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2022/07/08

☦DLB(レビー小体型認知症) 

運動障害や幻視も現れる認知症の一種

DLB(Dementia with Lewy Bodies、レビー小体型認知症)とは、脳の神経細胞が委縮する変性性認知症の一種。変性性の認知症の中では、アルツハイマー型認知症(AD:Alzheimer's Disease)に次いで多く、変性性認知症全体の約2割を占めるといわれるほど、比較的頻度の高い疾患です。以前は、DLBD(Diffuse Lewy Body Disease、びまん性レビー小体病)と呼ばれていました。

高齢者に多くみられますが、40歳前後で発病する場合もあり、男性は女性より約2倍多いと見なされています。出現する症状に物忘れもあり、一見アルツハイマー型認知症に似ています。

レビー小体とはもともと、運動障害を主な症状とするパーキンソン病において、脳の下のほうにある脳幹を構成する中脳に現れる特殊な構造物(封入体)を指す言葉ですが、DLBを発症した人の脳では、この構造物が認知機能をつかさどる大脳皮質にも広く見られることから命名されました。

DLBの認知機能障害は、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴がみられます。

アルツハイマー型認知症では特に初期において、比較的近い時期の記憶をとどめておくのが難しくなる物忘れの症状で始まることが多いのですが、DLBでは、物忘れの症状ばかりではなく、初期より幻覚、特に幻視や、妄想が現れることがしばしばです。

幻視とは、実際には存在していないものがあるものとして生々しく見える症状で、「壁に虫がはっている」、「子供が枕元(まくらもと)に座っている」、「座敷で3人の子供たちが走り回っている」、「男たちがどかどか部屋に入り込んでくる」など、DLBでは非常にリアルな幻視が比較的よくみられます。

「布団が人の姿に見える」といった錯視の症状も、しばしばみられます。これらの視覚性の認知障害は、暗くなると現れやすくなります。

また、日によって症状に変動がある上、日内変動も激しいのが特徴です。日によって症状が良かったり、悪かったり、一日の中でも一見全く穏やかな状態から無気力、興奮、錯乱状態を示すといった気分や態度の変動を繰り返したり、日中に惰眠をむさぼったりすることも認められます。

もう一つの大きな特徴は、病態が進行すると運動機能障害を伴う点。体が硬くなる、動作が遅くなる、小またで歩く、体のバランスが悪くなる、手が不器用になる、手足が震える、猫背になるなど、パーキンソン病に似た運動障害が出てきます。

このパーキンソン病の症状が出現してくる時点で、アルツハイマー型認知症ではなくDLBと気付かれる場合が少なくありません。

運動機能障害を伴うため、アルツハイマー型認知症の人と比べて、転倒の危険が高く、また寝たきりにもなりやすいといえます。

自律神経の機能障害を伴う点も、DLBの特徴です。便秘、尿失禁、血圧の調節障害、性的機能障害がみられますが、最も日常生活を阻害するのは起立性低血圧です。立ち上がった時に、血圧の大幅な低下がみられるのが起立性低血圧の症状で、ひどい場合には失神を起こすことがあります。これが原因で、立位歩行が困難になることもあります。

DLB(レビー小体型認知症)の検査と診断と治療

DLB(レビー小体型認知症)の診断は難しく、初期の段階でアルツハイマー型認知症と診断されたり、運動機能障害が出現した段階でパーキンソン病と診断されたりするほか、初期の段階でうつ症状が出てうつ病と診断されることもあります。

早期発見と適切な治療が進行を遅らせて、症状を和らげ、中には見違えるほど元気になる人もいる疾患ですので、専門医に相談することが大切です。

医師による診断では、脳血流検査が行われます。アルツハイマー病に似た特徴である頭頂葉・側頭葉の血流低下に加え、視覚に関連の深い後頭葉にも血流低下がみられると、DLBの判定基準の一つとなります。

治療では、認知機能障害などの精神症状に対する抗精神薬によるコントロール、運動機能障害に対する抗パーキンソン病薬によるコントロール、自律神経障害に対する血圧コントロールなどが行われます。

薬剤調節が難しく、注意が必要な場合があるのが、DLBの治療における特徴です。抗精神薬への反応が過敏である場合もあり、少量より時間をかけて試みることが必要とされます。また、抗精神薬は運動症状を悪化させる作用があるものが多く、逆に抗パーキンソン病薬は精神症状を悪化させることがあるため、個々の発症者の生活や介護がしやすいように薬をうまく調節することが必要とされます。

アルツハイマー型認知症の治療薬が効果的な場合もあり、通常量以下での投与が試みられることもあります。

♏DVT(深部静脈血栓症)

飛行機内などの座席で長時間、同じ姿勢を取り続けて発症する血栓症

DVT(Deep Vein Thrombosis、深部静脈血栓症)とは、飛行機内などで長時間、同じ座席で同じ姿勢を取り続けることにより、静脈内に血栓を生ずる疾患。エコノミークラス症候群、ロングフライト血栓症、ロングフライト症候群、旅行者血栓症、静脈血栓塞栓(そくせん)症とも呼ばれます。

飛行機のエコノミークラス以外の座席、飛行機以外の列車、バス、自動車などの交通機関や施設の座席でも、DVTを発症することがあります。

飛行中の機内では乾燥した環境のため、長時間のフライトでは体の水分が失われ、血液が濃縮して固まりやすい状態にあります。さらに、狭い座席に同じ姿勢でずっと座り続けていることで、下肢や腰が圧迫され静脈血の心臓への巡りが徐々に悪くなり、体の深い組織内にある下腿(かたい)静脈や、大腿(だいたい)静脈、あるいは骨盤内の深部静脈内に、血の固まりである血栓ができやすくなります。

そして、およそ6時間を超える長時間のフライトを経験した時には、血栓ができる傾向があります。

血栓が左右両側の下肢の深部静脈内に同時にできることは極めてまれで、左右どちらかの膨らはぎなどの内部に不快感、鈍い痛み、はれなどを起こします。一般的には4対1の割合で、左側の下肢に発生します。

軽症の血栓が、さらに血液の流れに沿って心臓側に徐々に延び、成長していって、大腿部あるいは骨盤内の深部静脈までふさいでしまい、片方の下肢に強い痛みやむくみが出たり、チアノーゼを起こして青紫色に変色したりします。

中等症の血栓が、座席から立ち上がった際などに血管壁からはがれ、血流に乗って大静脈を上行していったん心臓に入り、次いで、酸素を取り入れる器官でもあり、血液のフィルターでもある肺動脈に詰まると、肺塞栓症となります。

肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下し、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を来し、脈の増加、失神などを起こします。

軽度であれば胸焼けや発熱程度で治まりますが、最悪の場合は死亡に至ることもあります。

血栓が心臓を経て肺動脈に詰まる重症例は、10時間以上の長時間のフライトで発症する傾向にあります。男性よりも女性にやや多く、40歳代後半から50歳代に発症しやすいと見なされています。

とりわけ、下肢に静脈瘤(りゅう)のある人、下肢の手術をした人、血液の凝固能に異常のある人、経口避妊薬を服用している人、妊娠中や出産後の人などは、発症しやすいので注意が必要とされます。

このDVTは、急性期に適切な治療がなされないと、慢性期に静脈血栓後症候群(Postthrombotic Syndrome)に悩まされることとなります。静脈高血圧のために、皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に静脈瘤ができたり、下肢の倦怠(けんたい)感、むくみが生じたり、栄養不足のために色素が沈着したり、皮膚炎や湿疹(しっしん)を起こしやすくなったり、治りにくい潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。

DVT(深部静脈血栓症)の検査と診断と治療

循環器科、呼吸器科などの医師による診断では、皮膚の浅い部分にある皮静脈(表在性静脈)に起こる血栓性静脈炎などの紛らわしい疾患と区別するため、静脈造影、超音波ドプラー法、造影CT、MRA(核磁気共鳴検査)、血流シンチなどを行います。また、原因となる血液凝固異常の有無や、血栓を生じたことを確認するために、血液検査も行われます。

循環器科、呼吸器科などの医師による治療では、急性期においては、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。

痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固剤や血栓溶解剤を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。将来、肺塞栓などの重症な疾患に発展したり、静脈血栓後症候群が生じる危険もあり、治療には十分な注意が必要とされます。

なお、DVT(深部静脈血栓症)の予防には、血液が固まりにくいようにミネラルウオーターやお茶などで水分を補給したり、長時間に渡って同じ姿勢を取らないようにし、2~3時間ごとに通路を歩いたり、下肢の屈伸運動などをしたり、着席中にも足を少しでも動かしたり、ふくらはぎを軽くもむなどして、下肢の血液循環をよくすることが有効です。

♎E型肝炎

E型肝炎とは、E型肝炎ウイルス(HEV)に汚染された水や食べ物から経口感染し、吐き気、食欲不振などの症状が出るウイルス性肝炎の一種です。通常、一過性で慢性化しませんが、まれに激症化して死亡することがあります。

約100年前にイギリスから輸入された豚と一緒に、日本国内に入ってきた可能性があるという研究結果がありますが、従来、開発途上国を旅行した人が水などから感染するケースが多い、とされてきました。

2002年以降は、国内での感染が疑われるケースが急増し、02~04年が20件前後、06年は44件という報告があります。その背景には、高度なE型肝炎ウイルス遺伝子の検出法が広まったことがある、と見なされています。鹿(しか)肉や豚レバー、猪(いのしし)肉による感染例、輸血で感染した例も報告されています。

野性の猪の5~10パーセントがE型肝炎ウイルスを保有している可能性があるとされますので、野性動物の肉の生食は避け、しっかり火を通すことと、生肉に触れた、まな板、はしは熱湯消毒することが、感染の防止に必要とされます。

2022/07/07

♒EBウイルス感染症

主にEBウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいに多くみられる疾患

EBウイルス(Epstein-Barr、 エプスタイン・バー)感染症とは、主にEBウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。伝染性単核球症とも呼ばれ、アメリカではキス病とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

EBウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

EBウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。まれに、輸血により伝播(でんぱ)されます。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。 ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播を気にする必要はありません。

EBウイルス感染症の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、EBウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

このEBウイルス感染症に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

♒ED(勃起障害)

精神的、ないし身体的な原因で満足な性行為が行えない状態

ED(Erectile Dysfunction)とは、性的な刺激を受けても、陰茎の形や大きさが不足したり、勃起(ぼっき)を射精時まで維持できなかったりして、満足な性行為が行えない状態。勃起障害、勃起不全、インポテンツ(性交不能症)とも呼ばれます。

男性の陰茎の内部の中心には、スポンジのような構造をした左右一対の陰茎海綿体があり、この海綿体が硬く膨張して勃起は起こります。平静時には、陰茎は委縮と勃起の中間の状態にあります。活動の神経である交感神経系のシグナルと、リラックスの神経である副交感神経系のシグナルの両方が、互いに作用していることによります。

性的な刺激を受けた場合や、性的なことを想像した場合に大脳皮質が興奮すると、その信号が脊髄(せきずい)や末梢(まっしょう)神経を通って、陰茎海綿体神経に伝達されます。一酸化窒素が分泌され、さらにグアノシン一リン酸(サイクリックGMP)が合成されて、陰茎海綿体にある平滑筋が緩みます。このために、血液が一気に海綿体へと流入します。

すると、陰茎海綿体を覆っている白膜が引き伸ばされ、静脈を圧迫して血液の出口をふさぐために、流入した血液が海綿体中に閉じ込められた状態になって、陰茎が性行為に適当な硬さに硬直して、勃起が完成します。これらの流れのうちどこかに異常が起こった状態が、EDです。

