2022/08/01

🇼🇸エボラ出血熱

エボラウイルスにより引き起こされる感染症

エボラ出血熱とは、エボラウイルスにより引き起こされる感染症。エボラウイルスにより引き起こされる感染症患者が必ずしも出血症状を示すわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病とも呼ばれています。

ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱などとともに、ウイルス性出血熱の一疾患に分類されています。

エボラ出血熱は、マールブルグウイルスとともにフィロウイルス科に分類されるエボラウイルスに感染することで、発症します。そのエボラウイルスは、コウモリなどの動物に生息しています。コウモリ、チンパンジー、ゴリラなどの感染した動物に接触することで、エボラウイルスは人間へとうつり、エボラ出血熱を発症すると考えられています。

人から人への接触感染が起こることもあります。接触感染は、患者の血液や体液に、傷のある皮膚や体の粘膜が触れることで、感染が成立します。エボラウイルスに感染した患者の血液や、尿・唾液(だえき)・糞便(ふんべん)・吐物・精液などの体液には、ウイルスが排出されることが知られています。また、エボラウイルスが医療器具などに付着した場合、数時間から数日間は感染性を持ち続けることがわかっており、医療器具を介した感染も成立します。

なお、エボラウイルスが空気感染することはありません。また、エボラ出血熱は、せきやくしゃみを介して人から人に飛沫(ひまつ)感染するインフルエンザなどの疾患とは異なり、簡単に人から伝播(でんぱ)する疾患ではありません。

エボラウイルスに感染してから、ウイルスが体内で増殖して症状が出てくるまでには、2~21日程度、通常は7日程度の潜伏期間があります。この潜伏期間の後に突然の発熱を来すほか、悪寒(おかん)、頭痛、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、嘔吐(おうと)、下痢などの症状も併発します。

さらに症状が進行すると、肝臓や腎臓(じんぞう)、血液の凝固機能にも影響が及ぶようになり、皮膚、口の中、目、消化管などから出血を起こすようになります。ただし、すべてのエボラウイルス感染例で出血がみられるわけではありません。

1976年6月末、アフリカ北東部に位置する南スーダン(旧スーダン)のヌザラという町の綿工場に勤める倉庫番の男性が出血熱様症状を示し、次いでほかの部署の男性2人も同様の症状で倒れました。これが初めてエボラ出血熱と認識された流行の幕開けでした。この3人の患者を源として家族内、病院内感染を通してエボラ出血熱の流行が拡大し、計284人がエボラ出血熱を発症して151人が死亡しました。

その流行とは別に、1976年8月末にアフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)北部のヤンブクで、教会学校に勤める助手の男性が出血熱の症状を示しました。その患者が収容されたヤンブク教会病院での治療・看護を通じて、大規模な流行が発生。計318人の同様の患者が発生し、280人が死亡しましたが、これもエボラウイルスによる出血熱であることが確認されました。これらが、初めて確認されたエボラ出血熱の流行です。

ちなみにエボラの名は、ヤンブクの最初の男性患者の出身村を流れるザイール川支流のエボラ川に由来しています。

その後、南スーダン、コンゴ民主共和国、象牙海岸で散発的なエボラ出血熱の流行が確認されていましたが、1995年にコンゴ民主共和国中央部のバンドゥンドゥン州キクウィトの総合病院を中心として、エボラ出血熱の大規模な流行が発生しました。その流行では、計315人が発症して244人が死亡しました。

さらに、2014年3月には、アフリカ西部に位置するギニアでエボラ出血熱の流行が確認され、患者・感染者が国境を越えて移動することにより、隣国のリベリア、シエラレオネの3カ国を中心に過去最悪の規模で流行し、2016年1月にリベリアで終息するまでに2万8000人以上が発症し、世界全体で1万1300人以上が死亡しました。

2018年8月には、コンゴ民主共和国北東部の北キブ州において、同国10回目の新たなエボラ出血熱の流行が発生し、2019年6月現在、感染者が疑い例を含めると2000人を超え、死者が1400人を超えています。また、隣国のウガンダでも、コンゴ民主共和国から飛び火したエボラ出血熱により2人の死者が出たことが確認されました。

