフランス人のジェローム・レジューンによって、21番染色体がトリソミーを形成していることが初めて証明されるまでは、その原因は不明でした。

日本では現在、新生児1000人に1人の割合でダウン症候群がみられます。母親が高齢、特に35歳以上の場合は、若い母親よりも過剰な染色体が生じる原因となるため、ダウン症候群の新生児を産む確率が高くなります。しかし、過剰な染色体が生じる原因は、父親にあることもあります。

ダウン症候群の子供では、精神と体の発達が遅れます。知能指数(IQ)には幅がありますが、正常な子供の知能指数が平均100であるのに対し、平均でおよそ50。聞くために必要な能力より、絵を描くなどの視覚動作能力が優れている傾向があるため、典型的には言語能力の発達が遅くなります。

身体的な特徴として、特異な顔貌(がんぼう)と多発奇形が挙げられます。頭が小さく、顔は広く偏平で、斜めにつり上がった目と低い鼻を持つ傾向があります。舌は大きく、耳は小さくて頭の低い位置についています。手は短くて幅が広く、手のひらを横切るしわが1本しかありません。指は短く、第5指の関節は3つではなく2つしかないことが多く、内側に曲がっています。足指の第1指と第2指の間が、明らかに広くなっています。

乳児期には体の筋力が弱く、軟らかいのも特徴で、身長、体重の増えもよくないことがあります。運動の発達も遅れ、歩行開始の平均年齢も2歳くらいになります。

多くの合併症が知られていて、これらの程度が生命的な予後に大きく関係しています。約40パーセントに先天性の心臓疾患がみられ、多くに甲状腺(こうじょうせん)疾患が起こります。耳の感染症を繰り返し、内耳に液体がたまりやすいため、聴覚に障害が起こりやすい傾向があります。角膜と水晶体に問題があるため、視覚障害も起こしやすい傾向があります。そのほか、十二指腸閉鎖や鎖肛(さこう)といった消化管の奇形、頸椎(けいつい)の異常、白血病がみられることもあります。

40歳以降には、アルツハイマー病でみられるような記憶喪失、知能低下の進行、人格の変化などの認知症の症状が高確率で起こります。

ダウン症候群の検査と診断と治療

ダウン症候群は、生まれる前に診断することも可能です。妊娠15〜16週ごろに、産婦人科病院で行う羊水染色体検査が相当しますが、妊婦は自ら医療側に進言しないと正式には行ってもらえません。

ダウン症候群の乳児には、診断を促す特徴的な外見があります。確定診断には、乳児の染色体を検査して21トリソミー、あるいは21番染色体のそのほかの疾患を調べます。診断がついたら、超音波検査や血液検査などを行って、ダウン症候群に関連する異常がないか調べます。

根本的な治療法はなく、症状に応じて治療を行います。検査で発見した異常を治療すると、それにより健康が損なわれることを防止できます。ダウン症候群の子供の死因の多くは心臓の疾患と白血病ですが、心臓の異常はしばしば、薬剤や手術で治療できます。

重い合併症のないダウン症候群の子供は、元来健康で、温厚、陽気な性格であることが多く、訓練や教育により日常生活は可能となります。最近は、早期からの集団保育、集団教育が望ましいといわれています。家族の会などから情報を得ることも役立ちます。遺伝カウンセリングを受けることも重要で、特に転座型では親の片方が均衡転座保因者である場合もあり、次の子供の再発率を知るためには両親の染色体検査が必須です。

ダウン症候群の子供の大半は、死亡することなく成人になり、平均寿命は約50歳といわれています。数十年前までは平均寿命が20歳前後でしたが、当時は循環器合併症の外科的治療ができなかったためであり、合併症と奇形を治療すれば健康状態は改善することができます。

🇨🇾唾液腺炎

口の中に唾液を分泌をする唾液腺に、何らかの原因で炎症が生じる疾患

唾液腺(だえきせん)炎とは、味覚刺激などにより唾液を作り、口の中に分泌をする唾液腺に、何らかの原因で炎症が生じる疾患。

唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に分けられます。大唾液腺には、耳下(じか)腺、顎下(がくか)腺、舌下(ぜっか)腺の3種類が、それぞれ左右に一対ずつあります。耳下腺は耳の前から下のほうにあり、顎下腺は下顎の内側にあり、舌下腺は舌と下顎の間にあります。小唾液腺は、口の粘膜の至る所にあります。

