●O157に負けないために
O157は大きさ1~2ミクロンの大腸菌の一種で、口から体の中に入り、O157感染症を起こします。「食中毒菌」なのですが、感染力や毒性が強く、たいへん危険な細菌であるため、1996年8月に「伝染病菌」に指定されました。
しかし、「O157に対する3つの対策」を実行することで、あなたや家族をO157感染症の危険から守ることができます。
O157に対する3つの対策
1. 細菌(O157)を体の中(口)に入れないようにします(特に、乳幼児、小児、高齢者、他の病気で体力の落ちている人などは、感染力が強いので要注意)。
2. 症状がでたら、早めに医師の診察を受けるようにします(重症化すると、生命の危険が増します)。
3. 日頃から、体力をつけるように心掛けます。
●O157感染症とは
●O157の特徴
大腸菌のほとんどは無害ですが、中には下痢を起こすものがあり「病原性大腸菌」と呼ばれています。
この病原性大腸菌には4種あり、うち腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)はベロ毒素というものを出して、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)を起こします。
O157は、この腸管出血性大腸菌の代表的な細菌です。
O157は家畜などの糞便中にときどき見られ、糞便や、糞便で汚染された水・食物を介して、人の口に入りO157感染症を起こします。
O157の感染力は非常に強く、100個程度のO157が体の中に入っただけでも、病気を起こしてしまいます(多くの食中毒では、100万個以上の菌が体内に入らないと食中毒は起こりません)。
死亡者を出すような毒性の強い大腸菌は、正確には「O157:H7」と分類されています。
大腸菌は菌体の周囲に鞭毛(べんもう)があり、菌体と鞭毛の抗原の種類によって分類されています。菌体抗原を“O”で表し、鞭毛抗原をHで表します。「O157:H7」は、157番目のO抗原と、H7というH抗原を持っているという意味です。
O157の生存条件・増殖条件
●水の中、土の中で数週間~数ヵ月間生きています。
●低温に強く、冷凍庫内でも生きています。
●酸性に強くpH3.5でも生き残るため、口から入ったO157の大部分は胃の酸にも負けずに、生きてしまいます。
●熱には弱く、75℃1分間の加熱で死んでしまいます。
●増殖は、温かく栄養分と水分のあるところで盛んになります。清潔、乾燥、低温を保つことで、増殖を抑えることができます。体の中では大腸で増殖します。
●O157の感染経路
O157は家畜(牛、羊、豚など)の大腸をすみかとしています。汚染は家畜の糞便から水や食物を介して感染したり、感染した人から人へ感染します。
アメリカで起こったO157感染は、ひき肉などの食肉製品(生焼けのハンバーグ)や生野菜で起こっています。またO157で汚染された湖で泳ぎ、湖水を飲んだために感染した人もいます。
●O157感染症が起こりやすい時期
O157を含め食中毒は、ふつう気温が高くなる初夏から初秋にかけて発生しやすくなります。
この時期に食中毒が多いのは、気温が食中毒菌の増殖に適しているからです。しかし、O157の感染力はふつうの食中毒菌より強く、菌がそれほど多くなくても(100個程度で)、病気を起こします。
そのため、O157感染症は、他の食中毒に比べて気温の低い時期にも発生しています。
●O157感染症の症状
◆下痢、腹痛
* 感染者の約半数は、4~8日の潜伏期間ののちに、激しい腹痛を伴った水様便(水っぽい下痢)が頻回に起こり、まもなく血便(血液の混じった下痢)が出ます。
* 成人では感染しても、無症状だったり、軽い下痢で終わることが少なくありません。しかし、その場合でも便には菌が混じって排泄されていますので、家族に感染を広げないよう十分な注意が必要です。
◆発熱
* 38℃以上の発熱が10人のうち1~3人に見られます。
◆溶血性尿毒症症候群(HUS)
★症状
* 蒼白(顔などの血色が悪くなること)、倦怠(全身のだるさ)、乏尿(尿の量が少ない)、浮腫(むくみ)が主な症状です。中枢神経症状〔傾眠(眠くなりやすい)、幻覚、けいれん〕なども起こります。
* HUSは下痢、腹痛などが起こってから、数日~2週間後に起こります。
★HUSの3つの徴候
検査で以下の3つが確認されると、HUSの可能性が高いと考えられます。
* 赤血球が壊れ貧血になります。
* 血液を固める働きをする血小板数が少なくなり、出血しやすくなります。
* 腎臓の働きが低下します。
◆脳症
* 頭痛、傾眠、不穏、多弁(口数が多くなること)、幻覚などが予兆として起こり、数時間~12時間後にけいれん、昏睡が始まります。
●O157感染症の経過