エボラ出血熱の検査と診断と治療

内科、感染症科、感染症内科の医師による診断では、エボラ出血熱が疑われる患者の血液を採取して、エボラウイルスの抗原や、エボラウイルスに対して特異的な抗体が存在するかどうかなどを調べます。血液だけではなく、のどから採取する咽頭(いんとう)ぬぐい液や尿も検体として用います。血液、体液などからウイルスを分離する検査法も重要な検査法ですが、通常1週間以上を要します。

鑑別すべき疾患には、マラリア、デング熱、腸チフスなどがあります。エボラ出血熱の感染が発生している地域は、マラリア、デング熱などの流行地域でもあり、発熱、頭痛、筋肉痛などといったエボラ出血熱の初期症状がマラリア、腸チフスなどと似ていることから、鑑別が必要になります。

内科、感染症科、感染症内科の医師による治療では、エボラウイルスそのものに対して科学的に治療効果が証明されている薬剤はないため、研究段階にあるいくつかの薬剤を投与しつつ、表面的な症状をやわらげる対症療法を行います。

嘔吐、下痢などによって脱水や血圧の低下が起こった場合は、輸液を行います。電解質のバランスが狂った場合も、それぞれの成分を補正します。呼吸状態が悪くなった場合は呼吸管理、血圧が下がった場合は循環管理と、それぞれの症状をコントロールするための治療を行います。

日本では、エボラ出血熱は感染症法において1類感染症に分類され、これらの患者の治療専用に設計されている病室に隔離して、治療を行います。

また、診断した医師は、無症状病原体保有者、疑似症患者例も含めてエボラ出血熱の患者および感染症死亡者の死体を認めた際には、直ちに都道府県知事(実際的には保健所)に届け出ることが義務付けられています。

エボラウイルスに感染しないための予防策を講じることも、重要になります。流行地域に赴く際には、コウモリやチンパンジーなどの野生動物に接触しないのはもちろん、調理状況のわからない肉類の摂取も避ける必要があります。また、葬儀で死者に対して接触する風習を持つ地域もありますが、こうした行為を避けることも大切です。

感染拡大を予防するためにも、渡航歴や症状からエボラ出血熱が疑われる場合には、検疫所で申告したり地域の保健所に連絡することも大切です。

ワクチンについては治療薬と同様で、一定の効果が期待できるものも開発されていますが、確実性のあるワクチンとして利用可能なものはありません。

🇪🇭エリテマトーデス

膠原病の一つで、顔面などに生じる紅斑を主症状とする疾患

エリテマトーデスとは、顔面などに生じる紅斑(こうはん、エリテマ)を主症状とする疾患。紅斑性狼瘡(こうはんせいろうそう)とも呼ばれます。

膠原(こうげん)病の一つで、自己免疫性疾患のうち最も代表的なものです。

急性で全身が侵される全身性エリテマトーデスと、慢性で皮膚に限局して円形の紅斑が現れる円板状エリテマトーデスに大別され、この間に中間型、移行型があります。

全身性エリテマトーデスは全身に症状が現れる膠原病の一つ

全身性エリテマトーデスは、全身に症状が現れる疾患で、代表的な膠原病の一つ。全身性紅斑性狼瘡とも呼ばれます。

現在の日本では10万人に7〜8人の発症率で、発症しやすい年齢は20歳〜40歳、その90パーセントは女性です。

発症させる原因は、まだ解明されていません。体質、素因、免疫の異常、環境因子が関係して発症すると推定されています。免疫の異常は、自分の体の成分に対して反応する異常であるために、自己抗体が血液中にみられます。特に抗核抗体、中でもDNA(デオキシリボ核酸)に対する抗体が血液中に現れるのが、特徴です。

全身性エリテマトーデスを発症させる誘因には、海水浴やスキーなどで強い紫外線を浴びたり、薬剤、ウイルス感染、外傷、ストレス、さらには妊娠、出産などがあります。

全身性エリテマトーデスの最も特徴的な症状は、皮膚の露出部に赤い斑点である紅斑が現れることです。顔では鼻を中心に両側の頬(ほお)にかけて、蝶(ちょう)が羽を広げたような形の蝶型紅斑ができます。また、手のひら、つめの周囲、足の裏、胸にも紅斑がみられます。

