2022/08/01

🇫🇮黄疸出血性レプトスピラ病

病原性レプトスピラの感染によって起こる急性発熱性の感染症

黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ病とは、病原性レプトスピラがネズミやイヌに感染し、その尿に汚染された水や土から経皮的、経口的に人間へと感染する急性発熱性の疾患。ワイル病とも呼ばれます。

レプトスピラは、螺旋(らせん)状の特殊な細菌の一群であるスピロヘータの一種です。黄疸出血性レプトスピラ病を含め、レプトスピラによる感染症を総称して、レプトスピラ病、ないしレプトスピラ症と呼びます。

レプトスピラの血清型の違いによってレプトスピラ病はいくつかの種類に分けられ、重症型の黄疸出血性レプトスピラ病を始め、軽症型の秋季レプトスピラ病やイヌ型レプトスピラ病などがあります。

病原性レプトスピラは、ネズミ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタなどの保菌動物の腎臓(じんぞう)に保菌され、尿中に排出されます。人間には、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的、経口的に感染します。人から人への感染はありません。

ドイツの医師ワイルにより、1886年に初めて報告され、日本の稲田龍吉、井戸泰両博士により、1915年に世界で初めて病原体が発見されました。

日本では古来より、秋疫(しゅうとう、あきやみ)、用水病、七日病(なのかびょう、なぬかやみ)と呼ばれる地方病として、農作業や土木従事者の間で発症し、1970年代前半までは年間50人以上の死亡が報告されていましたが、近年では感染者数、死亡者数とも激減しました。現在は沖縄県などで、散発性に発生するのみです。

2003年の感染症法の改正により、レプトスピラ病は4類感染症に位置付けられ、保健所への届出が必要になりました。それ以降4年間で93例の届出があり、うち87例の国内発症例の約半数が沖縄県での感染と推定されています。

国外では、現在でも全世界的にレプトスピラ病が流行しており、ブラジル、ニカラグアなどの中南米や、フィリピン、タイなどの東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の国々での大流行が挙げられます。

病原性レプトスピラの種類によって、症状は軽症から重症までさまざまです。軽症型では、風邪のような症状だけで軽快します。

重症型の代表である黄疸出血性レプトスピラ病の主症状は、黄疸のほか、出血傾向、高熱、吐き気、嘔吐(おうと)、腎障害、蛋白(たんぱく)尿、筋肉痛、結膜充血などで、感染後3〜14日の潜伏期をへて悪寒を伴う発熱で発症します。

ふくらはぎの筋肉痛、眼球結膜の充血が特徴的ですが、全身倦怠感(けんたいかん)、頭痛、腰痛などのさまざまな症状が現れます。発症して4~5日後に、黄疸や出血傾向が増強する場合もあります。進行すると、腎不全、心不全が起こる場合もあります。

黄疸出血性レプトスピラ病の感染の機会があり、ふくらはぎの筋肉痛や、眼球結膜の充血を伴う発熱が現れた場合には、早急に内科、消化器科を受診することが必要になります。経過は極めて速く、治療開始時期が遅れるとしばしば重症化します。

黄疸出血性レプトスピラ病の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、症状とレプトスピラ病の流行地への旅行歴、保菌動物の尿に汚染された水への接触などが診断の助けとなります。

黄疸出血性レプトスピラ病(ワイル病)では、発病初期から蛋白尿がみられ、血液検査で白血球数が増え、体の中の炎症反応を調べる検査であるCRP(C反応性蛋白)が陽性になります。確定診断には、血液、髄液、尿からの病原体の分離、血清診断、遺伝子増幅検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療では、黄疸出血性レプトスピラ病の場合は抗生剤(抗生物質)を早期に投与します。感染早期ではペニシリン系、テトラサイクリン系など多くの抗生剤の効果が認められ、ストレプトマイシンが最も有効です。合併症では、その治療を行います。

黄疸出血性レプトスピラ病などのレプトスピラ病を予防する上では、中南米や東南アジアなど流行地域へ旅行した場合には、不用意に水の中に入らないことが重要です。特に洪水の後は、感染の危険性が高まります。

また、1999年夏に沖縄八重山地域において、観光ガイドやカヤックインストラクターなど、河川でのレジャー産業に従事する人たちの集団感染が報告されていますので、水辺のレジャーにも注意が必要です。海外では、トライアスロンなどのウオータースポーツによる集団感染も報告されています。

