アメリカの製薬大手イーライ・リリーは3日、開発中のアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」について、認知機能の悪化を抑える効果を確認したと発表し、年内に日本で承認申請する方針を明らかにしました。アルツハイマー病は患者数が増える一方で、新薬の開発が難航してきました。エーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発した「レカネマブ」に続く新薬として注目されています。
イーライ・リリーが最終の臨床試験(治験)の結果を公表しました。アメリカ食品医薬品局(FDA)には6月末までに申請する方針。新薬の承認は製薬会社の申請後、各国や地域の当局が安全性や有効性を審査して判断します。
結果の発表を受け、3日のニューヨーク株式市場でイーライ・リリーの株価は前日より6%超値上がりしました。
イーライ・リリーの発表によると、病気の前段階である軽度認知障害(MCI)を含む早期アルツハイマー病の患者1182人を対象とした治験で、効果のない偽の薬(プラセボ)を投与した患者に比べて、認知機能の悪化を1年半で35%遅らせる効果がありました。同社の広報担当によると、年内に日本でも承認申請をし、2024年にも結果が出ることを予想しています。
同社の「ドナネマブ」については、薬を少なくとも12カ月使った患者の臨床試験(治験)データが不十分だったとして、FDAが2023年1月に迅速承認プロセスを却下した経緯があります。今回の治験で十分な人数分のデータが集まったとされます。
イーライ・リリーによると、治験で効果がみられた対象患者は、脳のスキャン画像でアミロイドたんぱくの脳内沈着とタウたんぱくが中間水準であることを示していました。ほかにタウたんぱくが高水準だった552人の患者に実施した試験では、あまり効果がない可能性が高いことが示唆されました。
これらの両方の患者を合わせた「ドナネマブ」の試験結果で、認知機能と日常生活を送るための活動を測定するためにイーライ・リリーが開発した基準で22%、より一般的な認知症進行の基準では29%、それぞれアルツハイマー病の進行を遅らせることが可能なことを示しました。
アルツハイマー病協会のマリア・カリーヨ最高科学責任者は、「今回のデータは、これまでのアルツハイマー病治療薬の第3相試験の結果としては最も強力だ」と評価しています。
認知症薬を巡る競争は激化しています。1月にはエーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、FDAの迅速承認プロセスを経て承認されました。両社の治療薬は、症状の進行を27%抑える効果がありました。
一方で、アルツハイマー病薬を巡っては、副作用も懸念されています。エーザイとバイオジェンの「レカネマブ」の治験では、患者の約13%に脳のはれ、約17%に脳出血の副作用がみられました。それに対し、イーライ・リリーの「ドナネマブ」は患者の約24%に脳のはれ、31・4%に脳出血がみられました。
2023年5月5日(金)