皮膚の浅い部分にある静脈が血液の固まりで栓をしたように詰まる状態
血栓性静脈炎とは、皮膚の浅い部分にある表在静脈(皮〔ひ〕静脈)に炎症と血栓が生じる疾患。表在性血栓性静脈炎とも呼ばれます。
全身の静脈は、表在静脈と深部静脈に分類されます。この血栓性静脈炎が表在静脈に血の固まりである血栓が生じる疾患であるのに対して、深部静脈に血栓が生じる疾患は深部静脈血栓症と呼ばれるほか、ロングフライト血栓症、旅行者血栓症、エコノミークラス症候群、静脈血栓塞栓(そくせん)症とも呼ばれ、飛行機内などで長時間、同じ座席で同じ姿勢を取り続けることにより血栓が生ずる疾患として知られています。
同じように静脈に血栓ができても、表在静脈に起こる血栓性静脈炎と深部静脈に起こる深部静脈血栓症とでは、症状の出方は全く違います。血栓性静脈炎は軽くてすむのに対して、深部静脈血栓症は重症化しやすくなります。
血栓性静脈炎は脚の表在静脈に最も多く発生しますが、鼠径(そけい)部や腕の表在静脈にみられることもあります。腕の血栓静脈炎は自然に起きる場合もありますが、最も起こりやすいのは、繰り返し静脈注射を行った場合です。注射針や薬の刺激で静脈の壁に損傷や変化が起き、この部分の血液が固まって血栓を作ります。
心臓や血管の病気の治療を目的に、血管中に挿入するカテーテルという細長い管を静脈内に長期間入れたままでいることでも、血栓性静脈炎は起こります。
そのほか、ベーチェット病、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)、血小板増多症、悪性腫瘍、膠原(こうげん)病で、血栓性静脈炎を伴うことがあります。とりわけ、手足のあちらこちらに細長いしこりのようなものが次々に現れて消えていくものは、遊走性静脈炎あるいは遊走性血栓静脈炎といい、バージャー病や内臓の悪性腫瘍の可能性があります。また、静脈瘤(りゅう)に血栓性静脈炎を合併する場合もあります。
血栓性静脈炎では急性の炎症反応が起こり、局所的な痛みとはれが急速に現れ、炎症を起こしている静脈の周囲の皮膚が赤く熱っぽくなり、触れると痛みます。中の血液が凝固するため、この状態の静脈は正常な静脈や静脈瘤のように軟らかくはなく、皮膚の下に硬いしこりがあるように感じられます。このような静脈は、全長にわたって硬い感触がすることもあります。
時には、発熱や悪寒などの全身症状もみられます。
血栓性静脈炎の検査と診断と治療
内科、循環器科などの医師による診断では、 急性期の血栓性静脈炎に対しては、下肢のはれ、色調、皮膚温、表在静脈の拡張など、視診や触診で診断が可能です。また、下肢の血栓の最も有効な検査法は、超音波ドプラー法であり、現在最も頻用されています。時には静脈造影を用いて、血栓の局在や圧の上昇を測定することもあります。
慢性期の血栓性静脈炎に対しては、皮膚や皮下組織が厚くなるリンパ浮腫との区別が難しく、リンパ管造影や静脈造影が必要になる場合もあります。
遊走性静脈炎の場合の基礎疾患には、難病といわれるベーチェット病やバージャー病、悪性腫瘍などが含まれますので、静脈炎を繰り返す時は精査が必要です。
内科、循環器科などの医師による治療では、血液疾患や悪性疾患などの合併症がある場合は基礎疾患の治療が優先されます。それ以外の急性期の血栓性静脈炎は、局所の安静と湿布、弾性包帯などを用い、痛みがある場合には、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。
薬剤の静脈注射やカテーテルの使用による静脈損傷が判明した場合は、速やかに薬剤の中止や変更、カテーテルの抜去を行った後、局所の治療を行います。
静脈瘤が原因の場合は、局所の対症療法を行って症状が軽快した後、原因である静脈瘤を治療します。静脈瘤に生じた血栓性静脈炎は他の原因に比べて血栓量が多いため、炎症が強い際は静脈を小切開して血栓を絞り出すことで、早期に症状を改善することができます。また、弾性ストッキングによる圧迫も有効です。
薬剤やカテーテル、静脈瘤などの原因を取り除くことができれば、局所的な痛みやはれは速やかに消退することがほとんどです。しこりや色素沈着は、数週間残る場合もあります。
難治性のものには、抗凝固剤や血栓溶解剤を使って血栓の治療と予防を行い、対症療法として炎症鎮痛剤などを使います。症状がひどい場合は、外科的手術による血栓の除去、静脈の切除、バイパス形成を行います。
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