水田作業、土木工事、野外調査などを目的に海外の流行地域へ行く場合、可能なら感染症の予防に用いるワクチンを接種します。また、薬物による予防として、テトラサイクリン系に属する抗生剤であるドキシサイクリンの効果が報告されています。

🇫🇮嘔吐下痢症

ウイルスなどを原因として引き起こされ、嘔吐、下痢を主な症状とする胃腸炎

 嘔吐(おうと)下痢症とは、ウイルス、細菌、原虫などの病原微生物を原因として引き起こされ、嘔吐、下痢、発熱を主な症状とする胃腸炎の総称。感染性胃腸炎とも呼ばれます。

一年を通じて発生しますが、冬から春にかけてはウイルスによるもの、夏は細菌によるものが起こりやすくなります。

原因となる主な病原微生物は、ノロウイルスやロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどのウイルスと、病原性大腸菌やサルモネラ属菌などの細菌があります。

主な症状は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱です。ロタウイルス、アデノウイルスによる嘔吐下痢症は、乳幼児に多くみられます。

これらの嘔吐下痢症は、症状のある期間が比較的短く、特別な治療法がないことから、ウイルスなどの検査を行わず、流行状況や症状から嘔吐下痢症と診断されることもあります。

ノロウイルス、ロタウイルスによる嘔吐下痢症は、1~2日間の潜伏期間を経て、典型的には腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、37℃台の発熱がみられます。ノロウイルスを原因とする場合、症状が続く期間は1~2日と短期間ですが、ロタウイルスを原因とする場合は5~6日持続することもあります。また、ロタウイルスによる嘔吐下痢症の場合、便が白色になることもあります。

ノロウイルスやロタウイルスなどが、人の手などを介して、口に入った時に感染する可能性があります。ノロウイルスによる嘔吐下痢症の場合は、人から人への感染と、汚染した食品を介して起こる食中毒に分けられ、次のような感染経路があります。

1)感染した人の便や吐物に触れた手指を介してノロウイルスが口に入った場合、2)便や吐物が乾燥して、細かなちりとして舞い上がり、そのちりと一緒にウイルスを体内に取り込んだ場合、3)感染した人が十分に手を洗わず調理した食品を食べた場合、4)ノロウイルスを内臓に取り込んだカキやシジミなどの二枚貝を、生または不十分な加熱処理で食べた場合。

ノロウイルスは2002年8月、国際ウイルス学会で命名されましたが、元はSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていました。ちなみに、ノロとは発見された地名に由来しています。

非常に小さい球形の生物で、直径0・03マイクロメーター前後の蛋白(たんぱく)質でできた球の中に遺伝子(RNAリボ核酸)が包まれた構造をしています。近年、新しい検査法(PCR法)の普及によって、食品からのウイルスの検査が可能になり、100粒子以下の少量で感染するなど食中毒との関係が明らかになってきました。多くの遺伝子型が存在しますので、一度感染したからといって次に感染しないとは限らず、何度でも感染します。

嘔吐下痢症の治療と予防のポイント

下痢止めの薬を控え、水分補給と消化のよい食事での対処が基本です。ただし、激しい腹痛や血便がみられた場合や、体力の弱い乳幼児や高齢者は下痢などによる脱水症状を生じることがありますので、早めに内科、消化器科、胃腸科、小児科を受診してください。また、症状が長引く場合は、受診してください。

特に高齢者は、嘔吐物が気管に入る誤嚥(ごえん)により肺炎を起こすことがあるため、体調の変化に注意しましょう。嘔吐の症状が治まったら少しずつ水分を補給し、安静に努め、回復期には消化しやすい食事を取るよう心掛けましょう。

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師による治療は、ウイルスが原因の場合は有効な薬がないため対症療法になり、細菌が原因の場合は抗生剤の投与による治療が行われることがあります。

脱水症状がひどい時は点滴で水分を補い、症状に応じて整腸剤や鎮痛剤、解熱剤などを服用します。下痢止めはかえって症状を長引かせることがあるため、原則として使いません。

