腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸が拡張する先天性疾患
先天性巨大結腸症とは、腸管が細くなって慢性の便秘になり、大腸が拡張する先天性疾患。ヒルシュスプルング病とも呼ばれます。
大腸や小腸など消化管の壁の中には、神経節細胞があります。その細胞の刺激により、蠕動(ぜんどう)運動と呼ばれる消化管環状筋(輪状筋)の伸び縮みが起こり、口から摂取した食物は腸管を経由して消化され、便となって肛門(こうもん)から排出されます。
先天性巨大結腸症は、この神経節細胞が先天的に欠損しているため腸管が細くなり、蠕動運動が起こらないために慢性の便秘となり、大腸の大部分を占める結腸が拡張します。
消化管の蠕動運動には、食べ物を後戻りさせない機能があり、周期的に環状の伸び縮みを次々と下部に伝え、食物塊を肛門側へ移動させる役割を果たしています。この蠕動運動は自律神経の働きによって行われているので、人間が意識的に調整したり、活発にさせることはできません。
先天性巨大結腸症は1886年に、デンマークの内科医ハラルド・ヒルシュスプルングによって初めて報告されました。
日本では出生5000人に1人の頻度でみられ、男児が女児の3倍多いとされています。原因については、いくつかの遺伝子情報の異常が深くかかわっていることが明らかにされつつありますが、十分には解明されてはいません。
生まれてすぐの新生児では、胎便の排出が遅れることが最初の症状です。排便、排ガス(おなら)ができず、腹部は風船のように膨満してきます。ほ乳力が低下し、濃緑色の胆汁の色に染まったものを嘔吐(おうと)したり、症状が進むと体重増加不良や栄養不良が現れてくることもあります。
また、嘔吐で塩分が失われるため、体内の塩分(電解質)バランスも崩れます。嘔吐物を肺に吸い込んでしまうと、重い肺炎になります。重い腸炎や腸に壊死(えし)や穿孔(せんこう)が起こって、危険な状態になることもあります。腹部が張るために呼吸がうまくできなくなり、死に至ることもあります。
約9割は生まれてすぐに先天性巨大結腸症の症状が出てきますが、少数は1歳以降に症状が出てくることがあります。乳幼児では、慢性的な便秘などの排便障害がみられます。
症状の程度は、神経節細胞のない腸管の長さでおおよそ決まります。全体の約80パーセントは、直腸から比較的近いS状結腸までの部分に神経節細胞の欠損がみられます。12パーセントは直腸からS状結腸を越えて結腸までの部分に、5パーセントは全結腸と小腸の一部までの部分に、3・5パーセントは小腸の口側までの部分に神経節細胞の欠損がみられます。
新生児や乳幼児に頑固な便秘が続く場合は、小児科、ないし消化器科を受診することが勧められます。
先天性巨大結腸症の検査と診断と治療
小児科、消化器科の医師による診断では、新生児では胎便が排出された時期、乳幼児では排ガスが出ているか、何をどのくらい食べているか、便の性状と排便の頻度などを確認します。その後、腹部膨満の有無を確認し、肛門から指を入れる直腸指診でガスの噴出や便の有無を確認します。
腹部X線検査を行い、拡張した腸管ガス像が腹部全体に認められ、小骨盤内の腸管ガス像が欠如していれば、先天性巨大結腸症を疑います。
精密検査としては、肛門から腸の中に軟らかい造影剤を注入してX線撮影をする注腸造影検査を行い、大腸の肛門側の狭窄(きょうさく)と大腸の口側の拡張を確認し、肛門側と口側の口径差を確認します。
さらに、通常鎮静剤を用いて眠った状態で、直腸で風船(バルーン)を膨らませる肛門内圧検査を行い、直腸肛門反射と呼ばれる直腸が拡張した際に認められる肛門管圧の下降の欠如を確認します。また、直腸の粘膜を一部採って、特殊な染色を行った上で顕微鏡で調べる生検を行い、腸管壁内の神経節細胞の欠損に伴う外来神経の増加を組織学的に確認することもあります。
先天性巨大結腸症と区別する疾患には、生まれながらに肛門や腸が閉鎖している鎖肛や先天性腸管閉鎖症、上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)症などがあります。
小児科、消化器科の医師による治療では、腸管壁内の神経節細胞が欠損した領域が非常に狭い場合は、浣腸(かんちょう)などでコントロールできることもあります。
ほとんどの場合は、腸管壁内の神経節細胞が欠損した領域を切除し、端々をつなぎ合わせる手術が必要です。手術は、小児外科という特殊な診療科で行います。
神経節細胞が欠損した領域の広さにより、根治手術を行う場合や、人工肛門を造設する場合もあります。根治手術には複数の方法がありますが、その基本は正常な腸管を肛門部に下ろして肛門から排便ができるようにすることです。近年は、腹腔鏡(ふくくうきょう)補助下手術や、開腹しない経肛門手術が導入されています。
また、根治手術はある程度の発育を待って行うため、それまでの間は、点滴栄養、肛門拡張、浣腸などで状態を保つことになります。生後3カ月以降、体重が5〜6キログラム以上で根治手術を行うのが一般的ですが、最近では早めに生後1カ月以降、体重4キログラム以上で行う傾向にあります。
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