結核菌以外の抗酸菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる疾患
非結核性抗酸菌症とは、結核菌と、らい菌以外の抗酸菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる呼吸器感染症。非定型抗酸菌症とも呼ばれます。
抗酸菌とは、結核の原因である結核菌の仲間を指し、水中や土壌など自然環境に広く存在して、酸に対して強い抵抗力を示す菌です。結核菌よりもかなり病原性が低く、健康な人では気道を介して侵入しても通常は速やかに排除されて、ほとんど発症しません。
結核と症状が似ているために間違えられることもありますが、結核と非結核性抗酸菌症の大きな違いは、人から人へ感染しないこと、疾患の進行が緩やかであること、抗結核剤があまり有効でないことなどがあります。
非結核性抗酸菌症の原因は通常、非結核性抗酸菌(マイコバクテリウム)と呼ばれる抗酸菌で、約150種類が知られており、人に病原性があるとされているものだけでも10種類以上あります。日本で最も多いのはマイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ(MAC菌)で、約80パーセントを占めます。次いでマイコバクテリウム・カンサシイが約10パーセントを占め、その他が約10パーセントを占めています。
リンパ節、皮膚、骨、関節など全身どこにでも病変を作る可能性はありますが、結核と同様、最も病変ができやすいのは肺です。発症様式には2通りあり、1つは体の弱った人あるいは肺に古い病変のある人に発症する場合、もう1つは健康と思われていた人に発症する場合です。感染系路として、非結核性抗酸菌の吸入による呼吸器系からの感染と、非結核性抗酸菌を含む水や食物を介する消化器系からの感染があると見なされています。
自覚症状が全くなく、胸部検診や結核の経過観察中などに偶然、見付かる場合があります。症状として最も多いのは咳(せき)で、次いで、痰(たん)、血痰、喀血(かっけつ)、全身倦怠(けんたい)感など。進行した場合は、発熱、呼吸困難、食欲不振、やせなどが現れます。一般的に症状の進行は緩やかで、ゆっくりと、しかし確実に進行します。
結核の減少とは逆に、非結核性抗酸菌症の発症者は増えてきており、確実に有効な薬がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。特に、気管支を中心に病変を作る肺MAC症が中年以降の女性に増えていますが、近年は若年者にも見付かっています。
症状に気付いたら、呼吸器科の医師、あるいは内科、呼吸器内科、感染症内科の医師を受診するのがよいでしょう。
非結核性抗酸菌症の検査と診断と治療
医師の診断の糸口は、胸部X線やCTなどの画像診断です。最も頻度の高い肺MAC症は、特徴的な画像所見を示します。異常陰影があり、喀痰(かくたん)などの検体から非結核性抗酸菌を見付けることにより、診断が確定されます。
ただし、非結核性抗酸菌は水中や土壌など自然環境に広く存在しており、たまたま喀痰から排出されることもあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要です。
2008年に肺MAC症の診断基準が緩やかになり、特徴的画像所見、他の呼吸器疾患の否定、2回以上の菌陽性で診断できることになっています。菌の同定は、PCR法やDDH法などの遺伝子診断法により簡単、迅速に行われます。
非結核性抗酸菌症と最も鑑別すべき疾患は、結核です。そのほか、肺の真菌症、肺炎、肺がんなども重要です。
医師による治療は、結核に準じて行われます。非結核性抗酸菌の多くは抗結核剤に対し耐性を示しますが、治療に際しては、菌によって効果があるので、まずは抗結核剤をいくつか併用します。
最も一般的なのはクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシンの4剤を併用する方法です。この方法による症状、X線像、排菌の改善率は、よくても50パーセント以下にすぎません。治療後、再び排菌する例などもあり、全体的な有効例は約3分の1、副作用の出現率も3分の1程度あります。
薬は結核の時よりはるかに長期間服用する必要があり、確実に有効な治療法がないので患者数は増え、進行例が増えてきているのが現状です。完全に治すことは難しく経過観察が必要ですので、非結核性抗酸菌症と診断された場合には、通院不要と判断されることはありません。自覚症状がないまま悪化する場合もあるので、症状がなくても通院を中断しないことが重要です。
症状が特に強く、肺病変が著しい場合には、肺切除などの外科療法が行われます。
生活は普通通りにできますし、人から人へ感染しないので、自宅で家族と一緒に生活してもかまいません。水中や土壌など自然環境に存在している非結核性抗酸菌が感染するということは、体が弱っている、すなわち免疫が落ちていることが考えられますので、過労を避けつつ適度な運動を心掛けて、体力を増強させるような生活が望まれます。
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