紅斑は厚く盛り上がることもありますが、痛みやかゆみはありません。ただし、紅斑が治った跡に瘢痕(はんこん)が残ったり、色素沈着や色素脱失になることがあります。

髪の毛が抜けたり、つめが変形したり、日光に当たるとひどい日焼けをして火膨れができる光線過敏症などもみられます。寒冷刺激や精神的ストレスに反応して、手や足の指が真っ白になったり、青紫色になったりし、しびれ、冷感、痛みなどの症状を伴うレイノー現象も、よくみられます。

内臓に現れる症状では、腎(じん)臓がよく侵されます。これはループス腎炎と呼ばれ、むくみや蛋白(たんぱく)尿がみられますが、初期には症状として出にくいため要注意。心膜や胸膜に炎症が起こることもあり、胸痛、発熱を起こします。

脳や神経に障害が起こると、けいれん、まひがみられることもあります。関節痛もみられますが、関節リウマチのような関節の変形、運動機能の障害はありません。

全身性エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、免疫血清や血液の検査を行います。免疫血清検査では、全身性エリテマトーデスに高頻度にみられる血清中の抗核抗体を調べます。また、血液検査によって、貧血の程度や白血球減少、血小板減少の有無を調べます。

そのほか、尿や血液の検査によって、ループス腎炎やネフローゼ症候群、腎臓の機能障害が起こっていないかを調べます。また、侵された臓器の病状を知るために、必要に応じてX線検査、CT検査、MRI検査、心電図などの検査を行います。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療においては、内臓の炎症にはステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与され、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓に障害が現れた場合には、免疫抑制剤が用いられたり、血漿(けっしょう)交換療法が行われることもあります。

ステロイド薬の使用により、予後はかなり改善しましたが、治療に用いられる薬はいずれも副作用があります。加えて、いつ、どれぐらいの期間をかけて投与量を減らすかが非常に難しいため、医師の指示を守って治療を続けることが大切。腎臓の機能低下が起こった場合には、血液透析が必要になります。

生活上の注意としては、全身性エリテマトーデスを発症させる誘因があると悪化するため、強い紫外線や感染症には細心の配慮が必要です。治療のためにステロイド薬を使うと感染症にかかりやすくなるため、清潔を心掛け、インフルエンザが流行している時期は人込みを避けるなど、注意します。

比較的若い女性がかかることが多いため、妊娠や出産の問題があった際には、医師に相談します。病状が安定していれば、妊娠、出産は十分に可能です。また、経済的な問題では、全身性エリテマトーデスは厚生労働省の特定疾患に認定されているので、医療費の助成を受けることができます。

円板状エリテマトーデスは皮膚限局型エリテマトーデスの一つ

円板状エリテマトーデスは、日光露出部である頭部、顔面、四肢などに、円板状の紅斑が好発する原因不明の皮膚疾患。慢性円板状エリテマトーデス、円板状紅斑性狼瘡とも呼ばれます。

膠原病の代表的な疾患で全身性の症状を伴う全身性エリテマトーデスと異なり、皮膚症状のみ出現する皮膚限局型エリテマトーデスの1つであり、慢性型のサブタイプに相当します。皮膚限局型エリテマトーデスには、急性型、亜急性型、中間型のサブタイプもあります。

円板状エリテマトーデスの症状は、類円形ないし不整形で、魚の鱗(うろこ)のようにはがれる鱗屑(りんせつ)を伴う円板状の紅斑が多発することを特徴とします。

円板状の紅斑は境目がはっきりしていて、頬、鼻、下唇、頭部など、日光が当たる部位にできます。皮膚面より少し盛り上がり、中心部は硬くなったり委縮していたりして、引きつったようになっています。口唇に症状が出る時はびらん、頭皮に症状が出る時は脱毛を伴うことがあります。また、かいたり刺激を与えたりすると、その部位に新たな円板状の紅斑が広がる傾向にあります。

この皮膚病変は、治癒過程で色素沈着ないし色素脱失、委縮を生じ、瘢痕を残します。ほかの症状として、発熱や倦怠(けんたい)感がみられることもあります。

全身性エリテマトーデスと異なり、全身の臓器障害はみられませんが、一部が全身性エリテマトーデスへ移行することがあります。全身性エリテマトーデスへ移行すると、円板状の紅斑が全身に広がり、内臓の炎症、腎臓の機能障害が起こります。

