臀部から下肢に痛みとしびれが生じる疾患
梨状筋(りじょうきん)症候群とは、臀部(でんぶ)から、膝(ひざ)の後ろ側のくぼんだ部分や、ふくらはぎなどの下肢に痛みとしびれが生じる疾患。原因がわからず見逃されやすい疾患です。
梨状筋は股(こ)関節の後方に付いている筋肉であり、臀筋群のさらに奥に走っている深層筋に相当し、ちょうど骨盤から出てくる坐骨(ざこつ)神経の真上を走っています。この梨状筋によって坐骨神経が圧迫を受けて、梨状筋症候群が発症します。特に臀部、つまり尻(しり)の奥からピリピリとした痛みが慢性的に続くことから、ゆっくりと症状が現れ始めることが多いようです。その後、太股(ふともも)、膝の後ろ側のくぼみ、ふくらはぎと、下肢に向かって症状が広がるという傾向があります。筋力低下や感梨状筋による坐骨神経の圧迫は本来少ないのですが、股関節の屈伸運動が頻繁になされるランニングや、股関節を急激にねじるような動作を行うスポーツを切っ掛けに、梨状筋により坐骨神経が摩擦、圧迫されて発症することが多いようです。また、臀部の打撲、車の運転などで長時間同じ姿勢をとっている慢性の圧迫刺激により、発症することもあります。
まれに坐骨神経のすべてが梨状筋を貫通している場合、坐骨神経が枝分かれして一方が梨状筋を貫通している場合、また枝分かれした坐骨神経により梨状筋が挟まれている場合があります。この3パターンの場合、梨状筋が緊張することで坐骨神経を圧迫し、症状が出ることもあります。
女性に多い疾患であり、女性のほうが男性よりも筋肉が弱く、腱(けん)と骨をつなぐ腱鞘(けんしょう)の間に起こる腱鞘炎を起こしやすい体質を有しているためと考えられています。
痛み、しびれなどの症状を伴うことから、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアと独自に判断する人が多く、また腰椎椎間板ヘルニアの治療を行っても一向に改善されず、検査してみたら梨状筋症候群であったということも多いようです。
梨状筋症候群の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、臀部から下肢にかけての痛みとしびれ、モアレ写真などの光学的検査、関節や筋肉の状態などの運動分析法などにより、梨状筋による座骨神経圧迫なのかを判断します。
しかし、原因がわからず見逃されやすい疾患であり、CT、MRIなどの画像診断で梨状筋がはれて大きくなっている場合には異常と診断されますが、そうでない場合には坐骨神経そのものが圧迫されているかどうかを診断するのは難しい場合があります。ほかの腰椎疾患などを除外して、梨状筋症候群の診断にたどり着くことが多いのが現状です。
臀部から下肢にかけて坐骨神経の経路に沿って痛みやしびれがあるため、腰椎椎間板ヘルニアとの鑑別が必要となります。
整形外科の医師による治療は、保存療法と手術療法があります。保存療法では、臀部の保温、安静を行うようにし、硬い椅子に座るなどの臀部への機械的刺激を避けるようにします。ある特定の動作で症状が誘発される場合は、その動作を避けるようにします。また、鎮痛剤による痛みの緩和を行い、痛みがひどい時には梨状筋部への神経ブロック注射が効果的な場合もあります。
筋肉の緊張と硬直により痛みが出るので、温熱療法、電気治療、筋肉の緊張をほぐす筋弛緩(しかん)剤などが効果的な場合もあります。そのほか、梨状筋のストレッチや運動療法が効果的である場合もあります。これは梨状筋の緊張を緩和し、股関節運動で坐骨神経の動きをよくすることによるものです。
坐骨神経が梨状筋を貫通している人で、保存療法で症状の改善がみられない場合には、梨状筋を切断し坐骨神経を正常な位置に戻す手術療法を行うこともあります。
整形外科で梨状筋症候群と診断され、保存療法でも症状が改善されない場合には、整体やカイロプラクティックなどよるマッサージやストレッチを受けてみるのもよいでしょう。梨状筋および大臀筋など臀部周辺の筋肉をほぐすことで、症状の緩和が期待できます。覚障害は、あまり起こりません。
梨状筋症候群を発症すると、座った姿勢から立ち上がろうとした場合や、かかとを地に着けたままで足の先だけを外側に回すように股関節から脚全体を動かした場合、横座りで体重を痛めた側にかけた場合、背中を後ろに反らせるような動作をした場合に、痛みが増強します。歩行時にはあまり痛みがないことが多く、腰痛はありません。
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