予防のポイントとして最も大切なのは、手を洗うことです。特に排便後、また調理や食事の前には、せっけんと流水で十分に手を洗いましょう。便や吐物を処理する時は、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、処理後はせっけんと流水で十分に手を洗いましょう。また、カキなどの二枚貝を調理する時は、中心部まで十分に加熱しましょう。

🇵🇦黄熱

黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症

黄熱(おうねつ)とは、黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症。黄熱病、黒吐(こくと)病とも呼ばれます。

黄熱ウイルスは日本脳炎ウイルスと同様のフラビウイルスという仲間に分類され、人間以外にも猿や蚊の中でも生息することが可能であり、人は蚊に刺されることで病原体に感染します。

主に媒介するネッタイシマカはアフリカおよび南アメリカの熱帯ないし亜熱帯地域に広く生息しており、同地域に一致して黄熱は流行しています。具体的には、アフリカは赤道南北それぞれ15度の緯度の範囲、南米においてはパナマから南緯15度までの地域で流行しています。

ネッタイシマカに刺されて黄熱ウイルスに感染しても、多くの場合は症状が出現しません。しかし、感染後3〜6日ほどの潜伏期間をへて、症状を示す人もいます。その初発症状は高熱と頭痛であり、手足の痛み、腰痛、嘔吐(おうと)、正常よりも脈が遅くなる徐脈などが起こります。重症化することがなければ、3日程度の経過で症状は改善します。

感染者のおよそ15%で重症化し、初発症状から改善したようにみえて、数時間から1日後に突然高熱が再燃します。高熱であっても、1分間に50回ほどの徐脈を示し、60~100回の通常より遅くなることが特徴です。特に肝臓と腎臓(じんぞう)に対する障害が強く、典型的な症状としては、黄疸(おうだん)、鼻や口、目、皮膚、消化管からの出血、蛋白(たんぱく)尿の3つを挙げることができます。

黄疸とは、皮膚や眼球が黄色を示すようになる状態であり、このことから黄熱と呼ばれます。黄疸、出血、蛋白尿の3症状が現れるようになると、黒色の嘔吐、無尿、心不全、肝性昏睡(こんすい)などに陥り、1週間から10日までに亡くなる場合があります。

世界保健機関(WHO) の推定によると、1990年代の初めから、全世界で毎年3万人の死亡者を伴う20万人の黄熱患者が発生し、そのうち90%はアフリカで発生しています。ブラジルでは、2017年7月1日から2018年2月15日までに、死亡者118人を含む409人の黄熱の確定患者が出ました。これは、2016年から2017年の同じ時期に報告された死亡者166人を含む532人の黄熱の確定患者よりも少なくなっています。

日本での黄熱の扱いとしては、感染症法にて4類感染症に指定されており、患者を診断した医師から保健所への届け出が義務付けられている全数把握対象疾患となっています。これによると、日本での発症例は認めていませんが、海外の流行地域に赴く際には注意が必要です。「黄熱に感染する危険のある国」の情報は、厚生労働省検疫所が適時情報を流しています。

黄熱に対してはワクチンによる予防接種が可能であり、入国に際して予防接種証明書の提示が義務付けられている場合もあります。黄熱ワクチンはどの医療施設でも接種可能というものではないため、黄熱の流行地域へ渡航する際は時間的な猶予を持って対応することが必要で、渡航の10日前までに予防接種を受けることが推奨されています。接種者の95%以上で、10日目以後10年以上にわたり中和抗体が保持されます。

なお、細菌学者の野口英世が黄熱の研究中に感染し、西アフリカのガーナで1928年に死亡したことは有名です。

黄熱の検査と診断と治療

内科、感染症科の医師による予備的診断は、症状、渡航地域と渡航日、渡航中の活動に基づいて行います。検査室診断では、血液検査を行い、血液から黄熱ウイルスやその特徴的な遺伝子を検出すること、あるいは特異的な抗体を検出することで確定します。

また、合併症の有無を評価します。肝臓と腎臓に障害を起こすことが多く、これらの評価が重要です。肝臓に関連して黄疸の原因となるビリルビン(胆汁色素)が高くなり、消化管出血の原因となる血液の止血にかかわる凝固機能にも異常を伴います。黄熱では蛋白尿を認めることもあるため、尿検査にてこれを確認することもあります。