円板状エリテマトーデスは、35~45歳の女性が発症しやすいとされています。

現在のところ、円板状エリテマトーデスを発症する原因はわかっていません、しかし、紫外線や寒冷刺激、美容整形、妊娠・出産、タバコ、ウイルス感染、薬物などが関係していると考えられています。

全身性エリテマトーデスは、免疫システムが自己の細胞を攻撃する自己免疫が原因だとされていますが、円板状エリテマトーデスは自己免疫とは無関係と考えられています。皮膚が抗原刺激や物理的刺激を受けることで、白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種であるT細胞が増殖し、細胞間で情報を伝えるタンパク質であるサイトカインの生成が促進され、症状が現れると推測されています。遺伝との関係は、親族内や双子で発症する例が少ないことから、可能性は低いと考えられています。

円板状の紅斑ができて治りにくい場合、円板状エリテマトーデスの可能性があります。日光を避けて、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診しましょう。治った後でも、まれに皮膚がんである有棘(ゆうきょく)細胞がんの発生母地となることがあるため、症状が軽くてもしっかり治療をすることが大切となります。

円板状エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診をした上で、皮膚生検といって皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を行い、円板状エリテマトーデスと確定します。

血液検査を行うこともありますが、発症者の多くはほかの臓器に変化を伴わず正常です。しかし、一部の患者では、血液沈降速度(血沈)の高進、抗核抗体陽性、白血球減少がみられ、全身性エリテマトーデスに移行することがあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、瘢痕が残った皮膚病変を治すことはできませんが、新しい円板状の紅斑が広がらずに限られた範囲にできている場合は、ステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)の軟こうを直接塗ることが一般的です。目立つほど顔にできている場合や、頭皮の脱毛がひどい場合は、内服のステロイド薬を使用します。

また、内服薬ではヒドロキシクロロキンなどのマラリア治療薬が皮膚症状に有効であり、欧米では第1選択薬の1つです。以前の日本では副作用のために使用が禁止され保険適応がありませんでしたが、2015年に承認されました。ヒドロキシクロロキンの長期間の効果としては半数弱の人に有効であり、残りの半分強は、内服のステロイド薬などが必要になります。

免疫抑制剤の1つであるレクチゾールやミゾリビンの内服も有効なことがわかっていますが、貧血などの副作用が現れやすいため、慎重に使用する必要があります。

全身性エリテマトーデスを合併する場合には、内臓の炎症に対して内服のステロイド薬が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与し、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓の障害に対して、免疫抑制剤を用いたり、血漿交換療法を行うこともあります。

円板状エリテマトーデスの悪化を防ぐためには、紫外線を避ける必要があります。肌の露出を控えるために、日焼け止めや帽子、サングラス、長袖(ながそで)などの対策が大切です。肌に過剰な刺激を与えることも悪影響なので、かゆみがある時でもかいたり刺激を与えないように気を付ける必要があります。薬を塗る時なども、手を洗い清潔な状態で塗るようにします。

寒冷による刺激も極力受けないほうがいいため、しっかりと防寒することが重要で、夏場は清潔な服を着る、通気性のよい天然素材の洋服を着るなどの対策も大切です。加えて、ストレスを避け、適度な運動と休養をとり、バランスのとれた食事をします。

🇪🇭エリトラスマ

蛍光発色性ジフテロイドという特殊な細菌に、皮膚の表層部が感染する疾患

エリトラスマとは、コリネバクテリウム属の蛍光発色性ジフテロイドという特殊な細菌に、皮膚の表層部が感染する疾患。紅色陰癬(こうしょくいんせん)とも呼ばれます。

蛍光発色性ジフテロイドは常在菌ですが、主に成人がかかり、特に糖尿病、多汗症、肥満症といった基礎疾患を持つ人がかかりやすい傾向にあります。健康な人には症状を起こさない菌が、抵抗力の弱い人に感染症を起こす日和見感染の一種と考えられています。また、熱帯地方などの高温多湿な環境では、比較的多くみられます。

皮膚と皮膚が接触する部位、すなわち、乳房の下、わきの下、足の指と指の間、性器周辺、尻(しり)の割れ目に多く発症します。このような場所は、皮膚と皮膚が接触して発汗しやすいため、汗や皮脂を栄養源とする細菌が増殖しやすい部位です。