EDは心因性(機能性)EDと、身体的(器質性)EDに大別することができますが、大部分は前者です。

心因性(機能性)EDは、基本的には体に異常がないものの、精神的な原因で勃起の障害を来します。具体的には、不安、ストレス、心の病、性器や性行為能力への不信、狭いといった家の構造上の問題などが原因となります。勃起が起こるには基本的に性的な刺激が必要で、精神的ストレスなどがある時はいくら刺激を受けても、勃起を起こす大脳中枢神経、自律神経、ホルモン系などに悪影響を及ぼし、勃起のメカニズムが正常に作用しなくなります。

身体的(器質性)EDでは、糖尿病によるものが著しく増加しています。そのほか、脊髄損傷、脳障害、動脈硬化、高血圧、泌尿器疾患、内分泌機能障害、薬の副作用が、原因となっています。内分泌機能障害の一つには、男性ホルモンの低下が挙げられます。

EDの検査と診断と治療

現在のところ、ED(勃起障害)には絶対的な解決策は存在しません。 状態が緊急を要したり、症状が重い場合は、医師へ相談することも選択肢の一つです。

医師による心因性(機能性)EDの場合の治療は、カウンセリング、性的教育などが主体となりますが、薬物療法を用いることもしばしばあります。

身体的(器質性)EDの場合は、陰圧式勃起補助具の使用や、陰茎プロステーシスの海綿体内埋め込み手術などがありますが、保険診療では認められていません。

EDの治療薬としては、厚生労働省にも認可されているバイアグラ(クエン酸シルデナフィル)や、レビトラ(バルデナフィル)が有名です。バイアグラの作用は、勃起のメカニズムのうちでサイクリックGMPの代謝を抑制します。このことで海綿体平滑筋の弛緩(しかん)が増強されるために、勃起も増強されます。つまり、勃起の増強剤であり、決して万能の薬ではありません。

勃起に関する神経や血管の完全障害の人には、バイアグラは全く効果がありません。また、心臓病でニトログリセリンなどの血管拡張剤を使用している人では、死亡ケースも出ており使用できません。動脈硬化の強い人や高齢者などの使用にも、十分な注意が必要です。専門の医師にも相談の上、使用することが大切となります。

なお、生活習慣の改善、禁煙・禁酒の実行、性行為時のちょっとしたアイデアで、EDを解決したというケースもあります。

♎EGID(好酸球性消化管疾患)

血液中の好酸球が消化管の粘膜に浸潤して、種々の症状を来す疾患の総称

EGID(Eosinophilic Gastro-Intestinal Disorders)とは、血液中の好酸球が消化管の粘膜に浸潤して、種々の症状を来す疾患の総称。好酸球性消化管疾患とも呼ばれます。

好酸球(Eosinophil)は、免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、このアレルギー反応による炎症の一因にもなる細胞です。

この好酸球が引き起こすEGIDは、好酸球性食道炎(Eosinophilic Esophagitis)と好酸球性胃腸炎(Eosinophilic Gastroenteritis)に大きく分けられます。

好酸球性食道炎の患者が2000年以降、欧米諸国で急増し、病態の解析や治療に関する研究が進んだことにより、日本でもEGIDが注目されるようになりました。

欧米ではEGIDのほとんどが好酸球性食道炎ですが、日本では好酸球性胃腸炎のほうが多く認められています。

好酸球性食道炎は、血液中の好酸球の食道壁への浸潤を特徴とする炎症性消化管疾患。詳しい原因は不明ですが、飲食物を含む何らかの物質が直接、間接の引き金になってアレルギー反応が起こり、血液中の好酸球が大量に産生される結果、食道壁の粘膜に多数浸潤して慢性炎症が引き起こされ、これが原因となって食道の正常な機能が障害されます。

胸痛、胸焼け、食物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害、食物のつかえ感、腹痛などが主な症状です。進行すると、食道粘膜の下層にむくみや繊維化が起こり、食道の狭窄(きょうさく)によって食べ物の通過障害を起こすことがあります。

また、好酸球性食道炎の発症者は、喘息(ぜんそく)やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の病歴を高い頻度で有しています。

日本では比較的まれですが、近年は男性を中心として患者数が増加しています。発症者の平均年齢は49歳。

胸焼けや食物のつかえ感など好酸球性食道炎と類似した症状を示す疾患に、胃液、十二指腸液の食道への逆流によって、食道の内面を覆う粘膜に炎症が起こる逆流性食道炎があります。医療機関で逆流性食道炎と診断されて、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用しても症状が改善しない患者の一部には、好酸球性食道炎が含まれるとみられています。

好酸球性食道炎を疑い、診断・治療機器の整った大学病院などの内科、気管食道科を受診することも勧められます。

一方、好酸球性胃腸炎は、血液中の好酸球の消化管壁への浸潤を特徴とする炎症性消化管疾患。こちらも詳しい原因は不明ですが、胃や腸に入ってきた飲食物を含む何らかの物質が直接、間接の引き金になってアレルギー反応が起こり、血液中の好酸球が大量に産生される結果、胃壁や腸壁の粘膜に多数浸潤して慢性炎症が引き起こされ、これが原因となって胃や腸の正常な機能が障害されます。

病変は胃、十二指腸、小腸などに好発し、食道や大腸にも病変を認める場合もあります。

好酸球性胃腸炎にはかなり長い潜行期間があると見なされ、顕性化すると発熱、全身倦怠(けんたい)感、疲れやすさを覚え、少量の食物で上腹部の膨満感と停滞感を来して十分に食事が取れなくなります。

下痢、腹痛、胸痛、嘔吐(おうと)がみられ、胃や小腸から出血するようになり、特に胃の前庭部と十二指腸の上部に、びらん、むくみ、発赤、潰瘍(かいよう)、出血が現れます。

炎症が胃や腸の粘膜に及ぶと、腹水が生じることがあります。病変の広がりと程度によって、軽度から重度の飲食物の消化障害、栄養物の吸収障害と蛋白(たんぱく)質喪失胃腸症を来し、次第に鉄欠乏性貧血と低蛋白血症が目立つようになります。

小腸の病変が強いと、繊維性狭窄のために腸の内容物である飲食物や消化液の通過障害が起こる腸閉塞(へいそく)となることもあります。

なお、好酸球性胃腸炎の発症者は、喘息などのアレルギー疾患の病歴を高い頻度で有しています。

まれな疾患ですが、小児から高齢者までのあらゆる年齢層に生じ、20歳代から50歳代の年齢層に好発しています。

下痢、腹痛が繰り返しみられ、胃薬の効果がない時には、好酸球性胃腸炎を疑い、消化器科、消化器内科、内科を受診することが勧められます。

EGID(好酸球性消化管疾患)の検査と診断と治療

内科、気管食道科の医師によるEGID(好酸球性消化管疾患)のうちの好酸球性食道炎の診断では、食道粘膜の組織を採取して調べる生検を行って、好酸球の浸潤の存在を認めれば、それでほぼ確定します。

また、問診による喘息などのアレルギー疾患の病歴、血液検査による末梢(まっしょう)血液中の好酸球の増加、内視鏡検査による食道の壁の肥厚、縦方向のしまや白い斑点(はんてん)、環状狭窄の存在なども確認します。

鑑別する疾患としては、胸焼けや食物のつかえ感などで類似した症状を示す逆流性食道炎が重要です。逆流性食道炎は、胃液、十二指腸液の食道への逆流によって、食道の内面を覆う粘膜に炎症が起こる疾患です。

内科、気管食道科の医師による好酸球性食道炎の治療では、アレルギー反応を起こす原因と考えられる抗原の除去が基本となります。食事療法として、抗原と疑われる食品を検査して特定し、その食品を除いた食事を用いる方法、検査は行わず一般的に抗原となりやすい牛乳、卵、肉、魚などの食品を除いた食事を用いる方法、アミノ酸成分栄養食を用いる方法の3種類があります。

薬物療法として、好酸球による炎症を抑えることを目的に、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の吸入剤が主に用いられます。吸入剤は局所的に作用するため副作用が少なく、気管に吸い込まず、いったん口の中にため、唾液(だえき)と一緒に飲み込みます。重症の人には、ステロイド剤の内服剤を用いることもあります。

また、食道の運動機能が低下して胃酸の逆流症状を併発する場合、酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を補助的に使用することもあります。

食事療法、薬物療法で症状が改善しない場合や、食べ物のつかえや嚥下障害が強い場合は、狭くなった食道を広げる外科手術を行うこともあります。

消化器科、消化器内科、内科の医師によるEGID(好酸球性消化管疾患)のうちの好酸球性胃腸炎の診断では、胃や十二指腸などの粘膜組織を採取して調べる生検を行って好酸球の浸潤の存在を認め、腹水中の多数の好酸球の存在を認めれば、それでほぼ確定します。

また、問診による喘息などのアレルギー疾患の病歴、血液検査による末梢血液中の好酸球の増多、内視鏡検査によるびらん、むくみ、発赤の存在、腹部超音波検査またはCT検査による胃や腸壁の肥厚の存在も確認します。

鑑別する疾患としては、硬性がん、メネトリエ病、胃の平滑筋腫(しゅ)または平滑筋肉腫、悪性リンパ腫、多発性内分泌腺(せん)腫、好酸球性肉芽腫などがあります。

消化器科、消化器内科、内科の医師による好酸球性胃腸炎の治療では、消化管の安静や保存的治療を行います。

消化管の安静としては、牛乳、卵、肉、魚などの食事性アレルギーの原因になりやすい食物を除いた除外食を摂取し、糖質を主にした輸液を中心にします。

保存的治療としては、早期に副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)のプレドニゾロンを1日30〜40mg 程度で使用します。効果のあるケースでは、1週間も使用すれば症状は改善するので、それから徐々に減量し、4週程度で終了するのが一般的です。胃腸症状は急速に軽症化し、腹水は消失、末梢血液中の好酸球はほとんど認められなくなります。

同時に、胃酸の分泌を促す物質の働きを抑える作用や止血作用のあるシメチジン製剤と、胃酸を中和する制酸剤を併用することもあります。制酸剤はシメチジン製剤の効果を増強するとともに、粘膜保護の役割を果たします。

消化管の狭窄、閉塞が起こっている場合は、外科手術を行うこともあります.