さらに、黄熱の流行地域でのほかの感染症も含めて、広く鑑別を行います。鑑別を要する疾患は、ウイルス性出血熱であるエボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病、南米出血熱などのほか、ワイル病、回帰熱、急性ウイルス性肝炎、マラリア、レプトスピラ症です。

内科、感染症科の医師による治療では、黄熱に特化した抗ウイルス薬がないため、症状に応じた対症療法を主体にします。肝不全、腎不全に対する治療が中心となり、腎不全に対しては人工透析を行うことがあります。

出血傾向を引き起こす血液の凝固異常に対しては、新鮮凍結血漿(けっしょう)や赤血球などの輸血を行います。高熱を伴うことから、熱に対しての対応も重要になります。

🇵🇦黄斑円孔

眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患

黄斑円孔(おうはんえんこう)とは、眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患。黄斑部の網膜は物を見るための中心に相当するため、非常に物が見えにくくなったり、物がゆがんで見えます。

十数年前までは治療不可能とされていましたが、最近では手術でほとんど、黄斑円孔による網膜の穴を閉鎖することができるようになっています。高齢者に多い疾患ですが、ボールや花火が目に当たるなどの強い衝撃で若い人にも起こることがあります。

高齢者の黄斑円孔の場合、目の老化、特に網膜に接しているゼリー状の硝子体(しょうしたい)の加齢による変化が、原因です。加齢とともに硝子体がしぼんでいくために、硝子体の最も外側にあって、黄斑部網膜と接する部分である硝子体皮質に、接線方向の張力が加わります。すると、黄斑部網膜と硝子体皮質は中心部で強く接着しているため、網膜の中心に前方への牽引力(けんいんりょく)が加わり、黄斑部網膜に亀裂(きれつ)が入って黄斑円孔ができると考えられています。

穴自体は直径1ミリメートルに満たない小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は近視などを矯正した状態で0・1~0・2程 度まで低下します。

硝子体の収縮が関係して起きるので、後部硝子体剥離(はくり)が起こる60歳代をピークに、その前後の年齢層の人に多発します。特に、硝子体の液化が進みやすい近視の人や女性に多い傾向があります。

黄斑円孔は多くの場合、変視症で症状が始まり、物がゆがんで見えます。この変視症は特徴的で、しばしば「すぼんで見える」「吸い込まれるように見える」と表現されます。 視力は初期には比較的良好ですが、進行するにつれて下がっていきます。

黄斑円孔による変視症に気付いたら、早急に眼科の医師の診断を受ける必要があります。早く手術をするほど円孔が閉鎖する率は高く、視力の回復は良好です。時間がたちすぎると、円孔は閉鎖しても視力はあまり回復しません。

強い衝撃が原因の黄斑円孔の場合、半数は自然にふさがります。3カ月から半年ほど様子をみて、ふさがらなければ手術を受けるべきです。最初のけがでどのくらいダメージを受けたかが、回復にも大きく影響します。目の奥が出血するようなけがでは、回復にしくい傾向があります。

黄斑円孔の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼底検査で一目瞭然(りょうぜん)となります。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑円孔の断面をきれいに映し出すことができます。進行の過程によって、ステージ1~4に分けられています。

高齢者の黄斑円孔の場合、ごくまれに自然に治ることがありますが、一般的には硝子体手術が唯一の治療法です。手術で最も重要なポイントは、後部硝子体皮質を網膜の表面から剥離(はくり)することにあります。

手術ではまず、後部の硝子体を切除します。硝子体を切除しても、視覚に直接的な影響はありません。次に、網膜の表面にある薄い膜をはがし、眼球内部にガスを注入します。最近は、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっています。

手術後は黄斑円孔の周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな透き間に、グリア細胞という周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔をふさいでくれます。

ただし、ガスは気体で常に眼球の上に移動してしまうため、手術後3日間から1週間ほど入院し、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。

うつ伏せの姿勢を保つのはかなりつらいことですが、今では手術によって90パーセント以上は円孔が閉鎖するようになっていますから、頑張る価値はあります。円孔が閉鎖すると、直後から変視症は大幅に改善しますが、視力の回復はさまざまです。

一般的には、手術前に0・1だった視力が10日ほどで0・3程度になり、その後は黄斑部の組織が修復されるとともに、1年ほどかけてゆっくりと回復していきます。1回の手術で8~9割の人は、不自由なく暮らせるレベルの視力に戻ると見なされています。

