2022/08/02

🇫🇲コレラ

コレラ菌によって引き起こされ、下痢を生じる急性の感染症

コレラとは、コレラ菌によって引き起こされ、下痢を生じる急性の感染症。世界中に広く分布する細菌感染症です。

コレラ菌の性質は、1960年ころまで流行したものと、現在流行しているものとでは多少異なっています。かつてのコレラ菌はアジア型(古典型)コレラと呼ばれ、大流行を幾度となく繰り返し、その病原性の強さによって何百万人もが犠牲になりました。

現在のコレラは、主にエルトール型コレラと呼ばれるもので、1961年ころからアジア地域で発生し、感染力が強いためアジア型コレラに替わって瞬く間に世界中に広がりました。この流行が現在も世界中に広がっていて、終息する気配がありません。

世界保健機関(WHO)に報告されている世界の患者総数は、ここ数年20〜30万人ですが、実数はこれを上回っていると推測されています。幸いなことにアジア型コレラに比べて病原性が弱く、死亡率は2パーセント程度といわれています。

日本では、205種類に分類されているコレラ菌のうち、O1血清型とO139血清型を原因とするものを行政的にコレラとして扱います。O1血清型コレラ菌は、生物学的な特徴によってアジア型コレラと、エルトール型コレラに分けられています。一方、O139血清型コレラ菌によるコレラは、新興感染症の1つで、1992年インド南部で発生し、瞬く間にインド亜大陸に広がり、現在もインドおよびバングラデシュにおいてO1血清型エルトールコレラ菌と交互に、あるいは同時に流行を繰り返しています。

日本におけるコレラは、最近はほとんどが輸入感染症として発見されています。すなわち、熱帯、亜熱帯のコレラ流行地域への旅行者の現地での感染例で、国内での感染例もありますが、輸入魚介類などの汚染が原因と推定されていて、二次感染例と思われる例はほとんどありません。

このコレラは、コレラ菌のうちコレラ毒素産生性の菌に汚染された水、氷、食品などを摂取することにより感染します。経口摂取後、胃の酸性環境で死滅しなかった菌が小腸下部に達して定着、増殖し、感染局所で菌が産生したコレラ毒素が細胞内に侵入して症状を引き起こします。

数時間~5日、通常は1〜3日の潜伏期間の後、下痢や嘔吐(おうと)などが起こります。アジア型コレラでは米のとぎ汁のような水様便が大量に出ますが、エルトール型コレラの場合、症状は比較的軽く、軟便程度から水様便まで幅広い下痢が主です。腹痛や発熱を伴うことはほとんどありません。

アジア型コレラでは、下痢が激しく、大量の下痢便の排出に伴って高度の脱水状態となり、収縮期血圧の下降、皮膚の乾燥と弾力の消失、意識消失、乏尿または無尿などの症状が現れます。

コレラの検査と診断と治療

海外旅行中や旅行後に下痢や嘔吐の症状が現れたら、コレラの可能性があります。検疫所あるいは培養検査のできる医療機関を受診し、便の細菌検査を受けることが必要です。

日本では、O1血清型とO139血清型を原因とするコレラは感染症法で2類感染症に指定されており、発症者は原則として2類感染症指定医療機関に入院となりますが、無症状者は入院の対象とはならず外来治療も可能です。 

医師による診断では、便の細菌培養を行い、コレラ毒素を産生するコレラ菌が検出されれば確定します。食中毒や、他の細菌による感染性腸炎との区別も、培養結果によります。迅速検査として、コレラ菌の毒素遺伝子を検出する方法も開発されています。コレラもしくは病原体保有者であると診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

治療は、大量に喪失した水分と電解質の補給が中心で、輸液の経口投与や静脈内点滴注入を行います。世界保健機関(WHO)では、食塩とブドウ糖を1リットルの水に溶かした経口輸液(ORS:Oral Rehydration Solution)の投与を推奨しています。経口輸液の投与は特に開発途上国の現場では、滅菌不要、大量に運搬可能、安価などの利点が多く、しかも治療効果もよく極めて有効な治療法となっています。

重症の場合には、抗生物質を投与して、コレラ菌の排出を促し、下痢の期間の短縮を図ります。第一選択薬となるのは、ニューキノロン系薬剤であるテトラサイクリンやドキシサイクリン。これらの薬剤にコレラ菌が耐性の場合には、エリスロマイシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤やノルフロキサシンなどが投与されます。

予防としては、コレラが流行している海外の旅行先で、生水、氷、生の魚介類、不衛生な食品を喫食しないことが肝要です。ジュースの中の氷や、氷の上に飾られていたカットフルーツで感染したり、プールの水を誤って飲んで感染した例も報告されています。

海外旅行をする時、国によりコレラの予防接種を義務付けられているものの、接種をしても絶対に安全というものではありません。無理な旅行日程などを避け、体調を崩すことがないよう心掛けることも大切です。

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