♏O157感染症

●O157に負けないために

 O157感染症の正式名は、「腸管出血性大腸菌感染症」または「ベロ毒素産生性大腸菌感染症」といいます。

 O157は大きさ1~2ミクロンの大腸菌の一種で、口から体の中に入り、O157感染症を起こします。「食中毒菌」なのですが、感染力や毒性が強く、たいへん危険な細菌であるため、1996年8月に「伝染病菌」に指定されました。

 しかし、「O157に対する3つの対策」を実行することで、あなたや家族をO157感染症の危険から守ることができます。

 O157に対する3つの対策

1. 細菌(O157)を体の中(口)に入れないようにします(特に、乳幼児、小児、高齢者、他の病気で体力の落ちている人などは、感染力が強いので要注意)。

2. 症状がでたら、早めに医師の診察を受けるようにします(重症化すると、生命の危険が増します)。

3. 日頃から、体力をつけるように心掛けます。

●O157感染症とは 

●O157の特徴 

 大腸菌のほとんどは無害ですが、中には下痢を起こすものがあり「病原性大腸菌」と呼ばれています。

 この病原性大腸菌には4種あり、うち腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)はベロ毒素というものを出して、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)を起こします。

 O157は、この腸管出血性大腸菌の代表的な細菌です。

 O157は家畜などの糞便中にときどき見られ、糞便や、糞便で汚染された水・食物を介して、人の口に入りO157感染症を起こします。

 O157の感染力は非常に強く、100個程度のO157が体の中に入っただけでも、病気を起こしてしまいます(多くの食中毒では、100万個以上の菌が体内に入らないと食中毒は起こりません)。

 死亡者を出すような毒性の強い大腸菌は、正確には「O157:H7」と分類されています。

 大腸菌は菌体の周囲に鞭毛(べんもう)があり、菌体と鞭毛の抗原の種類によって分類されています。菌体抗原を“O”で表し、鞭毛抗原をHで表します。「O157:H7」は、157番目のO抗原と、H7というH抗原を持っているという意味です。 

 O157の生存条件・増殖条件 

●水の中、土の中で数週間~数ヵ月間生きています。 

●低温に強く、冷凍庫内でも生きています。 

●酸性に強くpH3.5でも生き残るため、口から入ったO157の大部分は胃の酸にも負けずに、生きてしまいます。 

●熱には弱く、75℃1分間の加熱で死んでしまいます。 

●増殖は、温かく栄養分と水分のあるところで盛んになります。清潔、乾燥、低温を保つことで、増殖を抑えることができます。体の中では大腸で増殖します。 

●O157の感染経路 

 O157は家畜(牛、羊、豚など)の大腸をすみかとしています。汚染は家畜の糞便から水や食物を介して感染したり、感染した人から人へ感染します。

 アメリカで起こったO157感染は、ひき肉などの食肉製品(生焼けのハンバーグ)や生野菜で起こっています。またO157で汚染された湖で泳ぎ、湖水を飲んだために感染した人もいます。

●O157感染症が起こりやすい時期 

 O157を含め食中毒は、ふつう気温が高くなる初夏から初秋にかけて発生しやすくなります。

 この時期に食中毒が多いのは、気温が食中毒菌の増殖に適しているからです。しかし、O157の感染力はふつうの食中毒菌より強く、菌がそれほど多くなくても(100個程度で)、病気を起こします。

 そのため、O157感染症は、他の食中毒に比べて気温の低い時期にも発生しています。 

●O157感染症の症状 

 ◆下痢、腹痛 

* 感染者の約半数は、4~8日の潜伏期間ののちに、激しい腹痛を伴った水様便(水っぽい下痢)が頻回に起こり、まもなく血便(血液の混じった下痢)が出ます。

* 成人では感染しても、無症状だったり、軽い下痢で終わることが少なくありません。しかし、その場合でも便には菌が混じって排泄されていますので、家族に感染を広げないよう十分な注意が必要です。 

 ◆発熱 

* 38℃以上の発熱が10人のうち1~3人に見られます。 

 ◆溶血性尿毒症症候群(HUS) 

 ★症状 

* 蒼白(顔などの血色が悪くなること)、倦怠(全身のだるさ)、乏尿(尿の量が少ない)、浮腫(むくみ)が主な症状です。中枢神経症状〔傾眠(眠くなりやすい)、幻覚、けいれん〕なども起こります。

* HUSは下痢、腹痛などが起こってから、数日~2週間後に起こります。 

 ★HUSの3つの徴候

  検査で以下の3つが確認されると、HUSの可能性が高いと考えられます。 

* 赤血球が壊れ貧血になります。

* 血液を固める働きをする血小板数が少なくなり、出血しやすくなります。

* 腎臓の働きが低下します。 

 ◆脳症 

* 頭痛、傾眠、不穏、多弁(口数が多くなること)、幻覚などが予兆として起こり、数時間~12時間後にけいれん、昏睡が始まります。 

●O157感染症の経過 

 O157感染症が怖いのは、O157が出す“ベロ毒素”が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を起こすからです。これらは治療が難しい非常に危険な状態です。

 しかし、同じようにO157に感染しても、知らないうちに治ってしまう人もいます。成人のほとんどは、特別な治療を行わなくても、5~10日間で症状はなくなります。

 症状がなくなった後も、O157は1~2週間腸の中に残り、便の中にも出てきますので(排菌)、消毒などの予防は続けて行う必要があります。症状が軽く見えていても、急に悪化することもあります。 

●ベロ毒素とは

* 名前の由来

 ごくわずかな量で、実験に使われる培養細胞のベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓の細胞)を殺してしまうことから、「ベロ毒素」と名付けられました。

* 作用

 ベロ毒素は細胞のタンパク質の合成を止め、細胞を死に至らしめます。ベロ毒素は、特に腎臓、脳、肺などに障害を起こします。

* ベロ毒素の種類

 ベロ毒素には、1型と2型があります。1型は赤痢菌が作る「志賀毒素」と同じ毒素で、2型は1型より強い毒性を持つ毒素です。O157には、1型毒素のみ作るものと、1型と2型の両方を作るものとがあります。

* ベロ毒素の遺伝子

 ベロ毒素に関する遺伝子は、ファージ(細菌性ウイルス:細菌細胞に感染するウイルス)の遺伝子の中にあります。そのため、ベロ毒素遺伝子を持ったファージが別の大腸菌に感染すると、その大腸菌もベロ毒素を作る大腸菌になってしまいます。

 O157のベロ毒素の遺伝子は、赤痢菌が作るベロ毒素(志賀毒素)の遺伝子と同じか、よく似ています。 

●病原性大腸菌の分類 

 病原性大腸菌(下痢を起こす大腸菌)は、人や家畜の大腸に常在菌(常にその場所に住んでいる菌)として住んでいる大腸菌と同じ種類に属します。病原性大腸菌は、病気の起こし方によって、以下の4つに分類されています。 

1. 腸管病原性大腸菌(病原血清型大腸菌)

2. 腸管侵入性大腸菌(組織侵入型大腸菌)

3. 腸管毒素原性大腸菌(毒素原性大腸菌)

4. 腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)

 O157はこの代表選手です。そのほかに、O26、O111、O128、O145などがあります。病原性と毒性が強いため、平成8年8月に「伝染病菌」に指定されました。

●予防は、つけない、増やさない、生かさない 

●衛生管理 

 ◆井戸水、受水槽など 

* 糞便を介したO157による汚染がないかどうか点検します。 

 ◆ハエの駆除 

* O157がハエによって運ばれることが実験で確かめられていますので、ハエの駆除も大切です。 

 ◆手洗いの励行 

* 人から人への感染を防ぐには、手洗いをまめにすることが大切です。排便後、食事の前、特に下痢をしている子供や高齢者の世話をした時には、石けんと流水でよく手を洗います。患者さんの便に触れた場合は、直ちに流水で十分に手洗いを行い、逆性石けんまたは消毒用アルコールで消毒を行う。また、患者さん本人が用便をした後も同様に十分な手洗い、消毒を行います。 

●食品の購入・保存 

* 食品の購入や保存に当たっては、O157をつけないよう、増やさないよう注意します。

* 肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮なものを、表示のあるものは賞味期限をきちんと確かめて買うようにします。

* 冷蔵や冷凍の必要な生鮮食品は、買い物の最後に購入し、できるだけ早く帰宅して冷蔵、冷凍します。

* 冷蔵・冷凍する場合は、早く冷えるように、浅い容器に小分けにして保存します。

* 肉汁や魚の汁がほかのものにつかないよう、ビニール袋に入れます。

* 冷蔵庫や冷凍庫に食品を詰めすぎると、十分に冷えないことがあるので注意します。

* 冷蔵庫は10℃以下(細菌の増殖がゆっくりになる)、冷凍庫は-15℃以下(細菌の増殖が止まる)に保ち、早めに食品を使い切るようにします。

* 食品などを流しの下に置く場合は、汚れた洗い水がかからないように注意します。

* 食品を直接床の上に置いたりしないようにします。 

●衛生的な調理 

 ◆調理を始める前に 

* 調理台の上をきちんと片付けます。

* 清潔なタオル、ふきんを用意します。

* 手を石けんと流水でよく洗います。 

 ◆調理器具(包丁、まな板、おはしなど) 

* 使った後はすぐに洗剤と流水で洗いましょう。

* 生肉が触れたものは洗ってから、熱湯で消毒しましょう。

* できれば、肉・魚用と野菜用とに分けましょう。

* ふきんは消毒液(次亜塩素酸ナトリウムなどの漂白剤)か煮沸で消毒しましょう。

* たわしやスポンジは煮沸消毒しましょう。 

 ◆調理中の注意 

* 加熱調理済みの食品や、生で食べる野菜に、肉や魚の汁がかからないようにしましょう。 

 ◆生で食べる野菜 

* 流水でよく洗いましょう。 

 ◆冷凍食品 

* 解凍は冷蔵庫の中か、電子レンジで行います(室温で解凍すると、食中毒菌が増える恐れがあります)。

* 使う分だけ解凍し、解凍したら、すぐに調理します。 

 ◆肉、魚、卵 

* 十分に加熱して、生焼けの部分を残さないようにします(中心部の温度が1分間以上75℃となるように)。 

●危険を避ける食生活 

* 調理をしたら、なるべく早く食べるようにします(食品にO157が残っていた場合、室温に15~20分間放置すると、その数は約2倍に増えます。1個のO157が2時間で64個にもなる計算です)。

* 冷蔵庫の中でも、O157はゆっくり増えていきますので安心してはいけません。

* 市販品の賞味期限に注意します。

* 保存状態によっては、再加熱してから食べます(75℃以上。スープやみそ汁は沸騰するまで)。

* 少しでも不安がある時は、思い切って捨てます。 

●治療は早めに、慎重に 

●医師の診察を受けるタイミング 

* 下痢が続いたり、血が混じっている時は、早めに診察を受けてください。 

●検査 

 最初に行う検査は便の細菌検査です、便にO157がいるかどうかを調べます。下痢が長引いたり、血便が見られるようなら、尿検査と血液検査を繰り返して、溶血性尿毒症症候群(HUS)が起こっていないかを調べます。 

 ◆便検便 

* O157が見つかり、ベロ毒素を作ることが確かめられると、O157感染症と診断されます。

 ◆血液検査 

* 赤血球数、血小板数、白血球数などを調べます。さらに腎臓や肝臓の機能を調べます。 

 ◆尿検査

* 溶血性尿毒症症候群の早期発見のために尿を調べます。

 ◆その他の検査 

* 腹部超音波検査を行うことがあります。 

 ◆菌陰性化の判定 

* 24時間以上間隔をあけて、少なくとも2回便の細菌検査を行い、菌が見つからなければからだの中からO157が消えた(菌陰性化)と判定されます。

* 抗菌薬を服用していた場合は、服薬中と服薬中止から24時間後の2回の便の細菌検査で、菌が見つからなかったとき、体の中からO157が消えたと判定されます。 

●治療方法 

 O157感染症は、日本ばかりでなく世界的にも新しい病気です。そのため、抗菌薬の使い方や溶血性尿毒症症候群(HUS)に対する治療法は確立されていません。現在、各機関、医師の間で、データを集め研究しているところです。 