手術は穴をふさぐことが目的なため、閉鎖しなければ再手術の対象にはならず、自然の治癒力に期待するしかありません。

🇧🇸黄斑ジストロフィー

眼球内部の網膜にある黄斑に進行性の変性がみられるタイプの疾患群

黄斑(おうはん)ジストロフィーとは、眼球内部の網膜にある黄斑に進行性の変性がみられる目の疾患の総称。先天性黄斑変性症とも呼ばれます。

黄斑ジストロフィーは遺伝性の目の疾患であり、両目の黄斑に変性がみられます。ジストロフィーとは、遺伝子の異常により組織や臓器が徐々に変性することを指します。目のみならず、ほかの臓器などでも使われます。

黄斑ジストロフィーと一口にいっても疾患の種類は多数あり、先天網膜分離症(若年網膜分離症)、錐体(すいたい)ジストロフィー、卵黄状黄斑変性(卵黄状黄斑ジストロフィー)、スタルガルト病(黄色斑眼底)、網膜色素変性症、オカルト黄斑ジストロフィー、家族性ドルーゼン(網膜ジストロフィー)、家族性滲出(しんしゅつ)性硝子体(しょうしたい)網膜症などがあり、症状もそれぞれ異なります。黄斑ジストロフィーのいくつかでは、どの遺伝子に異常があるのかがわかっています。

眼球内部にある黄斑は、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に変性がみられると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに変性がみられると、視力の低下がさらに深刻になります。

黄斑ジストロフィーには、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。

非滲出型(委縮型)の場合は、黄斑の変性が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、脈絡膜の血管に委縮性の変化が生じて、徐々に視力が低下します。疾患の種類によって違いますが、視力低下のほか、見ようとする物の中心部分がぼやけたり、中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点、物がゆがんで見える変視症、明るい光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)、色覚異常などの症状が現れます。症状が進んでくると、視力が0・1~0・2まで下がるなど顕著な視力低下が起こります。最終的には、中心部が全く見えなくなってしまいます。

黄斑ジストロフィーは疾患の種類によって、ある程度年齢が高くなってから症状が現れることも、幼少時にすでに発症していて気付いた時にはかなり進行していることもあります。

黄斑ジストロフィーの検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。異常を起こす遺伝子が突き止められている黄斑ジストロフィーのいくつかでは、遺伝子の検索も決め手になります。

残念ながら、黄斑ジストロフィーの多くでは有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。

新生血管が生えてくることが原因で起こる滲出型の場合、治療の方法は新生血管の位置によって変わってきます。新生血管が中心窩から離れているケースでは、新生血管をレーザーで焼く光凝固が治療の方法となります。新生血管が中心窩に近いケースでは、治療が困難な例が多くなります。新生血管のレーザー光凝固を行うと中心窩も損傷を受けて、さらに視力が低下する危険性が高いからです。そこで、新生血管の栄養血管の光凝固、抗血管新生薬などの治療法が行われます。

黄斑ジストロフィーの多くでは、症状に応じて遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることも期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇧🇸黄斑前膜

網膜の黄斑部の手前に膜が癒着し、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患

黄斑前膜(おうはんぜんまく)とは、網膜の中心部の黄斑部の手前に線維性の膜が癒着した結果、網膜にしわが生じ、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患。黄斑上膜とも呼ばれます。

加齢に伴う老化現象のほかに、他の眼底の疾患に続いて、あるいは網膜剥離(はくり)や網膜裂孔の治療後に生じることもあります。

老化現象による黄斑前膜の場合は、50歳、60歳代に多く、女性に多い傾向があります。初期には、血管が膜に引っ張られて蛇行するものの、膜が透明のために視力などは正常で自覚症状はありません。進行して、膜の厚みが増したり、網膜の収縮の度合いが増して、網膜にしわが生じたり、網膜がずれたり、網膜の中心部の中や下に水がたまったりすると、物がゆがんで見えたり、大きく見えたり、霧がかかったように見えたり、視力が低下したります。

線維性の膜ができる原因は、網膜に接している硝子体(しょうしたい)の加齢による変化です。眼球の内部は透明なゼリー状の物質である硝子体で満たされていますが、硝子体は年齢とともに少しずつ液体に変化して、体積が小さくなってきます。そのために、60歳くらいになると硝子体が眼底から離れてきます。これは誰にでも起きる状態で、後部硝子体剥離といい、物がチラチラ見えるようになります。