O157感染症が怖いのは、O157が出す“ベロ毒素”が溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を起こすからです。これらは治療が難しい非常に危険な状態です。
しかし、同じようにO157に感染しても、知らないうちに治ってしまう人もいます。成人のほとんどは、特別な治療を行わなくても、5~10日間で症状はなくなります。
症状がなくなった後も、O157は1~2週間腸の中に残り、便の中にも出てきますので(排菌)、消毒などの予防は続けて行う必要があります。症状が軽く見えていても、急に悪化することもあります。
●ベロ毒素とは
* 名前の由来
ごくわずかな量で、実験に使われる培養細胞のベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓の細胞)を殺してしまうことから、「ベロ毒素」と名付けられました。
* 作用
ベロ毒素は細胞のタンパク質の合成を止め、細胞を死に至らしめます。ベロ毒素は、特に腎臓、脳、肺などに障害を起こします。
* ベロ毒素の種類
ベロ毒素には、1型と2型があります。1型は赤痢菌が作る「志賀毒素」と同じ毒素で、2型は1型より強い毒性を持つ毒素です。O157には、1型毒素のみ作るものと、1型と2型の両方を作るものとがあります。
* ベロ毒素の遺伝子
ベロ毒素に関する遺伝子は、ファージ(細菌性ウイルス:細菌細胞に感染するウイルス)の遺伝子の中にあります。そのため、ベロ毒素遺伝子を持ったファージが別の大腸菌に感染すると、その大腸菌もベロ毒素を作る大腸菌になってしまいます。
O157のベロ毒素の遺伝子は、赤痢菌が作るベロ毒素(志賀毒素)の遺伝子と同じか、よく似ています。
●病原性大腸菌の分類
病原性大腸菌(下痢を起こす大腸菌)は、人や家畜の大腸に常在菌(常にその場所に住んでいる菌)として住んでいる大腸菌と同じ種類に属します。病原性大腸菌は、病気の起こし方によって、以下の4つに分類されています。
1. 腸管病原性大腸菌(病原血清型大腸菌)
2. 腸管侵入性大腸菌(組織侵入型大腸菌)
3. 腸管毒素原性大腸菌(毒素原性大腸菌)
4. 腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)
O157はこの代表選手です。そのほかに、O26、O111、O128、O145などがあります。病原性と毒性が強いため、平成8年8月に「伝染病菌」に指定されました。
●予防は、つけない、増やさない、生かさない
●衛生管理
◆井戸水、受水槽など
* 糞便を介したO157による汚染がないかどうか点検します。
◆ハエの駆除
* O157がハエによって運ばれることが実験で確かめられていますので、ハエの駆除も大切です。
◆手洗いの励行
* 人から人への感染を防ぐには、手洗いをまめにすることが大切です。排便後、食事の前、特に下痢をしている子供や高齢者の世話をした時には、石けんと流水でよく手を洗います。患者さんの便に触れた場合は、直ちに流水で十分に手洗いを行い、逆性石けんまたは消毒用アルコールで消毒を行う。また、患者さん本人が用便をした後も同様に十分な手洗い、消毒を行います。
●食品の購入・保存
* 食品の購入や保存に当たっては、O157をつけないよう、増やさないよう注意します。
* 肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮なものを、表示のあるものは賞味期限をきちんと確かめて買うようにします。
* 冷蔵や冷凍の必要な生鮮食品は、買い物の最後に購入し、できるだけ早く帰宅して冷蔵、冷凍します。
* 冷蔵・冷凍する場合は、早く冷えるように、浅い容器に小分けにして保存します。
* 肉汁や魚の汁がほかのものにつかないよう、ビニール袋に入れます。
* 冷蔵庫や冷凍庫に食品を詰めすぎると、十分に冷えないことがあるので注意します。
* 冷蔵庫は10℃以下(細菌の増殖がゆっくりになる)、冷凍庫は-15℃以下(細菌の増殖が止まる)に保ち、早めに食品を使い切るようにします。
* 食品などを流しの下に置く場合は、汚れた洗い水がかからないように注意します。
* 食品を直接床の上に置いたりしないようにします。
●衛生的な調理
◆調理を始める前に
* 調理台の上をきちんと片付けます。
* 清潔なタオル、ふきんを用意します。
* 手を石けんと流水でよく洗います。
◆調理器具(包丁、まな板、おはしなど)
* 使った後はすぐに洗剤と流水で洗いましょう。
* 生肉が触れたものは洗ってから、熱湯で消毒しましょう。
* できれば、肉・魚用と野菜用とに分けましょう。
* ふきんは消毒液(次亜塩素酸ナトリウムなどの漂白剤)か煮沸で消毒しましょう。
* たわしやスポンジは煮沸消毒しましょう。
◆調理中の注意
