食べ過ぎを繰り返し、太ることを恐れて吐いたり下剤を乱用したりする神経性過食症は、深刻な健康被害を伴う精神疾患である。考え方や行動のゆがみを直す認知行動療法が有効であることはわかっているものの、専門家が少なく、地方では受けにくい問題もある。福井大など国内7医療機関からなるチームは、自宅で手軽に受けられるオンラインの認知行動療法を開発し、約半数の女性患者で日常生活に支障がない程度に回復させる効果があったとアメリカの医学誌に発表した。
神経性過食症は食事をコントロールできずに短時間に大量の食べ物を食べてしまう症状で、嘔吐(おうと)や下剤乱用、絶食、過剰な運動といった代償行動を繰り返す。体重に対する過度のこだわりがあり、健康の悪化だけでなく、体形を意識しすぎてうつ病になるなど、自傷や自殺のリスクも高い。20代女性で多く、女性の最大3%が生涯に発症するとされる。
福井大は、東北大、千葉大、独協医大埼玉医療センター、徳島大、鹿児島大、国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)と共同で研究を実施。一般的なカウンセリングや抗うつ剤の処方など通常の外来治療を受けている15~54歳の女性の神経性過食症患者61人をほぼ半々に分け、一方のグループには外来治療に加え、独自に開発したオンライン認知行動療法を受けてもらい治療効果を検証した。
認知行動療法は、心と行動の問題を続けさせている物の考え方や行動様式を特定し、それらを改善させることに焦点を置いた精神療法。通常は公認心理師などが担当し、8~16回にわたり個人やグループで、対話形式で行う。
今回の検証では、パソコンやスマートフォンから好きな時間にログインできる週1回、計12回の治療プログラムを提供した。
プログラムでは、過食に走る心理的な過程や健康的な食習慣などの知識を学ぶだけでなく、どんな食べ物を目の前に置いた時、どんな衝動を感じるか、どれだけ我慢できるかを実験したり、トラウマとなった体験を書き出したりして、認知や行動の修正を図る。
患者はプログラムに取り組みながら、質問があればその都度、できるだけ早いタイミングで治療者からチャットによる回答や助言を受ける。
検証に参加した患者の平均年齢は27・8歳、平均病歴は9・3年で、約半数が就業者だった。
約3カ月後の評価で、過食と代償行動の合計回数は通常の外来治療のグループでは減らなかったのに比べ、プログラム参加者は週当たり平均19回から11回へと大幅に減少した。また、摂食障害の重症度を測る国際的な質問票による評価で、日常生活に支障がない症状にまで回復したと判断された患者の割合は、通常治療で13%、プログラム参加で45~55%だった。
プログラムを開発した福井大「子どものこころの発達研究センター」の浜谷沙世助教(認知行動療法)によると、プログラムを受けた患者からは「自分のペースで進められるため、学習の振り返りや復習がしやすくて助かる」「対面でのカウンセリングが苦手なため、ストレスを感じることなく進めることができた」といった感想があった。
同センターの水野賀史准教授(小児発達学)は、「自宅で専門的な治療を受けられる新たな選択肢として活用が期待できる。今のところ、保険診療や遠隔医療の制度が利用できるところまで至っておらず一般的には受けられないが、まずはこういう治療法があることを知ってほしい」と話している。
2025年11月11日(火)