硝子体と網膜の癒着が強いと、うまく離れないで硝子体の一部だけが網膜に張り付いてしまいます。残った硝子体の一部から、新しい細胞が増殖してきたり、眼球内のごみが付着して、少しずつ膜を作ってきます。これが黄斑部の手前を覆う前膜です。

黄斑前膜では、網膜の黄斑部に穴が開く疾患である黄斑円孔(えんこう)のように視野の中心が全く見えなくなることはありませんが、頻度的には黄斑円孔よりも多くみられます。

黄斑前膜が自然に治る可能性は5パーセント程度とされていますので、物がゆがんで見えたり、視力が低下するなどの自覚症状がある場合は、眼科を受診し手術を受けたほうが、症状が改善する可能性が高くなります。

黄斑前膜との検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼底検査で簡単に黄斑前膜と確定できます。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑前膜の下にある網膜の状態をきれいに映し出すことができ、有用です。

眼科の医師による治療では、硝子体手術が唯一の方法となります。黄斑前膜を薬で改善させることはできませんし、進行を止めることもできませんので、疾患が進行したら、手術が必要になります。最近では、手術法の進歩によりかなり治せるようになってきました。

手術をする場合、視力がかなり低下してしまってからだと、膜を除去しても視力がよくならないことがあります。ただし、急に悪化するような疾患でもないので、急を要することもありません。ゆがみが気になったり、視力低下が気になるようなら手術を行います。視力の目安としては、0・6くらいと考えられます。

適切な時期を選んで手術を行い、硝子体を取り除き、黄斑部の手前に癒着している薄い膜を除去すれば、視力は正常になります。薄い膜を除去した後の網膜の状態によっては、眼球内にガスを注入して終了することがあり、その際は手術後、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。

手術の合併症として一番多いのが、白内障です。多くの場合、白内障も同時に手術します。手術法が進歩した最近では、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっており、黄斑前膜の再発は少なくなっています。

手術後、視力が落ち着いてくるのは、半年から1年です。最終的な視力は、手術前の状態によりさまざまですが、物がゆがんで見える変視症は手術後も残ることが多く、改善するのは50パーセントくらいにとどまります。

🇻🇺黄斑変性症

高齢者の失明原因となる疾患の一つ

黄斑(おうはん)変性症とは、眼球内部の網膜にある黄斑が変性を起こして、視力が低下する疾患。加齢に伴って起こるもので、高齢者の失明原因の一つです。加齢黄斑変性とも呼ばれます。

黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に異常が発生すると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに異常が発生すると、視力の低下がさらに深刻になります。

黄斑変性症には、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出(しんしゅつ)型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型黄斑変性症の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。

病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。また、片目に病巣が認められたら、4割程度の人では経過とともに両目に発症するといわれています。眼科の医師に本疾患と診断された人は、良いほうの目も定期的に診てもらうべきです。

非滲出(委縮)型黄斑変性症の場合は、黄斑の加齢変化が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の間に黄白色の物質がたまったりします。病状の進行は緩やかで、滲出型と比較すると視力低下の程度も軽度であることがほとんどで、視力はあまり悪くなりません。

しかし、新生血管が発生することもあるので、定期的に眼底検査、蛍光眼底検査を行い、経過をみる必要があります。特に、片目がすでに滲出型黄斑変性症になっている場合は、注意深く経過をみなければいけません。

加齢黄斑変性は高齢者に多く発症することから、黄斑、とりわけ網膜色素上皮細胞の加齢による老化現象が主な原因と考えられています。また、はっきりしたことはわかっていませんが、高血圧や心臓病、喫煙、ビタミンやカロチン、亜鉛などの栄養不足のほか、遺伝の関与も報告されています。しかし、黄斑変性症の原因と病態は完全には解明されておらず、現在もなお、さまざまな研究がなされています。

もともと黄斑変性症は欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした。その主な理由としては、欧米人の目が日本人の目に比べて、目の老化を促進する原因となる光刺激に弱いことが挙げられます。アメリカでは現在、本疾患が中途失明を来す疾患のトップです。

