乳幼児期、特に2〜6歳に起こりやすい肘の亜脱臼
肘内障(ちゅうないしょう)とは、乳幼児期に起こりやすい肘(ひじ)の亜脱臼(あだっきゅう)。橈骨頭(とうこつとう)亜脱臼とも呼ばれます。
7歳ぐらいまでの子供の肘の関節は、構成する橈骨という骨の関節端の形状が不完全な形をしており、橈骨を支えている橈骨輪状靱帯 (じんたい)から逸脱しやすくなっています。
そのため、誰(だれ)かに不意に手や腕を引っ張られたり、腕をひねられたりすると、簡単に肘が亜脱臼を起こしてしまいます。また、自ら転倒して手を突いた際に、亜脱臼することもあります。場合によっては、寝返りの動作で腕がねじれた際に、亜脱臼することもあります。
肘の外側には2つの小さな骨の出っ張りがあり、この2つの出っ張りは肘を伸ばした状態で直列しており、間に関節の透き間のへこみがあります。上腕側の出っ張りは、上腕骨の外顆(がいか)という骨の出っ張りです。前腕側の出っ張りが、前腕の骨のうちの1本である橈骨の骨頭になります。
また、肘の関節全体は、関節包という靱帯状の線維で覆われており、さらにその上に内側側副(ないそくそくふく)靱帯、外側側副(がいそくそくふく)靱帯、そして橈骨輪状靱帯などが補強しています。
一般的に完全脱臼は、関節包を突き破り関節包の外へ骨の関節端が逸脱しますが、肘内障では関節包を損傷することなく、その上を補強する橈骨輪状靱帯の支えから、橈骨の関節端が関節包内で少しずれた不完全な脱臼状態、すなわち亜脱臼(不全脱臼)となります。従って、脱臼の中では比較的損傷程度の少ない軽度のものといえます。
肘内障は乳児、幼児、小児にみられ、特に2〜6歳に多く起こり、男女の性差、左右差はありません。
一度、肘内障を起こすと癖になりやすいものの、小学生ぐらいになると橈骨の形状が成人の形に近くなり、橈骨頭が大きくなって関節の透き間のへこみができ上がるので、亜脱臼しにくくなります。
肘内障を起こした腕は、急に肘が抜けたようになって、肘が伸びた状態で下垂し、曲げられなくなります。手のひらは、後ろに向いています。肘を軽く上に曲げようとすると痛みが強くなり、子供は泣き出したり顔をしかめたりします。外見上、関節のはれや変形、熱感、発赤はみられません。
痛みは、肘の外側の橈骨頭を中心に起こり、時には手首や肩などに放散痛を起こすこともあります。このため、肩や手首が外れたなどと見なされることもあります。
肩の脱臼と間違えやすいですが、子供の肩を触っても痛がらなければ肘内障と見なして、すぐに整形外科、小児科を受診することが勧められます。
肘内障の検査と診断と治療
整形外科、小児科の医師による診断では、受傷時の状況と、肘をやや曲げた状態で下げたままにして、痛がって動かそうとしないことから、肘内障を疑います。子供は痛みのために恐怖心を持っているので、痛がらない部分から触れ始め、肘の外側の橈骨頭が痛い部分なのかどうかを調べます。
X線(レントゲン)検査を行っても写真上では変化を認めませんが、骨折や脱臼との鑑別のために行って、骨や関節に異常がないことを確認することもあります。
整形外科、小児科の医師による治療では、骨折や脱臼の可能性がなく肘内障が疑われた時は、徒手整復を行います。
徒手整復の操作は簡単で、子供の肘を真っすぐに伸ばし、片方の手で肘を押さえ、もう一方の手で手のひらを握ります。最初、手のひらは下に向けます。肘を固定したままで、ゆっくり肘を曲げながら、手のひらを上に返します。橈骨頭が橈骨輪状靱帯の支えに戻ると、弾発音(コキッ、コツン、カクンなどの小さな音)を伴って整復され、その瞬間から痛みが消え、肘を曲げて腕を動かせるようになります。
ただし、整復されてから4~5日の間は最も亜脱臼を繰り返しやすいので、手を引っ張るなどの外力を加えないように注意することが必要です。また、習慣性の場合は、4~5日間の包帯もしくはサポーター固定をするのも効果があります。
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