一般に、食事が口に入った時に分泌される唾液は耳下腺から、安静時、特に睡眠中に分泌される唾液は主に顎下腺からと考えられています。

唾液腺炎はさまざまな原因で生じ、その原因によってウイルス性、細菌性、免疫アレルギー性などに分類されます。

ウイルスにより引き起こされるもので最もよく知られているのは、流行性耳下腺炎、すなわちおたふく風邪です。しかし、唾液腺炎を引き起こすウイルスには、流行性耳下腺炎を引き起こすムンプスウイルス以外にもあることがわかっています。

流行性耳下腺炎は、一度かかると免疫ができて再感染はしません。潜伏期は2~3週間で、小児に多いのですが、大人では小児に比べ症状が重くなる傾向があり、精巣炎、卵巣炎などを併発して、不妊の原因になることがあります。まれに、顎下腺に起こることもあります。また、片側の耳下腺に炎症を生じて痛み、はれ、発熱などが起こるだけではなく、数日遅れて両側の耳下腺に症状が出ることが多いのも特徴です。

細菌により引き起こされるもので最もよく知られているのは、化膿(かのう)性耳下腺炎です。唾液分泌が低下すると、唾液が出る部位の唾液腺導管から、口の中の細菌が耳下腺の中に入り込んで、急性の炎症が起こります。さらに、耳下腺の周囲にも炎症が拡大します。原因となる細菌で多いのは、黄色ブドウ球菌、溶連菌、肺炎球菌。

普通、片方の耳下腺がはれ、側頭部から顔面部のうずくような痛み、発熱、頭痛などが生じます。耳下腺部の皮膚は赤くなり、熱感があり、押さえると痛みます。

赤くはれた耳下腺部の皮膚を圧迫すると、口の中の耳下腺の開口部である唾液腺導管から膿(うみ)が出てくることがあります。はれがひどくなると、耳下腺部に波が打つような波動感が出てきて、膿が耳下腺全体にたまってきたことがわかるようになります。

細菌により引き起こされる唾液腺炎はもともと唾液腺に何の病変もない人には生じにくいものですが、小児にみられる唾液管末端拡張症という唾液腺そのものの異常や、唾液中の石灰分が沈着して石ができてくる唾石(だせき)症などによる唾液の分泌障害がある時、または全身の抵抗力が落ちている時の水分補給が不足した場合などにも生じます。

また、唾液腺炎は、トレポネーマパリダという細菌の感染で起こる梅毒や、結核菌によって主に肺に炎症を起こす結核などにより、引き起こされることもあります。

さらに、自己免疫疾患でシェーグレン症候群という唾液腺に慢性炎症を生じる疾患もあります。免疫アレルギー疾患である軟部好酸球肉芽腫(にくげしゅ)症、ミクリッツ病、ヘールフォルト病などにより、唾液腺に慢性炎症を生じることもあります。

唾液腺の部位に生じるはれや痛み、発熱などがあれば、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診する必要があります。

唾液腺炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、はれているのが唾液腺かどうかを確認します。耳下腺や顎下腺のはれでは、リンパ節炎と紛らわしいことがあります。

流行性耳下腺炎を始め耳下腺に炎症があれば、血液検査で、でんぷんを消化する酵素で主に唾液腺と膵臓(すいぞう)で作られているアミラーゼの値が高くなります。ただし、これが高いからといってそれぞれの疾患を確定診断することはできません。そのほかには一般的な血液検査が必要です。

ウイルス性の唾液腺炎か細菌性の唾液腺炎かは、問診や視診、触診、血液検査で判断されます。流行性耳下腺炎は、流行状況の把握とムンプスウイルスの抗体価を測ることにより確定診断されます。化膿性耳下腺炎は、耳下腺のはれ、口の中の炎症など特有の症状がないか確認し、初期段階で症状が似ている流行性耳下腺炎と識別します。唾液管末端拡張症の確定診断には、唾液腺造影検査が必要です。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、流行性耳下腺炎の場合、ムンプスウイルスに効く薬はありませんが、痛みに対して消炎鎮痛薬を使うことがあります。合併症が多いため、全身状態がよくても安静、保温、栄養など、乳幼児、学童に対する基本的な看護が必要です。大人で精巣炎を起こしていれば、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を使うことがあります。

化膿性唾液腺炎の場合、抗生剤(抗生物質)を投与します。痛みを和らげる消炎鎮痛剤の投与、湿布なども行います。軽い場合はそのままよくなることもありますが、耳下腺のはれと膿のたまりがひどい場合は入院治療が必要なこともあります。耳下腺部に波が打つような波動感が出てきて、膿が耳下腺全体にたまっていれば、切開を行い膿を排出させる消炎手術を行います。家庭での注意としては、唾液分泌を促す酸っぱい食品は痛みの原因になるので避けます。