特に男性の場合は、陰嚢(いんのう)が熱に弱いため、陰嚢の皮膚が汗を出して冷やそうとする働きがあるため、腿(もも)と陰嚢が接触する部位によくできます。特に肥満症の中年女性や糖尿病患者の場合は、乳房の下、わきの下、腹部のひだ、会陰部にも発症することがあります。

最初は、皮膚と皮膚が接触する部位に、不規則な形のピンク色の皮疹(ひしん)ができます。この皮疹はやがて、鱗屑(りんせつ)といわれる茶色く、うろこ状にカサカサした状態に変わります。皮疹が、胴体や肛門(こうもん)周辺に広がることもあります。足の指と指の間では、皮膚がふやけて白くなります。

正常な皮膚との境界ははっきりとしており、かゆみなどの自覚症状はほとんどありません。まれなケースでは、灼熱(しゃくねつ)感やかゆみを自覚することもあります。

白癬などの真菌感染症とエリトラスマが混同されることがありますが、体部白癬、股部(こぶ)白癬、陰嚢白癬、足白癬などとは異なり、周囲に炎症が広がって中央はきれいになる中心治癒傾向を示さず、水疱(すいほう)や丘疹も発生させません。

エリトラスマの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師によるエリトラスマ(紅色陰癬)の診断では、ウッド灯という長波長の紫外線を出す蛍光管で病変部を照らすと、蛍光発色性ジフテロイドがサンゴのような紅色に輝くので、すぐ診断がつきます。また、鱗屑の多い病変部をセロテープではがして、細菌類を色素によって染色する方法の一つであるグラム染色した後、検鏡を行うことでも、増殖している蛍光発色性ジフテロイドを確認できます。

白癬、カンジダ症、癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎などとの区別が必要ですが、ウッド灯での紅色蛍光で区別できます。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、クリンダマイシンやミコナゾールなどの抗真菌剤、エリスロマイシンあるいはテトラサイクリンなどの抗生剤の軟こうまたはクリームを塗ります。範囲が広い場合には、エリスロマイシンあるいはテトラサイクリンを内服します。クロルヘキシジンなどの抗菌せっけんを使うのも、効果があります。

紅色陰癬は6〜12カ月以内に再発することがあるので、その場合は再度治療します。肥満症や多汗症の人は病変部が再び蒸れやすく、再発を繰り返して完治しにくい場合も多いようです。

股部や陰部周辺の紅色陰癬を予防するには、常日ごろから通気性がよく、蒸れない下着を着用し、清潔に保ち、乾燥させるように心掛けることが大切です。

🇳🇪エルシニア食中毒

低温細菌であるエルシニア菌によって引き起こされる食中毒

エルニシア食中毒とは、5℃以下でも増殖する低温細菌であるエルシニア菌によって引き起こされる食中毒。

ペストの原因となるペスト菌の仲間であるエルニシア菌には、5種類あります。そのうち食中毒を引き起こすのは2種類で、エルシニア・エンテロコリチカとエルシニア・シュードツベルクローシス(偽結核菌)。1982年(昭和57年)に、厚生労働省からエルシニア・エンテロコリチカが食中毒菌に指定されています。

土壌、水中などの自然環境中に分布しているほか、豚、牛、犬、猫、猿、鼠(ねずみ)などのほ乳類の腸管に分布しており、井戸水や湧水(ゆうすい)、簡易水道水など消毒不十分な水の飲用、汚染された豚などの食肉、牛乳、乳製品などの摂取、ペット動物との接触が食中毒の原因となります。腸炎ビブリオ食中毒やブドウ球菌食中毒に比べると発生例ははるかに少ないものの、小中学校などの集団給食で発生したケースでは、加工乳が原因となって発症者が1000名を超える大型の集団食中毒も起こっています。

多くの食中毒細菌は10℃以下になるとほとんど増殖しないし、毒素も産生しなくなるのに対して、エルシニア菌は0~ 5℃という低温で増殖することに特徴があります。冷蔵庫の中でも、どんどん増え続けますので、食肉を冷蔵庫で長期間保存しておくとほかの食品を汚染し、二次感染を招くこともあります。しかし、65℃以上の加熱で容易に死滅するため、加熱調理を心掛ければ完全に予防することができます。