最近では、日本でも発症数が増加の一途をたどっており、日本人の平均寿命の延びが原因として挙げられています。食生活を中心に生活様式が欧米化したことや、TVやパソコンの普及により目に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも、原因の一つと考えられています。日本人では、女性の約3倍と男性に発症しやすいことを示す研究報告もあります。

黄斑変性症の検査と診断と治療

健康診断で、黄斑変性症が早期に発見されることもあります。50歳以後の中高年の人は、視力を保つために早めに検査を受けましょう。

今まではあまり有効な治療法はありませんでしたが、近年、新しい方法が試みられるようになり、早期発見、早期治療によって視力低下を最小限に抑えられる可能性が期待できるようになってきました。

疾患の診断、程度の判定、最適な治療を考える上で、眼科の医師による多くの検査が必要です。特に重要なのは、眼底検査と蛍光眼底検査。

眼底検査は、眼底にある網膜の状態を詳しく調べるために行われます。検査の前に目薬をさして、瞳孔(どうこう)を開きます。まぶしくて近くが見えない状態が約3時間続きますが、自然に元に戻ります。

蛍光眼底検査は、網膜や脈絡膜の血液の流れを把握する目的で行われ、腕の静脈に蛍光色素を注射してから眼底を調べます。蛍光色素によって血管だけが浮き彫りになりますから、血管の弱い部分や詰まった個所、新生血管の発生した位置を突き止めたり、病状の程度を判定したりすることが可能です。

その他、主として脈絡膜の血液循環を調べるための特殊な造影検査もあります。

黄斑変性症の治療では、レーザーによるレーザー光凝固術や、場合によっては手術が行われます。近年、経瞳孔温熱療法や光線力学療法などといった新しい治療法が一部の施設で試みられ始めており、この疾患の予後の向上が期待されるようになってきています。

レーザー光凝固術は、新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が中心窩にある場合はほとんど実施されません。

手術には、新生血管抜去術と黄斑移動術があります。新生血管抜去術は、新生血管を外科的に取り去る治療法です。新生血管が中心窩にある場合も実施されますが、中心窩を傷付けてしまう可能性もあります。

黄斑移動術は、中心窩の網膜を新生血管から離れた場所に移動させることにより、中心窩の働きを改善する治療法です。新生血管が中心窩にある場合に実施されますが、物が二つに見えるなどの副作用が起こる場合もあります。

新しい治療法の経瞳孔温熱療法は、弱いレーザーを新生血管に照射し、軽度の温度上昇によって、新生血管の活動性を低下させる治療法です。

光線力学的療法のほうは、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤が活性化され、新生血管を閉塞(へいそく)します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織にはほとんど影響を及ぼしません。継続的に行う治療法であり、3カ月ごとに検査を行い、その結果により必要に応じて再度実施されます。

薬物療法として、ステロイド剤や血管新生阻害剤などの投与が試みられています。効果を得るには繰り返しの投与が必要で、経瞳孔温熱療法との併用も考えられています。

治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。一般に早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。黄斑の中でも特に重要な中心窩に病態が現れている場合は、視力の低下は著明です。

治療後も、定期的に眼科の医師による目のチェックを受けるとともに、バランスの取れた食事で目の健康を保ち、全身の健康を維持しましょう。

亜鉛の血中濃度の低下と黄斑変性症の関連が、指摘されています。加齢に伴って、亜鉛が含まれている食品の摂取量が少なくなるとともに、腸の亜鉛を吸収する力が低下してしまうことから、亜鉛不足になりやすいといわれています。亜鉛を多く含んでいる食品である穀類、貝類、根菜類を、なるべく摂取するようにしましょう。

同じく、カロチン(カロチノイド)の摂取量が少ないと、黄斑変性症を発症しやすいという研究報告もあります。カロチンを多く含んでいるカボチャ、ニンジン、トマト、さやいんげん、ピーマンなどの緑黄色野菜を、なるべく摂取するようにしましょう。

🟥東京都の40歳代女性がはしかに感染 都内では今年2例目

 東京都は、都内に住む40歳代の女性がはしか(麻疹)に感染したと発表しました。都内では今年2例目の感染者となります。  都によりますと、はしかの感染が確認された都内に住む40歳代の女性は、3月2日に発熱し、その後、せきや発疹などの症状が現れました。  女性は8日、北区の東京北医...