唾液管末端拡張症の場合、特別有効な治療法がないため、痛みが強い場合は消炎鎮痛薬を使います。発熱がある場合、はれに熱感がある場合には、細菌感染合併を考えて抗生剤(抗生物質)を投与することがあります。数年間にわたり何回も繰り返しますが、ほとんどが学童期で自然に治癒します。家庭での注意としては、唾液分泌を促す酸っぱい食品は痛みの原因になるので避けます。

🇨🇾唾液腺がん

唾液を作る臓器である唾液腺のうち、耳下腺などの大唾液腺に発生するがん

唾液腺(だえきせん)がんとは、唾液を作る臓器である唾液腺のうち、大唾液腺に発生するがん。

唾液腺には、大唾液腺と小唾液腺とがあります。大唾液腺は、耳の前から下に存在して、おたふく風邪の際にはれる耳下腺、あごの下に存在する顎下(がくか)腺、舌の裏に存在する舌下腺に分けられます。一般に、食事が口に入った時に分泌される唾液は耳下腺から、安静時、特に睡眠中に分泌される唾液は主に顎下腺からと考えられています。

小唾液腺は、口腔(こうくう)粘膜、咽頭(いんとう)粘膜に無数に存在します。

頭頸(とうけい)部がんの中でも、唾液腺がんは5パーセント程度と少なく、そのほとんどは耳下腺と顎下腺に発生し、舌下腺がんは極めてまれです。一般に頭頸部がんは粘膜上皮から発生することが多いため、扁平(へんぺい)上皮がんという組織がほとんどですが、唾液腺は複数の細胞が集まっていますので、唾液腺がんの病理組織も多彩であることが特徴で、世界保健機関(WHO)の分類で18種類。

また、病理組織型により悪性度も異なります。耳下腺腫瘍(しゅよう)の80パーセントは良性なのに対して、顎下腺腫瘍では50〜60パーセントが悪性です。

唾液腺がんができやすいのは、50歳以降の年齢層で、男性が女性の約2倍となっています。若い年齢層にも、決してまれではありません。

初期症状は、耳下腺や顎下腺、舌下腺がある部位に腫瘤(しゅりゅう)を認めるだけです。進行すると、首のリンパ節がはれたり、耳下腺がんでは顔面神経まひが起こったり、口が開けにくくなったりするような症状を伴ってきます。顎下腺がんでは痛みが伴うことがあります。

一般に進行は遅いものの、急速に進行して腫瘤が急激に大きくなることもあるので、あまり大きさが変わらないからといって、良性とは判断できません。

唾液腺がんの検査と診断と治療

唾液腺がんの診断は、視診、触診、細い針で腫瘍細胞を吸引して検査をする吸引細胞診や組織生検で行われます。さらに、耳下腺や顎下腺の開孔部から造影剤を注入してX線撮影する唾液腺造影法、CT検査、MRI検査、超音波検査などで、進展範囲、頸部リンパ節転移、遠隔転移の程度を調べて病期分類を決定し、進行度を判定します。

唾液腺がんの治療の基本は、手術になります。がん手術は腫瘍周囲の安全域を含めて切除することが基本なので、腫瘤自体が小さくても顔面神経や皮膚、下顎骨と近い場合は、これらも一緒に切除することもあります。

神経を切除した場合は、神経を移植してまひの程度を軽くします。下顎骨を切除した場合には、咀嚼(そしゃく)に不便を感じることが多いものの、嚥下(えんげ)や会話は可能。近年では、肋骨(ろっこつ)、腸骨、腓骨(ひこつ)、 肩甲骨などを用いて下顎骨を再建するようになってきているため、手術後の障害は大幅に解消されつつあります。

手術前に遠隔転移があったり、全身状態が不良な場合は、手術以外の方法を選択することもあります。しかし、唾液腺がんのうち、耳下腺がんでは放射線や化学療法は一般的な治療ではありません。放射線治療単独では根治は望めないものの、手術後に放射線治療を加えることはあります。未分化がんや、腺がんの一部には、手術に加えて抗がん剤による化学療法を行う場合もあります。

頸部のリンパ節に明らかな転移があれば、転移のあるリンパ節のみならず、頸部のリンパ節を周囲の組織も含めてすべて摘出します。がんの病理組織型によっては、予防的にリンパ節を摘出する場合もあります。 摘出手術後には、首から肩にかけての知覚および運動機能の低下が問題になりますので、積極的に肩を動かしてリハビリテーションを行う必要があります。

唾液腺がんの生存率についての全国的なデータはありませんが、いくつかの病院が調査したデータによると、5年生存率は50パーセント程度とみられています。

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