頭の位置加減によって、突然めまいが起こる良性の障害
良性発作性めまいとは、急に頭を動かすなど頭の位置加減によって、突然めまいが起こる障害。良性発作性頭位めまい、良性発作性頭位変換性めまいとも呼ばれます。
耳が原因で起こるめまいの中で最も頻度の高いもので、発症年齢は20~70歳代までに渡り、好発年齢は50~70歳代です。男女比では、女性が男性の1.8倍とやや多くなっています。
ほとんどの場合、起き上がる、横たわる、寝返りを打つ、見上げるために頭を後ろに反らすなど、頭の位置を変える動作が引き金になって、急激に回転性の激しいめまいが起こります。人によって、めまいが起こりやすい頭の位置があります。
症状は数秒から数分で自然に落ち着くことがほとんどですが、また頭を動かすとめまいが反復します。吐き気を伴うこともあります。通常、耳鳴りや難聴などの聴覚の症状、頭痛、しびれ、体のふらつきは自覚しません。2~3週間くらいは、何度かめまいが起こります。
この良性発作性めまいは、内耳の中の耳石が頭の位置により、バランス機能を補助している三半規管の中に入り込んで、三半規管の有毛細胞を刺激するために起こります。
耳の一番奥にある内耳は、聴覚器官である蝸牛(かぎゅう)と、平衡器官である前庭という二つの部分から構成されています。そして、前庭器官にある耳石器の上には、炭酸カルシウムでできている耳石が多数乗っています。正常であれば、頭が動くと耳石が三半規管の内側にある神経受容体(毛細胞)を刺激し、これらの細胞が頭の動いた方向を示す信号を脳へ送ります。
しかし、この耳石が何らかの原因で本来の位置からずれ、入り込んだ三半規管内の1カ所で塊になって浮遊したり、三半規管内のクプラと呼ばれる部位に付着することがあります。この状態で頭を動かすと、過大な信号が送られ、頭が実際以上に動いたとする誤った情報が脳へ伝わります。この誤った情報と目からの情報にずれが生じると、回転性めまいの発作が起こるのです。
良性発作性めまいを起こしやすいのは、交通事故などで頭部外傷を負った人、慢性中耳炎を患う人、過去に結核を患いストレプトマイシンでの治療を受けたことのある人、中耳ないし、あぶみ骨の手術を受けた人とされています。
回転性めまいを起こす姿勢をとらなければ避けられますので、めまい発作の起こる頭の位置を見付け、その頭位を避けるようにして対処します。
良性発作性めまいの検査と診断と治療
良性発作性めまいは、次第に症状が軽くなってくることが多く、それほど深刻な疾患ではありません。通常は2~3週間で治癒しますから、心理面でもそれほど怖くないのですが、中には、まためまい発作が襲ってくるのではないかと不安を募らせ、恐怖心を抱く人もいます。また、この疾患に似た症状で、内耳の障害ではなく脳の疾患の場合もありますので、耳鼻咽喉(いんこう)科の専門医の診断を受けます。
医師による検査では、めまいが起こる頭の位置で眼振(がんしん)が現れ、次第に増強、減弱します。眼振というのは、眼球が不随意に小刻みに揺れ動く状態。ほとんどの場合、聴力検査、温度眼振検査で異常を認めることはありません。まれに、温度眼振検査で患っている側の耳の温度反応が高度に低下したり、反応がなくなったりすることもあります。体全体のバランスが悪くなることはありません。
治療としては、内耳の機能を改善するための抗めまい剤や脳循環改善剤、ビタミン剤、めまいに伴う吐き気を抑える抗ヒスタミン剤などが用いられます。めまい発作ががまた出るのではないかという不安、恐怖心が強い人には、心理的不安を取り除くための抗不安剤などが用いられることもあります。
めまいが少し軽くなってきたら、積極的にめまいが起こりやすい頭の位置をとるといった理学療法によるリハビリテーションをすることも治癒を早めます。その頭位を何度も繰り返しとると、その都度めまいは出現するものの、次第に軽くなって、やがてめまいは消失します。
最近では、エプリー法、パーンズ法、セモン法などといって、頭位と体位を変換する姿勢をとることで、遊離した耳石の塊をほぐして三半規管全体に再度行き渡らせる理学療法が開発され、良好な成績を上げています。エプリー法などにより、およそ9割以上の発症者は薬を使わずに、回転性めまいが治っています。発症者の一部は回転性めまいを再発するため、エプリー法などを自宅で繰り返し行う必要があります。
理学療法が全く効果を発揮しないで、めまいの症状が反復して起こる場合には、手術が行われることもありますが、きわめてまれなケースです。このような場合、手術を検討する以前に、この疾患と同様な症状であっても、内耳障害ではなく脳障害の場合があるので、専門医の診断が必要となります。
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