* 加熱調理済みの食品や、生で食べる野菜に、肉や魚の汁がかからないようにしましょう。
◆生で食べる野菜
* 流水でよく洗いましょう。
◆冷凍食品
* 解凍は冷蔵庫の中か、電子レンジで行います(室温で解凍すると、食中毒菌が増える恐れがあります)。
* 使う分だけ解凍し、解凍したら、すぐに調理します。
◆肉、魚、卵
* 十分に加熱して、生焼けの部分を残さないようにします(中心部の温度が1分間以上75℃となるように)。
●危険を避ける食生活
* 調理をしたら、なるべく早く食べるようにします(食品にO157が残っていた場合、室温に15~20分間放置すると、その数は約2倍に増えます。1個のO157が2時間で64個にもなる計算です)。
* 冷蔵庫の中でも、O157はゆっくり増えていきますので安心してはいけません。
* 市販品の賞味期限に注意します。
* 保存状態によっては、再加熱してから食べます(75℃以上。スープやみそ汁は沸騰するまで)。
* 少しでも不安がある時は、思い切って捨てます。
●治療は早めに、慎重に
●医師の診察を受けるタイミング
* 下痢が続いたり、血が混じっている時は、早めに診察を受けてください。
●検査
最初に行う検査は便の細菌検査です、便にO157がいるかどうかを調べます。下痢が長引いたり、血便が見られるようなら、尿検査と血液検査を繰り返して、溶血性尿毒症症候群(HUS)が起こっていないかを調べます。
◆便検便
* O157が見つかり、ベロ毒素を作ることが確かめられると、O157感染症と診断されます。
◆血液検査
* 赤血球数、血小板数、白血球数などを調べます。さらに腎臓や肝臓の機能を調べます。
◆尿検査
* 溶血性尿毒症症候群の早期発見のために尿を調べます。
◆その他の検査
* 腹部超音波検査を行うことがあります。
◆菌陰性化の判定
* 24時間以上間隔をあけて、少なくとも2回便の細菌検査を行い、菌が見つからなければからだの中からO157が消えた(菌陰性化)と判定されます。
* 抗菌薬を服用していた場合は、服薬中と服薬中止から24時間後の2回の便の細菌検査で、菌が見つからなかったとき、体の中からO157が消えたと判定されます。
●治療方法
O157感染症は、日本ばかりでなく世界的にも新しい病気です。そのため、抗菌薬の使い方や溶血性尿毒症症候群(HUS)に対する治療法は確立されていません。現在、各機関、医師の間で、データを集め研究しているところです。
◆下痢に対する治療
* 軽い下痢のみの症状の間は、安静と水分補給が中心です。
* 水分補給は、水分をたくさん飲むか、飲めない場合は輸液を行います(からだに必要な水分や塩分を、点滴で補給します)。
* 食事は症状にあわせて、消化・吸収のよいものをとるようにします。
◆腹痛に対する痛み止めの注射
* ペンタゾシンという薬が使われることがあります。
◆抗菌薬の服用
* 感染症には、一般に抗菌薬がよく効きます。しかし、O157は強力なベロ毒素を持っているため、抗菌薬で一度に殺菌すると、大量の毒素が菌の中から出てきてかえって症状を悪くするという説もあります。したがって、抗菌薬を使うかどうかは、病状を見ながら慎重に決めています。
* 抗菌薬を使う場合は、下痢などの症状が見られたとき、できるだけ早い時期に3~5日間使用します。
◆乳酸菌製剤の服用
* 乳酸菌は腸で増殖することで、O157などの害のある細菌の増殖を抑制します。
◆溶血性尿毒症症候群(HUS)に対する治療
* HUSが起こりそうな場合は、入院の上、状態を見ながら、輸血、血小板輸血、血しょう交換、人工透析などを行います。
* 輸血
ベロ毒素によって壊された赤血球を補給します(赤血球が壊れることを「溶血」といいます)。
* 血小板輸血
ベロ毒素のために少なくなった血小板を補給します。血液に含まれる血小板が少ないと、血液が固まりにくくなり、からだのあちこちで出血するようになります。
* 血しょう交換
血液をからだの外に導いて、血液の液体成分(血漿)を健康なひとから取り出した血しょうと入れ換える治療法です。血液中の老廃物やベロ毒素を除くとともに、ベロ毒素のために少なくなった血小板を補給することもできます。
* 人工透析
人工透析は、腎臓の代役として、血液中の老廃物を取り出す治療です。
●届け出義務
腸管出血性大腸菌感染症は伝染病予防法の中に指定されており、感染者を診断した医師は、直ちに患者さんが居住する地域の保健所長に届け出なければなりません。
病原性大腸菌O157について解説いたしました。みなさまの健康を守るために少しでもお役にたてれば幸いです。わからない点や心配な点などがある場合は、お近くのかかりつけ医などの医療機関にご相談ください。
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