生後早期から強い視覚障害がある先天性の疾患
レーベル先天性黒内障とは、生後早期から強い視覚障害がある先天性の疾患。レーバー先天性黒内障とも呼ばれます。
1869年にレーベルが初めて報告しました。黒内障とは、見た目には眼球に異常がないのに、目が見えないことを表した古い言葉です。レーベル先天性黒内障の大部分は、遺伝子の異常によって起こる常染色体劣性遺伝の疾患であると考えられており、現在までに複数の原因遺伝子が見付かっています。
常染色体劣性遺伝の仕方は、両親に同じ疾患が認められず、兄弟姉妹に同じ疾患の人がいる場合に疑われます。両親が血族結婚であったり、同じ地域の出身同士、親戚同士であったりすると、可能性が高くなります。父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子がありますが、常染色体劣性遺伝の仕方をとる場合は片方の変化だけでは発症せず、レーベル先天性黒内障を起こす遺伝子の同じ変化を両親からそれぞれ受け取ると発症します。
レーベル先天性黒内障は、8万人から10万人に1人くらいの頻度で発症するといわれています。遺伝子の異常による代謝障害のために、網膜などが委縮、変性するのが原因です。
時に白内障や円錐(えんすい)角膜の疾患を合併していることもありますが、見た目には眼球の異常が明らかでないことがほとんどです。しかし、色調の暗い眼底、網膜色素が沈着している眼底、黄斑(おうはん)変性を伴う眼底が認められることもあります。
生後2〜3カ月以内より重い視覚障害を示し、普通は両眼性です。視力は0・1未満で、時に遠視や近視、乱視の強い屈折障害を示して、視線が合わず、黒目が振り子のように動き続ける振子様眼振(がんしん)がみられ、光を受けた時に瞳孔(どうこう)が小さくなる対光反射が弱いか、消失しているために、光をまぶしがります。失明を起こすこともあります。
また、目を指で強く押したり、こすったり、たたいたり、枕(まくら)や机に押し付けたりする行為を好む場合もあります。眼球周囲の脂肪組織が少ないために、眼球が落ちくぼんで見えることもあります。
そのほか、精神発達遅滞、てんかん、難聴、腎臟(じんぞう)病、肝臓の機能障害など、複数の合併症を抱えていることもあれば、体の合併症が全くないこともあります。
レーベル先天性黒内障の検査と診断と治療
小児眼科、あるいは眼科の医師による診断では、問診と眼底検査を行いますが、眼底にも目立った異常が見られないことがあります。確実な診断をするためには、眼底の網膜の生体電気を調べる網膜電図という検査を行います。ただし、この検査を小さい子供に行っている医療機関は限られていますので、まずは近くの眼科医に相談して下さい。
小児眼科、あるいは眼科の医師による治療では、明らかな有効性が確認された治療法は見付かっていないので、遠視などの屈折障害を矯正する眼鏡や遮光眼鏡をかけて、少しでも視力を伸ばすようにします。また、目を指で強く押したり、こすったり、たたいたり、枕や机に押し付けたりする行為は、白内障や網膜剥離(はくり)の原因になり、将来の治療の可能性を奪ってしまうことになるので、ゴーグルなどで防ぐようにします。
遺伝子変異が見付かった患者に対し、2007年に英国と米国で、片目に光を感受する色素を作るための酵素をつかさどる遺伝子を入れる遺伝子治療が実施され、治療前に比べ治療後に視機能が改善していることが 2008年に報告されました。
米国のペンシルベニア大学医学部が実施した遺伝子治療は、8歳から44歳までのレーベル先天性黒内障で失明しつつある患者12人に対して、遺伝子操作で無毒化した風邪ウイルスに矯正遺伝子を入れ、視力の弱いほうの眼球に注入するというもの。眼球に注入された改変ウイルスは視力障害の原因となっている細胞に感染し、いわばコンピューターウイルスの「トロイの木馬」に似た働きで、正常な遺伝子を網膜に伝達しました。
その結果、完ぺきに正常な視力を回復できた患者はいませんでしたが、光が目に入った時の瞳孔の収縮度を示す対光反射に関しては、全員が100倍以上増加しました。また、半数の6人は、法的には視覚障害者に分類されないレベルまで、視力が回復したといいます。最も著しい回復がみられたのは、8歳、9歳、10歳、11歳の子供の患者で、薄明かりの通路を4人とも介添えなしに歩行することができたといいます。
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