 ◆下痢に対する治療 

* 軽い下痢のみの症状の間は、安静と水分補給が中心です。

* 水分補給は、水分をたくさん飲むか、飲めない場合は輸液を行います(からだに必要な水分や塩分を、点滴で補給します)。

* 食事は症状にあわせて、消化・吸収のよいものをとるようにします。

 ◆腹痛に対する痛み止めの注射

* ペンタゾシンという薬が使われることがあります。

 ◆抗菌薬の服用

* 感染症には、一般に抗菌薬がよく効きます。しかし、O157は強力なベロ毒素を持っているため、抗菌薬で一度に殺菌すると、大量の毒素が菌の中から出てきてかえって症状を悪くするという説もあります。したがって、抗菌薬を使うかどうかは、病状を見ながら慎重に決めています。

* 抗菌薬を使う場合は、下痢などの症状が見られたとき、できるだけ早い時期に3~5日間使用します。

 ◆乳酸菌製剤の服用

* 乳酸菌は腸で増殖することで、O157などの害のある細菌の増殖を抑制します。

 ◆溶血性尿毒症症候群(HUS)に対する治療

* HUSが起こりそうな場合は、入院の上、状態を見ながら、輸血、血小板輸血、血しょう交換、人工透析などを行います。

* 輸血

ベロ毒素によって壊された赤血球を補給します(赤血球が壊れることを「溶血」といいます)。

* 血小板輸血

ベロ毒素のために少なくなった血小板を補給します。血液に含まれる血小板が少ないと、血液が固まりにくくなり、からだのあちこちで出血するようになります。

* 血しょう交換

血液をからだの外に導いて、血液の液体成分(血漿)を健康なひとから取り出した血しょうと入れ換える治療法です。血液中の老廃物やベロ毒素を除くとともに、ベロ毒素のために少なくなった血小板を補給することもできます。

* 人工透析

人工透析は、腎臓の代役として、血液中の老廃物を取り出す治療です。

●届け出義務

  腸管出血性大腸菌感染症は伝染病予防法の中に指定されており、感染者を診断した医師は、直ちに患者さんが居住する地域の保健所長に届け出なければなりません。

 病原性大腸菌O157について解説いたしました。みなさまの健康を守るために少しでもお役にたてれば幸いです。わからない点や心配な点などがある場合は、お近くのかかりつけ医などの医療機関にご相談ください。

☦EHO(肝外門脈閉塞症)

腸などから肝臓につながる門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈圧高進症を起こす疾患

EHO(Extrahepahc Portal Obstruction)とは、腸などから肝臓につながる静脈である門脈が肝臓の入り口付近で詰まる疾患。この位置で門脈が詰まると、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症という病態になり、さまざまな症状が起こります。肝外門脈閉塞(かんがいもんみゃくへいそく)症とも呼ばれます。

原因となる疾患の有無により、一次性EHOと二次性EHOに分けられます。原因が明らかでない一次性EHOは小児に多く、二次性EHOは成人に多いといわれています。

一次性EHOの考えられる原因としては、門脈の先天性の奇形、新生児期や乳児期の臍(さい)炎、敗血症、腹膜炎などの炎症に伴う門脈系の凝固異常などが推測されています。二次性EHOの原因としては、肝硬変、特発性門脈圧高進症(IPH:Idiopathic Portal Hypertension)、腫瘍(しゅよう)、血液疾患、肝外胆管炎、膵(すい)炎、開腹手術などがあります。

男性、女性を問わずに、EHOは起こり、特に男女差はありません。発症年齢では、10歳代以下と40歳代以降に好発します。一次性EHOの年間発生者数が40~60人、二次性EHOの年間発生者数が300~400人と推定されています。

大静脈である門脈には、腸全体を始め、脾(ひ)臓、膵臓、胆嚢(たんのう)から流れ出る血液が集まります。門脈は肝臓に入ると左右に分かれ、さらに細かく枝分かれして肝臓全体に広がります。血液は肝細胞との物質の交換を行った後は、末梢(まっしょう)の肝静脈に流れ出して、大きな3本の肝静脈に集められ、さらに下大静脈を介して体循環に戻り心臓へと向かいます。

門脈が肝臓の入り口付近で詰まり、門脈の血圧が上昇して門脈圧高進症になると、門脈から体循環に直接つながる静脈の発達が促され、肝臓を迂回(うかい)するルートが形成されます。この側副血行路と呼ばれる海綿状血管のバイパスによって、正常な体では肝臓で血液から取り除かれるはずの物質が、体循環に入り込むようになります。

側副血行路は特定の部位で発達しますが、食道の下端にできた場合は特に注意が必要で、血管が拡張し曲がりくねって、食道静脈瘤(りゅう)を形成します。拡張した血管はもろくなって出血しやすく、時に大出血を起こし、吐血や下血などの症状が現れます。

側副血行路はへその周辺部や直腸で発達することもあり、胃の上部にできた静脈瘤も出血しやすく、時には大出血となりますし、直腸にできた静脈瘤もまれに出血することがあります。

脾臓は脾静脈を通じて門脈に血液を供給しているため、門脈圧の高進はしばしば脾臓のはれを引き起こします。脾機能高進による血球破壊のために、貧血を生じることもあります。

蛋白(たんぱく)質を含む体液である腹水が肝臓と腸の表面から漏れ出して、腹腔(ふくくう)が膨張することもあります。

EHOでは門脈圧が高い傾向にあり、食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血頻度が高いのが特徴となっています。

EHO(肝外門脈閉塞症)の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、超音波検査、血管造影で側副血行路の海綿状血管の増生を証明することが重要で、ほかには門脈圧高進症に伴う検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療は、門脈圧高進症に伴う食道静脈瘤、胃静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路と呼ばれるバイパスを遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

一次性EHOの場合、多くの症例では肝機能がほぼ正常に保たれています。食道静脈瘤、胃静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば、経過は良好です。

二次性EHOの場合は、肝硬変、特発性門脈圧高進症(IPH)、腫瘍、血液疾患など門脈閉塞の原因疾患によって予後が決定されます。

✝EIEE(大田原症候群)

新生児期から乳児早期に発症する難治性のてんかん

EIEE(early infantile epileptic encephalopathy with suppression burst)とは、新生児期から生後3カ月以前の乳児早期に発症する難治性のてんかん。大田原症候群、早期乳児てんかん性脳症とも呼ばれます。

EIEEは、生後4カ月から1歳ころに発症するウエスト症候群(点頭てんかん)、2歳~8歳に発症するレノックスガストー症候群とともに、年齢依存性てんかん性脳症に分類されます。それぞれのてんかんの好発年齢が乳幼児期にみられること、大田原症候群からウエスト症候群へ、さらにウエスト症候群からレノックスガストー症候群へと年齢とともに移行することが多いため、脳の発達過程とこれらのてんかんの発症が密接に関連しているものと考えられています。

てんかんは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患です。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、てんかんの特徴です。

EIEEの発症者は、10万人に1人以下とみられています。発症すると、強直発作を頻発します。強直発作は全身を強直させて、頭部を前屈し、両上肢を挙上させ、眼球が上転する数秒~30秒程度の発作で、発作の発見時には多くの場合、一過性に呼吸を止めて、唇や爪(つめ)が青紫色になるチアノーゼが見られます。覚醒(かくせい)時にも睡眠にも、発作は出現します。

脳波を調べると、覚醒時、睡眠時を問わず持続的に、サプレッションバーストという特徴的な脳波が認められます。サプレッションバーストは、振幅の小さい波の時(サプレッション)と、振幅の大きい波の時(バースト)とが交互に現れるものです。発作を起こしている時の脳波は、ほとんどが全般性脱同期を示します。

強直発作に伴って脳の働きが弱まり、知的障害や運動障害などを来します。

EIEEは、脳の低酸素や感染症、事故などよる脳損傷によっても生じますが、一部は脳で働くARX、およびSTXBP1という遺伝子の配列の異常によって生じます。ARXという遺伝子は、ガンマアミノ酪酸(GABA、 ギャバ)と呼ばれる脳の興奮を抑える物質を含む神経細胞の発生に関係しています。

小児科、あるいは神経内科の医師による治療では、抗てんかん薬の内服のほか、ビタミンB6の内服、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)療法、甲状腺(こうじょうせん)刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の注射などが行われます。

しかしながら、EIEEの発作は難治で、多くは抗てんかん剤および副腎皮質刺激ホルモンに反応しません。薬剤が部分的に有効で発作が消退しても、重症の心身障害を残し予後は極めて不良で、早期死亡の例も少なくありません。

脳の前頭葉に焦点性皮質形成異常のあるEIEEの場合には、外科治療が精神運動発達と発作コントロールの両方に有益な効果があります。

♎ENS(空の巣症候群)

中高年の専業主婦が陥りやすい心身の不安定な状態

ENS(empty-nest syndrome、エンプティネストシンドローム)とは、40歳代後半から50歳代の専業主婦が陥りやすい心身の不安定な状態。空(から)の巣症候群とも呼ばれます。

生きがいだった子供たちが大学進学や就職で一人暮らしを始めたり、結婚などで巣立っていき、独り家庭に取り残された専業主婦が、母親としての役割をなくした孤独感や、生きがいを失った虚無感を感じて、新たな生きがいを見付けられずに、抑うつ感などにとらわれて心身の不調を覚える状態です。

この時期の女性は更年期でもあり、夫が仕事で忙しくて家にいる時間が少なかったり、単身赴任で不在だったりという他の要因とも重なりやすいので、ENSになりやすい時期に相当します。

子育てに熱心だった良妻賢母型の専業主婦、内交的で近所付き合いがあまり好きではない性格の人、特に趣味を持たずに一日中家にいて家事をやっていることが多い人、外に出るよりも家にいるほうが好きな人に、ENSになりやすい傾向があります。

心の不調に加えて、頭痛、肩凝り、胸苦しさ、吐き気、食欲低下、不眠などの身体症状を伴うことが多く、誤診されやすいのもENSの特徴です。日常的に襲うむなしさや自信喪失、不安から逃れるために、手近にある酒に頼ってキッチンドランカーになり体を壊すケースもあります。夫が定年退職して退職金をもらうのと同時に、妻が離婚を宣言するといったほうに展開していくこともあります。

まずは何も考えずにゆっくりと休むのが、何よりの薬です。子供はいずれ育っていくものと考え、新たに趣味や習い事を始めたり、地域の集まりや行事に積極的に参加し、子供以外の生きがいを見付けたいものです。

夫との絆(きずな)の弱さも要因として指摘されていますので、夫とのコミュニケーションを増やして、第二の人生を夫婦で楽しく過ごせるようにあらかじめ人生設計を立て、共通の趣味を見付けてゆくのもよいでしょう。

状態が悪い時には医療が必要で、薬が効果的です。心療内科やメンタルクリニックを受診し、じっくりと話して自分を見詰め直すのも、ENSを改善する大切な方法です。

♍ET(本態性血小板血症)

造血幹細胞が腫瘍化して発生し、血液中の血小板が正常範囲を超えて増加する疾患

ET(essential thrombocythemia)とは、すべての血液細胞のもとになる造血幹細胞が腫瘍(しゅよう)化して発生し、血液中の血小板が正常範囲を超えて増加する疾患。本態性血小板血症とも呼ばれます。

このETは、慢性骨髄増殖性疾患(CMPD:chronic myeloproliferative disorders)というグループに属する血液腫瘍疾患の一つで、同じグループには慢性骨髄性白血病(CML:chronic myelogenous leukemia)、真性多血症(PV:polycytemia vera)、特発性骨髄線維症(IM: idiopathic myelofibrosis)が属しています。

ETでは、とりわけ血小板のもとになる巨核球の腫瘍性増殖が特徴的で、結果として末梢(まっしょう)血における血小板数が著しく増加します。巨核球の腫瘍性増殖が起こる原因については、詳しくはわかっていません。しかし、約半数の例では真性多血症と同じくJAK2と呼ばれる遺伝子の異常が認められており、この異常が発症にかかわっていると考えられています。

