自己抗体ができることによって全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す疾患
抗リン脂質抗体症候群とは、血液中に抗リン脂質抗体という自己抗体ができることによって、全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す自己免疫疾患。APS(Anti-phospholipid antibody syndrome)とも呼ばれます。
血栓症とは、動脈あるいは静脈で、血液の塊である血栓が血管の内腔(ないくう)をふさぐ結果、血液の流れが途絶えるために生じる臓器の障害です。この抗リン脂質抗体症候群の特徴として、血栓症は動脈、静脈ともに見いだされ、再発することがあります。
血栓ができる部位により、動脈では脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞など、静脈では下肢に生じる深部静脈血栓症、肺梗塞などを生じます。また、妊娠可能な年齢の女性では胎盤梗塞も生じます。
通常、脳梗塞などは動脈硬化症に由来し、高齢者にみられます。しかし、抗リン脂質抗体症候群では、動脈硬化症の危険因子が認められない40歳代以下の若年者で、脳梗塞や一過性脳虚血発作などの血栓症がみられます。また、女性では、胎盤に血栓ができ、胎児への血流が不良になる胎盤梗塞が一因となって、妊娠早期(10週以前)の習慣性流産、子宮内胎児死亡、胎児発育遅延、妊娠中毒症などがみられます。
抗リン脂質抗体症候群では、動脈血栓症の中では脳梗塞が約25パーセントを占め、静脈血栓症の中では深部静脈血栓症が約75パーセントと高頻度にみられ、下肢のはれと痛みが繰り返し起こります。
このような全身の血栓症によって、てんかん、片頭痛、知能障害、意識障害、皮膚の壊死(えし)、手足のまひ、視力低下、失明などさまざまな症状が起きることがあります。
血液検査上で血小板が減少するというような所見も来します。しかし、血小板減少に関しては軽度であることが多く、皮膚に紫斑(しはん)ができたり、脳出血や、消化管出血による吐血や下血は少ないとされています。
抗リン脂質抗体症候群の原因は、いまだ不明です。
若くて特に動脈硬化がないと思われるのに脳梗塞などの血栓症を起こした人や、流産を繰り返す習慣性流産の女性は、この疾患である可能性があります。リウマチ内科、血液内科の専門医、妊娠可能な年齢の女性の場合は産婦人科の受診が勧められます。
抗リン脂質抗体症候群の検査と診断と治療
リウマチ内科、血液内科、産婦人科の医師による診断では、動脈あるいは静脈の血栓症、習慣流産など産科的疾患のいずれかが認められ、血液検査所見として、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど)が6週間以上の間隔で2回以上陽性になることで、抗リン脂質抗体症候群と確定されます。
そのほかの血液検査所見として、血小板減少、活性化部分トロンボプラスチン時間(PTT)とプロトロンビン時間(PT)の延長などの凝固能異常などがみられます。
医師による治療では、急性期の動静脈血栓症の症状に対して、通常の血栓症の治療に準じて、ウロキナーゼやヘパリンを使った抗凝固療法が行われます。慢性期には、血栓症の再発を防ぐ二次予防として、アスピリン内服などの抗血小板療法、あるいはワーファリン内服による抗凝固療法が行われます。
習慣性流産、子宮内胎児死亡の予防としては、アスピリン内服とヘパリン製剤の皮下注射による抗凝固療法が行われます。
抗リン脂質抗体が陽性の場合でも、血栓症の既往や症状がない場合には積極的な治療の必要性はなく、通常経過観察のみを行います。高齢者や血栓症のリスクが高いと思われる患者には、少量アスピリンを予防的に投与することもあります。
血小板減少があり出血症状が認められるような患者に対しては、副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬や免疫抑制剤が使用されますが、出血症状がなければ通常は経過観察のみを行います。
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