腎臓の上下の移動性が大きく、立位での位置が大きく下がる状態
腎下垂(じんかすい)とは、腎臓の上下の移動性が大きく、臥位(がい)での位置に比べて立位での位置が約10センチ以上下がる状態。遊走腎(ゆうそうじん)とも呼ばれます。
健康な人でも、寝ている状態から急に立ち上がると、腎臓の位置は約2~3センチ下がるのが普通です。腎臓は周囲が脂肪組織で支えられているため、体の動きによって上下に移動するためです。しかし、腎臓を支えている周囲の組織が弱い人では、もっと下がって腎下垂を生じます。
立位では元来、肝臓など重量に富む臓器の荷重負荷がかかるなどのさまざまな要因から、右側の腎臓は左側の腎臓と比較して下垂しやすくなっています。腹壁筋(腹筋)の発達が悪く、やせていて体脂肪の乏しい人は、簡単に腎臓は下垂する傾向にあります。
女性の1~2割は腎下垂といわれ、やせた若い女性にしばしば認められます。特に20歳以上で、出産経験のある女性では、出産によって腹壁筋が弱くなるために右側の腎臓に認められやすくなります。男性でも、腹壁筋が弱い人に認められることがあります。
症状としては、長く立っていると腰痛、側腹部痛、腰背部痛がみられ、臥位になる、あるいは腎臓を押し上げてやると、これらの鈍痛が減少するのが特徴です。また、立った時に腎臓の位置が下がるため、血管や尿管が圧迫されます。立位歩行や荷重などで、症状は持続または増悪します。
血尿もよくみられる症状ですが、目に見えない顕微鏡的血尿が主体です。肉眼的血尿がみられることがあっても、軽度です。立位で背中を反る体位をとった時に、軽微な蛋白(たんぱく)尿がみられることもあります。尿路症状として、頻尿、残尿感、排尿痛、排尿困難、尿失禁などがみられることもあります。そのほか、食欲不振、吐き気、下痢、便秘、胃部膨満感などがみられることもあります。
症状がなければ、治療をする必要はありません。症状がある場合は泌尿器科を受診し、専門医から説明を受け、治療法に関して相談をして下さい。
腎下垂の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による診断では、臥位と座位における腎臓の触診を行い、静脈性尿路造影で臥位と立位での腎臓の位置を比較し下垂の程度を観察します。
症状の軽い場合は、治療を行わず、そのまま経過観察します。症状の強い場合には、腹帯、コルセットなどを使用して腹壁筋の緊張を保持します。同時に、腹筋、背筋を強化するための運動療法を行うこともあります。やせている人は、腎臓の周囲の脂肪を増加させ、腎臓の支持、補強を行うために体重を増加させます。
以前は腎臓を固定する手術も行われましたが、今日ではあまり行われていません。
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