慢性骨髄性白血病と異なり、特殊な染色体であるフィラデルフィア染色体の形成は認められません。また、いわゆる遺伝性の疾患ではないので、子孫に影響することはありません。100万に数人の割合で発症するまれな疾患であり、診断時の平均年齢は60歳で女性に多く、20歳未満の人が発症することはめったにありません。

全く自覚症状がない場合も多く、健康診断や他の疾患で医療機関を受診した際の血液検査の結果、発見されるケースもあります。

疾患が進行すると、血小板の数が著しく増加するので、血管内に血栓ができやすくなり、頭痛を始め、倦怠(けんたい)感、めまい、耳鳴り、視覚異常などがみられることがあります。時には、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞のような重大な合併症を起こすこともあります。

逆に、血小板が増えすぎることで、その出血を止める機能が低下し、鼻血が出る、歯茎に血がにじむ、あざになりやすいといった出血傾向がみられることもあります。肝臓や脾臓(ひぞう)がはれて、腹部の張りを感じることもあります。

ET(本態性血小板血症)の検査と診断と治療

内科、血液内科の医師による診断では、血液検査で血小板数が増えている場合に、ET(本態性血小板血症)を疑い検査を行います。血小板を増加させるET以外のさまざまな原因がないかを確認することと、慢性骨髄性白血病ではないことを確認することが必要です。

具体的には、炎症の指標であるCRP(C反応性タンパク)が正常で、鉄の不足がないことを確認することが大切です。また、血液がどの程度固まりやすくなっているかを調べるために、血小板凝集能検査を行うこともあります。骨髄検査も行い、骨髄に線維化がないことと、慢性骨髄性白血病に特徴的なフィラデルフィア染色体およびBCRーABL遺伝子が見付からないことを確認します。

貧血は通常、起こりません。脾臓がはれて大きくなっている場合が、しばしばあります。

内科、血液内科の医師による治療では、無症状で血小板数がそれほど多くない場合には、無治療で経過を観察することがあります。血小板の数が100万μlを超えるような場合には、アスピリン(バイアスピリン)やチクロピジン(パナルジン)などの血小板の機能を低下させる抗血小板剤を投与して、血小板の働きを抑えます。

血栓による症状や出血傾向を認める場合、高齢者である場合には、経口抗腫瘍剤であるハイドロキシウレア(ハイドレア)、ブスルファン(マブリン)などを投与して、血小板数を減らします。なお、ハイドロキシウレア(ハイドレア)を服用している際には、足の皮膚に潰瘍(かいよう)ができる副作用に注意する必要があります。

いずれの治療も、疾患そのものを治すことはできないものの、コントロールすることによって、合併症の起こるリスクを減らすことができます。予後は比較的良好ですが、まれに急性骨髄性白血病や骨髄線維症に進行することもあります。その場合には、症状に応じた治療が必要になります。

食事、運動、旅行などの日常生活全般についての制限は、ほとんどありません。治療の有無に関わらず、定期的に血液検査を受けることが重要です。屋外で仕事をする場合には、水分を十分に摂取して、脱水症にならないよう注意することが必要です。

出血症状が強い場合や、抗血小板剤を服用している場合には、外傷に気を付ける必要がありますし、抜歯や手術が必要な場合には、あらかじめ主治医に相談することが大切です。

♐FOP(進行性骨化性線維異形成症)

全身の筋肉や周囲の膜、腱、靭帯などの線維性組織が骨に変わっていく難病

FOP(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva)とは、全身の筋肉や周囲の線維性組織が骨に変わっていく難病。進行性骨化性線維異形成症とも呼ばれます。

骨系統疾患(Skeletal Dysplasia)に分類される先天的な原因によって全身の骨や軟骨、靭帯(じんたい)などに変化が生じる疾患の1つで、子供のころから、全身の筋肉やその周囲の膜、腱(けん)、靭帯などの線維性組織が徐々に硬くなって、骨に変わります。このため手足の関節の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりします。生まれ付き足の親指が短くて、曲がっていることが多いという特徴があります。

外国では、人口200万人に対して1人の発症者がいるとされています。日本における発症者の数は不明ながら、60人以上いると推定されており、国指定の難病として認定されています。

特定の国や地域に多いという傾向はなく、世界中でほぼ一定の割合の発症者がいると考えられています。また、発症しやすい特別な体質などはないと考えられています。

ACVR1(別名ALK2)と呼ばれる遺伝子の一部が正常と異なることが、FOPの原因です。ALK2はBMPと呼ばれる骨形成因子の信号を細胞内に伝達する受容体であり、ACVR1遺伝子の変化がどのようにして疾患を引き起こすかについては研究が進んできています。

常染色体優性遺伝という形で遺伝することがわかっていますが、健常な両親のどちらかの配偶子に起きた突然変異による発症者が多く、家族の中で複数の発症者がいることは実際にはまれです。

主な症状は、筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが硬くなって骨に変わる異所性骨化( Heterotopic Ossification)で、多くは乳児期から学童期にかけて初めて起きます。まず皮膚の下がはれたり硬くなったりして、時に熱を持ったり痛みを伴うことがあります。この症状をフレア・アップと呼びます。

フレア・アップを繰り返しながら異所性骨化を生じ、手足の関節の動きが悪くなったり、背中が変形したりしますが、フレア・アップが起きても必ず異所性骨化につながるとは限りません。けがや手術などが切っ掛けとなって、フレア・アップが起きることもあります。

異所性骨化は、背中や首、肩、足の付け根から始まり、徐々に手足の先の方に向かって広がる傾向があります。手の指の動きまで悪くなることは少ないようです。呼吸に関係する筋肉や口を動かす筋肉の動きも悪くなり、呼吸の障害が起きたり、口が開けにくくなったりすることもあります。心臓を含む内臓の筋肉には、異所性骨化を生じないとされています。

異所性骨化以外に、足の親指が短くて曲がっている、手の親指が短い、手の小指が曲がっている、耳が聞こえにくい、髪の毛が薄くなるなどの症状を示すことがあります。X線(レントゲン)を撮ると、膝(ひざ)などに異所性骨化とは異なる骨の出っ張りがあることもあります。

また、最近では、FOPに症状が似ているものの、異所性骨化の程度が軽い、足の親指の変形が軽いなど、同じACVR1遺伝子に変化があるにもかかわらず、症状の異なる線維性骨異形成 (Fibrous Dysplasia)と呼ばれる疾患の発症者がいることがわかってきています。

FOPでは、徐々に異所性骨化が進行していきます。足の関節が硬くなることにより、歩きにくくなり、杖(つえ)や車いすが必要になることがあります。腕の関節が硬くなることにより、食事や洗顔など手を使った身の回りの動作がやりにくくなったりもします。呼吸の障害や、口を開きにくいことによる栄養の障害が、寿命にかかわるとされています。

発症者は30歳までに体を動かすことができなくなり、40歳以上命を長らえさせることはまれです。しかし、栄養の管理などの医療技術の進歩もあり、50〜70歳代で生存している人も確認されています。

FOP(進行性骨化性線維異形成症)の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、線維性組織内に発生した骨性組織を確認します。

なお、病巣部分の組織を採取すると、結果として異所性骨化を進行させる原因となることがありますが、線維性組織内には骨の成分であるカルシウムなどミネラル成分が多く沈着し、たまったミネラル成分の内部には、実際の骨と同じような繊維状のコラーゲン組織ができていることが確かめられます。

整形外科の医師による治療では、フレア・アップを生じた際に異所性骨化へと進行するのを防ぐために、ステロイド、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ビスフォスフォネートなどさまざまな薬が試みられていますが、明らかに有効であると確認されたものはありません。

一度症状が現れてから異所性骨化を抑える完全な予防治療法は、現時点では存在しません。原因となる遺伝子の変化はわかってきましたが、遺伝子治療も行われていません。

フレア・アップを予防するためには、けがを避ける必要があります。特に転倒、転落は、フレア・アップだけでなく、受身の姿勢を取れずに頭などをけがしてしまうこともあるので、特に注意が必要です。

骨性組織を増殖させる原因となり得る筋肉内注射は避けるべきですが、皮下注射や静脈注射には問題がないといわれています。従って、皮下注射の予防接種は十分に注意すれば問題なく行うことができます。インフルエンザなどのウイルス感染を切っ掛けに、フレア・アップを起こすことがあるといわれています。

口が開きにくいために歯磨きがおろそかになり虫歯ができると、治療がとても厄介です。適切な歯の管理の指導を受けて励行することも、大事です。

☘GAD(全般性不安障害)

不安障害の一種で、慢性的な不安が特徴

GAD(Generalized Anxiety Disorder)とは、不安障害の一種。全般性不安障害とも呼ばれます。

不安障害とは、誰もが感じる程度をはるかに超える不安を持ち、それが元で日常生活に支障を来してしまう病気の総称です。

不安障害に数えられる病気の一つであるGADは、以前はパニック障害と一括して「不安神経症」と呼ばれていました。現在では二つに分けて、慢性的な不安に悩まされているなら 「GAD(全般性不安障害)」、急な不安発作を繰り返すなら「PD(Panic Disorder、パニック障害)」という診断名で呼ばれるようになりました。「神経症」という用語も、国際疾病分類などでは正式な診断名として使われなくなりました。

GADの特徴は、慢性的な不安と、それに伴う心と体の症状が長く続くことです。誰もが感じる正常な不安は、はっきりした理由があって、一定の期間だけ続きます。しかし、GADの場合、理由が定まらず、特殊な状況に限定されない不安が長期間続きます。

不安や心配の対象は、家庭生活、仕事、学校、将来、近所付き合い、地震や大雨などの天災、不慮の事故、病気、外国での戦争など、あらゆるものが対象になります。そして、自分ではどうすることもできない事柄についても、必要以上に深刻に悩み、不安や心配をコントロールできなくなって、心や体の調子が悪くなり、日常生活に支障を来してしまいます。

不安障害の中では一般的で、GADの患者数はPD(パニック障害)の患者数より3~4倍多いとされ、1000人に64人くらいが経験するという報告もあります。まれな病気ではないといえます。

発症する年齢は10歳代半ばから20歳前後が多く、男女比は1:2で女性に多くみられます。また、精神科にはかなりの時を経て、受診するケースが多いといわれています。

アメリカで行われた調査によれば、一生の間にGADにかかる人の割合(生涯有病率)は3~5パーセント、不安を専門に診ているクリニックでは、全患者の30パーセント程度がGADと診断されており、発病者がかなり多くいる病気であることがわかります。

一般に、不安障害の原因は心理的な出来事(心因)とされており、GADの場合も、何らかの精神的なショック、心配事、悩み、ストレスなど、精神的原因と思われる出来事を切っ掛けに、いつの間にか発症しているというのが普通です。しかし、切っ掛けが全くないこともあります。過労、睡眠不足、風邪など、身体的な状況が切っ掛けになることもあります。

性格的には、もともと神経質で、不安を持ちやすい人に多い傾向があります。遺伝的要因や、自律神経の障害なども、発症に影響すると考えられています。

発病者が訴える症状には、以下のようにさまざまなものがあり、不安と心配を過剰に持つことがいかに、心や体に悪い影響を与えるかがわかります。

身体症状としては、1)頭痛、頭重、頭の圧迫感や緊張感、しびれ感、2)そわそわ感、3)もうろうとする感じ、4)めまい感、頭が揺れる感じ、船酔している感じ、5)自分の身体ではないような感じ、6)身体の悪寒や熱感、手足の冷えや熱感、7)全身に脈拍を感じる、8)便秘や頻尿、など。

