全身の筋肉が骨に変わっていく難病
進行性骨化性線維異形成症とは、全身の筋肉が骨に変わっていく難病。FOP(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva)とも呼ばれます。
骨系統疾患に分類される全身の骨や軟骨の疾患の1つで、子供のころから、全身の筋肉やその周囲の膜、腱(けん)、靭帯(じんたい)などの線維性組織が徐々に硬くなって、骨に変わります。このため手足の関節の動く範囲が狭くなったり、背中が変形したりします。生まれ付き足の親指が短くて、曲がっていることが多いという特徴があります。
外国では、人口200万人に対して1人の発症者がいるとされています。日本における発症者の数は不明ながら、60人以上いると推定されており、国指定の難病として認定されています。
特定の国や地域に多いという傾向はなく、世界中でほぼ一定の割合の発症者がいると考えられています。また、発症しやすい特別な体質などはないと考えられています。
ACVR1(別名ALK2)と呼ばれる遺伝子の一部が正常と異なることが、進行性骨化性線維異形成症の原因です。ALK2はBMPと呼ばれる骨形成因子の信号を細胞内に伝達する受容体であり、ACVR1遺伝子の変化がどのようにして疾患を引き起こすかについては研究が進んできています。
常染色体優性遺伝という形で遺伝することがわかっていますが、健常な両親のどちらかの配偶子に起きた突然変異による発症者が多く、家族の中で複数の発症者がいることは実際にはまれです。
主な症状は、筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが硬くなって骨に変わる異所性骨化で、多くは乳児期から学童期にかけて初めて起きます。まず皮膚の下がはれたり硬くなったりして、時に熱を持ったり痛みを伴うことがあります。この症状をフレア・アップと呼びます。
フレア・アップを繰り返しながら異所性骨化を生じ、手足の関節の動きが悪くなったり、背中が変形したりしますが、フレア・アップが起きても必ず異所性骨化につながるとは限りません。けがや手術などが切っ掛けとなって、フレア・アップが起きることもあります。
異所性骨化は、背中や首、肩、足の付け根から始まり、徐々に手足の先の方に向かって広がる傾向があります。手の指の動きまで悪くなることは少ないようです。呼吸に関係する筋肉や口を動かす筋肉の動きも悪くなり、呼吸の障害が起きたり、口が開けにくくなったりすることもあります。心臓を含む内臓の筋肉には、異所性骨化を生じないとされています。
異所性骨化以外に、足の親指が短く曲がっている、手の親指が短い、手の小指が曲がっている、耳が聞こえにくい、髪の毛が薄くなるなどの症状を示すことがあります。X線(レントゲン)を撮ると、膝(ひざ)などに異所性骨化とは異なる骨の出っ張りがあることもあります。
また、最近では、進行性骨化性線維異形成症に症状が似ているものの、異所性骨化の程度が軽い、足の親指の変形が軽いなど、同じACVR1遺伝子に変化があるにもかかわらず、症状の異なる線維性骨異形成と呼ばれる疾患の発症者がいることがわかってきています。
病名にあるように、徐々に異所性骨化が進行していきます。足の関節が硬くなることにより、歩きにくくなり、杖(つえ)や車いすが必要になることがあります。腕の関節が硬くなることにより、食事や洗顔など手を使った身の回りの動作がやりにくくなったりもします。呼吸の障害や、口を開きにくいことによる栄養の障害が、寿命にかかわるとされています。
発症者は30歳までに体を動かすことができなくなり、40歳以上命を長らえさせることはまれです。しかし、栄養の管理などの医療技術の進歩もあり、50〜70歳代で生存している人も確認されています。
進行性骨化性線維異形成症の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、線維性組織内に発生した骨性組織を確認します。
なお、病巣部分の組織を採取すると、結果として異所性骨化を進行させる原因となることがありますが、線維性組織内には骨の成分であるカルシウムなどミネラル成分が多く沈着し、たまったミネラル成分の内部には、実際の骨と同じような繊維状のコラーゲン組織ができていることが確かめられます。
整形外科の医師による治療では、フレア・アップを生じた際に異所性骨化への進行を防ぐために、ステロイド、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ビスフォスフォネートなどさまざまな薬が試みられていますが、明らかに有効であると確認されたものはありません。
一度症状が現れてから異所性骨化を抑える完全な予防治療法は、現時点では存在しません。原因となる遺伝子の変化はわかってきましたが、遺伝子治療も行われていません。
フレア・アップを予防するためには、けがを避ける必要があります。特に転倒、転落は、フレア・アップだけでなく、受身の姿勢を取れずに頭などをけがしてしまうこともあるので、特に注意が必要です。
骨組織を増殖させる原因となり得る筋肉内注射は避けるべきですが、皮下注射や静脈注射には問題がないといわれています。従って、皮下注射の予防接種は十分に注意すれば問題なく行うことができます。インフルエンザなどのウイルス感染を切っ掛けに、フレア・アップを起こすことがあるといわれています。
口が開きにくいために歯磨きがおろそかになり虫歯ができると、治療がとても厄介です。適切な歯の管理の指導を受けて励行することも、大事です。
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