感染すると2~5日間の潜伏期間を経て、特に右下腹部に起こる虫垂炎のような猛烈な腹痛、38℃以上の発熱、下痢を起こします。下痢の症状は大人と幼児で異なり、大人の場合の下痢回数は1日2~4回ほど、2歳以下の幼児の場合は何度も下痢を繰り返します。発熱とともに発疹(はっしん)が出ることも多く、発疹性の食中毒にかかったらエルシニア食中毒の可能性が高いといえます。

この食中毒(胃腸炎)の症状のほかに、エルニシア菌は虫垂炎、腸管膜リンパ節炎、終末回腸炎、敗血症などの病型を示すこともあります。3歳以下の乳幼児では食中毒が多くみられるのに対して、成人ではほかの病型が多くみられ結節性紅斑、関節炎を起こすこともあります。

厚生労働省から食中毒菌に指定されていないエルシニア・シュードツベルクローシス(偽結核菌)について付け加えると、げっ歯類に結核様病変を起こすことで知られていた菌であり、近年になって人への感染ケースが明らかにされました。人では、エルシニア・エンテロコリチカと同様に食中毒(胃腸炎)などの症状を起こすほか、しょう紅熱様または泉熱様の病型を集団発生させたこともあります。

エルシニア食中毒の検査と診断と治療

腹痛、発熱、下痢などエルニシア食中毒の症状が現れた場合は、医療機関を受診し適切な処置を受けます。

医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、エルシニア食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)や原因と疑われる食品などから原因となっている菌を分離することが必要です。発熱とともに発疹が出ることも多いため、発疹性の食中毒にかかったらエルシニア食中毒の可能性が高いといえます。

感染初期や軽症の場合は、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。虫垂炎、腸管膜リンパ節炎などのほかの病型を示した場合は、それらに応じた治療を行います。

エルシニア食中毒を予防するためには、以下のことを心掛けます。食肉は中心温度が70℃以上になるように十分加熱し、調理後は早めに食べる。生の食肉を保存する時は、5~10℃の普通の電気冷蔵庫中での保存は短時間に限り、長く保存する時は冷凍する。まな板、包丁、ふきんなどはよく洗い、熱湯や漂白剤で殺菌する。

🇳🇪円回内筋症候群

肘関節周辺で正中神経が圧迫され、肘関節前面の痛みや、手のしびれが生じる疾患

円回内筋(えんかいないきん)症候群とは、手にとって最も重要な神経である正中神経が肘(ひじ)関節周辺で圧迫されることにより、肘関節の前面の筋肉に痛みが生じたり、手のしびれが生じたりする疾患。回内筋症候群とも呼ばれます。

円回内筋は、上腕の骨である上腕骨と尺骨(しゃくこつ)、橈骨(とうこつ)という計3つの骨をつなぎ、肘から前腕の中間までに付いている筋肉で、主に肘を曲げたり、腕を内側に回転したり、ひねったりする際に使われます。正中神経は、肘の辺りの上腕骨内側上顆(じょうか)の下方2・5から4センチを通ってから、上腕骨頭と尺骨頭の間にある円回内筋の2つの筋繊維の間を通ります。この部位で、正中神経が圧迫されることがよく起こります。

ちなみに、正中神経は円回内筋を横断するように通り過ぎると、浅指屈筋と深指屈筋という指を曲げる筋肉の間を通り、手首の辺りを通過します。その後、手の関節や指まで伸びます。

円回内筋症候群の症状は、正中神経が圧迫を受けている部位より手に近い部位に現れ、肘関節の前面の筋肉の痛みが生じ、手のしびれや知覚障害が生じます。この手のしびれや知覚障害は、正中神経が手首周辺で圧迫される手根管症候群と同様、親指、人差し指、中指の3本の指全体と、薬指の親指側半分に認められます。小指には、しびれなどは生じません。

通常、腕に徐々にだるさや倦怠(けんたい)感を覚えて後に、主に親指、人差し指、中指にしびれなどが生じます。そして、筋肉の衰えで指の力が入らなくなったり、指を曲げづらくなったりして、字を書く動作や物をつまむ動作が困難になるケースが多くみられます。手根管症候群と異なり、手のひらにも、はれや知覚異常が生じるのが特徴です。