精神症状としては、1)注意散漫な感じ、2)記憶力が悪くなる感じ、3)根気がなく、疲れやすい、4)イライラして、怒りっぽい、5)ささいなことが気になり、取り越し苦労が多い、6)悲観的になり、人に会うのが煩わしい、7)寝付きが悪く、途中で目が覚めやすい、など。

不安に伴ういろいろな身体症状、精神症状に関しては、多くの発病者は身体症状のほうを強く自覚します。どこか体に重大な病気があるのではないかと考え、あちこちの病院で診察や検査を受けるのが常ですが、症状の原因になるような身体疾患はみられません。

経過は慢性で、日常生活のストレスの影響を受け、よくなったり悪くなったりが続きます。途中から、気分が沈んで、うつ状態を伴ったり、うつ病に移行することもあります。

GADという病気の名称やその症状については、これまであまり知られていなかったため、医療機関での治療を受けていない人も多いようです。

また、病院に行っている人の場合でも、自律神経失調症や更年期障害と診断され、GADの発病者としての治療の機会を逃がしていることもあるようです。

発病すると、他の精神科領域の病気、例えば、うつ病、パニック障害、社会不安障害(SAD)などを併発する可能性が高くなるとされておりますので、コントロールできない不安や心配が続き、心や体に不調を来す症状が現れている場合には、早めに精神科や心療内科を担当する専門医の診断を受けてください。

GAD(全般性不安障害)の検査と診断と治療

精神科や心療内科の医師によるGAD(全般性不安障害)の診断基準には、米国精神医学会編「DSM-(協)精神疾患の分類と診断の手引」が主に使われます。その基準の核となる部分をまとめると、次のようになります。

(1)仕事や学業などの多数の出来事または活動について、過剰な不安と心配がある。しかし、その原因は特定されたものではない。

(2)不安や心配を感じている状態が6カ月以上続いており、不安や心配がない日よりある日のほうが多い。

(3)不安や心配をコントロールすることが難しいと感じている。

(4)不安や心配は、次の症状のうち3つ以上の症状を伴っている。1)そわそわと落ち着かない、緊張してしまう、過敏になってしまう、2)疲れやすい・集中できない、心が空白になってしまう、3)刺激に対して過敏に反応してしまう、4)頭痛や肩凝りなど筋肉が緊張している、5)眠れない、または熟睡した感じがない。

以上の診断基準が使われて、症状と経過から診断が行われます。その人に出ている症状が他の身体疾患や、GAD以外の不安障害や、うつ病などの精神科領域の疾患によるものではないことを確認することも、重要となります。

身体疾患を除外するために、尿、血液、心電図、X線、超音波など一般内科的検査が行われ、これらの検査で異常が見付からない場合に診断が確定します。

精神科や心療内科の医師による治療法には、大きく分けて薬物療法と精神療法の2つがあります。疾患の本態は不安にありますので、まずは薬を使って、不安をコントロール可能なくらいまで軽くし、さらに精神療法によって、発病者自身が不安をコントロールできるようにしていきます。

薬物療法では、不安感の軽減を目的に、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などが用いられています。ベンゾジアゼピン系は長期間服用した場合、精神的依存や眠気などの副作用があります。うつ症状を合併する場合は、抗うつ薬が用いられます。最近は、パロキセチン(パキシル)に代表される新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が報告されていますが、副作用はあります。

精神療法は、発病の原因がその人の生育歴や性格によっているような場合に重要となり、カウンセリング、認知行動療法、セルフコントロール法などがあります。いずれも無意識に存在している「不安の根源」を探し、そのコントロールを目指すものです。

精神療法は、薬物療法と違って副作用が少ないのが利点ですが、本人の努力がかなり必要なことや主治医との相性などもあり、効果にバラツキが出る場合があります。症状の完全な消失を求めるのでなく、少しでもよくなったら、そのぶん前向きに生活していく態度が、本人にとって肝要です。

一方、周りに発病者がいる人にとっては、発病者が不安や心配を周りに訴えることが多く、その訴えの中には病気ではない人からみるとナンセンスに感じられることもあるので、じっくりと訴えを聞いてあげることが難しい時もあるかと思います。しかしながら、不安や心配に伴って心や体にも不調が長く続いていることを理解して、温かい気持ちで支えてあげてください。

また、発病者と思われる人が周りにいて、しかも治療を行っていないようでしたら、単なる心配性と見なさないで、なるべく早く精神科や心療内科を担当する専門医の診断を受けるよう勧めてください。

☢GCE(グリシン脳症)

血液中に高濃度にグリシンが蓄積し、けいれん、呼吸障害などの神経症状を引き起こす疾患

GCE(glycine encephalopathy、グリシン脳症)とは、脳や肝臓に存在するグリシン開裂酵素系の遺伝的な欠損のために、血液中や脳にグリシンが大量に蓄積することにより発症する疾患。高グリシン血症(hyperglycinemia)とも呼ばれ、先天性代謝異常症の一種です。

グリシンは人間の体内で合成できる非必須(ひっす)アミノ酸の一つであり、中枢神経系で神経伝達物質として働くため、グリシンの蓄積が重篤な神経障害をもたらします。新生児期に無呼吸となり突然死に至る重症型(新生児型)と、筋緊張の低下と精神発達の遅滞のみを示し、成人で偶然診断されることもある軽症型(乳児型、遅発型)が存在します。いずれも常染色体の劣性形質として遺伝します。

日本における発症率は、新生児60~70万人当たり1人と見なされます。欧米では新生児25万人当たり1人の割合で発症しますが、国によって大きな差があり、フィンランド北部で発症頻度が高く、発症率は新生児1万人当たりに1人となっています。カナダのブリティッシュ・コロンビア州で、新生児6万人当たり1人という報告もあります。

グリシン開裂酵素系はT蛋白(たんぱく)質、P蛋白質、L蛋白質、H蛋白質という4種類の蛋白質から形成される複合酵素で、GLDC、AMT、GCSH、DLDの4つの遺伝子にコードされる酵素により構成されています。遺伝子に変異が生じると、遺伝子情報に基づいて合成された蛋白質を基にして構成されている酵素にも変異が生じ、グリシンの分解反応を進めることが不可能になる結果、分解されなかったグリシンが血液中に蓄積し、GCEを発症します。

GCEの約6割ではGLDC遺伝子に変異を認め、残りの約2割ではAMT遺伝子に変異を認めます。GCSH 遺伝子の変異は極めてまれです。DLD遺伝子変異はリー脳症を引き起こしますが、GCEとはなりません。

重症型は、生後数日以内に活力低下、筋緊張の低下、無呼吸、しゃっくり、昏睡(こんすい)などが始まり、後に30分以上けいれんが持続するけいれん重積が起こり、しばしば死に至ります。

人工換気などの治療で新生児期を乗り切ると、自発呼吸が出てきます。その後、成長は認められますが、精神機能や運動機能の発達の遅れが目立つようになります。

重症型には、左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)の欠損、大脳皮質にあるシワの隆起した部分である脳回(のうかい)の異常、水頭症などの脳形成異常が高率に合併します。

軽症型は、新生児期をほぼ無症状に過ごし、乳幼児期から発達の遅れや筋緊張の低下が現れます。診断の手掛かりとなる特異的な症状を欠くため、多くは未診断のままと考えられます。軽症型では、多動、衝動的行動などの注意欠損多動症候群に類似した行動異常を伴います。

GCE(グリシン脳症)の検査と診断と治療

小児科、小児神経科の医師による診断では、CTやMRIなどの頭部画像検査、血液検査、尿検査、脳脊髄(せきずい)液検査、脳波検査などを適宜行います。最近では、13Cグリシン呼気試験によって残存酵素の活性の程度を検査することもあります。

小児科、小児神経科の医師による治療では、有効な治療法が確立していないため、体内に蓄積したグリシンの排出目的で安息香酸(あんそくこうさん)ナトリウムの大量投与を行います。

グルタミン酸受容体の一種のNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗(きっこう)剤(ブロッカー)であるデキストロメトルファン、ケタミンなどの投与による治療が、重症型のGCE(グリシン脳症)の早期新生児期の障害を軽減してくれますが、長期予後はよくありません。

☕GERD(胃食道逆流症)

食道炎の有無にかかわらず、胃内、十二指腸内の酸性内容物が食道に逆流

GERD(gastro esophageal reflux disease、ガード)とは、食道炎の有無にかかわらず、胃内や十二指腸内の酸性内容物が食道に逆流する疾患。胃食道逆流症とも呼ばれます。

逆流性食道炎も、このGERDに含まれます。従来、胃内の酸性内容物が食道に逆流することで、食道の内面を覆う粘膜にびらんや潰瘍(かいよう)を生じる場合を、逆流性食道炎と呼んでいました。しかし、胸焼けなどの症状はあるものの、内視鏡的には炎症症状に乏しい場合もあることが、わかってきました。

そこで、食道炎の有無にかかわらず、胃内容物、すなわち酸やペプシンを含んだ胃液や、時に胆汁酸や膵液(すいえき)を含んだ十二指腸内容物が食道に逆流することをGERDと呼ぶようになりました。炎症症状がなくても逆流を生じるのは、粘膜が酸に対して敏感なためと考えられています。

欧米に多く日本では比較的少ないと考えられていましたが、日本でも近年、GERDが高齢者に増えてきています。

食道と胃の境界部には、下部食道括約筋があります。食物を飲み込む際に下部食道括約筋は弛緩(しかん)し、食道から胃に食物が流れ込みます。食後は通常、この下部食道括約筋は閉鎖して逆流を防止しています。GERDでは、食後にもこの下部食道括約筋が一過性に弛緩して逆流を生じると考えられています。

また、肥満では腹圧が上昇し下部食道括約筋圧よりも高くなると逆流しますので、肥満は危険因子となります。喫煙もリスク因子となることから、生活習慣がGERDの発生に重要と認識されています。

さらに、GERDは、ヘリコバクター・ピロリ除菌後に悪化、あるいは顕在化することが知られています。ピロリ菌除去後に胃酸分泌が増えるために、逆流による症状が悪化すると考えられています。

GERDは続発性に生じることもあり、食道裂孔ヘルニアや強皮症などの基礎疾患が原因で逆流を生じます。食道裂孔ヘルニアでは、ヘルニアの影響で下部食道括約筋の締め付け圧が下がり、寝たり、前かがみになったり、食事をした後には、胃液が食道へ逆流します。強皮症では、食道平滑筋の硬化が生じるために下部食道括約筋の締め付け圧が下がり、逆流を来たします。

典型的な症状は、胸がチリチリ焼けるように感じる胸焼けや、口が酸っぱくなるように感じる呑酸(どんさん)感です。それ以外にも、狭心症様の胸痛、つかえ感、気管支喘息(ぜんそく)様のせき、咽頭(いんとう)痛、しわがれ声、耳痛などを示すこともあります。横になった際に逆流しやすくなるので、症状が悪化し睡眠障害となることもあります。

重症になると、嚥下(えんげ)障害を起こすこともあります。GERDの1つである逆流性食道炎が慢性に経過すると、障害された食道粘膜上皮がなくなり、胃粘膜上皮で覆われることがあり、バレット上皮食道と呼ばれます。ここには食道がんが発症しやすく、注意が必要です。

