神経の命令が筋肉に十分伝わらないために起こる疾患
重症筋無力症とは、運動神経の命令が筋肉に十分伝わらなくなるために起こってくる疾患。 筋肉が疲れやすくなり、筋力も低下してくるのを特徴とします。
筋肉を動かす時は、脳から末梢(まっしょう)神経に伝わった指令は、神経と筋肉の接ぎ目に当たる神経筋接合部を通って、筋肉へ伝えられ、初めて収縮運動が起こります。この伝達は、神経の末端からアセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、これを筋肉側に存在するアセチルコリン受容体で受け取ることで、成り立っています。このアセチルコリン受容体が自己抗体によって障害を受けると、神経の命令が筋肉に円滑に伝わらなくなり、重症筋無力症を生じます。
原因は不明です。しかし、約70パーセントの発症者において胸腺(きょうせん)の腫瘍(しゅよう)や肥大などの異常があることから、胸腺を中心とした自己免疫疾患説が有力です。
症状としては、手足の力がうまく入らず、使っているうちに力が弱ってきますが、休むと再び力が出てくるのが特徴です。また、まぶたが次第に下がる眼瞼(がんけん)下垂、物が二重に見える複視が現れ、話しているうちに声が出なくなったりすることもよくみられます。
少し進むと、物をかんでいるうちにうまくかめなくなる咀嚼(そしゃく)障害、物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害が現れます。また、眼瞼下垂や手足の筋力も、一般に朝はよく、午後になると悪くなります。
さらに進むと、顔を動かす顔面筋や嚥下筋、舌筋が侵され、次いで首、肩、上腕の筋肉に脱力が起こり、腰から下肢へと広がります。急に悪化すると呼吸筋までまひして、生命にかかわることもあります。
発症は新生児から老人まで、どの年齢にも起こりますが、女性にやや多い傾向があります。現在、日本全国の発症者数は1万人を超えていると考えられています。
重症筋無力症の検査と診断と治療
発症年齢、重症度、胸腺異常の有無により治療法が選択されますが、薬物療法と、胸腺に対する治療が中心となります。
薬物療法としては、免疫抑制剤と抗コリンエステラーゼ剤を適量与え、日常生活に支障がないように症状を抑えます。胸腺への治療としては、胸腺腫瘍が見付かれば、手術で切除するのが原則です。重症例には、血漿(けっしょう)中の自己抗体を除去する目的で、血漿交換療法が用いられます。
昔は多くの人が重症筋無力症で亡くなっていましたが、治療法の進んだ現在では亡くなる人はごくまれになりました。社会復帰状況をみますと、約50パーセントの発症者は発症前と同じ状況にまで回復しますが、仕事ができなかったり、身の回りのことに介助が必要になるケースも約10パーセントの発症者でみられます。
生活上の注意としては、風邪を引いたり、発熱があると急に悪くなるので、早めに風邪薬や抗生物質を飲んだ上、急いで主治医に相談するか、入院する安全策です。
また、予防注射が誘因となって急に症状が悪くなることもあるので、避けます。妊娠、出産も症状を悪化させるので、避けたほうがよいでしょう。
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