円滑な尿排出が障害され、排尿開始まで時間がかかったり、排尿終了に時間がかかったりする状態
排尿困難とは、円滑な尿の排出が障害され、尿が出にくい状態。尿意があるのにトイレにいってもなかなか尿が出ず、排尿開始まで時間がかかり、あるいは尿の出が悪くて排尿終了まで時間がかかるといった状態です。
力まないと尿が出なかったり、排尿が終わるのに50秒以上かかったり、排尿が途中で止まったり、排尿しても膀胱(ぼうこう)が完全に空にならず、尿がいつも残っている残尿感を覚えることもあります。
この排尿困難は、前立腺(せん)肥大症、尿道狭窄(きょうさく)、神経因性膀胱、前立腺炎、前立腺がん、膀胱結石、尿道結石、加齢による膀胱の収縮性機能の低下、膀胱平滑筋の筋肉量の減少、疾患やけがなどによる脳や脊髄(せきずい)神経の損傷、糖尿病性の神経障害、自律神経の機能低下、排尿括約筋協調不全、薬剤の副作用など、さまざまな原因で起こります。
高齢の男性では、前立腺肥大症や、膀胱を支配している神経に異常がある神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。何らかの原因で尿道が狭くなっている尿道狭窄、あるいは膀胱や尿道に結石が存在することでも、排尿困難が起こります。
高齢の女性では、過去に子宮がん、直腸がんなどでの骨盤内の手術などを受け、膀胱を支配する神経が損傷されたために起こる神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。膀胱が弛緩(しかん)し、排尿筋の収縮が不十分になるため尿の排出が悪くなり、排尿後でも膀胱内に残尿が多く、しばしば膀胱炎を繰り返す状態になります。まれに、子宮筋腫(きんしゅ)による膀胱の出口の圧迫、尿道狭窄、膀胱結石が原因になって、排尿困難が起こることもあります。
とりわけ男性の場合は、中年以降に前立腺肥大症や前立腺がんが原因となって、排尿困難を起こしていることが多いので注意が必要です。前立腺は精液の一部を作る器官のことですが、この前立腺は年齢により少しずつ肥大していきます。30歳代から肥大が始まり、40歳代で4割、50歳代で5割、60歳代で6割、70歳代で10割の割合で増えるといわれています。
前立腺が肥大することで膀胱を圧迫し、排尿困難などの障害を引き起こし、尿を出すまでに時間がかかる、排尿に時間がかかる、尿の勢いが悪い、尿が途切れる、残尿感がある、何回もトイレにゆくなどの症状が現れます。
排尿困難が進行すると、尿閉といって、膀胱に尿がたまっているにもかかわらず一滴も尿が出なくなる場合もあります。激しい尿意とともに膀胱が張ってくると、非常な苦しみが生じます。前立腺肥大症を持つ人は、飲酒中に突然尿閉になることもあります。
尿閉になると、膀胱にたまった尿の中で細菌が増殖して膀胱炎になったり、腎臓(じんぞう)に尿がたまって水腎症や腎不全を合併する恐れがあります。
薬剤の服用で排尿困難を引き起こす場合もありますので、特に前立腺肥大症のある人は服用には注意が必要です。排尿困難を引き起こす薬剤には、総合感冒薬、抗ヒスタミン剤、鎮痙(ちんけい)剤、精神安定剤、抗不整脈剤などがあります。
尿が多少出にくい程度であれば、水分を多めに取るよう心掛ければ症状は改善しますが、疲れやすくなった、むくみがある、血尿が出るなどの症状がある時は、早めに泌尿器科の医師の診察を受けて下さい。
排尿困難の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、問診、直腸診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、排尿困難の原因を探ります。
泌尿器科の医師による治療は、排尿困難の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。
前立腺肥大症が排尿困難の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法が行われます。
前立腺肥大症の薬物療法は、近年では薬の開発もかなり進んでおり、効果があることが確認されています。治療に使用される薬には、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン剤)、生薬・漢方薬の3種類があります。
α1受容遮断薬は、交感神経の指令を届けにくくし、筋肉の収縮を抑えて尿道を開き排尿をしやすくする薬で、ミニプレスが代表です。副作用としては、起立性低血圧、めまい、下痢、脱力感、鼻詰まりなどの症状が伴います。
抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの働きを抑制する薬で、プロスタール、パーセリンなどが一般的です。その効果は服用してから3カ月程かかり、前立腺を20~30パーセントぐらい縮小させることができます。副作用としては、性欲が減退することがあります。
生薬・漢方薬は、植物の有効成分のエキスを抽出したもので、むくみを取ったり、抗炎症作用などの効果があります。副作用はほとんどありませんが、まれに食欲不振、胃腸障害が伴う場合があります。
前立腺肥大症の手術療法には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、レーザー治療、温熱療法などがあります。
経尿道的前立腺切除術は、先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。手術で前立腺の傷口を洗い流す灌流(かんりゅう)液が体内に入って、電解質のバランスを崩し、吐き気や血圧の低下などを起こすTURP反応と呼ばれる副作用が起こることがあります。
レーザー治療は、尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして、肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。組織を焼いてしまうため、がんの有無を調べられません。また、組織が壊死し脱落が起こるまで、症状の改善はみられません。
温熱療法は、尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF波やマイクロ波を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。根治的な治療ではないため、半年から1年で症状はもとに戻ってしまいます。
神経因性膀胱が排尿困難の原因の場合は、基礎疾患に対する治療が可能ならばまずそれを行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。
薬物療法は、膀胱の収縮力を高める目的で、副交感神経刺激用薬のウブレチド、ベサコリンのいずれかまたは両方を処方します。尿道括約部を緩める目的で、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)のエブランチルを処方することもあります。
排尿誘発は、手や腹圧による膀胱訓練で、恥骨上部を押したり、下腹部の最も適当な部位をたたいたりすると膀胱の収縮反射を誘発できることがあります。
自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。
このような治療だけでは不十分な場合、神経ブロックや手術などの方法もあります。
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