GERD(胃食道逆流症)の検査と診断と治療

内科、気管食道科の医師による診断に際しては、内視鏡検査で、発赤、びらん、潰瘍などの炎症があれば、GERD(胃食道逆流症)の1つである逆流性食道炎と診断できます。

しかし、近年、内視鏡検査でも診断のつかないケースがしばしばあることがわかったため、半日ないし1日の食道内の酸度を連続測定する24時間PH(ペーハー)モニターという方法を行うことがあります。

 そのほか、逆流を防ぐ下部食道括約筋の働きや、逆流した胃液を再び胃内へ戻す収縮力が、どのくらいのレベルまで低下しているかを詳しく調べる食道内圧測定もあります。

内科、気管食道科の医師による治療では、薬物療法として、逆流してくる胃酸の量を減らす目的で、プロトンポンプ阻害剤(PPI)やH2受容体拮抗(きっこう)剤を使用します。シサプリドなどの消化管運動改善剤を補助的に使用することもあります。

症状が長引く場合には、逆流をしないように手術をすることもあります。手術としては、腹腔(ふくくう)鏡下ニッセン法が主に行われますが、食道の蠕動(ぜんどう)の悪いケースに対してはトペー法、ドール法、胸腔の中に胃の一部が入り込んでいる短食道という奇形があるケースに対してはコリス法、ダイタル法が行われることもあります。

日常生活における注意としては、脂肪食やチョコレートなど逆流しやすい食品を制限すること、腹部を圧迫しないこと、便秘を避けること、太りすぎの人は標準体重に近付けることなどが大切です。喫煙、アルコールは、下部食道括約筋の締め付け圧を低下させると考えられているため控えます。

食後1~2時間に逆流が生じやすいので、その時間は横にならないようにします。就寝時に上体を高く上げれば、胃液の逆流を防ぐ効果があります。

☔HCU(ホモシスチン尿症)

アミノ酸のメチオニンの代謝に必要な酵素の異常で、ホモシスチンが尿中に排出される疾患

HCU(Homocystinuria、ホモシスチン尿症)とは、アミノ酸の一つのメチオニンを代謝する際に必要な酵素に異常があるために、ホモシスチンという物質を発生し尿中に排出される疾患。先天性代謝異常症の一種です。

人間が成長、発育していくには、蛋白(たんぱく)質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。

このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、この酵素が生まれ付きできないために、その酵素が関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。

先天性代謝異常症の種類はたくさんありますが、その中でHCUは比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約90万人から100万人に1人の割合で、HCUを発症するとされています。

口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるメチオニンは、体内で合成することができず、羊肉、レバー、魚肉、しらす干し、かつお節、さけの筋子、卵、牛乳、チーズ、全粒小麦、海苔(のり)、枝豆、干し湯葉、ほうれん草、とうもろこしなどの食品中に含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸の一つでもあり、シスタチオニン合成酵素の働きによって、ホモシステインというアミノ酸に変換され、その後、システインとシスチンに作り替えられます。

このシスタチオニン合成酵素が生まれ付き欠けていると、血液中のホモシステインやメチオニンの量が増え、ホモシスチンという物質が尿中に排出されるようになります。これがHCUで、ある種の薬の使用で後天的にも起こりますが、先天性のものは常染色体劣性遺伝します。

出生時は無症状の場合がほとんどで、出生後に治療しないまま放置すると年齢とともに、目、骨格、中枢神経、血管系に障害が起こります。

目では、2歳ごろから水晶体のずれが起こったり、視力がひどく低下します。

骨格では、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症も含めた骨格異常がみられます。そのため、手足や手指が長くなり、背骨の曲がった細くて背の高い体形になります。

中枢神経系では、1~2歳の間に発育、発達の遅れが目立つようになり、歩き始めが遅れたり、よたよた歩きになったりします。約半数にに、けいれんや知能障害がみられます。

血管系では、血液が凝固しやすくなるために、血管中で血液が固まった血栓(けっせん)が詰まる脳梗塞(こうそく)や肺塞栓(そくせん)が起こり、死因になることが多いとされています。

HCU(ホモシスチン尿症)の検査と診断と治療

HCU(ホモシスチン尿症)は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のメチオニン濃度を測ることによりHCUを発見しています。

結果に異常のある場合、小児科の医師による診断で、精密検査を行います。血液中のメチオニン濃度は新生児の肝臓病や、高メチオニン血症など他の先天性代謝異常症でも上昇することが知られているので、HCUと診断するためには、尿中に大量のホモシスチンが排出されていることを確かめます。最終的に診断を確定するには、肝臓か皮膚の細胞でシスタチオニン合成酵素の働きを測定する検査を行います。

HCUと確定されると、小児科の医師による治療では、ホモシスチンはアミノ酸の一つであるメチオニンから作られるため、メチオニン制限食による食事療法を行い、有害なホモシスチン濃度を低下させます。また、生成物であるシスチンが合成されないので、食事に添加します。

乳児期の治療には、メチオニンを除去し、シスチンを強化した特殊ミルクを用います。メチオニンは必須アミノ酸なので、発育に必要な最小限のメチオニンを母乳や普通ミルク、低蛋白(たんぱく)の食事によって与え、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。血液中のメチオニン濃度は、1mg/dL(ミリグラムパーデシリットル)以下を目標にします。

HCUはコントロールが悪いと血栓症を起こし、最悪の場合は死亡する危険性があります。そのため、厳格な食事療法を生涯続ける必要があります。

シスタチオニン合成酵素の補酵素であるビタミンB6投与で、ホモシスチン濃度が低下するタイプでは、ビタミンB6を併用することで食事療法を緩和することが可能です。

最近、ベタインという物質を服用することでホモシスチン濃度が低下するということがわかってきましたが、まだ日本では薬としては認可されていません。

⌛HTLV—1関連脊髄症(HAM)

両足のまひによる歩行障害が起こり、ゆっくりと進行

HTLVー1関連脊髄(せきずい)症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)とは、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T Lymphotropic Virus type 1:HTLVー1)の白血球(リンパ球)への感染によって、両足の筋肉が徐々にまひしていく慢性進行性の脊髄疾患。ヒトTリンパ球向性ウイルス1型感染に関連する疾患群の一つとして、1986年に鹿児島大が初めて報告しました。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型を保持するキャリアの大多数は生涯に渡って、このHTLVー1関連脊髄症や成人T細胞白血病(ATL)などを発症しないまま健康に過ごし、ごく一部の人が発症します。1998年の全国調査では、日本でのヒトTリンパ球向性ウイルス1型のキャリアは全国に約120万人いるとされましたが、HTLVー1関連脊髄症の発症者は約1500人と確認されました。現在、年間発症率はキャリア10万人当たり3人と極めて低くなっています。

発症者は全国的に分布し、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染者の多い九州、四国、沖縄に多くみられます。東京や大阪など人口の集中する大都市圏でも、頻度的には少ないものの相当数の発症者が見いだされています。

世界的にみると、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型キャリア、成人T細胞白血病の分布と一致して、カリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などに発症者の集積が確認されています。それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国など、世界的に発症者の存在が報告されています。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染経路としては、母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られていて、出産時や母胎内での感染もあります。輸血では、感染リンパ球を含んだ輸血により感染し、血漿(けっしょう)成分輸血、血液製剤では感染しません。なお、日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血後の発症はなくなりました。2008年には、厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の対象に追加されています。

発症は中年以降の成人に多くみられますが、10歳代、あるいはそれ以前の発症と考えられる例もあります。男女比は1:2・3と女性に多く、男性に多い成人T細胞白血病と対照的です。また、輸血後数週間で発症した例もあり、成人T細胞白血病が感染後長期のキャリア状態を経て発症するのとは異なります。

一義的な原因は、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染です。発症するメカニズムは、ウイルスに感染したTリンパ球が脊髄に浸潤し、その場でウイルス抗原を発現することにより、感染Tリンパ球を排除しようとするウイルス特異的免疫応答が生じ、その炎症反応に巻き込まれて周囲の脊髄組織が傷害されていると考えられています。感染者のごく一部にのみ発症するメカニズムはわかっていませんが、発症した人は体内のウイルス量が多いとされています。

基本的な症状は、慢性進行性の両足のまひで、痛みやしびれ、筋力の低下によって歩行障害を示します。初期の歩行障害は、足が棒のように突っ張って、ひきづりながら歩くため、足が内側を向いてしまい、靴の外側が擦れてきます。次第に突っ張りが強くなると、足を上げるのが困難となり、手すり歩行、車椅子移動になります。

同時に、自律神経症状は高率にみられ、特に、排尿困難、頻尿、残尿感、便秘などの膀胱直腸障害は初期より多くみられます。その他、進行例では皮膚乾燥、多くは汗をかきにくい発汗障害、起立性低血圧、インポテンツなども認められます。これらの症状はいずれも、脊髄の傷害を示唆するものであり、HTLVー1関連脊髄症の中核症状となっています。それに加え、手指振戦、運動失調、眼球運動障害、あるいは軽度の認知症の症状を示し、病巣の広がりが想定される例もあります。

HTLVー1関連脊髄症の検査と診断と治療

HTLVー1関連脊髄症では、神経内科を受診することが重要で、医師の診察では極めて特徴的な所見の組み合わせがみられます。血液検査、腰椎穿刺(ようついせんし)で髄液検査を受け、血清抗HTLVー1抗体陽性、髄液抗HTLVー1抗体陽性を認めることが、診断の確定に必要です。また、類似の症状を示す他の疾患を除外するために、脊柱のレントゲン撮影やMRI検査が行われます。

治療においては、病態に対応した治療が行われます。脊髄の炎症の活動性がほとんどないと考えられる例では、足の突っ張りや排尿障害などに対する対症療法や、継続的なリハビリテーションのみでも有効です。筋弛緩(しかん)剤の使用や、腰や脊柱の筋力増強、アキレス腱の伸張により、歩行の改善が得られます。排尿障害に対しては、尿道口からカテーテルを膀胱(ぼうこう)に挿入して、人工的に排尿させる導尿という方法により、外出への不安解消や夜間頻尿による不眠の改善など、日常生活動作(ADL)の改善が期待されます。

明らかな症状の進行がみられ、脊髄の炎症の活動期と判断される例では、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の増殖を抑制する抗ウイルス療法が最も理にかなった治療法といえます。しかし、残念ながらウイルスの体内での増殖を抑制する薬剤は、これまでに見付かっていません。他のいくつかの薬剤には、症状を軽減したり進行を遅らせる効果があることが報告されています。

副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の内服により、約7割の発症者で何らかの治療効果がみられていますが、むやみに大量投与や長期間継続することは避けられます。副作用、特に高齢者女性の骨粗鬆(こつそしょう)症による骨折、感染症の誘発、糖尿病の誘発には、十分注意が必要とされます。内服の中止により、しばしば再燃がみられています。

また、HTLVー1関連脊髄症に対して唯一医療保険適応となっているインターフェロンα剤も用いられ、ウイルス量の減少、免疫異常の改善がみられていますが、やはり、うつ症状や肝障害、白血球減少などの副作用には、十分な注意が必要とされます。

うつ症状や発熱による長期間の活動性低下は、運動機能の低下につながります。通常は徐々にまひしていく慢性進行性ですが、進行が早く数週間で歩行不能になる例もみられます。高齢での発症で進行度が早い傾向があり、重症例では両下肢の完全まひ、体の筋力低下による座位障害で寝たきりとなります。一方で、運動障害が軽度のまま、長期に渡り症状の進行がほとんどみられない発症者も多くみられます。両腕の完全まひ、飲み下しや発声障害などを来す例はほとんどなく、基本的に生命予後は良好。