円回内筋症候群を起こしやすい人は、この円回内筋を酷使している人で、円回内筋に過緊張や炎症が発生すると正中神経を圧迫し、神経障害が発症する場合があります。例えば、大工でドライバーをよく使う人、工場などの作業で繰り返し手や腕を使う人、前腕の筋肉を酷使するテニス、バドミントン、野球、ボーリングなどのスポーツをする人、長時間のパソコン作業をする人、ピアニストなどにみられます。また、腕を伸ばして重たい荷物を押したり、突然重い荷物を持ち上げた際に、発症する人もいます。

円回内筋症候群の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、正中神経の障害の程度や正確な障害部位が評価できます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、軽症の場合は誘引となるような動作の中止、肘と手関節の安静、軽いマッサージ、低周波治療器の使用、消炎鎮痛剤の服用、ステロイド注射などを行います。一般に、円回内筋症候群は一時的な神経まひで、肘と手関節の安静や消炎鎮痛剤の服用などの保存療法によって、50パーセントから70パーセントのケースでは数カ月以内に治ると見なされています。

症状が続きなかなか治らない場合は、手術により肘の部位で正中神経の圧迫を取り除きます。手術の結果は良好で、診断が間違っていない限り、80パーセント以上のケースで有効と見なされています。

🇳🇮円形脱毛症

円形脱毛症とは、髪の毛が丸く抜け落ちて、はげになる疾患です。1カ所のみに脱毛部位ができるタイプは単発型と呼ばれ、最も治りやすいタイプです。

単発型のほか、多発型、多発融合型などのタイプに、分類されています。脱毛の部位が2カ所以上あるのが多発型で、病巣部位が融合しているものが多発融合型です。

症状は大多数、毛髪にできますが、まゆ毛、あごひげ、腋毛(わきげ)、陰毛にできることもあります。子供の円形脱毛症では、75パーセントにアトピー性皮膚炎が合併します。

一般的には、心配事や疲労、精神的ショック、環境の変化などに起因する「ストレス」によって、円形脱毛症は誘発されることが多いと考えられ、遺伝的・体質的素因も関係すると見なされています。また、「免疫不全」も円形脱毛症の原因の一つではないかと、最近では疑われています。

治療に関しては、育毛剤やステロイド剤などを脱毛部位に塗布する局所治療と、ビタミン剤などの飲み薬を処方する全身治療が併用されるのが、一般的です。脱毛部位への局所治療としては、ドライアイスを使った冷凍療法や、紫外線療法、温熱療法もあります。内服薬に使われるのは、血管を拡張する作用がある薬で、ビタミンE・B・C、ステロイド剤、漢方薬などです。

軽度の円形脱毛症であれば、自然治癒することもありますす。突然の脱毛に気付いた際は、皮膚科で診断を受けるとともに、心療内科などでカウンセリングを受けるなど、心身両面からのケアを心掛けるのがいいかもしれません。

🇳🇮嚥下障害

食べ物を口の中に取り込んで飲み込むまでの過程が正常に機能しない状態

嚥下(えんげ)障害とは、食べ物や水分を口の中に取り込んでから飲み込むまでの過程が正常に機能しない状態。嚥下困難、摂食嚥下障害とも呼ばれます。

物を食べることは、食べ物を認識し、口に入れ、噛(か)んで、飲み込むまでの一連の動作からなります。このうちの飲み込むという動作が、嚥下に当たります。

嚥下は、主に舌の運動により食べ物を口腔(こうくう)から咽頭(いんとう)に送る口腔期、嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る咽頭期、食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで運ぶ食道期に分けられます。嚥下には多くの器官がかかわっており、これらが障害を受けるさまざまな疾患で、嚥下障害が起こります。

嚥下障害が起こると、食物摂取障害による栄養低下と、食べ物が気道へ流入する誤嚥による嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)が問題になります。

嚥下障害を引き起こす疾患にはさまざまなものがありますが、脳出血や脳梗塞(こうそく)、認知症、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症などが原因となることがあります。

