ダニ類のツツガムシの幼虫に刺され、引き起こされる感染症
ツツガムシ病とは、細菌のリケッチアを保有するダニ類のツツガムシの幼虫に刺されることによって、引き起こされる感染症。症状は、リケッチアを保有するマダニに刺されることによって感染する日本紅斑(こうはん)熱と酷似しています。
日本海側の河川領域にいるネズミに寄生するアカツツガムシの幼虫、日本海側の山林にいるネズミに寄生するフトゲツツガムシの幼虫、太平洋側の山林にいるネズミに寄生するタテツツガムシの幼虫に刺されることによって、ツツガムシ病は引き起こされます。
かつては秋田県、山形県、新潟県などで夏季に河川敷でアカツツガムシの幼虫に刺されて感染する風土病(古典型ツツガ虫病)でしたが、戦後はフトゲツツガムシ、タテツツガムシの幼虫に刺されて感染する新型ツツガ虫病の出現により、北海道、沖縄県など一部の地域を除いて、全国で発症がみられるようになりました。
感染しやすい時期は、フトゲツツガムシの活動する春から初夏と、タテツツガムシおよびフトゲツツガムシの活動する秋から初冬の2つの時期で、近年は毎年500人程度の報告があります。1950年に伝染病予防法によるツツガムシ病の届け出が始まり、1999年4月からは感染症法により4類感染症全数把握疾患として届け出が継続されています。
ツツガムシの生息場所は、草むら、やぶ、林の土の中。ツツガムシの幼虫は成長過程で一度地表に出て、アカネズミ、ハタネズミといった野ネズミなどの動物に吸着して組織液を吸います。その後は、土壌中で昆虫の卵などを摂食して生活します。
人間は、リケッチアを保有するツツガムシの幼虫に刺され、吸着されると、皮膚から感染します。潜伏期間は、5~14日で、人から人への感染はありません。
よく刺される部位は、頭髪部、わきの下、腰など。刺し口は、刺されてから2~3日で赤くはれ、4~5日で水疱(すいほう)、その後潰瘍(かいよう)となり、10日目ごろには周囲が赤い陥没した黒いかさぶたとなります。
刺されてから10日目前後から、全身の倦怠(けんたい)感、手足の痛み、頭痛を伴う発熱が起こります。高熱は1~2週間続き、発疹(はっしん)は2~5日間に現れます。径5mm前後、紅斑性、丘疹性で全身に出現しますが、胸、腹部、背部に多くみられます。7日程度で、発疹は消退に向かいます。
刺し口近くのリンパ節のはれは、ほとんどでみられ圧痛を伴います。全身のリンパ節のはれも、約半数にみられます。肝臓が大きくなる肝腫大と脾(ひ)臓が大きくなる脾腫大は通常、軽度です。
重症例では、播種(はしゅ)性血管内血液凝固症候群(DIC)による出血傾向、髄膜刺激症状、昏睡(こんすい)やけいれんなどの中枢神経症状、肝障害による黄疸(おうだん)、末梢(まっしょう)血管抵抗の弱まりや心筋障害による血圧低下、間質性肺炎や胸膜炎などを合併します。
重症例で治療が遅れると、多臓器不全で死亡することもあります。
発熱、刺し口、発疹があって、感染する可能性のある場所への立ち入り、発症した時期からツツガムシ病の可能性を疑ったら、直ちに治療を受けるべきです。発症後7日以後になると重症化の傾向が高いので、早期診断、早期治療が重要となるからです。
ツツガムシ病の検査と診断と治療
内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇がほとんどの例にみられます。
確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によってリケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。検査所見は日本紅斑熱のものと類似するため、鑑別が必要となります。
内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、テトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を第一選択として、点滴静脈内注射か内服で使用します。そのほか、クロラムフェニコールも使用されます。通常1~2日で速やかに解熱し、症状も軽快します。ただし、薬剤の投与は7~10日継続します。
細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。
ツツガムシ病の予防ワクチンはないため、ダニ類のツツガムシの幼虫に刺されないことが、唯一の感染予防法です。
そのポイントは、レジャーや作業などで、草むらややぶなどツツガムシの幼虫が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。山野などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。
ツツガムシの幼虫に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処理してもらうことです。
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