感染予防として、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型キャリアの妊婦の場合、産婦人科医と相談して、母乳を3カ月限定にするか、人工乳にします。血液を感染経路とするため、血の付いた歯ブラシなどは共用しないことです。

⛎HUS(溶血性尿毒症症候群)

細菌が産生するベロ毒素によって引き起こされ、腎臓や脳などが侵される疾患

HUS(Hemolytic Uremic Syndrome)とは、細菌が産生する、主にベロ毒素によって引き起こされ、腎臓(じんぞう)や脳などが侵される疾患。溶血性尿毒症症候群とも呼ばれます。

先天的な原因によるものもありますが、子供の場合ほとんどが腸管出血性大腸菌Oー157や赤痢菌によって汚染された食べ物を摂取することで、発症します。Oー157などは人の腸内でベロ毒素という毒素を放出し、これが血液中に入って、赤血球の破壊による溶血性貧血や、血小板という出血を防ぐ細胞の減少を引き起こしたり、急性腎不全を引き起こしたりします。

最初は、先行感染による発熱、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛などの胃腸炎や、上気道炎の症状で始まります。下痢は、水様便で始まり、数日以内に血便になります。

下痢が始まってから3~10日ころに、感染者の約5〜10パーセントで、HUSに進行し、貧血のために疲労感を訴えたり、顔色が悪くなったりします。急性腎不全になると尿の量が減り、尿毒症を発症して、本来なら尿の中に排出される老廃物や毒素が血液中にたまることで、むくみ、意識障害、けいれん、血尿、皮下出血、黄疸(おうだん)など、さまざまな中毒症状が現れます。

また、毒素による脳の症状のため、刺激に過敏になり、重症の場合、けいれんを起こしたり、意識がなくなり死亡する場合もあります。

HUSの90パーセントは子供が発症していますが、10パーセントは成人が発症しています。子供ではほとんどが感染症によるものであるのに対して、成人では90パーセントに何らかの基礎疾患があるとされています。基礎疾患としては、HIV感染、抗リン脂質抗体症候群、分娩(ぶんべん)後腎不全、悪性高血圧、全身性強皮症、抗がん剤治療(マイトマイシン、シクロスポリン、シスプラチン、ブレオマイシンなど)などが挙げられます。

子供では、発熱とともに腹痛、血便を伴う下痢、嘔吐がみられたら、小児科医を受診して便の細菌検査を受けます。成人では、内科か腎臓内科を受診します。

HUS(溶血性尿毒症症候群)の検査と診断と治療

小児科の医師による診断は、胃腸炎の段階では便の細菌検査をし、腸管出血性大腸菌Oー157によるものかどうかを検査します。この菌の感染と判明した場合、HUS(溶血性尿毒症症候群)に進行していないかどうか、血液検査や尿検査で貧血、血小板の数、腎機能などを症状が落ち着くまで検査します。

Oー157の感染から3~10日後に、5〜10パーセント程度の子供にHUSが発症しており、この場合には症状と血液検査の結果から容易に確定でき、貧血、血小板減少、尿素窒素値とクレアチニン値の上昇がみられます。

小児科の医師による治療は、胃腸炎の段階では十分に水分を補給して、脱水状態にならないようにします。強い下痢止めは、菌や毒素が体から排出されるのを遅くする可能性があるため、使用しません。

抗生剤の使用については、医師の意見が分かれています。強力に大腸菌を殺菌すると、大量のベロ毒素の放出が促進されて症状を悪化させる可能性があるということで、抗生剤を使用しない考え方もありますが、いまだに意見の一致はみていません。抗生剤を使用する場合は、症状の発現後できるだけ速やかに、3〜5日間投与するのが一般的です。

HUSに進行した場合、2週間ほど入院して治療します。貧血の強い場合には、輸血が必要になります。急性腎不全になり、尿毒症を発症した場合には、一時的に血液透析が必要になります。人工透析か腹膜透析による血液透析で、血中尿素窒素(BUN)を除去し、血中電解質(主にナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム)を正常に保ちながら、腎機能の回復を待ちます。

そのほかの治療として、新鮮凍結血漿(けっしょう)の輸注、大量ガンマグロブリン療法、血漿交換などが行われます。

以前は死亡率の高い疾患でしたが、現在は95パーセント以上の子供は救命可能です。ただし、HUSが回復して退院した場合も、長期に渡って腎臓の障害が残ることがあるので、長期間の定期的診察を受ける必要があります。

予防のためには、Oー157は生焼けのひき肉や殺菌処理されていない牛乳やチーズ、あるいは汚染された井戸水などによって感染するので、十分な手洗いや食品の加熱を心掛けることです。Oー157は熱に弱く、75度で1分間以上加熱すれば死滅しますので、ひき肉などは中心部まで加熱し生焼けの部分を残さないようにします。

🇧🇻IgA腎症

慢性糸球体腎炎の中で最も頻度の高い腎炎

IgA腎(じん)症とは、腎臓の糸球体に、血清蛋白(たんぱく)の一種であるIgA免疫グロブリンが沈着している慢性の腎炎。日本における慢性糸球体腎炎の中では、30〜40パーセントを占める一番頻度の高い腎炎です。

子供から大人まで広く発症者はいますが、10歳代と40歳代に多い傾向があります。原因は不明です。何らかの抗原がのどや腸から体に入り、これに対する抗体としてIgAが産生され、この免疫複合体が糸球体のメサンギウム細胞の領域に沈着すると考えられていますが、原因となる抗原は完全にはわかっていません。

多くは、初期の症状が全くありません。たまたま学校や会社の検尿で蛋白尿や血尿を発見されるか、あるいは、感染に伴って突然の肉眼的血尿が出現して発見されます。時には、ネフローゼ症候群や慢性腎不全に進行するものもあります。

一般に、このIgA腎症は血尿が特徴で、血尿が続いたり、風邪を引くたびに血尿を反復したりしますが、その反面、蛋白尿は比較的少なく、1日1グラム以下です。血液の免疫グロブリンであるIgAが高値を示すものが多いのですが、経過は緩慢で、慢性腎炎の潜在型と同じく予後は良好。

しかしながら、ネフローゼ症候群を示すものは悪化し、IgA腎症の10〜20パーセントは腎不全となります。腎不全の症状は、疲れやすい、食欲低下、息切れ、夜間に尿量が多い、などです。放置すると尿毒症へ進行し、透析療法が必要になります。

IgA腎症の検査と診断と治療

IgA腎症は、検尿や血液検査、腎臓の組織を顕微鏡で調べる腎生検で診断されます。

治療では、慢性腎炎に準じて減塩、蛋白制限からなる食事療法と運動制限を行います。薬物治療としては通常、抗血小板薬を使い、重症例では副腎皮質ステロイドを使います。 変換酵素阻害薬に、腎機能の保護作用が認められます。

なお、IgA腎症の症状が時期によって変化することに、注意が必要です。腎生検を行った時点では活動性は低いと考えられても、数年後には非常に活動性の強い病変に変わることもあり、油断はできません。定期的な検尿や血液検査はもちろん、腎生検を繰り返し行い、活動性を監視する必要があります。

🇧🇻IM(特発性骨髄線維症)

骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態

IM(idiopathic myelofibrosis)とは、骨髄の中に線維が増え、骨髄での造血が低下する状態。特発性骨髄線維症、原発性骨髄線維症とも呼ばれます。

このIMは、慢性骨髄増殖性疾患(CMPD:chronic myeloproliferative disorders)というグループに属する血液腫瘍(しゅよう)疾患の一つで、同じグループには慢性骨髄性白血病(CML:chronic myelogenous leukemia)、真性多血症(PV:polycytemia vera)、本態性血小板血症(ET:essential thrombocythemia)が属しています。

血球である赤血球、白血球、血小板の産生、すなわち造血は、成人では骨髄で行われます。しかし、胎児の時期には、肝臓や脾臓(ひぞう)で造血が行われています。IMでは、腫瘍細胞によって骨髄に線維化という変化が起こるため、造血が肝臓や脾臓で行われるようになり、その結果、肝臓や脾臓が次第に大きくなって、肝脾腫といわれます。特に、脾臓は非常に巨大になり、腹腔(ふくくう)の半分以上を占めるほどになることもあります。

脾臓や肝臓で赤血球や白血球が作られた場合、骨髄で作られたものと少し違って、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりします。初期では白血球数が増加し、慢性骨髄性白血病と同じように若い細胞から成熟した細胞まで、すべての段階の白血球が認められるのが特徴です。さらに、若い赤血球系の細胞や変形した赤血球も認められます。

IMの症状としては、貧血や白血球数の増加のほか、初期には血小板数も増加する傾向があります。一般的に進行は緩慢ですが、進行すると逆に貧血や血小板数の低下が著しくなります。一部の例では、急性白血病と類似した症状を示す急性期へと進展することがあります。

脾臓のはれによる腹部の圧迫感、膨満感が、比較的多く現れます。一方、無症状の段階で健康診断などにより、血液検査のデータの異常を指摘されて発見されることも、しばしばあります。貧血が進行すると、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、息切れなどの症状が目立つようになります。血小板数が低下すると、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの出血症状を認めます。

骨髄に線維化を起こす腫瘍細胞が発生する原因については、詳しくはわかっていません。しかし、約半数の例では真性多血症と同じJAK2遺伝子の異常が認められており、この異常が発症にかかわっていると考えられています。慢性骨髄性白血病と異なり、フィラデルフィア染色体の形成は認められません。また、いわゆる遺伝性疾患ではなく、子孫への影響はありません。

IM(特発性骨髄線維症)の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、骨髄の組織の一部を採取して調べる生検により骨髄の線維化を証明することで、IM(特発性骨髄線維症)と確定します。骨髄の線維化は、白血病や悪性リンパ腫などのほかの血液腫瘍、あるいはがんの骨髄転移によっても起こり、膠原(こうげん)病や結核などが原因になる場合もあるので、これらの疾患を除外する必要があります。

骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採ろうとしても、線維が増えているために骨髄液を十分に採ることができません。

一方、IMの初期段階では、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりするため、慢性骨髄性白血病と血液検査のデータが類似し、判別が難しいことがあります。慢性骨髄性白血病と判別するためには、骨髄生検の結果のほかに、フィラデルフィア染色体およびBCRーABL遺伝子を認めないこと、一般的に好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しないことが重要になります。

内科の医師による治療では、根本的な治療法はまだ確立されていないため、専ら対症的に治療を行うことになります。症状に応じて、経口抗がん剤の投与や輸血療法などが選択され、条件が整えば、治癒を目的として行われる唯一の方法である造血幹細胞移植も考慮されます。

白血球や血小板の増加が著しく、脾臓のはれが目立つ場合に、メルファラン(アルケラン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん剤が使用されます。脾臓のはれのための圧迫感や痛みがある場合には、手術による脾臓の摘出や脾臓への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が進行した場合には、輸血療法が行われます。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。しかし、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

経過はさまざまなものの、約15〜20パーセントの発症者では、急激に悪化して急性白血病などに移行します。この場合は治療が極めて難しく、予後不良です。

食事、運動、旅行など日常生活全般についての制限はほとんどありませんが、定期的に血液検査を受けることが必要です。脾臓のはれがある場合には、腹部の圧迫などに注意します。また、薬剤の副作用が疑われるような症状が現れた場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。

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 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...