嚥下する際には嚥下にかかわる筋力が必要となるため、筋ジストロフィーや重症筋無力症などで筋力が低下することが原因となります。

加齢により咀嚼(そしゃく)や嚥下に必要な筋力が衰えるのも、原因の一つです。加齢に伴い唾液(だえき)が少なくなったり、歯の本数が少なくなったりすることから食べ物を噛みにくくなることも、原因として挙げられます。筋力が低下すると飲み込む時に気道を閉じることができなくなり、食べ物が気管に入りやすくなります。高齢者の肺炎のかなりの部分は、加齢による嚥下機能の低下による誤嚥によって引き起こされるともいわれています。嚥下性肺炎を発症すると、発熱、咳(せき)や痰(たん)の増加、呼吸回数の増加、息苦しさなどを認めます。

そのほか、口腔がんや咽頭がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)や、口唇口蓋(こうがい)裂、精神的要因、薬剤、環境要因、姿勢なども嚥下障害の原因となります。

嚥下障害を起こすと、食べ物が飲み込みにくい、飲み込めない、つかえるとの自覚や、食事の時のむせ込みなどの症状が現れます。明らかな症状がないこともありますが、食事の状態で判断することもできます。固い物、ぱさついた物、まとまりのない物、味噌(みそ)汁など固形物と水物の混合した物は飲み込みにくい食べ物であり、食事に時間がかかるようになります。

誤嚥の有無は、食べ物を飲み込んだ後の咳や、食後によく痰が出るなどからも判断できます。声質の変化もよくみられる症状で、食べ物を飲み込んだ後に声がかすれたり、口腔内に食べ物が残留することから痰が絡みやすくなり、がらがらした声になったりします。

嚥下障害の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科、飲みこみ外来、嚥下外来などの医師による診断では、精神機能や身体機能も含めた全身状態をチェックします。次に口腔・咽喉頭の所見から、おおよその嚥下機能を判断します。舌の運動性は口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。

口腔から咽頭にかけては比較的簡単に観察できますが、下咽頭や喉頭の機能を確認するには、喉頭ファイバースコープなどの内視鏡検査が必要になります。実際に食べ物などを嚥下させて誤嚥などを検出する検査には、嚥下内視鏡検査があります。また、実際に食べ物がどのように飲み込まれるかを調べる方法としては、造影剤を用いて嚥下状態をX線透視下に観察する嚥下造影検査があり、現在では最も信頼性の高い方法と考えられています。

耳鼻咽喉科、飲みこみ外来、嚥下外来などの医師による治療では、嚥下障害を引き起こす原因があればそれを取り除くことが重要です。また、嚥下障害の程度により、栄養摂取と誤嚥防止の観点から対応や治療法を決定します。

嚥下障害が軽度な場合には、誤嚥が起こりにくいように、食べ物の硬さや形状を工夫します。水のようなものは誤嚥しやすいためトロミを付けることなどが、その代表例です。ある程度以上の嚥下障害があると、経口のみでは栄養摂取が不十分になるため、ほかの栄養補給法に頼らざるを得ません。栄養摂取については、高カロリー輸液を静脈内に投与する方法や、さまざまな経管栄養が発達してきており、生活スタイルに合わせてある程度の選択が可能です。

一方、誤嚥の防止は非常に難しい問題になってきます。誤嚥は肺炎を引き起こし、生命の危険を招く可能性があります。厄介なことに、肺炎の発症は誤嚥の程度だけで決定されるものではありません。誤嚥物の性質、気道からの吐き出す力、肺の状態や全身状態などが複雑にかかわり、場合によっては少量の誤嚥でも肺炎を起こします。

必要に応じ、嚥下リハビリテーション(嚥下訓練)や口腔ケアで、嚥下機能を保持したり、改善させたりすることを図ります。改善しないケースでは、肺炎すなわち誤嚥を防止するために、気管切開を行った上でカフ付きの気管カニューレという器具を装着することが必要な場合もあります。嚥下障害の改善や誤嚥防止を目的として、手術治療が行われることもあります。誤嚥をできるだけ少なくして経口摂取を可能にしようとする嚥下機能改善手術と、誤嚥をなくすことを主眼とした気道と食道を分離する誤嚥防止手術に大別されます。

嚥下機能改善手術だけで嚥下機能が完全に回復するわけではないので、食事を取るためには術後の嚥下リハビリテーションが必須です。誤嚥防止手術では発声機能が失われるリスクがあるため、手術には医師による慎重な判断と、患者、家族の理解が必要となります。

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